著者
清水 耕一
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

フランスの法定労働時間は雇用創出のために2000年から週35時間に短縮されたが,右派政権は左派政権の雇用政策を否定し,2003年以降に長時間労働を促進する諸法を制定した。本研究は企業規模別超過勤務時間データの検討,金属産業とルノー,プジョー,トヨタ・フランスの労使間協定と労使関係を調査検討し,右派政権の諸法が実効性を持たなかったことを明らかにした。35時間労働制が維持された原因は,35時間労働制への移行交渉によって労使間の信頼関係が生まれると共に,企業が労働時間編成のフレキシビリティーを獲得したことにあった。
著者
鐸木 昌之 後藤 富士男 平岩 俊司 礒崎 敦仁 室岡 鉄夫
出版者
尚美学園大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)研究の動向を調査し、方法論を再検討した。わが国における北朝鮮政治・経済体制研究の動向や関連図書の発行状況を確認するとともに、韓国や中国、北米地域の北朝鮮研究の動向等の現状について意見聴取、調査を行った。また、新資料の入手に努めるとともに、複数の脱北者へのインタビューによって同証言の有用性と特性を検証した。北朝鮮研究における比較の視点導入についても再検討した。
著者
ANATOL N. Kirillov 有木 進 中島 啓 野海 正俊 山田 泰彦 前野 俊昭 柏原 正樹
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

平成15年度〜17年度にわたり採択された本研究課題について私ならびに研究分担者は優れた数学雑誌に14の論文を発表した。また、研究集会を自ら組織するとともに研究遂行上必要な打ち合わせのため、国内外の研究集会に参加した。討論や共同研究は定期的に行った。15年度の主なものとして、私とGuest氏(首都大学東京)が組織した国際ワークショップ「Quantum Cohomology」(於:京大数理研6月実施)があげられる。このワークショップにはこの分野での著名な数学者中島啓氏(京都大・理学研究科)、齋藤恭司氏(京都大・数理研)、B.Kim(S.Korea)、A.-L.Mare(Canada)、A.Buch(Sweden)をはじめ国内からもおよそ50人の参加者があった。16年度の主なものとして、私と野海氏(神戸大)が組織した国際ワークショップ「Tropical algebraic geometry and tropical combinatorics」(於:京大数理研8月実施)があげられる。このワークショップには「トロピカル数学」において世界をリードする数学者、A.knutson(UC Berkeley, USA)、E.Miller(Univ.ofMinnesota, USA)、G.Mikhalkin(Toronto Univ., Canada)、D.Speyer((UC Berkeley, USA)、O.Viro(Uppsala Univ., Sweden)、柏原正樹(数理研)、尾角正人(阪大)、山田泰彦(神戸大)をはじめとして約60名の参加者があった。両ワークショップともに盛況で日本におけるトロピカル数学と量子コホモロジーに対する関心を高めることとなった。その他、中国南海大学での国際ワークショップ「Combinatorics, Special Functions and Physics」に招聘され、講演を行った。本研究課題の主目標の一つである放物型コストカ多項式については一般化されたsaturation conjectureを証明した他、放物型コストカ多項式やSchur関数の新しい興味深い性質を示した。Schubert Calculusと非可換微分法の関係についてはいくつかの重要な結果が、私と前野氏によって示された。特にある種の非可換代数多様体に対し平坦接続の生成する代数を記述することに成功しB_n型非可換Schubert多項式のMonk公式を証明した。
著者
石井 正浩 木村 純人 中畑 弥生 牟田 広実 家村 素史
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

効果的治療法の開発 川崎病は、自己完結型の疾患であるため、重症度の層別化を行いそれぞれの患者に適した治療を行う必要がある。我々は256人の川崎病児を用いて重症度の層別化スコアを作成した。久留米スコア(診断病日4日以内1点、年齢6ケ月以内、血小板数30万以下、CRP8mg/dl以上1点、 AST 80IU以上2点)とし、3点以上を特異度78%鋭敏度76%で免疫グロブリン治療抵抗性を予測できる(J Pediatr 2006+)。久留米スコアにて層別化し重症の川崎病児に対しては、初期治療より免疫グロブリン単独治療と免疫グロブリン治療とステロイドパルス療法を併用した者とをランダムに振り分け治療効果の判定を行った。現在20例検討しているが、重症川崎病においては免疫グロブリン治療とステロイドパルス療法を併用した群が治療効果がよかった。病態、病因に関する研究 重症度の層別化を久留米スコアを用いて臨床的に行い、それをマイクロアレイを用いて遺伝子の解析を行った。66577個の遺伝子のうち1226個の遺伝子が久留米スコアによる重症群と軽症群で発現に差が認められた。Toll-like受容体遺伝子、サイトカイン受容体遺伝子などが、特に重症型で発現が増加していた。炎症に関連が深い遺伝子の発現が増加していることより病因に感染がかかわっていることが示唆された。免疫グロブリン治療単独では、254の遺伝子の発現が抑制され、免疫グロブリン治療とステロイドパルス療法を併用した群では5249個の遺伝子が抑制された。また、重症型で発現した遺伝子の多くは免疫グロブリン治療とステロイドパルス療法を併用治療で抑制された。結語川崎病の病因に感染がかかわっていることが遺伝子発現の研究より示唆された。重症型においては免疫グロブリン治療とステロイドパルス療法を併用療法は効果的であった。
著者
内山田 康
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

南インド、ケーララ南部の丘陵地帯に住むクラヴァたちの、宗教的実践と政治的実践の変容とその相互関係について平成16年度から19年度にかけて調査を行うなかで、2年目にプラーティと呼ばれるクラヴァの降霊術師に偶然に出会ったことは幸運だった。クラヴァについては19世紀の終わりに実施された民族誌的調査の短い記録がE. Thurston (1909) Caste & Tribes of South Indiaの中に再録されている。その中に、プラーティが行う降霊会について言及されているが、その内容は明らかではなかった。また、私は1992年から行ってきたフィールドワークにおいて、一度も降霊術師に会ったことがなかった。しかし、この調査の2年目に降霊術師に会い、もう行われていないと聞いていた降霊会に参加してその内容を知ることができた。プラーティは死者を呼び戻して、死者と親族が話せるようにする。親族たちが知りたいのは次の二点だ。(1) 死者はなぜ死んだのか。(2)死者はどのような負債を抱えているのか。知られないまま弁済されない負債は、生きている近い親族たちの不幸の原因となるため、死者にそのことを尋ねる。近年、教育を受けたクラヴァの中には、問題を降霊会によってではなく、裁判で解決しようとする者も現れた。このような状況のもと、降霊会を成功させることは困難になっている。しかし、降霊会は無くなっていない。クラヴァの生活環境は、ゴムブームによっても大きく変わっていた。1991年の経済自由化の後、クラヴァの生活環境は急速に変化している。また、クラヴァの社会上昇を目指した政治運動は、降霊会と祖先祭祀をやめさせ、メインストリームの宗教実践を取り入れようとするものでもあった。しかし、政治運動、生活改善運動、意識改革運動と結びついた、そのような宗教改革的な運動を通して、クラヴァは自律性を失い、地方の有力者にその土地や聖地を支配されるようになっていた。クラヴァが土地を失ったという証言は、数多く得られていたが、それに加えて百年前の土地査定の記録を入手して、その証言を記録によっても部分的に裏付けることが出来た。
著者
古沢 常雄 岩橋 恵子 小野田 正利 夏目 達也 藤井 佐知子 池田 賢市 服部 憲児 小澤 浩明 上原 秀一 園山 大祐 藤井 穂高
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、学習者が学校教育の主流から排除されるメカニズムに注目する。すなわち、早期離学者、進路変更を余儀なくされる生徒たち、高等教育における中退、などに焦点を当てている。こうした学校「内部から排除」するメカニズムに対して制度的にどのように包摂が可能か検討し、具体的な対策として郊外における優先教育の試み、障害児の包摂に向けた取組、学校ガバナンスの方法、高等教育における学業継続支援策や社会経験認定制度の整備、余暇センターの活動など現地調査をもとに考察を行った。
著者
佐藤 栄作
出版者
愛媛大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

日本語研究の最新の成果である「役割語」の視点を導入して、「写生」・写生文を見直した。俳句実作者と俳句評論家を中心に、近代文学研究のテーマとして議論される「写生」について、日本語研究も加わって論じる場を立ち上げた。まず、「写生」とは固定観念から主体を解放することを前提とするから、その実践である写生文は「役割語」とはなじまないことが確認できた。しかし、写生文の中の方言は「役割語」ではないとか、写生文の方言だけは資料として第一級だとはいえない。写生文においても、使用された方言の資料価値は、作品個々の問題であるという結論に至った。
著者
星野 聡子
出版者
奈良女子大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

本研究ではクローズドスキルスポーツを対象とし,身体的影響を排してアーチファクト因を回避し,実際のスポーツ行動における生理的変化を測定し,心理的要因を精神生理学的に分析することに成功した.これらには,現役トップアスリートを被験者とした実験も含まれ,希少価値の高質データが検討された.基礎的研究から,スキルの向上には(1)射撃リズムの確立,(2)呼吸と撃発のリズム,(3)心拍の減少(すなわち,R-R intervalの延長),(4)心拡張期での撃発,(5)心拡張期の延長が有効であるという知見を得た.スポーツ科学領域においてバイオフィードバック技法を用いた応用研究の多くが、心理的ストレス制御を取り扱っている中で,本研究では生理的ストレス制御を採用し,静的運動時に自律神経系指標の内的感覚に応答を求め,運動学習に活かす試みがなされた.これらの臨床実践は対象を大学生熟練者から初心者に広げ,習熟早期段階でのバイオフィードバックの適用という,競技実践に新たなスキル向上技法を提唱した.撃発時点の心拍減少,および,撃発時の心電図R波の回避やR-R intervalの延長を習得目的とした心電図バイオフィードバック訓練を実施した結果,呼吸とR-R intervalとの対応関係を容易に学習させ,呼吸ストラテジが獲得され,最終的に運動学習に伴う呼吸位相と運動タイミングの同期を早期に確立させた.また,R-R interval延長が可能となったことで,心拍動を避けた撃発や心拡張期での撃発の可能性が高められ,バイオフィードバック法によりスキルの早期向上の一助となることが示唆された.さらには,スキルの向上には,適切指標の最適状態を探求する重要性や,自律神経系指標に「気づき」を向け,内的感覚として会得する大切さが論じられた.本研究課題の一連の研究結果は学位論文にまとめられ,早稲田大学より博士学位(人間科学)が授与された.
著者
林 みどり
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

当該研究は、非ヨーロッパ世界にあってヨーロッパ移民によって大衆社会が構成されたラプラタ世界を対象に、早熟なモダニズムが出現しつつあった20世紀前半の社会文化現象を、「文化の翻訳」と「トランスカルチュレーション」の現象としてとらえなおし、そのメカニズムの基礎になる言説を明らかにすることを目的とした。世紀初頭のラプラタの都市空間では、移民大衆が土着主義的なものを模倣しつつ、従来とは異なる異種混淆の文化的表現を創りあげたり、新たな文化的領野が大衆的な読書空間をつうじて拓かれていくなど、19世紀型のものとはまったく異なる文化的表現を生みだそうとする、一種の文化的エントロピーとでもいうべきものが高まりつつあった。本論では、そうした文化的なダイナミズムの領域にあって進行していたプロセスを、トランスカルチュレーションの過程としてとらえなおし、そこにどのような文化的な<翻訳>のモメントが関わっているのかを、主に教養層の側からの変化への抵抗と反発の言説分析を中心に探り出すことを主眼においている。本論第I部では、異種混淆の文化的表現が創りあげられるに至る過程で生じた文化的抗争の諸相、とりわけ同時代にディシプリンとして成立しつつあった自然科学や人文科学の成立プロセスが、トランスカルチュレーションが生じつつあった社会状況とどのように関連していたかという点に重点をおきつつ、思想史的な観点から析出した。本論第II部では、第I部で扱ったような人文学上のパラダイム転換に、19世紀末から20世紀初めにかけての出版状況が深く関わっている点に注目。具体的にどのような出版文化状況が展開されていたか、そのいわば歴史的なトルソーを、書誌年鑑や大衆娯楽雑誌の分析を通じて彫塑した。今後は、同様の大衆娯楽雑誌の分析を他の雑誌についても行い、また文字メディアだけではなく映画その他の新たに出現しつつあったメディア分析にまで拡げていくことが課題となってくるだろう。
著者
竹田 敏一 代谷 誠治 北田 孝典 山本 敏久 山根 義宏 三澤 毅
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

1)ミクロ炉物理を考慮した過渡解析の理論および計算コードの開発を行った。理論としては、燃料集合体内のピンセル構造などの非均質性を厳密に取り扱えること、さらに実効断面積作成にその厳密性が陽に反映されることを考慮して中性子流結合衝突確率法(CCCP法)による方程式を用いた。これまでのCCCP法では時間依存性が考慮されていないため、新たに時間依存を扱えるCCCP法の開発を行った。2)ミクロ炉物理的検討により、中性子束の角度分布は周囲の幾何形状や組成により大きく異なることが示唆された。そのため原子炉内での中性子束角度分布の測定方法の開発を行い、実際にKUCAのC架台に構成した炉心に対して測定を試みた。原子炉内の中性子束角度分布の測定方法として、光ファイバー検出器とCdチューブを組み合わせた手法を考案した。この手法による測定実験を行い中性子束角度分布の測定結果を得ることによりこの手法の有効性を確認した。3)過渡時の燃料棒内温度分布を考慮する効果を正確に把握するため、制御棒を含む2次元軽水炉燃料集合体体系において、核と熱を結合した計算コードを開発した。この計算コードを用いて燃料棒内の温度分布等の非均質性を考慮し、冷温停止及び高温待機状態からの制御棒落下事故を模擬した過渡解析を行った。その結果、特に高温な炉心での格子内の非均質性を直接考慮した過渡解析において燃料棒内の径方向温度分布は無視できないこと、および燃料棒内の温度分布が複雑であるため燃料棒内で均一な温度を用いる実効温度モデルでは不十分であることが分かり、過渡時のような燃料棒内の複雑な温度分布を取り扱うにはミクロ炉物理に基づく考察が必要であることが明らかとなった。
著者
上田 政和 神野 浩光 宮田 量平 城戸 啓
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

平成15年から17年度にかけての3年間の研究により以下のような成果が得られた。1.HBs抗原L粒子のC末端側に緑色蛍光タンパクを結合させたL粒子を作製し、in vitroおよびヒト肝細胞癌およびヒト大腸癌細胞をヌードマウス皮下に移植したモデルに投与すると、in vitroおよびin vivoでヒト肝細胞癌でのみ緑色蛍光が認められ、ヒト大腸癌では緑色蛍光は検出されなかった。2.HBs抗原のpreS1を削除しランダムペプチドを結合させるとあらゆる細胞に遺伝子および蛍光物質が取り込まれた。3.アドリアマイシン封入L粒子によるヒト肝細胞癌に対する殺細胞効果:アドリアマシン封入L粒子を作製・精製してヒト肝細胞癌株にin vitroで添加し、細胞数をMTT assayで測定すると、濃度依存的な殺細胞効果が認められた4.HBs抗原結合GFPcDNA封入MPCポリマーに関する研究:cationic portionを導入したMPCポリマーに緑色蛍光cDNAを結合させてエステル基にHBs抗原を反応させたHBs抗原結合遺伝子封入MPCポリマーを作製して、in vitroおよびin vivoでヒト肝細胞癌に投与すると7日後にと殺して各種臓器の蛍光を測定するとヒト肝細胞癌組織でのみ緑色蛍光物質の発現が認められた5.RNase挿入FGFタンパクによるin vivoにおける血管新生阻害:小さなチャンバー内でがん細胞株であるA431を培養し、培養液内にRNase挿入FGFを添加し、その後チャンバーをマウス背部皮下に置きその部位の血管新生を形態学的に測定し、対照群と比較すると、腫瘍細胞であるA431を培養しているチャンバーを皮下に植え込んだマウス背部では培養液のみの対照群より蛇行した血管新生が著明に認められたが、A431に加えてRNase挿入FGFを添加したチャンバーを植え込んだマウス背部では血管新生が抑制され、対照群と有意の差を認めなかった。
著者
五井 孝憲 山口 明夫
出版者
福井医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

TGF-βスーパーファミリーは細胞増殖、分化、細胞内輸送に関わる重要な細胞内シグナル伝達分子群と考えられている。そのなかの1つ、Smad分子はTGFレセプターからシグナルを受け、活性化された後、核内に移行して直接転写調節を司っている。近年この制御機構の破綻が様々な組織における腫瘍発生に関与することが注目されている。本研究ではTGF-βスーパーファミリー因子群の細胞伝達分子であるDPC4とMADR2遺伝子について、遺伝子異常および蛋白量の変化を大腸癌において検索し、発癌、浸潤および転移との関係を検討した。遺伝子異常についてRT-PCR,SSCPおよびDNA sequencingにて検討したところ、大腸癌29例中6例(20.7%)にDPC4遺伝子変異(5例point mutation,1例frame shift)が認められ、MADR2遺伝子では3例(10.3%)に遺伝子変異(point mutation)が確認された。さらに両遺伝子が位置する染色体18q21のLOH検索をMicrosatellite法にておこなったところDPC4遺伝子異常の認められた症例はすべてLOHが確認された。(informative症例)つぎにDPC4蛋白質に対するモノクローナル抗体を作成し、切除手術を施行した大腸癌64症例から原発巣および正常組織の蛋白を抽出し、Western blot法にてDPC4蛋白質の発現量を検討したところ、大腸癌組織におけるDPC4蛋白の発現量は、大腸正常粘膜と比較して有意に減少していることが認められた。DPC4蛋白量比(癌組織DPC4蛋白量/正常粘膜DPC4蛋白量)と臨床病理学的所見との検討では、肝転移陽性症例のDPC4蛋白量比は肝転移陰性症例の蛋白量比と比較して有意に減少していることが認められた。またDPC4遺伝子変異/欠損とDPC4蛋白発現量比の検討では遺伝子異常の認められた症例においてDPC4蛋白発現量比の減少は高度であった。以上よりTGF-β-DPC4シグナル経路は大腸癌の発生、転移などをはじめ、シグナル伝達解明に重要なpathwayであることが認められた。
著者
深見 希代子 山口 英樹
出版者
東京薬科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

我々はPhospholipase C d1(PLC d1)の遺伝子欠損(KO)マウスを作製し、PLCd1KOマウスが毛包の形態異常を伴う顕著な体毛の減少を示すことを報告してきた。今回PLCd1KOマウスとよく似たマウスとして転写因子Foxn1が先天的に変異しているヌードマウスに着目した。ヌードマウスでは、毛を構成する主なヘアケラチンの一つであるmHa3遺伝子の発現が低下し、無毛となる。PLCd1KOマウス体毛減少のメカニズムを詳細に検討した所、ヌードマウスと同様にPLCd1KOマウスの皮膚においてもmHa3遺伝子の発現が低下していた。またヌードマウス皮膚では、PLCd1の発現が低下していた。こうした結果は、毛包形成において、Foxn1→PLCd1→mHa3というシグナルの流れが存在していることを示している。
著者
金子 知適
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

大量の経験的データから学習した知識を利用する効率的な探索技術の研究を行った.探索においては対象の知識を活用することで効率が向上することが知られている.本研究により棋譜に残された人間の判断履歴から,80万次元以上のパラメータを調整し計算機が活用可能な知識とすることが可能となった.研究成果を将棋プログラムへと応用したところ,現時点で最も強いコンピュータプログラムを作成することができた.このことは本研究の有用性を示していると考えられる.
著者
吉水 守 田島 研一 西澤 豊彦 澤辺 智雄
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

牡蠣の汚染による衛生上の問題に関しては、腸チフス等18世紀から報告があり、我が国でも1924年熊本県不知火での規模な腸チフスの発生が知られている。1950年に『食品衛生検査指針』により貝類の衛生基準が定められた。牡蠣は1日当たり2トンもの海水を吸入し、餌料生物を接種し、同時に細菌やウイルスを濃縮する。しかし清浄海水で飼育すると蓄積した細菌やウイルスを放出する。いかにして、清浄海水を確保するかに関しては、坂井(1953,1954)、河端(1953)の研究により、現在の浄化法の基礎が築かれ、広島・宮城県から全国に普及していった。平成9年5月31日付けの食品衛生法の一部改正により、食中毒原因物質として新たに小型球形ウイルスとその他のウイルスが追加された。小型球形ウイルス(SRSV;現在、ノロウイルス)は電子顕微鏡像での形態が類似する直径27〜38nの球形ウイルスの総称であり、1972年に米国オハイオ州で起きた非細菌性集団胃腸炎の患者糞便より発見されたNorwalkウイルスがその原型である。ノロウイルスは培養細胞や実験動物を使用して増殖させることが困難であり、現在行われている紫外線やオゾンを用いた循環型浄化装置では、ウイルスが不活化されていてもRT-PCR法では陽性となり、製品の出荷ができない。本研究は、牡蛎のノロウイルス浄化法を培養可能なネコカリシウイルスを代替えウイルスとして検討したものであり、得られた成果は以下のとおりである。1.電解海水を用いることにより牡蠣の大腸菌浄化が可能であることを示した。2.ネコカリシウイルス(FCV)を用いた場合、FCVは紫外線に抵抗性を示したが、海水電解水に高い感受性を示した。3.FCVは高水温下で不安定であったが、低水温下では安定であった。3.FCVは半数以上の牡蠣の消化管内容物で不活化された。4.FCVは牡蠣の脱殻条件、40℃・800気圧で90%以上不活化された。これらを組み合わせることによりカキのノロウイルス浄化は可能となると考えられる。今後はノロウイルスの感染性を評価する系を作る必要性があると改めて認識された。
著者
山下 正廣 宮坂 等 伊藤 翼 高石 慎也
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2008

超常磁性化合物に対して、外場を印加することにより、新規物性や機能性の発現を目指すものである。これまでに、単分子量子磁石Pc2TbとPc2Dyを用いて電界トランジスター素子を作成し、前者はp型を、後者はアンバイポーラーを示すことを明らかにした。また、STSを用いてPc2Tbの近藤ピークを観測することに初めて成功した。さらに、電子注入により近藤ピークの出現と消去を可逆的に行なうことに成功し、単分子メモリーの基礎を実現した。一次元鎖構造を持つ単分子磁石[Pc_2Tb]Cl_0.6は8K以下で世界で初めて負の磁気抵抗を示した。
著者
山岸 雅子
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究は、石川県に立地する戸建住宅、集合住宅の居住性及び地域性と住居観との関連性を探ることを目的とし、金沢市市街地立地の民間分譲集合住宅(以下『金沢』と表記)、金沢市郊外の計画的戸建住宅地(『松任』)、能登地方中都市既成市街地の戸建住宅(『羽咋』)の居住者を対象に調査を実施し、その結果を分析した。以下本研究で得られた特徴的な結果を示す。(1)平面構成…『金沢』は和室1室、洋室2室の3LDK、『松任』は洋室3〜4室と和室1室の4〜5LDKが典型的である。『羽咋』は洋室1〜2室で残りが全て和室とDKのタイプが多いが、住宅面積はばらつきがある。(2)住まい方…団らん、食事、夫婦・子どもの就寝、接客の部屋の取り方は、『金沢』『松任』『羽咋』それぞれの立地条件、平面構成、住宅形態により異なる傾向がみられる。『羽咋』はどの行為においても和室の使用が圧倒的に多いが、子供寝室に関しては洋室の割合も和室と同程度あり、子供室の洋室化は顕著であるといえる。(3)居住性評価…『金沢』は住宅各部の狭さが最大の問題点である。『松任』は住宅に関しては収納スペース不足程度であるが、交通の便の悪さや生活・文化施設の不足が大きな不満点である。『羽咋』は収納スペース不足と台所の不満が挙げられ、全体として生活上、自然環境上満足が得られているものの、多様な社会断層の居住者が混在しているためか、近所づきあいに不満が多い。(4)住居観…従来自宅内で行われていた冠婚葬祭は、『羽咋』の方が『松任』より自宅で行いたいとする世帯の割合が高いが、今後葬式や結婚披露宴は減少していくであろう。高齢期の住み方は『松任』は近居を理想とする世帯が『羽咋』より多いが、現実には完全同居か別居の割合が理想より高くなると感じている。
著者
南澤 汎美 渡辺 みどり
出版者
山梨医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究は新設の看護学科が将来付属病院を中心としてどのような看護を開発してゆく必要があるかについて考える資料にするために、当該病院を利用している入院患者の実態を知るとともに看護婦の独自な機能役割の一つとして将来とも重要な終末期の看護について大学病院という従来、先端医療を掲げてきた場所で殆ど重点が置かれて来なかった領域を実際にこれに携わってきた看護婦の意見を通じて考察することである。今年度はこの後半の目的のために、当該病院に3年以上勤務している看護婦を対象としてアンケート調査を行った。質問紙の内容構成は看護婦個人の臨床経験歴および終末期看護についての関心度、実際に自分が経験したターミナルケアの中で評価できると考える看護事例の内容とその理由、もしあれば逆に評価できない事例の内容とその理由を記述する、そして現実にターミナルケアを行う上で当院で困難があると考える問題は何か、それらを総合して大学の付属病院で終末期看護を進めることが望ましいと考えるか否かについて意見を求めた。約100名の看護婦から回答が得られた。半数以上の看護婦が5年以上当該病院での経験者であった。43名の看護婦が良い看護ができたと評価できる事例を記述しており、34名が良くなかったという事例を記述していた。回答した大部分の看護婦は終末期看護については積極的に取り組みたいとしているが、最終的に当該病院もその一つである大学付属病院で終末期看護を行うことについては意見があい半ばした。この理由を明らかにするために調査の記述についての分析をもう一歩深めることが必要と考えている。
著者
濱口 佳之
出版者
名古屋大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

〇 研究の目的京都大学生存圏研究所のMUレーダーを利用し、外部観測装置を多地点設置することで、流星の速度ベクトルを求め、併せて電離圏の風速ベクトルを求めることを目指す。また、この研究の最終目標として、流星の速度ベクトルについては、太陽系外から来る高速流星の検出、昼間流星群の検出、小流星群の検出を目指す。電離圏の風速ベクトルについては、風速ベクトルの空間分布ら超高層大気風の立体構造の解明を目指す。〇 本科研費申請の目的多地点(2点)観測にみる流星速度ベクトルの測定についでは自作プロトタイプ観測装置(旧システムと呼ぶ)により既に実績がある。本科研費申請の目的は旧システムに新たな機能を追加し、信号処理手法を導入することにより、流星観測数の大幅アップを図り、新たに電離圏の風速ベクトルを求めることにあり、上記最終目標の確実な達成を実現することである。〇 研究成果上記、本科研費申請の目的で示した新たな機能を追加した外部観測装置(2台)の開発に成功した。ここでこの装置を「新システム」と呼ぶ。2008年8月この新システムと旧システムを並べ、流星観測を実施したところ、旧システムより薪システムの方が4倍め流星数を獲得できた。また、2008年11月、新システムをMUレーグー施設内に持ち込み、MUレーダーとレンジ、流星の検出時刻、風速データを比較したところ全てにおいて良好な一致が見られた。これらの基礎実験により、装置の確実性が確認されたので、2008年12月ふたご座流星群において、新ジステム2台をMUレーダー周辺(10km程度)の外部点に設置し、流星観測を行った。この結果、ふたご座流星群の輻射点が求まり、装置の正常性と有効性が実証された。また、風速についても各ポイントで求まっているが、外部観測点がMUレーダーに近かったことにより風速ベクトルの正確な算出には至らなかった。しかし、個々の風速測定は正しいものであり、外部観測点をMUレーダーから離すことや観測ポイントを増やすことにより、風速ベクトルの測定は実現性が高いものとなった。これらは今後の展開を目指す。
著者
吉田 英人 寺澤 敏夫 中村 卓司 吉川 一朗 宮本 英明 臼居 隆志 矢口 徳之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、送信点と異なる場所に多数の受信点を配置し(多地点観測法)、流星が流れたときその飛跡に沿って生じるプラズマで反射した電波(流星エコーと呼ぶ)を、複数の地点で受信して、その到達時間差と送信点-反射点-受信点の距離を同時に測定することにより、精密な流星飛跡を求める観測装置を開発した。この教材は携帯性に優れ、流星の諸パラメータを求めることができ、超高層大気と極微小天体の関係を身近に感じることができる実習教材である。