著者
原 尚志 熊谷 りさ 佐々木 絢奈 法井 美空 鈴木 太朗
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育 (ISSN:03856992)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.6-11, 2018-03-09 (Released:2018-04-03)
参考文献数
10

福島第一原子力発電所事故による放射能汚染は,既に予想よりも大分小さいことが明らかになっているが,事故から6年半経過した現在でも十分に知られてはいない。福島高校スーパーサイエンス部は,2014年に福島県内外で高校生個人線量調査を実施し,福島県内高校生の個人線量は自然放射線量とほぼ同等であることを報告した。今回は2016年の調査結果と,外れ値の分析について報告する。
著者
白井 亮久 近藤 高貴 梶田 忠
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3-4, pp.151-163, 2010-03-31 (Released:2016-05-31)
参考文献数
36
被引用文献数
1

琵琶湖固有の絶滅危惧種イケチョウガイと中国からの移入種ヒレイケチョウガイの交雑の実態を探るため,分子マーカーを用いて解析を行った。ミトコンドリアのCox遺伝子と核rRNA遺伝子のITS1領域の塩基配列を用いた系統解析の結果,両種はいずれの分子マーカーでも区別されることが分かった。遺伝的組成を調べたところ,琵琶湖と霞ヶ浦の淡水真珠養殖場では両種の交雑に由来すると考えられる個体がみつかった。琵琶湖の養殖場は自然環境とは完全には隔離されていないため,逸出した養殖個体とイケチョウガイの野生個体との交雑が懸念される。姉沼の野生集団は移植された養殖個体の逸出に由来するものの,唯一交雑の影響を受けていない純粋なイケチョウガイの集団であると考えられるため,保全上非常に重要である。
著者
川島 隆太
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.1-5, 2011 (Released:2012-01-27)
参考文献数
9

脳機能を維持・向上する,精神的な健康感を向上するための手法を開発研究するにあたり,我々は,認知神経科学の観点から,大脳の前頭前野の機能に注目をしている.人間の前頭前野は,もっとも高次な認知機能を司る場所として知られており,健全な社会生活を送るために必要な能力が宿っており,特に実行機能と呼ばれている機能(将来の計画・企画や意思決定,行動の選択や統制などの基幹となる機能)を持つ.我々は,60歳代くらいになると,心身のさまざまな機能の低下を自覚する.しかし,こうした心身機能,特に前頭前野が司る認知機能の低下は,20歳代30歳代からすでに始まっていることが知られている.この前頭前野が司る認知機能の低下に対して,最近の認知心理学研究で,認知トレーニングと呼ばれる方法が有効であり,特にワーキングメモリートレーニングによって,さまざまな前頭前野の認知能力を向上させることが可能であること,前頭前野を中心とした大脳の構築に可塑的な変化が生じることなどが証明されている.日常生活で行われている咀嚼運動自体には作動記憶トレーニングとしての要素はほとんどない.実際に機能的MRIによってさまざまな咀嚼運動と関連する脳活動を計測したが,多くの活動は運動・感覚野に限局し,前頭前野には有意な活動を見出すことはできなかった.したがって我々の研究仮説の延長上で咀嚼と脳を鍛える効果を結びつけるのは難しいと考えている.
著者
冨田 陽子 桜井 亘 中 庸充
出版者
公益社団法人 砂防学会
雑誌
砂防学会誌 (ISSN:02868385)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.15-21, 1996-03-15 (Released:2010-04-30)
参考文献数
2

The present study aims at quantitatively determining the risk of collapse extension following an earthquake by comparing the rainfall levels causing a collapse before and after an actual earthquake.It is found that a collapse occurs at a lower rainfall level after an earthquake in areas affected by the faults and that its occurence clearly corresponds to the rainfall level.
著者
山口 秀輝 齋藤 裕
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.52-67, 2023 (Released:2023-06-03)
参考文献数
156

ここ数年、深層学習に基づく生物配列の解析技術が台頭してきている。本稿は、その中でも特に急速に発達しているタンパク質の言語モデル(protein language models: pLMs)に関する総説である。アカデミアはもとより巨大IT企業も研究参画するこの技術は、基盤となるモデル開発がすでに一段落し、多様な生物学的・工学的タスクに対する応用結果が続々と報告されるフェーズに入っている。本稿では、最近のpLMsで中心的に用いられるTransformerの内部機構や学習方法、pLMsが獲得した生物学的情報の解析といった基本的な事項の解説から始め、配列解析、タンパク質機能予測・機能改変、立体構造予測、そして大規模言語モデルによる機能性タンパク質配列生成まで、実験的検証事例を交え幅広いテーマを紹介する。最後に、今後のpLMs研究が迎えうる展開について、萌芽的結果を踏まえつつ考察したい。
著者
瀬戸 健介
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.25-40, 2023-11-01 (Released:2023-12-02)
参考文献数
125

真菌類の分類,系統の全体像は,分子系統解析の台頭,進展によりここ20年ほどで大きく塗り替えられた.特に,基部系統群として扱われてきたツボカビ門および接合菌門については,複数の門に分割されるなど大きな影響を受けてきた.また,近年ツボカビ門より原始的な系統に位置するオピストスポリディア系統群が認識され,その系統学的研究が急速に進展した.これらの真菌類基部系統群の系統関係を正確に推定することは,真菌類の起源や初期進化を考察する上で重要である.これまで,初期の単領域から数領域の規模の分子系統解析から,近年のゲノムデータを用いた大規模解析まで,真菌類基部系統群の系統関係を明らかにしようとする研究が多数行われてきた.本稿では,広義ツボカビ門およびオピストスポリディア系統群に焦点を当て,それらの分類,系統に関する研究史を解説するとともに,今後の展望について考察した.
著者
山本 経之
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.2, pp.135-140, 2007 (Released:2007-08-10)
参考文献数
40
被引用文献数
2

1980年代末に,カンナビノイドが特異的に結合する受容体が脳内に存在することが明らかにされ,主に中枢神経系にCB1受容体また末梢神経系にCB2受容体の2つのサブタイプが同定された.また内在性カンナビノイドとしてアナンダミドや2-AGが相次いで発見された.カンナビノイドCB受容体は,グルタミン酸,GABA,アセチルコリン(ACh)等の神経シナプス前膜に存在し,神経シナプス後膜から遊離さる内在性カンナビノイドを介して各種伝達物質の遊離を抑制する事が知られている.ここではカンナビノイドCB1受容体ならびにその内在性カンナビノイドが中枢神経系の機能としての食欲・記憶・痛覚・脳内報酬系における役割について述べた.食欲はCB1受容体の活性化により亢進し,逆に不活性化によって抑制される.“食欲抑制物質”レプチンとの相互作用が示唆されている.記憶・学習に重要な役割を演じている脳部位にCB1受容体が高密度に分布し,その活性化によって記憶障害(“忘却”)が誘発される.その作用はACh神経からのACh遊離の抑制に基因する可能性が示唆されている.また内在性カンナビノイドには鎮痛や痛覚過敏の緩和作用があり,末梢神経系のCB2受容体やバニロイドVR1受容体との関連性が今後の課題である.一方,大麻が多幸感を起こす事から,脳内カンナビノイドは脳内報酬系との関与が強く示唆され,それを支持する知見もある.脳内カンナビノイドシステムの変容は,意欲や多幸感・満足感を創生する脳内報酬系の破綻をきたし,精神疾患を誘引している可能性がある.近年,統合失調症を初めとした精神疾患とCB1受容体および内在性カンナビノイドとの関連性が指摘され,その是非は今後の研究に委ねられている.いずれにしても脳内オピオイドの発見の歴史を彷彿させる脳内“大麻様物質”の存在は,脳の多彩な機能の解明の新たな礎となることに疑いの余地はない.
著者
水重 知子 和唐 正樹 稲葉 知己 水川 翔 高嶋 志保 泉川 孝一 石川 茂直 田岡 伸朗 三好 正嗣 河合 公三
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.3340-3346, 2014 (Released:2014-09-27)
参考文献数
11
被引用文献数
1

胃石の治療としてコカコーラ等の炭酸飲料水による溶解療法の有用性が報告されているが機序は明らかでない.われわれは,炭酸飲料の溶解作用の主体は,二酸化炭素の気泡による物理的作用と考え,柿胃石の2症例に炭酸水による溶解療法を行い有効であったので報告する.症例1は91歳,女性.上部消化管内視鏡検査で5cm大の胃石と胃潰瘍を認めた.症例2は79歳,女性.上部消化管内視鏡検査で4cm大の胃石と胃潰瘍を認めた.2症例とも内視鏡的に破砕困難であった胃石が,1日量2,000mlの炭酸水による3日間の溶解療法後,容易に破砕が可能となった.
著者
大栗 博司
出版者
素粒子論グループ 素粒子論研究 編集部
雑誌
素粒子論研究 (ISSN:03711838)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.231-249, 1984-12-20 (Released:2017-10-02)

発散積分から有限部分を取り出す処方について概説しその応用としてζ函数正則化を考える。一般化されたζ函数は発散級数Σ__nλ_n^<-s>の中から紫外cut-offについて正羃で発散する部分を取り除き,その残りを条件収束させたものであることが具体的に示される。
著者
縄田 健悟 大賀 哲 藤村 まこと
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.182-194, 2023 (Released:2023-04-27)
参考文献数
21

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関しては多くの陰謀論が存在する。COVID-19の陰謀論を信奉することで,感染リスクを軽視する認知を高め,個人としても感染リスク行動を取るようになるとともに,政府による感染防止政策を支持しなくなることが予測される。欧米ではこうした社会心理過程が指摘されており,本研究では日本でも同様の過程が見られるかを検討していく。研究1では,2021年1月に質問票調査を実施し,構造方程式モデリングによる分析を行った。その結果,仮説どおりに「COVID-19に関する陰謀論を信奉している人ほど,感染リスク軽視を通じて,個人として感染リスク行動を行うとともに,政府が感染対策政策を行うことを支持しない」と仮定したモデルの妥当性が確認された。次に研究2では,研究1の調査回答者に対して,2022年1月に縦断調査を実施した。その結果,SEMにより影響過程モデルが同様であることを確認した。また,縦断データに対する同時効果モデル及び交差遅延モデルの分析結果から仮説の因果は妥当性が高いことが示された。以上の結果は,COVID-19の陰謀論を信奉することが,COVID-19のリスク軽視をもたらし,個人や政府の感染症対策を阻害する影響がある可能性を示唆している。
著者
黒坂 文武 西尾 久英
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.777-786, 2014-12-20 (Released:2015-03-17)
参考文献数
20

学校給食に用いられているうまみ成分であるCandida utilis(CU)を含む給食を喫食し呼吸困難を呈し,血中CU IgE抗体を証明した2症例を経験したので報告する.症例1は7歳,男.小学校入学までは3回の喘息発作があったのみであったが,小学校に入学してから頻繁に喘息発作を繰り返しているために当院に受診した.母親から学校給食のスープのある日の内12回中11回発作が起こっているとの報告があり,スープそのものでprick to prick test(PPT)を施行したところ陽性.症例2は9歳,男.2歳より喘鳴出現するも6-7歳頃には改善していたが,8歳になって学校給食後喉が痒くなり咳き込んで息苦しくなる発作を繰り返すようになり,本人がスープが怪しいと証言したので,PPTを行い陽性であった.2名ともCUに対する特異的IgEを検出し,抑制試験で98.8%以上抑制された.学校給食によると思われるアレルギーの抗原検索には給食そのものによるPPTが有用と思われた.
著者
Makoto Takeyama Sen Yachi Yuji Nishimoto Ichizo Tsujino Junichi Nakamura Naoto Yamamoto Hiroko Nakata Satoshi Ikeda Michihisa Umetsu Shizu Aikawa Hiroya Hayashi Hirono Satokawa Yoshinori Okuno Eriko Iwata Yoshito Ogihara Nobutaka Ikeda Akane Kondo Takehisa Iwai Norikazu Yamada Tomohiro Ogawa Takao Kobayashi Makoto Mo Yugo Yamashita
出版者
Japan Epidemiological Association
雑誌
Journal of Epidemiology (ISSN:09175040)
巻号頁・発行日
pp.JE20220201, (Released:2022-11-12)
参考文献数
53
被引用文献数
2 2

Background: Reports of mortality-associated risk factors in patients with the novel coronavirus disease 2019 (COVID-19) are limited.Methods: We evaluated the clinical features that were associated with mortality among patients who died during hospitalization (n = 158) and those who were alive at discharge (n = 2,736) from the large-scale, multicenter, retrospective, observational cohort CLOT-COVID study, which enrolled consecutively hospitalized COVID-19 patients from 16 centers in Japan from April to September 2021. Data from 2,894 hospitalized COVID-19 participants of the CLOT-COVID study were analyzed in this study.Results: Patients who died were older (71.1 years vs 51.6 years, P < 0.001), had higher median D-dimer values on admission (1.7 µg/mL vs 0.8 µg/mL, P < 0.001), and had more comorbidities. On admission, the patients who died had more severe COVID-19 than did those who survived (mild: 16% vs 63%, moderate: 47% vs 31%, and severe: 37% vs 6.2%, P < 0.001). In patients who died, the incidence of thrombosis and major bleeding during hospitalization was significantly higher than that in those who survived (thrombosis: 8.2% vs 1.5%, P < 0.001; major bleeding: 12.7% vs 1.4%, P < 0.001). Multivariable logistic regression analysis revealed that age >70 years, high D-dimer values on admission, heart disease, active cancer, higher COVID-19 severity on admission, and development of major bleeding during hospitalization were independently associated with a higher mortality risk.Conclusion: This large-scale observational study in Japan identified several independent risk factors for mortality in hospitalized patients with COVID-19 that could facilitate appropriate risk stratification of patients with COVID-19.
著者
武藤 拓之
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.182-187, 2021-03-01 (Released:2021-03-15)
参考文献数
26
被引用文献数
2

観察可能な行動を手がかりにしてその背後にある情報処理の仕組みをモデル化し,人の心を理解しようと試みるのが認知心理学の基本的なスタンスである.認知心理学のこのような考え方は,確率モデルでデータの生成過程を表現し,その確率モデルをデータに当てはめることによって現象の理解と予測を促す統計モデリングの手法と非常に相性が良い.特に近年,Stan (Stan Development Team, 2020) やJAGS (Plummer, 2020) といったベイズ推定を実行するための確率的プログラミング言語が登場し,従来よりも容易かつ柔軟に統計モデリングを実施できる環境が整ってきたことは認知心理学にとっても追い風である.このような状況を踏まえ,本稿ではベイズ統計モデリングの強みを生かした最近の認知心理学研究を紹介するa. a  行為主体がベイズの定理に基づいて信念を更新するとみなす意思決定の認知モデル(e.g., 中村, 2009; 繁桝, 1995) については本稿では扱わない.
著者
HIDEAKI KANZAWA-KIRIYAMA TIMOTHY A. JINAM YOSUKE KAWAI TAKEHIRO SATO KAZUYOSHI HOSOMICHI ATSUSHI TAJIMA NOBORU ADACHI HIROFUMI MATSUMURA KIRILL KRYUKOV NARUYA SAITOU KEN-ICHI SHINODA
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (ISSN:09187960)
巻号頁・発行日
pp.190415, (Released:2019-05-29)
被引用文献数
3 60

The Funadomari Jomon people were hunter-gatherers living on Rebun Island, Hokkaido, Japan c. 3500–3800 years ago. In this study, we determined the high-depth and low-depth nuclear genome sequences from a Funadomari Jomon female (F23) and male (F5), respectively. We genotyped the nuclear DNA of F23 and determined the human leukocyte antigen (HLA) class-I genotypes and the phenotypic traits. Moreover, a pathogenic mutation in the CPT1A gene was identified in both F23 and F5. The mutation provides metabolic advantages for consumption of a high-fat diet, and its allele frequency is more than 70% in Arctic populations, but is absent elsewhere. This variant may be related to the lifestyle of the Funadomari Jomon people, who fished and hunted land and marine animals. We observed high homozygosity by descent (HBD) in F23, but HBD tracts longer than 10 cM were very limited, suggesting that the population size of Northern Jomon populations were small. Our analysis suggested that population size of the Jomon people started to decrease c. 50000 years ago. The phylogenetic relationship among F23, modern/ancient Eurasians, and Native Americans showed a deep divergence of F23 in East Eurasia, probably before the split of the ancestor of Native Americans from East Eurasians, but after the split of 40000-year-old Tianyuan, indicating that the Northern Jomon people were genetically isolated from continental East Eurasians for a long period. Intriguingly, we found that modern Japanese as well as Ulchi, Korean, aboriginal Taiwanese, and Philippine populations were genetically closer to F23 than to Han Chinese. Moreover, the Y chromosome of F5 belonged to haplogroup D1b2b, which is rare in modern Japanese populations. These findings provided insights into the history and reconstructions of the ancient human population structures in East Eurasia, and the F23 genome data can be considered as the Jomon Reference Genome for future studies.
著者
筒井 淳也
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.48-59, 2020 (Released:2021-05-29)
参考文献数
21

持続的な文系縮小圧力があるなか、社会科学の学問を「科学的」かどうかによって優劣判断するような言説が目立つようになっている。このような圧力を受けて、社会学の立ち位置をどのように考えたらいいのかについて考察するのが本稿の目的である。経済学のように科学に近似していくという戦略、科学概念を拡張してそのなかに社会学を入れるという戦略、「科学」とそうでない学問との境界線の揺らぎを指摘してそもそもの判断基準を相対化するといった戦略などがあるが、いずれも有効性に限界がある。社会学の独自性が狭い意味での科学とは異なるところにあるのなら、その立ち位置を外に向かって丁寧に説明することを続ける必要がある。
著者
上田 祥二 松井 亮治 針尾 大嗣
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.83-90, 2021 (Released:2021-11-17)
参考文献数
15

プレイステーション5 の購入者の転売活動を把握するために、発売日から12 月末までおよそ1 ヵ月半のヤフオクの落札に関する情報を収集し、取引に関するデータの分析を行った。発売日当日から4 日間の取引数が多い結果であり、1 日に600 件規模の取引が確認できた。出品者の取引回数を整理すると、取引頻度が1 回または2 回の出品者が全体の87% を占めているおり、オークションによる転売活動の大部分は取引頻度が1~2 回の出品者によるものであった。出品者の取引回数別にユーザをグループ化しプロファイルの具体化を行ったところ、「実店舗のWeb 販売」、「個人中上級取引者」、「個人初級取引者」の3 種類に分類できた。
著者
湯川 やよい
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.88, pp.163-184, 2011-06-10 (Released:2014-06-03)
参考文献数
25
被引用文献数
4 1 1

本研究は,高等教育・研究者養成における教員─学生関係の社会学研究として,アカデミック・ハラスメントの形成過程を明らかにする。そのため,医療系の女性大学院生を事例に,学生が「被害」を認識する契機となるエピソードに着目し,被害の背景にある教員─学生間の信頼関係の変遷を,対話的構築主義アプローチを用いたライフストーリーとして再構成する事例研究を行う。 考察の結果,学生が「被害」と認識した出来事は,それ単独として存在するのではなく,多忙化した教員の研究・教育関与の低下,研究室間の不文律システム,教員同士の確執等,日常に埋め込まれた諸文脈の累積により学生の教員への信頼が失われ,その結果初めて学生にとって不快で不当な「ハラスメント被害」が構築されるという過程が明らかになった。 また,対話的構築主義アプローチをとったことにより,上記のハラスメント形成過程は,従来のアカデミック・フェミニズムの中でのモデル・ストーリーとなってきた「ジェンダー要因を中核とするハラスメント体験」の語りに対してずれを含む新たな対抗言説として導出された。 研究室の教員─学生関係で生じる困難を,単に学生相談の臨床心理からのみ論じるのではなく,背景にあるジェンダー関与的文脈と非関与的文脈の総体について社会学的に検討し,政策・教育機能分析と指導の実践レベルの研究とを接続する必要があると考える。