著者
田中 牧郎 岡島 昭浩 岡部 嘉幸 小木曽 智信 近藤 明日子
出版者
独立行政法人国立国語研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

明治後期から大正期にかけて進んだ「言文一致」という出来事について,コーパスを活用して,精密かつ見通しよく記述することを通して,コーパス言語学の方法を日本語史研究に適用することを目指した。言文一致にかかわる言語現象のうち,コーパスを活用して記述することで,新たな日本語史研究の視野が拓けると想定されるものとして,語彙体系の変化,待遇表現構造の変化,テンス表現の変化の三つを取り上げて,『太陽コーパス』(言文一致期にもっともよく読まれた総合雑誌を対象とするコーパス)を用いた分析を行い,その成果を発表した。語彙体系については,動詞を例に,言文一致期に定着する語と衰退する語とを対比的に分析した。また,待遇表現構造については,二人称代名詞を例に,会話の文体や,話し手と聞き手の階層や性別の観点から分析した。さらに,テンス表現については,口語助動詞「テイル」「テアル」が定着する用法と,文語助動詞「タリ」が残存する用法とが相補関係にあることなどを解明した。いずれの研究においても,コーパスを用いることによって,共起語,出現文脈,出現領域などを定量的に考察することができ,共時的な構造分析の方向にも,通時的な動態分析の方向にも,新しい展開を図ることができた。コーパスを使わない従来型の研究では実現不可能だった,精密で見通しのよい記述を達成することができ,コーパスを日本語史研究に導入する意義を具体的に確かめることができた。また,コーパス分析ツールとして,XML文書へのタグ埋め込みプログラム『たんぽぽタガー』を開発し,使用説明書とともにweb上で公開した。このツールの公開は,コーパス言語学による日本語史研究の利便性を高める効果が期待できる。
著者
吉岡 直人 阪口 秀
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

物理的な砂山崩しの実験(実際に砂を用いて砂山を形成する実験)において、砂山の崩れ方に「自己組織化臨界現象」的な振舞いと、これと対照的な「固有地震」的な振舞いが発現することが知られている。これまでの研究から、この2つの典型的な振舞いは、砂山を形成する砂の粒径と、砂山を支える円盤の直径との比のみによって決定されることが判明している。しかしながら、これらをもたらす物理的な原因は未解決である。これを解明することが、本研究の目的である。この両者における砂山内部の応力鎖の構造の違いが、この2つの振舞いの原因ではないかと推察されるので、光弾性実験および離散要素法によるシミュレーションによって問題の解決を図った。すなわち、砂の粒径と砂山の大きさをさまざまに変えて、砂山内部の応力鎖の構造を、光弾性実験と離散要素法によるシミュレーションによって実際に"見た"ところ、小さな砂山はナダレによって砂山全体が影響を受け、内部はいつまでも固まらないのに対し、大きい砂山はナダレによって応力鎖の構造はかなり深い部分まで影響を受けるが、全く影響をうけない固化した部分が深部に形成されていることが分かった。このことから、ナダレの大きさを規定する要因が何らかの不均一性であると考えると、小さい砂山では表面の凹凸が不均一性の主たる要因であり、小さいナダレが頻発するのに対し、砂山が大きくなると、表面付近と深部の強度の差が不均一性の主要因となり、大きなナダレが周期的に発生するのではないかと考えられた。
著者
柊中 智恵子 中込 さと子 小野 ミツ 前田 ひとみ 武藤 香織 北川 小夜己 矢野 文佳 村上 理恵子 福田 ユカリ
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、遺伝性神経難病である家族性アミロイドポリニューロパチーに焦点を当て、患者・家族と看護職のニーズ調査をもとに、看護職に対する遺伝看護教育プログラムを開発することを目的として実施した。患者・家族のニーズ調査から、発症前遺伝子診断を受けて生きる人、発症者、家族といった立場の様々な苦悩や葛藤の様がわかった。また、看護職も遺伝性疾患ということで、対応に困難を感じていた。これらの結果に基づき、教育プログラムに盛り込む内容を検討した。
著者
永川 桂大
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

金や銀のナノ粒子に光を照射すると表面プラズモンと共鳴し、局所的な電場が発生する。特にそのサイズに依存した光学特性が注目され、細胞内への遺伝子薬剤の送達キャリヤーあるいは腫瘍組織に対する治療ツールとしての研究が盛んに行われている。本研究は申請者がこれまでに作製してきたウイルスカプセル表面での金ナノ粒子の三次元配列化と同時に、多様なタンパク質と金属ナノ粒子の複合体形成とその応用展開を目的とした。今年度の研究実施計画は、昨年度作製した金ナノ粒子内包型ウイルス構造体の特徴に着目した。本研究で取り扱うJC virusの感染能に注目すると、ウイルスタンパク質VP1の感染能が付与された金ナノ粒子は効率よく細胞内へ導入されることが期待される。さらに金属ナノ粒子の持つ光熱変換能を利用する事で、光刺激による細胞死の誘発というがん細胞における光温熱療法への応用が可能となる。そこでVP1を用いた金属ナノ粒子内包型ウイルス構造体の作製を検討した。ウイルスタンパク質のアミノ酸残基の分布に着目すると、内側表面のシステイン残基97番目のみが溶媒と接していることが予想された。金ナノ粒子とVP1を共存条件におくことで、金ナノ粒子表面にシステインと金原子の結合に起因したVP1の集合化が観察された。VP1被覆金ナノ粒子の細胞内導入において、粒径40nmの金ナノ粒子で最も効率よく取り込まれ、細胞に強い光を照射すると金属ナノ粒子由来の熱発散によって照射スポット内における細胞死誘導が見出された。以上の結果から、ウイルスタンパク質と金属ナノ粒子の複合体は各々の特徴を組み合わせることで光温熱療法の薬剤へ応用できることを示した。本研究の成果は今後の生物医学における金属ナノ粒子の利用に有用な知見を与えるものである。
著者
北橋 忠宏 福永 邦雄 小島 篤博 長田 典子
出版者
関西学院大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

現在の物体認識では、認識中の対象物に人間が触れることなど論外である。それは認識システムが対象を外観的特徴に基づき認識しているため、対象物が手影になることや外見が変更されることを排除する必要があるからである。これに対し人間は、人の動作・行動とそれに関与する事物との強い関連を知り、人の行動を観察することで事物や機能・用途を予測し認識できる。この方策を物体認識に導入し、新しい物体認識方式を提案した。提案システムは、(1)系列画像の解析部、(2)2種類の辞書:行為・行動に関する辞書と物体に関する辞書、(3)推論機構、から構成される。(1)では、系列画像の背景を消去し変化領域を従来手法により求め、その中の肌色領域の抽出により顔や手を求める。それらの位置・動きから人物の見掛けの動作を求める。同時に人体以外の変化領域を見出し、両者の時間経過を求めるとともに、それらの相互関係を求める。(2)の行為・行動辞書には行為・行動の特徴と通常関連する物体の項目を設けた。物体辞書は従来の外観的特徴を排し、用途や機能などを新たな特徴に掲げた。見出し語も、従来の事物名称ではなく、用途・機能による概念分類(例えば、可搬物、可食物)が用られる。これら2種類の知識はそれぞれ概念階層にまとめられる。(3)2種類の辞書は共通する項目をもち、これらにより関連付けられ、この関連性を基に(1)で認識した人物動作から関連する物体を辞書の探索によって推測し、(1)で抽出した人体以外の変化領域を人体動作と関連付け、認識のための推論機構の基礎をなしている。また、最近(1)に隠れマルコフモデルを導入し行為・行動認識で良好な結果を得た。人の後姿から扱っている物の認識とか、ものまねやしぐさの認識ができそうである。
著者
宮本 健作 中島 誠 山田 恒夫 吉田 光雄
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

1.喃語様発声と負の強化:九官鳥の幼鳥がヒトのことばを模倣学習する過程で出現する喃語様発声(模倣原音)に対して大きな拍手音または叱声を与えると、その発声回数は徐々に減少し、結局そのトリの模倣は完成しない。一方、トリの発声ごとに愛称を呼ぶか餌を与えるかすると、模倣原音は加速的に増加し、物まねの完成が促進される。この成績は幼児の言語習得に関する貴重な教訓を示唆する。2.実験的騒音性難聴の形成:九官鳥は騒音負荷に対する受傷耐性が著しく高く、哺乳類では騒音負荷の有効刺激としてよく知られた高音圧のホワイトノイズまたは純音はまったく効果はみられなかった。種々試みた結果、閉鎖空間における陸上競技用ピストル音の暴露によって一過性の騒音性難聴が認められた。3.聴力損失の指標:動物の頭皮上ならびに内耳前庭窓近傍から記録した脳幹聴覚誘発電位(BAEP)および蝸牛神経複合活動電位(AP)は一過性騒音難聴の形成とその回復過程を知る客観的指標としてきわめて有効であることを確認した。4.騒音性難聴条件下の模倣発声:爆発音負荷直後、BAEPおよびAP波形が消失してから振幅が完全に回復するまでの10日間における発声行動の音圧および発声持続時間などにはとくに顕著な変化は認められなかった。難聴児にみられる聴覚フィードバックの障害効果と著しく異なった。5.模倣発声行動の動機づけ要因:飼育者の音声のようにある種の社会的意味をもつと考えられる音声は物まね発声を誘発させる効果があること、さらに飼育者の音声が感覚性強化刺激になることが明らかになった。6.弁別オペラント行動からみた九官鳥の聴力曲線:行動聴力曲線は他種のトリに比べ、ゆるやかなカーブを描き、可聴範囲は110Hzから12kHzまでの幅広い周波数帯域を含むことが認められた。騒音性難聴が模倣発声に及ぼす効果の有無については今後の検討課題であるが、ヒトと異なり、強大音に対する受傷耐性が高い。
著者
杉村 美紀 杉本 和弘 苑 復傑 羅 京洙 LRONG Lim 杉本 和弘 苑 復傑 羅 京洙 LRONG Lim 我妻 鉄也
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、アジア及びオセアニアにおける留学生の国際移動と教育文化交流の動向と課題を、国境を越えて展開されるトランスナショナル・プログラムに注目して海外調査をもとに実証的分析を行った。その結果、今日の留学生移動は、各国政府の政策に加え、教育機関及び留学生個人の戦略性に富んだ国際交流活動に影響を受けており、しかもその移動ルートは、欧米への移動にとどまらず、アジア域内あるいは中東やアフリカからアジアへの移動の活発化により、重層化・多様化していることが明らかとなった。
著者
横田 雅弘 坪井 健 白土 悟 太田 浩
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

平成16年度は、アジア太平洋諸国7ヶ国で留学生政策に関する調査を行い、75人にインタビューした。その記録は、中間報告書「アジア太平洋諸国の留学交流戦略の実態分析と中国の動向」として平成17年3月にまとめた。この成果については、独自に立ち上げたホームページにおいても全文を掲載している。アドレスは以下の通りである。http://www.george24.com/~yoko39/publications.htm研究成果の発表としては、平成17年5月の異文化間教育学会年次大会でポスターセッションを行ったほか、平成17年7月のJAFSA(国際教育交流協議会)サマーセミナー基調講演、平成17年12月の早稲田大学21世紀COEプログラム第4回国際公開シンポジウム、平成18年3月のCIES比較国際教育学会50周年記念大会(ホノルル)、平成18年6月の中央教育審議会での参考意見提供、平成18年8月JAFSAサマーセミナーの分科会等で発表した。平成17年から18年にかけて、全国四年制大学に対して国際化と留学生政策に関する質問紙調査を行なった。50.5%という高い回収率を得て、その結果を最終報告書「岐路に立つ日本の大学〜全国四年制大学の国際化と留学交流に関する調査報告〜」としてまとめた。データからは、国際化のビジョンやミッションを持っている大学が極めて少ないこと、国際部門の専門職育成に熱心ではないこと、国立大学が国際化に熱心であり公立大学はあまり関心をもっていないこと、オフショア・プログラムがアジア諸国に比べて全く低調であること、留学生を日本社会の高度人材として捉えていないこと、受入れと送出し国の関係が大きく変化していることなどが判明した。激動するアジアの留学交流の渦の中で、日本はどのような視座でこれを見極め、どのような政策をとっていくべきなのかに関して、何がしかの参考資料を提供できたと考える。
著者
鵜飼 尚代 田尻 紀子
出版者
名古屋外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は、発光素子への応用に偏っている窒化インジウムガリウム(以下、InGaN)結晶薄膜を、光検出素子用材料として特徴づけ、かつ、高速高感度素子の試作研究を行うことである。試作研究では、Metal-Semiconductor-Metal構造(MSM構造)の受光部1mm×1mmの大面積素子で、10Vで100 pA以下の暗電流、0.1A/W以上の受光感度、および、10ns台のパルス応答を確認した。透明サファイア基板という点、及び、窒化ガリウム(以下、GaN)層上のInGaN薄膜を光感受層とする点、の2つの特徴を活かして、波長400-500nm帯の可視光検出器としての得失を明らかにすることができた。即ち、表面入射と裏面入射の相違を調べ、電極直下部の光電流への寄与を明らにできた。この知見を基にInGaN/GaN 2層構造の特異な電圧依存性を解明し、ショットキーダイオード形素子において、バイアス極性による350nmと400nmの2色弁別検出を実証できた。また、下地GaN層の厚さとバイアス電圧の制御により、紫外線に感応しない青色用狭帯域光検出器を実現できた。ここで用いたInGaNは厚さ30nm以下の薄膜であり、ピエゾ効果に基づく内蔵電界を有効に利用した。膜厚を増せば感度は大きく増大するが、暗電流も増大する。これは、歪み緩和による結晶性の変化に依ると解釈できる。なお、高速応答性に関連して深い準位を評価し、DLTS法によりGaN層に深さ約0.5eVの電子トラップ準位の存在を確認したが、光パルス信号に対する反応の遅い電流成分(光持続電流)を解消するには至らなかった。今後は、InGaN層の内蔵電界の利用を中心に本研究を発展させたい。
著者
中園 明信
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

15年度年度も昨年度に引き続き、北部九州における磯魚幼稚魚の出現をモニタリングした。15年度も夏から秋にかけて従来見ることの出来なかった多くの暖海性稚魚の出現が見られた。主なものを上げるとコスジイシモチ、ホンソメワケベラ、ナガサキスズメダイ、ニザダイ等である。14年度との大きな違いは14年度に多数出現したイトフエフキが極端に少なかったことである。それに反して、ホンソメワケベラやナガサキスズメダイの数は比較的多かった。イトフエフキは14年度同様の出現を期待していたが、期待に反して少なかったのは14年から15年にかけての冬季が例年になく水温が低かったために産卵親魚群が死滅または分布域が後退したのが原因ではないかと推察された。すなわち、14年から15年にかけての冬季には、例年12℃までしか下がらない沿岸の水温が寒波の襲来で約1週間9℃まで低下した。しかし、寒海性の稚魚の出現は見られなかった。15年度の観察では、水温13℃まで下がった12月中旬まではソラスズメダイはじめ多くの磯魚幼魚が生息していたが、その御数回寒波が来ており、荒天のため観察が出来ていない。しかし、データ・ロガーで水温を記録中であり、本報告書を提出後であっても、調査を行う予定である。また、沖合い60Kmにあり対馬暖流の影響下にある沖ノ島においては、14年の寒波襲来時も水温は13℃以上で、多くの暖海性魚類が生息しており、それらが越冬していることを確認している。以上の3年に亘る観察研究の結果から考えて、水温13℃が暖海性魚類幼稚後が越冬できるかどうかの限界水温になっていると考えられるので、長期的気候変動と磯魚の分布変動との関係を調べるには、水温13℃に注目する必要があるであろう。
著者
上原 周三 星 正治
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

1. ^<90>Sr+^<90>Yのβ線によって生成される制動X線を体外計測することによって体内^<90>Sr量を実験的に評価した例は少なくないが、定量的計算によって評価した報告はほとんど見当たらない.そこで^<90>Srの他に^<137>Csと^<40>Kのγ線放出核種が体内に分布していると仮定し,一台の光子検出器で簡便に測定する場合を考え,いかなる部位・測定条件の下で最良の光子スペクトルが得られるかを自作のモンテカルロシミュレーションコードSR90を用いて定量的に予測した.2.体外計測部位の候補としては骨の体積が大きく,かつ表面が薄い皮膚(水で代替)で覆われている脚部,腰部,頭部が挙げられる.計算の結果,腰部と頭部は内部に大容積の軟部組織を含んでいるためにバックグラウンドが大きくなり,不適であることが分かった.一方,脚部については単純に同軸円筒ファントムで近似し,骨の直径や皮膚の厚さをいろいろ変えて調べた.3.ファントムから逃げ出す光子を入射窓直径200mmの検出器で体外計測するとし,検出器に入射する光子スペクトルを計算した.スペクトルの30-160keVのエネルギー範囲における強度を積算し,次式で定義するs/n比を求め,体外計測の最適条件を定量的に調べた.脚部ファントムのいくつかの条件についてs/n比を比較した結果,1mm程度の薄い皮膚に覆われた太い骨(直径50mm程度)の場合に最も良いs/n比が得られた.4.計算結果と通常の体外計測の測定値を組み合わせることによって,β放出核種のための新しいインビボ計測法の可能性が開けた.
著者
新谷 昌人 佐野 修 高森 昭光 堀 輝人 寺田 聡一 山田 功夫 山田 功夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は、長期地殻変動観測の高精度化に必要と考えられる数百m~数kmの空間スケールにおける観測手法を、普遍的な長さ基準である「量子標準」を用いた方法により実現することにある。神岡地下施設および犬山観測壕においてレーザー伸縮計による定常観測を実施し、神岡地下施設においては2光波干渉計、弾性波応力計、絶対長干渉計の複数の手法による同時観測を行った。その結果、長基線化が容易な2光波干渉計が有望な手法であることが示された。
著者
米田 穣 阿部 彩子 小口 高 森 洋久 丸川 雄三 川幡 穂高 横山 祐典 近藤 康久
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究では、全球大気・海洋モデルによって古気候分布を復元し、旧人と新人の分布変動と比較検討することで、気候変動が交替劇に及ぼした影響を検証した。そのため、既報の理化学年代を集成して、前処理や測定法による信頼性評価を行い、系統的なずれを補正して年代を再評価した。この補正年代から、欧州における旧人絶滅年代が4.2万年であり、新人の到達(4.7万年前)とは直接対応しないと分かった。学習仮説が予測する新人の高い個体学習能力が、気候回復にともなう好適地への再拡散で有利に働き、旧人のニッチが奪われたものと考えられる。
著者
森野 勝好 田中 裕二 岡野内 正 佐藤 誠 西口 清勝 米倉 昭夫 西沢 信善 田口 信夫 川原 紀美雄
出版者
立命館大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1992

本研究においては途上国経済論を専攻する研究者集団が共同して地域研究とテーマ別研究とを行い、その研究成果を統合する中で、本研究が掲げている研究課題に接近するという方法を採っている。本年度は、次の二つの研究を行なった。ひとつは、AALA途上諸国の飢餓・貧困・環境破壊の原因と因果関係を解明することに取り組んだ。そのために、アジア(フィリピン、ミュンマー)、中東、サハラ以南のアフリカ(南アフリカ)およびラテン・アメリカ(ブラジル)の国際比較研究をおこなった。他のひとつは、1990年代から21世紀にかけて日本が、AALA途上諸国が現在直面している飢餓・貧困・環境破壊という深刻な諸問題を解決する上で、果たしうる役割をODAを中心に考察した。昨年度の研究成果と今年度の研究成果を集め、本研究の取り纏めを行なった。その結果、途上国経済論の理論的研究((1)研究方法、(2)開発経済学の新動向、(3)多国籍企業と途上国、(4)一次産品問題と国際価値論、(5)国際援助政策論-日本のODAを中心にして)と現状分析((6)韓国-財閥の形成と展開、(7)フィリピン-債務危機と貧困、(8)ミャンマー-市場経済化への苦悩、(9)中東-都市化と人口移動、(10)ブラジル-従属的発展と環境破壊、(11)南アフリカ-インフォーマル・セクターの展開)とを有機的に結合した新たな研究成果を挙げることができた。なお、この研究成果は、森野勝好・西口清勝編『発展途上国経済論』(ミネルヴァ書房)として、1994年6月に刊行される予定である。
著者
松本 美佐子 瀬谷 司
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

エンドソームに局在するToll-like receptor 3(TLR3)はウイルス由来の二重鎖RNA(dsRNA)を認識し、タイプI インターフェロンや炎症性サイトカイン産生の誘導、樹状細胞の成熟化を介して抗ウイルス応答を誘起する。しかしながら、どのように細胞外dsRNAをエンドソームで認識するか不明である。本研究では合成dsRNAのpoly(I:C)によるTLR3活性化機構を解析し、poly(I:C)の取り込みとエンドソームTLR3への配送に細胞質タンパクRaftlinが必須であること、RaftlinはクラスリンーAP-2複合体と協調してdsRNAの取り込みに働くことを明らかにした。
著者
山口 浩司 永瀬 雅夫 山崎 謙治 山口 徹 岡本 創 小野満 恒二
出版者
日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

化合物半導体ヘテロ構造を用いて微小機械共振器を作製し、その特徴的な電気機械振動特性を応用した新しい機能の探究を進めた。この結果、以下の成果が得られた。(1)パラメトリック周波数変換を実現し、一個の機械共振器により複数の論理ゲートと等価な演算を実現する新しい論理情報処理手法の提案と実証を行った。(2)化合物半導体の光半導体素子としての機能を活用し、キャリア励起による新しい光・機械結合を実現した。(3)二つの機械共振器を結合し、その周波数をチューニングする手法を開拓した。(4)これらの微小機械構造を高精度で作製するために必要なナノ加工技術の高度化に成功した。
著者
伊藤 節子
出版者
同志社女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

食物アレルギーの治療の原則は、正しい抗原診断に基づく必要最小限の食品除去である。京都市内保育園児における調査では、乳児の10.4%が食品除去をしていたが、加齢とともに減少し、除去食品は卵、牛乳、小麦が全体の75%以上を占めていた。そこで加熱調理による卵、牛乳、小麦の抗原性の変化を定量的に検討したところ、加熱や副材料により卵の抗原性は低下させることができ、負荷試験後の食事指導に使用可能な卵アレルゲン食品交換表が作成できた。主な食品の調理による抗原性の変化を加味した食事指導指針を作成した。
著者
小林 繁
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

精神障害をもつ人の学習・文化支援においては、地域での生活支援や就労支援と連携しながら豊かな人と人との関係をどう作り上げていくかが重要である。それは、様々なプログラムを通して言葉の回復を中心とした豊かで多様なコミュニケーションの力を引き出し・創造していく課題であるということができる。そのためには、当事者へのエンパワーメントの支援が不可欠であり、同時に安心できる居場所などを提供していく取り組みが求められるのである。
著者
坂本 貴彦 黒澤 博身 岩田 祐輔 村田 明
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

以前におこなった研究結果(Miura T, Sakamoto T, et. al. JTCVS: 133:29-36,2007)を踏まえて、軽度低体温〜常温体外循環中の脳循環生理を把握し現在汎用されている体外循環法の脳組織に及ぼす影響に関してpreliminaryな慢性実験を施行した。【対象と方法】Yorkshire pig(生後4-5週目、N=6、8.4-14.0kg)を用い、気管内挿管下に実験を開始、近赤外線分光器(NIRS: NIRO300,浜松ホトニクス)を前額面に装着した。全身麻酔下に、右開胸にて心臓に到達し、大動脈送血、右房脱血にて体外循環を確立した。脳循環生理に大きな影響を及ぼすと考えられる潅流因子の中で、臨床上汎用されている軽度低体温下でのalpha-stat strategyの脳組織に及ぼす影響を中心に実験をすすめた。軽度低体温(34℃)体外循環を90分間、Hct値30%、alpha-stat管理下に施行した。実験終了後、体外循環から離脱しカニューレを抜去し閉創をおこない、その後循環呼吸管理をおこない、人工呼吸器からの離脱をはかった。一週間経過観察をおこない、その間に毎日、実験内容を知らされていない獣医による行動評価をおこなった。行動評価にはNeurological Deficit Score(NDS)およびOverall Performance Categories(OPC)を用い、また一週間目に動物を犠牲死せしめ脳組織の顕微鏡的観察をおこなった。病理組織的診断は実験内容を知らされていない病理医がおこない、細胞レベルの虚血の有無を点数化し実験のendpointとした。【結果】NIRSは特別異常な経過を示さなかった。NDS, OPCともに一週間正常値を示し、豚は外見上異常行動を認めなかった。しかしながら脳組織Neocortex, Hippocampusを中心に虚血性変化を認めた。【考察・結論】Hct30%、軽度低体温下の小児体外循環において、現在多くの施設で汎用されているalpha-statstrategyでは組織レベルの脳障害を惹起している可能性が示された。行動評価が正常範囲内であることから、臨床上問題とならない軽微なものである可能性が高いが、脳高次機能の点では疑問が残り、良好な脳循環を確保しやすいpH-stat strategyの導入がこれを解決することが期待される。今後、血液希釈の程度との相互作用についての慢性実験の重要性が示唆された。