著者
渡辺 信 安野 正之 彼谷 邦光
出版者
国立環境研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

有毒アオコMicrocystisが細胞内に産生する毒素ミクロシスチンの湖沼生態系での挙動を野外調査及び実験によりあきらかにすることを目的に本研究を実施した。霞ヶ浦及び印旛沼においてアオコ細胞中の毒素ミクロシスチン量は74〜632μg・g^<-1>と変動し,湖沼水中には0〜0.33μg・L^<-1>の濃度で溶解し,動物プランクトンBosmina fatalisに6.3〜270μg・g^<-1>の濃度で蓄積していることがわかった。混合栄養を行う黄金色藻類Poterioochromonas malhamensisは有毒アオコを捕食すし,消化して増殖する。これは,長鞭毛によるアオコ細胞の捕獲-長鞭毛の収縮運動による鞭毛基部への移動-Feeding cupによる捕獲-食胞内への取り込みと消化,という過程でおこなわれる。消化されたアオコ細胞より放出されたミクロシスチンの殆どは分解されずの細胞外に放出される。湖沼水への毒素ミクロシスチンの溶存はアオコ細胞のバクテリアによる分解だけではないことが判明した。イ-ストエキスに含まれるL-リジンは1ppmの低濃度でもMicrocystisの細胞を溶解し,Microcystisのみに特異的に作用することが判明した。霞ヶ浦に溶存する遊離アミノ酸は平均して0.5ppmであるが,季節によってはMicrocystis細胞の溶解,ミクロシスチンの湖水への放出に関与している可能性が示唆された。タマミジンコMoina macrocopaに対する有毒アオコの影響を調べた結果,タマミジンコに致死影響を及ぼす毒成分はミクロシスチンではないが,ミクロシスチンの合成と密接に関連している物質であることが示唆された。一方,食用ガエルRana grylioのオタマジャクシは有毒アオコ及びそれが産生する毒素ミクロシスチンの影響を全くうけないこと,さらに有毒アオコを餌として,オタマジャクシはカエルまで生長すること,また,オタマジャクシは有毒アオコを非常によく摂取し、有毒アオコの水の華を減少させること,が判明した。
著者
深澤 百合子 土谷 信高
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

エミシの鉄の実態とは古鉄リサイクルによる鉄の再生、再利用を特徴として行われていたということができる。古代においても古鉄は広範囲に流通し、古鉄流通網がすでにあった可能性がある。古鉄を再生加工し、日常生活の必需品に作りかえる技術を持っていた。密貿易あるいは交易において、それを仕切る有力者が存在し、古鉄は再分配されている可能性も考えられる。また、鉄は禁止される以前から流失しており、規制、禁止をしても鉄は抜けて流失するということがエミシ社会でも生じており、考古学資料を解釈するために禁鉄モデルは有効であることが検証できた。
著者
諏訪野 大
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究では、我が国の法体系におけるテレビ番組フォーマットの位置づけを行った。テレビ番組フォーマット自体は著作物ではないが、番組制作に用いられるバイブルと言われる仕様書は著作物であり、その翻案物として保護される余地がある。不正競争防止法上、商品等表示に該当しない一方、営業秘密となりうるが、放送後は保護されない。法律上保護される利益への該当性については、最高裁の判例が厳しい解釈をしているため、現在では、不法行為の成立は困難である。信託財産として信託を設定することは可能であるが、テレビ番組フォーマットを排他的に独占する権利がないため、バイブルの著作権の信託による方が現実的である。
著者
小栗 寛史
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

国際法学においては、いわゆる「長い19世紀」を通して法実証主義が台頭し、それ以前に優勢であった自然国際法論に代替したと評価されてきた。しかしながら、同時期に上梓された文献を参照する限り、実際には近代国際法完成期及び戦間期を通して自然国際法論を採用する論者は少なくなかったことが判明する。このような研究状況に鑑み、本研究は、これまで十分に検討されてこなかった近代国際法完成期及びその後の戦間期における自然国際法論の内実を解明し、それらが国際法史においてどのような意味をもった営みであったのかという点を考察するものである。
著者
片桐 昭彦
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では、年代記(歴史上の出来事を年代順に記録した年表史料)から信頼できる記録を抽出し、15~17世紀の日本列島各地における地震および地震にともなう津波・山崩れなどの自然災害が発生した年月日および地域を確定する。そのため、日本の地方各地に残る年代記の原本調査や、多種多様な年代記のデータベースの構築を行うことにより、年代記の史料学的な検討・分析を行い、信頼できる記録を抽出する。そして、その記録にある歴史地震の情報を正確に読み解き、過去の地震・気象データとして地震学・気象学などの分野に提示していく。
著者
鳥飼 宏之
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

爆薬で形成された爆風を用いて消火を行う方法を爆風消火という.本研究では,爆風消火を地震後の同時多発火災や広域林野火災のような通常消防では消火困難な火災に対する強力な減災手段として利用することを考え,その消火特性を微小爆薬を用いた爆風消火実験から明らかにする.特に爆薬を空中起爆した場合,地上では反射衝撃波が形成されるため,地面直上で爆薬を起爆するより火炎の消火効果が高くなる可能性がある.更に,光学的な流れの可視化手法と高速度カメラを用いて空中起爆による爆風消火の消火機構を解明する.最終的には,空中起爆による爆風消火の消火範囲を予測可能とするスケール則を明らかにする.
著者
的場 輝佳 真部 真里子 原 知子 坂本 宏司
出版者
関西福祉科学大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

京都の老舗料亭の料理人、管理栄養士・医師とコラボして、高齢者が好む“おいしい”嚥下食を設計し、高齢者が好む調理法(レシピ)を提言するとともに、嚥下食のおいしさの原理を以下のように明らかにした。そのポイントは、「変化を持たせる」ことで、複数の食材を同時に調理するのでなく、個々の食材ごとにその特徴を生かして“五色、五味”のバランスにも配慮して、飽きない料理に仕上げることである。
著者
笹川 崇男 黒田 健太 矢野 力三
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2021-04-05

トポロジカル電子状態への新概念の提案が理論から続く中、新物質の探索にはマテリアルズ・インフォマティクス(MI)が導入され始めている。この潮流の中で、世界最前線の実験研究を推進しつつ、トポロジカル物質科学からトポロジカル材料工学へと学理のフェーズを変えるために、「第一原理計算」「純良単結晶育成」「先端分光計」「極限環境物性評価」を武器に、MIを活用しつつ、更にその一歩先をゆく独自の物質・物性・機能の開拓を行う。
著者
笠原 成 木原 工 今城 周作
出版者
岡山大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2022-10-07

強相関電子系で実現する特異な量子凝縮相や新奇電子状態の探索と解明は、凝縮系物理学における中心課題の一つである。本研究では、欧州強磁場研究所(European Magnetic Field Laboratory: EMFL)における強磁場実験、特に、オランダ・Nijmegen強磁場研究所における極限定常磁場下での精密熱輸送測定を基盤としたエキゾチック凝縮相の探索と解明に取り組む。『強磁場熱測定』に精通した国内屈指の若手から中堅で構成される当該分野のエキスパートが、国際ネットワークを構築し、40T超の定常磁場実験が新たな潮流となる時代の転換期において、強磁場物性科学のフロンティアを切り拓く。
著者
柳澤 有吾 天ケ瀬 正博 米津 美香 功刀 俊雄
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

道徳の教科化や危険タックル問題との関連で注目された道徳資料「星野君の二塁打」は、子どもの主体性や自主性と社会規範との関係、個人と集団との軋轢、権威主義との向き合い方など、多くの問題を突き付けている。本研究は、教育学のみならず、心理学、歴史学、哲学・倫理学など多方面からアプローチすることによって、従来の一面的な「星野君の二塁打」像を更新するとともに、道徳教育の転換に向けた展望を拓くことを目的とする。
著者
村山 保史 三浦 節夫 柴田 隆行 シュルツァ ライナ 岩井 昌悟 西尾 浩二 Conway Michael 味村 考祐 東 真行
出版者
大谷大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究は、井上円了と清沢満之の遺稿(複数のノート)から発見された東京大学在学時の外国人哲学教師による西洋哲学関係の未公開講義録とそれに関連する学習録の公開作業を通じて日本における西洋哲学の初期受容の一形態を解明し、あわせて、その後の井上と清沢の思想発展過程の一端を解明することを目的としている。そしてこの目的を果たすために以下の3つの課題を設定している。研究課題1a:東洋大学が所蔵する井上の哲学関係ノートを公開すること。研究課題1b:大谷大学真宗総合研究所が所蔵する清沢の哲学関係ノートを公開すること。研究課題2:東京大学の最初期の哲学教育が私立大学の教育にどのように継承されたのかを初期の哲学館と真宗大学における教育内容の確認を通じて解明すること。平成30(2018)年度は研究課題1aと1bを重点課題とした。より詳細には、研究課題1aと1bに関して平成30年度は以下の作業を行った。(A)編集:ノートの翻刻・翻訳作業。この作業については、井上ノートを翻刻(翻訳)するメンバー(3名)と清沢ノートを翻刻・翻訳するメンバー(6名)を選出し、井上ノートについては「古代哲学 明治十七年六月 井上円了」「最近世哲学史」等の9冊のノートの翻刻に当たり、「古代哲学 明治十七年六月 井上円了」ノートの前半部分と「東洋哲学史 巻一(井上哲次郎口述)」ノートの全体の翻刻を公開した。清沢ノートについては、先行する科研研究(平成25〔2013〕年度~平成27〔2015〕年度)「日本における西洋哲学の初期受容―フェノロサの東大時代未公開講義録の翻刻・翻訳―」において翻刻・翻訳したフェノロサの「哲学(史)」講義の部分(カントまで)に続くフィヒテからシェリング部分の仮の翻刻・翻訳を作成するとともに、これまで日本では講義録の公開例がなかったブッセの「古代哲学史」講義の仮の翻刻・翻訳を作成した。
著者
坂本 雅子
出版者
名古屋経済大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究の目的は、日中戦争以後のアジアでの財閥商社の活動を明らかにすることであり、三井物産の活動を事例にして研究をおこなった。分析の重点は、戦時下での軍部と一体となった活動においた。たとえば、財閥商社が軍の依穎・命令によって中国で従事した農産物の収買活動や、アジア地域での物資流通一特にベトナム・タイから日本・中国への食糧輸入等-で果たした役割を明らかにした。占領地への食糧確保こそ現地軍の食糧補給と占領地の治安確保にとって最も重要であり、戦争の帰越を決するものであったが軍部は一貫して財閥商社一特に三井物産と三菱商事に全面的に依拠せざるをえなかった。また軍配組合の活動も占領地の軍票の価値を維持し、食糧などの物資収買を行うために重要なものであったが、ここでも三井物産を中心とした商社の役割は大きかった。本稿ではまた、戦時下の三井物産のアヘン取扱いについても明らかにした。日中戦争において日本軍はアヘン売却しその利益を機密費等に使用したり、戦地での物資収買にあたって 通貨がわりとして利用するなどしたが、このアヘン売買を中心となって担ったのが三井物産であった。三井物産がアヘン売買に関与したことは極東国際軍事裁判での供述によって、以前から知られていたが、本研究は三井物産の内部資料で初めてその全容を明らかにした。以上のように、アジアで、軍部と結びつき戦争遂行の重要な役割を担うとともに、戦争犯罪の最も汚れた部分をも担った戦時下の三井物産の活動を解明した。
著者
並木 誠士
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

日本の中近世において、狩野派をはじめとする絵師たちは、中国で成立した画題を、筆様制作を通して受容し、手本となった中国絵画をもとに障壁画のような大画面に展開した。その過程で、状況にあわせて構図などを変容し、また、情景・人物などを和様化するなどして、画題として伝達し、さらに蓄積していったことを、文献史料と作品を通して明らかにした。
著者
鶴田 幸恵
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、トランスジェンダーの活動家にインタビューを行い、インタビューを対面的相互行為として捉え、その相互行為の場で参照される性別規範に焦点を当てる。トランスジェンダーの活動家は、トランスジェンダーにかかわる知識を、どのように配列し大衆に示しているのか。それを記述することで「トランスジェンダーがいかなる現象として理解されるのか、その理解に社会的な性別規範がいかにかかわっているのか」を明らかにする。
著者
岩崎 宏之
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

霞ケ浦湖岸に位置する茨城県土浦市は、江戸時代以来度々水害に悩まされてきた。土浦市に水害をもたらせた原因を考察すると、土浦市の中央を貫通して霞ケ浦に流入する桜川が氾濫して堤防を決壊させたことによって引き起こされた洪水と、霞ケ浦の水位の上昇による逆水とによる洪水との二つの原因によることが明かとなる。これを歴史的に検討すると、天明6年(1876)、文化9年(1812)、明治43年(1910)、昭和13年の洪水は前者に、また弘化3年の場合は後者によるものと目されているが、史料をさらに子細に検討すると、原因は複数の因子の相乗作用によることが明らかとなる。すなわち、長雨や利根川の増水によって圧迫された霞ケ浦の水位が上昇して長期にわたる溢水となった状況のときに、台風が襲来すると、その風の方向によって異常な高潮現象が発生し、霞ケ浦への出口を塞がれた桜川は急激に増水して氾濫を引き起こしている。この現象を「津波」と称して恐れていたことが、近世の土浦の町に住んだ人々の日記史料等から窺えるのである。この異常な水面上昇は、茨城県下に記録的な強風をもたらした明治35年(1902)9月28日の台風の際には六尺に達したと記録されている。「津波」を起こす強風は、台風の通過コースによるところが大であるが、水位の上昇と強風との相乗作用は今後も起きる可能性があるわけで、このような観点から歴史的災害にかかわる各種歴史資料の分析が必要となる。本研究は、古文書史料や日記など、土浦市とその周辺地域に残る近世以降の史料の中から気象と洪水に関する情報を抽出し、霞ケ浦の水位の上昇が洪水を引き起こす現象を検討した。また色川三中と弟美年によって記録された「家事誌」(文政9年〜安政6年、26冊が現存)には毎日の天候の変化や台風など異常な気象状況が克明に書き留められており、本研究ではこの記述をもとに当該期間の土浦の毎日の気象状況をデータベースに作成した。さらに三中の次弟御蔭の著述になる「逆水防議」には、霞ケ浦の逆水から町を守る方策が述べられており、本研究では、彼等が体験した天保4年や弘化3年の風水害の記事をはじめとして、その他地域に残る古文書史料に散見する関係記事を収集することができた。これら各種歴史資料に記録された関係記事を統合することによって、近世城下町土浦の洪水災害時の状況を明らかにするだけでなく、今後の防災に資するものである。
著者
杉浦 正利
出版者
名古屋大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究では、昨年度と本年度の2年間で、インターネットを使い直接外国とコミュニケーションを行なうのに必要な英語による情報発信能力を養う英語学習支援システムを開発した。本年度は、昨年度作成したオンライン英和・和英辞書と有機的に関連づけられた英語表現例文集の構築と公開を行なった。英語表現例文集としては、二種類のものを作成した。一つは、大学英語教育学会による基本4000語を基にした5300の基本英語例文とその対訳からなるデータベースである。もう一つは、日本の大学のWWWページおよびそこから直接リンクの張ってある英語もしくは日本語によるWWWページをデータベースにしたものである。英和・和英辞書と二種類の英語表現データベースとを有機的かつ動的に関連づけた英語による情報発信支援システムを試作し、7月に米国サンディエゴで開催されたコンピューター支援語学教育学会(CALICO)で発表した。さらに、その時点で問題となっていた検索速度と一般公開のための例文の著作権の問題を解決するために、独自に開発したWWWページ収集システムとSONYで開発された全文検索エンジンSGSEを利用したシステムを開発した。WWWページ収集システムは1時間に約200ページを収集する能力があり、全文検索システムによる検索対象語は約4万語(英語約2万5千語、日本語約1万5千語)にのぼっている。最終的に、本システムは、以下のモジュールから構成された、英語学習者向け英語情報発信支援システムとなった。1. 英和辞書2. 和英辞書3. 学習者向け日英対訳基本例文集4. WWWページ英語例文集5. WWWページ日本語例文集なお、本システムは、すでに、インターネット上で一般公開しており、日英両言語で辞書・例文集が利用できるという特徴から、日本国内の英語学習者だけでなく、海外の日本語学習者からも利用されている。