著者
新井 達潤
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.24, no.9, pp.395-406, 2004 (Released:2005-05-27)
参考文献数
45

科学的観点に立った心肺蘇生法(CPR)の開発は1900年代に入ってから始まり, 現在実施されている心肺蘇生法の基本骨格は1960年頃には完成した. 米国心臓協会(AHA)はこれらを総合し, 1974年に最初の心肺蘇生法ガイドラインを出版した. その後絶えず改善を重ね, 2000年には第5版(G2000)を出版した. G2000は蘇生に関する世界的協議会ILCOR(International Liaison Committee On Resuscitation)との緊密な連携のもとに作られたもので, 蘇生における世界的ガイドラインと考えて矛盾はない. AHAのガイドラインはヒトでの有効性が科学的に証明されたもののみを採用し, とくにG2000はEvidence-based medicineの立場を強調している. しかし, 必ずしも科学的には証明できないまま経験的有効性から採り入れられている部分もあり, また, 一般市民をも対象とするため妥協せざるを得ない部分もみられる. 本稿では現在のG2000を基準とした心肺蘇生法が, どのような考えのもとに作られ発展してきたか, また, どのような問題点を含んでいるのか, とくに作用機序の面から考察する.
著者
加藤 拓巳
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.71-83, 2019 (Released:2020-04-21)
参考文献数
43

品質は,材料特性や製造技術等の客観的な要素と,美しさや心地よさ等の主観的な要素に分けられる.後者は,知覚品質と呼ばれ,近年は機能的な要素以上に重要視されている.自動車業界でも,知覚品質は大きな競争力の1つになっている.しかし,知覚品質の重要性は広く認識されながらも,主観的であるがゆえに,定量的な効果の推定は不透明なままであった.そこで,本研究の目的は,車のエクステリアの知覚品質が顧客の支払意思額に与える影響を評価することである.知覚品質の要素は,色,素材,仕上げのうち,これまで取り上げられた例の少ない仕上げを対象とした.仕上げは,「見切り線の有無」と「合わせ幅」の2つとし,同じスタイリングでありながら仕上げレベルが異なる2つの車を用意し,ランダム化比較試験によって検証を行った.ランダム化比較試験を行うにあたって,単純ランダム化で2群に割り当てた後,事前のリクルーティング調査で聴取した性別,年齢,世帯年収,保有メーカー,運転頻度,情報接触頻度等の項目で,各群の同質性を確認した.支払意思額は,仮想市場評価法の自由回答方式で聴取した.得られた支払意思額をブルンナー・ムンツェル検定で評価した結果,2つの車の間での差は有意となった.統計的な手法による定量評価は,商品の機能的な要素に着目されることが多いが,デザインの仕上げという感覚的な要素でも支払意思額という消費者視点で評価が可能である.
著者
安部 哲人
出版者
森林総合研究所
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.151-156, 2007 (Released:2011-07-26)

既存の文献から、キブシの性表現には曖昧な点があることが示唆されているが、野外でキブシの性表現を含む繁殖状況について研究された例はみられない。そこで、キブシの花の性表現、性差、訪花昆虫、結果率を筑波山の林縁個体群で2年間調査した。花の形態や性器官(花粉と胚珠)の有無、結実状況よりキブシは雌性両全性異株であることが示唆された。性差は花序当りの花数が雌で有意に少なく、結果率が雌で有意に高かったが、それ以外には有意差がなかった。両性花には胚珠があるものの、結実は非常に稀(ほぼ0.0%)であり、強制受粉を施しても結実しなかった。このため、キブシの両性花はほとんど雄として機能しており、本種は機能的にほぼ雌雄異株であると考えられた。また、一つの花序内に両性花と雌花が混在する花序が調査個体群外で1個体発見されたことから、キブシの性表現は安定していないものと思われる。一方、雌花は両年とも35%前後の結果率であり、強制受粉でも結果率が増えなかったことから花粉制限は起こっていないと考えられた。訪花昆虫はハエ類や単独性ハナバチが中心であり、春先の林縁環境でこれらの送粉昆虫が有効に機能していた。
著者
外山 美樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.174-184, 2020-06-30 (Released:2020-11-03)
参考文献数
33
被引用文献数
3

本研究の主な目的は,上位目標として“学業達成”を設定し,1つの下位目標(授業の出席)の達成が別の下位目標(試験勉強に励む)の追求に及ぼす影響が,楽観性の程度によって異なってくるのかどうかを検討することであった。また,下位目標の達成が別の下位目標への追求に及ぼす影響において,上位目標の達成の重要度も1つの要因として検討した。大学生を対象とし,研究1では場面想定法を用いて,続く研究2では,日常の学業場面を用いて検討した。本研究の結果より,楽観性が低い人においては,学業達成の重要度と試験勉強時間との間に関連がみられないが,楽観性が高い人においては,学業達成の重要度と試験勉強時間との間に関連がみられ,学業達成の重要度が高いほど試験勉強時間が長い傾向にあることが示された。また,1つの下位目標の達成が別の下位目標の追求に及ぼす影響について,楽観性の調整効果が確認された。楽観性の高い人では,下位目標の達成度が高くなるほど,別の下位目標の追求の強さが弱い傾向にあることが明らかとなった。本研究の結果より,楽観性の高い人は,文脈に応じて行動を調整することができる柔軟性が優れていることが示唆された。
著者
山田 仁史
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第49回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.B14, 2015 (Released:2015-05-13)

人類とさまざまな仕方で、長く付き合ってきた犬。ヨーロッパ中世でも、犬は猟犬、番犬、愛玩犬、野犬などとして人間とともに、あるいは人間の近くに生きてきた。本発表は、そうした犬のさまざまなあり方のうち、食肉としての犬をとりあげ、その諸相を論じることを通じて、動物全般と人間との関係、および犬の特殊性をあらためて考え直すことを目的とする。
著者
大平 弘正 田中 篤
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.59, no.11, pp.653-654, 2018

<p>Azathioprine, a drug used in the treatment of autoimmune hepatitis (AIH), is now covered by health insurance in Japan. It has long been used in combination with steroids as a standard therapy for AIH in other countries, and its use is expected to increase in Japan. Side effects of azathioprine include cholestatic hepatitis, pancreatitis, and opportunistic infections. Periodic observation is important to ensure timely treatment of adverse effects. Recently, the <i>NUDT15</i> gene polymorphism, associated with severe leukopenia, has been reported as an adverse effect of azathioprine. Although it is covered by insurance, azathioprine is still not used frequently to treat AIH in Japan, and it is necessary to clarify the indications for and problems associated with azathioprine treatment in Japan.</p>
著者
森脇 良二
出版者
THE TOHOKU GEOGRAPHICAL ASSOCIATION
雑誌
東北地理 (ISSN:03872777)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.76-81, 1965 (Released:2010-10-29)
参考文献数
6

仙台市への通勤通学者数は1930年から1960年の間に約9倍に増加し, それに伴って仙台市を中心とする通勤通学圏も著しく拡大した。1930年の仙台市通勤通学圏を構成していた8市町村と, 当時圏内に入っていなかったがこれと隣接し仙台市との結びつきが比較的強かった4町村とからなる地域が, 1960年には仙台市の第1次通勤通学園へと発展した。1930年の圏の周囲にあって, 当時仙台市との間に通勤通学を通じてある程度の結びつきを有していた7市町村と, 殆ど結びつきを有していなかった8市町村とがらなる地域が, 1960年には第2次圏を構成している。1930年当時仙台市との間にある程度の結びつきを有していた7市町村の中の5市町村はいずれも主要鉄道路線沿いであるのに対して, 殆ど結びつきを有していなかった8市町村の中の6市町村は直接鉄道路線に沿わないバス交通またはバス・鉄道双方依存型の市町村である。1930年の通勤通学圏および1960年の第1次圏はいずれも仙台を中心とする主要鉄道路線沿いに広がっており, その発達には鉄道交通の影響が強くうかがわれる。1960年の第2次圏についても当然主要鉄道路線との関連は濃厚であるが, 鉄道路線沿い以外の地域にも圏の拡大がみられ, その発達にはバス交通の影響がうかがわれる。
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1670, pp.52-57, 2012-12-10

「生活や産業活動に多大なる負担をかけることになり、誠に申し訳なく深くお詫び申し上げます」。関西電力の八木誠社長は11月26日、本店で開いた定例会見で頭を下げた。 関電は同日、政府に電気料金の値上げを申請。認可が必要な家庭向けでは11.88%、認可が要らない産業向けは19.23%の値上げを求めた。
著者
松井 豊
出版者
心理学評論刊行会
雑誌
心理学評論 (ISSN:03861058)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.277-284, 2017

<p>This report outlined psychological support activities and psychological studies related to the Great East Japan Earthquake. After the disaster, psychological support programs were funded by the Japan Society of Certified Clinical Psychologist, Tohoku University and by other organizations to assist and care for the victims of this Critical Incident Stress. Studies have been conducted on the support systems at disaster areas and research on the mental health of disaster victims. In addition, there have been studies on the critical incident stress of those treating the victims and information behavior after the earthquake with regard to rumor damage and risk perception. The sharing of this knowledge was proposed to allow for better preparedness for the next disaster.</p>
著者
永井 義美
出版者
埼玉大学
巻号頁・発行日
2009

主指導教員: 教養学部教授 籾山明, 副指導教員: 教養学部准教授 高久健二, 副指導教員: 教養学部教授 梶島邦江
著者
李 有姫 武井 明日香 岡田 雅 上田 晃一
出版者
一般社団法人 日本創傷外科学会
雑誌
創傷 (ISSN:1884880X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.115-120, 2020 (Released:2020-07-01)
参考文献数
11

リストカットによる瘢痕は,度重なる受傷により広範囲の瘢痕となる。精神安定後も,瘢痕に対する社会的なマイナスイメージのために精神的苦痛が継続するため治療が望ましい。色調や質感の再現のために隣接組織による再建が望ましく,ティッシュ・エキスパンダー(以下TEとする)は手術法の選択肢の一つと考えられる。上肢の皮膚伸展は困難であるが,われわれの考案したラムダ切開を用いることで伸展皮膚を効率的に展開でき,最大限に利用することができる。そこで当科で治療したリストカット後瘢痕の5症例,6部位について検討した。筋膜上にTEを挿入し,全症例に1~4ヵ所のラムダ切開を加えた。TE挿入による合併症として血腫,TEの破損・露出・移動などを認めたが,ラムダ切開を加えたことによる血流障害等の合併症は認めなかった。TEで治療した傷は術後広がりやすい印象であり,十分なfull expansionの期間が必要であると考える。
著者
横山 順一 カンノン キップ 仏坂 健太 伊藤 洋介 茂山 俊和 道村 唯太
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2020-08-31

重力波を用いた宇宙物理学の研究を包括的に展開します。具体的には、①独立成分解析によってノイズを効率的に除去し、KAGRAによる重力波の初検出を目指します。②連星ブラックホールの質量分布関数とパルサーの周期擾乱で観測される長波長重力波背景放射を用いることにより、予想外に多数存在することがわかったブラックホールの正体を明らかにします。また、③連星中性子星合体については、マルチメッセンジャー宇宙物理学において、光学対応物となるガンマ線バースト及びキロノバの物理過程を数値相対論によって明らかにすると共に、r過程元素合成を計算し、銀河の化学進化の観測と照らし合わせて、金や銀などの起源を明らかにします。