著者
齋藤 凌也 山内 利宏
雑誌
研究報告セキュリティ心理学とトラスト(SPT) (ISSN:21888671)
巻号頁・発行日
vol.2018-SPT-29, no.30, pp.1-8, 2018-07-18

SELinux のセキュリティポリシは設定が難しく,配布されている汎用的なポリシを用いる場合が多い.ここで,配布されているポリシは,個々のシステムに必要ない権限を許可している可能性がある.この問題を解決するため,我々は,実行対象のシステムに合わせて,不要なポリシを自動で削除する手法を提案した.しかし,この手法には,大きく二つの問題が存在する.一つ目は,ポリシのソースファイルが存在しない場合,適用できないという問題である.二つ目は,ポリシ削減の粒度が粗いという問題である.そこで,本稿では,上記二つの問題に対処するため,拡張した手法を提案する.拡張した提案手法では,SELinux が保持している SELinux Common Intermediate Language という中間言語で記述されたファイルに着目し,これを利用することで一つ目の問題に対処する.また,ポリシを削減する際の比較に,アトリビュートを元のタイプに置き換えたアクセスルールを利用することで,二つ目の問題に対処する.本稿では,拡張した手法とその評価結果について報告する.
著者
水谷 仁
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.1_223-1_245, 2020

<p>本稿は、マックス・ヴェーバーの帝国主義論について多角的に考察することを主な目的とする。先行研究において彼の帝国主義論は、ヴェーバーの国際政治思想におけるひとつの軸である、「世界政策」 (ヨーロッパにおけるドイツの大国としてのプレゼンスの追求) の延長上に位置づけられている。しかしヴェーバーは、グローバリゼーションという彼の生きる時代のドイツが直面した国際政治的な状況を視野に入れて帝国主義を論じ、ドイツが 「世界政策」 を保持し得なくなった後も、帝国主義について言及した。さらには、ドイツの帝国主義的な植民地領有に対する否定的な見解や、帝国主義そのものに対する制約、そしてドイツの帝国主義の放棄さえも主張していた。本稿は、ヴェーバーの帝国主義論を多角的に考察することで、ドイツ帝国主義の経済的・政治的なメリットやデメリットに対するグローバリゼーションの観点をも含んだ彼の評価と、「世界政策」 を保持し得なくなった後の、ヨーロッパにおけるドイツの国際政治的な生存の追求のための帝国主義に対する彼の批判を発見した。それに加え、帝国主義を批判するヴェーバーにドイツの植民地支配・侵略に対する視座が欠如していたという、ドイツ・ナショナリストとしてのヴェーバーの帝国主義論の陥穽をも明らかにした。</p>
著者
広瀬 訓
出版者
長崎大学多文化社会学部
雑誌
多文化社会研究 = Journal of global humanities and social sciences, Nagasaki University (ISSN:21891486)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.37-49, 2021

ローマ教皇が国際政治、とりわけ核軍縮の分野においてどのようなメッセージを発してきたかやその変遷については、すでに先行研究も存在しているが、それらのメッセージが具体的にどのような国際情勢の文脈において発せられ、現実の国際政治の中でどのように位置づけられるべきなのかについてはあまり取り上げられてこなかった。これはローマ教皇がまず「宗教指導者」とみなされてきたからであろう。しかし、ローマ教皇はカトリック教の宗教指導者として倫理、道徳的な観点から核軍縮を進めようしてきただけではなく、バチカン市国の元首として、客観的、科学的な根拠に基づき、核軍縮の促進において先駆的な役割を果たしてきたと言うべきである。その中でも広島・長崎を実際に訪問したヨハネ・パウロⅡ世およびフランシスコ教皇による核兵器に対する明確な否定の方針が持つ国際的な影響は無視すべきではない。It is rather well known what kind of messages the Popes have been delivered on International Relations, particularly on the problem of Nuclear Weapons. However, not many studies have been conducted on the question of what kind of role the Popes have been playing in the real negotiations for nuclear disarmament. Unlike the image of religious leader who put much importance on morals and ethics, the Popes, as a political leader of the Holy See, have been taking important initiatives based on objective, scientific and persuasive assessments in international negotiation for nuclear disarmament. Particularly, the Pope John Paul Ⅱ and the Pope Francis, who visited Hiroshima and Nagasaki by themselves, play very important role by expressing their clear oppositions against nuclear weapons.
著者
神戸 和佳子 原 圭寛
出版者
湘南工科大学
雑誌
湘南工科大学紀要 = Shonan Institute of Technology journal (ISSN:09192549)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.85-92, 2021-03

本稿は,中等教育において必修となっている「総合的な学習(探究)の時間」の教育課程内の位置づけと意義について,実践例を交えて検討することで,中学校及び高等学校のカリキュラム編成の一助とすることを目的とする。ここでは国立教育政策研究所が示す「総合的な学習の時間」の事例について,奈須の述べる「コンピテンシー・ベイス」の教育が持つ「危うさ」という観点から,改訂版ブルーム・タキソノミーの枠組みを用いて分析することでその問題点を指摘し,これを補完し得るものとしてアメリカ・ハワイ州におけるP4Cの実践を紹介する。 This paper examines the Period of Integrated Studies in secondary schools in Japan, from the viewpoint of the "risks which competency-based education has," by using the framework of Revised Bloom's Taxonomy and comparison with an activity of P4C Hawaii. As a result, representative cases of the Period of Integrated Studies contain such risks and the activity in P4C Hawaii contains hints to solve them.
著者
小田桐 確 Tashika Odagiri
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of inquiry and research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.114, pp.207-226, 2021-09

同盟は、勢力均衡を実現する手段として規定される。確かに、ユトレヒト条約(1713年)で「勢力均衡」が欧州国際社会の原則として明文化されて以降、19世紀のウィーン体制までに形成された大国間の同盟は、欧州の勢力均衡の回復という同一の目的を掲げていた。その一方で、大国の行動様式や同盟の機能には差異が見られた。18世紀には、国益を一方的に追求する側面が強かったのに対して、19世紀前半には、欧州全体の安定という共通の利益を実現するために協調する側面が顕著に現れた。では、このような同盟行動の差異は、いかにして生じたのか。本稿では、まず、同盟と勢力均衡の関係について理論的に整理する。続いて、フランス革命の勃発(1789年)からエクス・ラ・シャペル会議(1818年)に至る期間の欧州を取り上げ、当時の五大国による同盟形成の論理とその変化を考察する。最後に、今日の国際政治の分析に対する含意に言及する。
著者
陳 兆昱 Chen Zhaoyu 符 晨 Fu Chen 佐桑 健太郎 Sakuwa Kentaro
出版者
青山学院大学国際政治経済学会
雑誌
青山国際政経論集 (ISSN:02895129)
巻号頁・発行日
no.107, pp.21-37, 2021-11-20

同盟国の兵力を多く駐留させると抑止力は高まるのだろうか。同盟による拡大抑止が配備兵力の規模によって強化されるかどうかはこれまで実証的に検証されていなかった。この研究は駐留米軍の規模が大きくなると紛争に巻き込まれるリスクが低下するのかを定量的なデータを用いて分析した。米国の同盟国を比較した統計分析の結果,配備兵力が多い国ほど紛争のターゲットになるリスクが減少するという明確な証拠は見つからなかった。また,イラク戦争時には多くの同盟国で駐留兵力の削減がされたにもかかわらず紛争リスクが高まった傾向も特に見られず,米軍の大規模兵力を駐留させることと紛争リスクに明確な関係があるとは言えなかった。分析結果は,通常戦力の大規模部隊を配備したからといって必ずしも拡大抑止が強化されるとは限らないということを示唆している。今後こうした実証研究を積み重ねて沖縄など米軍基地政策も再考していく必要があるだろう。
著者
内記 香子
出版者
一般財団法人 日本国際政治学会
雑誌
国際政治 (ISSN:04542215)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.200, pp.200_135-200_150, 2020-03-31 (Released:2020-04-16)
参考文献数
84

The aim of this paper is to explore interdisciplinary international relations (IR) and international law (IL) research on the study of international courts. After the “legalization” theory, the study of international norms or regime complex has received much attention in the IR literature. However, the study of international courts has received less attention. The study of international courts is one of promised areas for research collaboration between IR and IL scholars. In particular, given that we have seen many instances of “backlash” against international courts, such an interdisciplinary approach is clearly needed.This paper provides insights for explaining the relationships between states and international courts. In particular, it addresses how control mechanisms that states impose on the independence of international courts actually operate. There are two existing IR frameworks relevant for the analysis on international courts. One is the legalization concept (and the compliance theory as an effectiveness of legalization) and the other is the principal-agent theory. However, both theories are incomplete to explain the relationships between states and courts. Drawn upon recent work of Dunoff/Pollack and Creamer/Godzimirska, this paper highlights the importance of two insights for analyzing the interactions between states and courts: one is institutional design choices for creating courts and the other is standards for assessing the legitimacy of courts.This paper takes up a recent case of the WTO dispute settlement system in crisis in order to explain why these two insights are important for studying international courts. This paper is not intended to directly address the recent issue of the selection process of the WTO Appellate Body’s members. Rather, this paper attempts to explain how the consideration of court design and standards of legitimacy can help understanding the current crisis of the WTO dispute settlement system.
著者
大久保 洋子 長尾 慶子 松本 祥子 松本 時子
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, pp.123, 2003

[目的]食生活指針に「食文化や地域の産物を活かし・・」とうたわれているように食事に対する知識や料理技術の伝承が失われつつあり、その存続が危惧されている。そこでその実態を知り、今後の食物教育に役立てることを目的に調査を行った。[方法]神奈川・秋田・山形3地域の短大生の親世代40~50代について、留置き式で調査を行い(1)現在作られている行事食の種類(2)手作り食品名および作り方を知った手段、(3)伝承料理の意識、(4)存続させたい伝承料理名、(5)伝承させたい料理技術を検討した。[結果]調査対象者は神奈川109、山形83、秋田176名であった。結果は(1)年越し蕎麦と雑煮は地域、年代に関わらず8割以上で食べていた。おはぎが次いで多く約7割、7草粥は約5割を占めた。(2)手作り食品では赤飯、おはぎ、漬物が地域差がなく、特に白菜漬けは秋田・山形に多く、神奈川では糠味噌漬けが多かった。伝承の手段は祖母と母からが多くを占めた。(3)日本の伝承料理を引き継ぎたい意識が神奈川(5割)山形(7割)秋田(3.5割)、新旧とりまぜて安全な手作り食品を伝えたい意識が神奈川(6割)山形(7割)秋田(6.5割)、それに対して加工食品及び流行の料理を取り入れたい意識が神奈川(2割)山形(4割)秋田(2割)とわずかな地域差がみられた。(4)存続させたい伝承料理は煮物・赤飯・雑煮(神奈川)、赤飯・漬物・きりたんぽ・梅干・おはぎ(秋田)、煮物・漬物・赤飯・雑煮・笹まき・ぼたもち(山形)が多かった。(5)伝承させたい料理技術は庖丁・食器の手入れ、食材の選び方、調味の仕方、衛生面の知識(神奈川)、山形では調味の仕方、魚のおろし方、食材の選び方、食事のマナー、献立の知識、秋田では調味の仕方、魚のおろし方、だしの取り方、箸使いが多かった。
著者
松村 文人
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.80-90, 2015-01-25 (Released:2018-02-01)

戦後日本では,企業経営者と企業内労働組合が行う企業内交渉の他に,統一交渉,集団交渉,連合交渉,対角線交渉と呼ばれる交渉形態が存在した。これらの交渉では,産業別労使団体が企業の枠を超えた労使交渉の主体として交渉や妥結に関与した。産業別労使団体が関与して企業横断的に展開され,賃上げに関する何らかの統一的な合意が形成された交渉を産業レベル交渉と呼ぶこととする。論文では,6産業(私鉄,石炭,ビール,繊維,金属機械,海運)の産業レベル交渉を対象に,交渉成立の条件,展開の諸相,後退・終了の経緯に関して総括的な考察を行う。また,産業レベル交渉の展開を背景に,企業別組合から産業別組合への移行を構想した私鉄,ビール両組合の事例を取り上げ,産別化挫折の原因をさぐる。日本との比較対象国として,産別交渉の伝統をもつ欧州大陸諸国と,1990年代から産別化に着手し,2000年代より産別交渉を展開する韓国を念頭に置く。
著者
武村 昌於
出版者
児童の言語生態研究会
雑誌
児童の言語生態研究 (ISSN:02888955)
巻号頁・発行日
no.18, pp.66-75, 2018-10-27

構え,感情 2年生.教材 : 谷内六郎画『遠い除夜の鐘』『初日の出』、民謡朗読『大晦日の火』.特集 子どものイマジネーションと体感
著者
萱間 真美 木下 康仁 小松 浩子 グレッグ 美鈴 麻原 きよみ 青木 裕見 高妻 美樹 福島 鏡 青本 さとみ 根本 友見 石井 歩 松井 芽衣子 瀬戸屋 希 野中 幸子 海老原 樹恵 早坂 弘子 前田 紗奈 三河 聡子 木戸 芳史 佐々木 美麗 山田 蕗子 古賀 郁衣 奥 裕美 三浦 友理子 松谷 美和子
出版者
聖路加国際大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

質的研究方法は、医療を受ける人や携わる人の経験を当事者の言葉を生かして説明することができる可能性を持つ。統計を用いた量的な研究と比べると経験者が少なく、論文を出版する際に査読ができる査読者や、この方法を理解している編集委員も少ない。よい論文を出版することができるためには、論文の出版に携わる人たちへのガイドラインの提供が必要である。本研究は海外での調査、研修や国内でのセミナー開催を通じてこの課題に取り組んだ。多くの査読委員、編集委員が研修に参加し、知識を共有することができた。
著者
小島 憲之
雑誌
文学史研究 (ISSN:03899772)
巻号頁・発行日
no.38, pp.1-8, 1997-12

一 : 私なりの、恐らく最後の仕事に関係するが、最近『漢書』(巻九十四「匈奴伝」上)を幾たびとなく繰返して読むうちに、 / 年老いて気衰へ、髪歯堕落て、行歩度を失ふ。(「年老気衰、髪歯堕落、行歩失度」) / という、張澤なる者の上書に逢会する。……
著者
中嶌 洋
出版者
日本獣医生命科学大学
雑誌
日本獣医生命科学大学研究報告 (ISSN:18827314)
巻号頁・発行日
no.64, pp.50-62, 2015-12

赤星典太は,第五高等学校(現,熊本大学)及びラフカディオ・ハーン(小泉八雲)による教育的影響や,「仏慈」「博愛」などの宗教的影響を受け,さらには英国,米国における共同募金の先例に触発されたのち,官僚や地方行政の責任者など数々の職責を果たし,生涯最後の仕事として長崎県知事を拝命する。同知事在任中の1921(大正10)年10 月~ 11 月に彼の主唱により長崎市で実施されたものが,「社会事業費共同募金運動」(同市社会事業協会主催)であり,わが国最初の共同募金運動と位置づけられる。約1 ヶ月間に,3 万7,319円3 銭の募金額を集め,9 施設に分配されるなど一定の成果がみられたが,ここには,赤星が英国のラスキン・モスリー博士から学んだ「社会連帯責任」やこの取り組みを年中行事にしようとする彼の高い意識が見られた。反面,同運動はわずか1 回で実践に終止符を打った。それ以降,1947(昭和22)年11 月25 日から実施された「第1 回国民たすけあい共同募金運動」の再出発を待たねばならなかった。本稿では,大正期に一瞬の輝きを見せた長崎市における社会事業費共同募金運動の背後にあった思想・理念を掘り起し,そこから看取できる教訓や今日的意義を中心人物であった赤星の思想展開に着目しながら考察するものである。歴史とは新興と断絶のくり返しにより形成される。紆余曲折を経ながらも,共同募金運動は今なお生息し続けている。