著者
脇本 竜太郎
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.58-71, 2009 (Released:2009-08-25)
参考文献数
28
被引用文献数
2 2

本研究では,存在論的恐怖と愛着不安・回避傾向が成功・失敗についての自己の帰属と親友からの帰属の推測に及ぼす影響について検討した。近年,対人関係が存在論的恐怖を緩衝する効果を持つことが明らかにされている。そして,Wakimoto(2006)は存在論的恐怖が顕現化すると日本人は関係維持のため謙遜的態度を強めることを報告している。これに,日本人が他者による謙遜の打消しや肯定的言及など支援的反応を期待するという知見を併せて考えると,存在論的恐怖は自己卑下と共に他者からの支援的反応の期待を高めると考えられる。また,このような影響は愛着不安・回避傾向により調節されると考えられる。これら予測を現実の成功・失敗についての原因帰属を用いて検討した。大学生52名が実験操作の後に過去の実際の成功・失敗について自分自身の帰属と親友がどのように帰属してくれるかの推測について回答した。その結果,MS操作により自己卑下的帰属が強まる条件では,親友からの支援的な帰属の期待も強まることが示された。一方,親友からの支援的な帰属の期待が必ずしも自己卑下的帰属の高まりを伴わないことも示された。これら結果を近しい他者を通した関係による存在論的恐怖管理の様態及び互恵的関係の形成における存在論的恐怖の影響という点から論じた。
著者
神沼 靖子
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.970-975, 2007-03-15
被引用文献数
4

情報システム(IS: Information Systems)は社会や企業のさまざまな場面において人間活動を支援する重要な役割を担っている.このためIS 領域の課題は多面的であり,その研究は広範囲にわたっている.そのうえ,IS の問題解決は,技術的な側面から社会的な側面まで幅広く,研究方法も多様である.一方で,IS 論文をいかに書くかに関する悩みをかかえている研究者や実践者も多い.このような状況のもと,本論文では,IS 領域における論文の特質について分析し,さらにIS 視点での論文の書き方および有用性評価について考察する.The information system supports various human activities in society and enterprise. Therefore, the problem concerning the information system is various, and the research is also carried out in the wide domain. In addition, technical problem and social problem will be included for the theme in the information systems research, and the research method is also various. On the other hand, there are many practitioners and researchers who worry on how the information systems paper should be written. In this paper, under such background, characteristics of the paper in the information systems field are analyzed. In addition, writing method and usefulness evaluation of the paper are considered.
著者
兵藤 健志 工藤 絵理子 越戸 陽子 牧瀬 ゆかり 井川 友利子 大村 武史 片岡 真 星子 奈美 寺田 良司
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.311-326, 2010 (Released:2010-09-01)
参考文献数
41
被引用文献数
1

次世代OPACは,表紙画像やフォーマット等のビジュアル化,内容・目次など豊富な情報の提供,適合度によるソート,絞り込み検索,スペルチェック/サジェスト機能,ユーザー参加型機能など,ユーザー目線のインターフェースにより注目を集めてきた。また最近では,従来からの冊子資料に加え電子ジャーナルや電子ブックなどeリソースへのアクセス,機関リポジトリやデジタル化したコンテンツ等,図書館が提供する多様なコンテンツを集約し,それらの検索機能を提供することから,海外を中心にディスカバリ・インターフェースと呼ばれ始めている。九州大学附属図書館では,海外のオープンソース・ソフトウェアであるeXtensible Catalog(XC)によってディスカバリ・インターフェースCute.Catalogの導入を実現し,2010年4月に試験公開した。本稿では,XC選定までの過程とXCソフトウェアの概要について説明するとともに,本学での導入プロセスや課題の解決,そして今後の展望について紹介する。
著者
斉藤 千佳
巻号頁・発行日
2010-03-25

本稿の目的は、一般に「会話形式」と呼ばれる形式で書かれた文章を質的に分析し、それが書き手と読み手の間にどのようなコミュニケーションを成立させているのかを考察することにある。会話形式の文章は、新聞・雑誌等で日常的に見られるものであるにも関わらず、これまで体系的な研究は行われてこなかった。そこで第1章ではまず、本稿で扱う会話形式の文章とはどのようなテクストを指すかという点を明確にする。その上で、第2章では、文章形式全般についての研究や、会話形式で書かれたテクストを対象とする研究、フィクションの会話に関する研究を概観することを通して、本稿における研究方針を提起する。第3章ではこの方針に沿い、実際にメディアで公開された会話形式の読み物を対象として、架空の人物たちによるセリフのやりとりを分析する。データは、登場人物の役割関係を基に、予め次の三群に分類している。すなわち、Ⅰ群:質問者(Q)と回答者(A)による会話から成るテクスト、Ⅱ群:教える人(T)と教わる人(S)の会話から成るテクスト、Ⅲ群:より複雑な対立関係を持つ人々(P1,P2,…)の会話から成るテクスト、である。この三つの群それぞれについて、セリフのやりとりの展開や、登場人物へのキャラクタの配分に見られる傾向を、例を挙げながら考察していく。そこでは、作者の内なる対話における視点の対立が複数の語り手に投影され、キャラクタの適用により可視化されていると考えられること、また作者と読者が登場人物同士による会話の「場」を共有することで、テクストを媒介とする仮想的な交話的コミュニケーションを行っている可能性があることを指摘する。第4章では以上の分析結果をまとめ、さらに会話形式の文章の研究が現代において持つ意義と今後の課題について触れる。
著者
永田 光明子 西本 加奈 山田 麻和 早田 康一 原田 直樹 大木田 治夫
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第26回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.146, 2004 (Released:2004-11-18)

【はじめに】 脳卒中患者のうち全体の約3割が抑うつ状態を呈する.発症後4ヶ月で23%の患者が抑うつ状態を示すとの報告もある.脳卒中後のうつ状態は、患者の意欲を奪い、このことが病気からの回復を遅らせ、QOLを低下させる.今回、脳出血のため回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期リハ病棟)に入院し、独居での自宅復帰を主目標にリハビリテーション計画を立案・実施したが、抑うつ状態の増悪により自宅退院が困難となった症例を担当したので、若干の考察を加えて報告する.【症例紹介】 56歳、女性.左被殻出血による右片麻痺、失語症.H15.9.29 発症、10.1より早期リハ開始、10.3定位血腫除去施行、11.6当院回復期リハ病棟入棟.病前性格:几帳面で完璧主義.家庭背景:子供は独立して夫と二人暮らし、夫は仕事の都合で週末しか自宅に戻ることが出来ない.【経過】 入院時、症例のADLは食事以外の全項目に介助が必要な状態であった.心理的には発病に対するショックが強く悲嘆的な発言が多かった.PTプログラムには従順で意欲的であったが、その反面疲労時に目眩・動悸の訴えがあり、夜間は不眠の訴えも聞かれた.そのため主治医から抗うつ剤が処方されていた. 発症後4ヶ月半(H16.2月中旬)、症例・家族ともに身体機能の更なる回復を期待しており、退院はまだまだ先の事と考えていた.しかし、リハチームとしては3月末を退院目標とし、夫との外泊に加え、夫不在時に自宅に戻り食事の支度・入浴を自力で行う独り外出・外泊の計画を立てた.それは、症例と家族が退院後の生活を具体的にイメージする事がソフトランディングな退院につながると考えたためであった.そこで、本人・家族に独り外泊についての説明を行い、発症後5ヶ月目(H16.2月末)に独り外泊を実施した.<発症後4ヶ月半でのPT評価> Br. Stage:上肢II、手指II、下肢III.筋緊張:全体的に低下しており、肩関節に亜脱臼1横指あり.感覚:右上下肢、表在・深部感覚共に中等度鈍麻(上肢>下肢).FIM運動項目は74/91点で緩下剤調整・座薬の挿入に介助が必要、浴槽移乗と階段昇降に監視が必要なことを除外して入院生活は全て自力で可能、FIM認知項目は28/35点で問題解決に制限が見られた.<症例の心理状態> 独り外泊直前:うつスケールGDS-15は11点で重いうつ症状を示した.外泊については、夜間の転倒に対する不安、再発に対する不安、トイレ・入浴が独りで出来るかという不安が聞かれた. 独り外泊直後:GDS-15は9点となり、生活に対する希望と幸福感に変化が見られた.しかし、片手・片足での生活はきつい、排便について自己処理が出来ない等、具体的な不安が挙げられた.<独り外泊後の経過> 外泊時、調理・入浴とも見守りで可能で、転倒もなく無事過ごすことが出来た.排便についての不安が外泊前よりも強くなっていたため、PTでは腹筋運動をプログラムに追加し、病棟では座薬の自己挿入練習を開始することとなった. しかし、症例は3月初旬に2度便失禁を体験し、直後より極度のうつ状態に陥った.症例からは「もう何も出来ない」「死にたい、殺して.」など様々な不安が聞かれた.日中はベッド臥床して過ごし、リハビリ拒否となった.また、排泄への不安から摂食拒否になり、抗うつ剤による治療が継続されたが、最終的には自殺企図が生じ、3月末精神科へ転院となった.【考察】 本症例は、病棟でのADLが自力で可能となり、試験外泊で退院後の生活を体験した.PTは主目標である自宅復帰が可能と考えたが、症例は外泊後抑うつ状態が増悪し目標は達成されなかった. 脳卒中後の抑うつ症状は、病巣部位と病前性格・身体機能障害の程度・社会経済的要素などのマイナス作用により発症する.そのため、目標とするADL・ASL能力の獲得に向けて集中的にアプローチが行われる回復期リハ病棟では、練習中の失敗体験や予後告知、介護者となる家族との関係変化等により患者の抑うつが発症する可能性が高いと考える. 排泄行為は生きていく上で欠かす事の出来ない生理的欲求である.日常生活では誰もが人の目に触れない所で行っており、その行為に失敗した時の羞恥心・心理的な苦痛は計り知れない.症例は外泊前から排便コントロールに介助が必要だったが、独り外泊後2回の便失禁を体験し、大うつ病に至った.退院計画を具体的に進める際、無理に排便コントロールの独立を目標にせず、介助出来る支援体制を整えれば、排便に対する不安は軽減した可能性もある.試験外泊時にその時点の身体機能で遂行可能な自宅生活を想定し、それをサポートする地域社会の支援体制が求められる.
著者
貝原 亮 KAIHARA Ryo
出版者
名古屋大学高等研究教育センター
雑誌
名古屋高等教育研究 (ISSN:13482459)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.153-170, 2011-03 (Released:2011-04-04)

本稿の目的は、国立大学を例に、我が国の大学におけるティーチング・アシスタント(以下、TA)制度の問題点を、事務的側面から明らかにし、今後のTA 制度改革への一つの示唆を与えることである。TA に関する先行研究から明らかにした問題点は、TA の事務的取り扱いが多くの国立大学において限定的かつ画一的ともいえる運用になっていること。TA 制度自体が、一方的に各大学に与えられた制度であり、それに対する大学の姿勢が受身になっていることなどである。TA 制度の歴史的変遷をみると、TA の従事に対する意義が、「労働」 から「TA への教育効果」へ変化している。また、現在の制度にとらわれない新たな制度の設計が可能であることもわかった。新しいTA 制度を設計するには、各大学がTA の意義を再確認し、TA に対する教育効果を明確にすることが求められる。そしてTA への報酬の在り方を見直し、時間給制度にとらわれない支給方法を設定することも考慮するべきである。これらによりTA 制度そのものPDCA サイクルにあてはめて運用することが可能となる。The purpose of this paper is to clarify certain issues of the Teaching Assistant (TA) system in Japanese national universities from the viewpoint of the management governance in those universities and to suggest areas for TA system reform regarding those issues. This paper reveals some problems of TA system: the current management system for handling TAs has become limited and same at many universities. This system was unilaterally granted to national universities by the Ministry of Education. Examining the historical development of the TA system, it turned out that the reason behind the development of the TA system has changed from providing “Labor” to the “Educational effect of TAs.” Pursuing this line, it is possible to design a new system without the restrictions of the current system. If a new TA system is to be designed, the following three points must be considered in its design: (1) Universities must reconfirm the purpose of their TAs. (2) Universities must clarify what the educational effect [purpose?] of their TAs is. (3) Reexamine the payment system for TAs under this new system and not be restricted to a fixed hourly wage system. These considerations will enable the TA system to be applied to a PDCA cycle and be more rationally managed.
著者
長 広美 柳瀬 公
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.191-206, 2020-07-01 (Released:2020-08-27)
参考文献数
37

本研究は,先行研究から見えた調査上の課題点を踏まえ精度の高いSNS利用状況を把握すること,各SNS利用の代替・補完性について明らかにすること,そして,SNS利用が学業成績に及ぼす影響について体系的に解明することを目的とした。SNS利用時間の測定では,調査票調査や日記式調査にみられる自己申告によるものでなく,調査対象者の大学生(N=153)が所持しているスマートフォンのバッテリー使用状況を用いて収集した。学業成績の測定についても,先行研究の多くが採用している自己申告GPAではなく,専門科目の学期末試験の得点を用いた。分析の結果,LINEとInstagram,TwitterとYouTubeとの間にそれぞれ補完的な利用関係があることが明らかになった。学業成績には,LINE,Twitter,YouTubeの利用が負の影響を与えていた。つまり,これらのSNSの利用時間が増えるほど学業成績が悪くなることが示唆された。本研究結果は,SNS利用によって注意力が散漫になったり,SNSに費やす時間が学習の時間を減少させ,結果として学業成績の低下につながるという先行研究結果と整合性があるものであった。本研究では,SNS利用と学業成績との関連性の議論に実証的根拠を示すことができたとともに,当研究領域における現代社会のSNS利用行動の複雑さを解明する一つの可能性を見出した。
著者
野口 陽来 松井 利樹 小森 成貴 橋本 隼一 橋本 剛
雑誌
ゲームプログラミングワークショップ2007論文集
巻号頁・発行日
vol.2007, no.12, pp.144-147, 2007-11-09

朝日放送が製作しているテレビ番組に「パネルクイズアタック 25」がある. このクイズ番組を見る限り, 解答者は全ての問題に答えようとしている. しかし, クイズの正解が分かっても解答しないほうが有利な状況があるのではないかと考えた. そこで局面の解析にはモンテカルロ法を用いて, どのパネルを獲得しても不利になる状況を見つけ出した. その結果不利になる局面は全体の 3.8%に上ることが判明した. また不利になる局面の代表的な例として一問目を答えた人は二問目を答えない方がよいという例を示した.さらにパネルを選択する戦略についても提案した.
著者
中島 敬史
出版者
石油技術協会
雑誌
石油技術協会誌 (ISSN:03709868)
巻号頁・発行日
vol.80, no.4, pp.275-282, 2015 (Released:2017-05-10)
参考文献数
28

This is a review of recent published papers regarding the theory of abiogenic origin of petroleum such as Kutcherov and Krayushkin (2010) “Deep-seated abiogenic origin of petroleum.” It discusses the overview of the theory and its credibility with various geological evidences, such as the presence of liquid oil and hydrocarbon gas in primary fluid inclusions in mantle derived rocks, existence of 496 basement oil and gas fields in 29 countries, and oil discoveries at ultra-deep hot temperature reservoirs.Experimental abiogenic hydrocarbon generation by CaCO3-FeO-H2O system at upper mantle ultra-high pressure condition has once been proven by several Russian and Ukrainian academic teams, such as Kenny et al. (2002). And its credibility was reconfirmed by several American academic teams such as Scott et al. (2004) during the last decade.The theory has already been applied to actual oil exploration. The Ukrainian Academy of Science achieved an extremely high success ratio of 57% through actual oil exploration with the abiogenic theory by 1990's. The exploration area in Dnieper-Donets Basin, Ukraine, had been disqualified as a prospect for a long time, due to the absence of source rocks. However, over 50 oil and gas fields have been discovered in Precambrian crystalline basement rocks and Paleozoic sedimentary rocks in the area so far.Practical applications of the abiogenic theory in explorations like the case of the Ukrinian Academy of Science are seldom performed in the world. However, the author sees that the said theory will soon be cognized as a highly effective exploration guide among oil exploration geologists.
著者
富田 昌平
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.177-188, 2009-06-10

本研究では,サンタクロースのリアリティに対する幼児の認識を調べた。研究1と2では,私たちは"昼間に保育園のクリスマス会で出会う大人が扮装したサンタ"(直接的経験)と"夜中に子どもの寝室にプレゼントを届けてくれるサンタ"(間接的経験)について子どもにインタビューした。その結果,4歳児は大人が扮装したサンタを"本物"と判断する傾向があるのに対し,6歳児は"偽物"と判断する傾向があることが示された。他方,6歳児は夜中にプレゼントを届けてくれるサンタを"本物"と判断していることが示唆された。研究3では,研究1と2の2種類のサンタに加えて,"デパートで出会うサンタ","昼に子どもの家を訪問するサンタ","夜に空を飛んでいるサンタ","夜にサンタ国に子どもを招待するサンタ"について,本物か偽物かの判断を求め,その根拠も求めた。その結果,5歳児は外見の類似をもとにサンタを「本物」と判断する傾向があるのに対し,6歳児は伝承されているサンタクロース物語と登場文脈との一致をもとに,"寝室","空の上","サンタの国"サンタを「本物」,"デパート","保育園","玄関"サンタを「偽物」と判断する傾向があった.以上の結果は,サンタクロースのリアリティ判断の発達における直接的経験と登場文脈の影響という点で議論された。
著者
浜井 浩一
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.10-26, 2004
被引用文献数
2

2003年に実施された衆議院議員選挙において,主要政党のほとんどが,犯罪・治安対策を重要な争点として取り上げるなど,日本において,現在ほど,犯罪や治安が大きな社会問題となったことはない.世論調査の結果を待つまでもなく,多くの国民が,疑問の余地のない事実として,日本の治安が大きく悪化していると考えている.本稿では,これを「治安悪化神話」と呼ぶ.本稿では,まず最初に,日本の治安悪化神話の根拠となっている犯罪統計を検証する.そして,治安悪化を示す警察統計の指標は,警察における事件処理方針の変更等による人為的なものであり,人口動態統計等を参照すると,暴力によって死亡するリスクは年々減少しつつあること,つまり,治安悪化神話は,必ずしも客観的な事実に基づいていないことを確認する.次に,治安悪化神話の生成過程について,マスコミによる凶悪犯罪の過剰報道,それによって作られたモラル・パニックを指摘しつつ,さらに,一過性であるはずの治安悪化言説が,マスコミ,犯罪被害者支援運動と支援者(advocates),行政・政治家,専門家の共同作業を通して,単なるパニックを超えて,社会の中に定着していく過程を分析する.
著者
尾崎 俊介
出版者
愛知教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

アメリカ及び日本で人気の高い自己啓発本の誕生経緯と発展経緯について調査・研究を行い、その成果は "American and Japanese Self-Help Literature" と題し Oxford Research Encyclopedia に掲載された。またこれに加え、19世紀半ばのアメリカで流行し、自己啓発思想を誘発する契機となった「精神療法」についての論考や、哲学者のラルフ・ウォルドー・エマソンを自己啓発思想の生みの親として捉え直した論考、さらに女性向け自己啓発本についての論考や、自己啓発本出版史におけるアンドリュー・カーネギーの役割を論じた論考など、計4本の論文を発表した。
著者
中村 聡
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育 (ISSN:03856992)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.103-107, 2006
参考文献数
5
被引用文献数
1

電子レンジの加執原理を説明する際に,振動する水の分子同士の摩擦熱を考える場合があるが,真実に反している上,熱の分子運動論や摩擦現象のミクロなイメージの涵養を妨げる。いくらかの調査の結果,摩擦熱の説明はかなり流布していて,生徒もテレビなどを通じて聞き,更に学校教育までも荷担していることが判明した。摩擦熱を考える代わりに,「分子が振動していれば,そのエネルギー自体が熱である」と述べた方か良い。もし分子運動論を避けるのであれば,逆に電子レンシの加熱原理についても触れない方が良いと思われる。