著者
阿部 真紀 澤山 茂 秋田 修
出版者
一般社団法人 日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.142-150, 2018 (Released:2018-06-22)
参考文献数
20

本研究は,豚肉の塩麹漬け調理における塩麹中の酵素や食塩の効果を調査する目的で行った。組成の異なる塩麹で漬け込みした豚ロース肉を湿熱加熱した試料の食感についての官能評価では,塩麹にタンパク質分解酵素を1.2%添加したものが最もやわらかいと評価された。塩麹試料に漬けた肉では,すべての官能評価項目において漬け込みしない対照肉よりも高評価であった。やわらかさについての官能評価結果と機器測定結果には相関が認められた。肉の遊離アミノ酸総量は,塩麹と酵素1.2%添加した塩麹に漬けた試料で対照に比べて2~3倍増加し,グルタミン酸量は対照の2倍以上となった。アミノ酸の増加は,塩麹中のタンパク質分解酵素の効果によるものと考えられた。また,塩麹中の塩分には酵素の肉中への浸透を促進することで酵素作用を高め,さらに肉の保水性を高め加熱損失を低下させることなどの複合的な効果によって,塩麹が肉の食味性を向上させていることが示唆された。
著者
渡邊 英美 床井 多恵 辻 秀治 志藤 良子 若林 悠 阿部 杏佳 石井 真帆 三原 彩 栢下 淳 小切間 美保
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.130-142, 2020-08-31 (Released:2020-12-31)
参考文献数
10

【目的】日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013(学会分類2013)によって,病院や高齢者施設における嚥下調整食の段階の共通化が進んでいる.しかしながら,食事形態の説明が文言のみで物性値が示されていないため,特にコード3 や4 で人によって解釈が異なることがある.嚥下調整食分類をさらに発展させるためには,不均質な食品の物性測定方法の確立が必要である.本研究では,コード4 に基づいて調理された嚥下調整食のかたさを測定し,その目安を示すことを試みた.【方法】京都市内の介護老人保健施設の27 日間の昼食で提供した軟菜食(学会分類2013 コード外)の主菜および副菜中の199 食材とやわらか食(コード4 相当)の主菜および副菜中の156 食材を試料とした.施設で提供した嚥下調整食は,言語聴覚士,管理栄養士および調理師が学会分類2013 のコードに適応しているか否かを検討して提供可能と判断したものであった.やわらか食の喫食者は主に咀嚼機能が低下した利用者であった.使用食材を嚥下調整食の中から取り出してクリープメータRE2-3305C(山電)の試料台に置き,直径5 mm のプランジャーを用いて測定速度1 mm/s,試料温度20℃で破断測定を実施した.歪率0~90% における最大値をかたさとした.1 食材につき5 サンプルを測定して平均値を算出した.【結果】やわらか食では156食材のうち150食材(96%)でかたさは200 kPa 未満であったのに対して,軟菜食は199食材中81食材(40%)のかたさが200 kPa 以上であった.本研究のかたさ測定方法により,やわらか食と軟菜食のかたさの違いを評価できた.比較のために測定したユニバーサルデザインフードの歯ぐきでつぶせる(コード4 相当)に区分される商品に含まれる食材のうち,にんじんやじゃがいものかたさは200 kPa 未満であったが,しいたけや肉類は200 kPa 以上となった.【結論】この物性測定方法はコード4 に相当する嚥下調整食の新たなかたさ評価方法となる可能性が示唆された.
著者
齋藤 美也子 間宮 敬子 笹田 豊枝 中西 京子 阿部 泰之 岩崎 寛
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.E1-E5, 2015 (Released:2015-04-18)
参考文献数
14

p.505 著書所属 誤:2) 旭川医科大学 教育センター 正:2) 旭川医科大学 教育センター(現 信州大学附属病院 信州がんセンター 緩和部門)p.508 著者所属 誤:2) Education Center, Asahikawa Medical University 正:2) Education Center, Asahikawa Medical University(currently Division of Palliative Medicine, Shinshu University Hospital Shinshu Cancer Center)
著者
日本小児歯科学会 有田 憲司 阿部 洋子 仲野 和彦 齊藤 正人 島村 和宏 大須賀 直人 清水 武彦 尾崎 正雄 石通 宏行 松村 誠士 石谷 徳人 濱田 義彦 渥美 信子 小平 裕恵 高風 亜由美 長谷川 大子 林 文子 藤岡 万里 茂木 瑞穂 八若 保孝 田中 光郎 福本 敏 早﨑 治明 関本 恒夫 渡部 茂 新谷 誠康 井上 美津子 白川 哲夫 宮新 美智世 苅部 洋行 朝田 芳信 木本 茂成 福田 理 飯沼 光生 仲野 道代 香西 克之 岩本 勉 野中 和明 牧 憲司 藤原 卓 山﨑 要一
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.363-373, 2019-06-25 (Released:2020-01-31)
参考文献数
17

要旨:日本人永久歯の萌出時期,萌出順序および第一大臼歯と中切歯の萌出パターンを明らかにし,約30 年前と比べて永久歯の萌出に変化があるか否かを検討する目的で,4 歳0 か月から18 歳11 か月の小児30,825 人を調査し,以下の結果を得た。1 .男子の萌出は,1 が5 歳6 か月-7 歳0 か月,6 が5 歳10 か月-7 歳6 か月,1 が6 歳6 か月-7 歳10 か月,2 が6 歳3 か月-8 歳3 か月,6 が5 歳11 か月-8 歳7 か月,2 が7 歳6 か月-9 歳2 か月,3 が9 歳2 か月-11 歳3 か月,4 が9 歳1 か月-11 歳7 か月,4 が9 歳5 か月-11 歳6 か月,3 が9 歳10 か月-12 歳1 か月,5 が10 歳4 か月-13 歳0 か月,5 が10 歳3 か月-13 歳2 か月,7 が11 歳3 か月-13 歳 10 か月,7 が12 歳1 か月-14 歳5 か月の順であった。2 .女子の萌出は,1 が5 歳5 か月-6 歳7 か月,6 が5 歳6 か月-7 歳0 か月,1 が6 歳3 か月-7 歳7 か月,2 が6 歳3 か月-7 歳8 か月,6 が5 歳10 か月-8 歳4 か月,2 が7 歳2 か月-8 歳8 か月,3 が8 歳 8 か月-10 歳5 か月,4 が8 歳11 か月-11 歳0 か月,4 が9 歳1 か月-11 歳1 か月,3 が9 歳2 か月- 11 歳4 か月,5 が10 歳1 か月-12 歳11 か月,5 が10 歳2 か月-13 歳1 か月,7 が11 歳2 か月-13 歳 10 か月,7 が11 歳9 か月-14 歳3 か月の順であった。3 .萌出順序は,男女ともに上顎が6≒1 →2 →4 →3 →5 →7 で,下顎が1 →6 →2 →3 →4 →5 → 7 であった。4 .第一大臼歯と中切歯の萌出パターンは,男子では上顎がM 型77.2%,I 型22.8%で,下顎がM 型29.2%,I 型70.8%であった。女子では上顎がM 型73.4%,I 型26.6%で,下顎がM 型36.7%,I 型63.3%であった。5 .萌出時期の性差は,すべての歯種で女子が早く萌出しており,上下顎1, 2, 3, 4 および6 に有意差が認められた。6.約30 年前に比べて,男子は上下顎4, 5, 6 が,女子は3,上下顎の4, 5, 6, 7 の萌出時期が有意に遅くなっていた。
著者
阿部 真紀 小針 清子 秋田 修 アベ マキ コバリ サヤコ アキタ オサム Maki Abe Sayako Kobari Osamu Akita
雑誌
実践女子大学生活科学部紀要
巻号頁・発行日
vol.49, pp.7-14, 2012-03-10

Aspergillus oryzae is widely used to produce fermented food such as sake, soy sauce and miso in Japan. Since these fungi have been used for food fermentation for a long time, these economic strains for food fermentation are thought as "domesticated strains." The origin of these strains is thought to be a contaminant from natural environment. We isolated many A. oryzae like strains from field using the autoclaved rice as medium. Isolated strains were confirmed as A. oryzae by the genomic structure of aflatoxin homologous gene cluster. The amount of mycelium in rice koji prepared by isolated strains did not show the significant differences compared with those of commercial strains. The activities of enzymes such as α-amylase, glucoamylase, acid carboxypeptidase, acid protease and neutral protease in rice kojiprepared by isolated eight strains and commercial strains were analyzed. Some of the isolated strains showed the similar enzyme activities to those of the commercial strains. From these results, it is suggested that the present commercial A. oryzae strains originate from A. oryzaeliving in the natural environment.
著者
西井 匠 鋤柄 悦子 阿部 竜二 高石 鉄雄
出版者
一般社団法人日本体力医学会
雑誌
体力科学 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.251-258, 2012 (Released:2012-04-28)
参考文献数
35
被引用文献数
1 1

The purpose of this study was to reveal physiological conditions of commuter cyclist from the standpoint of multiple approaches. Ten male employees (37 ± 9 yr) who usually commute by bicycle participated in this study. Global Positioning System (GPS) was used to analyze their commuting route three-dimensionally. And heart rate was recorded simultaneously to determine their exercise intensity. Blood test, oral glucose tolerance test (OGTT), and maximal aerobic test was conducted in our laboratory. Semantic differential method (SD) questionnaire was conducted to clarify their feelings during and after their commute. The results of blood test and OGTT showed that all of determined values were good and no one exceeded the standard value. GPS log showed that subjects covered 13.3 ± 7.2 km and 40 ± 20 minute with integrating 201 ± 114 meter altitude gain per commute. Heart rate data showed 129 ± 12 bpm per commute. However, subjects demonstrated higher peak heart rate during their commute ranged between 157 and 181 bpm, we determined details by frequency distribution method. The data revealed that commuter cycling was consisted by aerobic exercise with intermittent vigorous intensity exercise. Despite of such a hard exercise cycling to work, the result of SD questionnaire indicated that subjects felt briskness with less tiredness when they commute. Commuter cycling with a higher than moderate exercise intensity, could have good physical and mental effects for employees.
著者
横谷 謙次 高橋 英之 高村 真広 山本 哲也 阿部 修士
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2022-04-01

行動嗜癖(過度な賭博行動やインターネットゲーム使用)は日本でも人口の約9%が経験しており、適切な治療が求められている。本研究の目的は1.ユーザーの嗜癖行動からの離脱と連動するキャラクター(以下、アバター)とその離脱を賞賛するキャラクター(以下、自律エージェント)によって行動嗜癖を治療し、2.その神経基盤を解明することである。1.の目的を達成するためにロボットとスマートフォンアプリでアバターと自律エージェントを作成し、ギャンブル障害者及びインターネットゲーム障害者に対する治療効果を検証する。また、2の目的を達成するために、fMRIを用いて、1.の治療効果に関与する神経回路を特定する。
著者
中俣 友子 阿部 恒之
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.87.14057, (Released:2016-05-10)
参考文献数
37
被引用文献数
6 2

Two experiments were conducted to assess litter control at a riverside location. Experiment 1 examined the effects of a security camera (presence/absence), past littering (presence/absence), and environmental features (tussock/plain ground/flowerbed). Two scenes containing combinations of these factors were presented. Participants chose the scene in which they felt it was to easier to litter. Participants also reported their emotional response to the presence/absence of a security camera and environmental features in scenes with litter. The results revealed that the presence of a security camera, no past littering, flowerbeds, and plain ground inhibited littering. Littering in the presence of a security camera facilitated discomfort, anger, and shame, and littering in flowerbeds caused discomfort, anger, shame, and sadness. Using a similar method, Experiment 2 addressed the particular effects of a security camera combined with other factors: past littering, environmental features, and signboards (no sign/sign with eyes/security camera images). The results demonstrated the effectiveness of a security camera, no past littering, flowerbeds, plain ground, signboards presenting eyes, and images from a security camera in preventing littering.
著者
阿部 亮吾
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.1, pp.1-21, 2011-01-01 (Released:2015-01-16)
参考文献数
45

旧河道の陸化過程と植物群落の発達との対応関係を示すため,旧河道の陸化過程を自然区間と河川改修区間に分けて分析し,さらに自然区間では分断後約100年間の植物群落の変化と,内部の植物群落の分布構造を明らかにした.河川改修区間では人工堤防と流路の直線化によって陸化過程が変化した.自然区間では洪水撹乱の減少と細粒物質の堆積によって,分断後45~60年を境に木本種が先駆種から湿地林の構成種に変化した.分断後100年以上経過した旧河道では植物群落が地下水位に応じて分布した.上流側陸化部分では洪水時の土砂堆積によって陸化と樹林化が進展した.下流側陸化部分では旧河道内部からの流水により陸化部分の拡大が制限され,さらに,分断初期の地表面の乾燥化により植物群落の発達が遅れていた.旧河道内部の洪水撹乱が弱い場所では分断以前に形成された地形面に従って植物群落が分布し,谷壁斜面からの土砂流入によって陸化と樹林化が進展した.
著者
越田 俊介 阿部 正英 川又 政征
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.34-45, 2016-07-01 (Released:2016-07-02)
参考文献数
81

可変ディジタルフィルタは,遮断周波数や帯域幅などをリアルタイムで制御できる周波数選択性ディジタルフィルタであり,電気通信,音声・音響信号処理など幅広い分野にて用いられている.本論文では,主として設計と実現の問題に着目して,可変ディジタルフィルタに関する研究成果を紹介する.また,可変ディジタルフィルタの応用として,適応信号処理の分野における可変ディジタルフィルタの研究成果についても述べる.
著者
和泉 薫 小林 俊一 永崎 智晴 遠藤 八十一 山野井 克己 阿部 修 小杉 健二 山田 穣 河島 克久 遠藤 徹
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.39-47, 2002-01-15 (Released:2010-02-05)
参考文献数
7

新潟県北魚沼郡入広瀬村の浅草岳において,2000年6月18日,山菜取り遭難者の遺体搬出作業中の捜索・救助隊がブロック雪崩に襲われて4名が死亡した.ブロック雪崩発生前後の映像解析や現地調査から,発生量は32m3(重量21 ton)と算定され,記録上最大規模のブロック雪崩であることがわかった.この地域の山岳地は近年にない多雪で融雪が約1ヶ月遅れ,気温が上昇した5,6月に多量の残雪が急速に融解した.この災害は,急斜面の残雪が融雪末期のいつ崩落してもおかしくない不安定な状態の時に,その直下で多人数が作業を行っていたため発生したものである.運動シミュレーションから,雪渓末端の被災地点における速度は12~35m/s,到達時間は10~33秒と計算された.雪崩に気付くのが遅れたとするとこの到達時間では逃げ切れない.また,雪ブロックの衝撃力は,直径50cmの球形で速度が12 m/sの時でも約3tonfと計算されたので,直撃を受ければ人は死傷を免れないことがわかった.また,これまでほとんど研究がされていないブロック雪崩についてその定義を明確にし,過去の災害事例を調べて発生傾向についても明らかにした.
著者
小野﨑 晴佳 阿部 善也 中井 泉 足立 光司 五十嵐 康人 大浦 泰嗣 海老原 充 宮坂 貴文 中村 尚 末木 啓介 鶴田 治雄 森口 祐一
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.68, no.10, pp.757-768, 2019-10-05 (Released:2019-11-07)
参考文献数
22
被引用文献数
3 2

Three radioactive microparticles were separated from particles on filter tape samples collected hourly at a suspended particulate matter (SPM) monitoring site located at ∼25 km north of the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant (FDNPP), after the hydrogen explosion of reactor 1 on 12th March 2011. The 134Cs/137Cs radioactivity ratios of the three radioactive aerosol particles showed that they were derived from the FDNPP reactor 1, rather than reactors 2 or 3. The physical characteristics of these particles with < 10 μm in diameter and non-uniform shape are clearly different from those of radioactive particles generated by the hydrogen explosion of the FDNPP reactor 1. A significant amount of Cl was detected by energy dispaersive X-ray spectrometery. Synchrosron radiation microbeam (SR-μ-) X-ray fluoresence (XRF) analysis showed that these particles contain a series of heavy elements related to the nuclear fules and their fission products with a non-homogeneous distribution within the particles. In addition, the SR-μ-XRF identified trace amounts of Br in these particles; the element has firstly been found in radioactive particles derived by the FDNPP accident. In contrast to the hydrogen explosion-generated radioactive particles containing Sr and Ba, both of which are easily volatile under a reduction atmosphere, these elements were not rich in the particles found in this study. By the SR-μ-X-ray absorption near edge structure analysis and SR-μ-X-ray powder diffraction, it was found that these particles consist of an amorphous (or low crystalline) matrix containing metal elements with chemical states in a comparatively high state of oxidation or chloride. Based on these physical and chemical characteristics and a trajectory analysis of air parcels that passed over the SPM monitoring site, we concluded that these radioactive particles were generated and emitted into the atomosphere at the time of seawater injection for cooling the reactor after the hydrogen explosion.
著者
阿部 貴晃
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.73, 2022 (Released:2022-04-11)
参考文献数
43

温度は代謝速度に大きな影響を与え、代謝速度は動物の活動性と密接に関係する。哺乳類や鳥類のような内温動物は熱産生による体温保持機構によって、高い代謝速度と活動性を維持する戦略をとる。一方で、体温が外部の熱源に依存する外温動物では、活動性を上げるために、爬虫類の日光浴にみられるような体温調節をおこなう。つまり、外温動物は、適切な体温、適切な代謝速度を行動によって調節するという戦略をとる。ただ、そのような行動的な代謝調節は、1日規模の時空間スケールでの温度環境の変化に対しては有用であるが、季節変動のように大きな時空間スケールでの変化に対しては意味をなさない。外温動物は季節変動によって1日の平均的な体温が変わっても、代謝速度を変えることで自身の好適な温度を調節する機構を備えている。本論文では魚類にみられる行動的、生理的な応答の例としてサケ科魚類に焦点を当てる。サケ科魚類の多くが母川回帰性を有し、河川や支流単位で集団が分かれる。サケ科魚類は冷水性かつ狭温性であるとされるが、経験する水温環境は集団の違いに応じて多様であり、自然環境下における魚類の温度適応の題材として用いられてきた。本論文では、代謝速度計測によってみえてきた魚類の温度適応の実態を概説し、その生態的意義を議論する。