著者
緒方 満
出版者
広島大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

基礎的な音楽能力(例えば聴唱力、視唱力、正確な音高で歌唱・合唱できるスキル等)を児童に保障するには、児童の「音高認識体制」の成長を体系的に促進するためのエクササイズアプローチによる音楽教育プログラム(以下、本プログラム)を音楽科授業に導入することが有効である、と考える。緒方らは、《独自に開発した本プログラムの実践→実践の効果を測定する音楽能力調査の実施》という手続きを繰り返しながら、本プログラムの効果に関する実証的研究を2か年連続で行ってきた。平成19年度の研究は、昨年度までに本プログラムの実践を経験したにもかかわらず、合唱スキルが未熟なままである児童に焦点をあてた。2007年7月より、そのような課題を有する児童6名を抽出し、彼らに本プログラムを個別に実施し、10月に音楽能力調査を行った。目的は、彼らの音楽能力の特徴に関する情報を得ること、および彼らに適合した本プログラム開発の模索であった。個別指導の観察経過から以下のことがわかった。本プログラムにおいて単なる「音パターン」の階名聴唱・階名視唱を行うだけでは、「音高認識体制」の強化につながりにくい。したがって、本プログラムの導入期、つまり「ドレミ」の3音で開始する低学年の時期から、児童の内面において音高と階名が強固に結びつく指導方法の工夫が必要である。さらに、実践では、階名での即興唱をしばしば取り入れながら、児童の「音高認識体制」の強度を教師が常々把握していくことが必要であろう。調査では、オルフ木琴を演奏させる課題を用いた。歌唱によって音高再生を行う困難さを除外することができ、児童の「音高認識体制」の測定を実証的に進めることができた。結果は、プリテストを実施していないので明確に明らかとは言えないが、個人得点を詳細にみると、(1)2名が高得点であったこと、(2)不安になると混乱傾向にある男子が、調査中の緊張の中、一定の得点を獲得していること、および(3)「音高はずれ」児童である2名も得点であったことなど、個別指導の効果がみられることを示した。
著者
飯島 裕一 石川 佳治
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.93, no.6, pp.781-794, 2010-06-01

移動ロボットやモバイルセンサネットワークなどの位置情報を利用したアプリケーションでは,最近傍問合せは重要な問合せとして位置づけられている.しかし,制御ノイズや測定誤差などの理由により問合せを行うオブジェクトの位置があいまいな位置情報としてしか得ることができない場合が存在する.そのため,位置のあいまい性を考慮した問合せ処理手法が必要とされている.そこで本論文では,問合せを行うオブジェクトの位置が正規分布の確率密度関数によってあいまいな位置情報として表現されている状況における最近傍問合せの処理手法を提案する.まず通常の最近傍問合せを拡張した確率的最近傍問合せを定義し,この問合せを効率的に処理するための戦略として二つの問合せ戦略を提案する.どちらの戦略も,問合せの対象となるオブジェクトの集合から明らかに問合せを満たさないといえるものを求めることで計算コストの削減を図るが,その方法が異なっている.これら二つの戦略にそれらのハイブリッド方式の戦略を加えた三つの戦略に対して,実験によって性能の比較を行った結果についても報告する.
著者
原田 達也 中山 英樹 國吉 康夫
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (Japanese edition) (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.93, no.6, pp.857-869, 2010-06-01

本論文では実世界でユーザの見たものを瞬時に記述・蓄積し,後で言葉を用いて検索可能とするAI Gogglesを提案する.これは,カメラを備えたゴーグル,タブレット型計算機とHead Mount Displayからなるウェアラブルシステムである.本システムは以下の五つの機能を特徴とする. (1)高速かつ高精度な画像アノテーション・リトリーバル機能, (2)画像の大域的な情報から画像に写る対象を推論する機能, (3)安定かつ高速な追加学習機能, (4)常にデータが増え続ける状況に対応可能な機能, (5)意味に基づいた特徴抽出を行える機能.標準的なデータセットを用いた実験では,本手法が精度の面で2008年度の最良手法と同等の性能を示し,計算速度では上回ることを示した.更に,屋内と屋外の双方における実験を実施し,提案システムは統制困難な環境において予測できない認識対象の追加に対応可能であり,安定して動作することを確認した.
著者
河野 誠司 中町 祐司 笠木 伸平
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、関節リウマチ(RA)の病態におけるmiRNA-124の関与をインテグリンβ1制御の面から明らかにし、miRNAによるRAの病態解明と診断・治療への応用を図ることを目的とし、以下の結果を得た。(1)RA患者培養滑膜細胞にmiR-124を強制発現させると、インテグリンβ1の発現減少が見られた。(2)ラット・アジュバント関節炎モデルで、miR-124を投与したところ、関節炎の軽減が認められた。さらに関節組織において、インテグリンβ1の発現低下を認めた
著者
三井 唯夫
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

大容積・低バックグラウンドの液体シンチレータ検出器に、到来方向検出と粒子識別の能力を付加するための基礎研究を行った。液体シンチレータの発光点をイメージインテンシファイアユニットによって撮影することによって、1MeVガンマ線の位置分解能が、現在の15cmから5cmへと改善することを実測した。また、以前開発した「リチウム6液体シンチレータ」の中性子捕獲時間・捕獲後アルファ線エネルギーの測定を行った。これらの基礎データを用いて、地球ニュートリノ到来方向測定のシミュレーションを行った。
著者
中村 勲 井戸川 徹 田口 友康 永井 洋平 永井 啓之亮 足立 整治
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告音楽情報科学(MUS)
巻号頁・発行日
vol.1998, no.14, pp.1-12, 1998-02-13

音楽音響国際シンポジウム97(SMA'9)は1997年8月19日から22日まで、エジンバラ大学(エジンバラ、スコットランド)で開催された。会議は英国音響学会、Catgut音響学会とヨーロッパ音響学連合が共同して組織した。8月22日には古楽器に関する音響と技術について、Galpin学会と合同の幾つかのセッションが開催された。音楽音響のあらゆる分野にわたって、凡そ100篇の招待論文と投稿論文が発表された。この会議の概要と、大部分の発表論文についての要旨を報告する。The International Symposium on Musical Acoustics 1997 (ISMA'97) took place at The University of Edinburgh, Edinburgh, Scotland on 19-22 August 1997. The meeting was organized in association with the Institution of Acoustics (UK), the Catgut Acoustical Society and the European Acoustical Association. On August 22, several joint sessions were held with the Galpin Society on Historical Musical Instrument Acoustics and Technology. About 100 invited and contributed papers were presented, covering all areas of musical acoustics. An outline of this meeting and each abstract of almodt presented papers are reported.
著者
鳥本 司 岡崎 健一
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

シリコン太陽電池に変わる次世代太陽電池の材料として、Cdなどの毒性の高い元素やInなどの希少元素を含まず、かつ高い光活性を示す環境調和型の半導体材料であるCu_2ZnSnS_4(CZTS)が注目され、薄膜太陽電池が試作されている。しかしながら、これまでにCZTSナノ粒子の化学合成はほとんど報告されていなかった。そこで本研究では、高温有機溶媒中における化学反応を利用してCZTSナノ粒子の液相合成を行い、得られた粒子についてその光電気化学特性を調べ、太陽電池の光吸収層としての可能性を検討した。対応する金属イオンの酢酸塩と硫黄粉末を、化学量論比で混合しオレイルアミンに分散させた後、240℃で加熱することにより、5-7nm程度の粒径をもつCZTSナノ粒子を合成した。粒子は、その表面がオレイルアミンで修飾されており、溶液中に安定に分散した状態として得られる。光吸収スペクトルから、粒子のバンドギャップエネルギーは約1.5eVと見積もられる。つぎに、エタンジチオールを架橋剤とする交互吸着法によって、粒子サイズを保ったまま、CZTSナノ粒子を透明電極基板上に積層した。得られたナノ粒子薄膜電極に可視光を照射すると、カソード光電流が得られ、CZTSナノ粒子はp型半導体特性を示した。また、900nm以下の波長の光照射に対して応答した。光電流の立ち上がり電位が、CZTSナノ粒子の価電子帯上端の電位であると見なすと、得られた粒子の伝導帯下端および価電子帯上端の電位は、各々、-1.2Vおよび0.3V vs.Ag/AgClであると見積もることができる。同様の手法を用いることによって、様々な化合物半導体のナノ粒子化が可能となり、本研究成果は、将来の半導体ナノ粒子を用いる太陽電池開発に大いに役立つ。
著者
牧岡 朝夫
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

アメーバの嚢子形成及び脱嚢はヒトへの感染型の形成及び感染の成立のための重要な過程である。本研究は両過程に必須なアクチン細胞骨格再編成の重要分子であるアクチン脱重合因子コフィリン並びにプロフィリンに注目し、アメーバゲノム中の両遺伝子の同定、塩基配列の決定、系統解析、組換えタンパク質の調製、局在及び両過程における発現解析を行い、分子種による違いを明らかにした。
著者
村上 由則 諸冨 隆 村井 憲男
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.35-42, 1993-01-30

2名の血友病児において、血友病性関節内出血と気象変動との関連を検討した。関節内出血の度数を月ごとに加算したところ、他の月と比較して4〜6月に出血が集中することが明らかになった。また、対象児の出血動態と気象要素との関連を分析したところ、平均気温の日間較差が、出血となんらかの関連をもつことが確認された。出血が特定の関節領域に集中しその度数が増大する悪化期には、出血の始発日前後1〜2日に気温の低下が観察された。この気温の低下傾向は、特定関節の出血以前に先行する出血がある場合に顕著であることも併せて明らかとなった。出血の少ない安定期や逆に出血が多発する頻発期には、気温の変動と出血との関連は明確ではなかった。これらの結果から、気温の変動は血友病性関節内出血に対し影響を及ぼすが、その影響は関節の破壊状況により異なることが示唆された。
著者
水谷 修紀 高木 正稔
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

小児白血病の発症機序解明に向けて胎児環境と遺伝の視点から解明を試みた。妊娠マウスにDNA損傷刺激としてエトポシドを母体腹腔内に投与し、胎児造血細胞の状態の経時変化を追跡した。比較対象として母体マウスの骨髄を用いた。DNA損傷の程度を胎児肝、母体骨髄で解析した結果、胎児肝がはるかに強いDNA損傷応答を示すことが分かった。以上からDNA損傷刺激に対しては胎児の方が母体より強いことが判明した。染色体異常においてもATM+/+、ATM+/-、ATM-/-の遺伝的背景の中でATM-/-では顕著な増加が認められた。発がん遺伝子の効果をATM遺伝子の遺伝的背景の中で比較した。その結果、ATMのhaploinsufficiencyが発がん効果を発揮することを証明した。
著者
西山 一朗 大田 忠親 東京農業大学アイソトープセンター
出版者
駒沢女子大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:02884844)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.19-25, 2003-03-03
被引用文献数
1

食肉をパパイン溶液に浸漬したときのパパインの浸透性と食肉組織変化について、抗パパイン抗体および抗I型コラーゲン抗体を用いた免疫組織化学的検討を試みた。豚肉片を1%パパイン溶液中に2時間浸漬したとき、パパインは食肉表面から0.3mm程度しか浸透しなかったが、表層部ではすでに食肉組織の変化が認められた。処理時間4時間では、パパインの浸透がわずかに進行したものの、表層部においては、食肉タンパク質の過度の加水分解による顕著な組織破壊が観察された。すなわち、パパインが豚肉内に浸透するためには長時間を要すること、ならびに、パパインに長時間暴露すると、食肉表層部において望ましくない過度のタンパク質分解を引き起こすことが示された。この結果は、食肉をプロテアーゼ溶液やプロテアーゼを含む果汁などに浸漬するだけで食肉軟化効果を生じるとする、これまでの報告や概念に疑問を投げかけるものである。パパイン等のプロテアーゼを食肉軟化剤として用いるためには、使用条件を再検討する必要があるものと考えられる。
著者
大曽根 寛
出版者
放送大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、当初、フランスと日本の新しい障害者政策の構造と施行実態に関する比較研究を構想していたが、両国の政策の全体系の比較検討を報告書として印刷するには到らなかった。最終年度の2010年度末に発行した報告書では、焦点を精神障害という領域に絞り、さらに職業支援に関することがらに限定した。それゆえ、最終報告書のタイイトルは「フランスと日本における新しい障害者政策に関する比較研究-精神障害者への職業支援を中心にー」としてある。また、2009年度末に、中間報告書として発行した「フランスの新しい障害者政策の紹介」では、制度・政策の詳細を示している。あわせて参考にしていただければ幸いである。
著者
田中 幸弘 伊藤 壽英 橡川 泰史
出版者
新潟大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

1.ヒアリング本研究課題のため本年度は以下の主体へのヒアリングを実施した。(1)みずほ銀行グループ等いわゆる「サブプライム問題」が本年度7月以降、マーケットで顕在化したことで、証券化商品及び地方債について保証業務を行っているいわゆる「モノライン」会社の信用リスクが顕在化し、当初想定していた地域の再生のために必要なインフラとしてのわが国における証券化型地方債モデルの枠組みの再考が必要となったため、みずほ銀行グループ等、海外・国外におけるCDO等の証券化商品及び地方債を手がける当事者に対して聞き取り調査を実施、解決を要する事項の法的検討を行った。(2)日本格付研究所トムソンフィナンシャル、他日本格付研究所トムソンフィナンシャル等、サブプライム問題による仕組み債、地方債の格付け実務への影響と今後の実務の枠組みの変容の可能性についてのヒヤリングを実施し、上記サブプライム問題顕在化によるマーケット環境の激変に対してどのような問題が地方債及び地方再生の法的枠組みに生じうる課について、投資家サイド(特に地銀)の地域再投資とバーゼルIIの枠組みとの関係、解決を要する事項の法的・実務的検討を行った。2.研究会及びとりまとめ研究分担者3名による研究会を3回実施した。本年度は昨年度の成果を踏まえ、分担者による実地調査の内容の報告と分析及び日本法における地方再生の法的枠組みの検討の論理的な問題・論点のまとめを行う予定であったが、年度中に起きたサブプライム問題による研究テーマへの影響と枠組みの再構築を考えざるを得ず、これに必要なテーマについて整理を行った。各回のテーマは以下の通り。わが国における地方再生の法的枠組みのあり方について・・・証券化型地方債モデルの可能性と法的留意点・いわゆるサブプライム問題の法的構造と地方債モデルにおけるモノライン会社の役割への影響・いわゆるMBS、CDO等の証券化商品の時価評価の枠組みと今後の証券化型地方債モデル構築の際の留意点
著者
織田 公光 相田 美和
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

低ホスファターゼ症は組織非特異型アルカリホスファターゼ遺伝子の突然変異に起因する先天的な代謝異常症である。しかし、遺伝子上の変異がどのように本疾患の発症に係わっているのかに関してはよくわかっていない。本研究では、重症の低ホスファターゼ症で報告されたジスルフィド結合に関わる2例の変異と、優性遺伝することが知られているミスセンス変異の解析を分子レベルで行い、その発症メカニズムを示した。
著者
大倉 昭人 川上 博 井原 武 三浦 章
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. IN, 情報ネットワーク (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.104, no.274, pp.31-34, 2004-08-26

次世代移動体通信網としてIPネットワークの検討が進んでいる。IPネットワークでは様々なトラヒックの品質要求に応じたQoS制御が必要であるが、移動体通信網は花火など端末集中による輻輳や、地震など災害地への呼集中による輻輳の影響を受けやすい。本研究ではIPセルラ網に向けたロバストなQoS制御方式に関し、トラヒック異常検出に基づく予測制御と、線形最適化を応用したマルチパス制御を提案し、シミュレーション評価により方式の有効性と適応範囲を明らかにした。