著者
中村 通子
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.44, no.7, pp.660-662, 2008-07-01 (Released:2018-08-26)
参考文献数
3

予防接種に対する市民の関心を,新聞に掲載された投書から考えた.関心は,2000年代前半から大きく高まっていることが分かった.その一方で,市民に届く情報は十分ではなく,関係学会の社会的責務は大きくなっている.市民が納得し,受け入れる予防接種にするためには,双方向型の情報提供の努力と,新しいワクチン開発,そして社会経済学的な見地を含めた合意作りに向けた議論が必要だ.
著者
和泉 浩 IZUMI Hiroshi
出版者
秋田大学教育文化学部
雑誌
秋田大学教育文化学部研究紀要 人文科学・社会科学 = MEMOIRS OF FACULTY OF EDUCATION AND HUMAN STUDIES AKITA UNIVERSITY HUMANITIES & SOCIAL SCIENCES (ISSN:24334979)
巻号頁・発行日
no.74, pp.13-25, 2019-03-01

This article reconsiders relatively recent critical arguments about Raymond Murray Schafer's concept of 'soundscape', especially the arguments of two articles: Ari Y. Kelman (2010) 'Rethinking the Soundscape: A Critical Genealogy of a Key Term in Sound Studies' and Stefan Helmreich (2010) 'Listening against Soundscapes', in order to re-explore 'rich vein of scholarship of sound' (Kelman) in the concept of soundscape.Attending 'to the invention of Schafer's idea in order to wrestle with its redefinition', Kelman criticizes Schafer's bias against noise and his confusion of sound and listening, but Kelman does not consider deeply the definition of soundscape. This article reconsiders the definition of soundscape through rethinking Schafer's explanation in The Tuning the World, Helmreich's discussions of 'soundscape', 'immersion' and 'transduction', Steven Feld's 'acoustemology', Tim Ingold's 'against soundscape', and Paul Rodaway's 'aural geography', in that it situates the concept of soundscape in developments of studies on sound. This article also makes clear the concept of soundscape is not in conflicts with 'transduction', 'acoustemology' and 'immersion', and it needs to be connected with a central and traditional problem of social theories: the relationships between the individual and the social, and depending on how to make this connection, there are possibilities to develop various conceptions of soundscapes.
著者
大橋 浩一 鈴木 紅 佐々 達郎 宮崎 紀樹 立石 和也 金子 雅一 春成 智彦 黒木 識敬 弓場 隆生 安倍 大輔 岩間 徹
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.47, no.12, pp.1421-1427, 2015 (Released:2016-12-15)
参考文献数
7

手術歴や外傷歴のない27歳男性. 緩徐に増悪する腹痛が出現し, 腰痛, 両側下腿浮腫も出現したため当院救急外来を受診した. 造影CTで肝静脈合流部近位下大静脈~両側腎静脈内, 右第三腰静脈内に血栓像を認め, 両側総腸骨静脈領域までの連続する下大静脈血栓症の診断となった. 内視鏡検査では腸管内に特記すべき病変はなかった. 血液検査で抗核抗体, 凝固因子, プロテインS, プロテインCなどの血栓素因は正常範囲であったが, 血漿ホモシステイン (以下Hcy) 濃度が上昇しており高Hcy血症による血管内皮障害から下大静脈血栓症に至ったと考えられた. 葉酸とビタミンB6を補充しつつ抗凝固療法による保存的加療により症状は軽快し, 画像所見でも血栓は縮小した. 抗凝固療法継続中であり, 静脈血栓症の増悪・再発は認めていない. 高Hcy血症が原因と考えられる広範囲に及ぶ下大静脈血栓症は稀であり, 葉酸・ビタミンB6投与と抗凝固療法で保存的加療にて軽快した症例を経験した.
著者
中別府 温和 Harukazu NAKABEPPU
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 = Bulletin of Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.221-240, 2001-03-21

人間は、感性が与える素材を、カテゴリーにもとづいて構成する。そのカテゴリーのなかで、特に重要な位置をしめているのが時間と空間である。現実には文化統合として存在している宗教が保ちつづける意味は、特定の時間と空間において与えられている。では、宗教現象の理解のために、時間と空間を具体的にとりだすためには、どのような分析視点からどのような作業仮説がたてられるべきなのであろうか。 アウグスティヌスによると、時間は、「現在(praesens)」としてある。過去は、その像を「想起し物語る」ときにあり、未来は、その像を「見られうるもの」にして「心のうちに想像し予見する」ときにある。「現在の精神のはたらき(intentio)」あるいは「心の向かい(tendere)」によって、「ある」から「ない」への移りとして変化がとらえられるのである。 ここに、宗教の理解との関連で、個人の心を場とする時間を、心理学的方法によってとりだすことの意義を見出すことができる。個人の心の中に共有され分有されている時間のあり方を、過去、現在、未来の方面においてとらえることである。その場合、individual integrationの視点から、ウェーバー,M.の宗教的資質(religiose Qualifikation : Charisma)および担い手(trager)の考え方、モースの全体的事実(fait social total)の考え方、フロイト,S.の不安(Angst)の考え方を導入することが検討にあたいする。 時間感覚は、集団の断面でもとりだされなければならない。集団の断面における時間の分析のために、リーチ,E.が提示した時間についての見解を主要な材料にして、三つの仮説を構成した。 ①宗教は二つの異なる時間系列をそなえもっている。その場合に、人々による把握の仕方としては、それらのうち聖なる時間系列が俗なる時間系列に対して質的に優位である、と位置づけられる。②宗教現象における時間感覚は長い、と考えられる。祭儀を無限に繰り返すことによって、過去の深さの方向にも未来の方向にも長く延びている、からである。しかも、その繰り返しは2つの異質の時間系列を含んでいるのであるから、宗教現象における時間幅は広いとも考えられる。③二つの異質の時間系列による繰り返しは、将来による自己実現と考えることができる。現在の自己や社会のあり方を否定して、それらを超えてなりたつものを実現しようとする営みである。 一つの社会における時間体系あるいは時間感覚を具体的にとりだす場合には、エヴァンズ=プリチャードが提示するように、生態学的時間と構造的時間の視点が不可欠である。これらの時間体系を、時間の長さ、速度、幅の視角から具体的にとらえていく仕方は非常に重要である。
著者
堀 雅敏
出版者
日本農薬学会
雑誌
日本農薬学会誌 (ISSN:21870365)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.109-116, 2018-08-20 (Released:2019-02-20)
参考文献数
14
被引用文献数
1
著者
三代 康雄 北原 糺 山本 佳史 久保 武
出版者
JAPAN SOCIETY FOR HEAD AND NECK SURGERY
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.315-318, 2005-02-05 (Released:2010-07-27)
参考文献数
9

慢性穿孔性中耳炎を伴う内頸動脈鼓室内露出症例について報告する。症例は58歳女性で,右難聴と耳鳴を主訴に当科を紹介受診した。右鼓膜は大穿孔を認め,,鼓室前方に拍動する腫瘤を認めた。内頸動脈鼓室内露出が疑われ,平成13年3月局所麻酔下に耳後部切開の鼓室形成術1型を行った。術前に内頸動脈の露出が確認されていたため,この部位は軟骨板で被覆するのみとし,殆ど出血無く手術を終了した。内頸動脈鼓室内露出はきわめて珍しいが,手術操作などによる大出血で気付いたという症例が大半であり,鼓室内に拍動1生腫瘤を認めた場合は内頸動脈の露出も鑑別に入れるべきである。
著者
岩城 大介 出家 正隆 折田 直哉 島田 昇 細 貴幸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab1083, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 一般に若い女性は,ファッション性のためハイヒールを履くことが多い.しかし,ハイヒール歩行は荷重中心軌跡の内側偏位,立脚中期での接触面積の減少などの影響があるとされ,このことからハイヒール歩行は非常に不安定であると考えられる.また,近年運動連鎖の観点から一関節の変化による他関節への影響が重要視されている.ハイヒール歩行は足関節の底屈強制により歩行周期を通して底屈位となるため,足関節の剛性が低下した不安定な状態で初期接地を行わなければならない.運動連鎖から考えてこの足関節での変化は,膝関節,股関節の運動へ影響していると考えられる.そのため本研究では,これらのハイヒール着用による足関節の変化が膝関節・股関節に及ぼす影響について検討した.【方法】 対象は健常若年女性8名(年齢22±0.63歳,身長161.1±3.8cm,体重50.3±3.9kg,)の左下肢4肢,右下肢4肢とした.測定には三次元動作解析装置(赤外線カメラ7台,VICON612:Vicon Motion System社,USA)と床反力計4枚(AMTI社,USA)を使用し赤外線カメラはサンプリング周波数120Hzにて,床反力計はサンプリング周波数500Hzにて赤外線カメラと床反力計を同期し,赤外線反射マーカーの動きと床反力を記録した. マーカー貼付位置はPoint Cluster法を参考に,直径14mmの赤外線反射マーカーを骨盤に6 個・下肢に23個,計29個のマーカーを貼付した.測定条件は10mの直線歩行を至適速度で行い,運動靴着用時とハイヒール着用時で5試行ずつ行った.なお,測定順序はランダムとした.また,ハイヒールは5cm高のものを使用した. 得られたデータはVicon Workstation(Vicon Mortion System社,USA),Vicon Bodybuilder(Vicon Mortion Systems 社,USA)を用いて処理した.Point Cluster法を用いて膝関節屈曲角度,内反角度,脛骨回旋角度,脛骨前方移動量を出力し,その後体節基準点の位置座標を用いて,股・足関節中心を算出し股関節角度,足関節角度を算出した.またPoint Cluster法によるデータは,すべて大腿骨に対する脛骨の相対運動として示した. 有意差検定は対応のあるt検定を用い,有意水準5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 実験に先立ち対象に本研究の目的と主旨を十分説明し,文章および口頭による同意を得た.なお,本研究は広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て行った.【結果】 運動靴歩行と比較してハイヒール歩行では,歩行周期を通して足関節底屈角度の増加,立脚終期・遊脚初期~中期での膝関節屈曲角度の減少,立脚初期・中期・遊脚終期での膝関節内反角度の増加がみられた.脛骨回旋角度,脛骨前方移動量,股関節屈曲角度で有意差はみられなかった.【考察】 まず,歩行周期全体を通して足関節底屈角度の増加がみられたことは,ハイヒールによる底屈強制が働いていることを証明している.また,立脚期の終わりから遊脚中期にかけて膝関節屈曲角度が減少したのは,ハイヒール歩行では足関節底屈強制のため立脚後期で前上方への十分な推進力が得られず,足部が床面の近くを通ることで膝関節屈曲角度が減少したのではないかと考えられる.立脚初期・中期・遊脚終期での内反角度の増加に関しては,ハイヒール歩行では踵接地から前足底接地にかけて,足関節内反から外反へ向かう運動を行う時間を稼ぐことができず,脛骨を直立化させる運動連鎖を起こすことができないため,内反角度が増加したのではないかと考えられる.この立脚期における内反角度の増加は膝関節内側のストレスを上昇させ変形性膝関節症のリスクとなるかもしれない. 今回股関節ではハイヒール着用による影響はみられなかった.これは,股関節が膝関節に比べてより体幹近位にあるため,足関節の変化による影響は膝関節で代償したためと考えられる.【理学療法学研究としての意義】 近年,女性の社会進出に伴いハイヒール着用の機会は増えてきている.ハイヒール歩行による運動学的変化は日常習慣性,反復性に軽微なストレスを蓄積し膝やその他の関節に筋骨格系の障害を及ぼすかもしれない.ハイヒール歩行の運動学的変化を知ることは生活指導や運動連鎖の観点からも重要であると考えられる.
著者
白鳥 世明
出版者
一般社団法人 電気学会
雑誌
電気学会論文誌E(センサ・マイクロマシン部門誌) (ISSN:13418939)
巻号頁・発行日
vol.136, no.7, pp.276, 2016-07-01 (Released:2016-07-01)

センサ・マイクロマシン部門(E部門)では,2009(平成21)年4月から2011(平成23)年3月まで中本高道委員長(東工大)を中心にケミカルセンサ技術委員会内に香りのセンシングと再現による感性マルチメディア調査専門委員会を設置し,調査研究を進めてきました。また,2012
著者
梶田 孝道
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.70-87, 1981
被引用文献数
1

多くの近代化論者たちは、業績主義が現実化してゆくにつれて属性主義は次第に消滅するか、たかだか例外的な形で残存するにすぎないと考えた。しかし、業績主義が社会の主要な配分原理となりほとんどのメンバーが業績主義者と化した現在、純粋な意味での業績主義はむしろ例外的な存在であり、かえって属性主義に起因する社会問題群が新たに生み出されてきたという事実に気づく。一方ではアチーヴド・アスクリプション (業績主義の属性化) が、他方ではアスクライブド・アチーヴメント (属性に支えられた業績主義) が発生している。本稿では、業績主義・属性主義についてのリントンの定義およびパーソンズの定義の問に存在する微妙なズレに固執することによって、上記の二つの問題領域を社会学的にクローズアップさせ、あわせて両領域に属する問題群の整理とそれへの対策の検討を試みる。
著者
深谷 健一 入江 敏博
出版者
北海道大学
雑誌
北海道大學工學部研究報告 (ISSN:0385602X)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.115-126, 1970-10-31
著者
山田 雅子
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.55-61, 2017-03-01 (Released:2017-04-03)
参考文献数
13
被引用文献数
1

肌の色に対する心的イメージ(心の中に抱く像)には,現実とのずれがある(山田, 2010, 2015).実際には男性の肌の方が女性よりも赤み寄りであるにもかかわらず,平均的な男女の肌の心的イメージとして選ばれた色票の特徴は全く逆であったとの報告もある(山田, 2010).そこで本研究では,言語表現の面から自身と男女の肌について抱かれる心的イメージの傾向を探ることとした. 82名の日本人女子学生を対象とし,6種の肌について明るさと色みを選択させたところ,明るさについては,対象の性別に従って明瞭に区別される一方,色みについては「中庸」との選択が大半を占め,明確には意識されていないことが明らかとなった.また,対象の性別や自他の区別を問わず,理想は現実に比べて色白であり,回答者自身の肌については,現実の方が理想に比して黄みに寄るとの特徴も加わることが分かった.更に,言語表現の選択傾向は一定のパタンに分類できることも示唆された.

1 0 0 0 OA 朝日時局読本

出版者
東京朝日新聞社
巻号頁・発行日
vol.第6巻, 1938
著者
五十嵐 脩 大関 静枝 仁保 喜之 安藤 寛 毛利 佳世 糸川 嘉則
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.145-150, 1984-04-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
9

A new type enriched rice, “Shingen, ” which contains vitamin B1, B2, B6, E, niacin and panthotenic acid as vitamins and calcium and iron as minerals, was developed and sold first in Fukuoka Prefecture in 1981. When it is mixed with polished rice at the ratio of 1: 200, the levels of those vitamins and minerals in mixture become to be the same levels as those of unpolished raw rice.We examined the nutritional effect of this new enriched rice on young female students of 20 years old living in Fukuoka City and its suburb. At first they were inquired into the intake of the enriched rice for the last six months and then divided into two groups: 1) intake group was consisted of students who ate the enriched rice at least twice a day as staple food (n=26). 2) no intake group of the enriched rice (control group) ate white rice at least twice a day (n=35). After one month survey of food intake their blood was taken in the morning following overnight fasting. The blood was analysed for its biochemical status as follows: 1) general characteristics of blood (counts of erythrocyte and leucocyte, level of hemoglobin, hematocrit, MCV, MCH and MCHC etc.), 2) vitamin B1level, 3) TPP effect in blood and transketolase activity in erythrocyte, 4) α-tocopherol and triglyceride levels in serum. Also, during this survey, we calculated the daily nutrients intakes of subjects on typical three days.The intake of nutrients of two groups was not different significantly except for vitamin B1 and C of which intakes were higher in intake group than control, but vitamin E intake was not calculated. Blood characteristics were normal in both groups. Vitamin B1 level in blood and transketolase activity in erythrocyte of intake group was significantly higher than that of control group (Figs. 3 a and 4). Similarly, in control group TPP effect was higher than that in intake group showing lower B1level in erythrocyte of contol group. The subjects to be marginal vitamin B1 deficiency was found in high frequency in control group (the number of subjects; less than 30ng/ml were 9, 30-40ng/ml 10, 40-50ng/ml 7 subjects), comparing to two subjects in intake group, whose erythrocyte showed less TPP effect, suggesting no marginal deficiency. From these results it is suggested that vitamin B1 intake should be kept higher level in diet for example by the intake of enriched rice.α-Tocopherol level in serum was not significantly different between both groups. But in control group three subjects showed low α-tocopherol level of less than 5.00μg/ml. Also, F distribution ratio was different significantly in both groups for serum α-tocopherol. This shows thatnew enriched rice intake minimizes the individual variation of serum α-tocopherol level. Triglyceride level in serum was not different in both groups.
著者
小柳 達男 千葉 茂 鷹觜 テル 及川 桂子 赤沢 典子 常松 澪子 木村 武 小山 寛
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.65-70, 1984-02-10 (Released:2009-11-16)
参考文献数
16

サイアミン, リボフラビン, ビタミンB6, ナイアシン, PA, トコフェロール, カルシウム, 鉄を玄米に含まれる量に似せて強化した新強化米を岩手県農村の高齢者に与え, 血圧, 血色素, 副腎皮質ホルモン代謝物の排泄量, 暗順応能力などに及ぼす影響について調べた。それまでサイアミンだけを強化した米を食べていた人々がこの新強化米を1年間摂取した結果, 1) 最低血圧が81±3から76±3mmHgに低下し, 2) 血色素が13.2±0.2から14.8±0.3g/100mlに増加し, 3) 尿中17-OHコルチコイドが2.4±0.1から1.1±0.1mg/8hrに減少し, 4) 尿中パントテン酸は0.31±0.08が1.11±0.34mg/8hrに増した。これらの変化は従来の強化米に比べ新強化米にとくに多いパントテン酸による効果ではないかと考えられる。とくに血圧を降下させた効果について著者らは, パントテン酸の不足によって低下していた神経組織のアセチルコリン濃度がパントテン酸の供給増加によって改善され, 血圧上昇作用をもつアドレナリン系ホルモンの作用に拮抗したものと考えている。暗順応は新強化米だけでは9か月間の摂取でも暗順応の閾 (いき) 値は8.6±0.8が7.7±1.1mmへとわずかに改善されただけであるが, ビタミンAを補うと著しく改善されて4.5±0,6mm (やや不良) にまで改善された。これは被験者たちは栄養調査ではビタミンAを十分に摂取していることになっているがビタミンAの補給前はその不足があったものと考えられる。