著者
塩見 浩人 田村 豊 中村 明弘
出版者
福山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本助成金を用いたモルヒネ耐性形成機序解明について、既に掲出した本年度の研究計画に基づき研究を遂行し、以下の成果を得た。1)急性実験において、アデノシンはモルヒネ誘発鎮痛作用を抑制するがこの抑制作用はアデノシンA1受容体を介して発現することを明らかにした。2)脳実質内微量投与法を用いて、モルヒネ誘発鎮痛作用を抑制するアデノシンの脳内作用部位として延髄巨大細胞網様核(NRGC)、延髄傍巨大細胞網様核(NRPG)、中脳水道周囲灰蛋白(PAG)を同定した。3)モルヒネ耐性形成ラットにおいて、NRGC、NRPGあるいはPAGにアデノシンA1受容体拮抗薬を微量投与することによりモルヒネの鎮痛効果が有意に回復することを明らかにした。この結果は、耐性形成時、脳内アデノシン系の活性化が起こっており、遊離アデノシンがA1受容体を介してモルヒネの鎮痛作用を抑制していることを強く示唆している。4)N-アセチル-β-エンドルフィン(NABE)もNRGC、NRPGあるいはPAGの部位においてモルヒネ誘発鎮痛作用を抑制したがこの抑制作用は、アデノシンA1受容体薬を微量併用投与により拮抗され、NABEの作用はアデノシンを介するものと考えられた。5)本助成金で購入したプッシュプルポンプユニットとプッシュプルサンプリングユニットを用いて、脳実質内からアデノシン遊離量を測定した。脳内アデノシンの遊離は、NABEの適用によって増加した。さらに、モルヒネ耐性形成と共に増加した。これらの成果より、モルヒネの耐性形成機序は、モルヒネによりオピオイドペプチドの代謝が促進し、その代謝産物(特にNABE)が脳内に増加するが、このNABEがアデノシンの遊離を促進し、遊離アデノシンがアデノシンA1受容体を介してモルヒネの鎮痛作用を抑制することによることが強く示唆された。
著者
澤 亮治 和田 健太郎 藤嶋 翔太 図斎 大 府内 直樹
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2022-04-01

限定合理的な人々が相互依存しあう社会における制度設計の分析手法の確立を目指す。制度設計の一手法であるEvolutionary Implementation(進化的制度設計)は、人々が相互作用しあう状況を進化ゲームによりモデル化し、人々の行動遷移を考慮した動的な制度の設計が可能である。大規模な社会システムの設計に適していると考えられるが、一様なプレイヤーの仮定など、手法の適用を困難とする制約がある。数理解析・シミュレーション技法により適用上の課題を解決し、この手法の汎用化を目指す。
著者
坂本 健太郎 青木 かがり
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2020-07-30

鯨類の潜水能力は哺乳類の中で最大である。潜水中には、心拍数を低下させるなど、何らかの循環器系の調節を行う事で、このような長期間の潜水を可能にしていると考えられている。これまでは水中で遊泳する鯨類の心機能を経時的に計測することが出来なかったため、その生理機能は謎に包まれていた。本研究では潜水を行う鯨類から長期間にわたって心電図計測を行い、鯨類の潜水能力を循環器系制御の側面から解明することを目指す。
著者
吉浦 康寿 吉川 廣幸 木下 政人
出版者
国立研究開発法人水産研究・教育機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

現在、ゲノム編集技術による養殖魚の品種改良が注目されているが、実用化した場合、環境保護の観点において、ゲノム編集魚の逃亡による野性魚との遺伝子交雑問題は避けられない。そこで、養殖魚の不妊化に着目した。魚類では、三倍体化等の不妊化技術はあるものの、いずれの方法も実用化にあたり確実性が乏しい。本研究は、ゲノム編集技術を用いて100%の不妊化が可能な遺伝的不妊魚の作出を目指す。また、この不妊魚は次世代を作出できないため、大量生産が難しい。この課題を克服するため、代理親魚法を利用して、これらの遺伝的不妊魚を簡便かつ大量生産する技術を開発する。
著者
鈴木 仁
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

この数百万年間度重なる大陸からの渡来の波が3方向からあり、しかも列島は南北に長くいくつかの地理的障壁が存在するため、日本の小型哺乳類相は相当複雑な構成になっていると考えられている。この小型哺乳類の歴史的構成を理解するために、種間、種内の遺伝的交流について解析した。主として対象としたのはヤマネ類およびネズミ類で、北海道、本州・四国・九州、琉球の3つの地理的ドメインよりサンプルを採集した。用いたDNAマーカーとしてはミトコンドリアDNA上の遺伝子(cyt b)や、核の遺伝子(IRBP)の塩基配列の変異を用いた。大陸の近縁種と遺伝的変異の度合いを調べたところ、日本産の小型哺乳類は比較的高い遺伝的固有性を保持していることが明らかとなった。特に、本州、琉球ドメインに生息する種は高いレベルを示した。しかし、このレベルは同じ地域に生息している種間で異なっていた。高いレベルの同種内の遺伝的多様性の度合いはヤマネ、トウホクヤチネズミ、アカネズミ、トゲネズミで観察され、また大陸の集団との比較でタイリクヤチネズミ、タイリクヒメヤチネズミにおいて観察された。これらの結果は日本列島は種の多様度や遺伝的多様度を高める上で重要な役割を担っていることを示唆している。さらに、これらの分子系統、および生息分布を考慮すると、度重なる種間、地理的集団間の遺伝的交流が小型哺乳類の多くの種においてその種分化の過程の中で存在したものと推察された。
著者
鈴木 仁
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

ネズミ亜科の進化的動態をハツカネズミ属、アカネズミ属、クマネズミ属、ヤネズミ属において分子系統学的手法を用いて解析した。これら属間の分岐は、核の遺伝子の変異(IRBP遺伝子1152bp、RAG1遺伝子1002bp)およびミトコンドリアDNA(cytochrome b遺伝子1140bp)の変異に基づく系統解析から、ほぼ同時期に分化したことが示唆された。さらに、ユーラシアに分布する種を中心にハツカネズミ属4亜属12種の分子系統学的解析を3つの遺伝子領域について行った。その結果、4つの亜属の分岐は、進化的に短い時間の中で生じ、さらにハツカネズミ亜属において3つの単4系統グループが短期間にそれぞれ異なる地域において分化したことが示唆された。つまり、ハツカネズミ属の種分化は2段階の放散で説明できることが明らかとなったが、興味深いことに、このパターンがアカネズミ属においても認められた。したがって、第三紀後期の地球環境の変動がユーラシアの亜熱帯域および温帯域の異なる地域に生息するネズミ類の系統分化の重要な原動力となったものと思われた。さらに、ネズミ類における系統分化の要素として、1)ユーラシア大陸の構造と地理的隔離、2)異なるニッチへのシフト、そして、3)同一のニッチを持つ姉妹種との共存(ニッチの分化)を挙げられ、これらの要素が種の多様性を理解する上での基礎的要素であると考えられた。クマネズミ類については現在解析を進めているところであるが、上述の傾向を示すことが確認されている。一属一種のカヤネズミは、例外的に種の多様性のレベルが極端に低く、これは第四紀の中盤以降の絶滅が原因であることが分子系統学的解析と化石データの照合から明らかにすることができた。以上のように、ネズミ類の系統解析は地球環境の変動の様相を知る上で重要な知見をもたらすものであることも認識することができた。
著者
小川 修
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

本研究は、還元拡散法による希土類機能性材料として希土類磁石を選び、拡散に関する実験を行なったものである。当初はCo中へのSmの拡散、及びFe中へのNdの拡散の両方を取り上げたが、後者の場合NdはFe中には容易には拡散せず、長時間の熱処理によっても進展が見られなかったので、研究の後半では前者のCo-Sm系に的を絞った。Co中へのSmの拡散は、「研究成果報告書」に詳述した理由から、溶融Sm-Co合金とCoブロックで拡散対を構成したが、拡散が起きる前にCoブロックの表面が不均一に溶け出す現象を抑えることができず、このため拡散層厚が非常に不均一になった。そこで、Coブロックを溶融Sm-Co合金の蒸気と接触させる方法に切り換えたところCoの溶出が抑えられ、かなり均一な厚さの拡散層が得られたので、以後はこの方法によった。最も成長の速い相はSmCo_5で、その内側にSm_2Co_<17>の相がわずかに成長した。最も外側に現れているSm_2Co_7の相は試料断面の研磨中に失われることが多く、層厚の測定ができなかった。結果として1050、1100及び1150℃の各温度で、SmCo_<17>相におけるSmの拡散系数が求められた。本研究で採用した方法をヒントに、Sm_2O_3-Caチップの混合物をCo粉末と直接には触れないようにして還元拡散プロセスを行なわせたところ、カルシウム分による汚染の少ないCo-Sm合金が得られた。これは言わば「還元・揮発・拡散法」と呼ぶべきもので、比較的蒸気圧の高いSm等には有用な方法であろう。また、一旦SmCo_5の層を大きく成長させた後、Sm蒸気の無い条件で1100〜1200℃に保持すると、SmCo_5相をSm源とする拡散が進行してSm_2Co_<17>相が大きく成長することを確認した。この二つの結果は、工業的に未完成な還元拡散法によるSm_2Co_<17>素磁石材料の製造につながる有望なものとして、今後も検討を加える予定である。
著者
天竺桂 弘子 佐藤 令一
出版者
東京農工大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2020-07-30

宿主体内への侵入は、多胚性寄生蜂において寄生成功の必須要件である。この侵入において、多胚性寄生蜂の桑実胚は宿主組織内に損傷を与えることなく侵入し、むしろ宿主は桑実胚を積極的に迎え入れる。このような組織親和的侵入は、一般的に動物界で広く知られる遠縁種間の急性型移植拒絶反応を回避するユニークな現象で、その仕組みとして分子擬態が示唆されてきた。本研究では申請者らがこれまでに多胚性寄生蜂の胚発生期の遺伝子発現解析で得られた情報を基に、組織親和的侵入の仕組みを解明することを目的とする。
著者
米田 稔 瀬戸口 浩彰 原田 浩二 福谷 哲 高橋 知之
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

福島第一原発事故で放射能汚染された地域の復興では、森林活動の復活が欠かせない。本研究では、実際に被災した村が考える森林を活用した復興のあり方を実現するための知識の普及、技術の確立、村有林等を対象としてモデル事業を実施した場合の有効性の検証を行う。その研究内容は大まかには以下に分類される。1.森林を活用した住民の生活時間パターンの把握とそのパターン毎の被曝量評価2.現地での天地返し法を主たる除染法とした線量削減効果の評価3.様々な健康リスクを考慮した森林活用健康生活モデルの提案4.村有林を対象としたパイロット除染事業の可能性検討と効果の予測これらの研究を実施し、帰還地域の復興加速化に貢献する。
著者
清水 靖久
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

この研究では、丸山真男の政治思想を戦後民主主義との関連で思想史的に解明してきた。丸山は、戦後民主主義は虚妄だったと論じられるようになった1964年、「大日本帝国の「実在」よりも戦後民主主義の「虚妄」の方に賭ける」と記した。丸山にとって大日本帝国は良心の自由を侵す超国家主義の体制だったが、それからの歴史的転換において人民主権の思想を選んでから、たえず民主化する「永久革命」として民主主義を説いてきた。戦後民主主義に「虚妄」の面があったことはよく知りながら、民主主義を日本社会に根づかせるための思想的営為を続けたが、大日本帝国を経験していない若い世代には伝わりにくかったことを明らかにした。
著者
青木 孝夫 原 正幸 樋口 聡 桑島 秀樹
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

申請書の研究の目的に示したように、藝道に代表される日本の伝統的藝術観は、西欧の近代的藝術観から疎外される形で成立したが、現代文化に於いて重要な意義を担っており、作品に結実する独創性の美学とは別の藝術的実践の美学を支えている。その藝道思想の現代的活用の探求を進め、美的文化の日常的実践やその身心観を考察した。天才や独創性の神話を離れて展開した藝術は、複製技術の普及と絡み広範な美的実践として姿を現し、従来の藝術の境界を突き崩し拡大している。この点の探究を、研究の実施計画に従い、各分担者が進めた。その具体的内容を記す。青木は、上記の事態を習い事や美的教養の伝統に即して解明し、また文化の日常的な実践や礼儀・作法など藝道の名では呼ばれていない、実践するアートの享受と自己涵養の思想的解明に尽力した。樋口は現代の文化的実践が前提する東洋的身心観の特性を西欧との比較の上に探究を進め、知的藝術観とは異なる身心の涵養に関わる東洋的身心観及び藝術観を考察した。原は、現代の文化実践を支える東洋の礼楽思想や音楽的実践などを、東西の古典に即し比較学的に推進した。桑島は、現代文明が生み出した美的理念でもある崇高が、所謂藝術現象に限定されない広汎な文化現象と関わることに着目し、その淵源を理論的歴史的に探究し、なお現代文明に於ける文化実践の意義を検討した。以上を受けて青木が総括した。本研究の意義について簡単に述べる。習い事や美的教養また東洋的身心観の解明を進め、人間性の身心両面に亘る涵養と表現の問題を、何よりもまず〈藝術〉として了解してきた日本の伝統を解明した。以上を基礎に、その発展的形態である藝道・武道・礼法・躾け・嗜み・スポーツなど、広義のアートと呼ばれるべき文化的実践の意義を現代的文脈に於いて解明し、それが現代文明が必要とする身心の全面的「教養」即ち涵養と関わることを解明した点が格別重要である。
著者
古東 哲明 高橋 憲雄 原 正幸 中村 裕英 青木 孝夫 桑島 秀樹
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

1.研究実習・研修会の開催と実践的コラボレーション:臨床哲学研究会(計100回)および人間文化研究会(計20回)を開催した。新皇ゼミナール(計30回)を通じ広島県の政・財・官のトップリーダーへの思想啓蒙活動を行った。また研修講演会(計10)を開催すると同時に、実技指導、ワークショップを行なった。2.海外調査・研修:原、町田、菅村が中国(武漢/昆明/西安)へ、中村がイタリア、島谷がポーランド、大池がアフリカ、辻が韓国、村瀬がフランス、堀江がドイツ、桑島がアイルランドへ渡航し、現地調査・資料収集にあたるとともに、海外研究者との研究交流を行った。3.電子装置整による研究環境づくり:購入したパソコンを駆使し、データベース構築を充実させ、内外の研究者や関心ある医療現場・学校教育・宗教的治癒現場のスタッフ、一般市民との交流環境を整備した。4.資料室・機械室設営と図書収集・工房環境整備:思想資料室、芸術工房を整備し、芸術学、応用倫理学、現代思想、日本思想に関する諸文献を収蔵し、研究者が常時閲覧できるようにするとともに、カメラやTVなど各種電子機器による実習環境を整えた。5.理論構築と実践的技法の探求:上記資料の精密な解読により、研修や調査と関連づけながら、諸論文を執筆しあたらしい哲学や実践理論や倫理論や美学を構築し論文を作成し、各学会で公開すると同時に、綿密な報告書を作成した。6.機関誌及びニューズレターの編集と発刊:執筆者を内外ひろく募り、新規購入の印刷機器を駆使し、『臨床哲学研究』第5〜8号を発刊した。ニューズレター『制作科研通信』等を定期的に発刊した。
著者
利島 保 樋口 聡 鳥光 美緒子 坂越 正樹 藤川 信夫 小笠原 道雄
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

ポスト・モダン的状況下における教育科学の課題に関して日独協力研究を実施した結果、下記の諸点について新たな知見が得られた。美学、身体性の観点から:「ミーメーシス」は美学の特殊な術語として理解されてきたが、「模倣」「倣う」「写す」という日本語の意味の広がりにおいて捉えるとき、ゲバウア、ヴルフ等のドイツにおける研究と連関させられる。模倣の身体性、芸術制作の創造性とともに日本の伝統的な学びのスタイルが模倣と習熟にあったことが学びの復権として改めて注目されるべきである。環境問題の視点から:環境は今や教育の一対象領域にとどまらず、今日の教育を再構築する根底的視点となっている。ドイツにおいても「持続可能な発展」のキーワードのもと、多様な文化的能力、課題発見・解決能力の形成がめざされており、日本での「生きる力」「新学力」との共通教育課題が確認された。研究の全体を通して以下のことが指摘される。教育学のポストモダン体験以降、理論レベルでは人間形成に関する理解の流動化が認められた。実践レベルでも「教育の実定性」への懐疑から、近代学校教育の周縁部で新たな人間形成理解が胚胎しつつあった。近代の理性に基づいた知から感性、身体性に基づいた教育の知への転換は、閉塞状態にある今日の教育と教育学の枠組みを組み換え、新たに展開する可能性を示唆している。その契機となるものが、芸術や環境との身体を伴った相互体験、プログラム化されない他者との一回的出会い等であることも明らかにされた。
著者
佐藤 臣彦 樋口 聡 小林 日出至郎 新保 淳 杉山 英人 木庭 康樹 林 英彰 GUNTER Gebauer 周 愛光
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究プロジェクトでは、スポーツは単なる身体的事象ではなく, 他の芸術分野と同様、それ自体の独自性を持つ文化であることを理論的に明らかにするとともに、すでにギリシア時代に、自らの身体能力自体を競い合う心性が存在していたことを明らかにした。また、身体についても, 単なる自然的存在ではなく、大きな可塑性を有する文化的存在で、その育成には体育(身体教育)が決定的に重要な役割を果たしていることを明らかにした。
著者
榊原 哲也 西村 ユミ 守田 美奈子 山本 則子 村上 靖彦 野間 俊一 孫 大輔 和田 渡 福田 俊子 西村 高宏 近田 真美子 小林 道太郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、これまで主として看護研究や看護実践の領域において注目されてきた、看護の営みについての現象学的研究(「ケアの現象学」)の、その考察対象を、医師による治療も含めた「医療」活動にまで拡げることによって、「ケアの現象学」を「医療現象学」として新たに構築することを目的とするものであった。医療に関わる看護師、ソーシャルワーカー、患者、家族の経験とともに、とりわけ地域医療に従事する医師の経験の成り立ちのいくつかの側面を現象学的に明らかにすることができ、地域医療に関わる各々の当事者の視点を、できる限り患者と家族の生活世界的視点に向けて繋ぎ合せ総合する素地が形成された。
著者
小嶋 芳孝 岩井 浩人 中村 亜希子
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

ロシア沿海地方の渤海(698-926年)時代の遺跡から出土した土器・瓦・金属器の製作技法や形状などを調査し、C14年代測定結果や中国の唐代の紀年名資料などを参照して遺物の編年を作成する。研究は国内での検討会と、ロシア沿海地方の渤海時代の遺跡から出土した遺物の調査をおこなう。ロシアでの調査は、ウラジオストクに所在するロシア科学アカデミー極東支部歴史学考古学民族学研究所の協力を得て実施する。
著者
キタ 幸子 上別府 圭子
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2015-08-28

周産期のIPVと産後の虐待的育児・育児困難感との関連及びその心理要因を明らかにすること目的に、平成28年7月~平成29年9月に妊娠後期・産後1か月・産後3か月における縦断観察研究を行った。その結果、周産期のIPVは産後の虐待的育児・育児困難感と関連し、更にその関連への心理要因として産後うつ病及びボンディング障害が明らかになった。本結果から、産後早期の児童虐待防止に向けて、妊娠中のIPV早期発見と軽減に向けた介入の必要性が示唆された。更に、IPV被害妊婦に対しては産後の児童虐待・育児困難感予防に向けて、産後うつ病及びボンディング障害の早期発見及び発症・重症化予防の取り組みの重要性が示唆された。
著者
井谷 惠子 関 めぐみ 井谷 聡子
出版者
京都教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究では,批判的教育研究の立場から,権力的マイノリティとしての「体育嫌い」の声に 注目し,負の経験として「体育嫌い」を封印するのではなく,エンパワーメントの可能性を 探り,新たな体育カリキュラムへの示唆を得ることを目的とする.クイア・ペダゴジーや身 体・健康リテラシー,及び先行的な実践について調査を行うとともに,「体育嫌い」を自認 する人々によるグループワークを通して,それまでの経験の振り返りと意識の変容について フォーカスグループ(以下,FGと略す)を設定し検討を進める.
著者
黒田 直史
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究では,反陽子の荷電半径と呼ばれる電気的な広がり,つまり反陽子の大きさを測定する。通常の水素原子に含まれる陽子の荷電半径は,近年これまで知られていた値より小さかった可能性が高まっている。陽子荷電半径問題とよばれるこの問題に反物質の側から迫るとともに,これまで不可能だった陽子と反陽子の大きさの比較を通して物質と反物質の間のCPT対称性のテストを行う。そのために,水素原子ビームを用いて実験装置と手法の開発を進めて十分な精度を得たのち,CERNで供給される反水素原子ビームを用いてマイクロ波分光を行う。反水素原子のラムシフトを高精度で測定することで,反陽子の荷電半径を世界で初めて決定する。
著者
茶谷 直人 久山 雄甫
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は、<魂><精神><身体>からなる「人間三元論」の系譜について、「プネウマ」から「ガイスト」にいたる概念の連なりに着目しつつ多角的に考察するものである。当年度は、茶谷と久山のそれぞれが発展させてきたギリシア哲学研究(プネウマ・プシュケー研究)とドイツ文学・思想研究(ガイス ト・ゼーレ研究) を発展的に継続させつつ、相互的な討議を行うことで、ひとまとまりの系譜論の構築をめざす作業を昨年度に引き続き遂行した。一連の作業を通じての本科研最重要の実績は、2021年12月12日に阪神ドイツ文学会シンポジウムとして「プネウマ、スピリトゥス、ガイスト――概念史点描の試み」をオンライン開催したことである(本科研が共催)。本シンポジウムでは茶谷がアリストテレス、久山がゲーテについて発表したほか、河合成雄氏(神戸大学教授)がフィチーノ、蘆田祐子氏(神戸大学博士課程後期課程)がシュティフターについてそれぞれ論じ、プネウマからスピリトゥスをへてガイストにいたる概念史を素描した。本科研が計画していたヨーロッパ思想史再検討の一端がこれによって実現したと言える。この実績は、本科研の最終的な目的である、プネウマとガイストをめぐる論文集刊行に向けてた蓄積作業を大きな柱の一つとなるものである。その他久山は、昨年度より延期されていた国際独文学会での口頭発表(ゲーテの『メルヒェン』論)をオンラインで行った。これは高い評価をえて国際論文集掲載の依頼があったため、発表内容を論文化して提出した(未刊)。また産総研でゲーテと化学についての招待講演を行い、一般雑誌『未来哲学』にゲーテ・ホムンクルス論を寄稿するなど、国内でも研究成果をひろく学際的ないしは社会的に提示し検討する機会に恵まれた。