著者
佐々木 宏子
出版者
鳴門教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本報告書は、「絵本の主題分析のもとづく絵本心理学の構築III」の研究成果の一部です。第III期は「赤ちゃんと絵本」に焦点を絞り研究を継続してきましたが、テーマが赤ちゃんであるだけに実に文章化が難しいものでした。それゆえ第1章の「つなぐものとしての絵本」では、映像写真を多用することになりました。第1章は、生まれたときからの赤ちゃんの追跡記録のまとめです。本研究では2002年生まれの一男児を選び、かなり細かく追跡しました。現在、17巻のDVD映像記録が収集できており、さらに継続中です。1.ストーリーテリングへの強い好奇心、2.オノマトペへの集中、3.車と自動車絵本へのあく事なき執着、4.幼年童話を聴く、5.赤ちゃんと絵本を読み合う姿勢について、です。誕生から2歳6ヶ月までの追跡記録です。第2章は、「伝えるものとしての絵本」で札幌で追跡した一女児(1999年生まれ)の誕生から5歳近くまでの聞き書きを中心とした分析・考察のまとめです。1.成熟が読み方の変化をもたらし、新たな内容の読みを開発してゆく、2.絵本の読み合いを通して分かる異質な他者としての子ども、3.略、4.絵本の世界を日常の生活に再現し体験する、5.言葉が実在するものと同じ力をもちはじめる、6.7.略、8.年齢不詳の主人公が問いかけるもの、9.10.略、11.幼児は多層性のある生活を生きる、12.「そうやって思っていることの気持ちがいま届く」-想像力への信頼-、13.14.略。あと、「絵本学」第3号に掲載の論文/佐々木宏子著「絵本は父親をどのように描いているか」(2001年4月)を付け加えました。
著者
木本 喜美子 笹谷 春美 千葉 悦子 高橋 準 宮下 さおり 中澤 高志 駒川 智子 橋本 健二 橋本 健二 萩原 久美子
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、長期雇用、年功賃金などの日本的雇用慣行が適用される「男性職」とは区別される形で、いかにして「女性職」が形成されてきたのかを探ることを通じて、女性労働史を再構成することを目的としている。そのために、女性労働の集積地域である福島県北・川俣町の織物産業に従事した女性労働者を調査対象としてとりあげ、そのライフヒストリー分析を軸に、雇用労働と家族生活とがどのように接合されてきたのかを明らかにした。
著者
竹内 義則
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

人間は動いているものを目で追い,耳で音の発生している方向を定位することができる.例えば,複数の人物から話者を特定し,その人物を見続けることができる.このような機能の実現はビジョンシステムにおいて有益な応用である.そこで,我々はカメラとマイクの2種類のセンサを利用して,複数の人物を追跡するシステムを構築する.人物の情報をよりたくさん得ようと考えた場合,顔を撮影することが望ましい.そこで,人物領域の特徴として頭部を検出する.また,複数の人物を洩れなく追跡するために,カメラに「追跡」と「監視」の2種類の役割を与える.これらの役割をカメラの連携を用いて動的に変化させることで,注目している人物の詳細な情報を獲得でき他の人物も見逃すことなく追跡を行なうシステムを構築する.システムは,カメラから頭部領域,マイクから音信号を検出する.検出結果から人物位置や音源位置の特定を行なう.これらの結果から,どのカメラがどの人物を追跡するかを決定する.あるシーンにおいて何か話している人物を撮影できれば,そのシーンを理解するのに役立つ.そこで,音源位置情報から音を発している人物を特定し,その人物を優先的に追跡する.追跡する人物が決定したら,その人物を追跡するカメラを決定する.それは,人物を高解像度で撮影するためできるだけ近いカメラで,かつ,正面から人物を撮影できるカメラを割り当てる.さらに,オクルージョンの発生により割り当てられたカメラでは人物を捉えられない場合があるので,新たに他のカメラに追跡を委託する.以上の処理を繰り返すことにより人物の追跡を行なう.3人の人物を追跡する実験を行ない,各人物の位置情報を獲得し,人物の顔を捉えて効果的に追跡することが確認できた。また,音情報を得た場合,音を発した人物を優先的に追跡し,追跡中の人物がオクルージョン領域に入った場合に他のカメラが追跡することを確認した.
著者
佐野 友紀
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

高齢者、障害者は、身体能力は健常者と比較して低い傾向にあり、特に高層建築物では、他の避難者から取り残され、建物内で逃げ遅れる危険性が高い。本研究では、このような災害弱者の高層建築物における避難計画のあり方を考察する。自助、共助、公助の対策を災害弱者避難計画にあてはめ、順次避難、水平避難、一時避難待機場所、エレベータ救助、避難用車いすの利用など、多様な方法の組み合わせで避難、救助する方法を検討する。
著者
一田 昌利 古澤 壽治
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

1.3年にわたって絹糸虫類(天蚕)の無菌人工飼料育法の検討を行った。蚕の人工飼料を基本とし、飼料樹葉乾燥粉末の割合を40%に引上げ、無機塩混合物についてはウエッソン塩混合物から不必要な成分を排除して、極力簡単な組成とした。ビタミンB混合物についても改変を行った結果、2眠まで到達する個体が認められたが、糖を含まない組成では3齢に達する個体はなかった。そこで、人工飼料に添加する糖の種類(グルコース、シュークロースおよび市販の精製糖)および添加割合の検討を行った結果、無添加では、虫体は大きくなるものの5%が3齢になっただけであったのに対し、いずれの糖類を添加した区においても3齢到達率が顕著に高くなった。特に、シュークロース10%添加区では3齢率が90%を越え、発育スピードも早くなったことから、人工飼料に添加する糖類としてはシュークロースが良く、添加量は10%が実用的濃度と考えられた。2.上記人工飼料による全齢人工飼料育および、1-3齢人工飼料育とクヌギおよびシラカシによる4-6齢飼育を組み合わせ、ヤママユガ(天蚕)の周年飼育を試みた結果、年間を通しての飼育が可能であることが明かとなったが、このことは、絹糸虫類の安定的飼育を考える上で意義は大きい。3.絹糸虫類卵の過冷却点を比較した結果、温度の高いものから3つのグループ(1)ヤママユガ、(2)クスサンおよびウスタビガ、(3)ヒメヤママユガに分けられた。また、2.5°C以下に卵を保護することでヤママユガの場合、産卵1年後においても80%を越える孵化率が得られた。このことは、イミダゾール化合物による休眠打破技術と組み合わせることで、年間を通しての随時孵化の可能性を示唆している。
著者
宮澤 眞一 顧 釣 山本 周 宮澤 文雄 田 力
出版者
埼玉女子短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

当初の目的・目標を超える以下の4点の成果を生み出せた。(1)エール大学図書館所蔵のSWW書簡を10本のマイクロフィルムに初めて収録できた。(2)SWWの自筆書簡約1300通を判読し転写テキストを完成した。(3)精力的に研究発表(論文7・学会発表講演7・書評2)を行い、別刷の報告書小冊子に再録した。(4)2012年春に中国の二つの出版社から研究成果の本体(SWW書簡及び中国・日本遠征記)の転写テキストを5巻で出版するための準備に入った。
著者
八田 一郎 高橋 浩 加藤 知 大木 和夫 松岡 審爾
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1990

この研究は、リン脂質膜を中心として形成される分子集合体に対する詳細な構造解析を行うことによって、生体膜がとる基本構造を明らかにすることを目標に進められた。その1つとして、リン脂質で現われるリップル構造についての研究が進められた。これはリン脂質が自発的にとるメゾスコピックな構造で、リン脂質の形態形成機構を考察する上で重要な構造であると位置付けられる。ジパルミトイルホスファチジルコリン膜において、正常周期のリップル構造に対して2倍周期のリップル構造が出現することがあるが、それが準安定相の構造であることを示し、また、それが出現する条件を明らかにした。リン脂質・コレステロール系においては、変調されたリップル構造をとるが、その温度依存性をリン脂質膜の正常周期のリップル構造の温度変化と関連において理解できることを示した。不飽和炭化水素鎖をもつリン脂質とコレステロールの系において、その相図に着目して実験を行った結果、飽和炭化水素鎖の場合とよく似ており、この相図はリン脂質とコレステロールの間で普遍的に現われるものであることが判った。リン脂質・アルコール系で現われるインターディジテイテッド構造について、各種のリン脂質とアルコールの組合せに対して系統的にX線回折実験を行うことによって、膜中のアルコール分子の存在様式を明らかにした。ジラウロイルホスファチジルコリンにおいて、2つの液晶相があることを発見し、新しい相は従来報告されている液晶相の低温側にあり、より炭化水素鎖の乱れの少ない液晶相であることが判った。リン脂質とタンパク質の相互作用のモデルとして、酸性リン脂質とポリリジン重合体より成る系の構造解析を行い、それが静電相互作用によって理解できることを示した。ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンの主転移での2相共存状態の振舞から、これは単純な1次相転移における共存としては理解できなく、この系独持の逐次構造遷移機構によっていることを指摘した。その他、脂質系の表面X線回折実験、X線回折・熱量同時測定などを行った。
著者
西川 洋一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

12-13世紀は、ヨーロッパにおける、いわゆる実務的文字文化が急速に展開した時代であった。ドイツでは12世紀に、その基本的に開かれた宮廷の構造を媒介として、イタリア、フランス等、王権が関係を持っていた地域の様々な新しい潮流が流入するようになる。それを受けて、12世紀末以降、当時もっとも進んだ証書実務を誇っていた教皇庁の証書を巡る様々な理論や観念が取り入れられる。これに対して後期シュタウフェン朝の書記局は、徐々にシチリア王国の文書行政の要素の影響が強まって、制度化の程度が高まると同時に、南イタリアの官僚制を前提として、特権状から命令状への重心の移行が見られるようになる。これに対して、都市においては、単に社会生活・経済生活の複雑化というような理由のみならず、その共和制的な政体に特有の条件によって文字文化が発展を遂げる。それが特に早期にかつ顕著に進行したのはイタリア中世都市においてであった。教会裁判権を嚆矢とする裁判手続きの文書化とともに、共和制という政体に規定されて、役職者の選挙、役職者のコントロール、あるいは公共的な目的のための租税の徴収等の目的で、多様な文書が作成されるようになる。同じ傾向は、少し遅れるものの、ドイツやフランドルなど、北ヨーロッパにおいても見られた。この地域では、都市初期(Stadtschreiber)が、徐々に法学を学んだ者たちによって占められるようになり、文書行政を担当するのみならず、参事会の顧問、外交、さらには都市の自己意識の表現である歴史叙述等にも携わった。しかし文書を媒介とした法的な専門知識と、伝統的な共和制的な統治の間には、常に緊張関係が残っていた。
著者
加納 修
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

平成19年度は、平成17年度より行ってきたフランク時代の国王文書の分類作業から得られたデータを検証するために、フランク時代、とりわけメロヴィング朝期(481年〜751年)の国王文書の伝来状況を詳しく検討した。前年度に滅失文書(現在まで伝わっていないが、作成されたことが他の史料から証明される文書)を調査し、分類した結果、売買や贈与を王が確認した文書が実際には数多く作成されたことを明らかにしていたが、いかなる種類の文書が伝来しやすいか、あるいは言及されやすいかを検討した結果、とりわけ私人が受け取った文書の伝来可能性が極めて低い事実を証明することができた。私法行為を確認する文書は、私人が受け取った文書の代表なのである。こうした文書の多さは、公権力としてのメロヴィング王権の性格をよく表している。より具体的な研究成果としては、この種の私法行為確認文書の一カテゴリーをなす「仮装訴訟」(国王裁判で私法行為を確認するための特殊な手続き)の記録を、文書の機能の面から再検討したフランス語論文を、フランスの古文書学雑誌であるBibliotheque de l'Ecole des chartesに投稿した。この論文は平成17年度に投稿し、その後大幅な修正を経て掲載が決定した。「仮装訴訟」を記録する国王文書が、実際には土地所有を証明する権利証書ではなく、土地の所有をめぐって裁判になった場合に当該の土地の売主を召喚するための文書であったことを証明することによって、メロヴィング朝の国王証書が単に権利を保障する「証書」の機能にとどまらず、きわめて多様な機能を有していたこと、そしてこうした文書の機能がローマ法やローマ帝国の行政制度に大きな影響を受けていたことを示した。なお平成19年5月に予定していたフランス語での研究報告は、椎間板ヘルニアの罹患のために、断念せざるを得なかった。
著者
須藤 義人
出版者
沖縄大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

弥勒芸能を図像学の視点から体系化するために、来訪神信仰に関する資料収集と調査を行った。弥勒芸能は「マレビト芸能」の一種であると位置づけ、他の来訪神(マレビト)を表象する仮面芸能との比較研究を進め、『マレビト芸能の発生』(芙蓉書房出版)という研究書にまとめた。
著者
後藤 元
出版者
学習院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

株主が会社に対して拠出した財産が少なすぎる場合(過少資本)には、株主は会社債務について責任を負い、また株主の会社に対する債権を劣後化すべきであると主張していた従来の学説を、法と経済学の見地を踏まえて再検討した。これにより、株主有限責任制度の弊害として問題とすべきなのは、会社の自己資本の多寡ではなく、会社事業の実施に関する株主のインセンティブのゆがみであるということが明らかになった。
著者
橋爪 隆
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本年度は、本件研究の最終年度であり、倒産犯罪の保護法益、「破産手続開始決定の確定」の理論的な意義など、倒産犯罪の基礎理論的な研究(平成15年度に着手)、新破産法のもとにおける破産犯罪規定の解釈論的検討(平成16年度に着手)を引き続き実施するとともに、破産犯罪全般に関する総合的な研究作業に従事した。特に詐欺破産罪(新破産法265条)の行為類型(財産の隠匿、仮装譲渡・債務負担、価格減損行為、不利益処分など)について、その意義と限界を検討した。また、研究活動に際しては、破産犯罪にとどまらず、金融犯罪、執行妨害事案、高金利処罰、マネーロンダリングなど、経済犯罪一般に関心を広げ、経済刑法全体の文脈の中で破産犯罪を分析するように心がけた。一方、「債権回収において、いかなる場合に、また、いかなる範囲で刑事法が介入すべきなのか」という問題意識から、刑法の違法阻却の理論的研究、とりわけ自救行為(自力救済)の正当化根拠とその限界に関しても検討を加えた。その結果、現在の通説のように自救行為の成立要件をきわめて厳格に解する必要はなく、むしろ、正当防衛との連続性という観点から分析を加えるべきではないかと考えるに至った。この点についてはさらに検討を加えたうえで、近日中に成果を公表する予定である。本年度はこのように多角的な観点から研究活動を行った結果、複眼的な視点を獲得できたように思われ、それ自体はきわめて有益であった。もっとも、それらのアプローチが破産犯罪の分析に十分に収斂しているとは言い難く、今後、さらに継続的に研究を続ける必要がある。
著者
吉浦 一紀 筑井 徹 徳森 謙二 清水 真弓 後藤 多津子 河津 俊幸 岡村 和俊
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

良悪性の鑑別にMRIの造影パターンを判断材料にする事が多いが、信号強度自体は撮像法により異なり、各施設で共通した指標とはなりにくい。そのため信号強度自体を解析するのではなく、信号強度から造影剤濃度を算出し、薬物動態解析(コンパートモデル解析の一種であるTofts-Kermode model (TK model)を適応)することによって、組織固有のパラメーターを算出を試みた。その為には、造影剤投与後の造影剤濃度の把握が必要であり、算出方法の確立を行った。
著者
米山 喜晟 米山 喜晟
出版者
大阪外国語大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

本年度の研究実積はI.3年間の研究成果を中心に、従来の研究代表者の論文その他を収録した『イタリア・ノヴェッラの森』の刊行、II.論文1点と研究ノート1点、III.I.のために書き下ろした解説と要約3点である。まずII.について記し、その後I.とIII.について記す。本年度発表した論文は「G.セルミーニの心の中の障壁」と題したもので、シエナのノヴェッラ作者セルミーニのノヴェッラ集を素材として中世イタリアのコムーネの市民の心性を探究し、イタリア・ノヴェッラに頻出する悪戯のモチーフは、領域民に対する「差別と排除」のテーマを基盤としていることを論じた。研究ノートは、「ノヴェッラの起源と『ノヴェッリーノ』と題したもので、セグレやツムトルの近年の研究成果を紹介しながら、ノヴェッラというジャンルの定義と成立について論じている。同時に『ノヴェッリーノ』の新しい評価を紹介した。研究代表者が『イタリア・ノヴェッラの森』のために新しく書き下ろした解説は、1.「イタリア.ノヴェッラの森への案内」、2.「ジェンティーレ・セルミーニの人と作品」、3.「(ジラルディ・チンツィオの)『百物語』のノヴェッラの要約」で、1.はわが国で初めて試みられたイタリア中世・ルネサンス期のノヴェッラの通史であり、極めて不十分なものではあるが、これによってほぼ流れの全貌を把握することが可能となった。2.は『ロミオとジュリエット』の源流とされる作品を含んでいる作品集の全作品の要約、3.は『オセロ』や『以尺報尺』の原作を含むことで名高いが、わが国ではほとんど知られていない作品集の全作品の要約である。以上の成果を中心として、研究代表者の論文その他12点、それにイタリア口承文学研究に関してすでに定評のある気鋭の研究者鳥居正雄Gの論文3点を加えて現在刊行予定中で、すでに原稿を印刷屋に引き渡し済みの資料集が『イタリア・ノヴェッラの森』である。
著者
松田 克礼
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

プラズマフィールドを利用した害虫忌避スクリーンを開発し、害虫の侵入が問題となる栽培温室や青果物保存施設、食品工場や穀物の貯蔵倉庫などに適用した。その結果、いずれの施設においても害虫の侵入は観察されず、その有効性が確認された。また、施設の環境は大きく改善され夏場においても良好な環境が維持された。さらに、この装置は、害虫を忌避させるだけでなく、害虫を捕捉できることも明らかとなった。
著者
土佐 紀子
出版者
北海道大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

研究目的:近年、「動物福祉(animal welfare)」、という言葉を盛んに聞くようになり、実験動物に関しても動物の「幸福な暮らし(psychological well-being)」を実現するための環境エンリッチメント(environmentalenrichment)の役割が注目されている。実験動物の飼育では、飼育環境が抱える物理的または社会的な問題により、繁殖障害、発育障害、異常行動といった異常がしばしば観察される。これらの問題における環境エンリッチメントの効果に期待が高まっている。今回、環境エンリッチメントの中の一つの要素であるマウス専用玩具に注目し、マウスの異常行動である常同行動と攻撃問題における影響について解析した。研究方法と結果:実験には、給・排気型動動物飼育システム(TONETS SEOBiT)を用いた飼育室(最大収容ケージ数:432)を使用し、設置された9台のラックには前面式自動給水装置(エデステローム)が装備されていた。床敷にはペパークリーン(三協)を使用し、餌はMF(オリエンタル酵母)を給与した。この飼育室の利用者の了承を得て、飼育されているマウス全てを披見動物として使用した。マウスの種類は、ICR、C57BL/6、BDF1と、C57BL/6の遺伝的背景を持つ遺伝子組み換えマウスで、常時約800匹のマウスが飼育されていた。この飼育室で発生する常同行動を、月に1回、4ケ月間調べたところ、飼育ケージ数の平均が289.75±21.05個に対して、給水ノズルを悪戯する行動が60.5±7.85(20.75±1.28%)個のケージで観察された。これらのケージに市販されている玩具であるShepherd Shack(エルエスジー)またはMouse Igloo(アニメック)と木片を施し2週間観察したところ、78例32例(41%)で悪戯が消失した。さらに、悪戯が消失しなかったケージ5例に、新しく考案したボールタイプの玩具を施し2週観察したところ、3例(60%)で悪戯が消失した。一方、攻撃行動が観察されたケージについて、上記と同じ玩具を施したところ、10例中10例(100%)で怪我の治癒が認められた。研究成果:本研究により、マウス専用玩具が常同行動と攻撃行動に効果がある事が明らかとなった。特に攻撃問題に関しては、玩具を一つケージ入れるだけで攻撃問題が消失した事は非常に興味深く、マウスの攻撃性が低下した事によるのか、避難場所が確保できた事によるものか、今後さらに解析を進めたいと考えている。
著者
藤本 陽子
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

まず、日本におけるカナダ現代小説の受容と消費をめぐる論文を完成させた。グローバルな出版産業と価値基準の確立がどう日本の現状に影響を与えているかを解明すると同時に、その一方で、日本独自の翻訳文学の歴史と現在の小説家たちの位置づけが、現代において「輸入もの」との文化的接合のありかたをどう規定しているかを中心に論じた。(2011年中にカナダより分担執筆として出版予定)。次にアフリカ出身のアジア系作家M.J.ヴァサンジを中心に、欧加においてどう評価がなされたかに注目した。とりあげられる文脈に応じて、アフリカ作家、アジア系作家、カナダ作家、世界文学者などと自由に定義されることの多い作家である。本研究では、特に物語の越境的な継承とストーリーテリングの力を前面に押し出す作品群の特徴が、いずれの地でもこの作家をいわゆるポストコロニアル作家として評価させる要因となっていることを考察した。しかし実際には流動する視点から自らをある特定の地点(特にカナダ)につなぎとめようとする傾向も作品の細部にはみられる。後天的に獲得されたナショナルな要素とポストコロニアルと規定されるもの交差に関する問題がここにはある。この論考の一部については、オーストラリア大学連盟の学会で報告を行った。日本では、2011年夏から秋にかけて、The New Oxford Book of Canadian Stories in Englishの翻訳を出版する(監修・訳藤本)。カナダの中短編小説に関する解説文に本研究の成果を反映させたものを、下巻に収録する予定。
著者
中信 利恵子 川西 美佐 植田 喜久子 廣川 恵子
出版者
日本赤十字広島看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

ヒロシマ原爆被爆時の看護体験が、その後の人生にどのような影響を与えたのかを明らかにすることを目的とし、当時看護を行った赤十字看護婦及び看護婦生徒にライフヒストリー法による面接調査を行った。看護婦養成所での授業は中断し、悲惨な状態の人々に無我夢中で看護した。被爆後、結婚、出産、配偶者との死別、定年まで看護職として勤務するなど女性としてのライフコースを歩んだ。被爆後に病気や辛い出来事に直面した時、被爆時の看護体験を礎にして乗り越えた。生かされた自分自身は人の役に立って生きることだと意味づけていた。
著者
山内 靖雄 田中 浄
出版者
鳥取大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

本研究では、強力な遺伝子転写プロモーターを植物に人為的に導入し、無作為に種々の植物ゲノム遺伝子の転写を活性化させることにより、さまざまな転写活性型突然変異体を作製し、原因となっている転写活性化された遺伝子のクローニングをするアクチベーションタギング法を用いて、環境ストレス耐性に関与する遺伝子をクローニングすることを最終目的として実験を行った。実験材料は当初はタバコとシロイヌナズナを用いて行ったが、シロイヌナズナを用いる形質転換係が芳しくなく、効率的に変異体を作製することができなかったので、当研究室で確立しているタバコを用いた形質転換系を用いて変異体植物作製を集中的に行った。本実験ではアグロバクテリウム(GV3101)とアクチベーションタギング用プラスミド(pPCVICEn4HPT)を組み合わせ、タバコ葉片に感染法によりプロモーターを導入した。プロモーター導入後のタバコカルスを抗生物質(ハイグロマイシン)を含んだ培地で選抜し、変異体植物タバコを完全体に再生した。第一世代の形質転換体タバコは種子を得るため、約6ヶ月間種子が完熟するまで栽培した。その結果、計191系統の形質転換体タバコを得ることができた。現在、得られた突然変異体タバコを播種し、塩ストレス、乾燥ストレスを負荷し、ストレスに耐性を持った個体を選抜中である。また、これらの形質転換体タバコのうちいくつかは、形態的に野生株と異なっているものがあり、今後はこのようなタバコ個体の遺伝子解析も行う予定である。
著者
松山 郁夫
出版者
佐賀大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

質問紙調査により、特別養護老人ホームの介護職員における認知症高齢者のコミュニケーション等の状態に対する認識を検討した。独自の質問項目からなる質問紙による調査の結果、346人の有効回答について俳徊の有無別に実施した因子分析の結果、「身体」「不適応」「コミュニケーション」「表現」の4因子から構成され、4因子各々の項目は同一であった。また、因子スコアを使用して各因子間の相関係数を算出すると各因子間において相関が認められた。このため、俳徊の有無に関わらず、介護職員は認知症高齢者の状態を「身体」「不適応」「コミュニケーション」「表現」の視点から捉えていると考察した。また、昨年度に引き続き、太田ステージの評価方法であるLDT-R(言語解読能力テスト改訂版)を用いて、89人の認知症高齢者の表象能力を段階別に分類できるのかを検討した。認知症高齢者の表象能力は、LDT-Rによって認知発達の低い順から段階別に分類できたため、太田ステージによる評価は認知症高齢者の表象能力を段階別に示していると推察した。認知症高齢者の表象能力を評価できれば、理解できるコミュニケーション方法を見出すことが可能になり、援助者との間にコミュニケーションが成立し、認知症高齢者の安定した生活につながると考えた。さらに、認知症の進行で表象能力や言語能力が低下し、物事への興味・関心が薄れることも考慮して、表象能力の段階が低いものには視覚的手がかりがあるパズル、高いものにはカルタを使ったレクリエーションを行った。各々集中して一定時間取り組むことができ、介護職員や利用者とのコミュニケーションをとることが増えたため、意欲的な生活につながっていると推察した。