著者
竹内 幸絵
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

テレビCM放映は1953(昭和28)年に始まったが、「昭和30年代」に入った当初は戦前からの技術的・人的蓄積があったグラフィック広告界が隆盛し、テレビCM界の地位は低かった。しかし当該10年の後半に至って広告メディアとしての両者の社会的地位は転倒する。この現象は、テレビCMを中心に起きた「見て理解する」から「感覚的に受け入れる」への視覚性の画期であったと思われる。本研究は今日の視覚メディアの原点としても重要な本現象を、大量の実広告資料、関係者の聞き取り、雑誌などの周辺資料をもとに多角的な視座から検証し解明を目指す。同時に成果をもとに、メディアの視覚性を歴史認識に取り込む方法論の構築を検討する。
著者
長津 美代子
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

1.研究の概要「個人の枠をしっかりと確保し、配偶者と親和的な関係を築くと同時に、外部の多様なネットワークとも繋がり、重層的な関係のなかで生きること」が理想的な老いの姿となるであろう。こうした理想的な老いを実現するためには、老いの入り口にあたる50代の中高年期に夫婦関係や社会関係の再構築を行う必要がある。平成12(2000)年度は、夫婦関係の再構築尺度を作成し、再構築状況を把握すると共に、それに影響する要因を明らかにした。平成13(2001)年度は、12年度調査から選び出した13名を対象に、結婚3〜40年に及ぶ夫婦としての歴史を夫婦関係の危機との関連で把握すると共に、危機解決にどのような資源が活用されているかをインタビュー調査でとらえた。平成14(2002)年度は、パーソナル・ネットワークの現状と夫婦の情緒的統合およびウェルビーイングとの関連を明らかにした。平成15(2003)年度は、平成13年度に調査したケースを危機発生-対処-適応の二重ABC-Xモデル(McCubbin, H.L.)に当てはめて分析しようとすると、情報不足のあることが判明したので、追加のインタビュー調査を行った。2.結果の概要1)夫と妻に共通して、夫婦関係の再構築に影響している要因は、「夫婦共通の友人の有無」「就寝形態」「夫の母親と妻の関係(嫁姑関係)」「夫婦の個人化」であった。「夫婦の個人化」のみ負の相関で、他は正の相関である。2)夫と妻に共通して、パーソナル・ネットワーク規模、夫婦単位の付き合い組み数は、夫婦の情緒的統合と正の相関が認められた。また、ネットワーク規模の大きさは夫のウェルビーイングを高める要因であるが、妻の場合にはそうした関連が認められなかった。3)夫あるいは妻は、さまざまな資源を活用しながら夫婦間に生じた危機を乗り越え夫婦関係経歴を築いている。その危機は、社会・経済状況の変化によって生じた場合も多く、夫婦関係は社会・経済状況によっても規定されているといえる。
著者
山中 美由紀
出版者
龍谷大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

韓国家族の世代間における位置関係の変化を把握するために、嫁と姑の関係に焦点をあて、韓国水原市において調査を実施した。1992年4月以後、京都韓国学校、韓国文化院資料室(東京)他において資料および情報の収集を行った。9月に訪韓し、韓国老人問題研究所に調査協力を依頼するとともに、水原市において下調べを実施した。調査は、10月ほぼ1カ月間にわたって実施したが、対象者は、嫁として、姑と同居した経験をもつ女性を対象とした。永福女子中学校、永信女子高等学校、老人大学4か所で調査票の配付と回収を行ったが、配付部数は1170部、回収率は80%であった。11月初旬に日本に返送された調査票を整理し780ケースを有効とした。コーデイングしたのち2月にコンピュータによる処理を行った。調査結果のうち主目的であった権威類型については、結婚年次別に分類した4段階の各世代間の変化として、旧世代から新世代に移るにしたがって姑優位型が減少し、嫁優位型が増加する傾向を捉えることができた。また、一致型の減少に対して自律型の増加がみられ、嫁の姑へ追従関係から、嫁、姑の生活領域の個別化の傾向を伺うことができた。こうした嫁・姑の位置関係の逆転現象は、本調査が依拠したところの、増田光吉が神戸市近郊で実施した20年前の調査結果と類似するものであった。
著者
河原 剛一
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

一般的に成人の心筋細胞は終末分化した細胞と考えられ,生まれた直後に分裂能を失い,増殖しないものと理解されてきた。したがって,心筋梗塞や拡張型心筋症によって心筋細胞に壊死が起こった場合,心筋細胞は再生されずに心不全になって死亡する。成人の心筋細胞が生後の分化によって,細胞周期から抜け出して分裂能を喪失するメカニズムは,これまでにも,その重要性から,様々な観点から膨大な研究が行われてきたが,未だ「謎」として残されている。本研究の目的は,「脱分化した終末分化心筋細胞において核分裂と細胞分裂の解離を制御している,すなわち肥大と増殖をスイッチしている制御メカニズムを解明する」ことである。本年度における研究成果は,以下のようにまとめられる。1.昨年度の本研究成果として,新生ラット心室筋細胞の培養系において,RNA干渉法によりCx43の発現をdown-regutationすると,心筋細胞は細胞分裂周期に再突入し,増殖することを明らかにしたが,本年度はそのメカニズムの解明を目指した。その結果,Cx43 knockdownによって,細胞内におけるROS生成が抑えられ,それがp38 MAPK活性の抑制そして増殖能増加につながっていることが分かった。2.昨年度,心筋細胞培養系に対して過酸化水素(H_2O_2)を付加すると,p38 MAPKの活性化を介するCx43発現増加が起きることを明らかにしたが,H_2O_2の付加によるCx43発現の増加は,心筋細胞膜上や細胞内ばかりではなく,ミトコンドリア内膜での発現(mtCx43)も上昇することが分かった。このmtCx43の発現増加が心筋細胞内ROS産生の増加につながり,その結果生じるp38 MAPKの持続的活性化が心筋細胞の分裂能の喪失に関与している可能性を明らかに出来た。
著者
高松 洋一
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

14世紀から20世紀初頭まで存続し、ヨーロッパ、アジア、アフリカにまたがる広大な国土を領有したオスマン朝は膨大な量のアーカイブズを残した。トルコ共和国のイスタンブルにある総理府オスマン文書館の所蔵資料は1億5000点以上を数えると言われ、このアーカイブズは世界史研究において第一級の価値をもつ人類の貴重な財産である。しかしながら1840年代以前の資料は、長く公文書館に収蔵されずにイスタンブル市内の倉庫に分散して保管され、移動を繰り返した結果、少なからぬ資料が失われ、互いに混ざり合い、原秩序の再現が困難になった。1930年代以降オスマン朝のアーカイブズは出所原則に基づき、部局の名称を冠したフォンドごとに整理されるようになった。しかしながら、すでに資料の多くが混交してしまったために、個々の資料についてその出所とされる部局は、推定に基づくのに過ぎず、本来の出所がそのフォンドの名称である部局ではない危険性がある。オスマン朝の政策決定過程は一般にボトムアップ型であったが、中央政府への報告に対して決定された政策が勅令の形で発布されるまで、一つの案件に関わる文書が様々なフォンドに分散して現存している。したがってアーカイブズのこの特質を活かし、ある案件に関し、具体的な文書処理過程を完全に再構成することが可能となる。資料の電子カタログ化により、複数のフォンドに分散してしまった同一案件の処理文書を、データベース上で相互にリンクさせる工夫が期待される。また一連の文書処理過程において、作成された文書の様式は他の文書のテキストにおいて相互に言及され、またテキスト自体も引用され、反復されるため、ときには未発見あるいは散逸した資料の大要を再構築することも可能である。先般の戦争で壊滅的打撃を受けたイラクにおけるアーカイブズも、オスマン朝期に関しては、資料をある程度まで再現することも可能であろう。
著者
鶴田 幸恵
出版者
千葉大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))
巻号頁・発行日
2020

本研究は、女と男に二元化されない新しい性別概念である「ノンバイナリー」というアイデンティティ・カテゴリーがどのようなものかを、カナダでのフィールドワークとトランスジェンダー、ノンバイナリーの活動家へのインタビューをもとに明らかにする。インタビューによって得たデータを、社会学の一つの手法であるエスノメソドロジー・会話分析の方法を用いて分析することで、ノンバイナリー概念が相互行為の中でどのように使用されているのか、またそれによって性別という現象にどのような新たな理解がもたらされているのかを析出する。
著者
古澤 卓也
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2020-04-24

少なくともある程度は競争的な選挙の下で特定の政党が長期間勝利し続ける体制(一党優位制)には、権力が安定するというメリットがある一方で、実質的な競争の不在による腐敗といったデメリットもある。ジョージアでは、安定性と競争性が奇妙な形で共存している。すなわち、常に特定の政党が議会選挙で連続して勝利し国政を支配してきた一方で、第一党自体は定期的に交代してきたのである。本研究はこのようなジョージア政治の特徴を「特殊な一党支配体制」と名付け、そのメカニズムを分析する。本研究は単にジョージア政治に関する理解を深めるだけでなく、政治における安定性と競争性の存立条件を明らかにすることを目的としている。
著者
東 淳樹 長井 和哉
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

ミサゴは、ダム湖という人工的な環境で人為的に移植放流された外来魚に依存して生息分布を拡大している可能性があり、看過できない事態と言える。本研究では、本種の従来の生息地である沿岸部と比べて、ダム湖のほうが本種の繁殖成績がよいとの仮説をたて、その検証を試みる。巣内カメラによる給餌生態、巣立ち雛数や栄養状態、直接観察による採餌生態と採餌環境、GPS送信機による環境利用、移動分散、渡り、遺伝的多様性と遺伝的構造の解析、腸内細菌叢の遺伝子解析による個体の健康状態等について調査を行う。それらの知見を得ること、そしてそれをもとに健全な水域生態系を取り戻すための指針を打ち出すことを目的とする。
著者
岡 瑞起
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

コンピュータシステムで集積された情報の分析結果を,セキュアシステム構築のために活用するためには,結果をユーザに分かりやすく可視化して提示することが必要不可欠である.可視化する際に重要な要素である「色」に注目し,画像に使用されている色の組み合わせが自動的に調和的に変更する技術の開発を行った.既存の手法では,画像の色を変更した際に,大域的な色の整合性が保たれないという問題があり,色の具合に不自然さが残るという問題があった.この問題を解決し,より大域的な空間整合性を確保する手法の提案を行った.この成果は,電子情報通信学会論文誌に採録された.また,Microsoft Research Asia(MSRA,北京)にて6ケ月間の研修を行い,セキュリティ強化のために一般に広く使用されているユーザ認証技術に関する研究を行った.ユーザ認証技術としてユーザの自由な描画(スケッチと呼ぶ)を用いた認識技術を提案した.スケッチをしてもらう絵を用いる,という新しいアイディアの提案を行った.システムのユーザビリティを高めることを第1の目的とし,ユーザが署名を書くときのように絵を書いてもらっても高精度に認識できる方向性パターンという特徴を用いた.方向性パターンとは,スケッチを画像として扱い,検出されるエッジをいくつかの方向に量子化した特徴を指す.方向性パターンを特徴として用いることにより,スケッチの揺らぎを吸収し,精度よく認識を行うことが可能となることを実験データにより示した.この成果を米国特許として申請中(2008年4月現在)である.
著者
清水 徳朗
出版者
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

カンキツ在来品種2,000点以上の網羅的遺伝子型解析から、ナツミカン系統の同一性を確認するとともに、新規な親子関係を見出した。国内自生タチバナの調査から、自生地内でクローンとして個体が維持されていることを確認し、また新規8系統を含む11系統のタチバナを見出した。これらタチバナ系統の遺伝的類似性や地理的分布から、タチバナは主に宮崎県で発生し、タチバナ-Bがヤマトタチバナであることを見出した。系譜情報の育種実装を図るためにゲノムワイド多型の抽出法を確立し、従来の育種の制約を回避する新規な手法「カンキツ2.0」を提唱するとともに、GRAS-Diを利用したゲノムワイド多型推定法の開発を開始した。
著者
小嶋 健太郎
出版者
京都府立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

上脈絡膜腔バックリング手術は強膜と脈絡膜の間に存在する上脈絡膜腔に充填物質を注入することにより網膜と脈絡膜のみを内陥させる新規的術式で裂孔原性網膜剥離に対する低侵襲治療として近年その有効性が報告されている。この手術は有望である一方で、一般化に向けた課題として1)術式に最適化された充填物質および2)術式に最適化された手術器具の研究の必要性が明らかになってきている。本研究では上脈絡膜腔バックリング動物実験モデルを用いて上脈絡膜腔バックリング手術に用いる充填物質と手術器具の最適化に向けた基礎研究を行う。
著者
小宮 友根 北村 隆憲 森本 郁代 三島 聡 佐藤 達哉
出版者
東北学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2023-04-01

本研究は、裁判員裁判の評議において裁判官がおこなうファシリテーションについて、その技法とそれが評議の展開に及ぼす影響を解明しようとするものである。現職裁判官をはじめとする法曹の協力のもと、現実の裁判員裁判に限りなく近い模擬裁判を実施し、その録画を主として会話分析の手法を用いて分析することで、裁判官が用いるファシリテーション技法の会話的特徴とそれが評議にもたらす帰結を体系的に解明するとともに、それに対する学際的な分析と評価をおこなう。
著者
門田 行史 柳橋 達彦 古川 理恵子 三谷 忠宏 中島 振一郎 大貫 良幸
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

小児注意欠如多動症(ADHD)は、脳内のドーパミン(DA)とノルエピネフリン(NE)機能低下が主病態と考えられているが詳細は未だ不明である。近年目覚ましい発展を遂げている脳機能検査を駆使して小児に対して非侵襲的に黒質のDA機能と青斑核のNE機能の定量化を行いADHDの病態に迫る。具体的には、ADHD群と健常者群を対象に黒質NM・青斑核NEの濃度の変化、機能的脳イメージング計測(fMRI/NIRS)による脳活動の変異、多型解析による遺伝子多型を検証し、ADHDのDA/NE機能低下の原因となる複合的な病態の解明と診断・治療の判断基準となるマーカーを開発する。
著者
ASKEW David
出版者
立命館アジア太平洋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

日本では無政府資本主義のみならず、リバタリアニズムに関する研究ですらも相対的に稀であり、これを取り上げること自体に意義はあろうと確信している。欧米諸国においても、無政府資本主義を唱える論考はあっても、無政府資本主義に関する学術的研究は多いとはいえず、特定分野における民営化という個別研究に留まる。本研究の学術的特色と意義は、実証研究と規範理論の両面から、統合的に無政府資本主義の意義と可能性を分析の俎上に登らせたことであろう。研究成果は、無政府資本主義の実証主義的・規範論的意義を確認する複数の学術論文の発表に加えて、現代国家の守備範囲の抜本的見直し、現代正義論の活性化に一石を投じることであった。
著者
山崎 小百合 今井 優樹 的場 拓磨 志馬 寛明 浦木 隆太
出版者
名古屋市立大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2019-10-07

自己免疫疾患は超高齢化社会の日本と世界の先進国で増加している。自己免疫疾患の発症や増悪は病巣感染で誘因されることが知られている。高齢者でも安心に使用できる治療法の開発のため、詳細な機序の解明が急務である。これまでの研究成果を発展させて超高齢化社会で問題となる病巣感染の病態メカニズムに迫り、高齢者でも安心な合併症の少ない治療法の開発への貢献を目指す。
著者
湯浅 資之 上野 里美 谷山 洋三 吉武 尚美 岡部 大祐 アウン ミョーニエン
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

脳の電気化学反応で生じるメンタルヘルスと異なり、生きる意味や人生の目的を質的に認知するスピリチュアルヘルス(SH)は、WHOも健康の定義へ加えることを討議しているが、SHに関する国民の共通理解も無い日本など慎重な国の棄権により追加は見送られている。独自の死生観を持つ日本人に適合したSHとは如何なるものか。本研究者らはその問いに対し「生き方を自己選択すること」との仮説を立て、本研究でこれを実証する。海外の文献を検討してSHの定義と分類、測定法を整理し、アジアや日本でSHに対する意識調査を行い、科学的かつ学際的見地から日本人に適合するSHの定義仮説を検証し、結果を普及するための書籍化を目指す。
著者
河鰭 実之 李 玉花 王 宇
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

農作物の品質に関わる紫外線応答について特にUV-Aに焦点を絞って調査をした.カブ `津田蕪`の芽生えでは,ピーク波長350nmのUV-A蛍光灯ではアントシアニン合成が誘導されるが,単波長の315~345nmではアントシアニン合成はほとんどみられず, 315nmと355nmの共照射によってアントシアニン合成が誘導された.網羅的な遺伝子発現解析の結果,UV-A特異的に発現が誘導される遺伝子群があり,そののなかには,アントシアニン合成系遺伝子の他にROS応答に関わる遺伝子が多数含まれた. この間のROSの発生は明らかでなかったが,青色光によるアントシアニン蓄積ではROSの関与が示唆された.
著者
坂本 忍
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

精巣腫瘍の増加、精子数の減少、不妊の増加、乳癌の増加、子宮内膜症の増加などが「内分泌撹乱物質」との関連を懸念されている。我国の約13万人の女性が内膜症治療を受け、患者数は100万人を越えるとまで言われている。内膜症の発生と進展に与える内分泌撹乱物質の影響は、PCB、DDT、ビスフェノールAなどのように直接エストロゲンレセプターを介するものが先ず第一に考えられるが、ダイオキシン類のようにサイトカイン制御異常から免疫防御機構の破綻が原因することも大いに考えられる。流産防止の目的でジエチルスチルベストロール(DES)を投与された妊婦から生まれた子に、膣癌、子宮形成不全、精巣萎縮などが発生し大きな社会問題に成ったことは余りにも有名な話しである。本科学研究費補助金の援助を得て、イソフラボン、ビスフェノールAなど内分泌撹乱物質のマウス子宮腺筋症と乳癌の発生と進展に与える影響を、子宮腺筋症と乳癌が自然発生してくるSHNマウスを用いて検討した。SHNマウスは商業的には購入不可能な閉鎖系のために、当該実験動物施設内でのみ自己繁殖が可能であり、繁殖作業と実験作業を平行して行っている。そのために研究計画は未だ終了しておらず、現在も進行中であるが、一応の結果は得ている。また、本研究中に派生的に生じた興味ある実験結果を報告した。すなわち、血管新生阻害因子がこのマウス子宮腺筋症の進展を抑制するというものである(Fertil Steril 80 : 788-794,2003)。