著者
織田 禎二 宮本 忠臣 白石 義定 朴 昌禧
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.861-864, 1991-04-15 (Released:2009-04-28)
参考文献数
6

小児の開心術では通常,輸血が不可欠であるが,ときに親の宗教上の事情により輸血が拒否されることがある,われわれは“エホバの証人”のシンパを親にもつ1.4歳の小児の開心術で同様の経験をした.無輸血での心臓手術を希望する親を説得して,母親の血液に限り輸血の許可を得たため,Lilleheiらの“controlled cross circulation”(交差循環)をこの母子間で行い,心室中隔欠損孔パッチ閉鎖,僧帽弁再建術に成功した.この交差循環は母親の総大腿動脈よりroller pumpで脱血して患児の上行大動脈へ送血し,患児の上下大静脈より落差脱血にてreservoirに導いた血液を別のroller pumpで母親の大腿静脈へ送血して行った.交差循環時間は212分であった.術後は母子とも発熱を認めたほかはきわめて順調に経過し,術後2.2年経過した現在もきわめて経過順調である.
著者
大野木 宏 内藤 裕二 東村 泰希 宇野 賀津子 吉川 敏一
出版者
The Japanese Society for Complementary and Alternative Medicine
雑誌
日本補完代替医療学会誌 (ISSN:13487922)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.87-93, 2015-09-30 (Released:2015-12-25)
参考文献数
17
被引用文献数
3 4

フコイダンは褐藻類に含まれる硫酸化多糖である.われわれは,これまでに北海道函館近海に生育するガゴメ昆布のフコイダンに注目して,その化学構造を決定するとともに,動物試験やin vitro試験において免疫賦活作用を明らかにしてきた.本研究では,健常成人の免疫機能に対する有効性や安全性を評価した.30名の被験者に4週間,ガゴメ昆布フコイダンを含む食品(1日あたりフコイダンとして200 mg)またはプラセボ食品を摂取してもらい,全血液細胞におけるサイトカイン産生能の評価を行った.その結果,プラセボ食品摂取群においては摂取前後で多くのサイトカイン産生能の低下が認められたが,ガゴメ昆布フコイダン摂取群ではその低下が抑えられ,特にIFN-γやIL-2などのTh1型のサイトカインにおいてその作用が顕著であった.また,血液検査,尿検査においては臨床上問題となる症状は認められず,有害事象も認められなかった.以上の結果から,ガゴメ昆布由来フコイダンは健常者の免疫機能の低下予防や維持に有効な,安全な食品であることが示唆された.
著者
大島 埴生 飯田 淳子 長崎 和則
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2-1, pp.247-258, 2018

本稿は,中途障害者の生活の再編成に関する先行研究を検討したものである.先行研究は,(1)直 接的な援助を想定した援助志向の研究と,(2)当事者の生活をありのままに理解しようとする,当事 者の生活に焦点を当てた研究,(3)両者のいずれにも属さない,障害と社会の関係を問う社会モデル に基づく研究に大別された.さらに,援助志向の研究は医学モデルと生活モデルに基づく研究があっ た.医学モデルに基づく研究は中途障害者の生活の再編成を個人の問題として,生活モデルに基づく 研究は個人と環境を含めた問題として,そして社会モデルに基づく研究は社会の問題として捉えてい る.当事者の生活に焦点を当てた研究は,インペアメントに伴う体験に関する研究と個人史に着目し た研究があり,前者は短期的な生活を,後者は中長期的な人生を扱う傾向がある.これらの先行研究 の課題としては,第一に一部の中途障害の研究で社会モデルの観点がほとんど採用されていない点, 第二に研究対象者が豊富な語りをもつ人に限定されている点,第三に短期的な生活と中長期的な人生 の関係性が捉えにくい点がある.今後はこれらの課題を踏まえ,語りの聴き取りのみならず,生活の 観察も行うことにより,従来の研究の俎上に上がってこない人々の体験を,社会的状況と人生史の文 脈のなかで考察し,中途障害者の生活の再編成過程を描写していくような研究が求められる.
著者
関 周一
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.210, pp.237-259, 2018-03-30

本稿は、中世日本における外来技術の伝来に関して、それを可能にするための条件ないし背景や、伝来技術の移転についての試論である。第一に、国家や地域権力といった公権力が、技術の伝来に果たした役割を考察した。古代においては、律令国家が遣唐使を派遣して、選択的に技術を導入した。中世においては、国家が技術導入を主導することは少なかった。中国人海商が博多に結桶をもたらした事例のように、民間交流によって技術が伝来し、博多という都市の住民の需要に応じて、技術が受容された。一六世紀前半、戦国大名による職人の編成が進んだ。小田原北条氏が奈良や京都の職人を招き、豊後府内の大友館の周辺には職人が居住した。種子島時尭は、配下の刀鍛冶に鉄砲の製造を命じた。第二に、伝来した技術の移転について、鉄砲の事例から考察した。文之玄昌『鉄炮記』では、種子島から畿内への鉄砲伝来の経緯について、(1)鉄砲と火薬の製法・発射方法が、根来寺に伝わった段階、(2)鉄砲の生産技術が、堺に伝わった段階という二段階が描かれていた。「南蛮鉄砲」を将軍に献上した豊後府内の大友義鎮は、将軍足利義輝の所持品である鉄砲を模倣製造することを命じられ、鉄砲の生産を開始した。第三に、種子島に鉄砲生産の技術が伝来した背景となる海上交通や貿易について考察した。一六世紀前半、日向国〜種子島〜琉球との間には、活発な交流があった。種子島と琉球との貿易は、一五一〇年代ころから始まっていた。種子島忠時は、琉球国王尚真から、船一艘の荷物への課税を免除された。日向国では、島津忠朝(島津豊州家)が遣明船の警固や造船を行い、琉球と頻繁に交渉していた。油津にある臨江寺の玄永侍者は、琉球出身であった。遣明使鸞岡省佐は、琉球国の人が明で自分のことを聞いたという話を、日向国で聞いている。
著者
サイエンスウィンドウ編集部
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
サイエンスウィンドウ (ISSN:18817807)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-40, 2015-04-01 (Released:2018-08-24)

サイエンスウィンドウ2015春号の冊子体一式(PDF版)およびHTML版は下記のURLで閲覧できます。 https://sciencewindow.jst.go.jp/backnumbers/detail/73 目次 【特集】 感染症を防ぐために p.06 日本人は感染症とどう闘ってきたか(酒井シヅ 順天堂大学) p.10 感染症発生の世界地図 p.12 動物がもたらす病の感染経路を突き止める(喜田宏 北海道大学) p.14 アジアやアフリカの拠点で活躍(長崎大学熱帯医学研究所) p.18 国内への侵入を防ぐ ―検疫所と医療機関とが連携― 現場に聞く1 水際で防ぐ p.20 地域の健康を守る ―保健所と学校の取り組み― 現場に聞く2 地域で防ぐ p.22 リスクに備えるためのゲームもできた 現場に聞く3 子どもたちに伝える p.24 生きとし生けるものの健康はすべてつながっている(賀来満夫 東北大学大学院) 【連載】 p.02 共に生きる:キンリョウヘンとニホンミツバチ p.26 タイムワープ夢飛翔:感染症/克服につながった「ひらめき」 p.27 カタカナ語でサイエンス!:異文化がひしめく「区画」 p.28 空からジオ:阿蘇ジオパーク/熊本県 p.30 動物たちのないしょの話:プレーリードッグ(江戸川区自然動物園) p.32 自然観察法のイロハのイ:春の身近な草リサーチング p.34 文学と味わう科学写真:変幻の光の奇術 p.36 発見!くらしの中の科学:おいしく、きれいに。食品を守る塩の力 p.38 読者の広場:サイエンスウィンドウ カフェ p.40 空からジオ:解説
著者
調 恒明
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.37-42, 2016-01-15

地方衛生研究所は保健所と異なり,地域保健法そのものには規定されておらず,厚生労働省が発出した設置要綱でその役割が示されている.厚生労働省が策定する「新型インフルエンザ等対策ガイドライン」および各種の特定感染症予防指針などに地方衛生研究所の果たす役割が明確に規定されていることから,厚生労働省は地方自治体に地方衛生研究所が機能していることを前提として施策を決定していることは明らかである. 一方,地方自治体には地方衛生研究所の法的設置義務はなく,業務内容に関する法規定がないため基本的に地方衛生研究所のあり方は自治体の裁量に委ねられている.法的縛りがなく,財政を担当する行政職員にとって重要性が分かりにくい地方衛生研究所は,近年の地方分権と地方自治体の予算の困窮により,人員,予算削減のターゲットとなっており,本来備えるべき検査機能さえ維持することが危ぶまれる自治体も存在すると思われる.
著者
亀田 啓悟
出版者
関西学院大学
雑誌
Working papers series. Working paper
巻号頁・発行日
vol.38, pp.1-24, 2008-02

本稿では、わが国の民間消費に対する非ケインズ効果の存否をSolved-out型消費関数を応用したHjelm(2002)の手法で実証分析した。わが国経済を対象とする先行研究はすべてPerotti (1999)のオイラー方程式を応用した方法のみが採用されており、この点が本稿における新たな試みである。この結果(1)わが国においても財政再建時に非ケインズ効果が発生しており、構造的基礎的財政収支対GDP比の前年度変化1%、あるいは前年との累積変化1.5%の改善は民間消費を約1%改善する、(2)財政再建規模を同0.8%、1.2%にすると利用するデータによっては非ケインズ効果の発生は確認できず、非ケインズ効果を期待するならばより大規模の財政再建が必要である、(3)非ケインズ効果の発生は財政再建の構成やその時期の為替レート変化、公的債務残高とは無関係であり、規模のみが重要である、(4)財政拡大期には非ケインズ効果は確認できない、の4点が明らかとなった。
著者
MIAO Jyong-En YANG Ming-Jen
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
pp.2020-008, (Released:2019-11-16)
被引用文献数
11

On 14 June 2015, a severe afternoon thunderstorm event developed within the Taipei basin, which produced intense rainfall (with rainfall rate of 131 mm h−1) and urban-scale flooding. Cloud-resolving simulations using the Weather Research and Forecasting (WRF) model were performed to capture reasonably well the onset of sea breeze, the development and evolution of this afternoon thunderstorm system. The WRF model had four nested grids (with the finest grid size of 0.5 km) in the horizontal and 55 layers in the vertical to explicitly resolve the deep convection over complex terrain.  It is found that convection was initiated both by sea breeze at foothill and by upslope wind at mountain peak. Convective available potential energy (CAPE) was increased from 800 to 3200 J kg−1 with abundant moisture transport by the sea breeze from 08 to 12 LST, fueling large thermodynamic instability for the development of afternoon thunderstorm. Strong convergence between sea breeze and cold-air outflow triggered further development of intense convection, resulting in heavy rainfall over Taipei city.  Microphysics sensitivity experiments show that evaporative cooling played a major role in the propagation of cold-air outflow and the production of heavy rainfall within basin plain (terrain height < 100 m), while melting cooling played a minor role. The terrain-removal experiment indicates that the local topography of Mount Datun at coastal region may produce the channel effect through Danshui River Valley, intensify sea-breeze circulation and transport more moisture. This terrain-induced modification of sea breeze circulation made its dynamic and thermodynamic characteristics more favorable for convection development, resulting in stronger afternoon thunderstorm system with heavier rainfall within the Taipei City.
著者
高橋 朋子 遠藤 新
出版者
一般社団法人 日本建築学会
雑誌
日本建築学会技術報告集 (ISSN:13419463)
巻号頁・発行日
vol.25, no.60, pp.899-904, 2019-06-20 (Released:2019-06-20)
参考文献数
10

Under the ordinance on littering and non-smoking in Yokohama city, smoking is not allowed in the “No-smoking areas” designated 8 areas in the city to maintain pleasant urban environments. Even strict conditions for smokers, complaints and requests regarding butts and violation on the ordinance still have been claimed. In this case study, we analysis the complaints and requests which were received bureau of civic affairs using methods of text mining. Then we conducted interview with the department of community environment which is in charge of outdoor smoking. In the consequence, we could suggest two gaps. One is requests from residents and the city’s countermeasures for outdoor smoking, and other is recognition gaps between residents and the city. To challenge such a cross organizational issue, the collaboration of the administration and communities might be effective for coexistence among various residents.
著者
橋本 智也 白石 哲也
出版者
四天王寺大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

日本のIRは担当者の量的拡大による導入期を過ぎ、現在はIR活動の質的向上が急務となっている。IR活動が有効に機能するためには専門性を備えた人材がいるだけでは不十分であり、その専門性が各大学の文脈の中で活用される必要がある。本研究は①「大学が期待する成果」、②「必要となる専門性」、③「IR担当者が実際に持つ専門性」の相互構造に着目し、IRの専門性が大学の文脈に合致して活用されるための促進要因と阻害要因を解明する。さらに自大学がIRに期待している内容を明確化するためのルーブリックを開発する。本研究により大学側の期待とIR担当者の専門性のミスマッチを解消し、日本のIRを有効に機能させることを目指す。
著者
中原 正樹
出版者
京都産業大学
雑誌
高等教育フォーラム (ISSN:21862907)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.79-85, 2018-03-31

京都産業大学法学部(以下、「法学部」という。)では、新入生の理解度向上のため、2017 年度より新入生オリエンテーションを一方向型の情報伝達式から、事前学習やアクティブラーニング等の要素を取り込んだ新入生参加型オリエンテーションへと転換を図った。 具体的には、(ア)入学前に導入オリエンテーションを実施し、後の履修オリエンテーションにつながる事前学習を義務付けたこと、(イ)入学後に実施するオリエンテーションでスマートフォンを活用した疑似反転授業を実施したこと、(ウ)学生履修アドバイザーを活用し、新入生の理解度に応じたきめ細かな対応に取り組んだこと等である。 法学部では、これらの取り組みによって、その後の学生からの質問がオリエンテーション内容の再説明を要するものから、説明をふまえたうえでの質問へと質的に変化したことを感じることができた。 本稿では、法学部でのこれらの取り組みを、大人数を対象とした授業やガイダンスにおける学生の集中力や理解度向上のための転用可能な実践事例として報告する。

5 0 0 0 OA 秘府略

著者
[滋野貞主] [著]
巻号頁・発行日
vol.巻第864, 1000
著者
伊川 美保 楠見 孝
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.91.18238, (Released:2020-03-10)
参考文献数
38
被引用文献数
1

A Japanese version of the Self-efficacy for Statistical Literacy Scale was developed. In a preliminary study with college students (N = 110), a Japanese translation was developed based on the English version of this scale. In Study 1, the resulting Japanese version was verified in terms of validity and reliability with high school and college students (N = 275). Results from Study 1 showed that self-efficacy for statistical literacy is positively correlated with subjective numeracy and critical thinking disposition. The mathematical score positively predicted self-efficacy for statistical literacy. In Study 2, we considered the extent to which self-efficacy for statistical literacy would change between before and after statistics education among high school students (N = 167). Results from Study 2 suggested that self-efficacy for statistical literacy is enhanced by statistics education. Free-text descriptions provided by the participants revealed that they could accurately interpret numerical values and had higher interest in the study of psychology and their future career options. Potential contributions to education and study limitations are discussed.