著者
今野 裕昭
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

震災後の生活再建過程に関する真野地区の被災者への面接聞き取り、アンケート調査の再分析、避難所避難者の属性分析、および、まちづくり推進会(復興まちづくり事務所)による地区復興の推移を総合した結果、次のような知見を得た。(1)震災そのものの被害に、高齢者、障害者、母子家庭、低所得者、貸貸家屋居住者など社会的弱者への集中という階層性と、彼らが多く滞留するインナーシティヘの集中という地域差別性とが確かめられたが、その後の生活再建の過程はこの階層間の格差をさらに増大するものであった。(2)[住の再建]避難所→仮設住宅→災害復興住宅という、行政が用意した復興プランにのり比較的自立的に再建できたものおよびぎりぎりのところで再建できたものと、最初から貸家に留まりこのルートにのれなかったものとの間の格差が拡大してきている。政策的な配慮から漏れた中高年層も、社会的弱者の立場に立たされてきた。(3)[職の再建]仮設工場、災害復興工場のメニューを行政は用意しているが、こうしたルートにのれるのは大きい企業者のみであり、中小零細自営業主は、家族・親戚、得意先の助力で再建しても、その後の不況もあって、運転資金にすら困る状態が続いている。(4)[社会的環境]被災者を被災した場所にという方針が最初からとられなかったために、従前のコミュニティは消失し、災害復興住宅でもコミュニテイが形成されていない。(5)行政が用意した生活再建のルートにのれない人にとって、行政と住民の間を仲介する中間集団の支援が必要であることが明らかになった。
著者
岩井原 瑞穂 吉川 正俊 馬 強 浅野 泰仁
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究はソーシャルネットワークサービス(SNS)やWikiに代表されるソーシャルコンテンツから有用な情報を抽出する技術の開発を目的としている.wiki型コンテンツは多人数が1 つの記事を更新することにより,バージョンが蓄積されるが,その派生過程を正確に求める手法を開発した.またSNSにおいて利用者が行うプライバシー設定の傾向を分析し,適切な設定を推薦する手法を開発した.さらにコンテンツのアクセス制御について効率的な手法の開発を行った.
著者
鈴木 治
出版者
独立行政法人医薬基盤研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

生物資源保存の重要性が指摘されているが,実験用齧歯類として重要なシリアンハムスター,スナネズミ,モルモットなどは胚・精子凍結保存が完備されていない。そこで卵巣を凍結保存することによる系統保存法の確立を試みた。シリアンハムスターではガラス化保存卵巣由来の産仔が得られたが,スナネズミとモルモットについては産仔が得られなかった。それらの動物種では移植免疫や手術手技を考慮する必要があると思われた。
著者
木下 博 門田 浩二 伊東 太郎 平松 佑一 木村 大輔
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

健常成人を対象に手指での6gから200gまでの軽量小物体の精密把握運動中の把握力・持ち上げ力関係について調べた。重量が22g以下では把握面の摩擦状況に関わらず軽量程把握力/持ち上げ力比、把握力に占める安全領域の割合、力の変動係数が増大した。重量弁別実験および指先の物理的変化実験からは皮膚感覚情報が軽量物体把握時に減少することが示唆された。軽量域での把握力の変動増大と安全領域の上昇は、被験者自身が随意的に把握力を必要以上に上昇させていることも示しており、把握力の対費用効果が軽重量域では重い重量とは異なり対生理学的効率よりも対心理的安定性を重視する戦略が取られていることが示唆された。
著者
早瀬 晋三 加藤 剛 吉川 利治 桃木 至朗 弘末 雅士 深見 純生 渡辺 佳成
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究では、つぎの3つの柱を中心に活動を進めた:1.日本における東南アジア史教育の現状と課題の把握、2.他分野・他地域との関連、3.外国史と自国史。それぞれ1年間の活動を目処におこない、3年目は平行して研究成果のとりまとめをおこなった。第1年度の「日本における東南アジア史教育の現状と課題の把握」では、長年東南アジア史研究・教育に従事してきた先達に、その経験から現状と課題を指摘してもらうと同時に、学生時代に戻って卒論・修論を書くなら、どのようなテーマを選び、どのような準備をするかなど、現在の学生の身になった具体的な論文構想を語ってもらった。また、近年各大学で取り上げられた東南アジア関係の卒論・修論のテーマを収集し、その傾向と問題点を探った。第2年度は、周辺領域分野・地域との関連で東南アジア史研究を考えた。東南アジア史研究に有効な関連分野の理論・手法を学ぶとともに、関連分野に東南アジア史研究で培った理論・手法がどのように活かせるかを考察した。関連分野の研究者との意見交換により、東南アジア史研究の幅を広げ、奥行きを深めることを目標とした。第3年度は、「自国史」と「外国史」の問題を考察した。具体的には、東南アジア各国の高校・大学で「自国史」として使用されている教科書やカリキュラムを検討した。また、各国を代表する歴史学研究者と意見交換した。以上、3年間の成果をふまえて、テキストづくりの作業が進んでいる。すでに、叩き台となるべき「フィリピン」の草稿ができている。また、この研究活動を通じて、テキストのほか、史料の目録・索引、史料の復刻、翻訳、モノグラフの刊行も必要であると感じた。その準備も着々と進められている。まずは、この研究の原成果ともいうべき、報告・報告要旨28篇をまとめて発行する。
著者
津森 登志子
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

メラノコルチン4受容体(MC4R)がキイロールを果たすとされる中枢レプチン・メラノコルチン情報伝達系は、摂食行動やエネルギー消費のみならず、血糖値やインスリンの恒常性にも重要な役割を担っている。MC4Rプロモーターの支配下に緑色蛍光蛋白を発現する遺伝子導入マウスを用いて、研究代表者らは迷走神経背側運動核 (DMV) が多数のMC4R発現ニューロンを含むこと、またこれらのニューロンの中に胃や十二指腸の壁内神経節あるいは膵内神経節のニューロンにシナプス形成するものを見いだした。これらのことから、MC4R発現 DMV ニューロンからの投射線維は胃腸や膵臓の機能調節に密接に関与することが示唆された。
著者
望月 昭彦 久保田 章 磐崎 弘貞
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

2003年度に公立中学校において、2年生の3クラス合計134名を対象として、9月中旬から11週間、実験前に熟達度テスト、プリ英作文、作文に関する意識調査を実施した。教育上の配慮から、統制群を設けず、一貫性のある文章の書き方について全員の生徒に指導した。その後、指導法1「文法的誤りを気にせず、一貫性、構成に注意して書かせる」、指導法2「思いつくままに制限時間内に多く書くことに注意して書かせる」、(1、2は各15分間)、指導法3「英語の文章を黙読させ、その内容をまとめて口頭でペア活動で発表した後に、個別に書かせる」(25分間)の3種類の指導法に分類し、同中学校の3人の教師が各々のクラスの指導を6回実施した。生徒の作文答案を研究者が採点し翌週に宅急便で返送した。実験後に、実験前と同じ調査を実施した。2004年度は、国立の高校2年生4クラスを対象として、4月上旬から12週間、統制群を1クラス設けたことを除いて前年度の中学校と全く同様な手続きで実験を行った。分析尺度として、内容の一貫性のために、望月・久保田・磐崎(2004(青木(1991)の改良版)の分析法、総口評価法の7つの指標、文法的正確さのために、EFT等12個の指標、作文の量のために、語数等9個の指標、文法的複雑さのために、T-unitの数等4個の指標、語彙の複雑さのために、洗練語割合等の7個の指標を使用した。中学校の分析結果は以下の通り。仮説1「内容の一貫性に注意して書かせた指導法1は、内容の一貫性の点で、指導法2,指導法3より、優れている」について一部支持された。仮説2「内容の一貫性に注意して書かせた指導法1は、文法上の正確さの点で、指導法2、指導法3より、優れている」は支持された。仮説3「ただ多く書かせた指導法2は、指導法1、指導法3より、作文の量が多い」は支持されなかった。仮説4「指導法1,2,3は、それぞれ、作文指導を受けるにつれて、それぞれの被験者は、文法構造上、複雑な文を作るようになる」は支持された。仮説5「指導法1,2,3による作文指導を受けるにつれて、それぞれの被験者は、より豊富な語彙を使うようになる」は、一部支持された。研究質問1「内容の一貫性、文法的正確さ、作文の量、語彙の豊かさの各々の点で、指導法1、指導法2、指導法3のうち、どれがどれが最も優れているか」については、一貫性及び文法的正確さでは指導法1、作文の量は全ての指導法、語彙の豊かさでは指導法3が最善だった。研究質問2「作文の能力・技能と熟達度はどのような関係があるか」について総合的な指導法が熟達度と総合評価の相関が高い。高校については、仮説1,2は、支持された。仮説3は一部支持され、仮説4,5は、支持されなかった。研究質問1は、一貫性、文法的正確さ、作文の量は指導法1が最善,語彙の豊かさはどの指導法もあてはまらない。研究質問2は全体的に熟達度と一貫性、作文の量、文法的複雑さとは相関が低いか殆ど相関がなかった。
著者
志賀 健司
出版者
いしかり砂丘の風資料館
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

目的:2005年から2008年、北海道の日本海沿岸では秋季に暖流系漂着物(温帯~熱帯海域や沿岸に生息する生物等)が多く見られた。その代表であるアオイガイの石狩湾における大量漂着の大きな要因は高い海面水温と北西季節風だが、この関係は本州~九州の日本海側でも成り立つのか。その解明を本研究の目的とした。手法:石狩湾中央部の砂浜を定期的に踏査し、特徴的な漂着物の数量と年間の変動を記録した。同時に気象・海況観測を実施した。アオイガイの漂着状況を北海道と本州~九州とで比較するため、下北(津軽海峡)、新潟、福岡の3地域で、漂着が予想される12月~1月、砂浜の踏査と現地の水族館関係者や漂着物研究者からの聞き取り調査を実施した。成果:石狩湾のアオイガイ漂着はすでに2008年には減少の傾向を見せていたが、2009年は一層減少した。2000年代後半に見られた大量漂着現象は3~4年間で終息したことが確認された。一方、12月初旬の下北では長さ約5kmの砂浜の2日間の踏査で、100個体近い大量のアオイガイ漂着を確認した。それに対して12月中旬の新潟と1月中旬の福岡では同様の調査で数個体しか見られなかった。過去5年間の調査結果から、石狩湾でアオイガイ漂着がもっとも増加するのは海面水温が15~16度の時だとわかったが、今回調査を実施した地域・時期の水温がこの範囲内だったのは下北だけで、新潟と福岡ではこの範囲から外れていた。このことから、アオイガイ漂着の水温条件は地域を問わないことが明らかになった。また、下北、新潟、福岡での過去のアオイガイ大量漂着は1960年代と1980年代に多かったが、2000年代後半は3地域では漂着は目立って多くはない。北海道で見られた大量漂着は津軽海峡以北に限定された現象であったことが明らかになった。
著者
山本 昌宏 代田 健二 斉藤 宣一
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

逆問題に対して、再生核ヒルベルト空間ならびに多重スケール核に基づいて、多次元の任意形状をもつ領域における数値解析手法の研究と開発を目指したが、この方法は正則化手法と密接に結び付いており、また離散化のためには有限要素法などを駆使しなくてはいけないことが、より鮮明になり、その方面の研究を進めた。実績は以下のとおりである。(1)相転移問題や熱伝動現象で初期値を決定する逆問題などの応用逆問題で上記の着想に基づいた数値解析手法を開発し、成果として公表した。(2)再生核ヒルベルト空間の手法をチホノフの正則化に適用した場合の近似解の安定性・収束の理論や正則化パラメータの最適な選択原理の講究を実施し、成果を出版した。逆問題個有の不安定性があり、データの微小変動に対して逆問題の解の偏差が極めて大きくなる可能性があるが、そのために正則化の数値計算のためには必要な離散化には特別の注意が必要である。すなわち、逆問題の数値解の精度をあげるために離散化を細かくしていくと、逆問題自体の不安定性からしばしば精度が悪くなる。そこで、逆問題の数値解法においては、要求されている解の精度の範囲において離散化の精度を適宜コントロールすることが必要不可欠である。これへの1つの解答を与えた。該当年度においては正則化法に有限要素法を用いて安定な数値解法を提案し、論文を完成させ公表した。(3)また、継続中の課題としては、再生核ヒルベルト空間の1つの数値手法である多重スケール核の方法の逆問題への応用についての研究があるが、これまで得た成果を本萌芽研究での知見を活用して将来的に大きく発展させる素地ができたと判断している。
著者
阪本 真由美
出版者
公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

開発途上国の震災障害者の生活再建に求められる支援制度について、過去に巨大災害に見舞われた開発途上国(インドネシア)の震災障害者の生活再建状況と支援制度を現地調査に基づき把握した。また、震災障害者に対する生活再建支援制度について開発途上国と先進国(日本・アメリカ)の事例との比較検討を行った。研究の結果、震災障害者の生活再建を実現するためには、一時金の提供という資金的救済措置だけでは十分ではなく、一人ひとりのニーズにあったきめ細やかな支援策が必要となること、そのためには震災障害者を巻き込んだネットワークの構築を官民連携で実施することが有効であることが明らかになった。
著者
塩谷 浩之 郷原 一寿 渡邉 真也 渡邉 真也
出版者
室蘭工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究課題では,情報量を基盤とした位相回復法の理論構築・解析を行い,さらに,非周期的な物質構造の解析に貢献するために,回折パターンからの高効率な物質構造復元手法の確立を目的とし,情報数理による位相回復法を対象とした基礎理論と応用研究を行うことである.位相問題において,不完全な実・逆空間の拘束条件が与えられた場合には,実像となる解の不定性や収束に至らない不安定性がある.このような不定な条件のもとでは,弱い意味での位相回復解を求めていく必要がある.そこで,実空間における弱解群の分布を求めることで,その解集合の性質を明らかにした.逆空間における不完全さとしての条件として,量子ノイズを含む回折パターンに着目した.実空間上のノルム体積有限なすべての関数で構成される関数空間を設定し,実像間の情報量解析において用いる分布間情報量を導入することで,弱位相回復解が球殻に分布することを見出した.そのアンサンブル平均が適切な解を与えており,ノイズ回折パターンからの単一な位相回復では,その平均解が得られないことを明らかにした.画像復元,特に位相問題がからむ回折イメージングにおいて,解となる像の分布に着目したのは我々が初めてであり,この研究成果は米国の光学専門の論文誌(OSA)に採録された.
著者
安田 正美 赤松 大輔
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、イッテルビウム(Yb)光格子時計における、光格子レーザー由来の不確かさ低減のために、Yb原子の青方離調魔法波長を探索することを目的として、以下の成果を得た。①Yb光格子時計のさらなる高度化を達成し、絶対周波数測定不確かさを1桁以上低減した。これによりYb光格子時計が秒の2次表現に採択された。②Yb/Sr光格子時計周波数比の直接測定に成功した。マイクロ波周波数基準による光シフト周波数測定と比べて、1桁以上測定時間を短縮できる。③光シフト誘起用青色レーザー光源の開発に成功した。赤外線半導体レーザーを光増幅し、第2次高調波発生により、波長399nmで100mWの出力を達成した。
著者
宮川 敏治
出版者
大阪経済大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は、提携外部性が存在する状況で、効率的な交渉結果を実現するための条件や提携形成の戦略的側面を交渉ゲーム理論の新しい分析手法によって解明することである。さらに、不完備情報下の交渉問題のための非協力・協力ゲームの解概念の提示と制度設計の可能性を検討する。以下の研究成果を得た。(1)戦略的提携形成と非協力交渉ゲームモデルの構築と分析:分割関数形ゲームの下での非協力交渉ゲームモデルを構築し、ナッシュ均衡解、ナッシュ交渉解、およびコアの関係を分析。さらに、応用問題として自由貿易協定を考察。(2)不完備情報の交渉問題でのナッシュ交渉解の提示。(3)非対称情報下での制度設計、提携形成。
著者
星 岳彦
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

施設園芸生産の情報化・高度化を図る目的で、普及が進む低コストで自律分散型の環境制御システムであるユビキタス環境制御システムを導入した園芸施設で活用できる生産支援ソフトウェア開発の研究を実施した。開発と普及を促進するためソフトウェアが扱う情報を規格化した。環境データの組み合わせによる病害好発条件や生育好適条件を検出して、その期間をマーキングし、生産者に注意を促すソフトウェアなどを開発した。
著者
野田 公俊 盛永 直子 桑原 聡 清水 健 森 雅裕 盛永 直子 桑原 聡 清水 健 森 雅裕
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

蛍光色素で標識した精製SubABを作製した.この毒素の標的臓器は上部消化管であると推察された.臨床分離株大腸菌におけるSubAB産生株の出現頻度について解析した.使用したEHEC29株中、全株がStxを産生しており、2株だけがsubAB遺伝子を保有し、かつSubAB毒素を産生してた.SubAB産生株を効率良く迅速に検出するためのキット作製には、SubAB毒素の特異的酵素活性による検出法が有効と結論された.
著者
川越 保徳 森村 茂
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

温度や塩分濃度の変化に迅速柔軟に対応できる“淡水-海水コラボレートAnammox 培養系”を構築し,窒素除去特性と細菌群集構造を明らかにした。淡水性と海洋性Anammox細菌の両培養物を反応槽に接種し,淡水,海水,および中間的な培養条件にて連続培養を実施し,全条件下で約5日間以内にAnammox反応特有のNH4-NとNO2-Nの同時除去を確認し,その後0.1g/L/dの窒素容積負荷で安定した窒素除去能を認めた。また,淡水と海水の中間的条件での連絡培養物では,淡水性Anammox細菌と海洋性Anammox細菌の存在比が1:30となり,培養条件の違いによって細菌叢が変化することが明らかになった。
著者
渡辺 宙志
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度の研究成果は大きく2つに分けられる。第一はロドプシンの波長制御である。視覚を司るロドプシンの吸収波長は、生物種によって異なり、生物の生息環境に応じて最適化されている。その吸収波長の制御機構の解析が、本研究の目的である。具体的にはアナゴロドプシンを対象に用いた。当該タンパク質は、従来のものとは異なる、長距離型の波長制御機構を持つことが近年報告された。本研究では、ホモロジーモデリングと分子動力学計算の手法を用いて、分子構造を構築および精製した後、量子力学計算手法を用いて吸収波長を算出した。結果これら結果に対して、主成分解析を応用し、制御機構を説明することに成功した。第二はチャネルロドプシンの構造モデルを構築したことである。当該タンパク質は、神経の情報伝達機構を解析する手段や、盲目マウスの視覚の復元などに用いられている重要なタンパク質にも関わらず、その分子構造が未知であったために、分子レベルでの解析や応用が十分に行われていなかった。本研究において私は、当該タンパク質にアミノ酸配列レベルで特徴的なパターンがあり、それを構造モデルの構築に応用できることを発見した。モデルされた構造に前項で述べた手法を応用したところ、実験的な光学的的特性が再現されたため、同モデルの精度が非常に信頼できることが示された。またこの後、同モデルをもとに行われた実験においても、モデルを支持する結果が得られている。
著者
保木 康宏
出版者
滋賀大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

「環境の学習」といえば,科学的な内容がわかりにくいうえに,「情勢はだんだん悪くなっていく」という話が多い。そのため、たいていの場合重苦しい雰囲気になる。これまでのような学習の流れには,生徒が生態系を学ぶことと環境保全について考えることにつながりがないために,環境保全の学習が説教になって,「ああやっぱり環境問題を解決できそうにない」と感じてしまう。それは,生態系を学習するための観察実験と環境調査とでは全く別の対象を扱い,それぞれ違う方法でおこなっていたからである。2つの学習の間には直接の接点がなく,それが障害となって,自然と人間とのかかわり方について相互に見たり考えたりできるような学習になっていないからである。そこで、本研究では,子どもたちにとって本来一番身近な存在であるはずの琵琶湖に愛着を感じ、琵琶湖と共存するために必要なことを考えられるような学習について研究を進めた。研究として,既存の単元「生物どうしのつながり」の中で扱う食物連鎖や物質の循環を琵琶湖を中心とした視点から取り上げた。実際の単元構成については大きく以下の流れで進めた。(1)琵琶湖に住む生物の多様性を理解する。(2)生物相互のつながりがあることを理解する。(3)人と琵琶湖、人と生物のつながりを理解する。(4)琵琶湖の抱える環境問題について理解する。(5)琵琶湖と私たちの暮らしについて考える。本実践を終えた後のアンケートでは、7割の生徒が「琵琶湖の環境問題について関心が高まった。」と答えた。ミニ琵琶湖や低酸素化の実験を行ったことで、自分たちの生活が琵琶湖の環境に与える影響をより身近に感じ取ったようで、「たった1滴の排水が、あんなにも水質を変化させるとは思わなかった。」「琵琶湖の環境悪化させる一人になる可能性があることが分かった。」などの意見を持つ生徒が見られた。また、生物相互のつながりやその多様性について、琵琶湖を題材として扱ったことについて、「琵琶湖の中にあんなにたくさんの魚やプランクトンがいるとは思わなかった。」「琵琶湖の中の生物がお互いにつながりあって生きていることが分かった。」「外来魚などが問題になっているが、私たちの生活の影響によってもたくさんの生物に影響が出ることが分かった。」「自分たち以外にもたくさんの生物が生きていることを改めて感じた。」などといった意見が多く見られ、『琵琶湖』とい環境が生徒にとって「守りたい」と感じる自然の1つになったのではないかと感じる。この実践を通して身につけさせたい力は、評価が難しく、子どもたちの中にどのように根付いているかが十分に把握できない。子どもたちが将来、滋賀を担う存在になったときに、この実践の持つ意味が問われるのだろう。滋賀の環境教育を考えるにあたり、水環境だけでじゅうぶん満足できるとは思わない。今後、さらに深まりのある環境教育を目指して、森林、里山、土壌、田園…いろいろな要素を取り込んだ環境教育のプログラムを開発していきたい。
著者
新矢 博美 芳田 哲也 寄本 明 中井 誠一
出版者
京都女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

年齢階級を考慮した1日の水分摂取基準を算定することを目的として、乳児・幼児や児童および高齢者を対象に体重計測により1日の水分摂取量や発汗と不感蒸泄による水分損失量(ΣS)を夏季および冬季に測定して、若年成人の値と比較した。1日のΣSは環境温度や活動量の上昇に伴い増加したが、高齢者は成人と同様で、児童、乳児、幼児は若年成人に比べて、それぞれ1. 1倍、1. 9倍、2. 0倍であった。これらの倍率を用いることにより、年齢階級を考慮した水分摂取基準を算定することが可能と考えられた。