著者
藤澤 知績 海野 雅司
出版者
一般社団法人 日本生物物理学会
雑誌
生物物理 (ISSN:05824052)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.331-333, 2022 (Released:2023-01-25)
参考文献数
9

左右円偏光の光をキラル分子に入射して得られるラマン散乱光の強度には微差が生じる.これはラマン光学活性と呼ばれて,溶液中の分子のコンフォメーションを鋭敏に反映した分光スペクトルを示す.本稿では,ラマン光学活性を利用したプロテオロドプシン(バクテリアの光駆動型H+ポンプ)の活性部位の構造解析を紹介する.
著者
岡本 紘幸 濡木 理
出版者
一般社団法人 日本生物物理学会
雑誌
生物物理 (ISSN:05824052)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.341-344, 2022 (Released:2023-01-25)
参考文献数
10

メラトニン受容体は睡眠障害の治療標的として注目を集めるGタンパク質共役型受容体だが,詳細な活性化機構は不明であった.本稿では,クライオ電子顕微鏡による解析で得られた立体構造情報から解明された,睡眠障害の治療薬によってメラトニン受容体が活性化し,下流のGタンパク質と共役する詳細な構造基盤を紹介する.
著者
岸川 淳一 横山 謙
出版者
一般社団法人 日本生物物理学会
雑誌
生物物理 (ISSN:05824052)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.354-356, 2022 (Released:2023-01-25)
参考文献数
9

回転分子モーターである好熱菌V/A-ATPaseのATP加水分解反応中の複数の中間体構造をクライオ電顕で捉えた.得られた構造から,3つの触媒部位で起こる反応(ATP結合・ATP加水分解・反応産物の放出)と回転軸の120°回転が協奏するtri-site機構で機能することが明らかになった.
著者
堤 英敬
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.76-89, 2019 (Released:2022-09-12)
参考文献数
32
被引用文献数
1

2000年代半ば以降,自民党では公募や予備選といった開放的な方法を通じた候補者選定が行われている。候補者選定は議会政党の構成を規定する重要な機会であるにもかかわらず,なぜ自民党は党によるコントロールを弱めるような改革を進めてきたのだろうか。本稿では,自民党の候補者選定が地方組織主導でなされていることに着目し,選挙区レベルでの地方組織を取り巻く環境やその組織的性格が,開放的な候補者選定方法の採用に及ぼす影響について検討を行った。2005年以降の国政選挙を対象とした候補者選定方法の分析からは,選挙でのパフォーマンスが振るわない選挙区や(衆院選では)伝統的な支持団体の動員力が弱い選挙区で,公募等の開放的な方法が採用されやすいこと,また,公募制を採用するにしても,既存の支持団体や党員組織に配慮した候補者選定方法が採られていることが明らかになった。
著者
山元 敦也
出版者
Okayama Medical Association
雑誌
岡山医学会雑誌 (ISSN:00301558)
巻号頁・発行日
vol.105, no.5-6, pp.629-639, 1993 (Released:2009-03-30)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

It was previously reported that the elevation of inorganic fluorine level in plasma after inkalation of methoxyflurane causes acute renal failure. This study investigated whether the peak concentration or the duration of the inorganic fluorine is responsible for the renal failure. Continuous infusion (5 millimols/liter and 10 millimols/liter) or a single intravenous bolus injection (720 millimols/liter) of sodium fluoride solution was administered to rabbits. The plasma concentration and the duration of the plasma fluorine was measured.There werer no signs of pathological or biochemical changes that suggested renal failure when the peak plasma concentration was less than 50 millimols/liter for over 4 hours (5 millimols/liter, 24 hours), or whether peak concentration of plasma inorganic fliorine was over 50 millimols/liter for less than 4 hours (720 millimols/liter, intravenous bolus). However when 10 millimols/liter of sodium fluoride solution was administered at a speed of 10 milliliters/hour for 24 hours, the rabbits showed a peak plasma inorganic fluorine concentration over 50 micromols/liter for more than 4 hours and signs of renal failure developed ata plasma concentration of 65.8 micromols/liter 24 hours after the beginning of infusion. renal failure was mainly inthe form of edema of the tubular cells in both the cortex and medulla and abnormal biochemical changes (blood urea nitrogen 55.8±12.5 milligrams/deciliter, plasma creatinine 1.2±0.1 milligrams/deciliter).Inorganic fluorine can cause renal changes when its paek plasma concentration reaches more than 50 micromols/liter and lasts for more than 4 hours.
出版者
Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.1-45, 2022 (Released:2022-01-19)

形態の比較ならびに分子系統解析により,ジャゴケ属Conocephalum とヒメジャゴケ属Sandea は,そ れぞれ世界に6 種と3 種を持つ独立の属であることが示された(Akiyama and Odrzykoski 2020).こ のうちジャゴケ属については日本には4 種,台湾には3 種が分布する.本論文ではこの成果ならびにジ ャゴケ探検隊のメンバーによって日本全国各地ならび台湾から得られた生植物を用いた形態と分布につい ての詳細な検討に基づき,これまで和名だけが与えられていた日本と台湾に分布するジャゴケ属植物3 種 のそれぞれを,オオジャゴケC. orientalis H. Akiyama,ウラベニジャゴケC. purpureorubrum H. Akiyama,そしてマツタケジャゴケC. toyotae H. Akiyama を新種として記載した.また北半球冷温帯 に広く分布するタカオジャゴケC. salebrosum についても,日本・台湾産標本に基づいてヨーロッパ産植 物との違いを比較検討して記載を与えた.
著者
髙野 愛子
出版者
法政大学大学院
雑誌
大学院紀要 = Bulletin of graduate studies (ISSN:03872610)
巻号頁・発行日
vol.86, pp.13-29, 2021-03-31

本研究では,大学生を対象に2つのじゃんけんの手に対する勝敗判断課題を実施し,勝敗の判断基準に関する教示を与えずに,指の本数の多い方を勝ちとする数量に応じた勝敗判断を随伴性形成することを試みた。実験1では2色の背景色を用いて,数量とじゃんけんに応じた勝敗判断を分化強化した。数量に応じた勝敗判断が自発されない参加者には,通常じゃんけんに使用されない手を選択肢に追加して提示した。分析対象とした12名のうち,正誤フィードバックに従って勝敗判断が正しく分化したのは3名のみであり,じゃんけんの手同士の組合せの提示が,日常生活におけるじゃんけんの勝敗関係に基づく勝敗判断を強力に喚起することが示唆された。実験2では,数量に応じた勝敗判断を正反応とし,これを強制的に自発させて強化する強制選択条件を実施した。加えて,自由選択条件への移行に先立ち,プロンプトフェイディング法の導入有無を参加者間で変化させた。正誤フィードバックに従わず一貫してじゃんけんに応じた勝敗判断を示した4名の参加者のうち,プロンプトフェイディング法を導入しなかった2名は,強制選択条件の提示の中止に伴い正反応率の下降を示し,正誤フィードバックが提示されなくなると4名がじゃんけんに応じた勝敗判断を示した。このことから,数量に応じた勝敗判断が維持されない原因として,正反応の強制や正誤フィードバックの有無等の事象が勝敗判断の分化を招いたことが示唆された。
著者
樋口 卓也
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.720-725, 2018-10-05 (Released:2019-05-17)
参考文献数
19

エレクトロニクスの進歩の歴史は,その速度向上の歴史と言っても良い.エレクトロニクスの速度を決める要因は多々あるが,その中でも特にここでは電流をどれだけ短い時間で発生させられるかを考えてみよう.通常のエレクトロニクスが扱える時間よりもずっと短い時間だけ光るパルスレーザーを用いてその限界を調べる試みが進められている.フォトダイオードなどの通常の光受信機を用いると光のパルスが受信機を通っている間に徐々に電流は発生し,光の強度を電流として測定できる.しかしこの場合,我々が測定しているものは光強度の1周期平均であり,光の電場波形そのものではない.光の強度が強くなり,その光の電場の強さが物質の中で電子が感じている力よりも強くなると,電子が光の振動する一周期よりも短い時間で動き出すことができる.この時,電子の応答は光電場に対して非摂動的な非線形性を示し,応答の結果は光の(1周期を平均した)強度だけによっては決まらず,詳細な電場波形の時間発展の様子によって決定される.実際にこのような現象はこれまでガス状の原子や分子,透明な絶縁体などで発見されてきた.それではエレクトロニクスに欠かすことのできない良導体では光の電場で電子を駆動することはできるのだろうか.しかしこのような実験は電気を流す物質では実現が難しかった.これは金属は通常光の反射や吸収が強く,物質の中にまで強い光が届かないために,その中の電子が強い光を感じることができないからである.そこでグラフェンを用いることでこの困難を乗り越え,光の電場によって電子を駆動することで光の一周期より短い時間(1フェムト秒以下)で電流を流し始め,光の波形によってその電流の向きを制御することに成功した.グラフェンは良導体ではあるものの,原子一層分の厚みしかないために,光の反射や吸収が少ないという特徴がある.ここで重要となってくるのは,光が当たっている間,光の電場による加速によってグラフェン中の電子の運動量が時間とともに変化することである.この運動量の変化量が大きくなると,光と物質の相互作用を摂動展開した時にその展開が収束しない領域に達する.すると電子の運動はLandau-Zener過程のように振る舞い,光の1サイクルよりも短い時間で電子がバンド間を遷移するようになる.さらにこのような短い時間になると,電子の量子力学的な波としての性質が重要になってくる.この研究では,光の振動の半周期の間に起きる電子の波の経路干渉(Landau-Zener-Stückelberg干渉)によって電流の向きが決定されることが分かった.この経路干渉の結果は光によって駆動された電子の波数空間での軌道に大きく依存しており,光の偏光によってこの軌道を自在に操ることで電流の向きを光の1サイクルよりも短い時間でスイッチすることができることも明らかになった.光は1015 Hz程度の高い周波数で振動しているので,本来電気信号が扱えるよりもずっと多くの情報を単位時間あたりに運ぶことができる.この高い密度の情報を読み取れる原理が示されたことで,光を直接電気信号のように扱えるエレクトロニクス技術への一歩が踏み出せたと言える.
著者
山極 壽一
出版者
公益財団法人 日本学術協力財団
雑誌
学術の動向 (ISSN:13423363)
巻号頁・発行日
vol.27, no.9, pp.9_12-9_16, 2022-09-01 (Released:2023-01-27)
参考文献数
4

現在、私たちは人新世(Anthropocene)と呼ばれる時代にいる。それは1950年代以降に始まったグレート・アクセレーションという、人口、海外投資額、化学肥料の使用量、海外への旅行者数などに見られる急激な増加に直面していることを意味する。その結果、地球上の哺乳類のバイオマスの9割以上を人間と家畜が占め、地球の陸地の4割以上が人間と家畜の食料を生産する畑地と牧場に変わってしまった。地球の限界を示す9つの指標のうち、生物多様性とリンと窒素の循環がもう限界値を超えている。このままでは地球も人類も共倒れになってしまう。いまここで立ち止まって人類の進化と文明史を振り返り、われわれがどこで間違ったかを考えてみなければならないのではないか。それが本発表の主旨である。
著者
竹内 政夫
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.307-315, 2021 (Released:2021-12-17)
参考文献数
24

視界が白一色になり交通に危険をもたらす視界ゼロのホワイトアウトが日常的に使われるようになった.しかしホワイトアウトの定義も実体も曖昧であり,人により受ける語意やイメージの違いは大きい.ホワイトアウトの実体を理解しやすくするため,同じ様に視界が白一色に見える極地で発生するWhiteout と比較した.この二つには気象用語の視程がゼロの共通イメージがある.しかしホワイトアウトは視程が小さくなると発生するが,Whiteout は視程100m 以上でも発生し視程は比較の物差しにはならない.物理的には空中浮遊物の有無という発生メカニズムに違いがある.また吹雪時のホワイトアウトでは雪粒子が可視大であることため,同じ粒径や形状でも眼の近くにあるほど残像の影響も大きくなり視程を低下させてもいる.共通する部分では光と雪粒子の相互作用や広い雪原などの周辺環境が人間の感じ方に影響して発生するなどがある.ホワイトアウトと視程の観測例から,視程計で測定して得られる視程(以下,計測視程とする)は100m を超えても,肉眼で見える最も近い地物までの距離である見かけの視程が0m のホワイトアウトになることがある.ホワイトアウトと感ずるのは人間であり,生理や心理,経験などの個人差を含めたヒューマンファクター,発生状況や環境も影響する.Whiteout もホワイトアウトも,「視界は白一色で見かけの視程(顕在視程)は0m」という点で共通している.
著者
内田 良
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
日本体育学会大会予稿集 第67回(2016) (ISSN:24241946)
巻号頁・発行日
pp.61_2, 2016 (Released:2017-02-24)

リスク研究において、ゼロリスクは神話である。リスク研究の使命は、ゼロリスクを目指すことではなく、さまざまな活動のリスクを比較検討することから、とくにリスクが高いものについてそのリスクを低減していくことにある。スポーツ事故のなかでこの数年話題となった組(立)体操や柔道もまたそのような視点からリスクが検討されるべきであり、「安全な組(立)体操」「安全な柔道」こそが最終的な目標となる。 組(立)体操についていうと、近年、組み方の巨大化と組み手の低年齢化が進み、立体型ピラミッドの場合、幼稚園で6段、小学校で9段、中学校で10段、高校で11段が記録されている。頂点の高さ、土台の負荷、崩れるプロセス等において多大なリスクが想定される。実際に小学校において組(立)体操は、体育的活動のなかでは跳箱運動、バスケットボールに次いで負傷件数が多く、かつ実施学年((5~)6年生)や地域(実施していない学校や自治体もある)が限られるため、事故の発生率は高いと推定される。なお、低い段数でも事故が多く起きていると考えられることから、高低にかかわらず安全な指導方法を学校に伝えていくことが、私たちの課題である。
著者
光岡 香菜子
巻号頁・発行日
2019-03-31

本研究では、地方公共団体の会議録の分析と関係者へのインタビューにより、地方公共団体における同性パートナーシップ証明制度の導入の経緯を分析し、その過程の変化を明らかにした。同性パートナーシップ証明制度を制定する地方公共団体が、2015 年以降、徐々に増えた。この制度は、東京都渋谷区のように条例、あるいは東京都世田谷区のように要綱を法的な根拠としていた。2018 年 12 月時点では、渋谷区や世田谷区を含め、9 つの地方公共団体で同性パートナーシップ証明制度が実施されていた。この動きの背景には、2000 年代より、地方公共団体の人権や男女共生に関する計画や指針などにおいて、性の多様性への配慮が求められるようになっていたことがある。民間企業においても、セクシュアルマイノリティに関するサービス等が、従業員および顧客に対して始まっていた。さらに、セクシュアルマイノリティ当事者や支援者による、市民活動も急激に活発化していた。地方公共団体における同性パートナーシップ証明制度制定の動きは、初めは首長や議員からの提案がきっかけになっていたが、2017 年の札幌市での制定前後から、札幌市に代表されるように、セクシュアルマイノリティ当事者や支援者による市民団体が主導的な役割を果たす事例が増えていた。本研究から、初めはセクシュアルマイノリティを対象とした運動から、多様な性自認と性的指向を尊重する視点が生まれていることが判明した。
著者
本田 正美
出版者
THE JAPAN SOCIETY FOR MANAGEMENT INFORMATION (JASMIN)
雑誌
経営情報学会 全国研究発表大会要旨集
巻号頁・発行日
pp.219-222, 2023-01-31 (Released:2023-01-31)

2019年の厚生労働省による「毎月勤労統計調査」の不正など、政府統計の品質に対して疑念が生じる事態が相次いでいる。一方で、総務省統計局は、公的統計に関わる品質保証活動を展開している。本研究は、この公的統計に関わる品質保証活動に焦点を当てる。公的統計に関わる品質保証活動の現状はどのようなものなのか。そして、その課題はどのようなものなのか。総務省統計局が公開している情報を基に事例分析を行う。