- 著者
-
牧野 俊郎
- 出版者
- 京都大学
- 巻号頁・発行日
- 2007
本研究は,熱工学の立場から人間の生活環境と地球の自然環境のほどよい共生を図ることをめざす萌芽的な研究である.人間の生活環境の改善はわれわれの当然の希望であり,とりわけ日本の蒸し暑い夏を快適に過ごすための努力はあってよい.ところが,その生活環境の快適さを実現するために空気調和機器(エアコン)をもってすれば,その使用電力分が地球大気に熱として放出され,さらにその電力生産にともなう熱が大気に放出されて,地球の温暖化を促進する.すなわち,エアコンに頼って快適さを追求しつづける限り,生活環境と地球環境との共生は難しい.本研究の要点は,(1)壁によるふく射冷却と(2)水蒸気を呼吸する壁である.電力よりは自然の自律制御機能に依存して人間の快適さを追及することである.本研究では,夏に涼しく冬に暖かい生活・暮らしの実現に貢献できる技術の開発のために,ふく射伝熱と水蒸気を呼吸する高熱伝導性の多孔質体に注目する.自律的な生活環境制御機能をもつ生活空間の壁をバイオマスの暖かさをもって実現することをめざす.このような人間生活と自然現象を見つめる熱工学研究の萌芽が育つことの社会的意義は大きいと考える.平成20年度は,まず,室温の表面の全半球放射率測定器の開発を行った.その結果,(壁システムを構成する)第一壁や人体・衣服の全半球放射率を正確かつ簡便に測定できるようになった.次いで,一定の温湿度に調整し準断熱・断物質の環境実験槽の密閉空間にその温湿度の壁システムを設置して,初期の定常状態を実現し,壁システムの水冷銅管に一定の温度の水を流して壁システムを始動し,次の定常状態に至るまでの非定常過程で,環境実験槽内の湿り空気の温度・湿度の変化・第一壁の表面温度・含水量の変化を測定した.その結果,本研究の要点の上記の(1)と(2)が構想どおり実現できることを実験的に示した.