著者
浅尾 直樹
出版者
東北大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010

報告者は、前年度にナノポーラス金の作成法を検討し、有機シラン化合物の酸化反応においてこの金属材料が優れた触媒として機能することを明らかにした。そこで今年度は、本申請研究の目的であるフロー合成に本金属材料触媒を適用するべく検討を行った。まずフロー合成に適する反応としてアルコールの酸素酸化反応に注目し、この反応における本金属材料の触媒活性を調べた。その結果、酸素風船による酸素雰囲気下メタノール溶媒を用いると、様々な2級アルコールが温和な条件下で酸化され、対応するケトン体が高収率で得られることを見出した。他の金の固体触媒としては、金微粒子による酸素酸化反応が既に広く研究されているが、一般に過剰量の塩基を添加する必要がある。これに対し本触媒反応は、そのような添加剤を何も加えなくても反応が進行するため、操作が極めて容易である。またこのことから、ナノポーラス金によるアルコール酸化は、金微粒子触媒の場合と異なる反応機構を経由していることがわかる。続いて本反応をフロー合成に適用した。まず内径2mm、長さ15cmのステンレス鋼製のチューブに粉末状のナノポーラス金を詰めて触媒カラムを作成した。二本のシリンジにそれぞれアルコール溶液と酸素ガスを詰めて、マイクロリアクターで混合した後、触媒カラムを通過するようにフローシステムを作成した。その結果、シリンジポンプを用いてアルコールと酸素を押し出し、触媒カラムから出てきた生成物を解析したところ、収率よく生成物が得られることを見出し、しかもフラスコを用いたバッチシステムよりも、反応時間を大幅に短縮することができた。以上の結果は、ナノポーラス金触媒を用いたアルコールの酸素酸化が、気相-液相-固相の三相系によるフロー合成に適していることを示しており、本申請研究の目的を達成することができた。
著者
大石 和欣
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.107-118, 2008

1780年代から社交界のお騒がせなセレブとして注目を浴びたロビンソンだが、感性と詩才に恵まれた詩人であり、小説家としても活躍していた。彼女が最晩年に書いた「亡霊たちの浜辺」は、そうした彼女の詩的資質をもっとも典型的に示していると同時に、女性として、また詩人として彼女が置かれた不安定な環境を多分に反映したものである。シャーロット・スミスが顕著に示した女性的な感受性言語の残響を内にとどめながら、コウルリッジの「老水夫行」から題材や主題を借用している点で非独創的だが、斬新な韻律によって女性としての不安と孤独を吐露している点で独創性を確保している。詩の不均質な言語と不統一な語りの声は、詩のテクスト内の分裂を生んでいる。さらに、そこには、実生活や経済、ジェンダーのすべてにわたって不安定に動揺し続けるロビンソンの苦悩が潜んでいるだけではなく、18世紀末の社会において女性一人の力で生きようとした女性たちが直面したジレンマと実存的な不安が映し出されている。中途半端な言語と語りは、同時代の詩人との間テクスト的交渉の上に成り立った、分裂し、動揺し続ける女性のアイデンティティの姿なのである。
著者
攝待 尚子 嶋 孝弘 長島 康雄
出版者
仙台市科学館
雑誌
仙台市科学館研究報告 (ISSN:13450859)
巻号頁・発行日
no.21, pp.37-43, 2012-03-31

台原森林公園の散策路でロードサイドセンサス法により鳥類分布調査を行った。結果,仙台近郊でみられる 29科51種のべ1333個体の鳥類が出現した。森林公園内を植生景観で区分し,分布の季節動態を調べると,冬期にかけて日当たりのよい落葉広葉樹への移動がみられた。台原森林公園は渡りの中継地として,数多くの留鳥の生息地として住宅地の中に残された緑地であり,広域では生態的回廊(ビオコリドー)の一部として重要な自然環境であると考えられる。
著者
野原 精一
出版者
北海道大学低温科学研究所 = Institute of Low Temperature Science, Hokkaido University
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.70, pp.9-20, 2012

尾瀬地域は檜枝岐村, 片品村, 魚沼市の3市町村に位置し, 標高2,000m 級の山々に囲まれた盆地状をなしている. 尾瀬ヶ原は本州最大の泥炭地・高層湿原である. 尾瀬沼は自然湖沼である. 尾瀬地域の地形, 地質, 尾瀬山ノ鼻地区の気象, 尾瀬地域の気象, 尾瀬の水文・水質, 尾瀬地域の植物相, 尾瀬地域の外来種, 尾瀬沼の水生植物, 尾瀬の動物相等についての自然環境の概要をまとめた.Oze region located in Hinoemata Village, Katashina Village and Uonuma City and the amphitheater surrounded by high mountains of 2,000m. Ozegahara mire is the largest high moor and peatland in the mainland of Japan. Oze Lake is a natural lake in those area. This report is given a broad overview of natural environment such as the landscape and geological formation of Oze region, meteorological phenomenon of Yamanohana and Oze region,the hydrology and water quality,flora and fauna of Oze region from the existing literature.
著者
櫻井敏雄
出版者
参議院
雑誌
立法と調査
巻号頁・発行日
no.275, 2008-01-18
著者
佐藤 大樹
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第55回大会
巻号頁・発行日
pp.38, 2011 (Released:2012-02-23)

2011年4月から5月にかけて筑波山中腹の3箇所の沢でフタバコカゲロウ(Baetiella japonica)を採集した.このカゲロウは大きめの石や岩盤の表面にしがみついており,左手で水をよけ,現れた幼虫を鋭利なピンセットでつまみとり氷冷して研究室に持ち帰った.採集された複数の個体において,肛門から伸び出た菌糸が観察された.5月23日に採集された個体では,21頭中4頭が肛門から菌糸を伸ばしていた.菌体の基部は半球形に寄主の後腸クチクラに食い込んでおり,周囲は褐色を呈していた.菌体は主軸があり,肛門から伸び出した後に隔壁部分から一箇所あたり2-3本に分枝し,これを繰り返した.菌糸先端付近は,6-14μm間隔で隔壁に区切られた胞子形成細胞を形成し,続いて斜めにトリコスポア(trichospore:離脱生の胞子嚢)を形成した.トリコスポアは細長い円筒形でカラーはなく,長さ50-62.4μm幅4.0-4.6μmであった.同様の菌体基部,分枝様式を持った菌体において,菌糸の先端部分が癒合し,中間に紡錘形の接合子の形成が認められた(高さ8.0-9.4μm幅38.0-42.0μm).水生昆虫の肛門から菌体が伸び出すトリコミケテス類は,レゲリオミケス科(Legeriomycetaceae) のOrphella, Pteromaktron, Zygopolarisの3属である.Orphella属とは,トリコスポアの形態が異なり,Pteromaktronとは分枝のタイプが異なる.Zygoporarisとは,トリコスポア形成様式が似ているが,接合子の形態が異なる.従って,本属を新属と判断した.トリコミケテス類は観察に適した良い状態の標本を採集することが困難である場合が多いが,今回は,胞子形成が始まったばかりの菌体をスライドガラス上に1滴の沢の水とともに5℃で追培養を行い,トリコスポアの形成過程を約10日間連続観察できた.レゲリオミケス科のように分枝する菌体を持つトリコミケテス類は,分離培養までは達成できなくても,追培養による形態形成観察は有用な手段であると考えられた.
著者
川島 秀一 YONGQIN Liu LIU Yongqin
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

消散構造を有する非線形偏微分方程式に対し、その線形化方程式の基本解に基づく安定性解析と、様々な非線形波の漸近安定性に関する組織的な研究の展開を目指して研究を進め、次のような成果を得た。1.記憶型の消散効果を考慮した板の振動方程式の初期値問題を考察した。その消散構造が可微分性損失型であることを確認し、Fourier空間での各点評価を示すことで線形解の減衰評価を示した。また、Fourier-Laplace変換により基本解を構成するとともに、対応する解作用素の減衰評価を利用することで、半線形問題の時間大域解の存在とその最良の減衰評価を示した。可微分性損失型の消散構造の解明に寄与する成果である。2.記憶型の消散効果を考慮した線形Timoshenko系の初期値問題を考察した。その消散構造は、系の持つパラメータの値により標準型にも可微分性損失型にもなり得ること、いずれの場合も摩擦型消散効果を取り入れた場合に比べて消散構造がより脆弱であることを示した。また、Fourier空間でのエネルギー法を適用することで、解のFourier空間での各点評価を示すとともに、対応する最良の減衰評価を示した。さらに、Fourier-Laplace変換により基本解を構成し、付随する解作用素の減衰評価を与えた。記憶型と摩擦型の消散効果の違いを明らかにした点に意義がある研究成果である。
著者
松久保 隆 大川 由一 田崎 雅和 高江洲 義矩 山本 秀樹 坂田 三弥
出版者
東京歯科大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

本研究は、食品の咀嚼性の評価方法や個人の咀嚼性を解析するための指標食品を得ることを目的としている。今期の課題は、平成2年度に得られた結果をふまえて食品咀嚼中の下顎運動解析によって得られる運動速度の各咀嚼サイクルが、食品の咀嚼中の状態変化をとらえることが可能かどうか、各咀嚼サイクルの出現頻度と被験者の咀嚼指数および歯牙接触面積とにどのような関係があるかを検討することを研究目的とした。顎関節に異常がない成人6名を被験者とした。被験食品は、蒲鉾、フランスパン、スルメ、もち、ガムミ-キャンディ-、キャラメル、ニンジンおよびガムベ-スとした。被験食品は一口大とした。下顎運動はサホン・ビジトレナ-MODEL3を用い、前頭面における下顎切歯点の軌跡を記録し、下顎運動速度の各咀嚼サイクルの開口から閉口までを1単位として分解し、パタ-ン分類を行なった。被験者の中心咬合位での歯牙接触面積ならびに石原の咀嚼指数の測定を行なった。下顎運動速度の各咀嚼サイクルは、被験食品で6種のパタ-ンに分類できた。すなわち、Uはキャラメル摂取の最初に認められるパタ-ンでとくに開・閉口時に食品の影響を著しく受けるもの、Vは開・閉口時に速度が遅くなるパタ-ン、Wは閉口時に速度が遅くなるパタ-ン、Yは開口時に速度が遅くなるパタ-ン、Xは人参の摂取初期に認められるパタ-ン、Zは開・閉口時ともに速度に影響がみられないパタ-ンであった。各パタ-ンの出現頻度と咀嚼指数および接触面積との関係を解析した結果、咀嚼性が高いと考えられる人は、硬い食品で、食品の影響をほとんど受けないパタ-ンZおよび閉口時に影響をうけるパタ-ンWが多く、閉口および閉口時に影響を受けているパタ-ンVが少ないと考えられた。このパタ-ン解析は、咀嚼中の食品の物性変化を表わすものとして重要な情報と考えられ、個人の咀嚼能力を示す指標食品の選択にも重要な歯科保健情報の一つと考えられた。
著者
武藤 貞嗣 森田 繁 舟場 久芳
出版者
核融合科学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

X線スペクトルイメージ測定用試作器を製作して較正実験を行なった。本測定法は、光源の輝度が大きいほどエネルギー分解能と時間分解能が両立して向上する。よって、高エネルギー加速器研究機構・放射光科学研究施設・ビームライン14Cに於いて放射光を用いた実験を行なった。二結晶分光器から射出される幅0.3 mmの二次光を単色光として直径1 mmのタングステンピンホールに通し、ダイナミックレンジが16 bitのX線CCDカメラを用いて画像測定を行なった。その結果、試作器の動作が設計通りであることを確認できた。また、スペクトルを求めるために必要な数値を得ることができた。
著者
片岡 龍峰 佐藤 達彦 塩田 大幸 保田 浩志
出版者
国立極地研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

太陽の爆発現象から地球に向かって放出される太陽高エネルギー粒子(SEP)の影響は、最大規模のもので航空機パイロットの1年間の被ばく線量基準に達するおそれがあるため、宇宙天気予報でも最重要課題として知られている。最高エネルギーSEPによる航空機被ばく線量を物理的に、かつ定量的に予測することを目的とし、3段階モデルを用いて、過去に発生した最高エネルギーSEPイベントについて、地上の中性子モニター観測値を用いた定量的な検証を重ねることで、最高エネルギーSEPの宇宙天気予報システムWASAVIES (WArning System for AVIation Exposure to SEP) を開発した。
著者
黄瀬 浩一 岩村 雅一 大町 真一郎 内田 誠一
出版者
大阪府立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

人間が外界とやりとりをする重要な情報の多くは,読む・書くという行為による.本研究では,このうち書く行為に焦点をあて,そのすべてをライティング・ライフ・ログとして記録することに挑戦する.記録は単なる画像データとしてではなく,どの文書のどの位置に何を書いているのかを認識する処理による.これにより,書く行為を元にした様々な処理,例えば,学習支援やユーザの興味推定が可能となる.この挑戦を可能とするため,本研究では,ペンに取り付けたカメラから得た時系列画像を用いて筆跡を復元する処理,それを文書の正しい位置に配置する処理の2つを考案,改善した.その結果,高い精度で筆跡が復元可能であることがわかった.
著者
田島 康弘
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.1-15, 2005-03-25
被引用文献数
1

日本で初めてワーキングホリデー制度を導入した宮崎県西米良村や,その後この制度を導入した九州中央山地の熊本県多良木町で,この制度の導入経過や問題点,地域振興との関わり等について検討した。その結果,1)ワーキングホリデーは,旅行者にとっては本当の観光に近いものであること,2)農家等の受入者の状況こそが,この制度の中心的なポイントであること,3)地域振興につなげるためには,就業機会=仕事の創出との関連が意識的に追究されるべきであること,などのことがわかった。
著者
柿ケ野 浩明 三浦 友史 伊瀬 敏史 打田 良平
出版者
The Institute of Electrical Engineers of Japan
雑誌
電気学会論文誌. D, 産業応用部門誌 = The transactions of the Institute of Electrical Engineers of Japan. D, A publication of Industry Applications Society (ISSN:09136339)
巻号頁・発行日
vol.127, no.8, pp.890-897, 2007-08-01
被引用文献数
20 28

"DC Micro-grid" is a novel power system using dc distribution in order to provide super high quality electric power. The power is distributed through dc distribution line and converted to required ac or dc voltages by converters placed near loads. The load side converters do not need transformers by choosing proper distributed dc voltage (±170V). The dc distribution line is composed of 3 power lines: +170V line, neutral line and -170V line. The voltages of ±170V have to be balanced to supply high quality power. In this paper, a voltage balancing control method for dc distribution is proposed and studied. Computer simulation results demonstrated that dc micro-grid was able to supply both ac and dc power to loads simultaneously and stably by 3-wire dc distribution and load side converters.
著者
北村邦夫
雑誌
治療学
巻号頁・発行日
vol.31, pp.869-872, 1997
被引用文献数
2