著者
安藤 寿康
出版者
慶應義塾大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

本研究は教育学を生物学に位置づけ、「進化教育学」という新たな分野を開拓することを目指し、「教育学習」というヒトに顕著な学習様式が、ヒト以外の動物も行なう「個体学習」や「観察学習」とは異なる独特な脳活動によることを、fMRIによる実験課題によって示すことを目的とし、指運動学習を自分のペースで行う「個体学習」、見本を観察して行う「観察学習」、教師が指導する「教育学習」の三学習条件で実施し、脳活動の差異を検討した。個体学習ではさまざまな部位が活動しており、個人個人が自分の仕方で学習している様子がうかがえたのに対し、観察学習や教育学習では心の理論に関与する部位の活動が高くなっていた。
著者
安藤 寿康 内田 亮子 長谷川 寿一 大野 裕 神庭 重信
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2001

研究実施・運営上の主な実績は以下の通りである。(1)双生児レジストリの拡大:神奈川県、千葉県を中心に住民基本台帳から地域の双生児の悉皆的住所調査を行って住所リスト(レジストリ)を拡大し9000組のデータを得た。これにより、東京都その隣接県の主要地域をカバーする規模の大きな双生児研究を実施する基盤が整備されたと言える。(2)双生児サンプルの拡大と維持:上記のレジストリに基づいて調査への参加を呼びかけ、新たに約500組の青年期双生児の新サンプルを得、双生児被験者の数は800組を超した。またこれまでに協力してくれた双生児の親からも、養育態度、社会的態度に関する双生児の親からもデータを収集した。これにより、養育態度や社会的態度の家族内伝達に関する遺伝と環境の構造に関する研究が可能となった。(3)データの追加と収集:旧サンプルから新たに事象関連電位{作動記憶、情報処理測度、個別式知能検査(WAIS)のデータを、また新サンプルからは質問紙による卵性診断、と各種パーソナリティや摂食行動などに関するデータを入手した。これにより、より信頼性の高い遺伝率や遺伝と環境の構造のモデル探索が可能となった。これらの分析には構造方程式モデリングによるモデル適合を行った。(4)脳波解析プログラムの開発、脳波測定環境の改善:現在の測定状況に適合した特別の脳波解析プログラムを開発するとともに、正確な脳波測定のためにシールドルームを設置した。これは予定外の都合により脳波測定を行う実験室の場所の移動を余儀なくされたためであったが、結果的に実験条件の改善に寄与することとなった。
著者
安藤 寿康
出版者
慶応義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

人間行動遺伝学によって一般知能や外向性などの適性に高い遺伝規定性があることから、数学の問題解決という知的課題を、教授者や仲間関係の中でどのように学習してゆくか、その学習プロセスの中で遺伝要因がどのような役割を演じているかを、一卵性双生児の学習行動とその成果を比較することによって検討した。実験は2回にわたって行われた。実験1 中学2年生の8組の一卵性双生児を対象に2日間8時間の学習教室。異なる4種類の学習スタイル(個別問題解決、共同問題解決、個別問題訂正、教師との1対1活動)を双生児きょうだいは独立に経験させ、それぞれへの学習態度を質問紙法によって訪ねた。その結果、いくつかの学習態度(気楽、緊張、達成、弛緩、有能感)で、偶然よりも高い確率で、双生児きょうだい間の態度に一致が見られた。実験2 小学6年生から中学3年生までの双生児20組を対象に、個別学習と共同学習をそれぞれ4日間8時間行う。ここでは実験1のような質問紙による態度評価だけでなく、より詳しい行動観察と、何組かについて血液検査によるいくつかの神経生理学的形質の遺伝子型の診断も行った。また新奇性探究をはじめとする新しい性格検査、知能検査も実施し、それらの関係を分析してゆく予定である。
著者
安藤 寿康
出版者
慶応義塾大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

小学6年生の双生児34組(一卵性19組、二卵性15組)を対象に、英語教授法に関する双生児統制実験を行った。すなわち2つの異なる教授法群(コミュニカティヴ・アプローチ「CA」と文法的アプローチ「GA」)に双生児きょうだいを別々に割り当て、8日間のべ7時間の教授・学習過程後の成果を比較した。ここで一卵性双生児は遺伝要因を完全に共有しているので、50%の遺伝的関係である二卵性双生児と比較することによって、学習成果に及ぼす遺伝要因の効果、教授条件の効果ならびに両者の交互作用を明らかにすることが可能である。口頭による会話能力では遺伝規定性が見いだされたが、筆記による読む・書く・聞く・文法の各能力では遺伝規定性は見いだされなかった。一般知能、言語性知能、ならびに理科の能力の3つの適性次元と各教授法との間に、統計的にマージナルな交互作用が見いだされた。これらはいずれも、それぞれの適性において、高いものではGAが、低いものではCAがそれぞれ有利であることを示したもので、これまでの研究を追証するものであった。これは表現型と教授法との交互作用である。しかし各適性次元の双生児きょうだいの平均値を遺伝子型の推定値とみなすと、遺伝子型と教授法との間に、その傾向はあるが統計的に有意な交互作用は見いだされなかった。なお筆記能力ではGAが、また会話能力ではCAがそれぞれ有意であることは、本研究の教授法の妥当性を示したものといえる。
著者
安藤 寿康 坂上 雅道 染谷 芳明
出版者
慶應義塾大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

教育学習は個体学習、観察学習とは異なる進化的に獲得されたヒトに顕著な学習様式と考えられ、それに対応する特殊な脳活動があることが予想される。本研究では、指運動の系列の記憶と再生を、個体・観察・教育の3学習条件で実行している際の脳活動をfMRIによって把握することを目的とした。予備実験の段階として、課題の検討と開発を経て、個体と観察学習の脳活動の指運動データを収集した。その結果、個体学習では視覚野、一次感覚運動野、補足運動野、被殻、視床視覚野、小脳、視床の賦活が、また観察学習では視覚野、被殻、両側中側頭回、縁上回、両側前頭前野の賦活が顕著であり、学習様式間の差が先行研究と整合的に見いだされた。
著者
安藤 寿康 岡田 光弘 長谷川 寿一 大野 裕 平石 界 岡田 光弘 長谷川 寿一 大野 裕 平石 界
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

800組の青年・成人期の双生児を対象とした行動遺伝学的研究から、認知能力、パーソナリティなどの遺伝・環境構造の解明を行った。一般知能の遺伝的実在性、社会的適応に及ぼす内的環境適応の過程、パーソナリティの普遍的遺伝構造モデルの提案、自尊心感情の縦断的変化などが成果としてなされた。また双生児データのデータベース化、webによる双生児調査フレームワークの確立もなされた。
著者
安藤 寿康
出版者
慶應義塾大学
雑誌
戦略的な研究開発の推進 社会技術研究開発事業
巻号頁・発行日
2004

本研究は子どもの身体的、心理行動的、脳生理学的な特性の正常な、あるいは問題のある発達に関わる遺伝要因と環境要因の相互作用の過程を、双生児法を用いて明らかにすることを目的とする。そのために東京都とその隣接県で2004年11月から2006年3月にかけて出生する全双生児の50%にあたる約2000組のコホートサンプルを構築し、5年間の縦断発育調査を実施、個人の遺伝的素質に適合する教育システムの設計の可能性を考察するための基礎的な情報を得る。
著者
宮城 弘守 鈴木 修
出版者
一般社団法人 日本風工学会
雑誌
風工学シンポジウム論文集 第20回 風工学シンポジウム論文集
巻号頁・発行日
pp.28, 2008 (Released:2008-12-03)

北海道室蘭市沖に発生した竜巻の写真を撮影情報を利用して分析し、一箇所から撮影した写真からでも竜巻までの距離や寸法を計測できることを示した。竜巻は沖合い約10.2kmに見える水平線付近に発生していたことなどが分かったが、竜巻等の位置を水平線との小さな角度差から推定するため、撮影高度が低いと精度が低下することに留意する必要がある。
著者
平 大樹 角本 幹夫 岡野 友信 寺田 智祐
出版者
日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会会誌 (ISSN:21880077)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.51-54, 2019-05-20 (Released:2019-05-20)
参考文献数
14

エアロゾル吸入療法は喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD, chronic obstructive pulmonary disease)の治療の第一選択となる.しかし,患者の吸入動作により薬物が治療部位に送達される必要があるため,患者が適切に使用することが十分な治療効果と低い副作用発現の両立に必要不可欠となる.吸入器は大きく分けて,粉末吸入剤(DPIs, dry powder inhalers),加圧式定量噴霧式吸入器(pMDIs, pressurized metered dose inhalers),ソフトミスト吸入器(SMIs, soft mist inhalers)およびネブライザーの4種類に分類される.最適な吸入方法は各々の吸入器によって異なるので,医療者による適切な吸入指導(吸入支援)が非常に重要となる.本稿では,各々の吸入器について,その特徴と吸入支援方法を概説すると共に,吸入支援に関する地域連携事例を紹介する.
著者
渡辺 治雄
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.88, no.11, pp.2141-2146, 1999-11-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
5

ペストは感染症新法では, 1類感染症に分類されている.我が国においては,昭和元年以来ペストの発生がみられていないが,世界には依然として多くのペスト病巣窟が存在している.万が一ペストが我が国に侵入してきた場合の,迅速なる診断,治療体制を日頃から整備しておくことが,危機管理的側面からも重要である. PCR法を含めたDNA診断法およびマウスモデル系における新規抗菌薬による治療実験等のデータを含め,ペストに対する診断・治療について概説する.
著者
重定 如彦 越塚 登 坂村 健
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.1662-1675, 2001-06-15

本論文では,分散ハイパーメディアOS``Net-BTRON''におけるハイパーメディア資源管理の機構について述べる.近年,World Wide Web(WWW)を基盤とした全世界規模のハイパーメディア環境がインターネット上に構築され,情報発信システムとして大きな成功を収めている.一方,ネットワーク上の他のハイパーメディアコンテンツを参照・引用をしながら,頻繁なデータ編集による試行錯誤を繰り返して,人間の思考を支援することも,ハイパーメディアシステムの当初の用途の1つである.ところが,現在のWWWシステムをこうした用途に用いると,リンクの接続性が脆弱であるために,リンク切れやEditingProblemといった問題が頻繁に発生する.そこで我々は,頑強なリンク接続性を提供する分散型ハイパーメディア資源管理機構を持った新しいオペレーティングシステム,Net-BTRONを構築している.Net-BTRONのハイパーメディア資源管理機構は次の特徴を持つ.まず,ハイパーメディアノードやリンクをファイルシステムで実現する.Net-BTRON以外の他のハイパーメディアとの相互接続性を実現する柔軟なファイルシステム拡張機能を持つ.ハイパーメディアアプリケーションの操作性を標準化するためのツールキットを提供する.我々はNet-BTRONのパイロットシステムをBTRON3仕様OSを拡張して実装し,その上に多くの分散ハイパーメディアアプリケーションを構築することによって,これらの技術的特徴の有効性を確認した.
著者
辰己 丈夫 稲垣 俊介 角田 博保 久野 靖 佐久間 拓也 高橋 尚子 中野 由章 和田 勉
巻号頁・発行日
vol.2023, pp.261-268, 2023-08-11

筆者らは、情報処理学会情報入試委員会の委員として、情報入試の問題案や、過去に出題された情報関係基礎の問題の解説などを掲載する情報処理学会会誌note 「教科「情報」の入学試験問題って?」に関わってきた。この連載を通して、筆者らは、情報科の入試問題について、経験的な知見などを得た。過去に出題された「情報関係基礎」の問題、大学入試センターから発表されている試作問題等、その他の各問題について述べ、また、学習と試験の観点、情報科の内容との関係、問題の評価観点との関係、他教科・他科目における状況、他国における状況を議論した。入試で問うべき観点は、「思考力・判断力・表現力」を重視すべきであり、学習指導要領の範囲であっても、範囲外であっても、知っていると簡単に正解を得ることができるような問題は好ましくない、との結論を得た。
著者
園田 典生 田島 直也 帖佐 悦男 樋口 潤一 安藤 徹 栗原 典近
出版者
West-Japanese Society of Orthopedics & Traumatology
雑誌
整形外科と災害外科 (ISSN:00371033)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.612-617, 1997-09-25 (Released:2010-02-25)
参考文献数
4

We report the clinical study of 9 Judo players who had painful finger joints and complaints of difficulty in performing. There were 18 joints in all 16 of which (88.9%) had a history of trauma (ex. sprain and collateral ligament injury), but no history of fractures or dislocations. Instability of the joints was not found on clinical examination. Almost all players complained of a limitation in ROM and pain when they gripped a rival's sleeve with finger full flexion. X-ray examination of the finger joints revealed osteoarthritic changes in 15 joints (83.3%) and fragments in 7 joints (38.9%). No statistical differences were found in the techniques and experience between the 9 players and the other 11 players who had no finger complaints. The 2 joints with fragments had no history of trauma, therefore suggesting that they developed due to the distinctive overuse reaction in Judo.
著者
伊藤 泰信 谷口 晋一 孫 大輔 大谷 かがり
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究は、医学教育者/医師らと“共働”する医学教育実践の中で、サービスデザインの視点を取り込んだ文化人類学を構想するものである。ここでいうサービスデザインの視点とは、患者がなし遂げたいコト(サービス)起点で医療提供を考える視点である。具体的には、生活者としての患者の視点を重視する人類学的素養を導入した総合研修専門医の教育(研修)プログラムを医学教育者と共にデザインする。他方で、そうした教育実践を通じて、「サービスデザイン人類学」という新たな領域を切り拓こうとする試みである。
著者
江田 真毅
出版者
北海道大学大学院文学研究院考古学研究室
雑誌
北海道大学考古学研究室研究紀要 (ISSN:24365874)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.41-50, 2021-12-06

ニワトリ (Gallus domesticus) は東南アジアに生息するセキショクヤケイの一亜種 (G. galhus spadiceus) を主たる祖先とする家禽であり、日本には弥生時代中期に渡来したとされる。その後の日本で利用されたニワトリの品種や大きさに関する知見は文献史学からもたらされている一方、考古学的には報告書などでの散発的な報告に留まり、実態はよくわかっていない。大分県大分市の中世大友府内町跡では 1570~1586年に比定されるニワトリの骨が多数報告されており、その分析から当時のニワトリの大きさについての知見が得られると考えられた。そこで本研究では同遺跡から出土したニワトリの足根中足骨を計測し、U検定や混合分析 (Mixture analysis) などの統計学的手法を用いて検討した。また、骨の長さを動物園などで飼育されていたセキショクヤケイと比べるとともに、回帰分析を利用してさまざまな品種のニワトリの体重とも比較した。その結果、大友府内町で利用されたニワトリは、動物園などで飼育されていたセキショクヤケイに比べて大きいことが分かった。また、距突起の有無で性を推定して実施した混合分析の結果、雌雄ともに2つの品種あるいはそれに類するサイズグループに由来する個体が含まれることが確認された。雌雄で推定された2つのサイズグループは、いずれも中世末に日本にいたとされる現在の地鶏や小国よりかなり大きかった。このことは、かつての地鶏や小国が現在より大型であった可能性や、これまで文献史料から考えられてきた以上に当時までに外来鶏が普及しており日本鶏と交雑していた可能性から説明できると考えられた。