著者
吾郷 由希夫 中澤 敬信 近藤 昌夫 鈴木 亮
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究では、統合失調症の確度の高い遺伝的要因としてのコピー数変異に着目し、7q36.3微細重複によるVPAC2受容体過剰活性化の病態生理学的意義の解明と、難治性統合失調症の克服に向けた新しい治療技術・創薬戦略の基盤構築を目指す。具体的には、①患者由来細胞とマウスモデルを用いた病態神経基盤の解明と創薬モデルとしての妥当性検証、②生理活性物質等の脳内(部位特異的)送達技術の開発を行う。
著者
相澤 風花
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

がん化学療法に伴う副作用のうち、しびれや痛覚過敏を生じる末梢神経障害は、難治性であり、既存の鎮痛薬等をもってしても十分な効果は得られていないのが現状である。これまでに、化学療法施行時に生じる末梢神経障害の標的分子も複数報告されているものの、その有効性は基礎的検討のみにとどまり、臨床応用には至っていない。本研究は、実臨床データである大規模医療情報データベースを用い、既承認薬から新たに化学療法誘発末梢神経障害の予防薬を探索する。加えて、遺伝子発現データベース解析やモデルマウスを用いた基礎薬理学的検討から、有効性ならびに作用機序を明らかにすることで、エビデンスに基づいた予防戦略の確立を目指す。
著者
室寺 義仁
出版者
高野山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究代表者は、サンスクリット文学の黄金期を迎えるグプタ朝期のサンスクリット仏教文化圏における伝統的アビダルマ教学と教義解釈の研究を遂行中である。研究対象は、主として当時の仏教思想界を代表する学匠であるヴァスバンドゥ(ca.400)の諸著作である。当該研究課題にかかわる研究として、まず「経部-初期Sautrantika-」と題する論考を公表し(『高野山大学論叢』39巻、2004年)、近時の「経量部(Sautrantika)」研究に対して新たな観点から根本的な問いかけを行った。その本格的研究として、初年度、ヴァスバンドゥの主著たる『阿毘達磨倶舎論』に表れる「経部」〔真諦・玄奘に共通する漢訳語。一方、「経量部」の語は荻原雲来に始まる和訳語〕の人々が主張する諸見解について、加藤純章(『経量部の研究』1988年)が行った、サンガバドラ(ヴァスバンドゥと同世代の後輩)が著した『順正理論』との比較考察を、再検証し、先行諸研究では十分には検討されて来なかった漢訳のみで伝わるアビダルマ教学の注解論書である『毘婆沙』3本(大正Nos.1545-1547)との比較吟味を行った。成果の一部は、「『阿毘達磨倶舎論』における'utsutra'」(『印佛研』54巻2号,2006年)と題し公にした。次年度(平成18年度)は、加えて、代表的大乗経典である『華厳経』「十地品」に対する現存する唯一の論、ヴァスバンドゥ作『十地経論』を参照しつつ、「金鉱石の比喩」解釈について分析を行い、成果の一部を、『望月海淑博士喜寿記念法華経と大乗経典の研究』に公表した。また、9月に高野山大学で開催された国際密教学術大会(ICEBS)において、華厳経研究パネルでパート発表(英文)を行った。最終年度(平成19年度)には、これらの成果を研究成果報告書(全106頁)としてまとめ得た。なお、本研究遂行の一環として、京大人文研における「真諦研究」会に参加し、『倶舎論』の漢訳初訳者でもある真諦を取り巻く5・6世紀の中国仏教界について多くの知見を得つつある。
著者
花山 奨
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の成果は以下の3点である。1)初期の土壌含水量によって、土壌から田面水へのリン溶出量が異なり、また田面水中の植物プランクトンの増殖に違いが生じた。2)田面水中の水流が、大気―田面水間のガス交換を促進し、藻類の増殖に正の影響をおよぼした。3)巻貝の濾過摂食による緑藻類からの無機態リンの回帰率は、約0.2と低かった。また、巻貝による土壌表面の付着藻類の摂食は無機態リンの回帰を促進し、リン回帰量は巻貝の種類によって違いが生じた。
著者
戒能 智宏
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

分裂酵母(S. pombe)のコエンザイムQ10の欠損株の生育には、システイン(Cys)やグルタチオンなどの抗酸化物質の添加が必要であるが、CoQ欠損が遺伝子発現に及ぼす影響は明らかにはされていない。そこで、CoQ合成不能株の遺伝子発現をマイクロアレイを用いて調べたところ、イオンや硫黄を含む分子種に関連するトランスポーターの遺伝子に発現の増加が見られた。また、システイン合成酵素遺伝子破壊株は、過酸化水素やパラコートに対して強い感受性を示し細胞内の活性酸素種(ROS)量が顕著に増加していた。
著者
秋元 望 古江 秀昌
出版者
生理学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、慢性疼痛の一つである神経障害性疼痛の発現時にみられる炎症性サイトカインが内臓、特に下部尿路の自律神経制御に与える影響について調べることを目的として行われた。炎症性サイトカインを脊髄に灌流投与を行ったところ、頻尿を誘発するサイトカインと、排尿間隔を広げるものがあることがわかった。また、下部尿路から脊髄への伝達では膀胱と尿道のそれぞれから別々の神経を介して情報が伝達されることがわかった。これらの結果から、下部尿路から脊髄へ入力された圧変化や知覚の情報は複数の種類の細胞に伝達され、これらの細胞にサイトカインが作用し、排尿に影響を与えることがこれまでの研究によって示唆された。
著者
島田 潤 渡辺 祐基 小峰 幸夫 佐藤 嘉則 木川 りか
出版者
独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

紙資料を食害するシミ類は、日本の博物館・美術館・文書館に広く分布しており、貴重書の保存において重要な害虫の一つである。これまで国内で知られているシミとは異なる種が博物館と文書館で相次いで確認された。いずれも生息個体数が多いという共通点があったことから、既知種とは生態が大きく異なり強い繁殖力を持つことが考えられる。本研究ではこの未知種に関して、全国の施設での分布状況の把握を行い、本種を特定し、食性や繁殖力などの生態学的な特徴を解明する。さらに、文化財IPMの考え方に基づく有効な新規防除方法の確立を目的とする。貴重書を始めとする紙資料の保存の観点から、早急な調査と対策が必要とされる。
著者
對馬 敏夫
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

ヒト甲状腺腫瘍では幾つかの癌遺伝子の異常、あるいは成長因子受容体の過剰発現などが報告されている。しかし細胞増殖に関与する情報伝達に関する異常は明らかにされていない。MAPキナーゼカスケードは各種細胞において細胞増殖や分化に重要な役割を果たす。そこでヒト甲状腺腫瘍組織におけるMAPキナーゼ(MAPK),その上流に存在するMAPKキナーゼ(MEK),Raf-1の発現、その活性を正常組織で比較した。甲状腺乳頭癌とろ胞癌組織では大部分でMAPK,MEKの発現量、活性ともに正常部に比して数倍に増加しており、これは免疫組織学的にも証明された。Raf-1活性には差がなかった。一方、良性の腺腫やバセドウ病組織ではMAPK,MEK,Raf-1ともに正常と差がなかった。培養した正常甲状腺細胞にIGF-Iなど種々の成長因子を添加した場合にも増殖に先んじてよMAPKが活性化された。癌組織ではGF-I,IGFBP-2 mRNAの発現増加も観察された。以上よりMAPKカスケードは腫瘍発育に関与する可能性が示唆される。今後の方針としてはMAPK,MEKの遺伝子自体に異常があるか否かを明らかにしたい。
著者
朝田 郁
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究では、イエメン・ハドラマウト地方出身のアラブ移民ハドラミーに注目し、彼らの移住活動を支える現代的なファクターの解明を目的とする。特にインド洋海域世界の西側、東アフリカとアラビア半島の間に構築された、彼らのネットワークの多元的な理解を目指している。これまでの調査では、東アフリカ・タンザニア島嶼部のザンジバルと、アラビア半島の湾岸産油国アラブ首長国連邦のドバイ、アブダビ、そしてアジュマーンを対象として、現地に存在するハドラミーのコミュニティでフィールドワークを実施した。ザンジバルは東アフリカ沿岸部の中でも、20世紀の後半まで多くのハドラミー移民を集めた場所であり、アラブ首長国連邦は近年、ハドラミー移民の新たな移住先となっている場所である。調査においては、ホスト社会と移民の関係を使用言語、共有されたイスラーム的規範、そして移民の送り出しと受け入れに関わるエスニシティの役割を通して記録している。2020年度は、後述のように新型コロナウイルス感染症のパンデミックを受けて、現地への渡航が不可能であった。そこで収集済みの調査資料から、移民とホスト社会で共有されているイスラーム的規範についての分析を進めた。ハドラミー移民は、独自のスーフィー教団をホスト社会に導入しており、ザンジバルのコミュニティではその活動が顕著に見られるようになっている。特に、長年にわたって現地政権が禁止していた公の場での宗教的祭事が、近年、スーフィー教団を中心に様々な形で復活している。一方で、アラブ首長国連邦におけるハドラミー・コミュニティでは、スーフィー教団の活動は認められるものの、その影響は限定的なものに留まっていた。また、東アフリカからの再移住者とイエメンからの直接の移住者の間でも、スーフィー教団の活動に対する関心に温度差があり、必ずしも同様のイスラーム的規範が共有されているとは言えない面があった。
著者
齋藤 竹生
出版者
藤田医科大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

クロザピンは無顆粒球・顆粒球減少症を引き起こす。本研究の目的は、未だ解明されていないこの副作用の発症機序の解明である。この副作用に免疫学的機序が関与することを検証するため、クロザピン誘発性無顆粒球症(CIA)群の末梢血単核細胞を用いた、クロザピンによるリンパ球刺激試験を行なった。対照群として、クロザピンを服用しても顆粒球の減少をきたさなかった投与コントロール群を用いて、CIA群とのリンパ球増殖の差を確かめた。増殖活性を比較したところ、CIA群がトレラントコントロール群よりも増殖活性が強い傾向を認めた。この傾向をより確かなものにするため、今後さらにサンプル数を拡大した検討を行う必要がある。
著者
百武 徹 安井 学
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

3年目は,以下の2つの研究項目を実施した.①異なる幅をもつ溝付きのマイクロ流体チップの設計・製作を行った.これは,実際に精子が遊泳する卵管内の壁面には多くのマイクロスケールの溝が存在していることから,実形状を模擬したin vitro実験となる.実験では牛の凍結ストロー精液を用いて,チャネル内に設けられた溝の幅が遡上する精子分布に与える影響を調査した.画像解析した結果,溝が存在することで精子の分布には違いが見られた.具体的には,溝幅10, 20 μmの流路では,溝が存在する領域において精子分布が大きくなった.原因として,精子の走触性により,溝に近づいた精子の一部が溝にトラップされて溝に沿って遊泳しやすくなるためであると考えられる.加えて,溝が存在することで,精子の平均速度も大きくなった.このことは,卵管内を模擬したマイクロスケールの溝を応用することで,受精に適した高運動性精子を選別できる可能性を示唆している.②マイクロチャネル内に狭窄を設けることで,精子集積機能を有するマイクロ流体チップの設計・製作を行った.これは,狭窄をもつマイクロチャネルにおいて,走流性によって流れに逆らってきた精子は狭窄を通過できず,テーパ部分に運動性の良い精子が集積することを利用している.実験では,チャネル形状やチャネル内流速が,チャネル内の精子分布や精子濃度に与える影響について調査を行った.合わせてOpenFOAMを用いた流体解析によりチャネル内流体挙動の調査も行った.その結果,チャネル形状やチャネル内流速を変化させることで狭窄内の精子の集積場所や精子濃度が変化することが明らかになった.本マイクロチャネルは,実際の受精環境を模擬した高受胎性の体外受精用チップに応用できる可能性がある.今後はさらに異なる形状,流速で実験を行うことでより詳細な傾向をつかむ予定である.
著者
中妻 照雄
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では、金融市場における資産価格形成の解明を目的とし、指値注文(売買価格を指定する注文)の発生メカニズムを説明するための新しいモデルを提案するとともに、提案モデルを推定するための新しいアルゴリズムの開発を行う。本研究で提案する新モデルの大きな特徴としては、注文発生間隔のモデルに1日の取引時間中の周期的変動パターン(日中季節性)、市場に出されている指値注文の状況(板情報)、さらには買い注文と売り注文の相互作用を反映させている点があげられる。
著者
安藤 昌也 伊藤 泰信
出版者
千葉工業大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、人や社会を要件として捉え、システム設計を専門とする人間中心設計(以下、HCD)と、集合的な社会・文化に焦点を当てて人間社会を理解することを専門とする文化人類学(以下、人類学)の知見を融合させつつ、人工知能(AI)を適用したシステムの設計において人と社会の調和を考慮したシステム設計思想および設計方法のあり方を検討するものである。本研究では、HCDと人類学の融合する「多元的HCD」という一見矛盾する設計思想を仮説としつつ、2つの学問領域の対話と連携により、実際にAIが導入されている現場(医療支援システムや転職支援サービスなど)のフィールドワークをすることを通し、双方の差異・共通点から課題を整理する。
著者
森 俊輔
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2020-04-24

本研究では、自己免疫疾患発症の原因と考えられるミスフォールドタンパク質・MHC クラスII 分子複合体の形成に重要な分子である Invariant chainに注目し解析を行う。ウイルスの免疫逃避機構の一つと考えられるInvariant chainの発現量低下が自己免疫を誘導する可能性があり、本研究を通してウイルス感染が関与する様々な自己免疫疾患の発症機構が明らかになると期待される。
著者
市村 典久
出版者
名古屋大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2020-09-11

Taurine up-regulated1 (TUG1)は複数の癌種で制御異常を認める長鎖非翻訳RNAであるが、口腔癌における機能は不明な点が多い。研究代表者はTUG1が口腔癌組織で高発現を認めること、TUG1のknock downにより癌細胞の増殖・遊走能が著しく減少することを既に確認しており、TUG1が口腔癌の発生・進展において、ゲノムとエピゲノムを繋ぐKey moleculeであると考えた。本研究は、動物実験や臨床検体による詳細な解析を加えることで、口腔癌に対するTUG1の抗腫瘍効果を明らかにし、新規治療法の開発へと繋げることを目的とする。
著者
田所 竜介
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

研究代表者のライブイメージングにより明らかとなった色素細胞から表皮細胞へのメラニン色素の輸送の結果に基づき、輸送方法と色素輸送量の関係に注目して輸送の分子機構と普遍性多様性の理解に努めた。色素細胞内で働く輸送を制御する分子および表皮に発現して輸送を促す分子を同定した。また色素輸送を解析する新たな手法も確立した。加えて、輸送の普遍性を問うためにガン細胞についても解析をおこない、ガン細胞が多様な小胞を放出することも見出した。
著者
横田 慎一郎
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

機械学習手法により感度64.9%、特異度69.6%の患者転倒リスク評価モデルを構築した。成績は従来研究と同等程度で、構築に延べ40日間の計算を必要とすることから効率がよいとは言えない。次に、過去に電子カルテ実装した転倒リスク判別ツールの影響を、実装前後期間で比較したところ、入院患者の患者の転倒発生確率は、実装後期間において低下し、実装後期間におけるツール使用患者と非使用患者では不変であった。また、転倒報告書と転落報告書を機械学習手法により実験的に分析したところ、臨床現場での転倒関連概念の認識が曖昧である可能性を示唆した。いずれも電子カルテ等データを用いた後ろ向き観察研究として実施した。
著者
大谷 光春 赤木 剛朗 石渡 通徳
出版者
早稲田大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

N-次元ユークリッド空間の有界領域Ωにおいて,斉次ディリクレ型境界条件下で,次の方程式: du/dt - △u + β(u) + G(x,t,u) = f(x,t) に対する初期値問題,時間周期問の解の存在について研究した.ここで,β(u) は(多価)単調作用素,摂動項 G(x,t,u) は連続性の集合値関数への拡張概念である,上半連続性(usc)及び下半連続性(lsc)を有する集合値関数.G が集合値関数の時には,超一次増大度条件の下でも,対応する結果は存在しなかった.本研究では,一気に G が一価の場合の最良な結果を,集合値関数の場合に拡張することに成功した.
著者
松里 公孝 東島 雅昌 鳥飼 将雅 大串 敦 立花 優 吉村 貴之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2022-04-01

ソ連継承諸国の中で、安定的な支配党体制を建設したロシア、アゼルバイジャン、カザフスタンの政治が注目されてきたが、実は、短命な支配党が現れては消える脆弱支配党体制の方が多数派である。本研究は、ウクライナ、モルドヴァ、ジョージア、アルメニア、クルグズスタンにおいて、脆弱支配党体制が生まれたのはなぜかを明らかにする。