著者
大森 隆司
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第29回 (2015)
巻号頁・発行日
pp.2I5OS17b2, 2015 (Released:2018-07-30)

人は相互作用の場面で感情を表現して他者に対象の評価を伝達し,受け手はそれに合わせて自身の行動を決めることで,円滑なコミュニケーションや意思決定を実現する.少なくとも対人インタラクションの場面では,人工知能に感情の機能は必要と考えられる.では感情とはどういう機能なのか,さらにそれはどういう人工知能にとって有用なのか,本発表は汎用人工知能の範囲と機能について,モデルの立場から検討する.
著者
小渕 千絵
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.301-307, 2015 (Released:2015-10-17)
参考文献数
25
被引用文献数
4 5

聴覚情報処理障害(auditory processing disorders, APD)は,標準純音聴力検査では正常であるにもかかわらず,聞き取りにくさを訴える症状である.本論文では,APDの歴史的背景,背景要因やその評価,支援方法について,最近の知見を基に概説した.これまでの成人例,小児例を対象にした評価により,背景要因の半数以上は自閉症スペクトラム(ASD)や注意欠陥多動性障害(ADHD/ADD)などの発達障害であり,その他にも精神疾患や心理的問題,複数言語環境下でのダブルリミテッドの問題などの多様な要因があり,これらに加えて本人自身の性格特性や聴取環境が加わり,聞き取り困難が生じていることが考えられた.このため,評価においては聴覚検査にとどまらず,視覚認知や発達検査,性格検査などの多角的な視点での評価を行う必要があり,背景要因に合わせた支援方法の提供が必要と考えられた.
著者
日本サンゴ礁学会サンゴ礁保全委員会
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.73-84, 2008-12-01 (Released:2009-06-30)
参考文献数
31
被引用文献数
2

最近,造礁サンゴ移植の取組が活発になってきている。しかし,サンゴ礁保全・再生に移植がどの程度寄与するのか,また,どのようにすれば寄与できるのか,十分に検討されているわけではない。サンゴ礁生態系の攪乱要因は様々であり,これに対処するには移植だけでは不十分で,サンゴ移植は全体的なサンゴ礁保全策,統合沿岸管理の一部として位置づけるべきである。また,遺伝的攪乱やドナー群体の損傷など,移植が負の効果をもつ可能性を認識するとともに,不必要な開発の免罪符にされたり,より重要な保全行動へ向かうべき努力の「すり替え」に使われることには注意しなければならない。さらに,サンゴ礁の破壊と移植による再生のスケール,移植のコスト・便益も十分考慮し,システム技術として展開していく必要がある。移植活動は参加者にとってわかりやすく,サンゴ礁保全への導入点としては適している。このため,大きな普及啓発効果をもつと期待できるが,その後,より重要な保全策,例えば赤土・過剰栄養塩流入対策などにも運動を発展させられるかどうかが課題となっている。サンゴ移植の技術には大別して2種類の方法がある。天然海域からサンゴ断片を採取し,育成後,移植先に水中ボンド等で固定する「無性生殖を利用する方法」と,サンゴの卵や幼生を何らかの方法で採取し利用する「有性生殖を利用する方法」である。技術的な課題として特に重要なのは,移植適地の選定方法である。移植場所は,サンゴ幼生の自然加入が少ない,赤土の流入など陸域影響が少ない,高水温になりにくい,将来的に幼生の供給源となる可能性がある,等が選定基準となる。着生後のサンゴが減耗する要因として,漂砂や,死んだ枝状サンゴのレキ等が荒天時に海底を動いてサンゴを傷つけることが問題となっている。このため,サンゴを移植する場所,高さ,構造物などを決める際は,この点も意識するべきである。移植断片の固定方法には様々なものがあるが,サンゴが自分でしっかりと固着できるよう断片が容易に動かないこと,軟体部が基盤に接触することが重要である。有性生殖を利用する方法は,ドナー群体を傷つけることがなく,多様性のある種苗が使えるため有望だが,技術開発段階であり課題も多い。移植後の管理とモニタリングは,移植を成功させるために必須である。当然コストを伴うが,計画段階でこれを組み込んでおかなければならない。管理には,海藻類の除去,オニヒトデ等の食害生物の駆除,食害魚類対策などがある。モニタリングは,サンゴの生残率と成長を調べることが主となるが,サンゴの死亡要因や自然加入の状況なども記録しておくべきである。沖縄では造礁サンゴは原則採取禁止である。しかし,試験研究や養殖目的などでは,特別採捕許可をとることで採取が可能になる場合もある。特別採捕許可には,密漁の防止,ドナーサンゴの保護,流通段階での管理など課題が多いが,台風などで自然に断片化したサンゴ片を移植に利用する方法など,許可の運用を検討する余地もあると考えられる。
著者
鄭 暎惠 郭 基煥 李 善姫 師岡 康子
出版者
大妻女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

初めてヘイトスピーチを聞いた時「反感を感じた」71.9%、「驚いた」61.1%、「恐怖を感じた」49.7%の一方、「共感した」8.3%。「街頭で一緒にヘイトスピーチを唱えたい」1.7%、逆に「街に出てカウンター行動に参加したい」は10.4%。ヘイトスピーチを繰り返し聞くうち「違和感が増加した」52.8%、逆に「違和感が減少した」10.4%。ヘイトスピーチを「表現の自由」と見なすのは23.4%、「法で規制すべき」は47.6%。法規制すべきなのは、「人権を侵害する言動」76.3%、「特定の社会的弱者への憎悪表現」10.9%、「表現の自由を侵害する言動」38.2%、「思想信条の自由を侵害する言動」37%、「特定の政治家への憎悪表現」10.9%。外国人が増える結果として「日本の文化が豊かになる」70.7%、「社会の活性化」70.4%、「経済の活性化」59.2%、「日本人の働き口が奪われる」34%、「日本の文化がそこなわれる」22.5%。グローバル化で競争は激化、労働条件は悪化し、貧富の格差も拡大、将来への不安や閉塞感が増す中、少子高齢化で日本経済の停滞が懸念されるため、外国人に肯定的期待を寄せる者は少なくないが、外国人が対等・優位になり自分の既得権益が脅かされたり、追い抜かれる場合に排他的な傾向が強まる。「全体主義、排外主義ではなく、一人一人が大切にされ、お互いの個性、豊かさを尊重する、豊かさを分け合い、共に生きる社会を望んでいます。ヘイトスピーチをする人々は社会の中で自分が大切にされているという実感がないのではないでしょうか」(日本籍女性・自由記述より)ヘイトスピーチのターゲットとされた人々のアイデンティティにダメージを与える、特に子どもの成長に悪影響が大きいと考えられている。コミュニティの中で生きる場合より、孤立無縁でカミングアウトせずに生きる方がダメージが深いと思われる。
著者
重久 真季子 岡本 好正
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.19, no.8, pp.331-336, 2019 (Released:2019-09-25)
参考文献数
5

衣料用柔軟仕上げ剤の市場では,香りが残るタイプの市場拡大が顕著であり,それらは近年の日用品における香りブームを牽引してきた。いまや柔軟剤は,衣類を柔らかくする目的だけでなく,香りを楽しむものとして使用されており,若年層を中心に「好きな香りが長続きすること」が求められている。柔軟剤として好まれる香りは,爽やかな香り,華やかな香りであるが,それらの香調を構成する香料成分は,親水性および揮発性が高いものが多く,柔軟剤に配合しても,洗濯浴中ではすすぎ水に分配されるため吸着しにくく,衣類には残りにくい。このような課題を解決するため,吸着性および徐放性を向上させうる香料前駆体に着目し,柔軟剤への応用を検討した。この香料前駆体は,水分によって爽やかで華やかな香りを産生する特長を持つため,心地よい香りのゆらぎを感じさせる香りの新価値提案につながった。
著者
高橋 勇夫 間野 静雄
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
pp.21-00030, (Released:2022-07-21)
参考文献数
37
被引用文献数
1

天然アユの流程分布,とくに遡上上限がどのように決まるのかを明らかにするために,アユの遡上を阻害するような構造物が無く,かつ,種苗放流を 2013 年から停止した北海道朱太川において,2013 年~2021 年の 7 月下旬~ 8 月上旬に 12 定点で潜水目視による生息密度調査を行った.また,2014 年には下流,中流,上流の 3 区間からアユを採集し,52 個体の Sr/Ca 比から河川への加入時期を推定したうえで,加入時期と定着した位置の関係についても検討した.アユの推定生息個体数は 4.6~132 万尾と 9 年間で 30 倍近い差があった.各年の平均密度は 0.09 尾 /m2 ~2.61 尾 /m2 で,9 年間の平均値は 0.82 尾 /m2 であった.アユの生息範囲の上限は河口から 21~37 km の間で,また,生息密度 0.3 尾 /m2(全個体が十分に摂餌できる密度)の上限は 4 ~37 km の間で変動した.河口から生息範囲の上限までの距離および 0.3 尾 /m2 の上限までの距離ともにその年の生息数に応じて上下した.流程分布の変動は,密度を調整することにより種内競合を緩和することに寄与していると考えられた.耳石の Sr/Ca 比から河川へ加入してからの期間を推定したところ,早期に河川に加入したアユは上流に多いものの,下流部に定着した個体もいた.一方,後期に加入した個体は下流に多いものの,上流まで遡上した個体も認められた.これらのことは,早期に河川に加入した個体が後期に加入した個体に押し出されるように単純に上流へと移動しているのではないことを示唆する.さらに,推定生息数が最も少なかった 2018 年の分布上限は平年よりも 10~15 km も下流側にあった.これらより,遡上中のアユは充分な摂餌条件が整えば,移動にかかるコストを最小限に抑える行動を取っていると推察される.
著者
髙橋 済
出版者
中央ロー・ジャーナル編集委員会
雑誌
中央ロー・ジャーナル (ISSN:13496239)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.63-117, 2016-03-31

我が国の出入国管理及び難民認定法が制定後、現在までどのような軌跡を辿ってきているのか歴史的・時間的経過を軸、法的な観点から考察したものである。 具体的には、退去強制に関する実体法上の要件に関し改正が逐次なされており、その概要と歴史的傾向を考察する一方、退去強制手続、仮放免許可申請手続など制定時から現在に至るまで手続保障の観点から考察するものである。 また、従前消極的な評価が多かった出入国法案等に関し、政府が全件収容主義を立法上も放棄しようとしていたこと、仮放免(収容の停止)の要件に関し明文規定を置こうとしていたことなど、現在からみてもその歴史的価値、積極的な面があることを指摘している。 なお、特別永住者等の法的な地位の変遷、現在の法的地位についても考察している。
著者
新井 光一郎 浅野 良晴 高村 秀紀 岩井 一博 千福地 航平 冨澤 佑太 福島 功二
出版者
一般社団法人 日本建築学会
雑誌
日本建築学会技術報告集 (ISSN:13419463)
巻号頁・発行日
vol.21, no.49, pp.1107-1110, 2015-10-20 (Released:2015-10-20)
参考文献数
12
被引用文献数
1

It is important to develop high performance insulation sash to reduce energy consumption in all over the world. Since energy is wasted as heat from window. Today, high thermal insulation performance window made from wood or resin has already been in widespread use in Europe. In this paper, we compare result from thermal insulation performance test of sash according to JIS A4710 with calculation about it with simulation software according to ISO 10077.
著者
伊藤 玄 北村 淳一 野口 亮太 長太 伸章 古屋 康則
出版者
一般社団法人 日本魚類学会
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
pp.20-034, (Released:2021-01-17)
参考文献数
25

Exotic populations of Acheilognatus tabira found in northern Mie Prefecture, and subjected to nucleotide sequencing of the mitochondrial DNA cytochrome b region, were determined to represent the Hokuriku (A. t. jordani) and Kinki-Sanyo (A. t. tabira) lineages. The first record of A. t. jordani from outside its native distribution area (Japan Sea side of western Honshu), it is likely to be a viable population due to the presence at the sampling site of the freshwater mussel Beringiana fukuharai (Unionidae, Cristariini), with which the former likely has a spawning relationship.
著者
黒川 博文 佐々木 周作 大竹 文雄
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.50-66, 2017 (Released:2018-02-03)
参考文献数
33
被引用文献数
1

本研究では,A社の協力のもと,社員を対象に,様々な行動経済学的特性に関する質問を含んだ独自調査を行い,その個票とA社より提供を受けた残業時間に関するデータと組み合わせて,長時間労働者の特性を明らかにする.また,A社で導入された,残業時間上限目標を月45時間とし,働く時間と場所を自由に選べるという新たな人事制度の政策評価も行う.分析の結果,いくつかの行動経済学的特性と残業時間は統計的に有意な関係が観察された.例えば,時間選好の特性では,後回し傾向がある人の深夜残業時間が長い.社会的選好の特性では,平等主義者の総残業時間が長い.ビッグ5の性格特性では,誠実性が高い人の深夜残業時間は短いが,総残業時間は長い.一方,新人事制度の導入は残業時間を有意に削減した.特に,導入以前において月45時間以上働いていた人への残業削減効果が大きかった.
著者
加藤 博章
出版者
人間環境学研究会
雑誌
人間環境学研究 (ISSN:13485253)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.37-44, 2015 (Released:2015-06-30)

At the August 2 1990, the Gulf crisis broke out. The United States was seeking the cooperation of the SDF dispatch and funding cooperation in Japan. The Government of Japan was refused dispatch of Self-Defense Forces from the context of Article 9 and accepted other support including financial supports. However, the US Congress and the US media criticized reluctant the correspondence of the Japanese government. Japanese government considered personnel support without using Self-Defense Forces, but Japanese government could not be realized. As a result, Japanese response after the Gulf crisis is described as "Gulf trauma". The main factors that led to this situation was in Japan's political situation at the time. At the time, Liberal Democratic Party was not a majority in the House of Councilors. Therefore, Japanese government needed to assistance by opposition party like Socialist party or Komeito. However, the opposition was reluctant to support to the multinational force. Japanese government was difficult to appeal actively support measures at home and abroad by paying mind for opposition party. In addition, there was also bad timing such as to announce support measures after the additional burden resolution voting against Japan in the US Congress, Japan for the Gulf crisis from the United States Congress and the media, are able to receive it and are taking a passive response, it is they've decided that criticism.
著者
Yoshizawa Kazunori Ferreira Rodrigo L. Kamimura Yoshitaka Lienhard Charles
出版者
Elsevier
雑誌
Current Biology (ISSN:09609822)
巻号頁・発行日
vol.24, no.9, pp.1006-1010, 2014-05
被引用文献数
55

Sex-specific elaborations are common in animals and have attracted the attention of many biologists, including Darwin [1]. It is accepted that sexual selection promotes the evolution of sex-specific elaborations. Due to the faster replenishment rate of gametes, males generally have higher potential reproductive and optimal mating rates than females. Therefore, sexual selection acts strongly on males [2], leading to the rapid evolution and diversification of male genitalia [3]. Male genitalia are sometimes used as devices for coercive holding of females as a result of sexual conflict over mating [4 and 5]. In contrast, female genitalia are usually simple. Here we report the reversal of intromittent organs in the insect genus Neotrogla (Psocodea: Prionoglarididae) from Brazilian caves. Females have a highly elaborate, penis-like structure, the gynosome, while males lack an intromittent organ. The gynosome has species-specific elaborations, such as numerous spines that fit species-specific pouches in the simple male genital chamber. During prolonged copulation (∼40–70 hr), a large and potentially nutritious ejaculate is transferred from the male via the gynosome. The correlated genital evolution in Neotrogla is probably driven by reversed sexual selection with females competing for seminal gifts. Nothing similar is known among sex-role reversed animals.