著者
横山 輝雄
出版者
科学・技術研究会
雑誌
科学・技術研究 (ISSN:21864942)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.5-14, 2018 (Released:2018-07-05)

「科学哲学」という日本語は、一般には「科学についての哲学的考察」として「科学とは何か」「科学の意義」などを論ずるものと思われているが、実際には英語のphilosophy of science にあたる狭く限定されたものであり、そうした問題を扱わない。「科学哲学」に一般に期待されている内容は、科学史、科学社会学、科学技術社会論などの「科学論」(science studies)と呼ばれている分野で議論されてきた。それらの成果を概括して「科学と技術」「科学と倫理」「科学と宗教」などの問題を扱う科学哲学が現在求められている。
著者
沼澤 俊 有本 久美 横山 茂樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1203, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】バスケットボール選手において足関節捻挫は頻発する傷害の一つであり,高校生の年代では多くの選手が既往歴として有している現状がある。しかしその危険因子は未だ明らかになっておらず,十分な予防の対策が行われているとは言い難い。今回,我々は大阪府バスケットボール協会の活動の一環として,高校生バスケットボール選手の足関節捻挫に繋がる身体的特性を調査し,傷害発生との関連性を把握することを目的として,事前に身体所見を検査した上で足関節捻挫を受傷した者の特徴について検証したので報告する。【方法】対象は大阪府バスケットボール協会に登録し,2015年度夏季大阪府大会ベスト8以上に進出した男女各3チームの高校1・2年生,181名(男子106名,身長:173.4±6.9cm,体重:62.7±7.6kg,女子75名,身長:163.9±6.9cm,体重:57.5±6.4kg)とした。調査項目は,①足関節捻挫の既往歴などのアンケート調査,②身体特性(身長・体重・体脂肪率・骨格筋量など),③下肢関節可動域,④下肢アライメント(Q-angle,Leg-Heel angleなど),⑤筋力(片脚立ち上がり能力や足趾把持筋力,体幹筋力),⑥片脚閉眼立位保持時間,⑦足・膝関節の関節位置覚,⑧片脚3段ホッピングによるパフォーマンス測定とした。足関節捻挫受傷前にメディカルチェックによる調査を行い,その後半年間における足関節捻挫を含む傷害発生の有無を調査した。尚,傷害発生は初発・再発を含む「練習を一日でも休むに至った傷害」を判定基準とした。足関節捻挫の発生状況と受傷前の身体的所見との関係について各項目における相関関係を調査した。統計処理にはSPSSver25を使用しSpearmanの相関係数にて,有意水準はp<0.05とした。【結果】メディカルチェックを受けた対象181名で,足関節捻挫を受傷した者は男子25名(右足受傷者15名・左足受傷者10名),女子10名(右足受傷者6名・左足受傷者4名)の計35名であった。男子では,足関節捻挫受傷の有無と荷重下での下腿前傾角度に負の相関がみられ(右:r=-0.262,p=0.007,左:r=-0.245,p=0.011),非荷重下でのQ-angleにおいて正の相関がみられた(右:r=0.285,p=0.003,左:r=0.236,p=0.015)。一方,女子では足関節捻挫受傷の有無と身体所見との間の相関関係を認めず,男子のような傾向はみられなかった。【結論】男子高校バスケットボール選手において,足関節捻挫を受傷しやすい足では,荷重下での足関節背屈可動域が少なく,非荷重下でのQ-angleが大きい傾向が示唆された。しかし女子選手では同様の傾向がみられず,足関節捻挫の受傷要因には性差の影響を受ける可能性が示唆された。
著者
坂本 治美 日野出 大輔 武川 香織 真杉 幸江 高橋 侑子 十川 悠香 森山 聡美 土井 登紀子 中江 弘美 横山 正明 玉谷 香奈子 吉岡 昌美 河野 文昭
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.322-327, 2016 (Released:2016-06-10)
参考文献数
25

近年,妊娠期の歯周病予防は周産期の重要な課題とされているが,日本における歯周病と低体重児出産や早産との関連性を示す報告は少ない.本研究の目的は観察研究により妊娠期の歯周状態と低体重児出産との関連性について調査することである.徳島大学病院の妊婦歯科健康診査受診者190名のうち,年齢バイアスの考慮から対象年齢を25~34歳とし,出産時の状況が確認できない者,多胎妊娠および喫煙中の者を除外した85名について,歯周状態と妊娠期の生活習慣や口腔保健に関する知識および低体重児出産との関連性について分析を行った.その結果,口腔内に気になる症状があると答えた者は61名(71.8%),CPI=3(4 mm以上の歯周ポケットを有する)の者は29名(34.1%),CPI=4の者は0名であった.また,対象者をCPI=3の群と,CPI=0, 1, 2の群とに分けてχ2 検定を行った結果,低体重児出産の項目,およびアンケート調査では,「歯周病に関する知識」,「食べ物の好みの変化」の項目について有意な関連性が認められた.さらに,ロジスティック回帰分析の結果,低体重児出産との有意な関連項目としてCPI=3(OR=6.62,95%CI=1.32–33.36,p=0.02)および口腔内の気になる症状(OR=5.67,95%CI=1.17–27.49,p=0.03)が認められた.以上の結果より,わが国においても,妊婦の歯周状態が低体重児出産のリスクとして関連することが確認できた.本研究結果は,歯科医療従事者による妊婦への歯科保健指導の際の要点として重要であると考えられる.
著者
関根 秀介 横山 雄樹 荻原 幸彦 内野 博之
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.172-177, 2020-03-15 (Released:2020-04-24)
参考文献数
11

体温管理療法(TTM)により二次性脳障害を最小限に抑えることの重要性は広く認知されているが,導入のタイミング・方法・目標体温・治療期間・復温後の管理など普遍化されたものはない.TTMによる生理的変化には,血行動態の変化,凝固・電解質異常,免疫能の低下がある.シバリングは,TTMの妨げとなることから鎮静,鎮痛,筋弛緩薬により予防や対処を行うが,薬物過量投与や作用遷延について考慮しなければならない.麻酔薬の過量投与は,呼吸・循環抑制に加え,神経学的診察や予後診断を複雑にするなどの弊害をもたらす.体温と薬物代謝や効果の関係を理解しモニタリングを行うことがTTMを安全に施行するために重要である.
著者
横山 潤 福田 達哉
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、アーバスキュラー菌に依存する菌寄生植物を対象に、菌根菌との対応関係,栄養摂取様式に関連した菌根菌との対応関係の変化、および炭素源移動に関連する生理的機能を明らかにして、植物の従属栄養性の進化を総合的に解析することを目的とした。菌寄生植物とリンドウ科植物の菌根菌の分子同定を行なった結果、Glomus Group A系統に属する菌が菌根を形成していることが明らかになった。これらの菌類は周辺植物、特にハナヤスリ科植物から高頻度に検出された。菌寄生植物やリンドウ科植物から得られた菌根菌の炭水化物トランスポータ遺伝子には、栄養摂取様式と関連する変異は見つからなかったが、発現量が栄養摂取様式と関連している可能性が示唆された。
著者
大井 一弥 横山 聡 阿波 勇樹 河井 亜希 平本 恵一
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.127-130, 2014-04-01 (Released:2014-07-17)
参考文献数
11

タクロリムス軟膏とヘパリン類似物質製剤の塗布順序によるタクロリムスの皮膚内移行性について,アトピー性皮膚炎モデル動物である NOA/Jcl マウスにより検討を行った。NOA/Jcl マウスの背部にタクロリムス軟膏を塗布し,タクロリムス軟膏 (プロトピック® 軟膏 0.1%) およびヘパリン類似物質製剤 (ヒルドイド® ソフト軟膏 0.3%,ヒルドイド® クリーム 0.3%,ヒルドイド® ローション 0.3%) 塗布後,3 時間の皮膚中タクロリムス濃度を LC-MS/MS を用いて測定した。タクロリムス軟膏塗布後,ヒルドイド® ソフト軟膏塗布は A 群,ヒルドイド® ソフト軟膏塗布後,タクロリムス軟膏塗布は B 群,タクロリムス軟膏塗布後,ヒルドイド® クリーム塗布は C 群,ヒルドイド® クリーム塗布後,タクロリムス軟膏塗布は D 群,タクロリムス軟膏塗布後,ヒルドイド® ローション塗布は E 群,ヒルドイド® ローション塗布後,タクロリムス軟膏塗布は F 群,タクロリムス軟膏とヒルドイド® ソフト軟膏混合塗布は G 群とした。この結果,タクロリムス軟膏とヘパリン類似物質製剤の塗布順序の違いによる皮膚中タクロリムス濃度に,有意な差はなかった ( P=0.8325)。また,タクロリムス軟膏と各剤形のヘパリン類似物質製剤の塗布順序による皮膚中タクロリムス濃度についても検討したところ,有意な差はなかった( P=0.0811)。さらに,タクロリムス軟膏とヘパリン類似物質製剤の混合塗布した場合とタクロリムス軟膏とヘパリン類似物質製剤の各々の塗布順序でも有意差は認められなかった (A 群との比較 : P=0.0958,B 群との比較 : P=0.1331)。これらのことから,タクロリムス軟膏とヘパリン類似物質製剤の塗布順序の違いが,皮膚中タクロリムス濃度に影響を与える可能性は低いと考えられる。従って,臨床ではどちらを先行塗布しても効果に差を認めるものではないことが推察される。
著者
中村 淳路 横山 祐典 関根 康人 後藤 和久 小松 吾郎 P. Senthil Kumar 松崎 浩之 松井 孝典
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2013年度日本地球化学会第60回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.174, 2013 (Released:2013-08-31)

地球上に存在するクレーターの形成年代や侵食過程について検討することは, 他の惑星表面のクレーターの形成過程を検討する上で重要である. 本研究は, インド・デカン高原上に位置する直径1.88kmの衝突クレーターであるロナクレーターについて, 宇宙線照射生成核種(10Be, 26Al)を用いた年代測定を行うことで, 形成年代と侵食過程の検討を行った. ロナクレーターは玄武岩上に形成され現在までよく保存されているクレーターとしては地球で唯一のクレーターであることから, 火星上のクレーターの比較対象として注目されている. しかし先行研究によるロナクレーターの年代推定は, 測定手法によって1.79 ka から570 kaまでと大きく異なっている. 本研究では10Be, 26Alを用いて新たにロナクレーターの表面照射年代を決定し, さらにイジェクタの露頭の14C年代測定を行うことで, 形成年代値の再検討を行なった.
著者
林田 敏幸 佐々木 洋 浜田 信行 立崎 英夫 初坂 奈津子 赤羽 恵一 横山 須美
出版者
日本保健物理学会
雑誌
保健物理 (ISSN:03676110)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.88-99, 2017 (Released:2017-07-29)
参考文献数
54
被引用文献数
5

In March 2011, the accident occurred at the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant of Tokyo Electric Power Company. During recovery from critical situations, the radiation dose for some emergency workers exceeded the effective dose limit recommended for an emergency situation. A month after the accident, the International Commission on Radiological Protection issued a statement on tissue reactions recommending significant reduction of the equivalent dose limit to the lens of the eye. Many radiation workers will need to be involved in treatment of water contaminated with radionuclides, fuel debris retrieval, and decommissioning of reactors for a long period of time. Thus, the optimized radiation control in the fields, exposure reduction, prevention of tissue reactions, and reduction of stochastic risks for workers becomes necessary. This paper discusses issues in relation to radiation protection of the ocular lens in such recovery workers, from the viewpoint of radiation exposure of workers, its management, manifestations and mechanisms of the lens effects.
著者
伊藤 大雄 藤井 愼二 上原 秀幸 横山 光雄
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. COMP, コンピュテーション (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.99, no.194, pp.17-24, 1999-07-21
参考文献数
17
被引用文献数
4

詰め将棋の盤面をn×nにし、王将以外の駒を0(n)個の用意した、一般化詰め将棋問題の計算複雑さについて論じる。詰め将棋には見た目や詰め方などに面白みを出すため、駒の初期配置に工夫をしたり、正解の詰め手順に美しい趣向が隠されている様な、趣向詰めというものがある。本稿では、飛車と角を使用しない「小駒図式」、初期配置に成り駒が無い「成り駒無し」、王将が初期配置で居た場所に戻って詰む「還元玉」、王将が中央のマスで詰む「都詰め」の4つの趣向を同時に満たすものに限定しても一般化詰め将棋問題がNP困難であることを証明する。
著者
横山 知加 貝谷 久宣 谷井 久志 熊野 宏昭
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.52-63, 2015-11-30 (Released:2015-12-10)
参考文献数
58

本稿では,社交不安症(SAD)の脳構造と機能に関する研究について概説した。脳構造に関する研究では,SAD患者は扁桃体,海馬などの灰白質体積が小さいことに加えて,鉤状束における白質の構造的異常が報告されている。脳機能に関する研究では,スピーチ課題や否定的な顔表情に対して,SAD患者の扁桃体が過活動になることが一致した結果である。薬物療法や認知行動療法(CBT)によって,辺縁系および前頭前野領域の機能に変化が生じる。CBTに対する治療反応性の予測には,扁桃体などの皮質下領域でなく,視覚野や前頭前野(背外側,腹外側部)の皮質領域が関与する。また,安静時では扁桃体―眼窩皮質のネットワーク異常が示されている。これらの研究結果から,SADの脳病態に恐怖・不安に関わる辺縁系(扁桃体,海馬,前帯状皮質など)―前頭前野領域(腹内側部など)の構造および機能異常があると推察できる。
著者
玉本 英夫 横山 洋之 湯川 崇 柴田 傑 海賀 孝明
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

民俗芸能の舞踊(以下、舞踊)の伝承に資するために、舞踊を3次元ディジタル情報として記録してCGで再現する技術、舞踊の学習を支援する技術の開発を行って来た。伝承は、舞踊を現地で鑑賞し舞踊に参加して学びながら行われている。このことを考えたとき、これまで開発して来た技術に加え、①現地に行かなくても舞踊を鑑賞でき、舞踊に参加できる環境、②地域社会の意志として舞踊を伝承する動機付け行う環境の提供が重要である。そこで、本研究では、バーチャルに舞踊の鑑賞、舞踊への参加ができ、また、舞踊の人文学的意義、芸術性、これまで開発して来た伝承技術を広く地域に公開できる電子博物館の開発を目指した。
著者
横山 宏 岩崎 重剛 太田 充 石桁 正士
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. ET, 教育工学 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.93, no.60, pp.9-14, 1993-05-22
被引用文献数
2

著者らは、IGF法を用いて学生の勉学のやる気の実態調査を続けてきた。そして、やる気には4状態(やる気、やらされ気、やらん気、やれん気)があることが分かった。今回は、調査で得られたやる気のカーブの記載されたものが上の4つのどの状態であるかを推測する方法について検討した。推測では、やる気を起こしたり無くしたりしたときの理由文に含まれる特定のキーワード、やる気の度合い、やる気グラフの勾配に着目した。そして考案した方法で約100名の学生(大学生、女子短大生)のやる気の4状態を推測し、的中率60%強を得た。
著者
碇 浩一 海塚 敏郎 井上 豊久 亀口 憲治 横山 正幸 藤山 正二郎 と 廷良 イスラブル ユソフ アサン トホティサ 三本松 正敏 木舩 憲幸
出版者
福岡教育大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

1. ウイグル民族と日本の子どもの生活環境の比較研究分析・検討を教育学、心理学、障害児教育、社会教育、精神医学、文化人類学等の観点から行い、研究発表(日中教育文化研究会シンポジウム、家族心理学会、日本生涯教育学会等)及び研究成果(北大路書房「いじめのない世界」他)としてまとめた。2. 中国中央民族大学及びウイグル自治区新彊師範大学・新彊教育委員会からの研究者を日本(福岡)に迎え(平成10年11月4日から11月15日の12日間)、セミナーの開催、中国側の研究者を中心とした日本の子どもの生活実態調査を実施した.3. 日中両国の研究者による共同研究会及び共同作業により、子どもの生活環境に関する総合的分析を行った。4. 平成11年3月10日調査研究成果を、はじめにでは「子ども・家族・老人」,第1部では「幼老共生-ウイグル社会における乳幼児の養育環境-」など「子どもと老人」,第2部では「ウイグル民族と日本の中学2年生の生活環境の比較研究」など「ウイグル社会と子どもの生活」,第3部では「生活環境の変容から見た中国ウイグル族と日本の子どもの家族観」など「家族」,第4部では「パネルディスカッション・子どもと老人」など「研究会とシンポジウム」,付録・調査研究の経過では研究活動概要・研究業績・研究者名簿・統計資料・関連新聞記事を報告書にまとめた.
著者
田崎 和江 竹原 照明 橋田 由美子 橋田 省三 中村 圭一 横山 明彦 青木 小波 田崎 史江
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.97-113, 2017-07-25 (Released:2018-01-14)
参考文献数
21
被引用文献数
1

黒柿はカキノキ科の一つであり,幹・枝・根の断面に黒色の部分があり,心材や辺材には縞が美しい孔雀の羽根のような模様(孔雀杢 くじゃくもく)がある.孔雀杢は何百年と樹齢を重ね,かつ,様々な条件を満たした柿の木だけが黒と白の美しい模様を持つようになった希少な銘木である.材質が竪硬で粘りもあり,細かい細工をする指物に適しており和家具,茶道具などが金沢伝統工芸品となっている.しかし,江戸時代に加賀藩が黒柿の栽培を行っていたとされるものの,その科学的な記録はない.なぜ柿の木の幹に黒い色の美しい模様ができるのかを究明するために,石川県金沢市内に生育している黒柿を採取して,IP,XRD,ICP-MS,XRF,SEM-EDS,放射能測定器を用いて物理化学的,鉱物学的,微生物学的特徴を調べた.本研究試料の「黒柿」のXRD 分析では,セルロースの他に低温型α- クリストバライト,生体アパタイト(燐灰石),ハロイサイトなどの粘土鉱物が含まれていた.黒柿の黒色化した幹に形成する孔雀杢は“珪化木”ということができる.本研究結果から,①黒柿が“珪化木”になるには,まず,根の中心の白色部に認められた微生物がCa >>> P,S >> Mg > Si,Fe,Cl,K,Mn を取り込み,生体アパタイトを形成する.②成長するにしたがって,放射能核種やB,Br を伴って, さらにCa,P,S >> K,Mg,Si,Sr > Cl,Mn,Fe などの元素を取り込みながら黒色化する.③そして,年月を経るにしたがって, 幹の辺材部に黒色の縞模様(孔雀杢)を作りながら低温型α- クリストバライト(珪化木)を形成することが明らかになった.