- 著者
-
川口 潤
- 出版者
- 名古屋大学
- 雑誌
- 挑戦的萌芽研究
- 巻号頁・発行日
- 2008
人は,日常場面において, 過去の音楽や流行ったものと出会うと,単に過去の記憶を想起するだけでなく,「なつかしさ」という複雑な感情を伴った心的状態におちいることがある.本研究はこの点について,以下の側面から検討しようとするものである・ 「なつかしさ」はどのような心的過程を経て生まれてくるのであろうか・ 記憶の機能が深く関わっていることは確かであるが,記憶の進化から考えて「なつかしさ」どのような働きをしているのであろうか本年度は,以下の点について検討を進めた1) なつかしさ(nostalgia)喚起の時間的特性の検討過去約15年にわたるヒット曲を用いてなつかしさ感情が迅速に生起するかどうかを検討した.その結果,音楽提示から3秒弱でなつかしさ感情が生起すること,また自伝的記憶の詳細さ想起との相関は有意であったものの,その成分ですべてが説明されるわけではないことが明らかとなった2) なつかしさ感情生起の神経基盤に関する実験的検討なつかしさ感情生起の際にどのような脳活動が生じているかを明らかにするために,昨年度に引き続き実験参加者を増やしてfMRI実験を実施した.その結果,音楽提示によって自伝的記憶の想起と関わる部位の活動が高まること,またなかでもなつかしさを強く感じた場合と感じていない場合とで異なった領域の活動が見られることが明らかとなったこれらの成果について,Psychonomic Society大会において「Brain activity during feeling nostalgia and retrieving autobiographical memories : An fMRI study using music excerpts」と題して発表を行った.また,なっかしさがどのような心理的機能を持っているかという側面について,「ノスタルジアとは何か:記憶の心理学的研究から」という論文にまとめた