著者
伊東 保
出版者
広島大学総合科学部
雑誌
言語文化研究 (ISSN:03851494)
巻号頁・発行日
no.14, pp.p84-100, 1988

Louis in The Waves is modeled on T. S. Eliot. That is clear when we see his neat, precise manner and appearance. His monologues show that he thinks the time past is contained in the time present, and that he can identify himself with a plant. His sense of time is very similar to the one in "Tradition and the Individual Talent". His fantasy is like that of The Golden Bough to which The Waste Land refers.The Waves has a number of images and motifs taken directly and indirectly from The Waste Land. The central figure of the novel is Percival, whose name and character remind us of the Knight of the Holy Grail. When he starts for India, the goal of his travel is to pursue the Grail. When he dies, the pursuit is taken over by Bernard, the novelist, who completes his novel at the end of the story when he can identify himself with Percival. His novel is his Holy Grail.Bernard's novel is written with cries and monosyllabic words, and represents his six friends' lives as well as his own as a whole. His novel is Virginia Woolf's ideal novel, which must be simple and saturated like poetry and must contain everything like a novel. She completed her novel by letting Bernard complete his novel, for the ideal is ideal and cannot be real.When T. S. Eliot wrote The Waste Land he was experiencing death of the heart. Woolf and the members of the Bloomsbury Group knew that and they thought the poem was "Tom's" autobiography. Woolf also experienced a kind of death, and she wrote this novel in order to be resurrected. The Waves is the autobiography of Virginia Woolf as a novelist.
著者
西口 光一 Nishiguchi Koichi ニシグチ コウイチ
出版者
大阪大学国際教育交流センター
雑誌
多文化社会と留学生交流 (ISSN:13428128)
巻号頁・発行日
no.15, pp.43-53, 2011

本稿では、基礎日本語教育のカリキュラム開発と教材作成において基礎とされた第二言語の習得と習得支援の原理について議論する。広く基礎となる言語観としてはバフチンの対話原理が採用された。そこでは、文ではなく発話と対話性の重要性が強調される。そして新カリキュラムの要件として、(1)文型・文法事項の系統的学習、(2)語いの体系的学習、(3)言語活動目標が設定されていること、が提示された。次に、新カリキュラムでは、学習者が本文を習得しさえすれば学習言語事項の習得はすべて達成されるマスターテクスト・アプローチを採用し、マスターテクストには、(1)言語事項の収用元、(2)ユニット学習の道じるべ、(3)言語事項の借用元、の役害」があることを論じた。さらに、学習方法として、受動的理解のフェイズ、模倣とローカルな対話のフェイズ、自己目的のための再構成のフェイズ、自己の言葉の再利用のフェイズが想定されていることを明らかにし、各々の方法を解説した。最後に、自己修正、差し替え、補い、代替語提示などを伴う、教師によって介助された各種の言語活動従事経験を通して学習者が有効に第二言語習得を進められることを論じた。
著者
安冨 歩
出版者
物性研究刊行会
雑誌
物性研究 (ISSN:05252997)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.422-428, 1994-02-20

この論文は国立情報学研究所の電子図書館事業により電子化されました。
出版者
満洲国外交部
巻号頁・発行日
vol.第3輯, 1934
著者
小島 一範 山本 亜希江 鎌井 大輔 槌谷 祐二 尾嶋 紗季 仕田中 美穂 渡邉 進
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.315-319, 2016 (Released:2016-04-29)
参考文献数
19
被引用文献数
1

〔目的〕訪問リハビリテーション利用者における,足趾把持力のバランス能力に対する重要性を検討するためにこれらの間の関係を調べることとした.〔対象〕立位姿勢を30秒以上とれる訪問リハビリテーションのサービスを利用している者33名とした.〔方法〕足趾把持力と開眼での片脚立位時間を左右ともに3回測定しその中での最大値を採用した.足趾把持力と片脚立位時間との関係をSpearmanの順位相関係数により解析した.〔結果〕足趾把持力と片脚立位時間との相関係数はr=0.776と正の高い値を示した.〔結語〕今回明確化された足趾把持力と片脚立位時間との高い相関は,足趾把持力のバランス能力における重要性を示す.
出版者
日経BP社
雑誌
日経automotive
巻号頁・発行日
no.69, pp.74-79, 2016-12

2016年9月末に本誌とドイツETAS社が主催した自動車セキュリティーの国際会議「escar Asia 2016」。米Tesla Motors社の取り組みを称賛したのが、同社の電気自動車「モデルS」をハッキングしたMarc Rogers氏(米Cloudflare社Head of Information Security)である(図1)。 Rogers…
著者
根本 彰
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.1-16, 1999-03-30 (Released:2017-05-04)

戦後占領期にアメリカの図書館専門家が何人か来日し, 図書館政策の策定や近代的な図書館運営, 図書館員の養成などに貢献した。本稿は, とくに占領初期の政策決定期に来日してそれぞれの業績を残したカーノフスキー, キーニー, グレアム, バーネットの派遣, 人選やそれらの人々とのやりとりを示す資料の分析を通して, 国際関係特別委員会 (IRB) 東洋委員会委員長ブラウンが中心となったALAの対日図書館政策の考え方を検討する。その結果, 第一次教育使節団派遣の時点では, ブラウンは公共図書館や学校図書館を通じた教育改革に意欲を示していたが, 初代GHQ/SCAPのCIE図書館担当者キーニーが共産主義者の疑いで解任されて以降, 制度改革よりも図書館員養或などのより間接的なものに重点を移すようになった点を明らかにした。これは直接的に占領行政を担当していたGHQ/SCAPが冷戦期の反共産主義に政策転換したことに加えて, キーニーその人とALAとの間にあった確執にも根ざしたものであった。
著者
立山 ちづ子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.47, pp.21, 2004

目的<br>消費生活センターなどへの消費者からの相談件数が昭和45年度に比べ平成14年度は18倍に増加し、約1,048,000件となった。近年は販売方法、契約・解約に関する相談が70~80%を占め、また20歳代未満と70歳代以上がふえている。とりわけ、子どもの相談が平成8年度は10,010件であったが、平成14年度は34,046件に増加している。なかでも15~17歳の高校生期で平成13年度以降急増している。熊本県は自己破産率が毎年全国5位以内に位置し多重債務者が多い県といわれる。本研究ではこの原因を探り、さらに多重債務を防止するために、高等学校家庭科「消費と環境」での学習重点事項を明らかにすることを目的とする。<br>方法 1 熊本県における多重債務者の原因の特徴を関係機関で調べた。2 「家庭経済」に関するアンケート調査を家庭科授業時間に配布し回収する方法で行った。調査期間は平成15年11月~平成16年1月。調査は熊本県、東京都、山形県の高等学校の普通科〈進学が多い学校と少ない学校〉、工業科、農業科、商業科の1~2学年、女837人、男745人、合計1,582人。<br>結果と考察<br>? 多重債務の原因は「熊本クレ・サラ・日掛け被害をなくす会」の相談者からの調べでは(1)生活費の不足による負債の発生、(2)ギャンブル・浪費による負担の発生、(3)悪徳商法の被害による負債の発生によるものが多い。職業別でみると1位パート・アルバイト28%、2位会社員24%、3位自営業15%で多い。多重債務家庭の子どもへの直接的な影響は1位債権者からの執拗な電話〈82%〉であり、その結果として子どもは学習意欲を消失〈80%〉、親を信頼できなくなる〈58%〉、などの事態が出ている。「やみ金」と立ち向かうためには、法律的知識学習が必要であるとされている。<br>? アンケート調査結果と考察:1 高校生の収入は毎月定額の場合、3都県ともに5,000円が最多である。定額を家族からもらう者は3都県比較で山形県が多く、熊本県が最も少ない。2 携帯電話の1ヶ月の支払額は5,000円が3都県ともに最も多い。その支払い者は熊本・山形では「家族」が70%を超え、東京が58%で少なく、「私」が支払う割合は東京が27%で多い。3 小遣い帳の記入者が多いのは東京・男で9%、少ないのは山形・男で2%である。3都県ともに少ない。4 わが家のことを知る者が多いのは東京・男で、収入について38%、支出について22%であり、支出について知る者が少ないのは熊本・男で15%である。家計の収支を高校生はあまり知らない(知らされていない)、とりわけ熊本・男で少ない。5 クレジットカードの貸し借りを「してはいけない」の回答率が高いのは東京・女54%。「してもよい」の回答率は熊本・男6.3%が最多であり、熊本・女は2.4%で少ない。6 年利29.2%の1年後返済金(概算)の正解率は東京・男73%、最小は山形・女42%である。3都県ともに利息計算力をつける必要がある。7 身近に多重債務者を知る者の最多は熊本・女35%、最小の山形・男18%である。その原因の第1位は3都県女男で「サラ金利用」で、続いて連帯保証人、ギャンブル、やみ金利用、リストラ、生活費の不足である。8 借金返済不能の場合の相談相手は、1位「家族」で最多の熊本・女で70%、最小の東京・男で46%である。熊本では家族で解決しようとする傾向が強いようである。2位に「消費生活センター」、3位に「弁護士」で熊本・男8%、東京・男7%であり、法律を活用する意識が3都県ともに低い。 9 結婚式は3都県ともに1位は「シンプルで祝儀金で間に合う程度」で46%〈東京・男〉~35%〈熊本・女〉、2位に熊本の女・男ともに「豪華に、自分の貯金と祝儀金で」26%で多い。熊本県は派手にする傾向が強い。10 18歳の契約の回答は3都県ともに三分され、契約の権利と責任の理解が不十分である。11 連帯保証人は債務者が「支払えない場合には支払う」の回答が3都県ともに最多で、熊本・女88%~山形・男58%であり、正解の「貸し手の請求で支払う」は山形・男で18%~東京・女で6%と少ない。連帯保証人の役割の認識がとても低い。多重債務を防止するための学習重点事項として、(1)本人・わが家の家計の実態把握と記録の習慣化(2)地域の生活慣行のふり返り(3)関連の相談機関の活用方法(4)契約やクレジット、連帯保証人については具体的な事例を通しての理解が重要であることなどが示唆された。
著者
科学警察研究所 編
出版者
科学警察研究所
巻号頁・発行日
vol.28(1), no.109, 1975-02
著者
坂田 謙司
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は、音声による街頭の宣伝放送である「街頭放送」の社会史を明らかにすることにあった。特に、現役の施設が多い北海道の街頭放送を中心に調査・研究を行った。研究方法は、新聞記事を使った歴史・社会的な事実確認とヒアリング、関連資料の探索という歴史社会学的手法を用いた。その結果、街頭放送は1945年末に東京有楽町に初めて登場し、全国へと広まっていった。しかし、都市部の街頭放送は他の都市的な音との重なりのなかで騒音源として捉えられ、減少していった。一方、北海道の街頭放送は1947年に札幌中心部に登場し、宣伝メディアとしてだけでなく地域情報メディアとしても機能し、今日に至っていることが分かった。
著者
村田 治重
出版者
Japanese Society for Tropical Agriculture
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.5-9, 1962

1.スムース・カイエンのサラワク種を用いて生育状況を調査した.<BR>発蕾時期は4月下旬~7月下旬, 8月下旬~11月上旬の2期にわかれ, したがて収穫時期も9~12月, 2~3月の2期となる.<BR>果実の大きさは夏実より冬実が大きく, 夏実は冠芽がのびすぎる.えい芽は夏実にのみ発生し, 冬実には発生しない.<BR>2.スムース・カイエン (サラワク) は吸芽の発生が悪く, 第1回果実収穫後第2回目の果実収穫まで長くかかるので, 暖地のパイアップルの品種としては, 本種以上に芽立ちのよい種類を選択して生産性を高める必要がある.<BR>3.スムース・カイエン (サラワク) とアバガシー, スペシャル, アマレーロとの生育状況の比較をおこなつた.<BR>アマレーロは生育が旺盛で, 果実収穫までの期間が短く, 吸芽塊茎芽の発生および生長がよい.葉にとげがあり, 果実・苗が腐敗しやすい欠点はあるが暖地のパイン栽培品種としてはスムース・カイエンより適品種のようにおもわれる.<BR>4.暖地パイン栽培にあたつては, 冬期が生育に不良環境にあるので, 品種の選択の条件として耐寒性, 第2次芽の発生, 生長の旺盛ということが重要な要素としてとりあげられなければならない.
著者
渡會 涼子 安友 裕子 北川 元二
出版者
名古屋学芸大学管理栄養学部
雑誌
名古屋栄養科学雑誌 = Nagoya Journal of Nutritional Science (ISSN:21892121)
巻号頁・発行日
no.4, pp.55-65, 2018-12-25

【目的】若年女性の過度のやせは、貧血、骨粗鬆症、低体重児出産などのリスク因子となる。本研究では女子大学生を対象に健康状態、栄養摂取状況、食行動調査を実施し、低体重者の実態を明らかにするとともに、自己のボディイメージ評価による栄養摂取状況および健康状態について比較検討を行った。【方法】①健康状態については身体計測、血液検査、②栄養調査は食物摂取頻度調査法(FFQ)、③食行動は独自で作成したアンケート調査を実施した。ボディイメージはStunkard によるシルエット法を用いて検討した。【結果】管理栄養学部1 年生女子学生134名を対象とした。Staunkard のシルエット法は体格図( 1~ 9段階でスコアが高いほど体格が大きくなる)から選択してもらいボディイメージをスコアで評価する方法である。BMI による実際の体格とシルエット法によるボディイメージ評価を比較検討した。現在の自己評価によるボディイメージ・スコアは、低体重者(BMI<18.5)4.00±0.92、普通体重(18.5≦BMI<25.0)4.17±0,96、肥満者(25.0≦BMI)4.40±1.34と、低体重者と肥満者との間に有意差は認められたが、いずれもBMI=23に相当する4 点台であった。理想とするボディイメージ・スコアは平均2.93±0.63、健康的であると思うボディイメージ・スコアは平均3.49±0.59と、健康的であると思うボディイメージより、理想とするボディイメージ・スコアが有意に低かった。肥満度別に、「理想のボディイメージ」とエネルギー摂取量を比較検討したところ、低体重者、普通体重者ともに、理想のボディイメージ・スコアが低い者は、エネルギー摂取量が低く、過剰なダイエットをしている可能性が示唆された。自己のBMI による体型を正常に認識している「正常認識群」と自己のBMI による体型を実際より太っていると過大評価している「やせ願望群」で検討を行った。やせ願望群は63%であった。血圧や骨密度、血液検査成績においては、正常認識群とやせ願望群で有意差は認めなかった。エネルギー摂取量は正常認識群1,714±545 kcal、やせ願望群1,583±437 kcal とやせ願望群が少ない傾向がみられたが有意差はなかった。食品群別における主食・芋類摂取量は、やせ願望群の方が有意に低かった。【結論】ボディイメージの誤った認識が過度の痩身傾向に影響している可能性が示唆された。若年女性に対する正しいボディイメージ認識の啓発が重要であると考えられた。
著者
横尾 暁子 竹内 美香 鈴木 晶夫
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletion of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.13, pp.149-159, 2019-03

青年期女子の「痩せ」の多さが問題視されている。本研究では,首都圏の大学に在籍する女子学生115人を対象に調査を実施し,中学から現在までのダイエット経験やBMI,食習慣,自尊感情,栄養知識の関連について調査した。今回の調査からは,青年期女子の痩身願望や痩身化の高さが明らかになり,体型の不満足感と自尊感情の間に有意な負の相関関係が見られた。また,ダイエット経験者の多さが明らかになったとともに,ダイエットを実施した理由について,発達段階ごとの特徴が示された。さらに,これまでのダイエット経験のパターンによって,食意識や栄養知識およびBMIに差異のあることが示唆された。これらの結果をもとに若年女子の過度な痩せを防ぎ,心身ともに健康な状態を維持するための適切な介入方法の在り方について検討し,今後に向けた課題を示した。
著者
江田 真毅 小池 裕子 佐藤 文男 樋口 広芳
出版者
公益財団法人 山階鳥類研究所
雑誌
山階鳥類学雑誌 (ISSN:13485032)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.57-64, 2011-09-30 (Released:2013-09-30)
参考文献数
15
被引用文献数
4 7

アホウドリ Diomedea albatrus は伊豆諸島の鳥島と尖閣諸島の南小島や北小島で繁殖する危急種の海鳥である。1979年以降,鳥島で生まれたほとんどの個体が両脚に標識をされているにもかかわらず,1996年以降,鳥島の初寝崎において未標識の1個体が観察されている。2005年度の繁殖期まで,アホウドリ誘致用に設置された特定のデコイのそばに毎年巣をつくったこの鳥は,デコイにちなんで「デコちゃん」と呼ばれている。若鳥のうちに標識が両脚から外れることは考えにくいため,この鳥は尖閣諸島で生まれた個体であると考えられてきた。近年の私たちのミトコンドリアDNAの制御領域2を用いた研究によって,アホウドリには2つの系統的に離れた集団(クレード1とクレード2)が含まれていたこと,尖閣諸島で採集された資料はクレード2の個体からなること,鳥島で生まれた個体の多くがクレード1に属することが示唆されている。この鳥の巣で羽毛を採取して解析した結果,この鳥の制御領域2の配列は,これまでに知られていた配列とは異なるものの,クレード2に属することが明らかになった。このことは,デコちゃんの出生地が鳥島ではなく,尖閣諸島であることを支持するものである。デコちゃんは鳥島で生まれた個体とつがいを形成し,2009年度の繁殖期までに2羽の雛を巣立たせている。しかし,2つの系統が交配しているかどうかを判断するためには,両性遺伝する遺伝子マーカーによる研究が必要である。
著者
田中 裕
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.72-87, 2018 (Released:2019-06-30)
参考文献数
40

本稿は空間における抵抗の契機を考察することを目的とする. アンリ・ルフェーブルによって提出された不生産的消費という概念を出発点に, 空間の領有に向けた身体的実践のあり方を論じた. この概念はモノの生産や交換を目的とする生産的消費とは異なり, 断片化された空間を「生きられた経験」によって再編することを狙いとしている. また, 不生産的消費は使用価値に基づいており, 語りや聴取などの身体的行為として想定される. それゆえ不生産的消費は, 身体を媒介した対象の把握とその日常的実践として措定可能である. この行為のプロセスを明らかにするため, ドイツの哲学者マルクス・ガブリエルの「感性的知覚の界」を援用し考察を進めた. それにより, 私たちはその時々に応じて複数の感性的知覚を関連させることで対象を理解しているが, その対象は以前と異なる対象として立ち現れる可能性を潜在的に有していることが明確となった. ただし, このプロセスでは特定の理解を排除ないし無効化する権力的な秩序が背後で作動している. そこで, これらの感性的知覚を異なった2つの実践として捉え直し, 権力的秩序に基づく理解を受動的な「翻訳的実践」, 新たな理解の創出を能動的な「翻訳的実践」と位置づけた. ここから, 物理的空間としての場所を想像力に富む感性的知覚の1つとするならば, 翻訳的実践は空間領有の可能性を有するものとして考えられることが明らかになった.