著者
鶴巻 道二 桜本 勇治
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
日本地下水学会会誌 (ISSN:00290602)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.1-16, 1985-02-28 (Released:2012-12-11)
参考文献数
51
被引用文献数
5 3

The average abundance of fluorine in the earth's crust is rather plentiful than that of chlorine, but the average concentration of fluoride in natural water is very low as compared with chloride. Fluoride is well known to produce strong teeth mottled in children raised where the fluoride concentration of water supply is above the recommended limit. In Japan, the limited value for drinking water is settled for 0.8 mg/i. In other respects, the concentration of fluoride more than 2 mg/kg is adopted as one of the criterion for mineral water which discriminate between normal water and abnormal water. In this paper, five case studies, all from Kinki District, have been chosen to discuss how the high fluoride groundwater is formed.In the case of Rokko granitic area, south-eastern part of Hyogo Prefecture, the possible origin of fluoride in water is due to the presence of high fluorine biotite in the rocks. The Paleozoic sandstone and shale in the northern part of Osaka Prefecture, Hokusetsu area, frequently contain high fluorine through contact metamorphism. The wells drilled in these rocks yield high fluoride water. As for these cases, high fluoride water often accompanies with high pH. Some leaching experiments using granitic rocks result in a similar relation between fluoride concentration and pH. The fluoride ion can be bounded to mineral in place of hydroxyl ion, so that with increasing pH it can be displaced from this site by hydroxyl ion in solution.A few cases of high fluoride stratum waters are reported in this area. It is not clear that the waters are caused by the geological structure which permits the upward flow of groundwater in a basement rock, or by the presence of fluorine-bearing-minerals in the stratum. More detailed researches are required in the case of stratum water.
著者
溝口 優司 中橋 孝博 安達 登 近藤 恵 米田 穣 松浦 秀治 馬場 悠男 篠田 謙一 諏訪 元 馬場 悠男 篠田 謙一 海部 陽介 河野 礼子 諏訪 元
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2005

旧石器時代から縄文~弥生移行期まで、日本列島住民の身体的特徴がいかに変化したか、という問題を形態とDNAデータに基づいて再検討し、日本人形成過程の新シナリオを構築しようと試みた。結果、北海道縄文時代人の北東アジア由来の可能性や、縄文時代人の祖先探索には広くオーストラリアまでも調査すべきこと、また、港川人と縄文時代人の系譜的連続性見直しの必要性などが指摘された。シナリオ再構築への新たな1歩である。
著者
耳塚 佳代
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.29-45, 2020-07-01 (Released:2020-08-27)
参考文献数
60

2016年のアメリカ大統領選を機に,「フェイクニュース」の拡散が社会問題化した。オンラインの有害な情報に対する懸念が高まり,メディアリテラシー教育にも変化が求められている。本稿は,「フェイクニュース」問題をめぐる国際的議論の方向性と海外におけるメディアリテラシーの新たな取り組みを精査し,日本の現状と課題を考察する。グローバルな議論においては,「フェイクニュース」現象が政治利用されていることから,前提として,この用語を使わずに情報区分を整理した上での偽情報・誤情報対策が主流となっている。一方,日本では依然として「フェイクニュース」がさまざまな情報を含む形で使用されている現状がある。また日本のメディアリテラシー教育は,新聞やテレビなど主にマスメディアが発信するメッセージを批判的に読み解くというアプローチが長く主流であった。しかし,党派的分断が進み,メディアに対する信頼が低下する社会においては,従来のアプローチが過度なメディア・既存体制不信と結びつき,自分の信念に合致する偏った情報のみを信じる素地にもなりかねない。こうした点を踏まえた上で,一定の効果が証明されている海外の取り組みを参考にしながら,日本のメディア環境・社会背景を考慮した「フェイクニュース」時代のメディアリテラシー教育について考えていくことが重要である。
著者
田中 愛子 伊藤 賀敏 鶴岡 歩 波多野 麻衣 吉永 雄一 重光 胤明 澤野 宏隆 一柳 裕司 西野 正人 林 靖之 甲斐 達朗
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.88-92, 2013-01-15 (Released:2014-09-12)
参考文献数
9

近年,心臓震盪は子どもが突然死する原因の1つとして徐々に認識されてきた.輿水らの報告では,心臓震盪は胸郭のコンプライアンスが大きい若年者に多く,Maronらの報告や国内例ともに18歳以下に多くみられる.当施設では最近3年間で3例の心臓震盪を経験した.症例1:41歳,男性.日本拳法練習中に胸部打撲を受け,心肺停止となった.初期波形は心室細動(ventricular fibrillation;VF)であり,電気的除細動を含む蘇生処置を施行された.心肺停止17分後に心拍再開し,当施設に救急搬送された.搬送後も意識障害が遷延したため,脳低温療法を施行し,社会復帰を果たした.症例2:18歳,男性.フットサルの練習中,ボールを前胸部でトラップした際に倒れ,心肺停止となった.初期波形はVFであり,電気的除細動を含む蘇生処置された.心肺停止6分後に心拍再開し,社会復帰した.症例3:27歳,男性.柔道の試合中,相手ともつれ合い倒れて,心肺停止となった.初期波形はVFであり,電気的除細動を含む蘇生処置にて,心肺停止8分後に心拍再開し,社会復帰した.院外心肺停止のうち,心室細動に対しては,早期の電気的除細動が良好な神経学的転帰と関連しているといわれている.上記3症例からも,特にスポーツを行う場には自動体外式除細動器(automated external defibrillator;AED)の普及が急務と考えられる.
著者
竹野 学
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.31-48, 2013-02-21

本稿は, 1918年から始まるシベリア出兵の最中の1920年春に発生した尼港事件への対抗措置として, 同年から1925年まで日本軍によって行われた北樺太(北サハリン)保障占領について, その日本領土化を期待して同地に移住した日本人移住者(居留民)に焦点を当てて, 日本軍政下の北樺太社会の動向を分析したものである。 保障占領開始後に同地へ到来した日本人は, 主に商工業者から構成されており, 近代日本における対外膨張の過程で各地においてみられた「一旗組」のパターンと軌を一にしていた。しかし同地での営業には限られた商機しか存在せず, 交通インフラの未整備や中国人商人の台頭なども重なり, 居留民は同地から撤退を始め, 最終的には1925年1月の日ソ基本条約締結によって総員の北樺太引揚げを余儀なくされる。 このような北樺太の経験は, 近代日本における対外膨張の過程においては例外的な逸脱事例であることを指摘した。
著者
古旗 崚一 所 史隆 根本 隆夫 加納 光樹
出版者
アクオス研究所
雑誌
水生動物 (ISSN:24348643)
巻号頁・発行日
vol.2023, pp.AA2023-19, 2023-09-03 (Released:2023-09-03)

わが国の内水面漁業では大型定置網(張網)の内部での外来種チャネルキャットフィッシュによる小型魚類・エビ類の食害は深刻な問題として認識されている。張網への本種の侵入を防止するグリッドの取り付けが魚類・エビ類に及ぼす影響を把握するため、2015年10月から2017年9月にかけて霞ヶ浦(西浦)の沿岸帯の張網内においてグリッド有りと無しの袋網を用いた採集調査を実施した。調査期間中に採集されたチャネルキャットフィッシュは計926個体(体長3.8–69.0 cm)であった。本種の体長10 cm未満の個体はグリッド有りと無しの両方で多く、また、体長20 cmよりも大きな個体はグリッド無しのみで多く採集された。水産有用種を含む多くの小型魚類やエビ類はグリッド無しよりも有りで多く採集されたが、ギンブナなどの大型魚類を含む一部の水産有用種はグリッド無しの方が多く採集された。したがって、本研究のグリッドはチャネルキャットフィッシュの大型個体の侵入防止には有効であるものの、漁獲対象となる他魚種の大きさに応じて使い分けることが望まれる。
著者
山下 政司 相川 武司 北間 正崇
出版者
公益社団法人 日本生体医工学会
雑誌
生体医工学 (ISSN:1347443X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.84-90, 2017-04-10 (Released:2017-05-23)
参考文献数
21

During hemodialysis, blood pressure decreases to a state of hypotension in some patients, and temporary measures to increase blood pressure are given. Typically, fluid replacement, medication, and passive leg raising are used. As each strategy has pros and cons, we attempted to find simple and fast-acting measures. Fifteen healthy men participated in this study. Continuous blood pressure, electrocardiograms, stroke volume, and plethysmograms were obtained at various time intervals. The protocol consisted of 15 min of acclimation in a supine position, resting for 5 min, performance of one of the methods to increase blood pressure for 5 or 15 min, and then resting for 1 min. This protocol was performed repeatedly for different methods in random order. The following methods were selected:passive one-leg-bending exercise (5 min), using a leg massage machine (15 min), applying medical stocking (15 min), and talking (5 min). Systolic blood pressure increased significantly only for talking. Diastolic blood pressure also tended to increase for talking, although not significantly. Further, heart rate increased significantly for talking only. Heart rate increased temporarily for passive one-leg-bending exercises for 5 min. Stroke volume tended to decrease for all the methods but not for control. Total peripheral resistance, which was calculated from blood pressure, stroke volume and HR, increased significantly for using a massage machine at the beginning of massage. Pulse wave amplitude tended to decrease for talking. Overall, talking increased heart rate and consequently increased systolic blood pressure, although none of the methods increased stroke volume. These results identified talking as a feasible and fast-acting method to manage hypotension during dialysis.
著者
小谷 俊博
出版者
独立行政法人 国立高等専門学校機構 木更津工業高等専門学校
雑誌
木更津工業高等専門学校紀要 (ISSN:21889201)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.11-16, 2018 (Released:2018-06-11)
参考文献数
4

It has been pointed out that overdiagnosis of autism and the revision to Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders caused a rapid increase in the population of people with developmentally disabilities. In this paper, I explore how we should cope with this problem.
著者
鳥養 祐二 田内 広 趙 慶利 庄司 美樹
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

トリチウム処理水の海洋放出処分における、安全確認と安心のために、トリチウム水を用いてヒト細胞の培養を行い、その影響を調べた。その結果、①海洋放出するトリチウム処理水濃度と比較して、非常に高濃度なトリチウム環境下でしか細胞死は起きないこと、②モンテカルロ法により、細胞核にトリチウムのβ線のエネルギーを付与するためには、トリチウムは細胞核内に存在する必要があること、を明らかにした。また、③魚の自由水に含まれるトリチウムの濃度を迅速に測定できる手法の開発を行い、トリチウム処理水の海洋放出処分時の迅速な安全確認が行えるようにした。本研究は、トリチウム処理水の処分に大きく貢献する研究成果である。
著者
熊谷 淳 足立 厚子 永濱 陽 山田 はるひ 増田 泰之 北村 弘子
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.479-484, 2023 (Released:2023-07-15)
参考文献数
13

20代,女性.下部消化管感染症に対し,抗生剤点滴に加え点滴用複合ビタミン剤を投与したところ,アナフィラキシーを発症した.原因精査のため当科紹介.点滴用複合ビタミン剤1%皮内テストが陽性となり,成分別検査ではビタミンB1誘導体のリン酸チアミンジスルフィドのプリックテストが陽性.点滴用複合ビタミン剤中のリン酸チアミンジスルフィドによるアナフィラキシーと診断した.既報告ではビタミンB1誘導体間の交差反応はないとされていたが,自験例ではフルスルチアミン塩酸塩で陽性を示し,交差反応が示唆された.点滴用複合ビタミン製剤は日常臨床で使用されており,発症頻度は少ないがアナフィラキシーに至る可能性があり注意が必要である.
著者
寺井 洋平
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.5-13, 2023 (Released:2023-02-09)
参考文献数
30

この総説では,全ゲノム情報から見えてきたニホンオオカミ(Canis lupus hodophilax,Temminck 1839)と他のハイイロオオカミ(C. lupus)(イヌを含む)の関係について紹介する.ニホンオオカミはかつてアジアに生息していたハイイロオオカミの1系統であり,約100年前まで日本列島南部(本州,四国,九州)に分布していたが,その後絶滅した.ニホンオオカミの系統が東アジアで他のハイイロオオカミから分岐したのは17,000年から4万年前程度だと推定される.ニホンオオカミはイヌに最も近縁なハイイロオオカミの系統であり,またニホンオオカミの祖先が東ユーラシアのイヌの祖先と交雑したと推定されている.そのため,現存の東ユーラシアの在来イヌのゲノムにはニホンオオカミの祖先のゲノムが含まれている.江戸時代にはイヌとニホンオオカミの交雑個体がいたことも示され,日本列島ではイヌとニホンオオカミは関係が深かったのかもしれない.ニホンオオカミについては,いつ日本列島に渡来したか,いつ小型化したかなどまだまだ謎は多いが,今後の日本列島出土のイヌ/オオカミの古資料を用いた古代ゲノム情報がさらにニホンオオカミの姿を明らかにすると期待している.
著者
荻原 典子 水戸 優子 金 壽子
出版者
日本看護技術学会
雑誌
日本看護技術学会誌 (ISSN:13495429)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.83-91, 2020 (Released:2020-12-20)
参考文献数
41

本研究は, 日本の看護における「全人的ケア」とは何か, その概念を明らかにすることを目的とし, Rodgers (2000) による概念分析法を用いて30文献を対象に分析した. 結果, 属性として【全体を捉えて関わる】【存在の脅かしをやわらげる・癒す】【寄り添う】【人間らしさやその人らしさを尊重する】の4つのカテゴリー, 先行要件として患者・家族, 看護師・医療者, 社会的の3つの様相において, 脅かされ, 求め, 未充足, 質, 変化や多様化に関する5つのカテゴリーが抽出された. 帰結として解放, 回復, 家族の成長, 医療者の成長に関する4つのカテゴリーが抽出された. これらから, 『「全人的ケア」は, その人が存在を脅かされ, 人間らしさやその人らしさの尊重を求めたときに, その人の全体を捉えて関わることを基盤とし, その人の存在の脅かしをやわらげる・癒す, 寄り添うことを通じて, 人間らしさやその人らしさを尊重することである. その結果, 人間らしさやその人らしさが回復し, さらには関係する者の成長をもたらすものである』と定義された.