著者
児玉 康弘
出版者
広島大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13444441)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.1-13, 2000-03-31

歴史の教科書の記述には, 不自然な箇所が散見される。その最大の理由は, 新しい歴史解釈と古い歴史解釈が混在して叙述されているからである。世界史の教科書では, 特にイギリス近現代史の部分で, 新旧の解釈が無理に継ぎ合わされて論理的に矛盾をきたしている叙述が見られる。従来の「イギリス市民革命論」に対して, 「ジェントルマンの帝国支配論」が有力になりつつあるからである。両者は本来, 対立する歴史解釈であり, 前者をベースとする記述の中に, 後者の解釈の一部が添えられているため, 教科書記述に基づいた授業構成が困難になっている。そこで, 小論では, この問題に対応するために「解釈批判学習」の意義と必要性について述べたい。その際, 事例として「ウォルポールの辞任」を取り上げた新しい単元構成の在り方を示していく。
著者
矢作 明子 辻 慶太
出版者
日本図書館研究会
雑誌
図書館界 (ISSN:00409669)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.290-301, 2009-01-01

日本の公共図書館におけるフィルタリングソフトの導入状況と性能を調査した。まず公共図書館155館において,都道府県立は85.3%,市区町村立図書館は76.9%がソフトを導入していること,導入ソフトにはi-FILTERやInterSafeが多いことが示された。性能調査では上記2ソフトが稼働する端末で検索を行い,4,640件のWebページを調査した。結果,「学校裏サイト」といった新しい概念に対しブロック漏れが起きやすいこと,有害ページのブロック率はi-FILTERの方が高く,逆に無害ページの誤ブロック率はInter-Safeの方が低いことなどが示された。
著者
小野口 一則
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.90, no.8, pp.1998-2008, 2007-08-01

本論文では,雪や霧による視界不良時においても有効な移動体検出手法を提案する.降雪時や霧が濃い場合,視界は短時間で大きく変動する.また,吹雪など降雪量が多い場合には,各画素の輝度値がフレームごとに激しく変化するため,画素単位で輝度の変化を比較する手法では誤検出が多発する.これらの問題点を解決するため,画像を一定サイズの格子ブロックに分け,各ブロック内で蓄積フレーム数が異なる二つの輝度ヒストグラムを求め,その間の相関を算出することで移動体を検出する手法を提案する.雪が激しく降っている状況において実験を行った結果,本手法が視界不良時においても有効であることが確認できた.
著者
前野 紀一 成田 英器
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.18-31, 1979-10

日本南極地域観測隊か得た,みずほ基地の雪の密度のデータ数は,第11次,第12次および第13次のものを合計すると3635にのぼる.これらの測定結果を吟味,整理したものを使って「圧縮粘性係数」の深さ分布が求められた.みずほ基地の雪に限らず,一般に極地の雪の圧縮粘性係数は,季節的積雪,たとえば北海道の雪に比べて約100倍大きい.これは,極地における長期間の圧密過程において,氷粒子間の結合が極度に成長したためと解釈されるみずほ基地の雪において,密度の測定値は,深さ約30m〜40mの領域で,大きく振動し,かつ平均的傾向曲線からはずれた.圧縮粘性係数は,この深さ領域で鋭い極大を示した.これらの結果は,この層の雪が蓄積した時,年間蓄積量の少ない寒冷な時期が繰返しかつ持続して襲来したことを示唆する.その時期は,雪の年間蓄積量から約300年前と推定される.
著者
板尾 清
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

光ファイバと導波路の組立,しゅう動形磁気ディスクのトラッキング等の情報機器におけるしゅう動形位置決め機構のマイクロ化においては,一般に,摩擦力が精度低下の要因になる.特にマイクロ領域では,表面力である摩擦力が支配的になり,不感帯の増大やスティックスリップの発生により,位置決め精度はさらに低下する.しかしマイクロ領域の機械(マイクロメカジズム)では,センサの組み込みが難しく,また微小質量のため慣性力がほぼ0に等しい系を扱うことになる.このため,大きな摩擦力が働く柔軟体を,オープンループで位置決めする設計法の確立が必要となっている.本研究では,マイクロメカニズムの特徴である微小質量のしゅう動位置決め系として片持梁を対象にし,まず,固定端をステップ駆動した際に発生する不感帯とスヒックスリップの特性を明らかにした.この結果,スティックスリップの発生により,位置決め誤差やばらつきが,スティックスリップのタイミングに依存してしまうため,増大することがわかった.ついでこれに基づき,微小質量の地位決め系設計法の1つとして,スティックスリップが発生してもパ-プンループで位置決めできる設計法を確立した.この方法は,アクチュエータを位置決め系の固有周波数より高い周波数で振動させることで,微小質量の位置決めが可能であることを示している.これは,微小質量がスティックスリップを生じても,スリップ中の周期が位置決め系の固有周波数の約半分となるので,スリップ中に,アクチュエータを目標位置よりプラス側に移動することができ,微小質量は目標位置を超えないため,オープンループでの位置決めが可能となっている.さらに微小質量の典型例として光ファイバの位置決め系に適用し,使用可能であることを示した。
著者
森川 嘉一郎
出版者
早稲田大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

本年度は、前年度に都内の男子高等学校で実施した調査よりも統制された条件で、かつ男女にまたがる標本を用いることにより、個室に反映された趣味の実態や因子をより精密に測定することを目標とした。前年度の調査ならびにそれに先立つ予備調査から得られた諸々の尺度に基づき、岡山の大学(国立・共学)にて、講師の協力を得て、学生に授業の一環として調査票を宿題の形で配布・集票した。調査内容は予備調査で有効と判断された諸項目の中から本人や両親の学歴、所得階層、職域などのフェイスシートを構成する質問7項目、並びに個室の和/洋、広さ、生活時間、ポスターやヌイグルミなど装飾品の種類別数量、電話やパソコンなどそこで使用されている電化製品の品目や使用時間、来客の頻度、清掃の頻度、物品の整頓状態などの個室の様態や使用状況に関わる質問27項目を抽出した。さらに個室の写真に代わる資料として、個室に飾られているポスターに描かれた人物・キャラクターなどの固有名・国名を書かせる記述回答式の質問を2項目と、幾つかの尺度に沿って順序づけられた典型的な個室の状態の図版と自分の個室を見比べて測定させる質問を4項目加え、計40項目で質問紙を構成した。結果において特徴的だったのは、個室におけるホビーの反映とテイストの反映とで男女の平均の相対的関係が逆になっており、男性はホビーを主体として自らの趣味を部屋に反映させるのに対し、女性はむしろ、テイストを主体とする傾向にあったという点である。これは自室の中の立体的装飾品の点数にも表れており、女性の方が男性より多い平均値が出ている。またこうした装飾品や部屋に反映されたホビーのモチーフについての記述解答をみてみると、マンガ・アニメ・ゲームなどの国内産キャラクターに関連する趣味では男性の方が女性より記述数が多く出ているのに対し、海外のキャラクターやスターの記述では逆に女性の方が多い。
著者
市川 浩一郎
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.56, no.652, pp.17-22, 1950-05-25
被引用文献数
2

The direct use of the terms, Norian, Carnian, etc., in the extra-Alpine region is not adequate, since the fossil content is fairly different from that in the Alpine province., Another system of nomenclature is herein proposed., In the Triassic of Japan eight ages (chronological unit) distibuted in three epochs are distinguished., Epochs are called Eo-, Meso-, and Neo-Triassic and new names for the ages are proposed., Their names, as well as the fossil contents, are presented in the list on-p.,22., Saragian and Sakawan ages in the Neo-Triassic epoch are tentatively subdiveded into two and three Sub-ages, repectively., Species marked with (+) range into the later ages, while those with (-) range from the earlier age, and the occurrence of species marked with is very rare., The time range of the remaining species in confined to one age.,
著者
秋山 学
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

3年間に及んだ本科研では,狭義の「西洋古典学」に関わる当地の現況把握のみならず,様々な伝承形態のうちに現在なお中欧諸国に息づいているギリシア・ローマあるいはビザンツ,さらにはルネサンス期文化の諸相を捉えることに努めてきたが,その成果は同題目による研究成果報告書(A4版124頁)のうちに集約されている.同書は全5部より成り,各章題は1.中欧・ハンガリー地域研究,2.ギリシア・カトリック教会研究,3.教父学,4.西洋古典学,5.仏教・比較思想研究となっている.ここでは特に「ギリシア・カトリック教会」が維持してきた伝承を強調しておきたい.すなわち,中東欧域に広く展開する同組織は,ビザンツ神学・典礼,および東方教会法を護持しながらヴァティカンと一致し,ラテン語や西方教会法,教皇史などに関する知的水準を維持し,古代中世東西地中海文化の結節点として現在なお機能している.その中でもハンガリーのものは,同地の言語がアジア系でもあることから,今後わが国の西洋古典教育に対しても大きな裨益をなすものであろう.研究代表者はこれまで主としてギリシア教父の視点を活かしながら,西洋古典を賦活化するために「予型論」の視座を用い,これを古典解釈の基軸とする試みを行ってきた.今回の科研で,その視点を現代に継承するものとして「ギリシア・カトリック教会」を位置づけることが叶い,昨今衰退の甚だしい古典古代文化教育に対しても新しい視点を提供することができるのではないかと期待している.この他,特に15世紀マーチャーシュ王治下のハンガリーに開花した高度な人文主義的文化は「ヴァティカンに次ぐ」とまで評された絢爛たる蔵書に集約されるものであり.往時の文化水準は,ほぼ旧ハンガリー王国の故地とも重なる現中欧諸国にあって,なお衰えることなく継承されている.未知であった中欧は,今後の欧州文化研究にとって不可欠な一地域となるであろう.
著者
塩尻 かおり
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本年度は長期に渡る米国滞在をし、様々な野外操作実験を実施し成果を出しただけでなく、所属するニューヨーク州立大学でのセミナー発表や研究者達と議論を交わし研究を進展させてきた。短期の帰国時には効率的に化学分析を行い結果をだし、また学会発表・アウトリーチ活動も行ってきている。研究成果においては、主に3つの成果を以下に記述する。1)植物間コミュニケーションにおける匂い物質が傷害後すぐにでるのではないことを野外実験によって明らかにしたことは、今後、どの揮発性成分が刺激物質なのかを明らかにする重要な手がかりとなり、来年度はその結果を基にした室内・野外実験、さらに植物生理学者と共同で研究を進める予定である。また、2)セージブラッシが自然界で、クローン繁殖していることを明らかにし、さらに、遺伝的分析と匂い化学分析を照らし合わせ、クローン間で匂いがほぼ同じである事実から、クローン間でより植物間コミュニケーションが行われていることを示唆したことは、植物間コミュニケーションの進化を考察するうえで重要となるであろう。3)植物コミュニケーションの研究の方法において、匂いをトラップしそれを移し変える簡易方法をあみ出した。具体的にはプラスチック袋を被せ、匂いをトラップし、それをチューブで吸出し、アッセイ用の袋に移し変えるといったものである。野外においてこの方法をもちいてアッセイをおこない、移し変えた匂いを受容した枝が誘導反応を起こすこと(コミュニケーションの現象)を実証した。これはこれからの植物コミュニケーションの研究において手軽さ、安価さの面から注目を浴びると考えられる。
著者
井出 明
出版者
情報処理学会
雑誌
研究報告 電子化知的財産・社会基盤(EIP) (ISSN:21862583)
巻号頁・発行日
vol.2011, no.8, pp.1-7, 2011-02-03

首都大学東京システムデザイン学部インダストリアルアートコースは、このたび「教員・学生が教育研究の一環で制作した映像等を、動画サイト等に公開する場合は、事前に内容をコース長に申請し、許可を得る」という内規を作り、学生と教員に義務づけることとなった。この規制は、いわゆる"首都大YouTube事件"の余波であるが、当該義務づけは、"表現の自由"に対する根本的制約になりかねないという危険性を有している。本稿では、当該事件の経緯とその後の大学の対応を社会情報学的見地から検証し、その妥当性について再検討を試みる。The division of industrial art in the department of system design at Tokyo metropolitan university imposed a new rule on professors and students. The rule states, "When professors and students want to upload works created through research and education to online video sharing websites, it is necessary for them to explain the contents and ask for the permission of the course chief before releasing the works. " This regulation derives from "the YouTube affair of Tokyo metropolitan University. " However, it has a potential to become an essential threat to the"freedom of expression". This paper will follow the sequence of event of this affair and the countermeasures of the university, and try to check validity in terms of social informatics.
著者
小尾 章子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.99-113, 2005-06-30

This paper is an examination of the process through which the mushiyoke rite, performed by the Nenbutsu-ko folk-religious group, has been historically transmitted through changes. In particular, its primary goal is a clarification of historical continuity through transformation, as evidenced in the repeated recuperation of traditional rites in the face of modernity's onslaught, including mercury poisoning (the socalled "Minamata disease"). The field data in this paper come from the village of Sentoji, Yasuda-machi, located in the Kita-Kanbara region of Niigata Prefecture. Drawing on my fieldwork in the village, I will demonstrate the process in which a new jizo carved out of the stone from the shore of Minamata (Kumamoto Pref.) by the patients becomes incorporated into the rite of propitiation conducted by the Nenbutsu-ko religious group. The process demonstrates two points. First, in Sentoji Village, where not only the distinction between the patients and non-patients, but also that between the plaintiffs and non-plaintiffs of the Minamata suit, had separated the population into various groups, the act of constructing the jizo was considered part of the official activities of the village as a whole. Second, the mushijizo, abandoned as a result of the eradication of the Tsutsugamushi disease, has been restored through transformation by the installation of a new jizo from Minamata. The social changes triggered by the modern intervention have been discussed in terms of the "waning [or vanishing] of tradition". The idea that equates the organic whole with the past has been the most dominant mode of discourse in both anthropology and Japanese folklore studies. However, it has proved to be insufficient to understand the local reality in which the people of Sentoji connected their experience of Minamata disease with the traditional mushiyoke rite. In order to emphasize the dynamic aspect of these historical changes, I propose to understand the tradition, borrowing a term from James Clifford, as "authentically remade," which is the concept that highlights the idea of change without letting go of that continuity. The fact that the local people connected the experience of Minamata disease with the traditional rite of mushiyoke is an indication that they have tried to overcome the political division of the village with the help of local tradition-namely, the antagonism produced by the Minamata disease itself. I examine ethnographically how local people have coped with the contradictory nature of modernity: while modernity contributed to the eradication of the Tsutsugamushi disease, it also introduced a new disease-the Minamata disease-to the local community. As discussed above, the transmission of tradition through the dark side of modernity, a seemingly contradictory historical process, has not been explicitly discussed in the previous studies on Minamata disease, which were conducted mostly by sociologists. Its secondary goal is a somewhat theoretical one: namely, the reopening of the field site discursively constructed as "Sentoji, Yasuda-machi," by social-science studies on the Minamata disease, viewing it as an ongoing historical process whose future has yet to be determined.
著者
神代 英昭
出版者
宇都宮大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では,(1)フードシステムの変貌メカニズムの解明(特に2000年以降の食料供給構造の国際化を重点的に),(2)地域農業再編と川上(農業部門)主導型のフードシステム発展の可能性の検討(特に生産・加工・販売を一体的に行う「六次産業」的活動を行う事例研究を重点的に),の2点を中心に研究を進め,「地域農業再編と川上主導型フードシステム発展の可能性」について検討した.特に,こんにゃく,砂糖,大豆などの地域特産物を素材として研究を進めた.
著者
西岡 俊久 小林 豊 Epstein S. J.
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
日本機械学會論文集. A編 (ISSN:03875008)
巻号頁・発行日
vol.59, no.561, pp.1319-1326, 1993-05-25
被引用文献数
2

Finite element simulation was carried out for inhomogeneous elastic-plastic fracture specimens, which consist of A533B steel and HT80 steel. These two materials have considerably different yield stresses, although their elastic properties are exactly the same. The nonlinear fracture parameter, T^* integral, was extended for inhomogeneous multilayer materials. The T^* integral for inhomogeneous materials demonstrates excellent path independence, even in the stages of large plastic deformations around the crack tip and the material interface. Numerically generated moire fringe patterns are in good agreement with experimentally recorded patterns. The shapes of plastic zones appearing in the specimens reveal large inhomogeneity effects.
著者
山岸 明子
出版者
順天堂大学
雑誌
医療看護研究 (ISSN:13498630)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.130-135, 2006-03

本稿では,高等養護学校でおこった2人の少年の思いがけない変化を描いた山田洋次監督の映画「学校II」をとりあげ,何が2人の少年を変えたのか,そこに教師の働きかけ・教育はどう関与していたのかを教育心理学の観点から分析し,それに基づいて大人は子供にどのようにかかわったらいいのかについての考察を行った。教師の熱心な働きかけによっても変わらなかった2人の少年が立ち直った要因として,1)教師ではなく仲間からの思いがけない働きかけ 2)少年たちの気持を理解しようとし,共感的にかかわる教師の対応 3)自分にも何かができるということの経験,4)教師による学習や自己統制への指導,が抽出された。以上の分析に基づき,子どもの発達的変化を促すものとして,大人との暖かく支持的な関係,親密な仲間や様々な他者との交流(子どもが他者をケアするような関係も含めて)が重要であり,そこで受容感や自分が有効性をもち必要とされている存在なのだという自己効力感を経験することが子どもを変えることが指摘され,更に子どもの能動性・自発性にもとづく教育だけでなく,時には大人が主導的にやらせて子どもに基本的な力をもたせて,自発的にやろうとした時にできるように準備を整えておくことの必要性が論じられた。
著者
上田 学
出版者
大阪教育大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

車いすは福祉機器であるため,パンク修理でさえ自転車店では扱ってくれない。本研究では,中・高生のボランティア活動による車いすの定期点検に注目した。第1段階として,中学生が障害者施設を訪問し,車いすの点検整備を試行し,社会工学的見地から,問題点や改善点などの調査を行い,継続的な点検整備ボランティア活動への基礎資料を収集することを目的とした。平成20年2月10日,大阪市更生療育センターに通う中途障害者の車いす整備を,中学生のボランティア活動として実施した。センターにお願いして車いす16台の不具合の事前調査を実施した後,中学生24名(知的障害児2名を含む)と指導者3名により整備を行った。整備内容は,汚れ落としと虫ゴム交換(16台全て),ネジの増し締め(5台,1台ボルト破損交換),きしみ止め(3台)であった。その後,実施したアンケートでは,障害者は感謝していたが,中学生からの質問や問いかけ,アンケートの質問に対しては,多くを語ろうとしない人が多かった。センター職員の方の話しによると,まだ中途障害になったショックから立ち直っていない方が多いこと,言語障害が残っていること,利き手が不自由で文字を書くことに対して億劫になっているとの理由からだそうだ。それに対し,障害者の方々との短いやりとりにも関わらず,中学生はボランティアの意義を確かな手応えとして感じていた。特に障害児がボランティア活動の喜びを感じていたことは,非常に良かった。本ボランティア活動に対しては,センターの職員の方から,日頃出来ていないメンテナンスが出来て非常に喜んでもらえ,次年度からも継続実施の要請があった。ただ次年度からは,事前の訪問を増やし,中途障害者であるお年寄りとのコミュニケーション不足を解消することが,社会工学的見地からも重要であることが分かった。
著者
山岸 みどり 山岸 俊男 結城 雅樹 山岸 俊男 大沼 進 山岸 みどり
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究の目的は、まず第1に、インターネットを通した国際共同実験システムを構築し、そして第2に、そのシステムを用いた国際比較実験を実施する中で、現在予想される困難への対処法を関発すると同時に、予め予想困難な新たな問題の所在を明らかにすることにある。この目的を達成するために、平成11年度には、実験システムの基本プラットフォームの作成に向けた作業が進められ、基本プラットフォームの原型版が作成された。平成12年度には、この基本プラットフォーム上で実行する国際比較社会実験の具体的計画を進め、いくつかの実験が試験的に実施された。まず、時差の少ない日本とオーストラリア間で最初の実験が実施され、インターネットを通しての同時参加型実験の実施に伴う多くの困難な問題の存在が明らかにされた。最も困難な問題は、インターネットを通したコミュニケーションの不安定性に関する問題であり、瞬時の反応を必要とする同時参加型実験の実施に際しては様々な工夫が必要となることが明らかとなった。今回の実験は瞬時の反応を必要としないため、実験はそのまま実施されたが、コミュニケーションの安定性を増すためのいくつかのプログラミング上の工夫・改良が進められた。またオーストラリア側の研究グループがプログラミングに関するサポートを十分に有していないためにいくつかの問題が生じたが、日本側のグループが現地に出向くことで問題は解決された。今後国際共同実験システムを拡張するに際して、現地でのプログラミングサポートの体制を作っておく必要があることが明らかとなった。この点は今後の課題である。平成13年度には、アメリカのコーネル大学との間で、瞬時の反応を必要とする共同参加型の実験が実施され、複数の研究室を結ぶ国際実験の完全実施が実現した。
著者
野津 哲子
出版者
島根県立大学短期大学部
雑誌
島根女子短期大学紀要 (ISSN:02889226)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.21-31, 1984-03-31

本学学生262名を対象とする衣服に関する実態調査を行った。その結果をまとめると次のようである。1)本学学生の被服内容の主なものは,ブラウス,Tシャツ,スカートで1人当り平均所持量5枚以上を占めている。次いでワンピース,ズボン類,ブレザーが主なものである。従って学生は日常着としてブラウスとスカート,またはズボン類などのツーピース形式の軽快な服装をしていることが推察できた。1人当りの最高所持量の数値の高い服種は,夏物,冬合物ともブラウス(夏物15枚,冬合物22枚),Tシャツ(夏物21枚,冬合物12枚),スカート(夏物15枚,冬合物25枚)で最低所持量は夏物のブラウス,Tシャツが各々1枚,他の服種は夏物,冬合物とも0枚であった。従って最高と最低の開差が非常に大きかった。2)調製経路を全体的にみると既製の利用が最も多く94.0%を占め,次いで自家製5.1%,注文0.9%の順であった。学生の衣生活における既製服の利用度は高く,それに依存する割合が大きくなっていることが把握できた。3)購入場所は百貨店が高率を占め39%,次いで洋品店32%,専門店29%の順であった。各服種の用途によって購入場所が区別されており,日常着は百貨店で,外出着やフォーマルウェアは専門店で購入されていることがわかった。4)所持服全体における柄の中では無地が最も多く用いられ約62%を占めている。用途別にみると外出着,フォーマルウェアとして着用される服種は,無地の占める割合が大きく,日常着として着用される服種は着用嗜好が多く入るため柄物の占める割合が高くなっている。今回の調査は短大生という,ごく限られた年齢層であっただけに他の年齢層との比較ができなかった。しかし専攻別,学年別の違いなど興味ある傾向を知ることができた。学生の既製服購入態度は比較的合理性に富み,常識的に選別していると思われた。反面各服種とも購入時の経済的意識が極めて低い点もうかがえた。これは経済面で親に依存していることが大きな要因であろうと思われる。被服教育担当者としては,以上の実態を考慮し広い分野における被服教育ことに将来の衣生活設計にあわせた,衣生活の立案実行,基礎技術の必要性など実態を通して認識することができた。本研究にあたり,調査にご協力いただいた本学学生に,あつくお礼申し上げます。