著者
堀 憲次
出版者
九州大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

本研究では、モデル化合物N-formylaziridine及びそのプロトン付加体に関して極限的反応座標(IRC)を含めた詳細な非経験的分子軌道(MO)計算を行い、1-アシルアジリジンの異性化反応機構を理論的に検討することを目的とした。これに関連して、N-formylaziridineと同じくアミド部分を有するアジリジン誘導体、1-(R)-α-methoxy-α-trifluoromethylphenyl-acetyl-(S)-2-methyl-aziridineにおいて実験を行い、MO計算結果と比較検討を行った。その結果以下のことが判明した。(1)強い求核種が存在しない反応条件では、低い活性化エネルギー(38.9kcal mol^<-1>)の遷移状態(TS)を経て反応は進行する。このTSを経る反応は、反応前後でアジリン環の不斉炭素の立体を保持するS_Ni機構であることが、IRC計算により確認された。(2)スキーム1に示す反応では、メチル基ヲ持つC-N結合が選択的に解裂する。このモデル反応えは、28.2kcal mol^<-1>、置換基の無いC-N結合の解裂には、39.8kcal mol^<-1> の障壁があると計算された。両者の結果は良い一致を示している。(3)強い求核種(本研究ではCl^-をモデルとした)によるアジリジン環の開環と線型中間体の生成反応の活性化エネルギー(14.0kcal mol^<-1>)は、S_Ni機構のそれに比べて小さいと計算された。従って、強い求核種の存在下では、線型中間体の生成がS_Ni機構に優先して進行する。しかしながら、カルボニル酸素による2回目のS_N2反応は、高い活性化エネルギーを有する(45.4kcal mol^<-1>)と計算された。この結果は、実測された最終生成物の遅い反応速度と良い一致を示している。
著者
大堀 研
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

地域デザインの一環としての環境政策の形成および展開過程を、岩手県葛巻町、福井県池田町を対象に社会学的・実証的に検討した。社会課程の相違点として、開発政策の有無など初期条件の違いにより、展開される政策内容に違いが出ることが明らかとなった。また、両町に共通の要素として、町の特性を意識した環境政策の展開、柔軟な住民参加手法の採用の二点を把握することができた。
著者
潮村 公弘
出版者
信州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

平成15年度の成果を踏まえた上で、新たに、少数派側条件に割り当てられる人物にはサクラ(実験協力者)を用いる。サクラは、ディスカッション場面において予め定められた行動(2条件:性役割分業を肯定する発言、性役割分業を否定する発言)をとる、という実験操作を加えた実験研究を遂行した。性別混成状況下での自己意識・自己ステレオタイプ化については、複数の競合仮説が存在し、依然として解決をみていないテーマである。本研究では、ディスカッションが公的な状況としてなされる条件と私的な状況としてなされる条件も設定された。従属変数としては、意識的で顕在的な測度(評定尺度)と、非意識的で潜在的な測度の両者を用いた。非意識的な測度としては、IAT (Implicit Association Test)技法群に属する新しい測度であるGNAT (GO/No-go Association Task)を採用した。この手法は、複数の概念に対する潜在的な選好を各々の概念ごとに独立に測定できる新しい手法である。主たる知見としては、自己に対する顕在的なステレオタイプ化測度については、ディスカッションが公的な状況としてなされる条件においては、男性実験参加者も女性実験参加者も自己の女性性を反ステレオタイプ的に自己評定していたことが見出され、創られた性差として捉えうるような回答パターンが男女いずれにおいて示されていた。その一方、潜在的な測度の結果は高度に複雑なパターンを示した。このことは、ディスカッション場面という伝統的な区分での男性的特性が発揮されやすい傾向にある場面において、性別分業を肯定する/あるいは否定するという明確な主張を向けられることが、少なくとも大学生実験参加者にとっては複雑性の高い課題であったことが関係していよう。
著者
井関 正久
出版者
中央大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

平成17年度は、平成15-16年度に「地球の友・インターナショナル」アムステルダム本部、「地球の友・ヨーロッパ」ブリュッセル本部、ドイツ環境自然保護連盟BUND(「地球の友・ドイツ」)のベルリン連邦本部、ハンブルク州支部、リューベック地区支部、そしてウィーンの「グローバル2000」(「地球の友・オーストリア」)で収集した一次資料、および各団体の活動家や職員に対して行なったインタヴューを、昨年度から引き続いて整理・分析し、論文執筆に取り組んだ。そして、上述した「地球の友」とその加入団体を事例に、欧州におけるNGOの国際ネットワークの形成過程とその国際政治への影響に重点を置いて、実証的な論文を作成した。論文執筆の際、NGOを含む市民運動・社会運動全般、そしてそれを取り巻く国際関係について考察し、さらに理論的に吟味するために、政治学・社会学・歴史学等に関するさまざまな和書・洋書を購入した。それとともに、上述の各団体の現状について追加調査するため、インターネットを駆使して、各NGOのニュースレターや活動報告をはじめとする最新資料も収集した。このため、図書やコンピューター機器類・消耗品類といった物品購入費が、今年度の主要経費となった。研究成果をまとめた論文は、「欧州における環境NGOの国際連携-『地球の友』およびその加入団体を事例に」という題目で、日本国際政治学会編の政治学雑誌である『国際政治』に投稿し、論文は当雑誌の第142号に掲載された。さらに、平成18年3月20日、中央大学ドイツ学会研究会にて、「ドイツ環境NGOの国際連携プロセス」という題目で研究発表を行ない、とくにドイツの事例に焦点を当ながら、研究成果の一部について報告した。
著者
脇田 健一 萩原 なつ子
出版者
岩手県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、日本の環境問題や環境運動における女性の「不可視化」(invisibility)と「周辺化」(marginalization)の問題について検討をおこなった。1.「不可視化」と「周辺化」(marginalization)の概念の検討を行なった。2.この「不可視化」と「概念化」の概念を、近年の海外のエコフェミニズムの潮流、特に、マリア・ミース(Maria Mies)、C.V.ヴェールホフ(Claudia von Werlhof)、V.B=トムゼン(Veronika Bennholdt-Thomsen)らが世界システム論に影響を受けながらつくりあげたエコフェミニズムの思想との比較で検討した。そのさい、特に、彼女たちのサブシステンス概念(subsistence)に注目した。3.ミースらのサブシステンス概念をもとに、具体的な事例をもとに検討した。その事例とは、沖縄県石垣市において計画された新空港建設に対する反対運動である。この反対運動では、サンゴ礁の海を埋め立てて新空港をつくることが問題にされた。その分析では、女性の「不可視化」や「周辺化」が、この事例においても問題になっていたことを明らかにした。同じ事例をあつかったこれまでの男性研究者による環境社会学的研究においては、地元の「不可視化」や「周辺化」は明らかにされてきたが、この女性の「不可視化」や「周辺化」は問題にされてこなかった。ここには、ジェンダー・バイアスが存在していたと考えられる。4.エコフェミニズムと、日本の環境社会学におけるコモンズ論とを比較しながら理論的な比較検討をおこなった。特に、エコフェミニズムのサブシステンス概念を媒介して、コモンズ論との接点をみいだした。5.調査の過程で存在が明らかなった、土呂久鉱毒事件に関係する資料の整理をおこなった。
著者
八木 正
出版者
金沢大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

建設産業は今まで、その主要な労働力として出稼ぎ労働者と寄せ場日雇労働者に依存してきた。しかし最近では、出稼ぎ労働者は高齢化などにより激減しており、その分だけ寄せ場日雇労働者への依存率を高めつつある。しかも若者の間に、「危険、汚い、きつい労働」への忌避が広まっている現状では、大型プロジェクトを遂行するためには、いやが上にも寄せ場労働者に対する需要は高まらざるをえない。全般的な「人手不足」時代を迎えたこともあって今、「寄せ場」は空前絶後の好景気に沸きかえっている。このような有利な諸条件の中で寄せ場労働者の賃金は高騰し、かつて出稼ぎ労働者との間にあった賃金格差は完全に逆転している。現状では、日雇労働者の賃金相場が、出稼ぎ賃金をリ-ドしている。その結果、高齢の出稼ぎ労働者の中には、企業の雇用条件が悪いために、日雇労働者となって働いているという注目すべきケ-スも表れてきている。このような状況から、部分的には出稼ぎ労働者と寄せ場労働者との関係が逆転している現象もあるが、基本的な地位関係までも覆しているわけではない。出稼ぎ労働者を主要に雇用している中堅企業と、日雇労働者を主要に雇用している零細企業との間にレベルの格差があるからである。また一般に建設企業は、寄せ場労働者と較べると相対的に安定している、勤勉な出稼ぎ労働者の雇用を優先させ、比較的安定した労働条件を与えるからである。「飯場」は今や、少なくとも表向きには完全に死語と化している。今では、「作業員宿舎」と呼ばれている。その実態もかなり変化している。地価の高騰もあって、大型化すると共に、個室化が進んでいる傾向が見られる。この面でも、出稼ぎ労働者の宿舎個室の改善は目覚ましく、中には冷暖房のついている部屋を用意しているところもある。ちなみに、出稼ぎ労働者の賃金は、需要供給の関係から「東高西低」型となっている。
著者
坪郷 實
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究では、社会民主党と90年同盟・緑の党との連立であるドイツ・シュレーダー政権の政権政策を比較政治の観点から調査し、分析を行った。特に、2002年連邦議会選挙の分析と、第一期(1998-2002年)の政権政策の分析に重点をおいた。シュレーダー首相とフィッシャー外相は、2002年9月の連邦議会選挙において辛うじて再選された。最大の課題としてきた失業者数の削減を果たせなかったことが、辛勝の理由である。有権者は、赤と緑の連立に「第二のチャンス」を与えた。本政権の再選は、直前のスウェーデンにおける中道左派政権の継続とあわせて、ヨーロッパレベルでの中道左派政権の退潮に歯止めをかけたものと位置づけられる。シュレーダー政権は、経済・財政政策では、緊縮財政政策をとっているが、雇用政策において成果を挙げられないでいる。社会保障制度の改革の課題も大きい。現在「アジェンダ2010」という改革プロジェクトが継続しているが、改革には負担が伴い、有権者の支持を得ることは困難であり、政権への支持は低迷している。他方、赤と緑の「政策革新」の領域である「多文化社会」をめぐる政策、脱原発と新しいエネルギー政策、エコ税制改革、「ジェンダーの主流化」への動きについては、一定程度の成果をあげている。さらに、「新しい政治スタイル」として合意形成の手法の重視も指摘できる。また、経済政策、環境政策、社会政策の総合化を目標にする「維持可能性の戦略」も注目される。社会民主党は、「社会的公正」の現代的理解を初めとして、新しい基本綱領について議論を継続している。シュレーダー政権は、中長期的見通しのある政権政策の形成と、有権者の多数派を獲得する政治戦略の形成を課題としている。
著者
波戸岡 景太
出版者
明治大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

トマス・ピンチョンと大江健三郎は、第二次大戦後の世界文学における中心的役割を担ってきた。しかしながら、両者を対象とした比較文学研究はまだ十分になさられてきたとは言えない。本研究では、両作家およびその同時代のアーティストを対象に、彼らの仕事に通底する、トポロジカルかつ環境論的想像力の在り方を明らかにした。
著者
能見 勇人
出版者
大阪医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

マウスアロ臓器移植モデルからマクロファージ(Mφ)抑制実験の正確な結果を得るためには予想以上の時間的を要することが判明したため、有効な結果を得るため、まず細胞レベルの移植モデルで解析を先に行った。C57BL/6マウスにCTL抵抗性の細胞であるMeth A腫瘍細胞(MA)を3×10^6個、腹腔内移植するとアロ腫瘍細胞であるMAは約14日で完全に拒絶される。この急性拒絶に働く腹腔浸潤細胞の細胞傷害活性の中心はアロ活性化Mφ(AIM)であことは以前にも報告した。今回ドナー側にGFP蛍光蛋白のトランスジェニックしたC57BL/6マウス(GFPマウス)を使用し、GFPマウス由来のAIMが標的細胞を噛み切るように傷害する様子を蛍光顕微鏡下に撮影し動画的に連続撮影することに成功した。(GFP-AIMは蛍光を発するため、ドナー側の細胞であることが容易に確認できる。)GFP-AIMにより噛み切られたMA細胞は細胞内容を細胞外に噴出するように破壊され、細胞膜が遺残物のように残ることが判明した。Mφがアロの細胞を噛み切るように傷害することは画期的な発見でこれを明確に裏付けできた。しかし、このAIMの攻撃が、アロに対する攻撃効果であるのか、MAが腫瘍であるから攻撃しているのかを鑑別する必要であることが判明したため、まだ断定的なことが言えない状態である。このため、腫瘍に反応するAIMを除いた後、残ったAIMにおいて現在噛み切り機構ににつき再度観察を繰り返している。並行して、このGFP-AIMは癒着性の高い細胞であることから、(1)癒着性の高い細胞を取り出し、これがターゲットMAを攻撃することにより、変化する様子を蛍光下に各14時間以上連続撮影して、精査中である。またMφの活動を抑制すると考えられるトラニラストを各濃度(3μM~300μM)存在下にAIMの変化を(1)と同様に観察しているが、これに関しても今のところは決定的な効果の検出には至っていない。推測ではトラニラストは活性化された後のAIMに作用するのではなくAIMが活性化段階に作用するものではないかと考え次に調査する予定である。
著者
菅 弘之 入部 玄太郎 毛利 聡 荒木 淳一 實金 健
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

我々は丸ごと心臓における総Caハンドリング量を推定する方法を考案し、正常心のCa動態を明らかにしてきた。不全心においては、筋小胞体から漏れ出たCaが収縮に関与せずに興奮収縮連関に用いられる酸素消費量だけを増加させる(無駄サイクル)ため、従来我々が用いていた方法では、総Caハンドリング量を推定することはできなかった。そこで、我々はこのような無駄サイクルをもつ不全心の総Caハンドリング量を推定する方法を考案し、三種類の不全心に適応して、その方法の是非を検討した。1.ナノモル単位のリアノジンを冠血流に投与すると、左心室のCaハンドリング消費量は減少せずに収縮性が低下する。リアノジン投与後の無駄サイクルは、筋小胞体を介して収縮に関与するCa量の約1.4倍と推定された。2.我々はCa過負荷不全心を作成した。左心室収縮性は40%に減少し、Caハンドリングに費やされる酸素消費量は30%に減少した。しかし、収縮性の酸素コストに変化はなかった。このCa過負荷不全心では筋小胞体を介するCaハンドリング量が増加していることが明らかとなった。そして、無駄サイクルが増加しているか、正常時に比べてトロポニン結合Ca量が左心室収縮性に反映されなくなっている(Caリアクティビティの低下)か、その両方であるかの可能性が示唆された。3.虚血後再灌流心(スタンド心)では収縮性が低下し、収縮性の酸素コストは2倍であった。筋小胞体を介するCaハンドリング量は減少しており、無駄サイクルとCaリアクティビティ関係から、Caハンドリングに費やされる酸素消費量は収縮性の増加を伴わず浪費される方向にシフトしていることが明らかとなった。これらの結果から、我々が考案した新しい方法は無駄サイクルをもつ不全心にも適応可能であることが示唆された。
著者
萩原 正敏 野島 孝之
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

タンパク質をコードするmRNAは核外に輸送されて翻訳されるため、mRNAの核外輸送は遺伝子発現の重要な制御ステップのひとつである。スプライシングされたmRNA上に形成されるEJC(exon junction complex)と呼ばれる複合体中のREF(RNA export factor)が、mRNAの核外輸送を担っているとのモデルが考えられている。最近我々は、mRNAのキャップ構造にもREFが結合することを見出した。REFのRNA結合部位を調べたところ、キャップ構造よりも100塩基下流の部位に結合することが示された。REFはDExD box型RNAヘリカーゼであるUAP56/BATと強固に2量体を形成していることから、UAP56によるRNPリモデリングが生じ、キャップ構造から下流のmRNA上へ移動する機構があるのかもしれない。REFはCBP20に主として結合していたが、この複合体にはSRPK1もカップリングしており、リン酸化制御を示唆するデータが得られた。このことは、キャップ構造によってRNA上に呼び込まれるREFがイントロンレスmRNAのスプライシングに依存しない核外輸送を担っている可能性を示している。また単純ヘルペスのmRNAはウイルスタンパク質ICP27がREFと相互作用することにより核外へ輸送されているが、我々の解析ではICP27は、PMLをコードするmRNAのスプライシングを制御するスプライシング調節因子としての機能を有することが判明した。ICP27のRNA認識機構は予想外に複雑であることが判明したので、CLIPと呼ばれる新しい研究手法でICP27の標的遺伝子転写産物の解析を進めた。このことは、ウイルス感染のより、感染細胞の特定のmRNAのスプライシングパターンが変化することを意味しており、極めて興味深い。
著者
奥村 弘 市沢 哲 坂江 渉 佐々木 和子 平川 新 矢田 俊文 今津 勝紀 小林 准士 寺内 浩 足立 裕司 内田 俊秀 久留島 浩 伊藤 明弘 松下 正和 添田 仁 三村 昌司 多仁 照廣
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2009-05-11

大規模自然災害と地域社会の急激な構造転換の中で、歴史資料は滅失の危機にある。その保存活用を研究する新たな学として地域歴史資料学の構築をめざした。その成果は、第1に、地域住民もまた保存活用の主体と考え地域歴史資料を次世代につなぐ体系的な研究手法を構築しえたことにある。第2は、それを可能とする具体的な地域歴史資料の保存と修復の方法を組み込んだことである。第3は、科研の中間で起こった東日本大震災での地域歴史資料保存について理念と具体的な方法を提示するとともに、全国的な研究者ネットワークによる支援体制を構築したことである。第4は、地域歴史資料学をグローバルイシューとして国際的に発信したことである。
著者
加藤 精一
出版者
兵庫医療大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

平成19年度は,18年度に引き続き大阪大学で開発されているP2PフレームワークであるPIAXを用いて,望遠鏡のコントロールをネットワークを介して遠隔制御するソフトウェアの開発を行うとともに,こうした望遠鏡を提供するユーザとそれを利用するユーザがP2Pネットワークでコミュニティを形成した際に,お互いを信頼するために必要な基準を提供する仕組み提案した.以下具体的に述べる.(1)望遠鏡システムについて晴れている地点の望遠鏡を選択するために,各地の気象センサのデータを利用して予測し,空間的に補間することでセンサの無い場所の気象状態を把握できるようにした.(2)レピュテーションシステム望遠鏡を共有するようなコミュニティにおいては,各ピアが信頼できるかどうかをリソース提供側,使用側ともに判断する必要がある.我々はこれにWebのページランクなどで用いられるEigen trustモデルを元に,信頼できないピアを効率的に排除する手法の提案を行った.
著者
田代 信 玉川 徹 浦田 裕次 玉川 徹
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ガンマ線バーストは、宇宙でもっとも明るい爆発的天体現象である。遠方銀河中の超新星爆発にともなうジェットを起源とすると考えられているが、超新星爆発では説明がむずかしい例も多数あり、一筋縄ではいかない。本研究では、広視野硬X線望遠鏡でガンマ線バーストを探知するスウィフト衛星と同じ視野を自動的に観測する可視光望遠鏡を開発設置し、所定の性能を確認した。直接の検出例はまだないが、得られた走査観測データの公開をすすめている。
著者
長田 謙一 木下 直之 水沢 勉 五十殿 利治 ジャクリーヌ ベルント 長谷川 祐子 長谷川 裕子
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

研究は,各研究分担者が,テーマの重要なアスペクトを分担して追及し,毎年四度ずつの研究例会を重ねて発表討議を重ね,報告論文集等に成果を発表するという仕方で進められた。その結果,ご開帳から東京国立近代美術館誕生にいたる日本における美術館成立過程をたどる形で,<美術>の確立とその展示空間の成立過程を,次の6つのアスペクトに則してあきらかにできた。(括弧内は,報告論集等におけるそのアスペクトに関する議論部分の執筆者の名である。)(1)展示空間の近代と前近代の関係から(木下直之) ; (2)博物館から近代美術館へ(横山勝彦) ; (3)「明治対象名作美術展覧会」と「日本近代美術」の成立の問題から(五十殿利治) ; (4)近代日本における抽象表現の萌芽との関係で(水沢勉) ; (5)国立近代美術館の誕生(蔵屋美香) ; (6)美術館理念および民芸運動との関係で(長田謙一)。さらに、日本を中心として,美術展時空間の現代的変容を次の6つのアスペクトから明らかにした。(1)共同体との関係で(神野真吾) ; (2)彫刻概念の拡張との関係で(小泉晋弥) ; (3)舞台との関係で(木村理恵子) ; (4)マンガを中心とするポップ・カルチャーとの関係で(ジャクリーヌ・ベルント) ; (5)21世紀の新しい美術館像との関係で(長谷川祐子) ; (6)万国博覧会との関係で(吉見俊也)。こうして所期の目的を達成した結果,特に,1930年代から50年代にかけての日本の近代美術館成立過程のさらに詳細な調査・研究および,1980年代の美術概念の大きな変貌とのかかわりにおける美術展時空間の変容に関する一層グローバルな視野にたった研究という、2方向で、多くの研究課題が浮上することとなった。
著者
樺島 博志
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

前年度,ミュールハイム=ケアリッヒ事件の憲法判例を取り上げ,原発設置許可手続における市民の手続的参加権の保障が基本権保護義務の内容となりうることを明らかにした。本年度は,前年度の研究成果を公表し,さらに計画に従って考察を進めた。まず,憲法判例の前置手続として提起された行政裁判を検討した。この事件は,行政行為の執行差止の仮処分をもとめて争われたものであり,迅速手続であったからこそ,憲法訴願においては手続的参加権が主として争われ,実態的基本権侵害の存否について正面から判断は下されなかったものと考えられる。この行政裁判所の判決を検討したあとで,当憲法判例以降に係属したミュールハイム=ケアリッヒ原発関連の行政裁判に考察を進めた。同原発の設置に関する許可処分に対しては,複数の訴訟が提起され,下級審では,許可処分を適法と認めるものと,無効とするものとに,判断が分かれた。最終的には,連邦行政裁判所で無効が確定した。いずれの判断も,裁判所による原発設置の技術的評価にかかわっており,行政裁判において行政庁の判断を裁判所はどの程度尊重すべきか,逆に裁判所はどこまで技術的判断を下すことができるのか,という観点から判例を検討した。ドイツにおける実地調査は,本務との関係で当初の計画ほど十分に出来なかったが,年度末に近い二月に実施し,同事件に実際にたずさわったコブレンツ行政裁判所のルッツ判事にインタヴューを行うことが出来,ミュールハイム=ケアリッヒ原発問題について,事件の争点と全体状況に関して有益な知見を得ることができた。ドイツでの実地調査が遅れたこと,計画期間中に二度の転勤が重なったことから,最終的な研究報告をまとめるにはいたっていないが,判例の翻訳等,逐次Web上で公開する予定である(URL:http://www/law.tohoku.ac.jp/~kabashima/)。
著者
山下 龍一
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、環境法政策を他の政策・組織との融合システムととらえ直し、新たな環境法理論、環境組織法体系を提言しようとするものである。まず、循環型社会法制や原子力法制を、環境政策と産業政策の融合という観点からとらえなおすことを通じて、政策の転換を市民や産業界が受容するためには複数の法政策の融合が必要であることが明らかになった。次に、環境法政策を組織の融合という観点からとらえなおすことを通じて、環境保護の主体として、中央省庁、地方自治体、産業界、市民のパートナーシップが強調されており、現行法制も各主体の役割分担の考え方を基本としているが、これに対し、市民や地方自治体の役割をより重視し、これらを真の主体とする新たな環境法政策を構築すべきではないかと考えるにいたっている。さらに、あらゆる政策が環境保護に配慮しなければならないという考えを発展させると、ドイツにおける環境国家論に結びつく可能性があることが明らかになった。環境法政策を重視しすぎると市民の自由を過度に制約してしまう環境独裁の危険があるし、他方、現行の統治構造では将来世代の環境利益を十分に配慮できないという問題も指摘されている。これに対し、環境法政策への市民の参加の拡大によって、現在の市民の権利・自由を守ると共に、将来世代の利益への考慮も強めていこうとする考えが一部で主張されていることが注目される。
著者
西城戸 誠
出版者
法政大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

研究最終年度において、北海道浜頓別町、北海道石狩町、秋田県秋田市、潟上市、青森県鰺ケ沢町の市民風車立地点における市民活動、市民参加の調査と、2006年7月実施の石狩市民風車の出資者へのアンケート調査を踏まえて、現時点における市民風車事業・運動の成果と課題を考察した。その結果、市民風車事業・運動の社会的認知の上昇と、出資者が初期3風車の出資者に比べ、風車へのコミットメントを求める動機や経済的な点を重視する傾向が見いだせた。また市民風車事業・運動は、相対的に環境意識は高いが具体的な行動にまでは至らなかった人々に対して、具体的な貢献の窓口として機能している。また、それぞれの市民風車立地点の市民活動の実態は、風車の設立経緯や立地点での活動実績の違いによって異なったが、市民風車と出資者との関係性を構築する試みや、市民風車立地点における地域活動を活性化することの重要性とその困難さの一端が明らかになった。従来の研究のほとんどは市民風車事業・運動の出資者に対してのみ注目が当てられていたが、市民風車事業・運動が市民風車らしくなるためには、立地点を含んださまざまな市民活動、運動の存在が重要であることが明らかになった。一方、市民風車事業・運動のインキュベーター的な存在であった生活クラブ生協北海道に対する継続的な調査によって、生活クラブ生協の反・脱原発運動の展開と現状の課題について考察した。さらに、2006年に市民風車の出資を募集した大間・秋田・波崎・海上の4つの風車への出資者調査を実施し、現在、分析をしているところである。これらの調査研究を踏まえて、市民風車事業・運動の現段階と今後の可能性、課題を考察していく予定である。
著者
斎藤 誠
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

科学技術にかかわる法的諸問題を発見し、解決するための科学技術法という法分野の体系形成において、重要な領域を占める責任法領域の体系化を目的とする本研究において、研究最終年度である本年度は、民法改正論議における、一般不法行為法の改正論の動向を踏まえながら、科学技術の利用に起因する事故における、民事・行政責任の成立要件につき、検討を行い、以下のような新たな知見を得ることができた。(1)科学技術を利用する組織において、安全性の確保に向けて、どのような内部組織を置き、どのような手続を踏まえたかは、民事責任の成立要件としての「過失」の判断において大きな要素になるのみならず、利用にあたっての許認可等をなした行政において、そのような内部組織・手続の整備を許認可の要件として要求していたかどうかが、行政責任の成立要件としての「違法」判断の基準となる。(2)安全性確保のための内部組織については、科学技術の利用自体にあたる内部部局からの分離・独立性の確保が重要であり、この点に関しては、地方自治体における専門的な監査組織・機能の行政・議会からの独立性を強めるべきであるという議論が参考になる。(3)内部的な組織・手続の整備を、過失要件の具体化という形で明文で規定するかどうかについては、科学技術にかかわる諸活動において、無過失責任を特別法で規定している分野(原子力損害賠償)における取扱いにも考慮した上で、一般法としての規定化が検討に値する。
著者
中山 幹康 RARIEYA Marie RARIEYA Marie Jocelyn
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

研究課題「持続的な開発と福祉に向けて:複合農業経営の新たな枠組み」の事例研究地域である西部ケニアのヴィクトリア湖流域に於いて,現地調査を実施すると共に,現地の関係機関を訪問し,情報を収集した.西部ケニアでは,従来観察されていた「大雨期」と「小雨期」のうち,近年では,本来は「小雨期」に該当する時期においても降雨が殆ど観察されないなど,気象の変化が観察されている.当該地域の農民は,そのような変化に対応すべく,各種の自助努力を試みている.人間の安全保障の観点からは,収入源を多様化し,特定の農業セクターあるいは作物に依存することに起因するリスクを軽減することが,賢明な対応と考えられる.そのために,当該地域における複合農業経営を推進し,気象状況の変化に適合し,リスクの低減を図ることが重要な課題になっている.設定した3つの事例地域(Vihiga District, Siaya District, Kisumu West District)において,土壌流出,害虫の蔓延,植物病虫害などの自然環境の悪化に加えて,資金提供メカニズムの欠如,市場へのアクセスの困難,インフラ整備の不足,情報へのアクセス不足などの社会的な条件が,気象条件の変化を克服し,円滑な農業経営を維持する上での障害となっていることが判明した.これらの制約要因には,農民の自助努力で克服可能な事柄も含まれるが,地方政府や中央政府による行政的な対応,あるいは国際社会による助力がその克服には不可欠な項目も少なからず存在し,従来的な「閉じた社会」の枠組みでは解決は困難であることが示唆された.