著者
谷口 千枝 田中 英夫
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.125-132, 2015 (Released:2015-06-12)
参考文献数
34

目的 クイットラインは,禁煙を希望する喫煙者に対し,主として電話を通じた相談業務を行う禁煙のホットラインのことである。欧米先進国や東アジア諸国においては,すでに多くの国で実施されているが,日本での国レベルの運用はされていない。今後日本でクイットラインを整備するための方向性について考察することを目的に,諸外国でのクイットラインの現状とクイットラインの効果についてまとめた。方法 諸外国でのクイットラインの現状を,ホームページ閲覧等により調査した。クイットラインの禁煙に関する効果については,主に“Medline”,“Cochrane Database of Systematic Review”で「hotline」,「Smoking Cessation」をキーワードとして文献検索し,該当する先行研究を,用いられている媒体の種類別に検討した。これらの情報を元に,日本でクイットラインを展開するためには,どのような組み立てが望ましいか,方向性を考察した。結果 オーストラリア,ニュージーランド,韓国,香港,シンガポール,台湾,タイ,米国カリフォルニア州,英国のクイットラインは,電話相談だけでなく,小冊子の郵送やインターネット,携帯電話,電子メールなど様々な媒体を用いており,電話を含むすべての禁煙支援媒体を総称してクイットラインと呼んでいた。また,電話を用いる場合でも,クイットライン側のオペレーターから利用者に電話をかけてアドバイスを行う,能動的な方法を取り入れていた国もあった。各々の媒体・方法別に禁煙成功率に違いがみられたが,能動的な電話介入,携帯電話,携帯メール,インターネットを用いた個別化されたプログラムでは,メタ解析や無作為割付試験で,その効果が確認されていた。これらの方法は,そのサービスの広域性,標準化のしやすさ,人的コスト面などで相当の違いがあることが考えられた。わが国のように喫煙者人口がなお多い国では,広域性やコスト面での実行可能性が重要になると考えられ,現在行われている健診の場における禁煙支援体制などに合わせた介入や,利用者に合った個別化されたアルゴリズムを用いたインターネットや電子メールによる介入などを取り入れて行くことが望ましいと考えられた。結論 日本で国レベルでのクイットラインを展開していくためには,電話だけでなく様々な個別化された介入媒体を増やし,既存の禁煙支援体制とも連携した包括的なサービス体制を構築することが必要かつ現実的であると考える。
著者
吉岡 徹朗 向山 政志 内藤 雅喜 中西 道郎 原 祐介 森 潔 笠原 正登 横井 秀基 澤井 一智 越川 真男 齋藤 陽子 小川 喜久 〓原 孝成 川上 利香 深津 敦司 田中 芳徳 原田 昌樹 菅原 照 中尾 一和
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.40, no.7, pp.609-615, 2007-07-28 (Released:2008-11-07)
参考文献数
9
被引用文献数
1 2

症例は, 39歳男性. 36歳時に硝子体出血を機に初めて糖尿病を指摘され, 以後当科で加療されていたが, 糖尿病性腎症によるネフローゼ症候群加療のため入退院を繰り返し, 次第に腎機能が低下した. 2005年5月に腸炎症状を契機に乏尿, 労作時息切れ, 下腿浮腫, 体重増加をきたし, 血清クレアチニン5.8→13.0mg/dLと急激に上昇したため, 血液透析導入目的で当科入院となった. 透析開始後, 積極的な除水にもかかわらず, 心胸比は縮小せず, 透析導入後第6病日以降血圧が低値となり, 第10病日には収縮期血圧で70mmHg前後にまで低下した. 心エコー検査にて心タンポナーデを認め, 心膜穿刺にて多量の血性心嚢液を吸引除去した. 臨床経過, 穿刺液の検査所見, 血清学的検査所見, 画像検査所見から, 尿毒症性心外膜炎と診断し, 心嚢腔の持続ドレナージと連日の血液濾過透析を行い軽快した.尿毒症性心外膜炎は, 透析治療が発達した今日ではまれであるが, 急性腎不全, 慢性腎不全の透析導入期, あるいは透析不足の維持透析患者において, 心嚢液貯留を認める場合, 溢水のほか, 悪性疾患や感染症, 膠原病とともに考慮する必要がある.
著者
加藤 走 木村 充 田中 聡 中原 淳
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.46077, (Released:2023-06-07)
参考文献数
51

大学のリーダーシップ教育プログラムが増加することに伴い,大学生の個人的要因と大学生のリーダーシップ行動との関係についての検討が求められている.本研究の目的は,大学生のリーダーシップ行動とリーダー・アイデンティティの関連を定量的データに基づき明らかにすることである.本研究では,大学生291名を対象にwebによる質問紙調査を実施し,取得したデータに対してパス解析を行い仮説の検証を行った.分析の結果,大学生の関係水準のリーダー・アイデンティティならびに集団水準のリーダー・アイデンティティがリーダーシップ行動と正の関係があること,集団水準のリーダー・アイデンティティが関係水準のリーダー・アイデンティティよりも率先垂範,挑戦,目標共有,目標管理のリーダーシップ行動と強い正の関係があることが明らかになった.最後に,以上の結果から考えられる本研究の意義や教育実践への示唆,今後の課題について考察した.
著者
田中 明彦
出版者
財団法人 日本国際政治学会
雑誌
国際政治 (ISSN:04542215)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.82, pp.94-115,L10, 1986-05-17 (Released:2010-09-01)
参考文献数
80
被引用文献数
1

Recent theoretical efforts in international relations focus increasingly on building grand and dynamic theories with major emphasis on cycles in addition to trends. This essay is to critically review an important part of these recent efforts: long cycles both in economic sphere as well as in political-military sphere and their linkages. First, recent researches in the Kondratieff waves are briefly summarized as those emphasizing on (a) technological innovations, (b) capital accumulation, and (c) resource abundance and scarcity. Second, George Modelski's “long cycles” theory is examined with particular emphasis on how it treats economic-political linkages. Third, a brief summary of the Wallersteinian “world-system” approach is given. How it relates long cycles in economics (the Kondratieffs) with the rises and declines of hegemony is the case in point. I summarize Bousquet's attempts to critically examine Wallerstein and others' early effort and to reconstruct it focusing on technological innovations. I suggest that current efforts in long cycles both in economic and political spheres have strong similarities with such early works by Toynbee and Akamatsu in the 1930s and 1940s. Recent efforts have clear advantages in research environment both in terms of increase of increase of empirical data and availability of computers, however. I argue, however, that more conceptual clarity and sophistication is necessary if the current efforts are to go beyond a simple revival of the research a half century ago.
著者
佐藤 勉 田中 とも子
出版者
日本歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

水道水のフッ化物濃度調整(fluoridation)があり、公衆衛生学上優れたう蝕予防法である。わが国においても、地域住民の合意等を前提にfluoridationの実施が可能となった(2000年、厚生労働省)。国内では安全な水の供給に関心が高まっており、浄水器を設置する家庭が増加している。したがってfluoridationが実施された場合、浄水器通過後のフッ素(F)濃度を検討する必要がある。本研究では家庭用浄水器に多く使用されている2種類の濾材を用いて浄水装置を作製し、F濃度に及ぼす影響を検討した。家庭用浄水器の濾材として用いられている活性炭フィルターと中空糸膜フィルターを用いて、簡易浄水装置を作製した。NaFを純水および水道水に添加し、種々のF濃度(0.1〜10mg/L)の試験溶液を調製した。ついで浄水装置通過後の試験溶液とフィルター中のフッ素濃度を測定した。活性炭フィルターを用いた浄水装置通過後のF濃度は、すべての試験溶液で通過量10Lまでは通過前のおよそ1/10の濃度であった。その後通過量が多くなるにしたがって、F濃度は上昇した。中空糸膜フィルターを用いた浄水装置では通過前後のF濃度に変化がみられなかった。実験終了後の活性炭フィルター中に高濃度のFが含まれていた。以上より、活性炭フィルターを使用した家庭用浄水器はfluoridation後の水道水中のF濃度に影響を及ぼすことが明らかになった。従って、fluoridationによるう蝕予防効果を確実にするためには、使用する浄水器の種類を考慮する必要があることが明らかにされた。なお、F以外の陰・陽イオンについては、Cl、MgとCaは活性炭フィルターと中空糸膜フィルターに吸着されることが示された。その他のイオンについては明確な結果が得られなかった。
著者
佐々木 誠 佐野 雅俊 田中 靖子 山本 育由
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.420-423, 2006-05-10 (Released:2007-11-09)
参考文献数
8
被引用文献数
5 3

Recently, at very low doses, carvedilol has improved the treatment of chronic heart failure. In Tenri Hospital, prescriptions for low dose carvedilol had been prepared by grinding a 10 mg tablet, adding lactose to it, and packaging the resulting powder. However, the drug loss in these processes had been causing problems in treating chronic heart failure. The present study examines the extent of drug loss in the grinding, sifting, and automatic packaging processes and the causes.The overall drug loss rate, as calculated by measuring the weight of the powder in the finished package, was 24.8±12.8, 33.9±13.2, and 28.0±9.3% for the 1.25, 2.5, and 5 mg packages, respectively, a considerable loss. The greatest loss was found to occur in the automatic packaging process. The drug loss rates for carvedilol itself were 56.4±8.1, 50.2±10.2, and 36.9±7.5% for the 1.25, 2.5, and 5 mg packages, respectively. The loss of carvedilol was greater for the 1.25 and 2.5 mg packages than the 5 mg package (p<0.05).These results suggest that the grinding of a 10 mg tablet gives rise to inaccurate dosing. Thus, low dose tablets available on the market should be used preferentially when low dosages of carvedilol are prescribed to patients with chronic heart failure.
著者
小西 美絵乃 盛田 幸司 田中 祐司
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.99, no.4, pp.769-775, 2010 (Released:2013-04-10)
参考文献数
12
被引用文献数
1

粘液水腫性昏睡は,甲状腺機能低下症が基礎にあり,直接あるいは何らかの誘因で中枢神経系の機能障害をきたす内分泌救急疾患である.稀であるが,1990年以後も死亡率が20~50%と高いと報告されている.粘液水腫顔貌や中枢神経症状に加え,低体温,循環不全,呼吸不全など,障害が多臓器に渡ることが多い.甲状腺ホルモンを直ちに開始する必要があるが,投与ホルモンの種類,経路,量には未だ確立されたものがない.現在,日本甲状腺学会が「粘液水腫性昏睡の診断基準と治療指針」を作成中であり,診断基準第三次案も合わせて報告する.
著者
柄木田 健太 田中 美吏 稲田 愛子
出版者
日本スポーツ心理学会
雑誌
スポーツ心理学研究 (ISSN:03887014)
巻号頁・発行日
pp.2021-2103, (Released:2021-11-13)
参考文献数
73

Many athletes suffer from yips, which is defined as “a psycho-neuromuscular movement disorder, which affects sports in which fine motor precision skills (Clarke et al., 2015, p. 156).” Yips is one reason for significant performance decrements in sports. Several case studies, surveys, and experimental studies have been conducted to clarify this phenomenon. These studies can increase the understanding of yips and help athletes, coaches, and practitioners improve this problem during practice and competitions. Therefore, we reviewed 62 articles published from 1981 to 2021 reporting assessment, symptoms, and treatments of yips in sports. As a result, we identified four types of assessments: (1) self-assessments, (2) observations by others, (3) kinematic and physiological assessments using motion capture and electromyography, and (4) responding to assessment scales. The studies were also categorized in terms of symptoms, as psychological (e.g., anxiety, attention, and personality) and physio-behavioral (e.g., kinematics, muscular activity, and brain activity). The studies on yips treatment could be classified into imagery techniques, pharmacotherapy, and other psychological skills. Furthermore, specific studies indicated post-traumatic psychological growth through yips experiences. The implications of these studies for future research on yips are discussed based on this review.
著者
田中 耕市
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.30-39, 2017 (Released:2017-06-09)
参考文献数
13
被引用文献数
1

本稿は,2015年に実施された「地域ブランド調査」を利用して,1,000市区町村を対象とした主観的評価に基づく地域の魅力度の構成要素とそのウェイトを明らかにした.はじめに,地域の魅力度に関わると考えられる同調査の75項目から,主成分分析によって13の主成分を導出した.次に,それらの13主成分を説明変数,市区町村の魅力度を被説明変数とする重回帰分析を行った結果,魅力度は11の構成要素から成り立っていた.それらのうち,魅力度におけるウェイトが最も高かったのは観光・レジャーであり,農林水産・食品,生活・買い物の利便性,歴史がそれに続くことが明らかになった.本稿で解明した地域の魅力度の構成要素とそのウェイトをもとに,客観的な地域の魅力度を評価することが可能となる.
著者
田中 幸平 高村 優作 大松 聡子 藤井 慎太郎 生野 公貴 万治 淳史 阿部 浩明 森岡 周 河島 則天
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1130, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】半側空間無視(USN:Unilateral Spacing Neglect)は,右半球損傷後に後発する高次脳機能障害の一つであり,病巣半球と反対側の刺激に対して,反応/回答したり,その方向に注意を向けることに停滞が生じる病態である。高村らは最近,半側空間無視症状の回復過程において,病識の向上に伴う左空間への意図的な視線偏向が生じること,その行動的特徴は前頭機能の過剰動員によって裏付けられることを明らかにしている。本研究では,こうした半側空間無視症例の選択注視特性について,無視症状のない右半球損傷群,さらに脳損傷のない健常群との比較を行い,高次脳機能障害の評価を行う際の参照値を得ることを目的とした。【方法】脳損傷のない健常群(53名,55.5±19.3歳)と右半球損傷患者(40名,発症後69.0±133.4日)を対象とした。右半球損傷患者は,BIT行動性無視検査の得点とCatharine bergego scaleの客観得点と主観得点の差を基に,BITがカットオフ値以下をUSN++群(n=16,70.4±19.0歳),BITが131点以上だが日常生活上で無視症状を認めるもしくはCBSの差が1点以上であるUSN+群(n=12,62.7±11.2歳)と無視症状を認めないRight Hemisphere Disease:RHD群(n=12,64.9±6.7歳)に分類した。対象者は視線計測装置内蔵のPCモニタ(Tobii TX60)の前に座位姿勢を取り,モニター上に水平方向に配置された5つの正円オブジェクトを視線(眼球運動)で追跡・注視する選択反応課題を実施した。注視対象はオブジェクトの色彩変化(黒から赤)を点滅で呈示し,呈示前500ms前にビープ音を鳴らすことで注意レベルの安定化を図った。注視対象の呈示時間は2000msとし,呈示後1500msの安静状態とビープ音後500msを設けた。左右方向への視線推移データから各群におけるビープ音~注視対象呈示前500ms間の視線配分(視線偏向)を算出した。視線配分の算出値は水平面上0~1で表し,PCディスプレイ上の最も左を0とした。【結果】健常群の視線配分はほぼ中心にあり,加齢的影響はみられなかった(r=-0.191)。USN++群では全体的に視線が右偏向を呈していたが,中には左偏向を示す症例が散見された。USN+群ではUSN++群よりも右偏向の程度が減少し,高村の報告と同様に,左偏向を示すものが散見された。RHD群は明らかな左右の視線偏向を認めず,健常群と同様の視線配分になっていた。【結論】半側空間無視症例の中には,課題実施時に明らかな右視線偏向を示す症例と,反対に左視線偏向を示す症例が存在した。無視空間である左空間に視線偏向を示す症例は,高村らの先行研究と同様に空間無視に対する選択的注意(代償)を向けていることを示していると考えられる。また,健常群の結果から視線配分には加齢的影響はなく,RHD群も同様の傾向を示していることから,健常群の結果を参考値とし右半球損傷患者の空間無視に対する介入を進めていくことが可能と考えられる。
著者
正木 隆 佐藤 保 杉田 久志 田中 信行 八木橋 勉 小川 みふゆ 田内 裕之 田中 浩
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.94, no.1, pp.17-23, 2012-02-01 (Released:2012-05-29)
参考文献数
19
被引用文献数
7 6

苗場山ブナ天然更新試験地の30年間のデータを解析し, 天然更新完了基準を検討した。試験地では1968年に5段階の強度 (皆伐∼対照区) での伐採, および5通りの林床処理 (刈り払い, かき起こし, 除草剤散布等) が行われ, 1978年には残存母樹も伐採された。本研究では残存母樹の伐採から4年後の1982年と2008年の植生調査 (各種の被度および最大高) および樹木の更新調査 (稚樹密度および稚樹高) の結果を解析した。高木性の樹木が更新 (2008年に高木性樹種の被度50%以上) する確率は, 1982年当時の稚樹密度・稚樹高・植生高でよく説明され, ブナに対象を限定した場合では, 稚樹の密度と高さのみでよく説明された。高木性樹種の更新の成功率は, 稚樹の密度が20万本/ha以上, かつ植生が除去された場合にようやく8割を超えると推定された。各地の広葉樹天然更新完了基準では, 稚樹高30cm, 密度5,000本/haという例が多いが, この基準は低すぎると考えられた。伐採前に前生稚樹の密度を高める等の作業を行わない限り, 天然下種によるブナ林の更新は難しいと考えられた。
著者
仲嶺 真 田中 伸之輔 上條 菜美子
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.159-168, 2019-12-31 (Released:2020-01-18)
参考文献数
23

近年,SNS利用者数の増加が著しい。SNSを有効活用できれば良好な人間関係が築ける可能性が高まる一方で,SNSで知り合った異性と対面で会ったことによって未成年がトラブルに巻き込まれる事案が社会問題となっている。SNSで知り合った異性と対面で会う理由に関して,個人特性との関連や,やりとり内容との関連が検討されているものの,やりとり過程については十分に検討されているとは言い難い。SNSで知り合った異性と対面で会うまでには,継続的にやりとりが続いていると考えられるため,やりとり内容だけでなく,どのようなやりとりを経て対面で会うに至っているのかを検討する必要があると考えられる。そこで本研究では,高校生を対象に,SNSで知り合った異性とSNS上でどのようなやりとりを経た結果,対面で会うに至るかについて検討した。SNSで知り合った異性と対面で会った経験がある高校生および高専生207名を対象に,SNSで知り合った異性と行ったやりとりに関して調査した。その結果,地元が一緒であることや趣味などの共通の話題について継続的にやりとりをした結果,対面で会いやすくなることが示された。また,相手が自分に会いたい場合ではなく,自分が相手に会いたい場合に対面で会っていることも示された。これらを踏まえ,禁則的な防犯教育とは違った形の防犯教育が今後必要であることが議論された。
著者
村山 幸子 倉岡 正高 野中 久美子 田中 元基 根本 裕太 安永 正史 小林 江里香 村山 洋史 藤原 佳典
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.7, pp.452-460, 2020-07-15 (Released:2020-07-31)
参考文献数
30

目的 地域住民間のコミュニケーションの活性化や,子どもの公共心および社会性の醸成等を目的として,多くの自治体や小中学校で「あいさつ運動」が実践されている。しかし,こうした取り組みの意義を裏付ける実証データは乏しい。本研究では,1)周囲の人々からあいさつをされることが子どもたちの自発的なあいさつ行動と関連するのか,また,2)子どもたちにとって日常生活場面におけるあいさつの多寡が,地域愛着と援助行動と関連するのかを検証する。方法 東京都A区および神奈川県川崎市B区在住の小学4-6年生の児童1,346人と中学1-2年生の生徒1,357人を対象に自記式の質問紙調査を実施し,2,692人から有効回答が得られた。本研究では,小学生と中学生のデータを層別に分析し,それぞれについて以下の統計解析を行った;1)性別と学年を制御変数とし,周囲の人々からあいさつをされる頻度と児童・生徒が自らあいさつをする頻度の関連を検証する偏相関分析と,2)児童・生徒のあいさつ頻度と,居住地域への愛着および援助行動の関係を検証するパス解析を実施した。結果 偏相関分析の結果,調査対象者の性別と学年を問わず,周囲の人々からあいさつをされる頻度と,児童・生徒が自らあいさつをする頻度との間に正の相関関係が認められた。さらに,パス解析の結果,あいさつをされる頻度が地域愛着と関連し,あいさつをする頻度が地域愛着および援助行動と関連するというモデルが得られた。当該モデルは,小学生と中学生の双方で高い適合度が認められた。結論 子どもたちにとって,日常生活場面で周囲の人々とあいさつを交わすことは,居住地域への愛着を強めることが明らかとなった。とりわけ,彼らが自発的にあいさつをすることは,他者への援助という具体的な行動にも結びつくことが明らかとなり,家庭・学校・地域であいさつを推奨することの意義が実証された。あいさつされる頻度とあいさつする頻度に関連が認められたことから,周囲の大人による働きかけが,子どもたちに自発的なあいさつ行動を定着させる上で重要になると考えられる。