著者
高瀬 敬一郎 重藤 寛史 鎌田 崇嗣
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

胎生18日目、胎児頭蓋に冷却プローブで傷害を加え局所皮質異形性モデルを作製した。皮質異形成モデルは両側前頭葉にそれぞれ2カ所 (group A)、両側前頭葉にそれぞれ1カ所 (group B) を作成した。出生後28日齢 (P28) に皮質と海馬に電極を設置し、P35からP77まで脳波・ビデオ同時期記録を行ったところ、group Aの68.8%から自発てんかん発作を生じ、皮質ないし海馬からてんかん発作波を認めた。組織学的には、group A に皮質異形成が認められ、さらに免疫染色ではNMDA受容体、グルタミン酸トランスポーターが上昇しており、皮質異形性でのてんかん性興奮の増大が示唆された。
著者
望月 公廣
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

海底下~10km以上深いプレート境界面上で、プレート間の固着が強い場所が、繰り返し発生する海溝型巨大地震の震源域である。なぜ固着強度が強くなるのか、その要因を解明するために、海域で人工震源を用いて行う構造調査で取得される波形記録の解析手法の開発を行った。これまでの手法では不十分であった解像度の向上に成功し、屈折波やプレート境界からの反射波に関して、到達エネルギーを明瞭に確認することができた。
著者
天海 丈久
出版者
青森県総合学校教育センター
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

日本版DN-CAS認知評価システム(DN-CAS)は,適用年齢が5歳から17歳までと幅広く,検査で測定できるプランニング,注意,同時処理,継次処理の4つの認知処理能力は,幼児児童生徒の「個別の教育支援計画」や「個別の指導計画」の立案の際に重要な情報を提供する。本検査結果の分析と解釈は,現在喫緊の課題である発達障害を有する高校生の支援も含め,特別の教育的支援を必要とする幼児児童生徒を教育する学校現場にとって,大きな示唆をもたらすものであると考える。そこで本研究では,DN-CASの分析を学校現場が実施しやすくするためのツールとして,「学校向けDN-CAS用所見作成マニュアル」を開発した。1 DN-CAS認知評価システムの実施発達障害を有する幼児児童生徒について検査を実施し,データを得た。2 認知尺度のパターン化学習障害(LD),注意欠陥多動性障害(ADHD),広汎性発達障害(ASD)について,PASSプロフィール,下位検査プロフィール,使用した方略の特徴についてパターン化を行った。なお,統計処理にあたっては,SPSS Statistics 19を使用した。プランニング,同時処理,注意,継次処理のプロフィールとして,LDは注意は高くならず,継次処理は低くならないこと,ADHDは「N字型」を示すこと,ASDは「逆N字型」を示すことが示唆された。また,下位検査のプロフィールとして,LDは「図形の推理」「関係の理解」「表出の制御」が,ADHDは「表出の制御」が,ASDは「発語の速さ/統語の理解」が相対的に低くなる傾向が示唆された。3「学校向けDN-CAS用所見作成マニュアル」の開発日本特殊教育学会第48回大会(長崎大学),日本LD学会第19回大会(愛知県立大学)でポスター発表を行うと同時に,情報収集を行った。また,第39回発達神経心理学研究懇話会(DN-CAS事例検討会)においても情報収集を行い,得られた知見を総合して,Microsot Excelにより「学校向けDN-CAS用所見作成マニュアル」を開発した。開発にあたっては,試作版を青森県総合学校教育センター特別支援教育課,日本版DN-CAS作成者で評価した。公開については,現在関係者間で検討中である。
著者
村路 雅彦
出版者
独立行政法人農業生物資源研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

細胞小器官であるミトコンドリアのDNA(mtDNA)の塩基配列は、生物の進化や野外での集団動態を調べるための有効な分子マーカーであるが、核内の類似の塩基配列との識別が困難であるため、しばしば研究結果を誤る場合がある。本研究では多様な昆虫よりこの様なニセのmtDNAを単離し、その塩基配列と進化特性等を調べることにより、mtDNAを用いた解析の信頼性を高めるための技術開発を試みた。またそれを多様な昆虫に適用し有効性を調べた。
著者
大森 裕浩 古澄 英男 日引 聡 渡部 敏明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009-04-01

「金融リスクの評価」と「経済行動」のベイズ計量経済分析を行った.「金融リスクの評価」の分析では(1)1変量確率的ボラティリティ変動モデルの拡張,(2)実現ボラティリティと確率的ボラティリティ変動モデルとの同時モデリング,(3)多変量確率的ボラティリティ変動モデル,(4)最大値・分位点の時系列モデル,(5)実現ボラティリティ等を用いた計量ファイナン分析について研究を行った.「経済行動」の分析では,(1)ゲーム理論に基づく計量経済モデル分析,(2)選択行動の計量分析,(3)水道需要関数の計量分析・政策分析,(4)マクロ計量経済分析,(5)分位点回帰モデル,(6)環境経済の計量分析を行った.
著者
山本 浩司 浜崎 桂子 福岡 麻子 RUPRECHTER Walter 山口 庸子 馬場 浩平 羽根 礼華 古矢 晋一 クリスティーネ イヴァノヴィッチ
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

「翻訳」による「文化変容」論を批判的に検討するなかで、オリジナルとコピーという形での序列化を免れた「同時性」(Simultaneitat)という現象に着目した。学際的な文化研究の成果を踏まえた多角的な視点に立ちつつ、メディア間については、主に絵画・映像表現と言語芸術の相互作用の分析、言語文化間については、特に日独文化交流の通時的共時的分析を通じて、「翻訳」を理解する上で「同時性」概念が有効であることが明らかになった。
著者
村上 健一郎 菅原 俊治
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

平成18年度は、主にIPv4++方式を実現するための多方面からの機能検証を行い、平成19年度は、実装上の問題点の明確化と設計へのフィードバック、そして実装を進めた。(1)レルムという概念を導入し、これで再帰的にネットワークが構成されるというパラダイムでIPv4++ネットワークが明確に説明できることを明らかにした。これを情報処理学会OS研究会にて発表した。(2)ミッションクリティカルな利用に対応するため、バックアップ機能の追加を行った。この切り替え時間を二桁程度向上させるための経路制御アルゴリズムTPV(Temporal Path Vector)について論文をソフトウェア科学会第8回インターネットテクノロジー研究会にて発表した。また、経路制御管理を容易にするための方式について、研究分担者が論文を発表した。(3)英文論文ドラフトを執筆し、研究協力者であるコーネル大学のポール・フランシス教授と議論を行った。論文が複雑になりすぎた事を指摘され、装置中心に書き直すとともに、実験結果を入れることとした。また、米国BBN研究所のクレイグ・パートリッジ博士と議論を行い、標準化トラックに載せるよりも、事実上の標準にすることを急ぐようアドバイスを受け、設計と実装を加速することとした。(4)機能設計および詳細設計の検討中に、VPN(Virtual Private Network)のパスを通すことができないことがわかり、VPNでは固定的に割り当てることで、本問題を回避することとした。(5)Linux上で本方式の実装を進めたが、進捗率は全体の70%程度となった。現在、実装を加速させている。
著者
高岡 昌輝
出版者
京都大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本研究はバグフィルターにおける微量有害物質を同時除去することを目的に、金属担持活性炭での窒素酸化物除去実験を行った。対象とした窒素酸化物はごみ焼却排ガスでは90%以上を占める一酸化窒素とし、濃度は150〜200ppm程度のものを用いた。実験条件は実機のバグフィルターの条件に合わせて、温度は100℃〜200℃、ろ過風速1m/min、層厚5mmを基本とし、粉粒体および雰囲気ガスの条件を変化させた。今回供試した粉粒体は活性炭および金属を担持させた活性炭を用いた。選択した金属は文献調査等から銅およびカリウム、カルシウムとした。担持されている金属の形態も窒素除去に影響があることが考えられたので、900℃、ヘリウム気流中で焼成したものとしなかったものの両方について行った。雰囲気は窒素雰囲気をベースにアンモニアおよび酸素を混合した。アンモニアの混合比はモル比でNO:NH3=1:1で酸素は5%とした。以下に得られた知見をまとめた。(1)窒素雰囲気下では、活性炭のみによる除去効果は小さく、酸素を混合すると大きく除去率は向上した。これは活性炭中の微量なカリウムが触媒効果を示したものと考えられた。アンモニアの注入効果はみられなかった。(2)カリウムを担持させた活性炭では焼成することによりNO除去効果が現れた。温度の上昇とともに、また担持量の増加とともに除去率は高くなった。酸素を混合した場合、200℃で73%の除去率を示した。この除去機構は一酸化窒素のカリウムおよび酸化カリウム上への解離吸着によるものと考えられた。(3)銅を担持させた活性炭では、アンモニアを混合すると温度の上昇とともに大きく除去率は向上した。このことからアンモニアによる水素脱離反応が生じたと考えられた。(4)塩化カルシウムを混合した場合、温度を低下させ酸素を混合すると除去率が向上したことから、主たる反応は一酸化窒素の酸化による除去であると推測された。
著者
長崎 暢子 篠田 隆 田辺 明生 石井 一也 油井 大三郎 酒井 啓子 清水 耕介 井坂 理穂
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、近年再評価されつつあるガーンディーに関する文献購読、史資料調査、および現地調査(インドのアフメダーバード、ワルダー、イギリスの大英博物館、南アフリカのダーバンなど)を行い、ガーンディーの歴史的役割の重要な一端(非暴力的な紛争解決)の詳細とその影響を明らかにすることが出来た。具体的には、彼は、当時の南アフリカに存在した紛争(人種差別)を非暴力的に解決する「方法としての非暴力」をこの時代に編み出し、それによって有色人種(インド人 & 中国人)に対する白人の人種差別の一角を崩すことに成功したのである。のみならず、この方法は、北欧、中東(イラン)の紛争解決、米国の人種差別反対運動にも影響を与えた。
著者
市原 恭代
出版者
宝仙学園短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

いわゆるジャパニメーションと呼ばれる日本のアニメーションには、世界でも類をみない特色がある。極めて平面的でありながら、なおかつヒトの色覚を巧妙に生かした色彩の用いられ方である。かつて浮世絵が印象派の画家たちを驚かせたように、日本のアニメーションは今尚、欧米の視知覚様式とは異なったものを持ち、世界的な美術市場へ影響を与えている。日本の浮世絵,絵巻,漫画,アニメーション等に共通する視知覚様式の独特の点として・消失点が極端に高い点にある,あるいは消失点がいくつか別に画面中の存在する極端な遠近法・中景の厚みに相当する陰影の喪失した色面構成・記号化された顔面の諸器官の形による感情伝達,正面からにらみつけた眼,突き出された手の平を極端に大きく描くなどの正面性の高い表現方法・降り注ぐ雨や雪、爆発,閃光,風に翻る服のような動きを紋様化あるいはパターン化して形つくっていく表現があげられる。平成18年度に行った研究では、アニメーションの色彩設計がどのようにあるべきかについて問題提起し、定義した。一人のキャラクターに2種類の色を割り振ると見る側のキャラクターの同定が崩れてしまう。色の恒常性と形の恒常性を動画の中でどのように保つかが重要になる。ここでは、平成18年夏に公開された「時をかける少女」(細田守監督貞本義行キャラクターデザイン)作品を取り上げてその特徴を述べた。1.影の表現がないこと2.必要最低限の線でなされ、キャラクターを特徴づける特異な髪型や装身具などがなされてないこと。3.特異な色設定によって特徴づけられていないこと。静止した状態では目立つとはいえないたいへん地味なキャラクターである。しかし、いったん動画になると鞄をかける位置、ブラウスの袖の揺れなどが特徴的に表現され、キャラクターが動画によって同定するという全く新しい技法が生み出されている。
著者
大橋 完太郎
出版者
神戸女学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、十八世紀フランスの博物学者ビュフォンの思想における理論的核を抽出することを目的としている。本助成を受けた研究を通じて、ビュフォンの『博物誌』における生物発生の理論と、修辞家としてのビュフォンの名を確かにした著作『文体論』とのあいだに理論的同形性が存在していることが判明した。生物の発生と人間の思考の両者に共通するこの発生論的アナロジーが、ビュフォンの思想のオリジナルな点であり、それによって生物学と文学とを架橋することが可能になっていることが明らかとなった。
著者
小野 哲也 池畑 広伸
出版者
東北大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

環境中の変異原物質が少量づつ長期間にわたって働いた時のリスクが大量で1回作用した時に比べどのように変わるかを理解するために、マウスの肝臓と皮膚、睾丸のDNAへの突然変異誘発効果を指標として調べた。使用したマウスは大腸菌のlacZを含んだラムダゲノムDNAを導入されたMutaマウスを用い、変異原としてはX線と紫外線(UVB)を用いた。4GyのX線を1回照射してから16週後の突然変異頻度は肝で(12.76±2.12)×10^<-5>、睾丸で(13.26±3.22)×10^<-5>であった。同じエイジの非照射マウスの自然突然変異はそれぞれ(7.63±1.41)×10^<-5>、(7.14±1.07)×10^<-5>であったので誘発された分は5.13×10^<-5>、6.12×10^<-5>と計算された。一方、1回0.15GyのX線を週3回づつ、6ヵ月間(総計11.7Gy)照射後16週目でみた突然変異頻度は肝と睾丸でそれぞれ(17.36±5.01)×10^<-5>、(17.18±3.66)×10^<-5>であり、同じエイジでの自然突然変異頻度は(10.73±1.39)×10^<-5>、(9.06±1.04)×10^<-5>、で、誘発された量は6.63×10^<-5>、8.12×10^<-5>であった。これらの値から1Gy当たりに誘発された量を比較してみると少線量多数回照射では1回照射の時に比べ肝でも睾丸でも約45%に減少している。これは変異原に曝される時に少量づつを繰り返して行われた時のリスクは1回で曝露された時のリスクに比べ半減することを示唆している。しかもその量は肝でも生殖細胞でも変わらない。生殖細胞での値は以前にRusselらが数百万匹のマウスを使って得られた値である1/3にほぼ類似した値である。次に皮膚組織での影響を知るべく紫外線による突然変異誘発効果を調べた。0.5kj/m^2までのUVBは皮膚の紅斑を起こさず、しかも突然変異を誘発することを確認した。この線量を1日1回づつ4日連続して照射した所約250×10^<-5>の突然変異頻度が得られた。これは0.5kJ/m^2を1回照射した時の1J/m^2当たりの変異誘発率に比べると約70%であり、紫外線による突然変異誘発についても、分割された曝露は1回曝露でのリスクより少なくなることが示唆された。ただし、ここで行った実験は予備的なものであり、線量や曝露間隔などについてさらに検討する必要がある。
著者
櫻井 悟史
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

研究実施計画[A]にある、単著『死刑執行人の日本史-歴史社会学からの接近』についてのアウトリーチ活動の成果として、青弓社HPの『原稿の余白に』コーナーに、「殺人と<殺人>-『死刑執行人の日本史-歴史社会学からの接近』を書いて」と題したエッセイを書いたこと、立命館大学グローバルCOEプログラム「生存学」創成拠点HPの『研究の現場』コーナーに「死刑執行を思考する」と題したエッセイを日本語と英語で書いたことが挙げられる。研究実施計画[B]に挙げた、立命館大学大学院先端総合学術研究科公募研究会「歴史社会学研究会」の成果として、『歴史から現在への学際的アプローチ』を刊行し、その中で、「死刑執行方法の変遷と物理的/感情的距離の関係」と題する論文を書いた。ここでは、受刑者の物理的苦痛を減らすことで、執行する側の精神的苦痛をも軽減しようとしてきたアメリカ合衆国や中国にみられるような「文明化」とは違い、日本ではもっぱら執行する側の精神的苦痛の軽減だけを模索することで死刑執行方法が変遷してきたため、その変遷を「文明化」という枠組みだけでとらえることはできないことを、実際の日本の死刑執行方法の細かな変遷を歴史的に追うことで明らかにした。また、そこから現在の日本では、殺人から物理的にも感情的にも距離をとることで、殺人に対する抵抗感が極端に低いなか死刑執行がなされている可能性があり、このことを批判的にとらえるためにも、森巣博の死刑廃止論を再評価する必要があることも示した。研究実施計画[C]にある聴覚障害者支援についての研究成果としては、『聴覚障害者情報保障論-コミュニケーションを巡る技術・制度・思想の課題』を刊行したことが挙げられる。以上の計画とは別に、生活書院が発行する雑誌『生存学』にカフカの『流刑地にて』の読解を通じて、現行の死刑廃止論を批判する論考「殺人機械の誘惑」を執筆した。
著者
鈴木 款 ベアトリス カサレト 藤村 弘行
出版者
静岡大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008

複合ストレス下における生物素過程と化学の素過程に関する研究において、サンゴの白化は水温の高水温下でサンゴ内部の褐虫藻の光合成活性能の低下と、サンゴの消化による細胞の縮小あるいは退色、バクテリアによる加速により起こることを初めて明らかにした。サンゴ礁の基礎生産量の再評価により従来の報告より2~3 倍高いこと、サンゴ内部の研究により、サンゴは褐虫藻・バクテリアの複合半閉鎖システムにより生命が維持されていることを明らかにした。
著者
中本 大 黒木 祥子 二本松 泰子 山本 一
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

4年間の研究期間において約850点の鷹書類のマイクロフィルムや画像データを蒐集し、それらの翻刻・注釈作業を通して各テキストが持つ意義や価値について明らかにした。また、これらの鷹書類をデータベース化して、各書の特性が一覧できるように整理・分類するための基礎作業も一通り達成した。その作業の過程において奥書などの書誌データを基に、それぞれの鷹書類の成立過程や流布・伝来の状況についても一定の解明ができた。
著者
笠井 俊和
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は、数量的な貿易研究と船乗りの社会史研究を融合することで、近世の大西洋上に展開したヒトとモノのネットワークの実像を明らかにすることを目的としている。年度の前半には、若尾祐司・和田光弘編『歴史の場-史跡・記念碑・記憶-』(ミネルヴァ書房)が刊行され、ジャマイカの港町ポートロイヤルを俎上に乗せた拙稿「海賊の息づく港町ポートロイヤル」が所収されている。同稿では、海賊を議論の軸に据えながら、本研究のテーマである貿易と密貿易、町を訪れる船乗りについて、一時史料をもとに詳述している。また、研究の基盤となる作業は、前年度に引き続き、イギリス領アメリカ植民地の主要港を出入りした船舶のリスト(海事局船舶簿)のデータベース化であり、ボストンとジャマイカのデータを18世紀半ばまで拡大した。そのうえで、航海日誌や書簡、海事裁判記録など、米国で入手した史料をデータベースとのクロスチェックで補完することにより、ジャマイカからスペイン領へと向かう密貿易の具体的な方法、関与した船舶の移動経路や船員数などを考察した。この研究の成果は、22年7月に近代社会史研究会(於京都大学)で報告し、12月にはEarly American Studies at Komaba in Winter, 2010(於東京大学)にて、英語による報告の機会を得た。なお、研究遂行のために、同年10月から11月にかけて、米国とカナダを訪れて史料収集をおこなった。その際、ピッツバーグ大学では、船乗りの社会史研究の泰斗として知られるマーカス・レディカー特別教授と面会し、研究へのアドヴァイスを受けた。
著者
福井 千春
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

フランス語の最古の武勲詩『ローランの歌』は悲劇の舞台となったスペインにも伝わるが、この地では逆にローランを屠るベルナルドの伝説が形成されていく。この人物は中世を通じて親しまれ、肥大化し、とうとう国民的英雄にまでなって『ドン・キホーテ』になだれこむ。カロリング朝の伝説とアーサー王伝説が結合して、近代文学で新たな意味をおびる様を論じた。
著者
北村 英哉 佐藤 重隆 小林 麻衣
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

人は意識的に気をつけて行動する場合と、意識しないで自動的に行動を行う場合がある。これを2つのモードとすれば、そのときの感情状態によって、いずれのモードをとるかの選択に影響が現れる。さらに、本研究では、現在の感情に加え、将来感じられると予期される感情予期の影響を取り上げ、現在の感情と未来の感情の双方がモード選択に影響することを示した。これらを社会的に重要な3つの場面-感情制御、偏見、学習の自己制御-において検討し、特に自己制御では将来の感情予期の影響が大きいことを見出した。
著者
澤田 眞治
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.非米州地域と国連に関するブラジル外交の考察ブラジルは、軍政下の1970年代ですら米国の意向に反してアンゴラ左派政権の独立を承認するなど、戦後60年間、文民政権であるか軍事政権であるかを問わず、プラグマティックな外交を独自に進めてきた。こうした実利外交は、開発/工業化という国家目標に基づくものであり、途上国のリーダーを自認しながら、先進国主導の世界秩序形成に自国の参加を求める両面的なものである。ルーラ政権は、反米左派政権の国々とは同調せずに、成長著しいブラジルの経済力を他の途上国で展開することも企図しており、脱イデオロギー的な姿勢を維持している。世界秩序への関心は、ハイチ等PKOへの積極参加など国連安保理改革に顕著であるが、戦間期に国際連盟の常任理事国入りを要求しながらも実現せずに、国際連盟を早期に脱退した史実もある。途上国のリーダーの座を維持しながら、豊富な資源と巨大な市場を梃子に、欧州など先進国との戦略的提携関係を構築することが世界秩序形成に参加する条件となろう。2.ブラジル外交と地政戦略の連関に関する考察20世紀のブラジルでは地政学的な戦略思考が外交と内政に影響を及ぼしてきた。内陸の人工都市ブラジリア遷都や「未来の大国」の標語は地政学思考と開発主義の理念の結合であった。旧来の自然地理学的な地政学は衰退したが、近年の地域主義の台頭や文明・文化論への関心の高まりから、地政戦略/地政文化的な視点は、ブラジル外交の特質を考えるうえでー助となろう。つまり、多国間主義を通してブラジルを軸に南米地域の結束が強化されることは、多極化する世界秩序における南米の地域大国ブラジルの地位を向上させるという考え方が、政権の左右を問わず、継続的に存在するのである。[付記]平成20年度の本研究計画は、研究代表者の退職によって中断されることになった。