著者
上原 浩一 伊藤 元己 渡辺 洋一
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究はアザミ属植物について次世代型DNAシークエンサーを用いた遺伝解析と形態形質の計測をおこない、現在適用されている分類の妥当性を検討した。アザミ属の系統は、葉緑体ゲノムのシークエンス等を進めた結果、従来の節・亜節の区分とは一致せず、日本産のアザミ属は北海道の系統と、本州以南に分布する系統の2つに大別されることが示された。また、近縁種間で、形態形質を比較解析した結果、種の識別ができない例が見られたほか、カガノアザミ亜節の2倍体種についてRAD-seq法による解析では、集団内の遺伝的変異が大きく、種間変異には有意性が認められなかった。この結果からアザミ属全体の分類の再検討が必要と考えられた。
著者
美島 健二
出版者
公益社団法人 日本口腔外科学会
雑誌
日本口腔外科学会雑誌 (ISSN:00215163)
巻号頁・発行日
vol.62, no.12, pp.592-601, 2016-12-20 (Released:2017-02-20)
参考文献数
35

The most common cancers in oral cavity are squamous cell carcinoma (OSSC), which accounts for more than 90% in oral cancers. The 5-year overall survival rate of early stage of OSCC is over 90%, while that of advanced stages is still poor. It is important to treat precancerous lesions including leukoplakia and erythroplakia to improve the prognosis. Malignant transformation rates of leukoplakia and erythroplakia range from 5% to 10% and 40% to 50%, respectively. Biopsy is performed to microscopically divide these lesions into oral intraepithelial neoplasia (OIN) /CIS and oral epithelial dysplasia. In addition to histological findings, immunohistochemical analysis such as Ki-67, p53, cytokeratin13, 17, and p16, is also helpful for the diagnosis. After surgical treatment, the resected specimens from OSCC patients are examined in details regarding prognostic factors, which are disease staging, resection margin free of diseases, tumor thickness, and extracapsular dissemination of lymph nodes. Furthermore, it is reported that EGFR-, NOTCH-, PI3K-, PTEN-and AKT-mediated pathways are involved in OSCC proliferation, suggesting that these factors can be expected to be promising molecular targets for OSCC treatment.
著者
辺見 卓男 町田 智正 武田 宗矩 北詰 栄里 猪俣 徹 石垣 佳希 荘司 洋文 添野 雄一 出雲 俊之 柳下 寿郎
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.63-70, 2020 (Released:2020-09-22)
参考文献数
27

口腔扁平上皮癌の予後判断に用いられる病理組織学的因子の一つに,浸潤様式分類がある。本邦では口腔癌取扱い規約に収載されているYK分類や,腺癌の予後指標として知られるINF,近年,口腔扁平上皮癌への適応が報告された簇出などがある。一方,AJCC 第8版では,予後に関連する因子としてWPOI-5が新規収載された。本報告ではpT1/T2舌扁平上皮癌を対象として,これら4つの浸潤様式分類に基づく判定結果を比較し,予後指標としての有用性について検討した。4つの浸潤様式分類に基づき3名の口腔病理専門医が独立して判定した。YK-4C,INF c,簇出5個以上,WPOI-5陽性と判定された各群では,その他の判定群と比較し高率に頸部リンパ節転移を生じ,生存率の低下を示した。従って,これら4つの判定は予後不良のリスク因子であると考えられた。一方,YK-4C群,INF c群,簇出5個以上群,WPOI-5陽性群の4群の予後を比較すると頸部リンパ節転移率,生存率に統計学的有意差はみられず,YK分類,INF,簇出,WPOI-5の予後指標としての有用性はほぼ同等であると考えられた。4つの浸潤様式分類における相互関係を検討すると,YK分類,INF,簇出には一定の相関関係が認められ,これら3つの浸潤様式分類とWPOI-5は独立していることが示唆された。同一症例に4つの浸潤様式分類を併用判定すると,YK-4C,INF c,簇出5個以上,WPOI-5陽性の判定が重複する症例が大部分であった。以上よりpT1/T2舌扁平上皮癌に対する予後判断では,浸潤様式分類は複数を併用することが望ましく,実際に併用する場合にはWPOI-5と他の3つの浸潤様式分類のいずれかを組み合わせる方法が有効と考えられた。
著者
上田 遥
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.129-137, 2023-06-01 (Released:2023-07-12)
参考文献数
27

【目的】2022年に施行された「食農教育法」下における台湾の食育政策を明らかにする。【方法】WEB入手可能文献(主に政策文書)をもとに同法の背景・体系を分析する。【結果】台湾の食農教育法は,中央レベルでの推進委員会の組織,中央・地方の両レベルでの基本計画策定,食育に関する専門職業の養成,政府・食農産業・学校・地域社会の連携による全国運動としての食育推進という点で,基本的には日本の食育基本法と内容が共通している。しかし,農業の重視,家族・ジェンダーへの配慮,食文化の多様性と開放性など,いくつかの点で日本の課題を克服しうるものであった。【結論】日本や韓国から遅れをとったものの,台湾の食農教育法から学ぶべきことは多い。ただし同法における「食為先,農為本」の思想がどの程度現場で実践されるかについては,さらなる検証が必要である。
著者
出雲 俊之 柳下 寿郎 八木原 一博
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.64-76, 2012 (Released:2012-11-01)
参考文献数
31
被引用文献数
9 6

粘膜癌において,予後を左右する最も大きな因子はリンパ節転移だが,予後やリンパ節転移に相関する原発巣の因子としては,深達度と浸潤様式が重要である。口腔癌取扱い規約の臨床型分類には発育様式分類が用いられているが,これは従来からあった臨床視診型分類を基盤として,「分けることができて,分けることに意味のある分類」とのコンセプトのもとに,普遍性・再現性のある表在型・外向型・内向型の3型に再編したものである。現在この臨床発育様式分類については,内向型の中に特に予後不良な一群があり,肉眼像,組織像,病態などを踏まえた1病型としうるか否かが検討されている。この仕事は学術委員会WG1において進めていく予定であるので,ここでは次世代の臨床型分類として,浸潤様式を反映した新分類について解説する。私は,臨床型分類は浸潤様式を反映した分類にversion upされるべきであると考えている。外科病理学的仕事の進んだ消化管癌では,シルエット分類が臨床型分類として用いられているが,これは粘膜面の形態と浸潤様式を組み合わせた分類である。口腔扁平上皮癌で悪性度分類として使われている浸潤様式分類(YK分類)は,実はこのシルエット分類に相当し,次代の臨床型分類となりうるものと考えられる。肉眼所見や画像所見は目で見るものではなく,外科病理学的な知識を織り込んで読むものであり,臨床型分類とは,口腔癌に対する全ての知見の集大成としてあるべきものであろう。
著者
末廣 吉男 森谷 裕司 山口 京子 夏目 恵美子 井上 保介 武山 直志 中川 隆 野口 宏
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.375-379, 2010-06-30 (Released:2023-03-31)
参考文献数
8

近年,臨床検査関連団体や学会が認定する専門臨床検査技師制度の普及により,専門分野に特化した臨床検査技師が増加している。しかし,救急医療に関連した専門臨床検査技師制度の整備は遅れている。当院では,緊急検査担当の臨床検査技師が救急蘇生外傷治療室にて検査関連業務を実施することで,医師による検査依頼から結果確認までの時間(TTAT:Therapeutic turn around time)を従来と比べ約22分間短縮した。救急蘇生外傷治療室における初療時検査は,病態把握や治療方針決定のために実施されるものであり,医師が最も必要としている検査結果を推測し,的確な検査項目について結果報告することが重要である。これらを実践するため,救急医療に携わる臨床検査技師にはさまざまな疾患に対応するための幅広い臨床検査知識や技術のほかに,救急医療の基礎知識および技術の習得が必須であると考える。救急医療における臨床検査技師の専門性とは,積極的に救急医療の現場へ介入して検査関連業務を実施し,検査依頼から結果確認までの時間を短縮するとともに,医師や看護師が本来業務に特化できるように業務支援することであると考える。
著者
池邊惠子著
出版者
門脇書店
巻号頁・発行日
1938
著者
田邉 健太朗 鈴木 良拓
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.71, no.10, pp.688-694, 2016-10-05 (Released:2017-04-21)
参考文献数
18

時空の次元Dが無限大の極限において一般相対性理論はどのような理論になるだろうか.またブラックホールはその極限においてどのように振る舞うのか.この次元無限大の極限を取る手法は決して珍しいものではなく,身近なところでは統計力学における平均場理論がある.各サイトにおける自身のゆらぎを無視する平均場理論は,空間次元が無限大になる極限において厳密になる近似手法である.さらに,動的なゆらぎを取り入れた動的平均場理論は強相関電子系においてその威力を発揮している.本稿では,次元無限大の極限を取る手法(以下,高次元極限法)が,一般相対性理論においても強力であるという我々による最近の研究成果を紹介する.平均場理論においては無視されるゆらぎであるが,一般相対性理論ではそのゆらぎのダイナミクスに着目することで,高次元極限法によりブラックホールがもつ重要な性質をアインシュタイン方程式から抽出することができる.次元無限大の極限では,ブラックホールの重力場はそのホライズン近傍の非常に狭い領域に閉じ込められるようになる.つまり,その極限においてブラックホールから少しでも離れた場所ではその重力を感じなくなる.この描像は平均場理論においてゆらぎを無視する近似が次元無限大の極限で厳密になることと似ている.しかし我々の解析は,そのブラックホール近傍に閉じ込められる重力場のダイナミクスに注目するという点において平均場理論とは大きく違ってくる.一般相対性理論はスケールを含まない理論であり,そのような狭い領域における短いスケールの重力場のダイナミクスも記述できる.特に次元無限大においてホライズン近傍に局在するその重力場のゆらぎこそが,ブラックホールのもつ興味深いダイナミクスの鍵を握っているのである.我々による重要な研究成果の一つは,ブラックホールの有効理論を高次元極限法により導出したことである.時空の次元Dが大きくなる極限において,ホライズン近傍に閉じ込められる重力場の空間スケールはホライズン半径r0に対してr0 /Dとなる.このr0 /Dという短いスケールの重力場はアインシュタイン方程式において積分することができ,結果としてブラックホールによる重力場の低エネルギーゆらぎに対する有効理論を得ることができる.有効理論はブラックホールホライズンを質量や運動量,粘性など物理的性質をもった実体として記述するものであり,これはまさしくブラックホール物理学におけるメンブレンパラダイムをアインシュタイン方程式から導出したことを意味する.この有効理論は,ブラックホールがもつ不安定性とその非線形時間発展といった重要なブラックホール物理を単純な方程式で記述し,それらの解析を劇的に簡単化する便利なものである.我々の宇宙が高次元時空であることを示唆する超弦理論に触発され,高次元ブラックホールの研究はこれまで盛んに行われてきた.しかし,高次元ブラックホールの物理的性質は4次元ブラックホールのものとは全く異なり,どのようなブラックホール解が存在するのか,どのようなブラックホールの不安定性があるのか,など高次元ブラックホールに対する我々の理解は未だ不十分である.これは非線形連立偏微分方程式というアインシュタイン方程式の特徴からその解析が容易ではないことによる.そのような複雑なアインシュタイン方程式に潜むブラックホールの物理的性質を探る研究において,今後,ブラックホールの有効理論を与える高次元極限法は新たな突破口を開くだろう.
著者
辻 彰洋
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3-4, pp.221-225, 1995 (Released:2022-12-23)
参考文献数
2

It is important for secondary level students to understand the skeleton structure for studying the classification and development of vertebrates. In this parer, I reported a double staining technique which was modified for making skeletal specimens of vertebrates. The usefulness of the skeletal specimens for biological education was also discussed.
著者
三野 和宏 田村 元 正司 裕隆 小丹枝 裕二 片山 知也 今 裕史
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.622-626, 2013 (Released:2013-09-25)
参考文献数
22
被引用文献数
1 1

維持透析中に発症した乳癌の治療は,患側のvascular access,薬物療法という問題があるため慎重に行う必要がある.今回,維持透析中に発症した乳癌に対して治療を行った4症例の検討を行った.症例は50歳~75歳の女性で,1例は患側に内シャントがある症例であった.手術に関しては乳房は全摘と温存,腋窩リンパ節は郭清症例とセンチネル生検症例が含まれていた.手術時間は53分~143分で,出血量は全例少量であった.抗凝固剤は,術後初回のみメシル酸ナファモスタットを使用した.術後補助療法として全例に通常量のホルモン療法を行い,1例で通常量のtegafur/uracilを追加投与した.乳房温存症例に対しては通常量の放射線を照射した.術後1年1カ月~5年3カ月経過した時点で,いずれの症例も透析関連のトラブルはなく,無再発生存中である.
著者
森 孝夫 渡辺 泰三 土佐 哲也 千畑 一郎 岩野 君夫 布川 弥太郎
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本釀造協會雜誌 (ISSN:0369416X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.111-114, 1981-02-15 (Released:2011-11-04)
参考文献数
9
被引用文献数
3 4

タンニンをリガンドとする吸着体, すなわち, 固定化タンニンについてその重金属イオンに対する吸着特性および醸造用水の除鉄を検討し, 次のことを明らかにした。固定化タンニンは鉄イオン, 銅イオン, 鉛イオンなどをよく吸着した。鉄イオンについては, 第一鉄イオン, 第二鉄イオン, キレートした鉄イオン, 有機酸存在下の鉄イオンはよく吸着したが, フェリクリシンは余り吸着しなかった。固定化タンニンの鉄イオン吸着容量は用いた鉄イオンの種類, 濃度, pHによって変化した。固定化タンニンに吸着した鉄イオンは0.5N塩酸によって溶出され, 再生された固定化タンニンは安定に反復使用できた。鉄イオンを10~40ppb含む某酒造場の用水の場合, 固定化タンニン・カラムの容積の8,500倍量の用水を流しても流出液中の鉄イオンは10ppb以下にとどまった。
著者
手塚 還
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.434-442, 1990-12-15 (Released:2017-09-30)

半導体産業では,従来の産業ではあまり使われることのなかった有害で危険性の高い化学物質が多種多様の形態で利用されており,それらによる新たな環境問題の発生が懸念されている.洗浄工程から生じる排水,特に有機系排水およびウェーハ処理工程で用いられる特殊材料ガスに基づく排ガスの処理を中心に工場周辺での実態調査の結果もまじえて述べる.事故災害の未然防止,不測の場合の被害拡大防止のための安全対策についても言及する.
著者
中村 亮太
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.542-546, 2023-09-15

言語生成AIを用いて,オノマトペを生成したり,オノマトペの解釈をさせたりする授業実践の紹介.小学校2年生の児童と同じ学習活動を言語生成AIにさせることによって,イメージを広げたり,さらに学習してみたいことを発見したりすることへとつなげた.
著者
下木戸 隆司
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.41-48, 2004-04-25 (Released:2010-07-16)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

In this study, it was examined whether or not visual quality of letter strings influenced the detection of semantic satiation in a lexical decision task. Previous studies concluded that lexical decision tasks cannot detect semantic satiation, because semantic information was not fully utilized in this task. Recently, however, it has been shown that semantic satiation is detected in this task as long as semantic information of the target was fully utilized. This study examined whether or not semantic satiation in the lexical decision task is found when a visually degraded target was presented. Forty-eight college students participated in the experiment. Semantic satiation was found in the degraded target condition, but not found in the intact target condition, which was consistent with the previous studies. These results suggest that this effect in the lexical decision task is found only if the target is degraded, and semantic information of the target is available for the decision.