著者
植野 優
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

私は銀河系内宇宙線の起源として殻型の超新星残骸に注目している。シンクロトロンX線が超新星残骸で宇宙線が加速されている証拠となっている。しかし、知られている220個の超新星残骸のうち、10天体程度からしかシンクロトロンX線が受かっていないため、宇宙線加速が超新星残骸で普遍的に行われているかどうかがわかっていない。そこで、本研究ではシンクロトロンX線を示す超新星残骸を新たに発見することで、他の超新星残骸と何が異なるのかを明らかにし、また、シンクロトロンX線を示す超新星残骸が銀河系内に何天体程度存在するのかを推定することを行った。透過力に優れた硬X線による銀河面のサーベイであるASCA銀河面サーベイのデータを詳細に解析したところ、超新星残骸の候補を新たに、10天体発見した。この結果は、初年度や2年度目のG28.6-0.2やG32.45+0.1の発見と合わせると、電波のサーベイで見つからなかったような超新星残骸がまだ銀河面に数多く存在することを示している。さらに、これらの超新星残骸のスペクトルはX線がシンクロトロンである可能性が高いことを示している。つまり、今後のX線サーベイによってシンクロトロンX線を示す超新星残骸が数多く見つかるであろうことが分かった。また、これらの超新星残骸が電波で暗いのは、物質密度の低いところに存在していることを示唆し、そのような超新星残骸からシンクロトロンX線が検出される可能性が高いといえる。これら、超新星残骸の研究と平衡して、X線偏光測定装置を開発している。本年度は読み出し回路の完全2次元化を行った。その結果の性能評価のため、偏光度の高い放射光を用いて実験を行った。ネオンやアルゴンの検出ガスを用い、8keVや15keVのX線に対して偏光測定に成功した。今後は、増幅率の一様性の改善などを行う必要がある。
著者
松本 淳
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究の知見や結論として主に4点挙げられる。第1に、選挙における候補者の政策公約について、多くの政党では同じ政党の候補者同士でも各争点に対する主張に概ねばらつきがあり、また二大政党の候補者間にみられる主張の違いの程度が選挙区によって大きく異なっている。よって、候補者の主張は選挙制度改革以降も明確に政党ごとにまとまっておらず、各選挙区での二大政党間の対立は横断的にみれば一様ではなく、政策的には二大政党化が選挙区レベルにまで浸透していないといえる。第2に、多くの選挙区では候補者間で主張の違いがありながらも、それが投票参加に影響していない。先行研究として、有権者は支持候補の当落がもたらす利益の得失差をより大きく認知するほど投票に行くとの議論や、そうした認知上の差がわが国では小さくなっているとの指摘があるが、これらを踏まえれば、候補者の議論が有権者に正確に届かず、認知上の差を生まないことが、上記結果に至る一因と考えられる。第3に、衆議院の委員会でみられる議員の主張は自らの立場を明確に示すものばかりではなく、また委員会採決の際、議員は概ね政党単位で結束して行動するため、選挙では政党内でばらつきのあった主張がこの時点で収斂をみることになる。よって、その是非は別にして、委員会審議では、選挙での候補者の主張や有権者認知の内容とは異なる事態が生じることがある。第4に、有権者が公約を認知する際に誤解が生じていること、また公約に対する有権者の信頼や関心の低下が指摘され、有権者の多数は自らの意思が国の決定に反映されていないと考えている。この背景には、上述の通り、選挙で多くの候補者の主張が曖昧か、政党ごとに収斂していないために有権者にわかりにくく、そもそも必ずしも有権者の関心に即す内容等ではないこと、また議会での上記のような行動や選挙時との主張のギャップが上記有権者意識に影響していると考えられる。
著者
曵地 康史 木場 章範 大西 浩平
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

Ralstonia solanacearumは傷口等の根の開口部から宿主植物に侵入し、まず、細胞間隙にコロニー化する。コロニー化後、細胞間隙で著しい増殖を行う。細胞間隙での増殖の有無が、宿主植物に対する病原性の質的な決定因子であり、この増殖は、hrp遺伝子群にコードされるタイプIII分泌系から菌体外へ分泌するタイプIIIエフェクターを介した宿主植物との侵入直後の相互作用により決定されていた。細胞間隙での増殖が可能となったR.solanacearumは、タイプIIIエフェクターの働きにより宿主植物の遺伝子発現の変化を誘導し、病徴である青枯症状の誘導の有無を決定した。その後、R.solanacearumは、タイプIII分泌系を介して分泌する植物細胞壁分解酵素(CWDE)の働きにより、導管壁を分解し、その結果、導管へ侵入することが可能となった。R.solanacearumは、導管を通じて全身移行し、導管内に病原力因子である菌体外多糖類(EPS)を分泌し、導管閉塞をまねくことで植物の水分通道能を阻害した結果、感染植物は青枯症状を呈すると考えられた。hrp遺伝子群の発現制御タンパク質HrpBによって、CWDEであるPhcBの発現は部分的に正に制御されており、タイプII分泌系とタイプIII分泌系の分泌能は相互に制御しあうことが明らかとなった。さらに、hrp遺伝子群やPhcAなどの一部のCWDEの発現は、EPS合成の正の制御タンパク質であり、クオラムセンシングにより活性化されるPhcAによって、負に制御されていた。これらの結果から、R.solanacearumの病原性に関わる遺伝子は、宿主植物への侵入過程に応じて制御されており、R.solanacearumの増殖を介した一連の制御系に存在することが明らかとなった。
著者
佐藤 幸生 高松 進
出版者
富山県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

2002年、神奈川県で、従来とは異なる菌(Oidium属Reticuloidium亜属菌;OR菌)によるキュウリうどんこ病の新発生が確認された(内田・宋、2003)。一方でOR菌による種々の植物のうどんこ病の新発生が相次いで報告されている。本研究は、1)キュウリ上のOR菌の発生実態調査と、2)キュウリと種々の植物上のOR菌との関係などを明らかにすることを目的に実施した。1発生実態:富山県、東京都および秋田県南部、新潟県で調査した結果、いずれの調査地でもOR菌によるうどんこ病が発生し、従来からのOidium属Fibroidium亜属菌(OF菌)によるうどんこ病に劣らず発生が広がっていることから、OR菌によるうどんこ病は、本邦ではすでに広く発生していることが示唆された。従来からのOF菌によると同程度に激発する例も認められ、防除を要することが明らかになった。発生品種は、湧泉、アンコール10、金星、インパクト、南極2号、京涼み、夏涼み、プロジェクトX、シルフィー、金沢太キュウリと節成千両の11品種に及んでいた。2種々の植物でのOR菌によるうどんこ病の新発生:2004年以降、従来とは異なるOR菌によるうどんこ病の新発生は、ヒマワリ、キクイモ、オミナエシ、ジニア、トレニア、スコパリア、カボチャ、カラスウリなど、4科8種の植物で確認した。3種々の植物上のOR菌の宿主範囲および遺伝子解析:トレニア以外のキュウリ、カボチャを含む9種類の植物(ヒマワリ、キクイモ、オミナエシ、ジニア、スコパリア、パンジー、メランポジュウム)上の菌は、いずれもキュウリに病原性を認めたが、キュウリとカボチャ上の菌は、キュウリ以外には病原性を認めなかった。東京都、新潟県、富山県で採集したキュウリ上のOR菌は、遺伝子解析の結果1つのクラスター属し、OR菌のグループ分け(Takamatsuら、2006)におけるIX群に属した。キク科植物上の菌は、III群に属した。パンジー、オミナエシ、トレニア、クジャクアスター上の菌はキュウリ上の菌と同じIX群に属した。
著者
大方 潤一郎 BOONTHARM Davisi
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本研究では平成19年度に以下の4つの活動(成果)があった。1つめとして、文献レビューを実施し、既往文献の整理および要約をおこなった。2つめとして、平成19年6月に原宿において「春期・夏期」調査(フィールドリサーチ)をおこなった。具体的には、建物形態の状況調査(描写およびスケッチ)と来街者の行動観察調査を実施し、さらに東京のまちづくり専門家へのインタビュー調査も並行して実施した。3つめとして、展覧会「Made in Harajuku」を原宿現地にて平成19年6月26日〜7月2日に実施した。当展覧会への来場者とのコミュニケーションを通じて、原宿地区(特に「裏原」地区)についての解釈を深めることができた。4つめは、研究成果の公表である。学術雑誌記事「Shophouse and Thai Urbanism:Towards a software approach」において、バンコクのファッション最先端地である「Siam Square」を対象として、タイの都市様式(アーバニティ)の原理として、既成市街地の物的環境と「shophouse」(東南アジアの都市に存在する商業機能を合わせ持つ「長屋」)とについて論じた。本論ではシンガポールを比較対象とし、shophouseを主として物的環境として考慮しているシンガポールに対して、タイ・アーバニティの中では、よりソフトウェア的な存在として位置づけられている点が明らかとなった。また、書籍「Harajuku Urban Stage-Set Q&A」では、東京のファッション最先端地の1つである原宿は、物的・地理的・社会的複雑さが特徴であり、地区自身が「劇場の舞台装置」にメタファーできると捉えて「Urban Stage-Set」と名付けている。
著者
中田 宏昭 深海 悟
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
研究報告ソフトウェア工学(SE) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.31, pp.89-95, 2009-03-11

近年、Wikipedia やニコニコ動画といった Web アプリケーションサービス (WebAS) を中心にマス・コラボレーションによるコンテンツ生成が盛んである。マス・コラボレーションは不特定多数のユーザがコンテンツを中心に協業する生産形態で、多様性・品質・生産性の面で注目されている。しかし、WebAS 自身は不特定多数のユーザによって拡張することが出来ないためマス・コラボレーションが行われていない。本稿では、この問題を解決する手段として、WebAS でメタデザイン構造を実現する手法としてコンテンツ共有型クローンモデルを提案し、それに対応するシステムを実装した。Abstract The contents generation with the mass-collaboration is popular on web application service such as NicoNicoVideo, Wikipedia in recent years. Mass collaboration is a form of collective action that occurs when large numbers of people work independently on a single project. Mass collaboration is paid to attention for diversity, quality, and productivity. But, many and unspecified users cannot extend web application service. Therefore, mass collaboration is not done. To solve this problem, we propose the Contents Share Clone Model as a method for the achievement of the meta-design approach to web application service.
著者
加藤 潤 佐藤 正治 倉本 昇一 松岡 浩一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会秋季大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.1994, no.1, 1994-09-26
被引用文献数
1

アンテナ鉄塔のある無線中継所が直撃雷を受けると、雷サージ電流が導波管を通り無線装置に侵入し、無線装置が符号誤りなどの障害が発生することがある。このため装置には、コストと必要性のバランスを考えた耐雷性能が必要となる。耐雷性能の適当な目標値を設定するためには雷サージ電流の大きさとその発生頻度の関係が重要になるが、明確には示されていない。本報告は、通信装置に流入する雷サージ電流の発生頻度と電流波形を直撃雷の発生頻度や建物の伝達係数から推定方法を示した。
著者
田沼 幸子
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究調査は、キューバ国内外の主に30代のキューバ人男女のインタビュー映像を通じて、グローバルな世界システムと革命、労働と生きることの意義とがどのように絡み合っているのかを普遍的な問題として提示することを目的とする。個人的なインタビュー調査を通じて、世界システムが各人の生を強く規程していると同時に、その制約を越えようとした各人の決断が大きく異なる現在をもたらしたことも示された。本研究を通じて、現実を見据えたうえで可能な理想を実現するために行動することの意義をより多くのオーディエンスに示すことができるようになった。
著者
下村 泰彦 増田 昇 山本 聡 安部 大就 酒井 毅
出版者
社団法人日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 : journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.173-176, 1996-03-29
被引用文献数
2 1

本研究では,都市河川空間をシークエンシャルな景観として捉えるために,CGによるアニメーションモデル画像を橋上,水上,水際の3視点場について作成した。これらの画像を刺激媒体とした心理実験を通じて,今後のスーパー堤防化を想定した空間整備に関する課題と方向性を探ることを目的とした。その結果,視点場の違いにより景観性の評価は異なり,橋上景観ではマクロな,水上景観ではシークエンシャルな,水際景観ではミクロな景観構造が重要であること。都市の魅力や活気性といった観点からは階段護岸形態が望ましいこと。安らぎや潤い性といった観点からは緩傾斜護岸形態に低木等の自然要素の導入が望ましいこと等が明らかとなった。
著者
宮野 佐年 安保 雅博 武原 格 殷 祥洙
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

日本での脳卒中後遺症者141名(平均年齢67.2±9.4才)、男性98名・女性43名、出血64名・梗塞77名で、在宅生活を送っている患者の下肢運動麻痺(Brunnstrom stage、以下Br. st.)・歩行距離(m)・床からの立ち上がり動作・浴槽への移乗の可否・トイレや浴槽の手すりの設置の有無・正座の可否・ベッドの使用を調査した。その結果、下肢Br. st.と歩行距離は比較的よく相関したが、下肢Br. st.が3,4でも500m以上歩行可能な患者も多くみられた。床からの立ち上がり動作は、歩行距離とBr. st.共に相関は見られたが、浴槽の出入りは歩行距離と相関は見られたがBr. st.との相関は見られなかった。トイレや浴槽の手すりの設置の有無と、歩行距離・Br. st.はどちらも相関は見られなかった。また正座や和式トイレの使用は殆ど全ての患者はできなかった。本題の国際比較は、韓国ソウル在宅の脳卒中患者52名と、目本の在宅脳卒中患者で、Br. st.と歩行距離をマッチさせた患者で国際比較を行ったと。対象患者は日本66名・韓国50名で、Br. st.日本3.8・韓国3.3。その結果、両国共にBr. st.と歩行距離は相関し、床からの立ち上がり動作もBr. st.や歩行距離と相関した。日韓の比較では、風呂やトイレに手すりをつける率は、韓国では20%・日本では85%であり、床からの立ち上がり動作、日本では54%・韓国では37%が可能で、正座は、日本では5%・韓国では70%が可能となっていた。また同居人数3人以上が、韓国では32%・日本では14%と違いが見られた。日本では脳卒中片麻痺に対して、家屋改造により介護力軽減を図るのに対し、韓国では人的介護に頼る傾向が見られた。正座は韓国の特有の坐り方で日本の正座とは異なっており、日韓でも床上の生活様式の違いが示唆された。要旨を第3回国際リハ医学会(2006.4)に発表した。
著者
須川 修身 今村 友彦
出版者
諏訪東京理科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

区画火災時に火災室内でフラッシュオーバーやバックドラフトが起こると、800°C近い高温の火炎および熱気流が窓などの開口部から噴出する。このときの火炎は瞬間的には50~100m/s程度の比較的大きな初速度を持って火災室から水平に打ち出される。火炎高さに関して断片的な知見しか得られておらず、延焼危険性の評価も経験則に依っているところが多い。そこで本研究は、高速で噴出する拡散火炎の性状を把握することを目的として研究を行った。火炎噴射装置から発生させた火炎の高さ、温度および放射熱を計測した。燃料として、液体燃料を用いた。ノズル径と不活性ガスの圧力の組合せにより発熱速度を制御した。噴射装置架台は0°~90°(0°:噴射方向が水平方向)の範囲で任意に傾きを設定した。その結果、90°の場合、火炎高さは、Q*>106の範囲でも、無次元数RMの値が0.1より小さい場合は、火炎高さはQ*2/5に比例して高くなった。また火炎中心軸上の温度減衰を、McCaffreyモデル(低速拡散火炎)と比較すると、本実験では温度減衰の開始点がz/Q2/5=0.15~0.20付近であり、McCaffreyモデルよりも遠くなった。しかし、温度減衰が始まると、温度は距離に対してMcCaffreyモデルよりも急速に低下する傾向を示した。一方で、高速で噴出する拡散火炎の中心軸上の温度減衰、水平方向の温度分布、熱流束の水平分布は、いずれも発熱速度の変化に対して相似性が保存されていることが分かった。
著者
渡邊 達也
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

周氷河地形は、岩石・土壌中の水分の凍結融解作用、永久凍土の破壊や変形など寒冷地域特有のプロセスによって形成される.周氷河プロセスには気候・水文・地質条件など様々な要因が影響するため、未解決な問題が数多く残されおり、詳細な現地調査・観測が必要とされる。本研究では、代表的な周氷河地形の一つである構造土の内部構造、形成環境や変形が生じる条件を理解することを目的とし、特にローカルなスケール(同一気候条件下)で多様な構造土が形成される要因の解明を目指した。そこで、北極圏スピッツベルゲン島のスバルバール大学に長期滞在し、多様な構造土の内部構造調査や土層変形・破壊、地温、土壌水分、積雪深の観測を実施した。調査結果に基づいて、各構造土の分布と地盤・水文条件の関係や温度条件について調べた。その結果、円形土と大型多角形土の分布域では粘土含有量,飽和度,凍結構造に明瞭な違いがみられた。また、急冷による凍結クラックを形成プロセスとする大型多角形土は、円形土に比べて冬季の地温低下が著しい傾向があり、積雪深や地盤の熱的性質の違いがその分布に影響しているとみられる。また、円形土を取り巻くように発達する小型多角形土は、円形土の凍上・沈下に対応するように収縮・膨張する変形パターンを示しており、大型多角形土とは変形条件が異なる可能性が示唆された。研究経過に関して、スバルバール大学にて開催されたヨーロッパ永久凍土学会でポスター及び野外巡検コースでの発表を行った。