著者
谷川 朋範
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

非球形粒子の光学特性を考慮した放射伝達モデルを用いて,衛星観測に必要な積雪の双方向反射率について考察した.球形粒子を仮定した積雪放射伝達モデルを用いると双方向反射率パターンに虹が現れるが,現実の雪面に虹はほとんど出現しないため,この虹の効果が積雪物理量を推定する際に誤差を引き起こす可能性がある.そこで本研究では積雪の双方向反射率パターンに虹が現れる事を防ぐために,非球形粒子の光学特性と粒子の結晶表面にラフネス(凹凸)を取り入れた幾何光学モデルを開発し,粒子の形と結晶表面ラフネスの有無による双方向反射率の効果を理論計算と分光観測によって調べた.その結果,粒子の形に円柱及び回転楕円体を仮定し,結晶表面ラフネスを入れない場合,虹のパターンは消えたが不連続な双方向反射率パターンが出現した.一方,結晶表面にラフネスを入れた場合,新雪のときには双方向反射率の観測値は円柱粒子を用いた理論計算反射率パターンと可視域,近赤外域ともに良く一致し,また古雪(ざらめ雪)のときの観測値は結晶表面にラフネスをいれた回転楕円体粒子の理論計算値と可視域においてほぼ一致することが確認された.近赤外域では前方散乱側の双方向反射率において観測値と理論計算値の間に差があるものの,前方散乱側以外の双方向反射率においては両者ほぼ矛盾のない結果が得られた.これらの結果より,積雪の双方向反射率パターンは粒子の形と結晶表面のラフネスに依存することを数値計算と分光観測から明らかにした.
著者
真島 秀行
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

1)多次元虹の発生と撮影.昨年度から行っている滑らかな凹凸のあるガラスに懐中電灯の光をピンホールで絞って照射し多次元虹を発生させる実験を続けた.デジタル一眼レフを購入し,それによるバルブ撮影を行った.撮影時間は通常の一眼レフより短縮でき,画質をすぐ確認できたので連続的な変化を捉えるのに役立った.初等カタストロフ理論における,双曲型の臍,梢円型の臍,放物型の臍の特異点集合がモノクロでなく分光し虹としてかつ過剰虹を伴って発生させ撮影でき,数理科学的解析するための実験資料を得ることができた.2)過剰虹の数理解析的研究.カスプ虹などの多次元虹の発生を表す関数は,初等カタストロフのポテンシャル関数を指数関数の肩に乗せ積分したいわゆる振動積分として与えられる.この多変数関数としての漸近展開は上の実験の結果を説明するような,ある方向では指数減少,ある方向では正弦関数的に振動するものとして計算できるはずである.カスプの場合はパーシー積分であり,また,一般エアリー関数の変数を適当に制限してやることによりにより,エアリー・ハーディーの関数に還元されることが以前の研究で分かっており,それを手掛かりにして行っているがまた完全ではない.3)視覚教材を作成.自然界や人口虹スクリーン上の過剰虹,カスプ虹などの多次元虹を撮影したものと数理解析学的理論を解説した教材を印刷物および計算機上にハイパーテキストとして完成させることも一つの目標としてきたが,この研究で得られた資料等を参考に大学院生が「虹を題材とした計算機支援教材の研究」を行い,ハイパーテキストによる教材例が作成された.
著者
柳下 有理香 前川 武雄
出版者
日本皮膚悪性腫瘍学会
雑誌
Skin Cancer (ISSN:09153535)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.367-371, 2010 (Released:2011-05-30)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

76歳女性。2年前に外陰部の紅斑を自覚,半年前から急速に増大した。初診時,中央部に結節を伴う紅色局面が左大陰唇から肛門にかけて存在し,両側鼠径リンパ節を触知した。生検にてPaget細胞が真皮全層に浸潤していることを確認した。CT上,両側鼠径から大動脈周囲リンパ節までのリンパ節転移がみられ,stage IV(T4N2M1)と診断した。特殊染色にてHER2強陽性であったため,原発巣切除後,weekly docetaxel,trastuzumabによる化学療法を行った。7クール終了時点から8週後の評価でCRと判定した。経過中みられた副作用はいずれもgrade1の軽度のものであり,QOLを保ちながら,非常に奏効した。Trastuzumabとdocetaxelの併用療法は,HER2陽性乳房外Paget病において,少ない副作用と高い治療効果を併せ持った,非常に有用な治療法になり得ると考え報告する。
著者
山口 大輔(意眞)
出版者
龍谷仏教学会
雑誌
佛教學研究
巻号頁・発行日
no.67, pp.71, 2011-03-10 (Released:2011-07-05)
著者
柴崎 光世 利島 保
出版者
日本高次脳機能障害学会
雑誌
失語症研究 : 日本失語症研究会誌 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.264-271, 2002-12-31
参考文献数
16
被引用文献数
2
著者
永井 廉子 五十嵐 由利子
出版者
社団法人日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.187-196, 2004-02-15
参考文献数
3
被引用文献数
1

調理にともなう熱や臭気の居住者やキッチンヘの影響を,居住者がどのように評価しているかについてアンケート調査を行い,以下の結果を得た.(1)キッチンタイプは,オープンキッチン206件(55%),セミオープンキッテン92件(25%),クローズドキッチン71件(19%),アイランドキッチン5件(1%)と,調理の影響が拡散しやすいオープンタイプのキッチンが多かった.(2)熱環境については,夏冬ともセミオープンキッチンの満足度が高かった.また,広さとの関係では広いほうに満足度が高まる傾向がみられ,オープンキッテンでは広い方が,夏の暑さ,冬の寒さに対する満足が増え,不満が減少した.(3)臭気環境については,臭気要因に関わる項目を抽出し,数量化III類を用いて臭気要因の不満の構造解析を試みた.その結果,換気扇から排気しきれない煙や臭気の存在と,部屋の隅での臭気の残留との関連が示唆されたが,他の要因も考慮する必要がある.
著者
向井 理恵
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

複数のパートナータンパク質と結合して細胞質に存在するアリール炭化水素受容体(以下、受容体はAhR、タンパク質との複合体はAhRcと略す)は、芳香族炭化水素が結合するとパートナータンパク質が解離し核へ移行する。さらに、Arntタンパク質と2量体を形成することで転写因子として働き、細胞内の代謝をかく乱する。本研究では、植物性食品成分がAhR形質転換を抑制することに着目し、その作用メカニズムならびに生体内での有効性について検討した。1、細胞内における、芳香族炭化水素が誘導するAhRシグナル経路に対してフラボノイドがどのような効果を示すか検討した。フラボノイドのサブクラスのうち、フラボン、フラボノールに属する化合物はAhRの核移行を抑制すると共にAhRcの解離を抑制した。一方、フラバノンあるいはカテキンに属する化合物に関しては、これらの抑制効果を示さず、AhRならびにArntのリン酸化を抑制し、両者の2量体形成が抑制された。これらの事から、フラボノイドのサブクラスごとにAhRの転写因子としての働きを抑制する機構が異なることが明らかとなった。2、フラボノイドの効果が動物体内で発揮されるか否か検討した。フラボノイドの一種ケンフェロールをマウスに経口投与した場合にAhRの形質転換が抑制された。フラボノイドはABCトランスポーターを介して細胞外へ排出されることが報告されている。トランスポーターの阻害剤を動物に作用させた場合にフラボノールの効果が高まる結果が得られた。また、培養細胞においても同様の効果が認められ効果の増強にはケンフェロールの取り込み量の増加が伴う事を明らかにした。
著者
熊 仁美 竹内 弓乃 原 由子 直井 望 山本 淳一 高橋 甲介 飯島 啓太 齊藤 宇開 渡邊 倫 服巻 繁 ボンディ アンディ
出版者
日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.85-105, 2010-01-30

本論文は、2008年7月12日に法政大学で行われた公開講座『自閉症とコミュニケーション』におけるシンポジウムを収録したものである。慶應義塾大学における自閉症児のコミュニケーションをのばす包括的支援プログラム、筑波大学におけるPECSを日常的に使うための家庭支援プログラム、民間療育機関たすくにおける機能的コミュニケーション指導が紹介され、ボンディ博士による指定討論が行われた。
著者
奥田 敏統 中根 周歩
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.117-127, 1986-07-31

シバ(Zoysia japonica)の摘葉(defoliation)による植物体の損傷後の再生長が,他種との競合関係や土壌条件の変化に伴ってどのように変るか,という点を明かにする目的で,広島県の北東部に位置する吾妻山(1260m)の短草本群落内で調査実験を行った。すなわち,1983年の6月22日に測定する分げつ枝(target tiller)の葉身の摘葉と,まわりの植物の刈り取りを組み合せた4処理を行い,5日おきに7月12日までtarget tillerの生長(葉身の長さ)の測定を続けた。またこれらの野外観察は斜面の上部,中部,下部において行い,同時に調査区の土壌条件や植生などの測定及び分析も行った。結果1).シバの再生長は競合関係を緩めた(回りの植生を刈りとった)処理では,そうでない処理よりも遥かに速く,また競合関係が緩められた状態では,target tillerに摘葉処理をした方が処理をしなかったtillerより再生長は良かった。2).この傾向は斜面上部では統計的に有意な結果が得られたが,斜面下部では4処理間での差は殆どなかった。3).実験開始後の新しい葉の出現率は競合関係を緩めた方が高くなり,加えてtarget tillerに摘葉処理をしたものでは古い葉の枯死率が低くなった。4).これらの結果は,植物体の生理的補償作用のレベルが,他種との競合関係や土壌条件の変化によって変りうる,ということを示している。5).シバはC_4植物であるたあ,滞水期間が長く有機物の腐植化が進んでいる斜面下部の土壌条件では,このような補償作用は有効に働かないのではないかということが推測される。
著者
ディビッド ウルフ 秋田 茂 泉川 泰博 岩下 明裕 遠藤 乾 松本 はる香 横手 慎二 エルドリッジ ロバート ロバート エルドリッジ 金 成浩
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、歴史家と政治学者の連携のもと、冷戦期の北東アジア、特に日本側の役割と視点にたった多くの資料を収集・統合した。この4年の研究期間で研究メンバーは、ワークショップ、カンファレンスや様々な国際イベントにおいて、新たな資料と結論に基づく80回もの発表(半数が英語発表)を行い、約70もの論文・図書を執筆・刊行した。
著者
斯波 久二雄 角田 紀子 金子 秀雄 中塚 巌 吉武 彬 山田 宏彦 宮本 純之
出版者
日本農薬学会
雑誌
日本農薬学会誌 (ISSN:03851559)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.557-569, 1988-11-20
被引用文献数
2

新規ピレスロイド系殺虫剤S-4068SF [Etoc^[○!R], (S)-2-methyl-4-oxo-3-(2-propynyl)cyclopent-2-enyl (1R)-trans/cis-chrysanthemate, (trans/cis=8/2)]の代謝運命を明らかとするため, (4S, 1R)-trans-または(4S, 1R)-cis-S-4068のアルコール側^<14>C標識体を2 mg/kgの割合で, 雌雄ラットに1回経口または皮下投与した.放射能は, 投与後7日間で完全に糞尿中に排泄された.血液および組織中^<14>C濃度は, 経口投与後3時間以内に最大値を示したのち, 生物学的半減期は, 投与後3時間から12時間まで3時間ないし5時間, 12時間から48時間まで7時間ないし35時間で減少した.投与7日後の組織残留量は, 全般的に低値を示した.排泄物中, 20種類の代謝物を同定し, 代謝経路を以下のように推定した.1) 酸側イソブテニルのメチル基およびアルコール側プロピニル基の1位および2位の酸化, 2) エステル結合の開裂, 3) 以上の結果生成した化合物のグルクロン酸または硫酸による抱合.両異性体の代謝運命に, 雌雄および投与経路によらず顕著な差異を認めなかった.
著者
城塚音也
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告データベースシステム(DBS) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2001, no.44, pp.137-144, 2001-05-21
参考文献数
10

大量の自由記述されたテキストデータからの知識発見を支援するテキストマイニングでは、テキストデータの分析結果を視覚的に提示することが重要となる。本論分では、我々が使用したテキストマイニングシステムに実装した、複数の概念関係の視覚化方式を組み合わせたトップダウンの知識発見アプローチを実現する概念関係視覚化方式について報告する。実際の自由記述型のアンケートデータを使用し、本概念関係視覚化方式の、注目すべき概念の発見や重要な概念関係への絞込みといった作業における有効性を確認した。また、概念関係抽出性能の検証を行なった結果、従来手法に比べて、高い精度で概念関係を抽出できることを確認したVisualization of relationship between concepts is important in text mining as the process of knowledge discovery from large amount of unstructured text data. In this paper, we proposed an unique visualization method of concept relationship in top-down knowledge discovery approach that is implemented in a system prototyped by authours. Text data analysis is performed to real Q&A data in free from, which is retrieved from information providing service in a commercial web site and we found that our visualization method helps analyst's work to select concepts to be focused and to organiza concepts relationship for reporting. Ecperimental results show that the prototyped system can extract concepts relationship with higher precision compared to conventional method.
著者
出口 智之
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

まず合山林太郎氏とともに、森鴎外旧蔵の『宗旨雑記』(現東京大学総合図書館蔵)に裏貼りされた、鴎外が小倉から東京の母に宛てた書翰を整理し、未翻刻の書翰に解題を附して「未翻刻森鴎外書翰紹介」(以下副題省略)として発表した。これにより、鴎外の伝記研究に有用な資料を公にするとともに、同時代の文人との関わりを明らかにできた。次に、第54回「書物・出版と社会変容」研究会で、「根岸党の旅と文学」と題して発表した。これは、文人サークルである根岸党の人々が明治25年11月に妙義山に旅したおりの紀行『草鞋記程』(同年12月)を取上げ、慶応義塾図書館蔵の稿本を手がかりに、その成立過程を考証したものである。この研究により、集団で旅する遊びの空気を描き取った本作の方法の考察を通じて、明治期の文人たちが持つ遊びの精神を明らかにできた。また、「夏目漱石「琴のそら音」の素材」では、これまで明らかでなかった漱石「琴のそら音」(明治38年)の材源について、幸田露伴「天うつ浪」其四十六以降との設定および主題の類似を指摘し、出発期の漱石が同時代の小説作品にも鋭敏に反応していたことを明らかにした。さらに、露伴の史伝「頼朝」(明治41年)を考察対象とした「幸田露伴「頼朝」論」では、執筆に用いられた資料を特定し、作中では雑多な資料が同列に扱われていることを指摘した。そのうえで、資料にない事実の捏造を嫌った露伴が、本作で用いた随筆に近い様式によって、個々の逸話の背景にある頼朝にまつわる広大な言説空間が浮かびあがり、小説形式では不可能な作品世界の広がりが生れたことを考察した。そして、露伴とおなじく明治20年代に出発した作家たちが、明治末期になって一様に、小説以外の形式で歴史を扱おうと試みていることに着目し、そこに逍遙の『小説神髄』など彼らの世代の積残した、文学はいかに歴史を扱うべきかという課題の解決法の模索を見た。