- 著者
-
岩田 浩子
- 出版者
- 名古屋女子大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1998
本研究では育児行動に着目し,生活行動としての意義と行動特性を明らかにすることを目的に,(1)「おんぶ」と「抱っこ」の現代における意義,および,(2)その行動様式の特徴と作業負担についての分析を試みた。結果を要約すると以下のとおりである:(1)人間の様々な行動様式の中で,労働と育児を同時に担えるおんぶは「運搬法」として抱っこよりも大きな役割を果たしてきたと考えられる。しかし,最近ではおんぶや抱っこは乳児運搬法としてよりも親と子が密接にふれあう方法としての意義が強まっていると考えられる。(2)野外観察によれば,とくに余暇活動時には父親が運搬具なしで背負ったり,片腕だけで抱く事例が数多く観察された。運搬具なしのおんぶや片腕だけの抱っこは子どもが姿勢保持できることと覚醒時に限られ,それ以外は運搬具を用いるか,抱っこにも両腕を用いる必要がある。(3)両腕を用いる抱っこの場合,親子の向き合い方は対面型が最も多く,側面型も約38%あった。子どもを抱く位置は親の胸の中央が最も多く(44%),次いで右側(35%),左側(21%)の順だった。また,親子の向き合い方と抱く位置とは関係なしとはいえないことが分かった。(4)女子大学生を被験者とし,ダミーを用いた抱っこの実験室的観察において,被験者の抱き方は野外観察の親子に見る乳児の抱き方とほぼ同じだった。抱っこの姿勢は通常の直立姿勢よりも全身はやや後傾し,頭部前屈が強まる傾向にあるが,腰部背屈角度には大きい違いはない。(5)ダミー(66cm,7.5kg)を3分間抱いて立つ課題実験において,ダミーを揺さぶる動作や背中や腰部を軽く叩く動作が観察された。時間経過にともなって,踏みかえ動作が現れる被験者もあった。また,抱き続ける間,比較的動きの少なかった被験者にも前脛骨筋と腓腹筋の筋電区には左右相反的で持続的放電が見られ,下肢部にかなり負担がかかっていることが分かった。