著者
藤枝 憲二 長屋 建 松尾 公美浩
出版者
旭川医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

<CPHD症例において同定したPIT1β変異体の機能解析>ヒト野生型PIT1β並びに変異PIT1βcDNAの作成と、それらの発現ベクターへのサブクローニングを終了した。今後、供与していただいた野生型および変異型PIT1cDNA発現ベクター、さらにその標的遺伝子であるPRL、GHのプロモーターと併せて、COS7細胞並びにGH4細胞を用いてルシフェラーゼアッセイを行う予定である。なお、他のCPHD3症例に対して同様にPit1β変異解析を行ったが、いずれにおいても変異は認められなかった。<GH不応症例に同定したGH1変異体の機能解析>ヒト成長ホルモン受容体を発現したBaF/GM細胞を用いたヒトGH生物学的活性の測定を行った。低身長児群と正常群の間で生物学的活性/免疫学的活性比に有意な差は認められなかった。今後、この系を用いてGH1変異を有するGH不応症例患者血清中のGH生物学的活性の測定を行い、機能解析を進める予定である。<低身長児を対象とした成長関連遺伝子解析>-2SD未満の低身長児100例を対象にGH1,GHR,IGF1,IGF1R,NPR2についてPCR-ダイレクトシークエンス法を用いて遺伝子解析を行った。その結果、GH1については一例のヘテロ接合性ミスセンス変異(未報告)、GHRについては二例同一の既報のヘテロ接合性ミスセンス変異、IGF1Rでは一例の一塩基挿入(未報告)、そしてNPR2では一例のヘテロ接合性ミスセンス変異(未報告)を同定した。
著者
村上 明日香
出版者
昭和大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

チタンインプラント埋入後の創傷治癒における酸化ストレスは,骨結合を妨げる重要な因子であり,これを抑制することがひつようである.チタンは表面処理により骨との親和性を向上させることができる一方で,酸化ストレスの抑制については検討されていない.本研究では放電陽極酸化によって表面処理したチタンの骨芽細胞に対する酸化ストレス抑制効果を検討した.放電陽極酸化チタンでは骨芽細胞の石灰化関連遺伝子の上昇が見られた.また,表面に析出した骨様石灰化物の物理的性質が向上した.放電陽極酸化チタン表面から発生する活性酸素が分解され,接着細胞に対して酸素を持続的に徐放することにより,酸化ストレスを抑制することが可能になった.放電陽極酸化処理チタンは,骨結合能と創傷治癒の促進により,チタンインプラントの表面処理として有効であると考えられる.
著者
谷口 勇一
出版者
大分大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、九州内の中学校ならびに高等学校の部活動顧問教師を対象に質問紙調査とインタビューを実施し、総合型地域スポーツクラブに対する各種意識の把握を試みた。得られた知見は以下のとおりである。1)部活動顧問教師の総合型地域スポーツクラブに対する認知度は31.0%に留まっていた、2)部活動と総合型地域スポーツクラブの連携協力関係については、80.4%が肯定的であることがわかった、3)総合型地域スポーツクラブとの連携協力関係に肯定する者の意識は「自分自身の負担軽減に対する期待感」が強いことがわかった。逆に、連携協力関係に否定的な者は「部活動の教育的意味が薄れてしまう」との意識が強いことがわかった。
著者
川田 学
出版者
香川大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

生後1歳~2歳代における役割交替模倣と自他認識の発達について,定型発達幼児と自閉症幼児を対象に検討した。研究は定型発達幼児を対象とした課題場面での横断的研究,自閉症幼児を対象とした課題場面および保育場面での参与観察研究で構成された。役割交替模倣を測定する課題としてサカナとタモ課題,自己鏡映像認知を測定する課題としてマーク課題,積極的教示行為を検討する課題として他者の課題解決困難場面提示課題を用意し,課題間の連関を検討した。その結果,定型発達幼児では,サカナとタモ課題の通過率は1歳半から2歳にかけて有意に増加した。また,サカナとタモ課題の通過は他の2課題を有意に相関していた。自閉症幼児においても定型発達幼児と類似した傾向が見られたが,他の2課題に対して自己鏡映像認知の成績がやや特異であった。総合して,役割交替模倣が自他認識の発達を調べる上での有益なマーカーとなりうることが示唆された。
著者
佐藤 源之 渡邉 学 横田 裕也 ANDREY Klokov ZHAO Weijun 園田 潤 高橋 一徳 MAHFOOZ Abdel-Motaleb Hafez Salem 城戸 隆 園田 潤 ZHAO Weijun
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2006

強い不均質性媒質中の埋設物検知のためのレーダ信号処理技術について研究を行った。これを利用して人道的地雷除去を目的とした地中レーダ装置ALISを開発し、カンボジアの実地雷原での実証試験において70個以上の地雷検知に成功した。本試験は本研究終了後も継続中である。更に次世代の小型レーダ技術としてバイスタティック型レーダによる埋設物検知を行った。またレーダポーラリメトリ技術をボアホールレーダ、GB-SAR、航空機・衛星搭載SARなどのレーダに対して、特に防災・減災への発展的応用を行った。
著者
尾崎 俊治 伏見 正則 青山 幹雄 土肥 正 岡村 寛之
出版者
南山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究プロジェクトでは,最終製品としてのソフトウェアシステムの品質を確保する目的で,ソフトウェアテストの妥当性検証およびソフトウェアの信頼性評価を行う手法に関する研究を行った.具体的には,(i)ソフトウェアテストにおけるランダムテストをより発展させた準ランダムソフトウェアテストあるいはランダムテストに基づいたより効率的なテストケース生成手法の確立,(ii)(準)ランダムテストに基づいたソフトウェア信頼性評価技術の精巧化を行った.
著者
瀧井 正人 内潟 安子
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

前思春期から思春期にかけて1型糖尿病を発症した女性患者は、後に神経性食欲不振症や神経性大食症のような重症の摂食障害を併発するリスクが高かった。摂食障害を併発すると血糖コントロールは著しく悪化し、糖尿病慢性合併症の早期の発症・進展につながる。さらに、1型糖尿病に併発した摂食障害の治療は特に困難であると言われており、成功したとしても概して多大なエネルギーが必要であり、改善までには長期間が必要なことが少なくない。ここで同定されたリスクの高い患者群に対しては、1型糖尿病発症早期から、摂食障害予防のための介入がなされることが必要である。
著者
谷口 善仁
出版者
慶應義塾大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

TILLING法による遺伝子変異個体の作製は、数千個体よりなるランダムミュータジェネシスした変異ライブラリーから、目的の遺伝子に変異が導入されている個体を選別するという手順を経る。小型脊椎動物で手軽に扱えるモデル動物として注目を集めているメダカやゼブラフィッシュでは、すでにこの手法により数百種類の遺伝子破壊体が作られている。現在は、数千個体すべてについて目的遺伝子を直接塩基配列決定ないし温度融解曲線を使用する方法で変異探索を行っているが、変異の頻度が低いために効率が極めて悪い。そのために、変異をキャプチャーできるMuトランスポゾンをビオチンタギングし、変異を濃縮する方法を試みた。Muトランスポザーゼが結合するDNA断片を合成し、その末端にビオチンを結合させた。不要部位を後に切断除去するために制限酵素部位を導入した変異型DNAは、大腸菌で発現させたMuトランスポザーゼと結合し、タンパク-DNA複合体を形成した。すでにTILLING法で作製し報告済みのp53変異体と野生型のメダカよりそれぞれ変異部位を含むDNA断片をPCR増幅し、熱変性、アニールによりヘテロデュプレクスを形成させてMuトランスポザーゼ-DNA複合体を反応させたところ、転移反応が観察された。DNAを回収し、塩基配列を決定したところ、目的の部位以外にも転移するなど、感度、特異性ともに十分満足のいく結果が得られなかった。そのため、Muトランスポザーゼによる転移反応から、ビオチン化したオリゴヌクレオチドをT4リガーゼによりアダプターライゲーションする方法に変更した。Muで確立した手法によりp53ヘテロデュプレクスからDNA断片を回収して塩基配列を決定したところ、変異を含む断片が効果的に沈降されていることが確認された。現在イルミナGAIIxを用いた大規模シーケンスにより、変異部位の単離同定を進めているところである。
著者
手嶋 紀雄
出版者
愛知工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

ヒトの呼気には,体内の代謝を反映した揮発性有機化合物(VOCs)が含まれているため,呼気分析は痛みを伴わない病態診断法として有用である。VOCsの内,アセトン・イソプレンは,脂肪の代謝に深く関係するため,有効なダイエット指標となる可能性が高い。本研究では,呼気アセトンの自動計測法を開発し,食事や運動による呼気アセトン濃度の変化をモニターすることに成功した。また,新規なイソプレンガスの計測法も開発した。
著者
高橋 美紀
出版者
昭和大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、薬物依存症の当事者自身によって運営と入所者へのケアが行なわれている、民間薬物依存症リハビリ施設ダルクにおける薬物依存症者の回復過程を明らかにして、後に続く薬物依存症者が回復過程を歩んでいくための道標となりうる、回復過程に関する仮説、および仮説モデルを、調査による裏付けのもとに得ることを目的として実施したものである。研究対象者は、3箇所のダルクで施設の代表者、もしくはそれに代わるスタッフから紹介を受けた、施設内でスタッフ研修生(無給)ないしはスタッフの立場で、何らかの役割を担っている薬物依存症者であり、研究対象は対象者らが辿ってきている回復過程そのものである。23名の研究対象者に研究者自身が継続的に実施した面接の記録を分析対象として、これをもとに個別の回復過程の再構成を試みた。再構成した23名の個別の回復過程をもとに、仮説を得るための質的・帰納的分析を重ねた。得られた仮説のうち、いくつかのネーミングを下記に挙げておく。(1)すべてを失ったときが回復の好機(2)回復の目的は自分自身のためという原則の徹底保持(3)薬物使用につながったような出来事や状況に処していく力の涵養他、20仮説は略す
著者
須部 宗生 梅本 孝 浅間 正通 山下 巌
出版者
静岡産業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

2ヵ年にわたる本研究の最終年度にあたる平成22年度においては、昨年度に行った海外小学校英語教育視察調査の結果を書籍にまとめ、その成果を広く世に問うことを目指した。書籍の刊行に関しては、須部が中国、梅本がタイ、淺間がアイスランド、山下がフィンランドを担当し、それぞれ各国の特性を活かした英語授業活動を具体的に詳述した。分担者の淺間は、編集責任者として各々の原稿の細部に至るまで目を配り、日本の小学校英語教員にとって有意義な提言となるべく配慮を施した。既にすべての原稿提出、校正作業も完了し、現在は出版社との最終調整の段階に至り出版を待つのみである。研究代表者の須部は、磐田市教育委員会からの要請に応え、本研究従事者らによる、リレー形式の、小学校英語教員を対象とした講演活動を企画中であり、平成23年夏における書籍刊行と共に、当活動を実施していく予定である。具体的には、須部が第一回目を、第二回目を淺間が、第三回目を梅本が、そして第四回目を山下が担当し、それぞれが視察調査を行った国から得たティーチングチップスを豊富に盛り込むことによって、小学校英語担当教員にとって即戦力となるような講演内容を心がけるつもりである。また分担者の山下は、静岡県西部英語教育研究会の招聘により、高校の英語教員を対象に『フィンランド縦型コンプリヘンシブスクールにおける英語教育事情』と題した講演を行った。さらに、愛知県大府市の依頼を受け十月に、小学生親子を対象とした自然体験教養講座『かんたん英語でウォークラリー』を実施し本研究の成果の一端を紹介した。今後も本研究を契機として様々な困難が予想される小学校英語活動の動向を注視し、さらなる提言を試みるために新たな研究に着手していきたい。
著者
日置 智紀
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

年齢が100万年程度、質量が太陽程度の恒星(Tタウリ型星)の周りにはガスやダストで形成されている原始惑星系円盤と呼ばれる構造があり、この円盤内の物質の一部は惑星を形成し、残りの多くは中心星へ降着している。また、質量放出現象としてアウトフローと呼ばれる双極流が円盤の垂直方向に吹き出している。これらの星周構造は、中心星の周りのダスト起源の熱放射を捉える多波長測光観測などの間接的手法によって盛んに研究されてきた。さらに、ハッブル宇宙望遠鏡や補償光学を搭載した地上大型望遠鏡の登場によって、高空間分解能による星周構造の直接撮像が可能になってきたが、その観測対象の多くは単独星である。本研究対象であるFS Tauは離角が約0.2秒角(30 AU)のTタウリ型連星系である。この連星は半径1400AUに広がった反射星雲に覆われているが、これまでの観測では周連星円盤は発見されていない。我々はすばる望遠鏡のCIAOを用いた観測を行い、さらにハッブル宇宙望遠鏡の可視光偏光観測で撮られたアーカイブデータと合わせて、この連星に付随する2つの周連星構造を検出した。1.周連星円盤:この円盤の半径は約4.5秒角(630AU)、軌道傾斜角は30-40°程度である。円盤の外側は、内側よりもフレアしている可能性がある。近赤外域では、この円盤の南東側が明るく、北西側が暗い。これは、周連星円盤内のダストの前方散乱が原因と予想できる。一方で、可視光では北西側が南東側よりも明るいことがわかった。これは、FS Tauから約2800AU離れた若い星(Haro6-5B)からの放射が原因である。我々はFS Tauの北西側の偏光データから、Haro6-5Bからの光とFS Tauからの光が「混合」している証拠を見つけた。2.アーム構造と空洞:近赤外線と可視光の両画像で、空洞を取り囲むように存在するアーム構造が見られた。この構造は、FS Tauから吹くアウトフローによって形成されたか、または周連星円盤内の物質密度むらによるものであろう。
著者
吉崎 真司
出版者
東京都市大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

我が国の海岸防災林は松枯れにより衰退しており、防風、防砂、防潮などの機能を十分果たすことが出来なくなっている。松枯れ後に再生すべき林相として広葉樹の海岸林を成立させることの可能性を検討した。愛知県では伊勢湾台風後に再生した広葉樹海岸林があり、静岡県遠州灘海岸林では松枯れ後に広葉樹林へと遷移する様子が観察されたが、遷移の過程は立地条件に左右されることがわかった。また、沿岸域に生育する広葉樹の塩分に対する耐性は樹種によって異なっていた。
著者
小川 充
出版者
串間市立市木小学校築島分校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

創立以来75年余りの分校の歴史は,築島の文化や伝統の歴史でそのものでもあり,島内の分校が無くなることは,限界集落へのスパイラルに入った地域にとっては,非常に悩ましい問題であった。そのため分校の担ってきていた文化や伝統,精神的なつながりをはじめとする多面的な役割を,いかに島民主体のシステムにスライドさせていくかがとても重要であった。今後,間違いなく訪れる離島における限界集落での生活に備え,精神的な結束及び集団所属の意識を高めていくための取組を計画的に実践できたことは,非常に意義深い研究となった。(1)全教育課程や日常生活の中で、故郷に対する誇りと自信を育て,生涯にわたって築島を愛する心を醸成するための取組(島民全員による分校環境整備,航空写真撮影・休校式・記念誌作成等)を行えたことで、児童の島への思いや自らの生き方を見つめ直すことができた。(2)島に住む児童及び地域の住民の方々の生きる力を高めるという観点から,分校のもつ地域の教育・文化の牽引役としての責務,多面的な役割(文化・伝統・精神的な結束力を図るための)を「築島を語る会(計9回開催)」など通じて再度見つめ直し,可能な限り島民の手で運営できるよう次年度以降のビジョンを作り上げた。(3)串間市立市木小学校築島分校の『創立75周年記念式典』及び『休校式(閉校式)』及び築島最大の行事『恵比須祭り』、『築島ここども祭り』等の大きな取組の核としながら,次年度を考慮し住民主体の運営をコンセプトに取り組み進めたことで,住民間の意識のつながりや協力体制の構築,新リーダーの育成にもつなげることができた。*「休校式」「恵比須祭り」「築島こども祭り」の取り組みでは、TV放送計5回、新聞の記事では計7回、地域と分校の連携の取り組みをメディアを通して県民に紹介された。
著者
久保田 尚之 LU Mong-ming CHAN Johnny C. L. 片岡 久美 WANG Bin ZHAO Bingke
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2009

20世紀前半の西部北太平洋域で発生した台風の位置情報について、これまで利用されていなかった紙媒体の気象資料を、アジア各国の気象局や図書館から収集、電子化し、データセットを作成した。この結果、20世紀を通した西部北太平洋域の台風数の変動を調べ、全体では長期トレンドは見られなかったものの、地域的には、赤道に近い台風はより北に発生する傾向が、フィリピン、台湾、沖縄周辺の台風数が減少する台風経路の変化傾向が明らかとなった。
著者
西川 尚男 竹谷 純一
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、研究代表者らが見出した極薄の絶縁層を「転写」により形成する手法をもとに、極めて低い入力電圧によって高い電界強度を達成し、高密度のキャリア注入を可能にする有機トランジスタを開発することを目的とした。特に、本手法を研究分担者らが開発した高移動度の有機単結晶トランジスタの技術と組み合わせることによって、極めて低消費電力かつ高移動度のフレキシブルな有機単結晶トランジスタを得ることを目指した。これまでの研究の結果として、以前は困難であった5nm程度の極薄絶縁膜を再現性よく構築するために、自己組織化単分子膜をコートする手法が有用であることを明らかにしたため、まず、極薄のアルミナ絶縁膜の作成手法を確立したことをあげる。次に、実際にルブレン有機単結晶を「貼り合わせる」独自の技術によって、低電圧デバイスとしては極めて高い2cm^2/Vs程度の移動度を実現し、低消費電力の有機単結晶トランジスタを開発した。さらに、プラスティック基板上にも同様の手法を用いて有機トランジスタを作製できることを示し、本研究の目標に到達することができた。加えて、極薄絶縁膜の利用によって、通常の絶縁膜では得られない高電界の印加が可能となったため、有機半導体分子あたり10%以上のキャリアドーピングが可能になったことにより、分子内の電子一電子反発による電界効果の異常を観測し、ルブレン有機単結晶表面が、電子物性研究の魅力的な舞台となっていることを示した。
著者
猿山 雅亮
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

異なる半導体を接合させたヘテロ接合では、各相間でキャリアが移動することにより、電子とホールの波動関数の空間的な位置を制御することができる。本研究では、高効率光触媒や太陽電池への応用に向け、光励起により空間的な電荷分離状態を形成すると考えられるCdS/CdTeタイプ-II型ヘテロ構造ナノ粒子の合成を行った。CdSナノ粒子のSアニオンを部分的にTeアニオンにアニオン交換させることでCdS相とCdTe相が異方的に相分離したヘテロダイマー型のナノ粒子を選択的に得ることに成功した。CdS相はウルツ鉱型、CdTe相は閃亜鉛鉱型の結晶構造を持ち、この違いが自発的な相分離を誘起したと考えられる。反応温度が高くなる、もしくはCdSナノ粒子のサイズが小さくなると、Te前駆体の反応性や比表面積の増大により、アニオン交換速度が大きくなった。原子分解能を持つSTEMによってCdS/CdTeナノ粒子の観察を行い、CdTe相がCdSに対してエピタキシャル成長している様子や、ヘテロ界面の詳細な構造(結合様式、極性など)を明らかにした。アニオン交換反応の経過を追跡したところ、CdS上のCdTeセグメントがCdS上の最も安定な面に一か所に集まることで、ヘテロダイマー構造が形成するメカニズムを示唆する結果が得られた。また、CdS/CdTeナノ粒子内での光誘起自由キャリアダイナミクスを明らかにするため、過渡吸収測定を行った。CdTe相のみを励起できる600nmのポンプ光を用いた過渡吸収スペクトルでは、CdSのバンドギャップエネルギーでの吸収のブリーチングが観測された。このことは、CdTe相からCdS相への電子移動を示すものである。今回の合成手法で得られるCdS/CdTeナノ粒子は、粒子内に一つしかヘテロ界面を持たないため、電子移動が一方向となり、太陽電池への応用が期待できる材料である。
著者
中島 賢治
出版者
佐世保工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、ラグビー競技の中で起こる接触プレイを工学的に解析し、その衝突力学モデルを構築することである。そのため、小型慣性センサを実際の選手に装着し、実践的なスキル(タックルとサイドステップ)について、運動特性を計測した。センサから得られる電気信号を運動解析に有用なデータへ加工するため、(1)姿勢回転行列の適用、(2)電気的ノイズ除去、(3)スパン誤差補正(ドリフト誤差修正)を施した。実験においては、本校のラグビー部員を対象として、計測・検証を繰り返した。科研費助成期間の研究で、ラグビー選手の実践的スキルにおける運動特性を数秒間計測することに成功した。衝撃力と運動軌跡の計測結果を実際の値(真値)と比較したところ、ほぼ5割の確率で計測が可能であった。
著者
野田 利弘 浅岡 顕 中野 正樹 中井 健太郎 澤田 義博 大塚 悟 小高 猛司 高稲 敏浩 山田 正太郎 白石 岳 竹内 秀克 河井 正 田代 むつみ 酒井 崇之 河村 精一 福武 毅芳 濁川 直寛 野中 俊宏
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2009-05-11

日本の重要な社会資本は,沖積平野や海上埋立人工地盤といった地震被害が懸念される軟弱地盤上に多く蓄積されている.本研究では,特に沿岸域に立地する社会基盤施設を対象に,長周期成分を含み継続時間が数分にも及ぶ海溝型巨大地震が発生した際の耐震性再評価と耐震強化技術の再検討を実施した.既往の被害予測手法は地震時安定性評価に主眼が置かれ,地震後の長期継続する地盤変状を予測することはできない.「地盤に何が起こるかを教えてくれる」本解析技術による評価を既往手法と並行して実施することで,予測精度の向上とともに,被害の見落としを防ぐ役割を果たすことを示した.
著者
中林 一樹 池田 浩敬 饗庭 伸 市古 太郎 澤田 雅浩 薬袋 奈美子 福留 邦博 米野 史健 石川 永子 ハイリエ センギュン
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

災害からの復興の仕方は、国や地域によって異なる。被災した地域の文化、社会経済状況、地域社会構造、法制度の特徴が反映されるからである。1999年マルマラ地震では、トルコの災害法の規定に基づき、震災復興の第1段階は、全壊した住宅と事業所を、郊外に新規開発した復興住宅団地に「移転復興」させることであった。この段階は、地震の直後から取り組まれ、2000~2004年に約43千戸の恒久住宅と約1000戸の復興個人事業所の建設・供給によって基本的に完了した。一方、被災市街地での現地復興については、安全性に配慮して、地盤条件に対応させて個別耐震基準の遵守とともに都市計画による建築階数規制がダウンゾーニングされ、建物の階数制限が強化された。被災した6~8階建の建物が、再建にあたっては2~4階建以下に制限された。それは郊外に移転復興する住宅と事業所の空間量を差し引いた被災市街地の再建空間計画であった。しかし、郊外に移転した事業所の営業はふるわず、被災市街地の中心商業地域では2階建の仮設店舗が再建され、賑わいを取り戻しだしたのが2003~2006年頃で、これが復興第2段階である。一方、これらの郊外に供給された復興住宅・事業所を獲得する権利は借家層にはないこともあって、全壊しなかった損傷程度の建物は修理して使い回されるようになっていった。本研究の成果では、上記のような復興過程に引き続き、2007-2009年を研究期間とし、第3段階の被災市街地の復興実態を明らかにした。空地が増えていた被災市街地では、商店街での現地再建が急速に進展しはじめた。主要な被災都市であるアダパザル市とデールメンデレ市の中心市街地を事例都市として、定期的な現地踏査による市街地の復興過程と街並み景観の変化をデータ化し、階高不揃いの街並み再建の実態を明らかにした。同時に、この時期にトルコの地方自治体制度が改定され、大都市自治体制度に移行し、被災市街地の復興から大都市圏整備計画としての都市開発に移行している現状を明らかにした。さらに、被災市街地での再建および新築建物の階高制限にもかかわらず、全員合意の区分所有制度は改定されず、被災建物の再建復興は、個人あるいは企業が、区分所有者の権利を買い集めることによって個人建物として再建が進んでいることを明らかにした。こうした都市復興の理解と同時に、10人の被災者への詳細なインタビュー調査を実施し、被災者の生活再建過程について都市部では復興への関わり方を通して、被災者の個々の復興過程の多様化の実態を明らかにした。