著者
田村 景明 得永 嘉昭
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. US, 超音波
巻号頁・発行日
vol.95, no.478, pp.61-68, 1996-01-25
参考文献数
9
被引用文献数
4

本報告では私達が開発した同時多周波数計測法による黒鉛に人工的に付けられた円柱形の内部傷の光音響信号の3次元画像化について検討をしている. 得られた3次元画像は試料表面から内部傷までの距離と内部傷の形状をよく反映していることを示す. またPA信号の振幅よりもむしろ位相の方が3次元画像化には有効であることを実験的に明らかにした. 不計測法を使うことで内部傷の3次元画像化に要する計測時間はLock-in増幅器を使う従来の計測法に比べて約1/5ですむ利点があることを述べる.
著者
西田 修身 向原 誠也
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
日本機械学會論文集. B編 (ISSN:03875016)
巻号頁・発行日
vol.49, no.441, pp.1068-1077, 1983-05-25
被引用文献数
6

燃焼によって発生するすす(固体の微粒子)は大気汚染の大きな原因で,その低減が緊急課題である.そこですすの生成・分解および排出状況を把握することは重要である.本報ではプロパン・空気系の軸対称層流拡散火災について,レーザ光散乱・透過法を用いて,すす粒子径,数密度および体積濃度分布を測定し,同時にすす重量濃度,ガス温度および各種組成濃度をも測定した結果と対応させて,種々検討をした.
著者
鈴木 孝昌
出版者
日本環境変異原学会
雑誌
環境変異原研究 (ISSN:09100865)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.179-184, 2002-11-13
参考文献数
10
被引用文献数
3

この原稿は,今年の7月に淡路島で開かれたMMS研究会第31回定例会での特別講演をもとに作成したものです.これまで,10年以上にわたり国立医薬品食品衛生研究所変異遺伝部において,環境変異原研究に携わってきましたが,この4月に部を移動になり,環境変異原研究とは今後少し距離を置かざるを得なくなりました.この機会に自分としても一歩離れた立場からこれまで歩んできた道を振り返り,少し大胆に提言をさせていただきたいと考え,「環境変異原研究の光と陰」というタイトルで講演をさせていただきました.講演後の反響もあり,内容に関する問い合わせもいただいたことから,今回環境変異原研究の原稿として,まとめ直させていただきました.これがきっかけとなり,環境変異原研究の方向性に関する議論が盛り上がることを期待します.
著者
佐藤 衆介 岡本 直木
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌 (ISSN:13421131)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.43-52, 1996-10-11
参考文献数
9
被引用文献数
4

日本人の動物福祉に関する基本的な考え方を把握するため、アンケート調査を595名に対して行った。回答者は様々な地域の男女半数ずつで、すべての年齢層をカバーし、学生、主婦を始め多岐にわたる職種からなっていた。家畜実験動物、およびペットについてそれぞれ、殺すこと、急性的に虐待すること、慢性的に虐待すること、および肉体を切断することに対する許容性を尋ねた。各質問に対する拒否・許容反応を評価すると共に、許容性の高い順に5〜1点の評点化を行い、主成分分析および最小2乗分散分析に供した。食肉および医療のための屠殺・急性ストレスには特に寛容的であった。そして遊びとしての虐待や身勝手な理由による虐待には特に非寛容的であった。行為の許容性に対する第1、第2、第3主成分はそれぞれ、「動物一般に対する哀れみの情」、「遊びとしての虐待への許容性」、「弱い経済的理由や人間のある程度のエゴによる虐待への反発性」と解釈された。評点には回答者の性と年齢、質問の対象動物種、行為の種類、理由の有無の効果が有意であった。女性に較べ男性の方が、動物に対する侵害である屠殺、ストレス付加、虐待等に寛容的であり、60歳以上が他に較べ寛容的で、20歳未満が他に較べて非寛容的であった。対象動物では家畜に対し寛容的となり、次いで実験動物、ペットの順に寛容性は落ちた。処理では、殺すことが他に較べ寛容的で、慢性的な虐待、急性的な虐待、肉体の切断の順で寛容性は落ちた。人間優先的で経済的理由がある場合には圧倒的に寛容的となった。さらに家畜福祉と経済性に関する質問では、72.1%の人が家畜に対しストレスを与えない飼い方を望み、ある程度の価格上昇をやむを得ないと回答した。これらの結果より、家畜福祉に関する我が国の意識は欧米と基本的に異ならないこと、そしてさらに食文化、特定動物への感情(伴侶動物文化)、動物福祉運動に影響されることも示唆された。日本家畜管理学会誌、32(2)43-52.1996.1996年5月7日受付1996年7月5日受理
著者
濱田 陽
出版者
秋田大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

2年間の研究を通し、最終的に英語学習動機減退防止基本方針として、以下の6点があげられた。(1)学習者中心(2)情熱を持つ(3)教師主導(4)言語自体以上の事項提供(5)個に応じた教育(6)将来的使用。(1)と(3)は一見矛盾しているように思えるが、教師が主導した上で学習者中心の授業を行うということであり、(4)(5)は学習指導要領においても強調されている点であり、指導要領に沿った指導を行う事によって、動機減退が防止できる事も示唆している。
著者
藤吉 学 磯本 浩晴 白水 和雄 山下 裕一 小畠 敏生 梶原 賢一郎 掛川 暉夫
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.1116-1120, 1989-05-01
被引用文献数
28

大腸癌卵巣転移の臨床病理学的特徴を明らかにするとともに,予防的卵巣摘除術の適応を明確にする目的で,原発巣切除を受けた女性大腸癌症例309例を対象として検討を行い,以下の結果を得た.1.卵巣転移を5例に認め,全体では5/309(1.6%),閉経前3/61(4.9%),閉経後2/248(0.8%)であった.2.卵巣転移は,深達度a_2,s以上でなおかつリンパ節転移n_2(+)以上の症例に認められた.3.腹膜播種陽性例では,卵巣転移は3/25(12%)と高率であった.以上より予防的卵巣摘除術の適応は,1)明らかに卵巣に異常のあるもの.2)腹膜播種のあるもの.3)明らかな漿膜浸潤や外膜浸潤があり,リンパ節転移高度なものと考えている.
著者
石井 一 木幡 勝則 佐藤 ハマ子
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

1.4ーピリドン類の合成と確認図1でn=0,1,2,4,6,8,10,12のアルキル鎖を有する8種の4ーピリドン類を合成し、元素分析、IR、NMRスペクトル、融点測定を行って合成した化合物の構造と純度を確認した。2.抽出平衡の検討(1)合成した4ーピリドン類の酸解離定数(Ka)及び配定数(K_D)を求めた。Kaはアルキル鎖の長さを変えても変らないが、Kaはアルキル鎖中の炭本数(n)と共に増大し、両者の間にはlog K_D=0.52+1.42で表わされる直線関係が認められた。(2)レアメタルとしてIn,Pr,Eu,Ybを選び各4ーピリドン類を用いて抽出実験を行い、錯体の結合比、半抽出PH、分抽定数(K_<DC>),抽出定数(Kex),安定度定数(β_3)を求めた、その結果 いずれの金属にも1:3(金属:配位子)錯体としてジクロルエタンに抽出され、Kex,β_3 はアルキル鎖長による影響は認められなかったが、K_Dはnと共に増大することがわかった。3.抽出速度の検討上記金属の4ーピリドン錯体はジクロルエタンに容易に抽出され、速度はアルキル鎖が長くなるにつれ僅がづつ遅くなったが、いずれの錯体も数分〜数十分の振り混ぜて定量的に抽出された。抽出の速度論的な詳細な今後引き続いて行うつもりである。以上の結果より、本研究でとりあげた4ーピリドン系化合物は、金属に対する選択性は乏しいが、上述の4元素はもとより、いわゆる硬い酸に分類される金属(例えば、Al,Ga,Ti,Zrなど)の抽出剤としては有用と考えられる。
著者
石井 一 佐藤 ハマ子 小尾 英樹
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

1.ヒドラゾン化合物の合成と確認図1でn=1,3,5,7のアルキル鎖を有するヒドラゾン(SAAH)および図2の5-ブロモ-,3,5-ジブロモ-及び5-ニトロ置換ヒドラゾン(SSAH)を合成し、元素分析、IR、NMRスペクトル、融点測定を行って合成したヒドラゾンの構造と純度を確認した。2.抽出平衡の実験(1)合成したヒドラゾンの酸解離定数(Ka)及び分配定数(K_D)を求めた。SAAHのK_D値はアルキル鎖を長くすると増加し(炭素原子1個当りlog K_Dで0.64)、Ka値もアルキル鎖を長くすると増加した。SSAHの場合も、ブロモあるいはニトロ基の導入はKa値及びK_D値に対して極めて有効であった。(2)レアメタルとしてPr,Eu,Yb(一括してLn)を選び、各ヒドラゾンを用いて抽出実験を行い、錯体の結合比、半抽出pH、抽出定数(Kex)を求めた。その結果、いずれのLnもTBP及びClO^-_4の存在下で(Ln^<3+>)(HL^-)_2(TBP)_3(ClO^-_4)錯体として1,2-ジクロルエタンに抽出された。電子吸引性の導入は錯体のKex値の増大に極めて有効であった。3.抽出速度の検討図1でn=7のヒドラゾン(SOH)とYb(III)との抽出反応を速度論的に検討した。その結果、SOHによるYb(III)の抽出は二通りの反応経路、すなわち、Yb^<3+>+HL^-→P及びYb・TBP^<3+>+HL^-→Pで進行し、水相中で1:1錯体の生成反応が律速段階であることがわかった。以上の結果より、合成した一連のヒドラゾン化合物の中では、図2でX及びYにブロモ基を導入したヒドラゾン(DBSAH)がランタノイドの抽出剤として最もバランスのとれた有用な抽出剤であることを実証した。
著者
Thomas A. BAILLIE Allan E. RETTIE
出版者
The Japanese Society for the Study of Xenobiotics
雑誌
Drug Metabolism and Pharmacokinetics (ISSN:13474367)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.15-29, 2011 (Released:2011-03-03)
参考文献数
91
被引用文献数
111

It is now widely appreciated that drug metabolites, in addition to the parent drugs themselves, can mediate the serious adverse effects exhibited by some new therapeutic agents, and as a result, there has been heightened interest in the field of drug metabolism from researchers in academia, the pharmaceutical industry, and regulatory agencies. Much progress has been made in recent years in understanding mechanisms of toxicities caused by drug metabolites, and in understanding the numerous factors that influence individual exposure to products of drug biotransformation. This review addresses some of these factors, including the role of drug-drug interactions, reactive metabolite formation, individual susceptibility, and species differences in drug disposition caused by genetic polymorphisms in drug-metabolizing enzymes. Examples are provided of adverse reactions that are linked to drug metabolism, and the mechanisms underlying variability in toxic response are discussed. Finally, some future directions for research in this field are highlighted in the context of the discovery and development of new therapeutic agents.
著者
長松 康子 佐居 由美 今井 桂子
出版者
聖路加看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

中皮腫患者が急増し、国民の石綿に対する不安が高まっていたが、保健師向けの石綿関連相談ガイドラインが無かった。そこで、保健師向けの石綿関連相談ガイドラインの構築を目的として研究を開始した。まず、石綿関連NPOの石綿関連相談記録344件の内容を分析したところ、子どもを含む曝露不安、職業などからすでに曝露した人からの発症不安、関連疾患を発症した患者からの相談及び遺族からの相談に分類できた。相談内容に対して回答を行うには、医療のみならず、建築、法律、心理などの専門的知識が必要と考えられた。とくに、学校や工事現場などの環境曝露への不安に関する相談が多かったことから、子どもと保護者向けの石綿情報サイトを開設した。さらに全国の保健所の石綿関連相談事業についての調査を行った結果、前年度の相談件数は、平均5.3件で、担当者数は平均3.0人で看護師を配する保健所が7割を超えた。担当者で研修を受けたものは14%のみで、マニュアルを全く使用しない者が35.4%に上った。相談担当者の7割以上が該当業務について自信が無いと回答した。その理由として多かったのは、相談件数が減って知識が蓄積されない、相談内容が多岐にわたるなどであった。保健所の石綿関連健康相談担当者の自信度が低く、マニュアルがあまり使用されていないことから担当者のニーズにあったガイドライン作成が必要と考えられた。しかし、研究途中で他の研究者によって優れたガイドラインが開発されたので、保健所職員がもっとも相談対応が困難であると回答した患者の不安について研究目的を変更した。胸膜中皮腫患者14名を対象にインタビュー調査を行ったところ、患者は様々な困難を体験していた。困難は、進行の速い難知性疾患であること、希少疾患であること、石綿被害によって起こることという、中皮腫の特性に起因していた。このような複雑な困難が、次々と起こり、病気の進行が速いため、一つの困難が解決する前に新たな困難が発生して、困難の重層化が起こっていた。また、患者は医療従事者が経験と知識が不足しており、十分なケアを受けていないと感じていた。
著者
中森 茂 高木 博史 高橋 正和 辻本 和久
出版者
福井県立大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

絹タンパク質、セリシンにはSer、Thrなどの親水性アミノ酸残基に富む38残基の特徴的なアミノ酸配列が含まれている。本研究ではこれまでにセリシンの加水分解物や、上記38残基が2回連続したペプチドが昆虫細胞Sf9の血清中での細胞死に対して抑制活性があることを示してきたが、本年度の研究で以下のような新しい発見があった。1)38残基ペプチドの細胞死抑制効果の活性中心が10残基のペプチドSP3にあることを示した。この配列はSGGSSTYGYSである。2)SP3のC末端-YGYSをWGWSに変えても活性に差はないが、-AGASに変えると活性がなくなった。この事実からTyr, Trpなどの芳香族アミノ酸が活性に重要な役割を果たしていることが示された。3)NおよびC末端のSを削除したペプチドでは活性が大幅に低下した。このことからSerも重要な役割を持つことが示された。4)昆虫細胞Sf9の16時間培養後のDNAの電気泳動の解析によって明瞭なヌクレオソーム単位毎の特異的な切断が観察され、この細胞の死がアポトーシスによること、セリシンの加水分解物の添加がアポトーシスを抑制することが示された。
著者
飯田 浩二 康 燉赫
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

本研究課題である"計量魚群探知機を用いた日本海におけるスルメイカの資源量推定の高精度化に関する研究"の2段階目として,平成15年4月から平成16年3月までの研究進行状況および概要を以下に述べる。1.2003年6月,北海道の南西海域である奥尻島周辺において,北海道大学練習船うしお丸搭載の38,120,200kHzセンサーにより,スルメイカの音響データを収集した。3周波数で得たデータは,周波数別のスルメイカの音響散乱特性を基準として,エコーグラム中でスルメイカのみを抽出するために,2周波数間の体積散乱強度差法を利用して,分析用である。2.2003年7月,北海道大学野外実験場において,18個体の生きたスルメイカを利用して,27時間,自由遊泳状態の遊泳角度を測定した。この測定結果は,スルメイカのTS算出および現場での音響データ解析における重要なパラメータとして適用可能であろう。また,外套長15-19cmの生きたスルメイカのTSを,70,120kHzのセンサーを用いて,姿勢角と共に測定した。3.2003年11月,"time of flight method"によりスルメイカ体内の音速を,重量と体積から密度を測定した。また,超音波カメラを利用して,スルメイカ体内の構造を観察した。この実験結果は,スルメイカTS推定のための音響散乱モデルにおける重要なパラメータとして利用可能である。4.2003年12月,韓国麗水大学の海水水槽において,麻酔したスルメイカを用いて,姿勢角変化に伴うTSの変化を,38,120kHzのセンサーにより測定した。生きている状態での実験はTS備に偏りがあるため,任意の角度でスルメイカを固定して得た正確なTSは,自由遊泳状態のTS実験結果を補充できる。全般的に事前に計画した実験は実施したが,生きたスルメイカを扱わなければならないため,海上実験において多くの資料を得るのが困難であった。平成16年には1,2年目に得られた資料の不足分を補充し,得られた資料から研究結果報告書および論文を作成する予定である。
著者
白井 伊津子
出版者
淑徳大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

修辞表現について、とりわけ中国古典文学における譬喩表現と日本古典文学の譬喩表現を比較検討し、日本古典文学における譬喩表現の独自性を明らかすことを目指した。 結果 、『萬葉集』の直喩表現、序歌表現「詠物」「寄物」歌表現を一覧しうる譬喩表現比較のための基礎資料が整備されるとともに、(1)『萬葉集 』後期に至り、仏典の受容や諺の引用を契機としてあらたな直喩表現の方法が獲得されたこと、(1)『萬葉集』巻八、十の「詠物」歌「寄物」歌に中国詠物詩の譬喩表現の方法を見いだしうること、(1)懸詞に縁語をともなう表現や見立ての技法といった、音形式を主する表現方が平安朝和歌において人事と景物の事象の譬喩関係を表現するため方法として用いられていることが明らかとなった。
著者
寺岡 宏樹 上野 直人 遠藤 大二
出版者
酪農学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1)ツメガエルの約4万クローンのcDNAについてマクロアレイを行った。2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p- dioxin(TCDD)は受精後27時間胚で1クローンの増加、5クローンの減少、7日胚で41クローンの増加、12日胚で14クローンの増加、42クローンの減少を起こした。しかし、cytochrome P450 1A(CYP1A6,7)を除いて、ノーザンブロット法で増減が一致したクローンを見つけることができなかった。2)ノーザンブロット法により、Ah受容体は受精後初日から既に弱いが発現し、7日で顕著な増加がみられた。AHRの発現はTCDD暴露で影響されなかったが、CYP1A6,7の他、CYP1Bでは顕著な誘導が受精後2日からTCDD濃度依存性に観察された。この他、Arntやグルタチオン転移酵素の発現はTCDDに影響されなかった。3)以上の結果から、初期発生においてTCDDであきらかな誘導を受けるCYP1AについてTCDD感受性の高いゼブラフィッシュで役割を検討した。モルフォリノアンチセンスオリゴヌクレオチド(AHR2-MO)を用いて、ゼブラフィッシュで報告される二種のAh受容体の一つ(AHR2)の翻訳を阻止したところ、体幹の血流遅延・浮腫、下顎の成長阻害および中脳背側部の局所循環障害とアポトーシスなどこれまで知られている主なTCDD毒性が顕著に阻害された。AHR2-MOは毒性とともに、CYP1A誘導を阻害したので、CYP1Aに対するモルフォリノアンチセンスオリゴヌクレオチド(CYP1A-MO)を処置したところ、上述のTCDDによる毒性が抑制された。4)最近、TCDDがヒト由来培養肝細胞で、炎症や各病態で誘導されるプロスタグランジン合成酵素であるシクロオキシゲナーゼ2(COX2)が誘導されることが報告された。COX2阻害剤は同時暴露した場合TCDDによる中脳静脈の血流遅延とアポトーシスを顕著に回復させた。COX2に対するモルフォリノアンチセンスオリゴ処置は低濃度TCDDによる血流遅延とアポトーシスをほぼ完全に消失させた。48〜50hpf胚の頚動脈と思われる部分にCOX2 mRNAの強い発現が観察できた。TCDD処置はCOX2発現に全く影響しなかった。5)我々はこれまで、ソニックヘッジホッグ(shh)が下顎にも発現し、TCDD暴露により顕著に減少した。AHR2-MOはTCDDによるshh発現の低下と下顎の低形成を阻止した。TCDDは下顎原基のptc1と2の発現には影響を与えなかった。以上より、TCDDによる毒性発現機構にAHR2、CYP1A、COX2、Shhの各分子が関与することが示唆された。
著者
小城 勝相 市 育代
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

1.動物実験における酸化ストレス評価に関する研究生体内における酸化ストレスを評価する指標として、ビタミンC、E、脂質ヒドロペルオキシドを使い、各種病態におけるこれら指標の動態を検討した。その結果、老化においては脂質ヒドロペルオキシドが優れていることが、老化促進モデルマウスの実験から判明した。薬物による肝炎モデル動物ではビタミンCが最も鋭敏な指標であることが判明した。2.この50年間ビタミンCと同等の活性があるとされてきたデヒドロアスコルビン酸の生理活性をODSラット(ヒトと同様ビタミンCを体内で合成できない)を用いて検討した結果、デヒドロアスコルビン酸の生理活性はビタミンCの10%程度であることが判明した。同じ手法を用いて、天然物である2-O-(β-D-glucopyranosyl)ascorbic acidにビタミンC活性があることが判った。3.動脈硬化に関する研究動脈硬化の初発反応は低密度リポタンパク質(LDL)の酸化であると考えられている。しかしその化学的意味は全く判っていなかった。本研究において、LDLを酸化すると、LDLのアポリポタンパク質B-100(アポB)が分解すること、その反応性はビタミンEと同程度で血液中の他のタンパク質よりずっと高いことがわかった。さらに、酸化分解したアポBはヒト血液中に存在し、その量を定量すると、動脈硬化の診断に使われている臨床指標と良好な相関をした。アポB分解生成物の定量にはWestern blotを用いるため、27時間もの時間がかかり、実用には向かない。そこで実用的な方法を開発する目的で、LDLの酸化を評価する別の方法を検討した。その結果、酸化とともにLDLの粒子径が小さくなることを発見した。この発見は昔から、動脈硬化の危険因子とされるsmall dense LDLに酸化反応が関与することを初めて明らかにした点でも重要な発見である。
著者
永合 祐輔
出版者
大阪市立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

超流動ヘリウム中量子乱流生成の原因の一つである、振動流によって量子渦上に誘起されるケルビン波を超伝導細線振動子で観測するため、希釈冷凍機を用いて~10mKで実験を行っている。ケルビン波を検出するために、ピエゾアクチュエータ(PAB4010)の先に直径70μm金属線(針)をつけ、その先と細線振動子の間の距離を100μm以内に近づけた実験装置を作成した。このことにより、振動子と針の間に橋渡しする付着渦糸を実現できる。この渦糸を振動子によって振動させた状態でPAB4010を駆動し、振動子-針間距離を変化させることで、ケルビン波の共鳴モードを観測することができると期待される。まず、ヘリウム減圧排気冷却用冷凍機を用いて1.2K超流動^4He中でこの実験装置の駆動テストを行い、その後、実験装置を希釈冷凍機に組み込むためのセル容器を作成した。容器下部には、熱交換率を向上させるため銀パウダーを焼結させ、渦を減らすため実験装置が入る容器上部との間を小さい穴でつなぐ構造にした。実験セル容器完成後、容器単体で真空漏れテストを行い、その後希釈冷凍機に設置した。液化速度を調節するための流量調節弁付流量計をとりつけ、配管やバルブ、配線を増設した。希釈冷凍機で実験セルを~10mKまで冷却し、まず真空でPAB4010駆動テストを行った。この温度でも一昨年の1.2Kでの予備実験の時と同様、±60μm程度変動可能であることが新たにわかった。その後、ヘリウム注入ラインに真空漏れが見つかったため、室温に戻し、修理を行った。現在、再度~10mKまで冷却し、ケルビン波探索実験が進行中である。