著者
佐藤 理江
出版者
独立行政法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

GRBは宇宙最初期における大質量星が放つ最期の輝きと考えられている。爆発で放射される相対論ジェットは膨大なエネルギーをもち、高エネルギー宇宙線の加速原としても有力視されている。しかし、どのような星がいかなる機構で相対論ジェットを形成するのかは未だ謎である。本研究ではすざく衛星、Fermi衛星と連携することで、これまで不可能であった広帯域・高感度の観測を実現し、GRB放射機構の解明に迫る。2008年6月にFermi衛星は無事打ち上げられ、これまでに順調に科学データを取得している。Fermi衛星で狙うGRBサイエンス(GeVガンマ線起源の解明など)の成果もあがっており、科学論文も発表されている。この中で私は、Fermi衛星の運用が始まってから。日本チームの一員としてGRB発生の監視当番や、データ解析を行ってきた。昨年9月に発生したGRBにおいては、Swift衛星によるX線、Fermi衛星によるGeV領域のデータを合わせた解析を行っている。X線からGeVガンマ線領域にわたる同時解析は初めての試みである。一方で私は、すざく衛星のデータを用いたブレーザーの解析も進めており、TeVブレーザー「1ES1218+304」や「SwiftJ0746」では、時間発展、多波長スペクトルから磁場の強さなどブレーザー領域における物理量を導いた。さらには、すざく衛星を用いて観測された5つのブレーザー天体と、Fermi衛星による同時期のデータをあわせた解析を行い、その結果を投稿論文としてまとめているところである
著者
林 祐太郎 郡 健二郎 小島 祥敬 佐々木 昌一
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

今回われわれは,外因性内分泌攪乱物質の中でもダイオキシンに注目し,男子の生殖器奇形児のダイオキシン曝露量の指標として,患児を出産した母親の血液中のダイオキシン濃度を測定し,ダイオキシンが男子生殖器奇形の一因となる可能性について分析・評価した。実際には尿道下裂の患児の母親5名の血液中のダイオキシン濃度を測定した(採血した平成12年の段階での患児の年齢は1歳1例,3歳3例,5歳1例)。測定した化学物質はポリ塩化ジベンゾパラダイオキシン(PCDD)分画7種類とポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)分画10種類であった。ダイオキシンの分析は,電子捕獲検出器付ガスクロマトグラフ法によって行った。得られたダイオキシン各分画の濃度を,最近環境庁が発表した一般環境住民の血液中ダイオキシン異性体別濃度平均と比較した。またそれぞれの分画の構成比率についても比較検討した。なお地域の偏りを少なくするために対象の5名は3県から選択した。それぞれの分画の濃度の比較で,1SDを越える異常値を示す症例はなかった。またPCDD,PCDF,PCDD+PCDFについても1SDを越えるものは認められなかった。分画の構成比についての検討では,ダイオキシン類の中でも最も毒性が強いとされている2,3,7,8-TetraCDDの割合が,環境庁の示した一般人のデータの平均を3例で上回っているほかに特徴的な所見はなかった。以上,尿道下裂の発生の増加に,近年問題にされている環境ホルモンのダイオキシンが関与しているかどうかを調査する一手段として,母親の血中ダイオキシン濃度を測定したが,一般人の血中ダイオキシン濃度との有意差を認めなかった。
著者
齋藤 友博
出版者
国立成育医療センター(研究所)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

2316名の高校生の24,071人の生活習慣病の既往歴調査データから家族の性・年齢別虚血性心疾患既往割合を算出し、そのロジスティック解析から家族の性、年齢の違いによる既往割合への影響を定量的に検討した。性差のオッズ比は1.61、年齢差のオッズ比は1.07で性差、年齢差とも全年齢層にて有意であったが、70歳未満で双方とも大きく、そのリスク因子としての家族歴評価では性.年齢を考慮すべきであることが示された。家族の年齢のみならず、家族歴陽性者が女性家族である場合にはより大きなリスク要因として評価すべきであることを初めて明確に指摘した。次いで生活習慣病の家族歴の再現性を検討した。虚血性心疾患、脳卒中、糖尿病では、家族の性および年齢を定量的に考慮した方法を考案しその有用性を検討した。1584名の高校生の17,127人の両親、祖父母、おじおばの虚血性心疾患既往歴のロジスティック解析から家族の性、年齢の違いによるオッズ比1.60および1.06を得た。性差オッズ比年齢のオッズ比の8乗に近く、性差は年齢8歳の違いに相当することになる。そこで、各家族既往歴の高校生への負荷を各家族毎に(30/リスク年齢)の4乗で計算した。リスク年齢は10歳区分発症年齢または未発症では現在または死亡年齢である。年齢別既往割合は年齢の4乗に最も近いので4乗を用いた。年齢30歳未満は30とした。ここで女性家族ではリスク年齢から8歳を減じた。各家族のリスク値を両親では2倍、おじおばは父母方別に2人相当とし、祖父母を加えて12で除した。この家族リスク値と(総コレステロール-HDLコレステロール)/HDLコレステロールで定義される高校生の動脈硬化指数とのオッズ比をみたところ、家族歴リスク値を中央値で2分すると1.50、最低4分位と最高4分位では1.84といずれも有意となった。従来の家族歴評価法よりハイリスク高校生の把握能が優れていた。
著者
今福 恵子 深江 久代
出版者
静岡県立大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、難病患者の災害準備に対する意識調査、実態調査をALS協会や、静岡市保健所、三重難病相談支援センターの協力を得て調査した。その結果、災害準備をしている人は30%であった。さらに「何をどのように準備したらよいかわからない」といった自由回答もあったため、難病患者宅に訪問し、どのような内容がマニュアルに載せてほしいか意見を聞きながら、難病患者当事者の視点に立った災害マニュアルを作成した。
著者
菊池 雅彦 坪井 明人 岩松 正明 玉澤 佳純 木之村 重男 下西 充 高津 匡樹 伊藤 進太郎 駒井 伸也
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

脳MAI検査による画像から得られた大脳虚血性病変に関するFazekasスコアと口腔内状況との偏相関分析(年齢調整)を行ったところ、上顎歯数および上下顎合計歯数と、一部の病変のFazekasスコアとの間に有意(p< 0.05)な負の相関が認められた。大脳虚血性病変は認知機能障害と関連することが報告されており、今回の結果から、歯の保有数、とりわけ上顎の歯数が少ないほど、認知症のリスクが高くなる可能性があることが示唆された。
著者
岩野 英夫
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1)ドイツのマールブルク大学図書館を拠点にして、Hubnerが作成した目録に従い西洋中世裁判文書を収集し、解読を進めるとともに、ゲルマン法関係史料、文献を集めた。2)日本法制史研究者の助力を得ながら、日本中世の和与文書とそれに関係する文献を収集した。また日本三代実録に記録されている裁判関係記録を読み進めた。明法家を養成する仕組み、明法家の法律実務の手法を伝える史料や文献を収集し、読み進めた。3)先輩研究者からの聞き取りについては、三人の方にお話をうかがった。また故人となられた方お一人について、参加者の異なる二つの座談会をした。
著者
福澤 雪子 山川 裕子
出版者
産業医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は産後1年間の初産の母親の対児愛着の経時的変化と母親の背景・特性及び育児ストレス状態やストレス対処能力との関連を明らかにすることにある.F市産科クリニックで出産した母親を対象に倫理的配慮の元に対面と郵送で調査した.調査票はBonding質問票,SOC,EPDS,育児ストレスと生活出来事調査票,属性票を用いた.平成17年2月〜19年2月期間内総対象数2497名(実数591名),回答2135名.産科的ローリスクの母親が多い。以下,初産の母親の結果である.分析対象数1047名.妊婦(32〜40週)145名,退院時255名,1カ月時274名,3カ月時137名,6カ月時124名,1年時112名.平均年齢28.9±4.4歳.Bonding得点退院時2.3±2.1点,6カ月時1.3±2.0点,1年時1.6±2,4点.退院時と3・6カ,月,1カ月時と3・6カ月時で有意差があり,対児愛着は産後1年でより肯定的に変化した.SOC得点は妊婦61.9±10.7点,退院時64.6±11.9点,6カ月時67.9±12。7点,1年時68.4±12.7点.妊娠中と産後1・3・6カ月・1年時,退院時と1カ月時で有意差があり,SOCは産後緩やかに向上した.EPDS得点は退院時5.5±3.6点(高得点18.1%),6か月時4.2±3.2点(高得点11.7%),1年時3.8±2.8点(高得点10.6%).退院時と全時期で有意差があり,退院時の精神状態が最も悪く,1年間に抑うつ状態の母親が9.6〜18.1%出現した.全ての時期で半数を超える母親が育児を負担に感じていた.日常生活でストレスを感じている母親は3カ月以降に半数を超え,家事ストレスが顕著だった.初産の母親の対児愛着やストレス対処能力,精神状態などに関する有意義な基礎的データを得る事が出来た.母親のストレスに応じた産後の支援が必要である.
著者
山田 和子 上野 昌江 柳川 敏彦 前馬 理恵
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

目的:4か月児健康診査(以下、「4か月」とする)、1歳6か月(以下、「18か月」とする)における母親の育児不安とその関連要因を明らかにするとともに、都市部と郡部の育児の違いを明らかにすることで、乳児からの育児支援の方法について検討する基礎資料を得ることを目的とする。調査方法:調査対象はA市(以下、「郡部」とする)の平成20年7月~12月生まれの児を持つ母親とした。調査方法は健診の問診票を送付時に本調査の調査票を同封してもらい、健診時に回収した。育児不安得点を平均点により2分して比較した。結果:調査の回収は4か月107名(回収率97.3%)、18か月103名(回収率92.8%)であった。4か月において、育児不安が強い群の方が、児への気持ち得点、母性意識得点は、有意に否定的であった。育児で心配なことも育児不安が強い群の方が有意に心配なことが多かった。郡部と都市部を比較すると、育児不安得点は、郡部の方が都市部より低かった。児への気持ち得点は、郡部の方が都市部より子どもへの否定的感情が弱かった。4か月と18か月の育児不安得点との相関をみたところ、4か月時に育児不安がある母親は18か月時点でも有意に育児不安があった。18か月において、育児不安が強い群の方が夫の育児参加や話しすることが有意に少なかった。まとめ:4か月で育児不安がある母親は18か月でも育児不安があることが多いことより、乳児期早期からの育児支援の必要性が示唆された。さらに、育児不安の状況は地域により異なることより、各地域の状況に応じた育児支援対策を行うことが必要である。
著者
森根 裕二 島田 光生 居村 暁 池上 徹 金村 普史 中村 隆範
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では肝再生における新たな調節因子をなりうるソニック.ヘッジホッグ(SHH)の作用機序についてラット肝切除モデルを用いて検討した。PCNAlabering index(L.I.)は術後24時間が最も高値で、非実質細胞ではPCNAL.I.は術後経時的に上昇した。全経過において、肝実質細胞.非実質細胞ともにPCNAL.I.は90%肝切除モデルが有意に高値であった。Shhに関しては90%・70%肝切除モデル間に発現強度の差はないが、肝実質細胞では術後24時間で最も高値で、術後経時的に上昇した非実質細胞は異なる発現パターンであった。肝実質細胞では各Zoneに均等に発現していたが、非実質細胞ではZone 1にのみ発現増強していた。Gli-1はShh発現と同様の発現パターンを呈した。本研究はShh pathwayが肝再生において、肝実質細胞・非実質細胞の再生と肝組織構築に重要な役割を果たすことを示唆した。
著者
関屋 俊彦
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

「能楽資料の調査と整理」という主目的については、ほぼ達成できた。東京はもとより佐渡島・長浜・山口・臼杵を訪れることができた。中でも佐渡島の山本修巳氏にお会いし、生田秀の多くの情報を得ることができた。『生田文庫新蔵書目録并解題』として100頁を越える冊子を近々冊子(非売品)にする予定である。これは改めて学術図書に応募したい。大蔵虎明著の間狂言本は、架蔵の大蔵虎光間狂言転写本と共に、これも学術図書に応募したい。両書ともほぼ翻刻は終えている。大蔵弥右衛門家の事情により中断しているが、再確認の依頼は取れている。
著者
向井 秀仁 木曽 良明
出版者
長浜バイオ大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

タンパク質や生理活性ペプチドが生合成され、また代謝・分解される段階では、同時に多数の断片ペプチドが生成されるが長い間これらは機能を持たない代謝産物であると考えられてきた。本研究では先行研究により発見されていた好中球活性化ペプチド、マイトクリプタイド-1に加えて、新たにマイトクリプタイド-2およびマイトクリプタイド-3をブタ心臓から単離・同定し、それらがミトコンドリアタンパク質由来の新規好中球活性化ペプチドであることを明らかにするとともに、これらマイトクリプタイドの受容体およびその細胞内情報伝達機構を明らかにした。
著者
向井 邦晃 三谷 芙美子 西本 紘嗣郎
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

低分量基底膜蛋白質であるAZ-1は、血管基底膜の構成因子として構造的細胞外マトリックス蛋白質、血管内皮増殖因子、同受容体、インテグリン群との結合能を持つ多価相互作用因子であることが判明した。この相互作用が血管内皮細胞の接着、増殖、管腔形成などを制御することにより、血管内皮増殖因子による細胞の活性化が抑制されて血管内皮の恒常性が維持されうることが示唆された。
著者
窪田 幸子 曽我 亨 高倉 浩樹 内堀 基光 大村 敬一 杉藤 重信 丸山 淳子 PETRRSON Nicolas ALTMAN Jon
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、20 世紀末から力を持つようになった国際的なイデオロギーとしての「先住民」概念を視野に入れつつ、国際世論と国家の少数民族政策のもとで、少数者である当事者の人々が、どのように先住民としての自己のアイデンティティを構築していくのかをあきらかにすることを目的とするものである。その結果、先住民としてのアイデンティティを選び取る・選び取らないという選択の幅がみられる現状には、グローバリゼーション、なかでもネオリベラルな経済的影響が大きいことが明らかになった。最終年に開催したとりまとめの国際シンポジウムではこのスキームをベースとして、代表者、分担者そして海外研究協力者の全員が研究発表を行った。
著者
高松 哲郎 田中 秀央
出版者
京都府立医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

心筋梗塞の修復期に増加する筋線維芽細胞(MF)が、心筋細胞(CM)との間にギャップ結合蛋白質コネキシン43(Cx43)を介して細胞間結合し、心臓に異常な興奮伝導を惹起するか否かを検証した。ラット心筋梗塞モデルでは、MF・CM間にCx43が発現し、CMからMFへ色素移行した。CMとMFの各単層組織をフィルター膜を挟み各々表裏に培養すると、CM層の伝導が遅延し旋回性の不整脈が生じ易くなった。また両細胞を人為的に電気的結合すると、細胞間抵抗の低下に伴いCMの脱分極や自発性興奮が発生した。以上、MFは心筋梗塞の重要な不整脈原性基質となることが判った。
著者
山口 智子
出版者
奈良女子大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2005

野菜には生活習慣病や老化を予防する機能性成分が多く含まれることが明らかになっている。近年、市場では色の異なる野菜や小型のものなど、見た目に珍しい野菜が出回わり、野菜を購入する際の選択肢が多様化している。そこで本研究では、野菜に含まれる機能性成分のうちラジカル捕捉活性とそれに寄与する成分について着目し、本年度は、野菜の品種、栽培条件、大きさ等に焦点をあて研究を行った。大きさの異なる野菜として、大ショウガと小ショウガの成分を比較したところ、アスコルビン酸量は相違ないものの、総ポリフェノール量やラジカル捕捉活性は大ショウガの方がやや高いという結果が得られた。次に、形状の異なる7品種のナスを用いて、塩もみ・浅漬け・揚げる・煮る・蒸す・焼くの各調理を行い、調理適性を明らかにするとともに、各調理法における美味しさに影響を与える食感について検討したところ、調理後のおいしさと食感、調理適性に品種間差があること、同品種内でもそのおいしさは調理法により差があることが示された。ラジカル捕捉活性は米ナスが最も高く、庄屋大長が最も低かった。栽培条件として、生育日数と機能性成分との関連性を調べたところ、ヤマトマナのラジカル捕捉活性は播種後11日目が最も高く、生育日数の増加に伴い低下し、26日目では11日目の約60%であった。総ポリフェノール量はラジカル捕捉活性と同様、生育日数の増加に伴い減少した。コマツナのラジカル捕捉活性と総ポリフェノール量もヤマトマナと同様の変動傾向を示した。さらに、LED照射によるカイワレダイコンの栽培を行い、LED照射の機能性成分への影響を検討したところ、LED照射試料では、太陽光に類似した波長を持つメタルハライドランプ照射に比べて各機能性成分は低値を示した。また、生物リズムが異なる変動を示すことが明らかとなった。
著者
飯島 淳一 妹尾 大 蜂谷 豊彦 平野 雅章
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、大規模な実態調査にもとづき、プロセス志向性、知識創造能力などの組織特性がイノベーション経営度やICT利活用効果との関連性を検証し、「プロセス志向度の高い企業は業界内で比較優位にあり,ICTを有効に活用している」ことや「表出化活動の実施度合いが他の活動と比して低い組織はIT投資成果を得にくい」などの結果が得られた。
著者
山口 智治 星 典宏
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

大型温室などの生物生産施設での高効率生産のため,気流,温・湿度,ガス濃度など,いわゆる室内空気分布の的確な予測とそれに基づく高度な環境制御システムの開発が要望されている。他方,計算機数値解析技術の一つであるCFD (Computational Fluid Dynamics)による室内空気流れ環境の解析法が生物生産施設分野での環境予測にも導入されて来ている。本研究は,生物生産施設内の空気分布に関して,CFDシミュレーションと現場実測から検討を行い,生物生産施設の新たな環境設計法の確立を目的としたものである。得られた主な成果は以下の通りである。1.CFD法をパッドアンドファン冷房温室に導入し,温室内の3次元気流速分布および温度分布についての検討を行った。CFDによる温室内気流および温度解析結果を実測データによって検証した結果,両者はよく一致した。さらに非栽培条件下のパッド冷房温室内の3次元気流速分布および温度分布を予測し,室内気流の主流域と還流域の存在を定量的に明らかにし,また気流分布に密接に関係する温度分布に関して水平および垂直方向の不均一性を示した。さらに,還流の影響でパッドからの低温空気が一部屋根空間に入り込み,冷房効果が低減されることを示した。2.CFDシミュレーション検証データを得るため,中国北京市と上海市および愛知県所在の実際のパッドアンドファン冷房温室における環境計測実験結果について詳細な解析を加え,夏季,高温多湿地地域にいても本冷房方式が有効であること,しかしながら室内に比較的大きい水平・垂直方向温度分布が形成されることを示した。3.パッドアンドファン冷房システムを備える野菜栽培温室を対象として,CFD法を援用し,草丈の高い作物(トマト)の栽培を想定した条件下における室内の気流および温度分布に関する数値計算を試みた。栽培畝方向と気流方向を平行させ,また植栽層にある程度の流路率があれば,換気時間の経過に従って,植栽層内部にも冷却効果が得られる可能性を示した。
著者
石川 捷治 出水 薫 李 弘杓 中島 琢磨 平井 一臣 木村 朗 藤村 一郎 山田 良介 木原 滋哉 黒木 彬文 中村 尚樹 李 〓京 権 赫泰 金 暎浩 金 世中 余 信鎬 徐 炳勲 李 春根 許 殷
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

朝鮮半島における1945年「8月15日」を境とする政治・社会状況の変化について、当時の人々(日本人を含めて)の証言(記憶)と記録により歴史の具体像の解明にせまる。韓国・日本・その他の歴史博物館における「8・15」の位置づけに関する調査と文献資料の収集と分析を行い、現地での韓国人や引揚者などからの聞き取り調査を交えて、研究を進めた。その結果、それぞれ「転換期」にある韓国・日本の「歴史認識」の位相について明らかにすることができた。
著者
佐藤 健
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

密度汎関数理論(DFT)は分散力を記述できない。よく行われる経験的な分散力補正は新しい系への適用が難しい。そこで本研究では、電子密度応答関数に対する局所近似(Local Response)に基づいて分散力(Dispersion)を非経験的に算出するLRD法を考案し、弱い相互作用を高精度かつ効率的に記述できる新しい手法を開発した。LRD法は分子中の原子間分散力係数を基底状態電子密度の汎関数として与える。さらに、多中心相互作用への拡張や自己無撞着的解法の実装を行い、複雑な分子集合体の高精度量子化学計算を可能にした。
著者
酒井 富夫
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、米国と北東アジアにおける飼料穀物について、供給及び需要主体としてのアグリビジネスの経営行動に焦点をあて,その安定的な需給構造のあり方を展望したものである。中国の自給率の動向は、北東アジアのみならず世界の需給関係に影響を及ぼす。自給率は、内外価格差、国内価格水準、国内の需給関係等と関連し、国内の需給関係は、供給と需要の動向及び農業政策に左右される。国内では、WTO加盟に対応し、国際競争力を高めるべく、農産物国内流通の市場機構を整備し、集荷・流通段階の競争構造が急速に形成されつつある。中国の消費地である南部の飼料穀物は、大連を経由して主に中国東北地方から移入している。しかし、消費地におけるアグリビジネスは、極めて市場対応的に行動しており、内外価格差次第では、調達先を海外へとシフトし輸入が増える可能性は十分ある。米国では、アグリビジネスの寡占化・多国籍化が進み、価格高騰時に大量の穀物を輸入するなどで国内市場価格を調整している。その結果、米国の生産農場の面積規模は大きいが、農業者の所得水準は決して高いものではなく、中堅的な家族経営階層が激減しつつある。中国でも、今後のアグリビジネスの成長によって、同様の事態が想定される。中国が、国内価格の調整のために、海外市場を活用するようになると、輸入依存の日本や韓国への影響は大きい。その場合、中国の飼料穀物生産艇家や日本や韓国の畜産農家にどのような影響を与えるのか、今後、さらに注日していく必要がある。農業構造の不安定化は、自給率の低下につながるのである。