著者
仲泊 聡 斎藤 奈緒子 渡邊 公恵 渡辺 文治 末田 靖則
出版者
日本ロービジョン学会
雑誌
日本ロービジョン学会学術総会プログラム・抄録集
巻号頁・発行日
vol.6, pp.55, 2005

【目的】一般に、読書中の眼球運動を観測すると、主に衝動性眼球運動が観察され、きわめて短い時間にある範囲を読み取っているということが知られている。このような短時間提示された視標を瞬時にして視認する能力が、動揺視患者においてどうなっているかは大変に興味深い。なぜなら、もしそのような能力が高いのであれば、文字を瞬間提示することによりエイドを作成することができ、逆に低下していれば、この現象を用いて動揺視の程度の評価を行うことが可能であると考えられるからである。今回、我々は、これを確かめるために動揺視患者の視覚短期記憶を測定した。<BR>【方法】対象は、異常眼球運動を有する脳幹出血・梗塞患者6名、両側迷路障害患者2名、大脳性動揺視患者1名と正常コントロール6名であった。全症例に簡易視野検査にて視野欠損のないことを確認したうえで視覚短期記憶検査を行なった。視覚短期記憶検査は、白背景に130msの間、黒点を提示し、この数を答えさせ、数を増減して臨界算定個数を測定した。また、刺激提示直後にランダムドットマスクと刺激黒点を多数提示するマスクを提示し、これらの条件での測定をも行なった。各マスク条件における正常群と動揺視群の平均値の差を検定した。<BR>【成績】全被験者において視野障害はなかった。正常者における平均臨界算定個数はマスクなし8.8、ランダムドットマスク6.3、黒点マスク3.6であった。一方、動揺視患者における平均臨界算定個数は同様に5.4、3.8、1.9であり、すべてのマスク条件において、正常群に比べ動揺視群では、臨界算定個数が有意に低下していた。【結論】動揺視患者の視覚情報処理障害の一側面として視覚短期記憶の障害が認められた。この現象のメカニズムについては明らかではないが、その異常は極めて明瞭であり、動揺視の程度判定の視標として視覚短期記憶の程度を示す臨界算定個数が有用であることが示唆された。
著者
渡辺 登
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.348-368, 2006-09-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
15
被引用文献数
2

グローバリゼーションの進展とそれに対応する新自由主義的改革=「構造改革」の一環としての行財政改革を目的とした「平成の大合併」によって, 地域社会でのさまざまな共同性, 協働性が溶解しつつある現状と向き合う中で, 一体私たちは何を語り得るのか.本稿では, 原発建設の是非を問う全国で初の住民主導による住民投票を実施して原発建設計画を白紙撤回に導き, 今回の「平成の大合併」では行政主導の住民投票で新潟市への編入合併を選択した新潟県 (旧) 巻町を事例とし, 原発建設計画への住民投票運動において中心的な役割を果たした住民グループの主要メンバーへのインタビューを通じて得られた彼ら・彼女らの「語り」に着目することで, 以上への回答を試みた. (旧) 巻町の事例への検討を通じて, 地域におけるさまざまな人々の問題解決のための営為を彼ら・彼女らの語りから, 解釈し, 再構成し, 地域で紡ぎだされつつある, あるいはそのためにせめぎ合うさまざまな力の交錯の物語を丹念に描き出すことが重要であることはもちろんであるが, 特に確認すべきは, それぞれの人々の多様な捉え方, 位置づけかたを, 彼らの日常的営みからの活動に寄り添いつつ, その語りをコンテキストに沿いつつ再構成し, 関連づけ, 意味づけを行う作業を, 絶えず私たちの自明の前提を問い直しながら行うことが不可欠であるということである.
著者
渡辺 和衞
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地學雜誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.71-86, 1955

1) All geological phenomena in research works reveal its substance according to the sharp conceptions concerning its stratigraphical position and structural aspect. Especially, younger sediments, Neogene Tertiary, have more intricated forming process and interbed highly evoluted flora & fauna, therefore its stratigraphical subdivision meets accelerated difficulties along with the advance of geologic times. On this account, the geochemical criteria, i. e. -pleochroic halos or radioactivity, and the keybed probation have considerably been available to explain the geologic system. Above all the age determination method of C<SUP>14</SUP> ratio is the epoch-making discovery, in this century, but its applicable scope is about 30, 000 years. And its accuracy has often given rise to discussion from the stratigraphical view point. Recently Ernst Antevs discusses this problem in the report. (Jour. of Geology, Vol. 61, No. 3, 1953, p. 195-230) Another excellent works were published by W. D. Urry in 1949 by the tool of the &ldquo;percentage of equilibrium method&rdquo; for uranium, ionium, and radium. (ibid.p.252-262) But this method has its applicable scope of 300, 000 years. Setting aside this scope problem, these contributions have surely been valid to make the rigid progress of the earth science.<BR>2) The author has recently established the age determination method, that is, as stated above, &ldquo;the percentage equilibrium method&rdquo; for organic carbon. (K. Watanabe : The chronological significance of coal, Bull. Geol. Surv. Japan., Vol. 2, No. 8, 1951) In 1953, this device was reasonably appreciated by Dr. D. W. Van Krevelen, Director of the Central Research Laboratory in Holland. Thereafter this method has greatly been improved by making a comparative study with C14 method (three Japanese specimens, No. 629, 548, 603, determined by Libby were used.). These are considerably satisfactory results to the effect that they are not absolute but relative, Needless to say, this organic carbon method has a chronological index -&theta; (0&deg;-180&deg;), ranging from the present time to Carboniferous period or so on. Accordingly he applied this method to 76 specimens from Kuwana district. (Table 2, Fig. 3). These specimens have various indices ranging from 0.2&deg; to 5.9&deg; (3, 000 years-12, 600, 000 years; recent?upper Miocene). Synthesizing these data, he has drawn the new map, -Isogeochronological map of Kuwana. (Fig. 4) Of course these indices have performed a r&ocirc;le of the correlative tool and manifested several new geologic phenomena which had not been found before. He can show them as follows ;<BR>(1) Synchronous bed with the Chigusa member (marine sediments) exclusively depositing on the side of the Suzuka mountains has been detected on the other side of the Yoro mountains as a member of the terrigenous deposits.<BR>(2) The tentative boundary between Tertiary and Quaternary has quantitatively been determined.<BR>(3) A presumptive fault or folding A-B has been found out by recognizing the uncontinuous zone of &theta;-Isohypsen.<BR>(4) Both structural basins (Machiya system and Asaka system) have contracted drainage areas downwards by upwarping movement at the coastal plain.<BR>(5) Collectively all geologic displacements and fluctuations can quantitatively be measured.<BR>3) Applied geology of this region.<BR>(1) Porcelain clay or other lower class clay.<BR>By organic carbon method of age determination, synchronous strata with ones interbedding good porcelain clay (kaolinite-rich) at Seto, Tajimi, have been detected in this region, -Minami-Nakatsuhara, Tado, Oharaisshiki etc, but its quality is not so good as those porcelain clay. On the contrary, the Chigusa marine bed is rich in montmorillonite or illite minerals. All other lower class clay can be traced their origins and occurrences by Fig. 4 chart from the environmental or genetic point of view. (cf. Fig. 5)
著者
渡辺 啓行 ラザビ ダバ ソヘイル 高島 賢二 谷山 尚
出版者
Japan Society of Dam Engineers
雑誌
ダム工学 (ISSN:09173145)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.276-288, 2000

ジョイントの開口による非線形と堤体の材料非線形を考慮した有限要素解析を行い, ダムの地震応答にこれらの非線形性が与える影響を調べた。材料非線形を考慮すると, より大きな永久変位やジョイントの開口が生じる。堤体と基礎間のペリメター沿いのジョイントが開口すると上流面底部で片持ち梁引張応力を解放しクラウンカンチレバー中間高でアーチ圧縮応力が増大する。一方, 片持ち梁間の鉛直ジョイントが開口するとアーチ引張応力が解放されダムは上流下方向に変位し下流面底部で片持ち梁圧縮応力が大きくなる。
著者
渡辺 真理奈 中田 功二 門司 和美 苗代 英一 牧野 武利
出版者
The Society of Cosmetic Chemists of Japan
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.178-182, 1994-09-15 (Released:2010-08-06)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

Recently, it was reported that the topical application of H2O extract of mugwort [Artemisia princeps P.] effectively prevents the itching and the inflammatory responses. However, its pharmacological mechanism is unclear. In order to clarify some of the active ingredients and their pharmacological effects, we examined in vitro and in vivo anti-inflammatory effects of the H2O extract and its fractionated parts of mugwort. The fractionation was carried out on a method of liquid-liquid partition with H2O-n-BuOH, and further reprecipitation on the concentrated H2O layer from H2O-EtOH. The fraction obtained as a precipitate significantly inhibited histamine release from rat peritoneal mast cells induced by compound 48/80. The topical application of this fraction also significantly inhibited (1) the hind paw edema induced by compound 48/80 and (2) the vascular permeability enhanced by the intradermal injection of histamine and serotonin. These results demonstrated that the anti-histamine components obtained in the fraction of water soluble and ethanol insoluble phase showed an anti-inflammatory effect.
著者
吉田 俊昭 山本 真志 大石 和徳 田口 幹雄 井手 政利 渡辺 貴和雄 松本 慶蔵
出版者
公益社団法人 日本化学療法学会
雑誌
CHEMOTHERAPY (ISSN:00093165)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.332-343, 1986

本邦で合成開発された新アミノ配糖体系抗生物質HBKの蓬礎的・臨床的研究を, 他のアミノ配糖体系抗生物質を対照として行なった.呼吸器感染症由来の病原性の明礪な臨床分離株に対する本剤の抗菌力は, 他のデミノ配糖体系抗生物質と比較し, <I>S.aureus, E.coli, K.pneuronia, Entrbcter</I>, sp.に対1し他剤より優れ, <I>P.aeruginosa</I>に対し, ては中等度の成緩であった.<I>P. aeruginosa</I>に対し本剤と<I>Cefsulodin</I>との<I>in vitro</I>相乗作用が認められた.<BR>本剤75mg筋注時および100mg 1時間点滴静注時の血中濃度はピーク値で8.09μg/ml.半減期は109分, 108分であった.点滴静注時の局所疾中濃度の最高値は1.38μg/mlで, 喀痰中濃度は1. 15μg/mlであり, 喀痰中移行率ほ10.1%でありた.本剤気管内注入後の家兎血中濃度は30/分にピークを示し, 濃度依存性であった.<BR>呼吸器感染症10例に対し本剤75mg (または100mgないし50mg) を1日2回 (または1回) 筋注投与し, 著効1例, 有効9例, やや有効1例, 無効1例であった.2症例に本剤の吸入療法を行い有効性が認められた. 9症例に本剤100mg (または75mg) を1日2回点滴静注し, 有効6例, やや有効3例であった.有効以上の有効率は筋注, 吸入, 点滴静注でそれぞれ83%, 100%, 67%であった. 1例に耳閉感の副作用が認められた.<BR>以上より, 本剤は呼吸器感染症に対して臨床的有用性の高いアミノ配糖体系抗生物質であると結論される.
著者
渡辺 光一 黒崎 浩行 弓山 達也
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.47-66, 2011-06-11 (Released:2017-07-18)
被引用文献数
1

100項目の宗教概念について日米の回答者に賛成か反対かを尋ねると、日米共通で信仰者のほうが非信仰者よりも賛成する共通概念が90も検出され、日米共通で生命主義的救済観が信じられているなど意外な点が多かった。教義と実際の信仰のかい離も検出された。さらに、1)人格神への信仰、2)教団宗教的規範、3)超越への働き掛け、4)大生命と魂、5)現世利益、6)感情の制御というお互いに相関する6つの共通概念群からなる日米共通の構造が検出された。それら共通概念群は、実践論的・顕教的か存在論的・密教的かという2つの独立したメタ因子からなるメタ共通構造に包摂され、有機的階層的な構造を成している。このうち、実践論的・顕教的なメタ因子のみが、信仰者の幸福度に対してプラスの効果を持つ。また、神に関する概念と幸福度の関係を調べると、人格的な神概念は幸福度にプラスの効果を、非人格(原理)的な神概念はマイナスの効果を持つ。
著者
渡辺 容子 松岡 博厚
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.41, no.9, pp.627-632, 1994-09-15 (Released:2011-02-17)
参考文献数
22

P.caseicolumを熟成用スターターに用いた大豆チーズの製造工程および熟成中のフィチン酸の変化について調べた.また, P.caseicolumのフィターゼの産生能について確かめ,諸性質についても検討した.(1) 試料大豆に含まれるフィチン酸の82%は, 10倍加水量豆乳に移行した.乳酸発酵により得たカードでは,豆乳に含まれるフィチン酸の約48%,大豆中のフィチン酸の約40%が移行した.(2) カードに含まれるフィチン酸は,熟成1週目において未熟成カードの約50%に減少した.一方遊離リン量は約10倍に上昇した.熟成1週目以降の変化はゆるやかであった.(3) 小麦ふすま培地にP.caseicolumを培養した結果,抽出液および硫酸アンモニウム画分中(30~80%飽和)にフィターゼ活性がみられた.(4) フィターゼ活性に及ぼすpHの影響を調べた結果, pH3.0~3.6とpH4.8付近に最適作用pHを示す活性ピークがみられた.(5) pH3.6の条件下でのフィ夕ーゼ活性の至適温度は45℃付近, pH4.8の条件下においては30~40℃と至適温度の範囲が広かった.(6) 米のフィチン酸ナトリウムを基質とした場合,至適基質濃度はpH3.6の条件下では0.375mM, pH4.8の条件下では2.5mMであった.
著者
井上 有史 鈴木 節夫 渡辺 裕貴 八木 和一 清野 昌一
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.1-9, 1992-03-31 (Released:2011-01-25)
参考文献数
44
被引用文献数
5 4

非言語性高次大脳機能を主誘発因とする反射てんかんの自験10例と文献に報告された64例を臨床・脳波学的に検討し, 次の諸特徴を抽出した. 1) 若年発症. 2) 誘発される発作型は全般発作で, 腕や手を中心とするミオクローヌスと大発作が主体であり, 欠神発作を合併することがある. 3) 脳波には中心部を中心とする全般性てんかん放電がみられ, これは特殊な神経心理学的賦活により誘発される. 4) 誘因は複雑な連続的空間的思考から随意運動へといたるプロセスにあると考えられ, 具体的には計算, 描画, 構成, 書字, チェスやカードなどのゲーム, 複雑な手指運動などであり, 随意運動の表象だけでも誘発される. 5) 精神緊張や注意集中は助長因子である.高次大脳機能により誘発される特発性反射てんかんは, 非言語性機能によって誘発される上記の一群と, 言語誘発てんかん (読書てんかんを含む) とに大別される. 本邦における非言語性高次大脳機能誘発てんかんの多さは言語誘発てんかんの少なさと対照的であり, 言語的・文化的背景が存在する可能性を指摘した.
著者
渡辺 弘之
雑誌
ミツバチ科学 (ISSN:03882217)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.110-114, 2003-11-30
著者
渡辺 研 日比野 啓一 本田 富義 熊谷 禎晃 森 一耕
出版者
愛知県環境調査センター
雑誌
愛知県環境調査センター所報 = Bulletin of Aichi Environmental Research Center (ISSN:21864624)
巻号頁・発行日
no.45, pp.19-24, 2018-03

2011年3月,東京電力福島第一原発事故により,人工放射性核種が環境中に放出された。愛知県が実施している環境放射能水準調査においても,土壌,大気浮遊じん及び降下物から,自然放射性核種と比較して十分低い放射能濃度ではあるが,人工放射性核種の134Csや131Iが検出され,事故由来物質の本県への到達が推定された。今回,本県内における環境放射能レベルを把握し,原発事故の影響を評価するために,2013年度から2016年度にかけて,県内全域を網羅し,かつ環境放射能水準調査の地点を含む計24地点の土壌調査を実施した。その結果,本県東部に位置する東三河地域の調査地点において,自然放射性核種と比較して十分低い放射能濃度ではあるが,原発事故由来と推定される人工放射性核種を検出し,さらに,その地理的な分布状況を把握した。この人工放射性核種が検出された領域は,WSPEEDIによる137Csの積算沈着量の試算結果が示す領域とよく整合していた。
著者
森 玲奈 孫 大輔 渡辺 雄貴 北村 智 堀 里子
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.S44038, (Released:2020-11-09)
参考文献数
11

本研究では高齢者の学習課題の中で健康に関する学習に焦点を当て,自己調整学習理論を参照し,主体的に健康について学ぶことができるワークショップを設計・実践・評価することを目的とする.ワークショップ「すまけん」は,参加者に健康情報の取得へのネットの活用可能性の理解と利用の自己効力感の向上を促すものである.その結果,事前に比べて事後のヘルスリテラシーの自己効力感並びにスマートフォン活用の自己効力感が高まっていた.またワークシートの記述内容の分析から,すまけんワークショップ内では,殆どの参加者が健康情報の探索を学んだことが示された.
著者
八重樫 咲子 細川 大樹 渡辺 幸三
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.73, no.7, pp.III_139-III_147, 2017 (Released:2018-04-01)
参考文献数
22

NGS解析を用いた水中の環境DNA解析は生物採集を行わずに生物の群集構造と生息個体数をモニタリングできる手法として注目を浴びている.しかし水生昆虫を対象とした場合には群集構造の評価にとどまる.そこで本研究では,環境DNAのNGS解析から得られた各水生昆虫科の群集構造およびそのDNA配列数と,従来型の定量採集で得られた群集構造と生息個体数の関係性を比較した.まず,愛媛県重信川水系の12地点で河川水を,11地点で水生昆虫の定量採集を行った.次に河川水から得られたDNAに対して昆虫のCOI領域を対象にしたNGS解析を行い,環境DNAの由来となった科の検索を行った.その結果,環境DNAの配列数と個体数の間に有意な正の相関が見られ,環境DNAのNGS解析から分類群数のみならず生息数が評価できる可能性が判明した.また,流水性以外の科や渓流に生息する科も検出され,環境DNAにより幅広い地域の群集構造を明らかにできる可能性が示された.その一方で,研究対象分類群以外の情報がかなり多く検出された.今後,水生昆虫のDNA情報を効果的に回収する手法開発が求められる.