著者
中井 彩香 沼崎 誠
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.si5-9, (Released:2023-04-04)
参考文献数
31

本研究は,コロナ禍において友人の過去の旅行,あるいは未来の旅行を知ったときの悪性妬み・良性妬み・友人を低める動機・旅行動機の強さを検討した。友人が旅行に行く,あるいは旅行に行った話を聞いたというシナリオを用いて,自分も旅行計画を立てていたが行けなかったという情報を含めるかどうかを変えることで旅行計画の有無を操作した。参加者はシナリオを読み,妬みや他者を低める動機,旅行動機を感じた程度を回答した。その後,コロナ禍において参加者自身が外出を自粛していた程度を回答するように求めた。結果として,外出自粛行動をしている人においてのみ,自分が旅行に行けなかったという情報を与えられた場合は,友人が旅行に行く話よりも旅行に行った話を聞いたときのほうが,悪性妬みが強いことで,友人の悪口を言うなど友人を低める動機と友人よりも豪華な旅行に行く動機が強かった。本研究で得られた知見から,未来の出来事の不確実性が顕著であるときは,他者の過去の出来事よりも未来の出来事に対してのほうが悪性妬みが強いことが示唆された。
著者
樅木 麻奈 西村 勇也
出版者
電気・情報関係学会九州支部連合大会委員会
雑誌
電気関係学会九州支部連合大会講演論文集 平成26年度電気・情報関係学会九州支部連合大会(第67回連合大会)講演論文集
巻号頁・発行日
pp.212, 2014-09-11 (Released:2016-02-10)

振動している膜や薄い板の上に砂や塩などの細かい粒子を撒くと,振動の節の部分にその粒子が集まり幾何学的な模様を描く.この模様をクラドニパターンと呼び,手軽に固有振動を目で見ることができる音響現象の多くは目で見ることが出来ず,音波伝搬の可視化技術は音響工学の基礎教育において音の性質の理解を助ける有効な手法である. そこで本研究では,まず音響解析によく利用される Bessel 関数を用いて円形膜の振動解析を行い,クラドニパターン発生時の音波伝搬状態をグラフ化することで音場全体を把握する.続いて,実際に粉末図形実験装置を製作し,膜の音波伝搬の可視化を行う.得られた粉末図形と理論値を比較することでその音響メカニズムを検証する.
著者
福山 佑樹 森田 裕介
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.365-374, 2014-02-20 (Released:2016-08-10)
被引用文献数
1

社会的ジレンマにおいて協力行動を取ろうとする「道徳意識」を獲得するためのカードゲーム教材である「The irreplaceable Gift」を開発した.ゲームは,参加者にこれまでのゲームでは体験できなかった「社会的ジレンマによる悪影響の時間的遅れ」を体験させ,協力行動を取ろうとする道徳意識を獲得することができるようにデザインされた.「The irreplaceable Gift」を用いた実験群と,「時間的遅れ」の要素を除いたゲームを用いた統制群との比較実験の結果,本ゲームの参加者は「道徳意識」を獲得しており,その獲得はゲーム終了時のリフレクションを通して「未来への世代」への影響を参加者が判断した結果によることが示唆された.
著者
劉 筱丹 阿曽 洋子
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.2_75-2_84, 2011-06-01 (Released:2016-03-05)
参考文献数
24

本研究は,看護の専門職的自律性測定尺度の中国語版を作成し,中国H省H市医科大学付属病院の臨床看護師450名を調査対象者として,信頼性と妥当性の検証を行なった。また,中国における職位および経験年数と自律性の関係を明らかにした。尺度の中国語版と日本語版では因子構造に違いがみられた。専門職的自律性の平均得点は,職位の高いものは専門職的自律性も高い傾向がみられた。また,経験年数が増えるにつれて,専門職的自律性の平均得点が上昇する傾向もみられた。 中国においては,看護師の免許は2年毎の更新制であることに加え,高い業務上職位を得るためには,継続教育を受ける必要がある。このようなシステムが自律性の形成に寄与している可能性がある。経験年数増加に伴う自律性平均得点の上昇傾向は,仕事を続けやすい社会的背景が一因と考えられた。
著者
後藤 康彰 西尾 真由美 田中 秀宗 芳賀 康平 有泉 健
出版者
一般財団法人 日本健康開発財団
雑誌
日本健康開発雑誌 (ISSN:2432602X)
巻号頁・発行日
pp.202344G04, (Released:2023-03-30)
参考文献数
34

背景・目的 温泉地で仕事仲間と余暇を楽しみながら働く過ごし方(温泉ワ―ケーション)が、心身にもたらす効果を検討することを目的とした。方法 2020年12月~2022年3月に、インフォームドコンセントを得られた、リモートワーク導入企業等で働く健常成人133名(男性95名、女性38名、平均年齢38.7歳、SD10.8)を対象とした。被験者は企業単位を原則とし、2泊3日温泉地で自由に過ごす群(以下未介入群:104名)、3泊4日温泉地で健康関連アクティビティ(入浴・運動・食事・休養等)提供を受け過ごす群(以下介入群:29名)に分かれ、全国の温泉地(延べ25か所)で温泉ワ―ケーションを実施した。滞在前後に末梢血液循環、自律神経機能、唾液アミラーゼ活性、歩行能力・柔軟性、健康関連自己評価(12項目)、気分・精神の状態(POMS2短縮版)、消化器疾患症状尺度(GSRS)を測定した。結果 介入群・未介入群ともに、唾液アミラーゼ活性、歩行能力・柔軟性、気分・精神の状態(8下位尺度)、健康関連自己評価、消化器症状の有意な改善が認められた。介入群では、末梢血液循環の有意な改善、自律神経(交感神経・副交感神経機能)の有意な賦活も認められた。考察 温泉ワ―ケーションが心身に多様なベネフィットをもたらし、滞在中の健康関連アクティビティがベネフィットを増幅する可能性が示唆された。今後も温泉地を活用した働き方・健康づくりのあり方を検討し、勤労者・企業・温泉地への貢献に取り組みたい。
著者
榮 慶丈 西川 直宏 塚本 修一朗 鈴木 孝禎 岡本 祐幸
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.136, no.1, pp.113-120, 2016-01-01 (Released:2016-01-01)
参考文献数
27

Molecular simulations have been widely used in biomolecular systems such as proteins, DNA, etc. The search for stable conformations of proteins by molecular simulations is important to understand the function and stability of proteins. However, finding the stable state by conformational search is difficult, because the energy landscape of the system is characterized by many local minima separated by high energy barriers. In order to overcome this difficulty, various sampling and optimization methods for the conformation of proteins have been proposed. In this study, we propose a new conformational search method for proteins based on a genetic algorithm. We applied this method to an α-helical protein. We found that the conformations obtained from our simulations are in good agreement with the experimental results.
著者
田中 大介 江花 薫子
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
農研機構研究報告 (ISSN:24349895)
巻号頁・発行日
vol.2023, no.13, pp.35-45, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
72

近年,農業技術や環境の急速な変化,人口増加などにより,遺伝資源の多様性が脅かされている.遺伝的な多様性保全は,貴重な資源を次の世代に伝えるための最も重要な課題のひとつである.したがって,遺伝資源を最適な条件下で長期にわたり維持・保管することが急務である.液体窒素を用いた超低温保存は,遺伝資源を維持する上で最も信頼性が高く,コスト効率とスペース効率が高く,安全な方法である.植物の茎頂分裂組織,菌糸体,胚,精子,精巣,卵巣および始原生殖細胞などの多様な生物材料に適用されているガラス化を基礎とした長期保存法について解説する.
著者
小林 暁雄 坂井 寛章 桂樹 哲雄 伊藤 研悟 稲冨 素子 江口 尚 川村 隆浩
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
農研機構研究報告 (ISSN:24349895)
巻号頁・発行日
vol.2023, no.13, pp.23-33, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
15

農研機構内のプロジェクトや研究部門・センター毎に進められているバイオ研究課題では,データ管理や解析ツール開発が一元化しておらず,データの分散や個別化が問題となっている.これを解決するため,研究課題のニーズに基づきリソースを集約・重点化することにより資源の活用を効率化し,研究成果の最大化に繋げるためのプロジェクトが機構内組織横断的に進められている.本プロジェクトでは,機構の持つ高度計算資源を連携してオミクス情報を収集・解析し,研究データの来歴保証と研究の効率化を実現する解析パイプラインシステムの構築が取り組まれている.この計算資源には,機構内のゲノム解析サーバ及びスーパーコンピュータ「紫峰」を用いるとともに,ゲノムデータと解析されたデータを保存・機構内横断で提供する基盤として,農研機構統合DB を用いる.さらに,DDBJ Sequence Read Archive に準ずるメタデータを採用し,機構内で横断的にゲノムデータを解析・検索可能な解析パイプラインシステム を実現する. 本稿では,メタデータ入出力システムの詳細について解説するとともに,パイプラインシステムの現状と課題について議論を行う.
著者
熊谷 真彦 坂井 寛章
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
農研機構研究報告 (ISSN:24349895)
巻号頁・発行日
vol.2023, no.13, pp.89-97, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
17

近年のシーケンシング技術の進展により多量のゲノムデータが得られるようになり,同時に遺伝的多型と表現型との関連を解析するGenome Wide Association Study (GWAS) も盛んに行われている.これらの情報を誰もが簡単な操作で閲覧することを可能にし,また公開することでデータの利活用を促進することを目的としてウェブブラウザTASUKE の開発を行った.TASUKE は多サンプルのゲノムリシーケンスデータから得られる多型情報やGWAS の解析結果を幅広い解像度で情報量豊かに表示する.数百サンプル以上の一塩基多型や挿入欠失といった多型情報およびそれらの遺伝子への効果情報,デプス情報,遺伝子アノテーション情報,GWAS のマンハッタンプロット等を並列的に表示し,1 塩基対の解像度から最大2,000 万塩基対までの広い範囲の情報をスムーズに閲覧することが可能である.これにより,各サンプル間の関係を遺伝子から広域なゲノム領域のレベルで理解することができ,また,GWAS 結果から表現型多型の原因遺伝子の候補を探索することが容易になる.さらに,ゲノムデータの閲覧から得られた情報を実験で活用するため,任意の多型サイトや領域に対して,多型情報を考慮したプライマーの設計や系統樹作成等のさまざまな機能が実装されている.本TASUKE システムの概要を活用例と合わせて紹介する.
著者
Saki Gotoh Kohji Kitaguchi Tomio Yabe
出版者
The Japanese Society of Applied Glycoscience
雑誌
Journal of Applied Glycoscience (ISSN:13447882)
巻号頁・発行日
pp.jag.JAG-2022_0015, (Released:2023-04-04)

Pectin, a type of soluble fiber, promotes morphological changes in the small intestinal villi. Although its physiological significance is unknown, we hypothesized that changes in villus morphology enhance the efficiency of nutrient absorption in the small intestine and investigated the effect of pectin derived from persimmon on calcium absorption using polarized Caco-2 cells. In polarized Caco-2 cells, pectin altered the mRNA expression levels of substances involved in calcium absorption and the regulation of intracellular calcium concentration and significantly reduced calcium absorption. Although this was comparable to the results of absorption and permeability associated with the addition of active vitamin D, the simultaneous action of pectin and active vitamin D did not show any additive effects. Furthermore, as active vitamin D significantly increases the activity of intestinal alkaline phosphatase (ALP), which is known to be involved in the regulation of intestinal absorption of calcium and lipids, we also investigated the effect of pectin on intestinal ALP activity. As a result, it was found that, unlike the effect of active vitamin D, pectin significantly reduced intestinal ALP activity. These results suggest that pectin stimulates polarized Caco-2 cells through a mechanism distinct from the regulation of calcium absorption by vitamin D, modulating total calcium absorption from the elongated villi through morphological changes in the small intestine by suppressing it at the cellular level.
著者
松村 幸輝 河元 勝
出版者
一般社団法人 電気学会
雑誌
電気学会論文誌C(電子・情報・システム部門誌) (ISSN:03854221)
巻号頁・発行日
vol.132, no.3, pp.455-466, 2012-03-01 (Released:2012-03-01)
参考文献数
32

This paper proposed a new technique which makes the strategy trees for the derivative (option) trading investment decision based on the behavioral finance theory and optimizes it using evolutionary computation, in order to achieve high profitability. The strategy tree uses a technical analysis based on a statistical, experienced technique for the investment decision. The trading model is represented by various technical indexes, and the strategy tree is optimized by the genetic programming(GP) which is one of the evolutionary computations. Moreover, this paper proposed a method using the prospect theory based on the behavioral finance theory to set psychological bias for profit and deficit and attempted to select the appropriate strike price of option for the higher investment efficiency. As a result, this technique produced a good result and found the effectiveness of this trading model by the optimized dealings strategy.
著者
大貫 麻美 鈴木 誠
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.513-526, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
27

自然科学に関する幼児期からの継続的なコンピテンス基盤型教育の重要性は近年,国際的に周知されている。一方で,日本では,生命科学を科目として扱う幼児教育はなされていない。本論文では,日本の幼児教育において実施可能な生命科学に関するコンピテンス基盤型教育の検討のために,幼児期に育成が期待される生命科学に関する資質・能力の整理を試みた。まず,幼児期の生命科学教育が設定されている米国,オーストラリア,フィリピンの幼児教育スタンダードを調査し,先行研究に依拠しながら整理した。また,日本と同様に生命科学に関する科目設置のないフィンランドのコンピテンス基盤型幼児教育についても調査,分析を行った。これらの知見を基に,幼児期に育成が期待される生命科学に関する資質・能力について,日本の幼稚園教育要領を参照しながら考察を行った結果,日本の幼児教育で扱われる5領域全体を横断する形での学びが期待されることが分かった。
著者
横田 理 押尾 茂
出版者
一般社団法人 日本DOHaD学会
雑誌
DOHaD研究 (ISSN:21872562)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.103-108, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)

医薬品候補化合物のおよそ10%弱に精巣毒性が生じる。この毒性は結果として、精子形成サイクルを経て精子へと伝わるため、生殖細胞系列に生じたゲノム異常が精子まで残され蓄積すると、受精を介して父親由来の先天異常などの発生毒性のリスクとなり得る。本稿では、化学物質と精巣毒性について概要を整理し、Developmental Origins of Health and Disease (DOHaD) 学説では比較的評価の遅れている雄性生殖の側から発生・発達毒性を考える場としたい。
著者
中村 彰男 河原田 律子
出版者
一般社団法人 日本DOHaD学会
雑誌
DOHaD研究 (ISSN:21872562)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.117-125, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)

日本では、社会システムの変化に伴い出産年齢は上昇し、糖尿病合併妊娠や妊娠糖尿病が増えている。糖尿病の母親の子宮内環境では、胎盤を介した高血糖状態が、過度なタンパク質の糖化反応による終末糖化産物(AGEs)の産生やその受容体を介した酸化ストレスや炎症を引き起こし、その結果、胎児の各臓器にインスリン抵抗性などのシグナル伝達障害をもたらすと考えられる。胎児期のシグナル伝達障害は、子どもの将来の疾患発症と深く関係することが明らかとなっている。実験モデル動物やモデル細胞を用いた我々の研究によって得られた、母体の糖代謝異常が胎仔に与える影響の分子機構の解明について最新の知見を紹介する。また、母体のインスリン抵抗性に対する薬物療法として、本邦ではインスリン以外の経口血糖降下薬の妊婦への使用は認められていないため、一次予防としての先制医療に繋がる機能性食品の探索研究の重要性についても論じる。
著者
桂樹 哲雄 森 翔太郎 十一 浩典 石川(高野) 祐子 小林 暁雄 伊藤 研悟 山本(前田) 万里 川村 隆浩
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
農研機構研究報告 (ISSN:24349895)
巻号頁・発行日
vol.2023, no.13, pp.47-61, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
15

農研機構では,2012-2015 年度に実施した機能性農林水産物・食品開発プロジェクトの成果物を元に,農林水産物が持つ機能性成分について文献情報と共に整理し,「機能性成分・評価情報データベース」として2018 年より公開している.一方,2019 年から,農研機構は島津製作所と共同で「食品機能性成分解析共同研究ラボ(NARO 島津ラボ)」を設置し,機能性農林水産物に関する様々な分析を実施してきた.また,農研機構内には戦略的イノベーション創造プログラム第2 期「スマートバイオ産業・農業基盤技術」(SIP2)の分析データも存在する.このたび農研機構では,機構内で得られた食品機能性成分データを一か所に集める狙いから,「機能性成分・評価情報データベース」,「NARO 島津ラボ」のデータ,SIP2 の成果等を集約し,「農研機構食品機能性成分統合データベース」を開発した.収録するデータには,公開情報だけでなく閲覧者を制限すべきクローズドデータが含まれるため,柔軟なユーザ認証機能を導入し,適切なアクセス管理を行えるようにした点に特徴がある.本データベースでは,データの属性に応じて検索結果をグループ化して表示するファセット検索機能やグラフ表示機能などを実装した.
著者
十一 浩典 関山 恭代
出版者
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
農研機構研究報告 (ISSN:24349895)
巻号頁・発行日
vol.2023, no.13, pp.99-105, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
20

メタボロミクスとは生物の代謝物を網羅的に調べ,それらを解析することで生命現象を捉えようとする研究手法である.一般的には,液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーなどの分離装置と質量分析計を組み合わせることで試料中に存在する代謝物を分離し,これらを一斉かつ網羅的に測定して代謝物の総体(メタボローム)情報を得た後,種々の解析方法を用いて得られた情報の意義を考察する.近年では,メタボロミクスの発展と共に培われた分析技術・解析技術を応用し,農産物・食品を対象とした研究が活発に行われており,本稿では農産物に含まれる機能性成分に主眼を置いて実施したメタボローム解析について述べる.まず農研機構が保有する来歴が明らかな農産物に含有される代謝物を75%エタノールで抽出し,これらをペンタフルオロフェニルプロピル(PFPP)カラムで分離後,Q-TOF/MS で各成分の保持時間,および質量情報を得た.続いて差分解析により試料間で差異が見られた成分を特定し,来歴情報に照らして差異の意義について考察した.解析結果の一部を紹介し,将来の展望について解説する.