著者
田村 淳 中西 のりこ 赤谷 美穂 石川 信吾 伊藤 一誠 町田 直樹 永井 広野 野辺 陽子 長澤 展子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.263, 2022-10-20 (Released:2023-01-01)
参考文献数
32

シカの累積的な採食圧により絶滅が危惧される多年草の回復を評価するには、設置年の異なる植生保護柵を用いて長期にわたり継続調査することが有効である。本研究では、 1980年代後半からシカの強い採食圧を受けてきた丹沢山地のブナ林に 1997年に設置された 3基の柵( 1997年柵)と 2003年に設置された 4基の柵( 2003年柵)、2010年に設置された 3基の柵( 2010年柵)を用いて、シカの個体数管理が行われている柵外も加えて、神奈川県絶滅危惧種の多年草の種数と個体数を継続して調べた(ただし、柵により不定期調査)。1997年柵では 5年目に 6種が出現して、それ以降種数は減少した。一方、 2010年柵では、時間の経過につれて出現種数が増加して 10年目には最大の 5種が出現した。個体数では、 1997年柵ではハルナユキザサとレンゲショウマを除き減少し、 2010年柵では時間の経過に伴い増加する種が多かった。 1997年柵と 2003年柵、 2010年柵の 5年目の比較では、 1997年柵で個体数の多い種が 2種あった。これらの結果は、シカの累積的な採食圧を長く受けた後に設置された柵では、先に設置された柵よりも回復までに時間はかかるものの、柵を長く維持することで新たな種が出現したり個体数が増加したりする可能性があることを示している。一方、柵外ではヒカゲミツバの 1種のみが継続して出現し、 8年目にはクルマユリやハルナユキザサなど 4種が初めて出現したがクルマユリを除いてその年のみの出現であった。また、個体数は柵内と比較して少なかった。このように丹沢山地では、シカの採食圧を 20年以上受けた後に設置された柵内で 5年以上かけて回復した絶滅危惧種が存在することを確認した。一方、柵外では絶滅危惧種の回復は限られていた。これら柵内外の結果は本調査地に特有の可能性もあるため、他地域においても柵の設置と個体数管理の有効性を検証することが望まれる。
著者
藤澤 正一郎 末田 統
出版者
一般社団法人 日本福祉のまちづくり学会
雑誌
福祉のまちづくり研究 (ISSN:13458973)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.21-27, 2012-11-15 (Released:2017-06-23)

盲人と視覚障害者のための歩行面触知物(TWSIs)の国際規格ISO23599が2012年3月に発行された。TWSIsは1965年に日本で発明され、その後、盲人と視覚障害者の自立歩行を支援するために世界各国で使用されるようになった。しかし、国によりTWSIの形状とその敷設方法は異なっている。このような事情を反映して発行された国際規格の概説を行う。
著者
坂 敏宏
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.270-286, 2014 (Released:2015-09-30)
参考文献数
42

Max Weberの価値自由 (Wertfreiheit) という概念はこれまでさまざまに解釈されてきた. 本稿はまず, Weberの著作からwertfreiまたはwertungsfreiを含む語 (‘価値自由’) の用例を調べ上げることで, Weber自身がこの言葉にどのような意味を与えていたのかを明らかにしようとする. 調査の結果, ‘価値自由’の語はテキスト中30カ所において得られた. これらの用例を分析したところ, これらはすべて社会科学的認識のための方法論の立場を示すものとして用いられており, 実践的な「価値への自由」を含意していなかった. つまり, ‘価値自由’が意味しているのは, 実践的内容を含意するものである価値は, 科学的認識の「過程」において認識の対象とすることができるが認識の基準にすることはできないということ, および認識の「言明」において価値評価は排除されるということである. 次にその意義を考察した. それによると, ‘価値自由’は自然と対置される価値の世界を自然科学と同じ確実性をもって認識するための原理であって, これによって価値の世界を自然の世界と同様の客体として科学的に「説明」することを可能にするものであり, さらには, 認識と実践の統一を主張するHegel的な汎論理主義的性格に抗して, あくまで認識と実践との区別というKant的な立場に踏みとどまろうとするWeberの「哲学」の基礎をなしている.
著者
川端 晶子 澤山 茂 瓜生 恵子
出版者
The Japanese Society of Nutrition and Dietetics
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.9-18, 1974-01-25 (Released:2010-10-29)
参考文献数
19
被引用文献数
7 6

44種の果実類, 3種の果菜類および3種の種実類のべクチンを定量した結果, 新鮮物可食部に対するペクチン酸カルシウムとしての全ペクチン含有量は, 次のようであった。1) かんきつ類4%以上: 温州みかん果皮3.00~3.99%: きんかんパルプ, ぶんたんパルプおよび果皮, ゆずパルプ。2.00~2.99%: ぶしゅかん, ゆず果皮。1.00~1.99%: きんかん果皮, 温州みかんパルプ。0.99%以下: きんかん果汁, 温州みかん果汁, ぶんたん果汁, ゆず果汁。2) その他の果実類2.00~2.99%: ポポー, アボカード。1.00~1.99%: かりん, いちじく, 赤すぐり。0.50~0.99%: りんご (紅玉, スターキング, デリシャス, ふじ, インド, 国光), すぐり, バナナ (エクアドル産, フィリピン産, 台湾産), かき, いちご, キィウィ, マンゴー, パパイア, まるめろ。0.49%以下: 和なし (二十世紀, 長十郎, 幸水), 洋なし, さくらんぼ, プラム, あんず, もも, うめ, クッキンダバナナ, りんご (むつ), びわ, レンブ, ぶどう (キャンベル, デラウェア, ネオ・マスカット, 巨峰), パイナップル。3) 果菜類0.50~0.99%: れいし。0.49%以下: トマト, 西瓜。4) 種実類5%以上: くるみ, らっかせい。1.00~1.99%: くり。全ペクチン中の各抽出区分の比率について, かんきつ類の果汁では, きんかん以外, W-S区がもっとも高く, 果皮およびパルプでは, きんかん以外は, P-S区がもっとも高く, つづいてH-S区であった。その他の果実類, 果菜類および種実類45種のうち, 28種はH-S区がもっとも高く, W-S区のもっとも高いものは9種, P-S区のもっとも高いものは8種であった。総体的に, 熱帯果実にW-S区の高いのが目立つ。
著者
栗原 まな 小萩沢 利孝 吉橋 学 飯野 千恵子 安西 里恵 井田 博幸
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.285-290, 2011 (Released:2014-12-25)
参考文献数
18
被引用文献数
5

16歳未満で急性脳症を発症し, 当科でリハビリテーションを行った103例の予後を検討した. 対象を(1)群 : 代謝異常に起因する1例, (2)群 : サイトカインストームに起因する24例, (3)群 : けいれん重積型68例, (4)群 : 難治頻回部分発作重積型5例, (5)群 : 意識障害が主体である5例に分類し, 発症年齢, 既往歴, 発症に関連する因子, 後遺症の状況を検討した. 発症年齢は平均3歳であったが, (4)群は平均6歳5カ月と高かった. 既往歴では熱性けいれん, 喘息, theophylline服用が目立ったが, 有意差は得られなかった. 発症に関連する因子としてはインフルエンザ罹患36例, HHV-6罹患7例などがあった. 後遺症は知的障害89.3%, 高次脳機能障害77.7%, てんかん68.9%, 運動障害27.2%の順に多く, 重症度は(1)(2)(3)(4)(5)群の順に軽度になっていた. 高次脳機能障害では注意障害, 視覚認知障害などがみられた.

34 0 0 0 OA 繊毛病

著者
中西 浩一 吉川 徳茂
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.127-131, 2012-11-30 (Released:2012-12-22)
参考文献数
9

繊毛は細胞表面から突出する小器官であり,気管などに存在する運動性の繊毛と,ほぼすべての細胞に存在する非運動性の一次繊毛が存在する。一次繊毛の役割は長らく不明であったが,近年,一次繊毛とその関連構造物の遺伝子変異により腎嚢胞,肝臓・胆管異常,内臓逆位,多指症,脳梁低形成,認知障害,網膜色素変性症,頭蓋・骨格異常,糖尿病など多岐にわたる異常を生じることが明らかになった。これら一群の繊毛機能不全疾病を称して繊毛病(ciliopathy)と呼ぶ。腎徴候を呈する繊毛病としては,常染色体優性および劣性多発性嚢胞腎,ネフロン癆,Joubert syndrome,Bardet-Biedl syndrome,Meckel-Gruber syndromeなどがある。繊毛病の多くは腎嚢胞を合併するため,腎嚢胞は繊毛病の診断上重要である。
著者
Keiichi Kakui Tomoyuki Komai
出版者
Aquos Institute
雑誌
水生動物 (ISSN:24348643)
巻号頁・発行日
vol.2022, pp.AA2022-1, 2022 (Released:2022-01-30)

We report the first occurrence record of the freshwater ectoparasitic platyhelminth Scutariella japonica (Matjašič, 1990) from Hokkaido, Japan. The flatworms were collected from the surface of exoskeleton and the inside of branchial chamber of the atyid shrimp Neocaridina sp. aff. davidi. Phylogenetic analysis based on the 18S + 28S concatenated dataset of rhabdocoel flatworms retrieved the Scutariella clade, and our specimens identified with Scutariella japonica were genetically distinct from those referred to S. sinensis Chen, Feng, Lin, Lu & Wang, 2018. Phylogenetic analyses using COI showed that the host shrimp specimens from Sapporo were clustered with N. koreana identified by Shih et al. (2017) and placed close to N. palmata (Shen, 1948) and N. davidi (Bouvier, 1904). Our specimens did not agree with the original description of N. koreana Kubo, 1938, particularly in the shape of the endopod of the male pleopod 1. The identity of the present host shrimp specimens could not be established satisfactorily, and thus they were referred to N. sp. aff. davidi for the time being.
著者
芦谷 圭祐
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1_316-1_344, 2019 (Released:2020-06-21)
参考文献数
57

日本政治における女性の政治的過少代表が問題とされて久しい。これまでの研究では、立候補過程における障壁が特に女性にとって高いことが注目される傾向にあり、リクルートメントを担う主体として政党の役割が重視されてきた。一方で、政党がどのような選挙区に女性の新人候補者を擁立するのかについては、理論的にも実証的にも十分には明らかでない。政党の役割が重視されていることとは対照的である。本稿では、1989年以降の政令市議会議員選挙を対象に、政党のリクルート過程の分権性と政党間関係に着目し、政党がどのような選挙区に、あるいはどのような場合に女性の新人候補者を擁立するのかについての理論構築とその検証を試みた。 分析結果からは、以下の点が明らかになった。政党は自党に女性の現職議員がいる選挙区には女性の新人候補を積極的に擁立することが難しい。その一方で、対立的な関係にある政党の女性現職議員がいる選挙区には、積極的に女性の新人候補を擁立している。これらの結果は、活発な政党間競争が女性議員の数を増加させる可能性を示唆している。
著者
久留戸 真奈美 河野 弘美 塩原 みゆき 池田 祐子 竹内 直人 林 洋雄
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.329-333, 2011-12-20 (Released:2013-12-20)
参考文献数
1
被引用文献数
1 1

化粧用コットンは,主に化粧水のパッティングやメイク落としなどに使われている。昨今は,さまざまな化粧用コットンがみられ,その使用方法もパッティングのみならず,パックにも広がり,スキンケアにおける重要なアイテムとなっている。本実験では,化粧用コットンによるパッティングのスキンケア効果を一般女性30名で調査した。「パッティング」により,肌の水分保持能を高める効果が認められ,被験者自身による有意なスキンケア効果実感が確認された。
著者
佐藤 健太
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.12, pp.2535-2544, 2017-12-10 (Released:2018-12-10)
参考文献数
8

超高齢社会を迎えた今,multimorbidity(多併存疾患状態)が当たり前となり,旧来の科別・疾患志向ではなく,患者の抱える問題志向の包括的プロブレムリストを用いて診療を行う重要性が増してきている.本稿では,患者の訴える症状や身体所見等の基本情報からプロブレムリストを作り上げていく基本的な方法から,膨大で複雑な問題点を抱える患者での応用的なプロブレムリストの運用方法,膨らみすぎたプロブレムリストの縮め方等について解説する.
著者
Masahiko Inoue Kazuko Okamoto
出版者
Tottori University Medical Press
雑誌
Yonago Acta Medica (ISSN:13468049)
巻号頁・発行日
pp.2022.08.004, (Released:2022-07-15)
参考文献数
8

This study involved qualitative analyses of the benefits and difficulties of providing home-based Applied Behavior Analysis (ABA) for Japanese parents of young children with autism spectrum disorder (ASD). An open-ended questionnaire survey was administered to 35 parents of children with autism who were implementing home-based ABA. The mean age of the parents was 38.7 years old (SD = 3.80), and the time since initiation of home-based ABA was 25.5 months (SD = 19.58). The mean age of the children with ASD was 64.5 months old (SD = 37.7). Data were analyzed using the KJ method of qualitative analysis. The benefits of implementing home-based ABA were related to growth of the parents themselves and child development. Identified difficulties included balancing work and household responsibilities and psychological problems. These findings were then compared with similar previous studies to discuss support for families implementing in-home ABA programs.
著者
富田 隆 幸田 幸直 工藤 賢三
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.138, no.3, pp.353-356, 2018-03-01 (Released:2018-03-01)
参考文献数
5
被引用文献数
1 4

For patients with dysphagia in medical facilities and nursing homes, food thickeners are routinely used to aid the ingestion of medicines such as tablets. However, some types of thickeners affect the disintegration and dissolution of tablets, such as rapidly-disintegrating magnesium oxide tablets and donepezil hydrochloride orally disintegrating tablets. Additionally, delayed disintegration and dissolution of tablets affect a drug's efficacy. As an example, with Voglibose orally disintegrating tablets, marked differences are observed in changes in glucose levels during glucose tolerance testing. When using food thickeners to aid tablet ingestion, it is therefore necessary to select a product that has little effect on drug disintegration, dissolution, and activity.