著者
堀川 達弥 高島 務 原田 晋 千原 俊也 市橋 正光
出版者
Meeting of Osaka Dermatological Association
雑誌
皮膚 (ISSN:00181390)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.415-419, 1998 (Released:2010-08-25)
参考文献数
12
被引用文献数
2

アトピー性皮膚炎の特に皮膚乾燥部に対しグリコセラミド含有外用剤 (AKクリーム, AKローション) を4週間外用しその効果を検討した。やや有効以上を含め有効率は67%であった。不変20%, 増悪は13%であった。やや有用以上の有用度は67%であり軽症のアトピー性皮膚炎ではグリコセラミド含有外用剤は有用であると考えた。
著者
石井 秀典 今井 健 小西 明 角南 義文
出版者
日本腰痛学会
雑誌
日本腰痛学会雑誌 (ISSN:13459074)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.74-79, 2003 (Released:2008-06-30)
参考文献数
10

過去2年間に当院で入院治療を行った腰椎椎間板ヘルニア306例を対象とした.男227例,女79例で,入院時平均年齢は44.2歳(16∼83歳)で,腰下肢症状出現から入院までの期間は平均6.6週であった.保存的治療にて著明な改善がみられなかった153例が手術を要した.入院時JOA score,ブロック効果,予後,職業の臨床所見とMRIによるヘルニアのレベル・脱出部位・大きさ・migrationの程度・T2強調画像での輝度変化と脊柱管の形態を比較し,保存療法の適応について検討した.入院時JOA scoreが12点以下,重労働者,外側型と傍正中型,大きさが脊柱管の1/3以上と椎間板から椎弓根部までmigrationした症例が予後不良であった.正中型,migrationの大きい,T2強調画像で高輝度を呈す症例は,神経根ブロックがより効果的で予後良好であった.その結果よりMRI所見より腰椎椎間板ヘルニアの保存療法の適応に役立つヘルニアの番地図を作成した.
著者
小林 悠歩 筒井 一伸
出版者
農村計画学会
雑誌
農村計画学会誌 (ISSN:09129731)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.320-327, 2018-12-30 (Released:2019-12-30)
参考文献数
15
被引用文献数
3

The purpose of this study is to reveal the characteristics of activities for maintaining rural community by collaboration with non-residents of family members by focusing on the case of Nishiotaki, Iiyama City, Nagano Prefecture. As a result of our survey, it was revealed that there are three types of way non-residents of family members are involved with community activities: participation in only recreational activities; participation in only required activities; and participation in both recreational and required activities. It was also found that year after year, the number of the non-residents who are involved with community events or associations has increased, but the number of them is limited, because some of them have more than one role in the community and all of them are not interested in the community activities. Therefore, it is necessary to think to involve non-residents who are not family members in the community activities.
著者
藤田 暢一 服部 憲明 森 正志 工藤 俊介 宮井 一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0102, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】歩行障害を有する患者を対象にしたリハビリテーション治療において,どのタイミングで問題が生じているかなど,歩行能力を詳細に評価することは重要である。しかし,従来の計測装置は高価で,空間的制約が大きいため臨床での利用には制約がある。そこで,今回我々は,安価で簡単に客観的な歩行周期を計測できる①スプリット型フットスイッチ(Split foot switch:SFS)を作製し,②加速度センサー(Accelerometer:AM),③圧センサー(Pressure sensor:PS)との歩行周期計測の比較検討を行った。【方法】対象は健常成人男性9名,年齢は27.1±2.7歳であった。測定課題は,被験者の主観的快適速度での歩行とした。測定機器と取り付け位置は,①SFS:マットセンサー(竹中エンジニアリングM-68)を用いて,踵部と爪先部の2つのセンサーを作製し,本人持ちの右側靴底の踵と爪先部に両面テープにて貼り付けた。②AM:小型無線多機能センサー(ATR-Promotions社製TSND121)を背面第3腰椎部にホワイトテープと軟性バンドで固定し,体幹の三軸方向(上下・左右・前後)の加速度を計測した。③PS:Flexiforce(ニッタ社製A201-100)を右足の踵と母趾球部にホワイトテープで固定した。これらの機器を同時に,サンプリング周波数100Hzで計測を行い,歩行が定常状態となった区間の立脚期のデータを10周期分採用した。各機器の踵接地・爪先離地の決定基準は,①SFS:踵接地は踵センサーのON,爪先離地は爪先センサーのOFF,②AM:踵接地は加速度前後成分上方ピーク,爪先離地は加速度上下成分下方ピーク,③PS:踵接地は踵センサーの上昇開始点,爪先離地は爪先センサーの上昇ピークとした。この基準より一歩行周期の時間,一歩行周期に対する立脚期の割合を計算した。解析は,被験者毎に,機器間の計測値の差に関しては,計測値に正規性・等分散性が認められた場合,一元配置分散分析で比較し,Tukey法にて多重比較を実施,認められなかった場合はfriedman検定後,Bonferroni補正されたWilcoxon検定を実施した。また,機器間の計測値の相関に関しては,Spearman順位相関係数を用いて計算した。更に,これらと同様の解析を各被験者の計測値の平均値を元にグループレベルでも行った。解析にはR version 2.8.1を使用し,有意水準を5%に設定した。【倫理的配慮,説明と同意】当院の倫理委員会により承認を得て,被験者には十分な説明の後,同意を得た後に実施した。【結果】9名全体の一歩行周期(秒)に関しては,平均時間±標準偏差(変動係数)はSFSが1.08±0.27(2.53),AMが1.08±0.27(2.54),PSが1.08±0.25(2.29)であった。立脚期の割合(%)はSFSが58.8±0.91(0.015),AMが68.4±1.8(0.026),PSが49.2±2.8(0.059)であった。計測値の差の検定では,一歩行周期の時間は,全ての被験者およびグループレベルで,機器間の有意差は認められなかったが,立脚期の割合ではSFS<AMと有意差を認めた者が9名中7名,SFS>PSと有意差を認めた者が8名であり,グループレベルでもPS<SFS<AMと有意差を認めた。相関の検定では,一歩行周期でSFS-AM間の有意な相関関係を示した者が7名,SFS-PS間では9名であり,グループレベルでもSFS-AM間でr=0.996,SFS-PS間でr=0.997,AM-PS間でr=0.997と強い相関を認めたが,立脚期の割合ではSFS-AM間の有意な相関関係を示した者が1名のみ,SFS-PS間では0名であり,グループレベルでも有意な相関関係は認められなかった。【考察】一歩行周期では機器間で計測値に差が無く,相関も高かった事から,いずれの機器も高い精度で歩行周期を計測できていると考えられた。一方,立脚期の割合では,多くの被験者で機器間に共通した差が認められ,また機器間で有意な相関を示しているものは少なかった。差が認められたことに関しては,AMの加速度波形から踵接地・爪先離地を決定する方法の特性とPSの接地面積の少なさなどが影響していると考えられた。相関が認められなかったことに関しては,立脚期の割合の変動係数が,SFSに比べAMやPSで大きいことが影響していると考えられた。一見より変動係数の小さいSFSが歩行計測には有効と考えられる。しかし,歩行時の体幹や下肢の運動は毎回僅かに異なっており,SFSで直接計測できる床接地時間という時間因子を維持するため,毎回運動学的な微調整が行われる機序をAMやPSの計測値の変動は反映していると考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から,SFSによる歩行計測は変動が小さく,臨床での計測に適当と思われたが,AM・PSの変動の原因も考慮する必要があると考えられた。これらを組み合わせることで,歩行の多様な情報を収集することが可能になると考えられた。
著者
水野 正好
出版者
奈良大学文学部文化財学科
雑誌
文化財学報 (ISSN:09191518)
巻号頁・発行日
no.14, pp.41-51, 1996-03

出産のあと、湯殿始めの儀が執り行なわれる。産湯の儀である。この産湯の水は、単なる産児を洗う湯という以上に強い宗教性が与えられている。例えば、後白河院の誕生を記す『九民記』には「次主税属佐伯貞仲率仕丁、令汲吉方水」とあるように、産湯水には、誕生した産児の吉方を勘案して陰陽師が方角(吉方)を定め、その方角にある河川などから「吉方水」を汲みとり、宮室・家宅に持ち蹄るのである。

1 0 0 0 IR 産育呪儀三題

著者
水野 正好
出版者
奈良大学文学部文化財学科
雑誌
文化財学報 (ISSN:09191518)
巻号頁・発行日
no.13, pp.71-80, 1995-03

最近では、奈良時代、平安時代の胞衣壷の発掘例が激増し、この時代、胞衣壷を丁寧に地に埋ある慣行が、各地に広く拡がっている状況が読みとれるようになった。また、一方、中世末から近世、都市として股賑を極めた堺や伊丹でも、同様の慣行の存続を物語る胞衣壷の発掘例が相ついでおり、長期の脈々たる慣行の伝承が予測されるようになった。こうした考古学の成果を検討すると、平安時代後期以降、中世前半の胞衣壷の発見例が極めて乏しいことに気づくのである。奈良朝の胞衣壷を地中に埋める慣行は『崔行功』小児方に「凡胞衣、宜蔵干天徳月徳吉方、深埋繋築、令見長寿」等と記す中国での埋納法をうけての慣行とみてよいであろう。中国の産経、産書を承けての慣行受容なのである。
著者
山下 一也 飯島 献一 白澤 明
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.90-94, 1996-07-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
23

A型行動様式と血圧について1年間のfollow upをし, 性格の変化と血圧との関係を検討した。A型行動パターンスクリーニングテストのスコアの変化率と収縮期血圧, 拡張期血圧の変化率はともに有意の相関を示した (p<0.05)。1年間の比較において, A型行動パターンスクリーニングテストB2型よりA2型に変化した群では収縮期血圧, 拡張期血圧ともに有意に増加したが (p<0.001), B2型のままで変化のない群では収縮期血圧, 拡張期血圧ともに有意な変化はみられなかった。性格の変化と血圧とは関連が認められ, 健康管理に行動様式の面からの取り組みも必要と思われる。
著者
水野 正好
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.16, pp.p59-72, 1987-12

近時の考古学の著しい進展は、多くの分野に対して詳細な「語り」を整え、次第に体系化を促す方向に進みつつある。「女性論」、とくに古代における女性の在り方をめぐっても多くの資料が蓄積されており、視座の展開と相俟って種々の見解が叢出している。本稿では、こうした所見を踏まえつつ、私見を中心に据え私なりの構造観でもって「女性論」の考古学を語ることとしたい。
著者
臼杵 陽
出版者
Japan Association for Middle East Studies (JAMES)
雑誌
日本中東学会年報 (ISSN:09137858)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.1-35, 1994-03-31 (Released:2018-03-30)

本論は,1950年から1951年の2年間にほとんどがイスラエルに移民したイラク・ユダヤ人に関して,1941年にバグダードで起こったファルフードと呼ばれているユダヤ人襲撃事件,ファルフードが契機となって活発化したイラクにおけるシオニスト地下運動,共産主義者とシオニストとの相互関係,そしてイラクからイスラエルへのユダヤ人大規模移民の研究動向を整理する試みである。議論の際に依拠するのは,主にイスラエルにおけるヘブライ語および英語による最近の研究成果であるが,必要に応じてアラビア語による研究にも言及することになろう。イスラエル人研究者(圧倒的にイラク出身者)による研究および記述は概して,シオニズムのイデオロギーを前提として議論を展開する。すなわち,ユダヤ人はファルフードを契機としてイラク社会への同化は不可能となり,ファルフードのような「ポグロム」の再発に対する防衛措置としてシオニスト地下運動が展開された。しかし,パレスチナ問題の展開に対応してイラク政府がユダヤ人に対して抑圧的な政策をとったため,結局,ユダヤ人はイスラエルへの移民の道を選ばざるを得なくなったという説明である。ところが,約12万人のユダヤ人が移民せざるをえなくなった事態はイラクのユダヤ人コミュニティ内部を見ただけでもより複雑な過程を取ったといえる。そこで,大量移民への過程の一端を明らかにするため,シオニスト地下運動のみならず,ユダヤ人共産主義者とシオニストの関係をも検討する。シオニズム以上に若いユダヤ人知識人を動員することのできた共産主義運動はシオニストが提唱するような,移民によってユダヤ人の直面する問題を解決することには反対し,イラク社会への同化による問題解決の方向性を堅持した。しかし,ソ連による国連パレスチナ分割決議への支持(1947年11月)を契機に共産主義者とシオニストとの協力関係の土壌が生まれた。結局,共産主義者はイスラエル国家設立(1948年5月)を機にシオニストと協力してイラクのユダヤ人コミュニティの防衛に当たり,そのほとんどがイスラエルに移民した。イラク社会への同化の立場は伝統的なユダヤ人指導者屑にも共通した考え方であった。しかし1950年3月のイラク政府による国籍剥奪法の制定を契機として,多くのユダヤ人が出国登録をした。その最中,ユダヤ人に対する爆弾爆発事件が起こった。この事件はユダヤ人の出国登録を加速度的に促進することになったが,本論の最終章でこの事件をめぐる議論を紹介して,イラク・ユダヤ人におけるシオニズム運動,共産主義,そして大量移民に関する今後の研究課題を提示したい。巻末に,今後の研究の便宜のため,イラク・ユダヤ人のシオニズム運動,共産主義運動,および大量移民に関するヘブライ語,アラビア語,英語による主要な関係文献のリスト(論文も含む)を,筆者が実際に入手しえた範囲内で付すことにする。
著者
加藤 貴英
出版者
豊田工業高等専門学校
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

高炭酸ガス吸入は呼吸中枢を刺激し,呼吸・循環機能を賦活させる.本研究では,この特異的生理学的応答をスポーツトレーニングに応用した.1日1時間2週間の間欠的高炭酸ガス吸入を持久性アスリートに行わせた結果,高炭酸ガス換気応答が高まり,運動時の最大換気量が増加した.本研究の結果から,間欠的高炭酸ガス吸入は持久性アスリートの換気能力を高める可能性があることを示した.
著者
田辺 智隆
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.121, no.8, pp.265-278, 2015-08-15 (Released:2015-08-29)
参考文献数
19

長野市の北西部にある戸隠地域は,標高1,908mの戸隠山を中心に平安時代から山岳信仰の霊場となってきた場所である.地質学的には,北部フォッサ・マグナ地域の中央に位置し,新第三紀鮮新世の海成層が隆起してできた地域で,江戸時代から化石の産地として記録が残っている.「なぜ戸隠から化石がみつかるのか?」をテーマに,廃校になった小学校を利用した戸隠地質化石博物館が2008年に開館した.このコースでは,このユニークな博物館を見学するとともに,裾花川沿いの新第三紀の地層や化石の産出状況,地形などを見学し,長野の大地の生い立ちを学びたい.
著者
眞竹 昭宏 佐藤 広徳 三浦 朗 佐藤 陽彦 福場 良之
出版者
Japan Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.16-21, 2003-02-15 (Released:2010-03-12)
参考文献数
29
被引用文献数
6 5

咬合力の低下は顎顔面領域の成長を抑制し, その顎顔面領域の疾病のみならず, 全身の身体健康や機能障害を招く一因となっていることが憂慮されている. そこで本研究では, 咬合力を発揮する咀嚼筋の中で最も形態的に大きく, 強大な力を発揮するといわれる咬筋に着目し, 超音波法を用いた左右咬筋の弛緩時および緊張時における横断面積と, ストレインゲージによる一歯間の咬合力測定を行い, 咬筋の筋横断面と咬合力との関係について検討した. 咬筋が咬合力を発揮する緊張時の形態的変化として, 筋厚, 筋横断面積が増加し, 筋幅が減少するといった特徴がみられた. また, 最大咬合力は右側で683.7±204.9N (CV=0.299), 左側で693.6±208.7N (CV=0.300) であり, 有意な左右差はみられなかったものの, 左右ともにその標準偏差および変動係数から, 個人差の大きいことがうかがえた. さらに, 咬合力と左右全ての咬筋形態計測値との間で有意な正の相関がみられ, 咬合力の発現には咬筋形態の大きさが影響していることが示された.
著者
Hitoshi NISHIMURA Naoya MAKIBUCHI Kazuyuki TASAKA Yasutomo KAWANISHI Hiroshi MURASE
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
IEICE Transactions on Information and Systems (ISSN:09168532)
巻号頁・発行日
vol.E103.D, no.6, pp.1265-1275, 2020-06-01 (Released:2020-06-01)
参考文献数
34
被引用文献数
1

Multiple human tracking is widely used in various fields such as marketing and surveillance. The typical approach associates human detection results between consecutive frames using the features and bounding boxes (position+size) of detected humans. Some methods use an omnidirectional camera to cover a wider area, but ID switch often occurs in association with detections due to following two factors: i) The feature is adversely affected because the bounding box includes many background regions when a human is captured from an oblique angle. ii) The position and size change dramatically between consecutive frames because the distance metric is non-uniform in an omnidirectional image. In this paper, we propose a novel method that accurately tracks humans with an association metric for omnidirectional images. The proposed method has two key points: i) For feature extraction, we introduce local rectification, which reduces the effect of background regions in the bounding box. ii) For distance calculation, we describe the positions in a world coordinate system where the distance metric is uniform. In the experiments, we confirmed that the Multiple Object Tracking Accuracy (MOTA) improved 3.3 in the LargeRoom dataset and improved 2.3 in the SmallRoom dataset.
著者
仲島 佑紀 亀山 顕太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1265, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】近年,野球選手の投球障害に対する予防の取り組みに関する報告が散見される。また障害予防の観点から選手・指導者に対する検診を実施する地域が増加している。我々は2012年より障害予防の啓蒙活動の一環として少年野球選手を対象に,県内複数地域で障害調査やフィジカルチェックを中心とした野球肘検診を実施してきた。調査結果やフィジカルチェックにおける所見が障害発生にどのように関連するかを追究し,投球障害予防に貢献することを目的として投球障害肘の発症を縦断的に調査し,その発症因子を検討した。【方法】対象は2014年1月,2015年1月の検診に2年連続で参加し,初回検診時に肩肘に現病歴のなかった少年野球選手168名(9-12歳)とした。調査項目は2014年1月から2015年1月までの肘痛発症の有無と,初回検診時に実施したフィジカルチェックとした。フィジカルチェックの項目は,問診情報(①ピッチャー経験の有無・②1週間の総練習時間),局所所見(③肘伸展制限の有無・④肘屈曲制限の有無),柔軟性検査(⑤広背筋テストの可否・⑥踵臀部距離・⑦投球側股関節自動屈曲角度・⑧非投球側股関節自動屈曲角度),上肢機能(⑨上肢挙上位肩外旋角度・⑩肩甲帯内転角度・⑪腕立て伏せの可否),下肢機能(⑫投球側片脚立位テストの可否・⑬サイドジャンプ距離)の計13項目とした。統計解析として肘痛発症の有無を従属変数,フィジカルチェック項目を独立変数として多重ロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)を行った。多重ロジスティック回帰分析にて有意な関連(p<0.05)を示した連続変数についてはReceiver operating characteristics(ROC)曲線による分析を行い,カットオフ値を算出した。統計ソフトはR2.8.1を用いた。【結果】肘痛発症例は168名中,39名であった。有意な関連を示した項目は,1週間の総練習時間(p=0.009,オッズ比:1.13,95%信頼区間:1.03-1.24)と柔軟性検査である広背筋テストの可否(p=0.02,オッズ比:2.89,95%信頼区間:1.20-5.96)の2項目が抽出された。総練習時間のカットオフ値は17時間(感度:60.0%,特異度:82.6%,曲線下面積:0.73)であった。【結論】週17時間以上の練習時間は,日本臨床スポーツ医学会の提唱する1日2時間以内の練習時間を上回る結果となった。広背筋テストは両側の肘を合わせ,鼻の高さ以上に挙がるかをチェックするものであり,広背筋の柔軟性・胸郭の伸展動作などが関与する。これらの機能低下は投球動作における,いわゆる「しなり」を減弱させ肘下がりなどを惹起し,肘痛発症の要因となったと考える。障害予防においては,選手や指導者でも簡便に行えるチェック項目の抽出が重要なポイントと考えており,本研究結果は現場でも導入可能であり,障害予防に貢献し得ることが示唆された。
著者
緒方 康介
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.11-20, 2010-08-25 (Released:2017-09-30)
参考文献数
27

本研究の目的は児童相談所で出会う身体的虐待被害児における知能の偏りを調査することである。児童相談所のケース記録から抽出された身体的虐待群58名と,マッチング法により性別(男児41名,女児17名),年齢(月齢139カ月),全検査IQ(平均86)を統制された対照群58名のデータにおけるWISC-IIIの下位検査プロフィールを比較分析した。まず身体的虐待群の全下位検査評価点がノルムよりも低いことを1サンプルのt検定で確認した。その後,多変量分散分析によって10の下位検査における全体的な群間差が検出された。つづいてボンフェロニーの修正を施したpaired-t検定,ロジスティック回帰分析,判別分析の結果,いずれにおいても絵画完成と絵画配列における群間差が示された。対照群に比べて身体的虐待被害児は,絵画完成課題で高く,絵画配列課題で低い評価点であった。最後に全下位検査評価点の平均値と2つの下位検査評価点を比較すると,身体的虐待群で絵画配列が低く,対照群で絵画完成が低いという有意傾向が得られた。本研究知見の臨床実践上の意義について,身体的虐待被害と絵画完成および絵画配列に関する知的能力との関連,身体的虐待と非行との関連という観点から考察した。
著者
緒方 康介
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.1-11, 2013-10-31 (Released:2017-07-30)
参考文献数
22

児童虐待の被害児が示す知能プロフィールの発達的変遷を記述することを目的に調査を行った。最終的に義務教育課程の児童データ493名分を収集した。虐待群と対照群を,それぞれ小学校低学年,高学年,中学生の3つの学齢に分類し,横断的方法により発達変化を分析した。WISC-IIIの検査結果に対して多母集団同時分析で因子構造の相違を調べ,被虐待児特有の潜在的な知能特徴をいくつか検出した。引き続き,クラスタ分析で各学齢における下位分類を行い,群指数に基づくいくつかの典型的なパターンを示した。以上の結果を被虐待児の発達的変遷という観点から考察し,方法論上の限界ゆえに平均値としての知見にとどまることを踏まえたうえで,一定の臨床的参照点が得られたものと結論された。
著者
鈴木 真理子 鈴木 裕子 竹山 理恵 徳田 良英
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H4P3257, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】四肢運動時において重心移動が生じるため,姿勢の調節が必要である.姿勢は,筋収縮によって発生する反作用を見越して運動調節する機構により,簡単には崩れにくいように働く.このため,予測的な姿勢調節が随意運動に先行して行われる必要がある(吉尾ら. 2007).これを先行姿勢調節機構(Anticipatory Postural Adjustments:以下APA)という.APAの先行研究では上肢外転肢位で,落下する重錘を掴む際,主動作筋に先行して対側の体幹筋が活動し,重錘を放す際,対側の体幹筋が抑制する事が明らかになっている(Alexander, et al. 2001).本研究は,上肢前方挙上時の体幹のAPAを計測し,姿勢調節におけるさまざまなstrategyを類型的に把握し検討することを目的とする.【対象・方法】対象者は健常成人24名(男性14名,女性10名:平均年齢21.8±0.6歳,身長166.6±8.2cm,体重54.5±7.8kg)とした.実験装置は,被検者が立位で肩関節を90度屈曲した肢位の手掌から40cm上方に風船を設置した.実験課題は開始肢位は両上肢を体側に下垂した開眼立位とし,風船を合図無しに落とし,被験者は肩関節屈曲運動を素早く行い,風船を把持する事とした.上記課題はフォースプレート(Kistler社製,サンプリング周波数1KHz)上で行い,課題前後の重心の軌跡を測定した.右三角筋前部線維,両側外腹斜筋,両側脊柱起立筋の筋活動を筋電計(DKH社製EMG計測システム,サンプリング周波数1KHz)にて同期して計測した.また,ビデオカメラによって矢状面の被験者の姿勢と姿勢保持のためのstrategyを観察した.解析方法は,安静立位の開始時点から三角筋の筋活動の賦活開始時点までの体幹筋の筋電図の波形からパターンに分類し,姿勢・動作との対応を探った.【説明と同意】ヘルシンキ宣言に則り,対象者に研究内容を説明し,同意を得た.【結果】全被験者で,APAの出現後から上肢挙上運動開始までの間に重心が後方に移動した.重心の後方移動距離(平均±標準偏差)は(1.1±0.5cm)で,各群間で有意差はなかった(p>.05).筋電図の波形から,A群(5名),B群(10名),C群(9名)に分類した.各群の概要は以下の通りであった.A群は,三角筋が活動する100-200msec前に外腹斜筋が抑制,50-100msec前に脊柱起立筋が活性化した群である.ビデオ解析の結果,A群は立位姿勢のalignmentが比較的良好で, 課題時の重心の後方移動は全てhip strategyによって行っていた.B群は,安静立位時に外腹斜筋の筋活動が著明に認められないものである.外腹斜筋にAPAがみられず,三角筋が活動する20-80msec前に脊柱起立筋が活性化した. ビデオ解析の結果,B群10名全員の立位姿勢alignmentは概ね不良で,過半数は頚椎前彎と胸椎後彎が強く,骨盤が後傾した姿勢であった. 課題時の重心の後方移動は8名がhip strategy, 2名がankle strategyによって行っていた.C群は,外腹斜筋,脊柱起立筋にAPAがみられないものである. ビデオ解析の結果, 課題時の重心の後方移動はC群9名中, 7名がankle strategy, 1名がhip strategy,残りの1名が knee strategy によって行っていた.【考察】全被験者において重心が後方に移動しているのは,上肢前方挙上の際に,上肢の重みにより重心が前方に移動することを予測し,姿勢を保持するために無意識的に行われている.重心移動時に,各群間で筋活動が異なるのは,姿勢とstrategyの影響によると考える.まず,A群とB群においては,同じhip strategyによって重心の後方移動を行っている. A群においては外腹斜筋に抑制のAPAが生じたが,B群においては生じなかった.A群は安静立位で腹筋群を使用した良姿勢をとっており,脊柱起立筋に拮抗して外腹斜筋は抑制されたが,B群の安静立位は腹筋群をあまり使用しない不良姿勢であったため外腹斜筋に抑制のAPAが出現しなかったと考える.次に,体幹筋にAPAが生じたA・B群と生じなかったC群を比較する. A・B群はhip strategy, C群の多くはankle strategyにて重心の後方移動を行っている.よって,APAをhip strategyにて行った場合は体幹筋が, ankle strategyにてAPAを行う場合は体幹ではなく,下肢の筋活動が三角筋に先行する可能性が示唆された.【理学療法研究の意義】姿勢調節に重要なAPA出現の仕方を姿勢・動作との対応から類型的に把握することを試みたもので,パイロットスタディーとして意義がある.