著者
藤田 悠
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

1.存在を主題とする西洋形而上学の歴史に絶えずついてまわる「無」の問題を検討する上で、まずカントの「無」の概念に関する叙述を解明する予定だったが、さらにそれに先立ってベルクソンの哲学を参照する必要性が出てきた。というのも彼は、西洋形而上学の根本的な誤りを「無」の概念のうちに読み取り、それを繰り返し批判しているからだ。しかも興味深いのは、ジル・ドゥルーズが慧眼をもって洞察しているように、この概念が一種の仮像性を帯びており、その限りにおいて人間知性にとって不可避だということをベルクソンが認めていたということ、そしてカントと同様の手法を用いてこれに対処しているということである。ベルクソンが「かくてわれわれは絶対無の観念を獲得するが、こうした無の観念を分析するならば、それが実際には全体の観念である…ということを知る」と語っていることからも、彼がカントと同一の問題圏のうちに立ちながら、これを批判していたのではないかという見通しを得ることができた。2.次いで、ジョルダーノ・ブルーノの思想を検討した。彼の無限宇宙論の主張の背後には絶えず、空虚ないし無に対する拒絶があるからである。ここでもまたベルクソンの場合と同じように、カント的な問題意識が根底に存することが認められた。「ありうるもののすべてであるものは、自らの存在のうちにあらゆる存在を含む唯一のものです。他のものはみなそうでなく、可能態は現実態に等しくありません。なぜなら、現実態は絶対的なものではなく、制約されたものだからです」と彼が語るとき、念頭に置かれているのはスコラ的な空虚の概念である。3.またスアレスの原因論においては、「自然物の生成」という非本来的な原因性が論じられる際、「欠如」の概念が、形相と質料と並列されたかたちで、「生成の出発点」としての意味を持たされていることを確認した。
著者
山本 芳久
出版者
上智大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、一言で言うと、近世のスコラ学という世界的に未開拓の分野における「人間の尊厳」という概念の構造を詳細に探求することによって、従来の思想史の空白部分を埋めるとともに、人間の尊厳という問題に関する哲学的な議論の土俵を広げていくような新たな視点を提示していくことである。「人間の尊厳」や「人格」といった概念に関する中世と近代の連続性・非連続性の具体的な詳細を明らかにするための最大の手がかりは、中世末期から近世初頭にかけてのスコラ学における人間論の探求にある。だが、本邦においては、近世のスコラ学に関しては、社会思想史に関する若干の研究を除けば、哲学的に見るべきところのある研究は未だ殆ど為されていない。また、世界的なレベルで見ても、この分野は未開拓の分野であり、そこには哲学的探求のための非常に豊かな鉱脈が埋もれていると言える。それゆえ、本研究は、そのような鉱脈の中においても、とりわけ、近世スコラ学における「人格(persona)」概念と法哲学(自然法と万民法)に着目し、人間の尊厳の存在論的な基礎づけに関する哲学的探求を、近世スコラ学のテキストとの対話の中で遂行することを目的としている。本年は、とりわけ、トマス・アクィナス(1225-1274)とスアレス(1548-1617)における自然法と万民法概念の構造を哲学的に分析しつつ、更に、現代の社会哲学のなかでスコラ的な法理論の持ちうる積極的な役割を明らかにした。
著者
松森 奈津子
出版者
静岡県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、16世紀スペインの後期サラマンカ学派(c. 1576-1600,メディナからバニェス)の思想を考察し、初期近代政治思想史におけるその地位と意義を検討するものである。中世スコラ学の刷新を試みた同学派の権力・国家論は、後に主流となる主権論とは別の観点から脱中世型権力理解を提示した点で注目されることを明らかにし、その成果を、著書や口頭報告の他、講義やメディア報道により、多様な読者、聴衆に向けて公にした。
著者
堀口 敏宏 太田 康彦 井口 泰泉 森下 文浩
出版者
独立行政法人国立環境研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

イボニシ(Thais clavigera)を中心に、RXRに関する生物学的特徴と、ペニス及び輸精管の分化・成長・形態形成との関係を解析した。イボニシRXRには2つのアイソフォームが存在し、両者で転写活性能が異なること、並びに9-cisレチノイン酸(9cRA)、トリブチルスズ(TBT)及びトリフェニルスズ(TPT)により転写活性の誘導がみられることなどを明らかにした。イボニシとバイ(Babylonia japonica)における生殖腺の分化及び生殖輸管の発達を組織学的に調べ、明らかにした。イボニシの神経ペプチドに関する基礎知見を得た。イボニシとバイにおける脊椎動物様ステロイドの検出を試みるとともに、ステロイド受容体が見出されないこと、アロマターゼ阻害剤とテストステロンでインポセックスの発症・増進が見られないことを明らかにした。
著者
中村 誠司 吉田 裕樹 山田 亮
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

癌ペプチドを用いたオーダーメイド免疫療法と早期診断法の開発のためには、癌に対する免疫監視機構やその調節機構を十分に理解しなければならない。本研究では、口腔癌の癌ペプチドの中ではSART-1が最も抗原性が強く、免疫監視機構における中心的役割を果しており、それゆえに口腔癌の治療ならびに診断に応用可能な癌ペプチドであることが判った。しかしその一方で、口腔癌が腫瘍関連抗原であるRCAS1を発現・分泌し、活性化T細胞のアポトーシスを誘導して免疫監視機構を制御していることが判った。免疫監視機構を賦活するためには癌ペプチドを用いるだけでは不十分であり、このRCAS1の作用を制御する必要性が明らかとなった。
著者
斎藤 祐見子
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

脳に高発現するMCHR1は摂食・うつ不安に関与するGタンパク質共役型受容体(GPCR)である。分子薬理学的手法により以下のことを明らかにした。I. MCHR1の新しい調節部位の同定(1)MCHR1の細胞内第2ループに存在する高度保存領域DRYはGタンパク質活性化に直接関わる。(2)MCHR1のHelix8領域はGq共役性が鋭敏となる機能亢進型表出に関与する。II. MCHR1結合因子の同定:GαのGDP-GTP交換反応を促進することによりMCHR1のシグナルを抑制するRGSタンパク質を3種類同定し、それぞれMCHR1における相互作用部位が異なる可能性を見出した。
著者
浜下 昌宏
出版者
神戸女学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1.本研究の主目標はシャフツベリが近代美学の生成・展開において果たした役割を明確にすることにある。重点的にヨーロッパ各国との関係から、平成7年度はスコットランド、平成8年度はドイツ(語圏)、そして平成9年度はフランス(語圏)について研究し、関連資料・文献の収集と読査を進めつつ、研究成果は順次論文として発表することをめざした。2.平成9年度の研究課題である、シャフツベリとフランス(語圏)思想との影響関係についての研究により、さしあたり次の点を確認することができた。(1)シャフツベリとフランス思想との関係についての従来の研究には、ドイツ思想との関係についてのヴァルツェル、ヴァイザー、カッシーラーといった、要点を押さえたすぐれた概説的研究がないこと。(2)フランス本国との関係よりは、フランスよりオランダに亡命したプロテスタント系の思想家との交流が際立っていること。(例えば、ピエール・ベイル、ジャック・バアスナシュ、ジャン・ル・クレール、ピエール・コスト、ピエール・デ・メゾ、など。)(3)美学よりも宗教・道徳理論において両者の関係は強いこと。(4)美学のみならず総合的にみて、フランス思想家の中ではディドロが最もよくシャフツベリに関心を示していたこと。3.公表可能な研究成果は、近日中に公刊される新たなターンブル論であり、また、ディドロとシャフツベリとの関係を扱った小論も準備中である。また、文献資料の収集においては、平成9年夏に米国スタンフォード大学、UCLAを訪問した際に、当地の専門研究者より小論の構想についてreviewを受け、さらに推薦された論文集のコピーを収集した。
著者
早尾 貴紀
出版者
大阪経済法科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本科研費による研究活動開始前からの刊行論文も併せて、2008年に単著『ユダヤとイスラエルのあいだ-民族/国民のアポリア』(青土社)を出版した。マルチン・ブーバーおよびハンナ・アーレントという二人のドイツ系ユダヤ人哲学者の模索したバイナショナリズム、つまりパレスチナにおけるユダヤ人とアラブ人の共存思想の展開と隘路を辿った(同書前半)。また、建国後のイスラエルに対して、アイザイア・バーリンやジュディス・バトラー、マイケル・ウォルツァーらリベルラル派のユダヤ人によるイスラエル批判の意義と限界を分析した(同書後半)。そのかん、イスラエル/パレスチナへの研究滞在(主としてヘブライ大学とハイファ大学)および現地からの研究者の招聘(ハイファ大学カイス・フィロ教授)などを重ね、資料調査・研究交流をおこない、上記単著以降の研究の展開を模索した。その成果として、ブーバーやアーレントの同志であった重要人物ユダ・マグネス初代ヘブライ大学学長をはじめとする、建国直前期のヘブライ大学の哲学者たちが、いかに排他的な民族主義に陥ることなく、アラブ人・アラブ文化と共存しながら自らのアイデンティティを保持するのかという課題に取り組んでいたことの意義を分析する論考を発表した。その他、「ディアスポラ」から民族の越境と共存を読み直す共同のプロジェクトに参加し、そのなかでのバイナショナリズムの歴史的意義と現在的可能性を考察する論考を発表した。
著者
山本 恵子
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

2007年度には、ニーチェにおける初期・中期・後期の生理学的考察を概念史的に検討することによって、当時の生理学者との関係に関する研究の骨子を示した。その結果、ニーチェにおける生理学という概念装置の意味が著作時期によって大きく異なることが明らかとなった。2008年度には、「健康」や「無意識」等の諸概念に着目した。そこでは、健康を画一的なものと捉える見方が人間の平等というドグマに侵されたものとして積極的に否定されるニーチェの思索が確認された。
著者
山内 太郎
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

研究実施計画書にしたがい、本年度も文献調査およびフィールドワークを行った。文献調査は、現代に生きる狩猟採集民、伝統的漁撈民・農耕民の先行研究に加えて都市居住者(先進国および発展途上国)を収集し、体格・栄養摂取量・身体活動量のデータを分析した。また霊長類、先史人類の考古学的研究についても、方法論の違いに注意を払いながらデータ収集、分析を行った。データ分析、とくに方法論の違うデータの比較・統合について利用可能性の高い手法について学んだ。フィールドワークは、研究計画書に記載したとおり、インドネシア共和国の都市居住者(中部ジャワ州の州都スマラン市)について、とくに子どもの肥満に焦点をあてて測定調査を行った。また、コミュニティー全体を対象とした調査としては、南太平洋ソロモン諸島の首都近郊の村居住者を対象として調査を行った。調査内容は、1)身体計測・血圧測定、2)食物摂取量調査、3)安静時代謝量測定、4)身体活動量測定であった。成果発表としては、計画書に記載した通り、国際学会(14^<th> European Congress on Obesity, Athens, Greece)で発表した。また、インドネシア共和国中部ジャワ州のDiponegoro大学において招待講演を行った。さらに日本相撲協会主催の相撲医学研究会で発表を行った。今後、国際学会発表(10^<th> International Congress on Obesity, Sydney, Australia)を予定している。発表論文(別紙参照)としては、国内高齢者の身体活動量とフィットネス、パプアニューギニア高地民の農村居住者と都市移住者の身体活動量および体格・体組成に関する比較研究をはじめとして、海外の研究者と協力してアフリカ(カメルーン)狩猟採集民、日本人大学相撲選手、中国都市部および農村部の学童、トンガ王国の思春期の少年少女について公刊した。
著者
川島 博人
出版者
静岡県立大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本申請課題ではヘパラン硫酸の細胞外環境シグナル調節分子としての機能に着目し、その血管内皮細胞における機能解明を目的として研究を行った。具体的には、ヘパラン硫酸伸長酵素遺伝子(EXT1)がloxPサイトで挟まれたEXT1-floxマウスと、Creリコンビナーゼを血管内皮細胞特異的に発現するTie2-Creトランスジェニックマウスを掛け合わせ、血管内皮細胞特異的にヘパラン硫酸を欠損する変異マウスを作製し解析を行った。その結果、この変異マウスは胎生11.5日目以降に致死となることを見いだした。さらに、血管内皮細胞マーカーである抗CD31抗体を用いた胎児のwhole mount免疫染色および、および胎児組織の免疫染色により検討を行ったところ、血管内皮細胞特異的にヘパラン硫酸を欠損する胎児においては血管密度および血管枝分かれ数の顕著な減少が起こることが明らかとなった。また、一部の変異マウスにおいて、出血および浮腫をきたす傾向も認められた。血管新生および血管枝分かれ構造の形成にはヘパラン硫酸結合性を持つことの知られているVEGFやbFGFなどの血管増殖因子のシグナルが必須であることから、以上の結果は、胎児血管内皮細胞に発現するヘパラン硫酸がこれらの細胞外環境シグナル分子の機能調節分子として働く可能性を示唆している。また我々は、マウスの肺組織よりCD31に対する抗体を用いてMACS (magnetic activated cell sorter)により、効率よく血管内皮細胞を精製する方法を確立した。今後はこの方法を用いて変異マウスの胎児より血管内皮細胞を精製し、in vitroにおけるVEGF、bFGFなどの増殖因子に対する増殖反応および血管網形成アッセイにおいてに変化が認められるか否かを検討し、ヘパラン硫酸の細胞外環境シグナル調節分子としての機能をさらに解明したい。
著者
石井 智弘
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は,急性期ステロイドホルモン生合成の第一ステップでコレステロールをミトコンドリア外膜から内膜へ転送するsteroidogenic acute regulatory protein (StAR)の機能解明を目指したものである.ミトコンドリア標的シグナルを利用したStAR 蛋白自身のミトコンドリアマトリックスへの移動が,StARのコレステロール転送能に重要な役割を果たすことをin vivoで明らかとした.
著者
柚崎 通介 松田 信爾 飯島 崇利
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

補体Clqの球状ドメイン(gClq)を磯能ドメインとして持つClq/TNFスーパーファミリーが、シグナル分子や細胞外マトリックス分子として細胞外環境において非常に多彩な生理機能に関与することが近年注目を集めている。一方、Clq/TNFスーパーファミリーの中には脳内に主に発現するCblnファミリーとClq1ファミリーが存在するが、これらの分子の生理機能についてはほとんど分かっていない。私たちはこれまでにCblnファミリーのうちCbln1分子が、小脳顆粒細胞-プルキンエ細胞シナプスにおいて、シナプスの接着性と可塑性を制御することを発見した。Cbln1は海馬歯状回に線維を送る嗅内皮質にも発現し、他のメンバー分子Cbln2やCbln4も海馬や脳内の各部位に発現していることから、他の脳部位においてもCblnファミリーがシナプス形態調節分子として機能している可能性がある(Eur J Neurosci,in press)。今年度はClq1ファミリー分子群(Clql1-Clql4)の解析を進めた。Clql1は小脳登上線維の起始核である下オリーブ核に特異的に発現し、Clql2とClql3分子は海馬歯状回の顆粒細胞に発達期および成熟後も共発現する。これらの分子は何れもCblnファミリーと同様に同種・異種分子間にて多量体を形成して分泌されることを見いだした(Eur J Neurosci,2010)。これらのことからClqlファミリーもCblnファミリーと同様に、発達時や成熟後の脳においてシナプス機能に関与している可能性が示唆された。
著者
中川 光弘 高橋 浩晃 松島 健 宮町 宏樹 長谷川 健 青山 裕 石塚 吉浩 宮城 洋介
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

カムチャッカのクリチェフスコイ火山において地球物理学的および岩石学的研究を実施した。研究期間中に4点の傾斜計を設置し、既存の地震計を合わせた観測網を構築・維持させることができた。そして2010年の噴火活動中に10~20分の周期でのサイクリックな傾斜変動を観測し、ストロンボリ式噴火モデルを構築した。特に過去3000年間の噴火堆積物の物質科学的解析を行った結果、3000年間で2タイプの初生玄武岩質マグマが存在し、ひとつのタイプから別のタイプへと次第に入れ替わっていることが明らかになった。また最近80年間の噴火では火山直下のマグマ供給系が噴火活動期毎に更新されていることも明らかになった。
著者
河合 知子 久保田 のぞみ 佐藤 信
出版者
市立名寄短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

今年度は、米飯給食における地元産米利用とその実態について、北海道の稲作地帯(空知管内)と畑作酪農地帯(十勝管内)の給食だよりを基に比較検討した。米飯給食の実施回数については、空知地域が週当たり平均米飯実施回数3.5回に対して、十勝地域のそれは2.6回であり、稲作地帯の学校給食の方が米飯を取り入れている回数は多い。また、使用している米については、十勝地域については何ら紹介がないのに対して、空知地域は、地元産米使用と紹介している学校給食が17センター中8センターある。米の生産地である空知地域は学校給食に地元産の米を積極的に取り入れている。米飯給食の導入が他の献立内容にどのような影響を与えているのか、使用野菜数との関係、白飯と味付けご飯との割合、他の献立内容との関わりについて分析した。1食当たり使用野菜数は、空知地域の平均が37.8種類、十勝地域のそれは40.3種類であった。米飯給食の週当たり実施回数が少なくても、使用野菜数の多い学校給食もあれば、またその逆のケースもあり、米飯給食の実施回数と使用野菜数にはっきりとした相関は見られなかった。さらに、米飯給食のうちどの程度白飯が出されているか(以下、白飯率という)について分析すると、白飯率が下は30%台から、多い学校給食においては90%を超えたところもあり、その幅は大きい。個別に、丼物、カレーライス、混ぜご飯などの味付けご飯の時と白飯の時の献立内容を比較すると、味付けご飯の場合は総じて、漬け物と汁物だけの献立であることが多く、白飯の献立内容と比べて満足度に欠ける。献立の多様性は必要ではあるが、おかず類の充実には白飯率を上げることも一案と考えられる。
著者
吉田 久美 亀田 清 近藤 忠雄
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

目的赤小豆(Vigna angularis)は日本では文化的にも独特の位置を占める豆で、とくにその色が珍重されるが、未だに種皮色素の構造も、その加工食品である飽の色についても化学的な知見がほとんどない。本研究では、種皮色素の化学構造を明らかにすること、および、製餡加工工程において、種皮色素がどのように餡へと移行して餡の紫色が発色するのかを解明することを目的に行なった。方法および結果赤小豆種皮から色素を抽出して分析する条件の検討を行ない、トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリル水溶液で抽出し、逆相HPLCで分析する手法を確立した。赤小豆種皮には、二種類のアントシアニンとは違う発色団を持つと推定される色素が含まれることを初めて見いだした。そこで、これらの色素の単離精製法を検討した。溶媒抽出後、アンバーライトXAD-7カラムクロマトグラフィー、次いでゲルろ過カラムクロマトグラフィーを行うことにより、かなり色素の純度の上った色素を微量であるが得た。同時に、ケルセチンを同定した。種皮色と餡色の違いを明らかにする目的で、製餡加工工程試料から成分を抽出して、HPLC分析を行なった。渋切り水には、色素はほとんど含まれず、無色のポリフェノール成分が多く溶出することがわかった。さらし餡に、種皮に含まれる2種の色素が存在することがわかり、同時に、餡では、無色のポリフェノール量い対する色素の含有量が増えていることがわかった。渋きり操作により、赤茶色系統の発色をするポリフェノール類が除去されることがわかった。
著者
長尾 慶子
出版者
東京家政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

食材の加熱に関する一連の実験研究において、これまでに水分量の異なる食材モデル系および各種実用食材を対象に種々の加熱実験を行い、食材加熱面から内部一次元方向xの位置の温度φ(t)と加熱時間tとの関係が,指数式1-exp[-t/τ(x)]で表されること、その式に現れる遅延時間すなわち時間定数τ(x)と試料加熱面の面積Sとの比が、各試料の熱拡散率αとベキ指数の関係[S/τ(x)=k・α^n]にあることを明らかにした。引き続き平成17-18年度の研究助成テーマでは乳化系(水系と脂質系の混在系]を加熱食品モデルにとりあげ、その熱拡散率に及ぼす成分的要因を、乳化の型(O/WまたはW/O)を含めて熱移動現象を追跡し定式化を試みたものである。初年度(平成17年度)は卵黄を乳化剤として分散油相体積分率(Φ)を0.3〜0.8まで変化させたマヨネーズ様の水中油滴型(O/W)乳化系試料を調製し、分散油滴径の大きさとその分布状況が系の伝熱機構に如何に影響するかを検討した。その結果、油相体積分率が小(すなわち水の割合が大)の試料になるほど、みかけの熱拡散率が大となり、試料加熱時の内部温度上昇曲線から算出した時間定数τ(x)の逆数との間に両対数グラフ上で正の相関があることを報告した。この結果を受けて、平成18年度は卵黄に代わる乳化剤として、親水性ならびに疎水性の食品用乳化剤を選択し、同様に分散相体積分率(油または水)を0.3〜0.8に変えたO/W型乳化系およびW/O型乳化モデル系を調製し、昨年度と同様な加熱実験、熱物性値の測定・算出、粘度、分散相粒子の顕微鏡観察と画像解析を行った。その結果、乳化の型が異なっても(すなわち分散相が油や水に関らず)、系内の熱移動を支配しているのは試料の水の量と試料固有の熱拡散率であり、系中の水の割合が多い程みかけの熱拡散率が大となり、内部温度の上昇速度が増す(すなわち 1/τ(x)が大)ことが確認された。またW/O型乳化試料は、O/W型のそれと比較して、試料調製時の撹搾速度や加熱により不安定であること、みかけ粘度やCassonの降伏値も低いこと、分散相である水滴粒子径の分布範囲が広く最多頻出径が3μm(O/W型では1.5μm)と粒径が大であることが明らかとなった。単純な水・油の系に、分離を抑制するために加えたこんにゃくマンナン粉末は熱伝達方式が伝導伝熱を維持する役目を担っていたが、結果として試料全位置での内部熱移動が抑制された。すなわち、マンナンゲルが水を捕捉し熱の移動に関る自由水が少なくなるものと推測された。
著者
川島 慶之
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

糖尿病の合併症の一つに難聴が知られている。一部にミトコンドリア遺伝子変異が関与していることが明らかになってきているが、多くは、障害部位、障害原因とも明らかではない。一方、肥満・過食・高インスリン血症など顕著な糖尿病症状を自然発生する突然変異の糖尿病モデルマウス(db/db)がジャクソン研究所で発見され、糖尿病およびその合併症の発症機構の解析究明に汎用されている。我々は、db/dbが難聴を発症し、そのホモ接合体はヘテロ接合体、野生型に比べ早期にABR閾値が上昇することを確認した。さらにDPOAEでもホモ接合体は早期からDPレベルの低下を認めた。このため、難聴の主因は蝸牛血管条障害であると予想したが、光学顕微鏡では有意な血管条障害やラセン神経節細胞の脱落は認めなかった。しかしながらレプチン受容体の内耳発現を確認するためにC3H/HeJのコルチ器を免疫染色したところ、外有毛細胞の不動毛において発現が見られた他、neonateの動毛において強い発現を認めた。これらの結果より、これらのマウスにおける聴覚閾値の上昇は、外有毛細胞の何らかの障害を含めた複数の機序が関与しているものと想定している。
著者
西 基
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

平成9年5月,科研費支給の決定を受け,同年の秋までに食事等の生活習慣を主たる項目とする自記式質問票を完成し,主として札幌医大第一外科およびその関連病院の協力のもとに,胆嚢癌の病因に関する症例対照研究を開始した.平成12年末までに,症例51例およびこれらと性・年齢(±3歳)を同じくする対照102例から,質問票を回収した.なお,胆嚢癌の症例の集まりが悪く,途中から胆管癌の患者も対象とした.症例の内訳は,男28例,女23例平均年齢は72.6歳,胆嚢癌18例,胆管癌33例であった.発生を促進・抑制する因子のオッズ比を男女の通算で計算した.発生を有意に(P<0.05)促進するものは,1.満腹になるまで食べる,2.魚肉ソーセージ(月1回以上),3.生卵(月1回以上),4.漬物(毎日),5.ドリンク剤(毎日),6.乳酸飲料(週1回以上)であった.危険率10%では,7.油っこい食品を好む(5段階で4以上),8.ハム・ソーセージ(週1回以上)も促進因子となった.発生を有意に(P<0.05)抑制するものは,1.昼食を抜く(5段階で3以上),2.夜食を食べない(5段階で3以上),3.芋(週3回以上),4.パン(週3回以上),5.納豆(週3回以上),6.干魚(週1回以上),7.ヨーグルト(週3回以上),8.チーズ(週1回以上),9.緑黄色野菜(週3回以上),10.林檎(週1回以上),11.バナナ(月1回以上),12.ウーロン茶(週1回以上),13.牛乳(毎日),14.飲酒(毎日)であった.危険率10%では,15.牛肉(月1回以上),16.蜜柑(週1回以上)であった.以上から,食事量が多いことが発生を促進し,野菜・果物・乳製品などが抑制すると考えられた.魚肉ソーセージ・ハム・ソーセージ・乳酸飲料・漬物などは加工品であって,加工により加わった何らかの因子が発癌を促進するのかもしれない.毎日の飲酒が抑制的に働くのは意外であった.油脂を多く含む食品や生卵は,胆嚢の運動に影響を与えるが,これが何らかの影響を及ぼすのかもしれない.なお,生活の不規則性・喫煙・農薬使用・園芸の経験は結局有意とはならなかった.
著者
小林 敏男 金井 一頼 淺田 孝幸 高尾 裕二 竹内 惠行 椎葉 淳
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

1.定量的類型化作業「組織資本の測定」の観点から定量的類型化の基本仮説を構築した。本来この作業は,最終年度で実証に移るはずではあったが,基礎理論構築に手間取り,仮説構築にようやくこぎつけることできた。Lev and Radhakrishman(2003),蜂谷(2005)などの知見を参照しつつ,金融・保健を除く,日経225のサンプル企業のうち,条件に合致する企業数として86社,8年間のデータをもとに,仮説のフィットネスを確認しており,より頑健な理論にまで仕立てなければならない。(目標達成率60%)2.技術・知財戦略技術・知財戦略を聞き取り調査等から調べていけばいくほど,オープンさとクローズドさのバランス問題に横着することが確認される。ITの雄インテルにしても,PCIバスイニシアチブを充実させていた頃は,オープン路線で突き進み,バスやメディア等でデファクトの地位を取ると,今度はクローズドに振れ,それが結局,係争を引き起こし,会社としの業績に暗雲を漂わせ始めている。このバランスを決定づける要因分析の一般化を試みたが,個別ケース記述に留まった。(目標達成率70%)3.提携戦略次の「4」との兼ね合いから,ベンチャー企業における提携戦略について,聞き取り調査を中心に仮説を改良した。成長ステージ管理の重要性を認識するとともに,それぞれのステージにおける管理項目を洗い出した。具体的には,製品開発ステージにおいても,商流ステージであるB2BおよびB2Cを意識した開発管理とマーケティング管理が必要となり,ステージが進むに従い,パートナーシップの重要性が高まる。ただ闇雲なパートナーシップではなく,ビジネスモデルすなわち成長戦略に応じた提携が求められ,その機軸をなすのが,「時間切迫」と「資源の希少性」に他ならない。(目標達成率85%)4.地域産業集積「産業プラットフォームとしての大学」という観点から調査報告をまとめた。大学が有する国・地域としての研究所機能に加え,新産業の担い手としての大学発ベンチャービジネス創出の「場」,という観点を持つことによって,大学を観察することが,産業集積の実際を知る手がかりになる,ということが明らかになった。すなわち,日常的産学連携が活発でない地域では,大学発ベンチャービジネスも起こりにくく,また成功もしづらく,その「場」的取り組みが盛んな地域・大学が産業集積(新規事業創造)においてもリーダーシップを発揮している,ということである。理論的には「場」の概念の援用である。(目標達成率75%)