- 著者
-
黒木 千尋
- 出版者
- 大分大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2009
目的は、水素ガスの脳保護作用とフリーラジカルの関係を検証し、水素ガス投与が脳のエネルギー代謝にどのように影響するかを明らかにすることである。エダラボンは臨床で良く用いられているラジカル捕捉剤である。同一実験系で水素ガス(4%~50%)とエダラボン(10~5000μM)のEC_<50>を算出した。水素ガスはラジカル捕捉能が見られずEC_<50>の算出は不可能であった。一方、エダラボンのEC_<50>は705μMであった。平成21年度の結果と合わせ「水素ガスがラジカル捕捉能を持ち、それにより神経細胞保護作用を及ぼす」という説は支持できない。ラットの脳スライスを凍結破砕し抽出を行い、^1H-NMRおよび^<31>P-NMRを行った。虚血再灌流モデルを用いて、虚血再灌流負荷前後の代謝物の測定を行った。4%および8%水素投与群とコントロール群の比較(Tukey多重比較)をした。N-アセチルアスパラギン酸の負荷後/負荷前比は、それぞれ77.1%, 61.4%, 69.3%であり、8%水素投与群は4%水素投与群より有意に回復が悪かった(補正p=0.O11)。γ-アミノ酪酸や「クレアチンとホスホクレアチン(PCr)」も、8%水素投与群は4%水素投与群より有意に回復が悪かった(補正p=0.022, 0.035)。その他、^1H-NMRでコントロール群と有意差のある群は見られなかった。^<31>P-NMRによる、PCr測定では8%水素投与群と4%水素投与群に有意差は見られなかった。β-ATPは、それぞれ53.8%, 60.6%, 54.1%であった(有意差なし)。平成21年度の結果と比較して、抽出物の実験でもβ-ATPの様に同様の傾向は見られている。水素ガスは神経保護効果を及ぼす程のラジカル捕捉能があるとは言えないが、4%では神経保護作用があり、8%を超えると神経細胞に障害を与える可能性を考えなくてはならなくなった。