著者
安田 徳子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.56, no.7, pp.53-61, 2007-07-10 (Released:2017-08-01)

『伊勢物語』は、中世注釈書の理解を基盤に中世芸能に取り込まれ、多数の作品を生み出したが、近世に至ってもその傾向は衰えず、浄瑠璃や歌舞伎でも草創期から多数の『伊勢物語』摂取の作品がある。やはり注釈書の理解を基盤としているが、中世の能が叙情を主眼とするのに対して、歌舞伎・浄瑠璃は叙事を主眼とした。そのため、『伊勢物語』に語られない出来事を付与し、歴史的事件の中に『伊勢物語』を位置づけ、加えて近世的封建社会に相応しい解釈を施し、歴史の複雑な背景として読み解いてみせた。
著者
石田 正臣 野口 達彦 篠田 清徳 細井 卓二
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
工業化学雑誌 (ISSN:00232734)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.330-335, 1963-03-05 (Released:2011-09-02)
参考文献数
21

リン鉱石と硫酸との反応によって,過リン酸石灰を製造する時の反応条件と,初期反応生成物の硬化状態,化学成分等との関係を明らかにするために,リン鉱石(主としてフロリダリン鉱石)と硫酸とを混合反応させてから,各時間毎に生成物の針入度測定,流動期測定および化学分析を行ない考察を加えた。さらに過リン酸石灰の貯蔵中の固結の原因を解明するために,反応生成物のX線回折試験,熱天秤による加熱重量変化測定も行なった。結果は次の通りであった。(1)反応条件として,配酸比100,リン鉱粉粒度200メッシュ通過80%,硫酸温度50~60℃,硫酸濃度67~69%の時,反応速度が大で,生成物の状態も比較的良好であった。(2)遊離硫酸(F-H2SO4)の消費速度が大で,Ca(H2PO4)2・H2O,CaSO4,CaSO4・1/2H2O等の固体結晶成分が速やかに,かつ十分に生成するような条件下では,遊離リン酸(F-P2O5)や遊離水(F-H2O)も減少して,生成物は粘着性少なく状態が良好で,こういう製品ではまた貯蔵中の固結等の現象も起こりにくく,取り扱いが容易である。貯蔵中の固結は,主として,結晶水をとる固体結晶成分の析出,すなわち,生成物中に反応開始後長時間F-H2SO4が残存したり,生成物の温度の低下によって, 堆積山での多量のCa(H2PO4)2・H2O の生成析出, 硫酸カルシウム(CaSO4) の溶解およびCaSO4・2H2Oの析出等が起こり,その際の水和反応によって,製品を構成する粒子と粒子の間に,架橋を生じ,さらにF-H2O,F-P2O5,Fe化合物,Al化合物等の粘着性物質の共存が,その結合を強めることなどに原因すると考える。
著者
松本 英顕 江原 史雄 小山 玲音 笹川 智史 原口 智和 宮本 英揮 龍田 典子 上野 大介
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.233-239, 2021-07-25 (Released:2021-11-14)
参考文献数
23
被引用文献数
2 3

和牛(黒毛和種・繁殖雌牛)のストレス数値化技術として,皮膚ガスをマーカーとして利用する手法に着目した.本研究では基礎的検討として,皮膚ガスのサンプリング手法および分析技術の高度化に取り組んだ.サンプリング手法として,牛に特化したサンプリングデバイスを作製し,固相吸着剤を腰部に近い背部に装着させる手法を開発した.本手法で捕集された皮膚ガスをGC-MS分析に供試したが,特徴的なピークを検出することはできなかった.そこでにおい嗅ぎガスクロマトグラフ(GC-O),ガスクロマトグラフ分取システム(GC-F),およびガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)を用いて分析したところ,黒毛和種の皮膚ガスに特徴的なにおい物質として(E)-3-Octen-2-oneを同定した.本研究は大型畜産動物の皮膚ガスを同定した初めての報告である.将来的に本技術を活用して皮膚ガスとストレスの関係を検証し,パッチテストや嗅覚センサーを用いた非侵襲的なストレス数値化技術の実用化につながることが期待される.
著者
黒瀬 にな
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2021-04-28

近代法システムの前提を取り払った時、訴訟は限りなく陳情に近接するものの、すべてが政治に回収されうる訳ではなく、〈法〉に訴えるという行為は多かれ少なかれ「規範的な正しさ」を指向すると考えられる。日本の平安時代~南北朝時代においては、所領支配や職階制に基づく人的・制度的関係をたどって出訴するのが一般的であり、このことは研究上「本所法廷主義」と命名され、裁判管轄原則と捉えられている。その一方で、当時の訴訟では縁故関係が多大な役割を果たしており、正式な帰属関係と非正式な縁故関係の両者の関連性が問題となる。本研究はこの点に着眼し、訴訟手続に係る正当性の日本中世固有のあり方を明らかにするものである。
著者
飯島利彦著
出版者
山梨県寄生虫予防会
巻号頁・発行日
1965
著者
永吉 美智枝 斉藤 淑子 足立 カヨ子 高橋 陽子 谷川 弘治
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.150-156, 2020 (Released:2020-09-03)
参考文献数
19
被引用文献数
1

本研究は,小児がん経験者が復学後の成長発達過程における生活上で経験した困難を明らかにし,心理社会的フォローアップのあり方を検討することを目的とした.18歳以上26歳未満の小児がん経験者14名を対象に半構造化面接を行った.分析の結果,94個のコードから37のサブカテゴリー,15のカテゴリー,6の大カテゴリーが生成された.困難を構成する要素は,学校生活と就労に関連していた.小児がん経験者には,[化学療法後の体力低下による長期間の授業の欠席]など【学校生活の大変さ】が生じていた.【友人関係・コミュニケーションの難しさ】においては,[体力低下や治療により友達との集団行動ができないもどかしさ]を感じ,【入院前の自分との違いに対する混乱・葛藤】が生じていた.また,【学習の遅れ】を取り戻すには時間を要し,治療による出席日数の少なさから【進学上の不利】を生じていた.【身体・心理的晩期合併症】は修学や成人以降の心理へ影響を及ぼしていた.小児がん経験者が学校生活を通して自己概念を再構築し,新しい役割を探求するプロセスにおける心理社会的問題について,教員と医療者が相談する体制をつくり,継続的に支援する重要性が示唆された.
著者
加賀谷 悦子
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第129回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.183, 2018-05-28 (Released:2018-05-28)

クビアカツヤカミキリAromia bungiiは近年日本に侵入した外来生物であり、サクラ、モモ等のバラ科樹木を加害して問題となっている。特定外来生物に今年指定され、その防除は喫緊の課題である。樹皮下で生育する幼虫については、樹木の伐倒駆除や排糞孔への殺虫剤注入で防除が進められている。一般に、一次性穿孔性昆虫の死因は、樹木による防御が多い。つまり、幼虫の多くが孔道に浸潤する樹液や樹脂に溺れることで死亡する。本種の被害木にも樹液の樹皮上への流出が認められることが多く、樹木の抵抗により幼虫が死亡していることが推察される。そこで、本研究ではソメイヨシノの被害樹で、樹液の流出箇所の掘り取り調査を行い、その樹皮下の孔道の有無及び幼虫の生存を調査した。14箇所の樹液流出部位の樹皮を除去したところ、全ての箇所で樹皮下に孔道が認められ、本種の加害による防御であることが確認された。その中で、幼虫は8孔で生存していた。そのため、幼虫の駆除は盛んにフラスが排出されているところだけではなく、樹液が流出しているところでも実施することが必要であることが判明した。
著者
河村 フジ子 中島 茂代 森 清美
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
家政学雑誌 (ISSN:04499069)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.295-298, 1977-07-20 (Released:2010-03-09)
参考文献数
2

ゼラチンゲルの特性に及ぼすタンニン酸の影響をみた結果を要約すると次のようになる。1) ゼラチンゾルに10鐙9%または100mg%のタンニン酸を加えてpH5 (等電域) に調整すると, ゾルの明度は低下し, ゲル化しにくくやわらかいゲルを形成するが, タンニン酸10mg%添加ゾルはpH3, pH6ともに, タンニン酸100mg%添加ゾルはpH3の場合はいずれも対照 (pH調整ビラチンゾル) よりゲル化しやすい.2) ゼラチンゾルがタソニン酸により沈殿する場合でも, 保温しつつ十分攪拌すると, 沈殿の一部が溶けて, ゲル形成が阻害されるのをある程度防ぐことができる.3) タンニン酸添加ゾルに砂糖を加えるとゲル化しやすく, 硬いゲルを形成する.ゾルのpHによるゲルの硬さの差は砂糖無添加の場合と同じ傾向を示す.4) リンゴ汁添加ゾルは糖やペクチンを含むが, pHが5に近く, タンニンを含むので, 対照ゲル (無添加ゼラチンゲル) とほぼ同程度のゲルを形成する.コーヒー液添加ゾルのpHも5に近く, 多量のタンニンを含むのでやわらかいゲルとなり, 紅茶液添加ゾルのpHは6に近く, タンニンも少ないので, 硬いゲルとなる.
著者
加藤 尚吾 加藤 由樹
出版者
AI時代の教育学会
雑誌
AI時代の教育論文誌 (ISSN:24364509)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-6, 2020 (Released:2021-09-10)
参考文献数
16
被引用文献数
1

LINEのグループトークのメンバーが返信を待たせる側と待つ(待たされる)側の双方の立場に置かれているときに,それぞれの立場においてメンバーのネガティブ感情の発生の有無によるメンバーのLINEに登録されている「友だち」及び「グループ」の数の差を比較した。その結果,調査票で設定した多くの状況で,ネガティブ感情が発生する人のほうが発生しない人よりも「友だち」及び「グループ」の数が多かった。続いて,上述の結果をふまえてネガティブ感情が発生する人に注目し,ネガティブ感情の発生のタイミングと「友だち」及び「グループ」の数との関係を分析した。その結果, 主に既読状態で返信を待つ状況においてネガティブ感情の発生までの時間の長さと「友だち」及び「グループ」の数に正の相関がいくつか認められた。
著者
Karsten Wegner Björn Schimmöller Bénédicte Thiebaut Claudio Fernandez Tata N. Rao
出版者
Hosokawa Powder Technology Foundation
雑誌
KONA Powder and Particle Journal (ISSN:02884534)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.251-265, 2011 (Released:2014-03-29)
参考文献数
37
被引用文献数
55 73

With the rapid advancement of nanotechnology and with nanoparticles beginning to enter into products, the demand for production-level quantities of advanced nanopowders such as multi-component or coated oxides is rising. Such advanced nanoparticles can be effectively made by flame spray pyrolysis (FSP), and research with laboratory reactors yielded a spectrum of new nanomaterials for catalysis, pigments, ceramics, optics, energy and biomaterials, among others. Here, the transfer of FSP nanopowder synthesis from gram-level lab-scale to pilot reactors with up to 10 metric tons annual production rate is investigated by the example of FSP pilot plants that were realized in industrial-oriented settings. Design considerations for such pilot-scale systems are addressed and guides to production cost estimates are given. Special attention is brought to safe and contained nanoparticle manufacture in order to address the growing awareness of the potential health and environmental effects of nanoparticles.