著者
利根川 彰博
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.61-72, 2013-08-31 (Released:2017-08-04)

本研究では,1人の対象児を中心に4歳児クラスの1年間を分析し,幼児の自己調整能力の発達の過程を描き出し,検討することを目的とした。エピソードの分析の結果,1人の幼児が他者視点の理解を進め,自己調整能力をより発達させていく具体的な過程が描き出された。そして,その過程には"対立しつつ支えてくれる他者"のかかわりがあることが示された。また,「かかわりの歴史」「クラス規範の創出と共有」「集団の一員としての理解」を特徴とする4歳児クラスの集団化過程が影響している可能性が示唆された。
著者
行正 徹
出版者
バイオメディカル・ファジィ・システム学会
雑誌
バイオメディカル・ファジィ・システム学会誌 (ISSN:13451537)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.37-42, 2010-05-11 (Released:2017-09-02)
参考文献数
10

量子力学にはその成立の時期から確率解釈や観測の問題という原理的な問題が付きまとっている。特に観測の問題は深刻であり、現在尚議論が尽きない状況である。量子力学的な状態は通常は因果的に時間発展するが、観測時のみ予測できない非因果的な変化をする。この変化を波束の収縮と呼んでいる。観測とは何か、観測時に何が起こっているのか、興味深い問題である。全ての現象に量子力学を適用できると考えると確率解釈とも絡んで、一種の自己撞着に陥る。一方、精神現象、特に「意識」の問題を科学的・学問的に考察する場合に原理的な問題が生じる。意識を考察するということは、そのこと自身、意識の働きであり、精神現象である。つまり、自己が自己自身を対象化し、考察することである。対象化した瞬間に別の意識状態に変わっているはずである。この意味では、意識以外の客観的なものを対象化して研究する他の諸科学とは根本的に性質を異にしている。ここには量子力学における観測の問題と同様の論理構造が存在する。
著者
大滝 宏一 杉崎 鉱司 遊佐 典昭 小泉 政利
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.156, pp.25-45, 2019 (Released:2020-04-14)
参考文献数
41

マヤ諸語におけるVOS語順の派生に関して,これまで主に二つの分析が提案されている。一つは,主語が占める指定部の位置が主要部よりも右側に現れるとする「右方指定部分析」であり,もう一つは,vP全体が主語を越えて前置されるとする「述語前置分析」である。本稿では,チョル語とカクチケル語という二つのマヤ系言語を比較・分析することによって,少なくともカクチケル語のVOS語順に関しては「右方指定部分析」の方が妥当であることを示す。また,「右方指定部分析」をチョル語のVOS語順にも拡張する可能性に関しても議論する。
著者
新田 英雄 塚本 浩司
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
大学の物理教育 (ISSN:1340993X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.16-19, 2011-03-15 (Released:2018-12-20)
参考文献数
6
被引用文献数
4
著者
田中 治彦
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.84, no.2, pp.168-179, 2017-06-30 (Released:2018-04-27)
参考文献数
21

2020年代には日本は「18歳成人」社会を迎える。本稿では、これまで「成人」および成人年齢がどのように捉えられてきたかを、民俗学、教育学、心理学、法学の観点から歴史的に明らかにする。次に、選挙権年齢・成人年齢引き下げの動向とその理由を日本と英国の事例をもとに考察する。さらに、成人年齢引き下げに伴い必要な市民教育について、実践やカリキュラムをもとに検討する。最後に18歳成人が教育現場に与える影響について議論する。
著者
安保 恵理子 須賀 千奈 根建 金男
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.155-166, 2012-03-30 (Released:2012-05-22)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

本論文における研究では,the Revision of Appearance Schemas Inventory(ASI-R; Cash, Melnyk, & Hrabosky, 2004)の日本語版(the Japanese Version of the ASI-R: JASI-R)を開発し,外見スキーマとボディチェッキング認知の各因子間における関連性を検討した。その結果,JASI-Rは,「自己評価の特徴」と「動機づけの特徴」の2因子から構成され,その信頼性と併存的妥当性は,許容範囲内であった。性差を検討した結果,女性は男性よりも,両因子において得点が有意に高いことが示された。外見スキーマの両因子とボディチェッキング認知の各因子の相関を検討した結果,有意な中程度から弱い相関が認められたことから,これらは比較的異なる概念であることが示された。
著者
加藤 雅信
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 社会科学篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSHU; Journal of Nagoya Gakuin University; SOCIAL SCIENCES (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.63-80, 2022-07-31

本稿は,前号掲載論文の続編であり,占領下で,1947年5月の憲法施行に間に合わせるべく家族法改正を推進した日本政府や我妻らが草案をGHQに提出したにもかかわらず,なにゆえにGHQの承認が下りず,「応急措置法」での処理がなされたのか,当時の日本政府や我妻らが知らなかった“裏事情”に焦点を合わせた論稿である。 我妻らの家族法草案起草委員会には川島武宜も参加していたが,GHQ側の立法作業の責任者であったオプラーは,川島武宜と民法改正の全期間を通して何度となく日本側には秘密の非公式会合を重ねていた。この会合で,川島は日本側の最終草案には“家制度の残滓,女性に不利な点が存続している”旨を述べ,その4日後には,我妻が民法改正草案の民主性と女性平等性を説明したが,受け入れられずに,国会提出の延期が決定された。背景事情を知らなかった日本側の起草委員は,GHQには検討の時間的な余裕がないものと理解したのであった……。
著者
加藤 雅信
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 社会科学篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSHU; Journal of Nagoya Gakuin University; SOCIAL SCIENCES (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.241-279, 2022-03-31

本稿は,日本民法が過去1世紀半にわたっていかなる国内政治と国際政治のなかで形成されてきたのかを考察する筆者の一連の研究の一部をなすもので,家族法に焦点をあてている。 かつて日本の家族法の中核をなしていた「家制度」は,民法典制定時に華族が反対し天皇制官僚も消極姿勢を示すなかで,「水戸学」以来の伝統を受け継ぐ「世論」のもとで形成された「創られた伝統」であった。戦後の家族法改正は,この家制度を廃絶した。我妻はこれが日本側「起草委員の独自の発案」であったことを強調するが,実はアメリカの初期占領政策―日本の軍事的弱体化・産業的弱体化・精神的弱体化―の一環であった。「日本を生糸・お茶・おもちゃ等の生産国」にするという産業力弱体化政策とともに,“天皇陛下,万歳!”と叫びながら兵士が死地におもむいた歴史を根絶させるべく,天皇を頂点とする「家族主義的国体」観を破壊する一環としての家族法改正だったのである。
著者
北村 達也 吐師 道子 能田 由紀子 川村 直子
出版者
甲南大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では,音声器官の形状や機能,基礎的な発話能力に病的な問題がないにもかかわらず,日常的に発話のしにくさを自覚する人々の実態を調査した.まず,15大学の学生約2,000名を対象にしてアンケート調査を実施し,調査対象の31%が普段の会話で発音がうまくいかないと感じていることを示した.次に,MRI装置などを用いて,発話のしにくさを自覚する人の音声器官の形状や機能に見られる特徴を調査した.さらに,ペンや割り箸などの細い棒を前歯で噛んだ状態で練習をする発話訓練法について調査し,この方法を用いることによって,下顎や舌の動きが大きくなり,1つ1つの音が明瞭に発声されるようになることを示した.
著者
劉 建 福澤 和久
出版者
日本経営診断学会
雑誌
日本経営診断学会論集 (ISSN:18824544)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.7-13, 2023 (Released:2023-11-10)
参考文献数
20

ICTの進展は人々の働き方にも大きな変革をもたらしつつある。SNSなど情報技術の発展は人々の働き方を変えており,次世代を担う若い世代のなかでは「YouTuber」という新しい職業が人気を得ている。個人,個人事業主,小企業などがYou-Tuberとしてビジネスを行うことも,企業経営の一つとして捉える時代になったと言える。しかしながら,YouTuberという職業は新しい個人・組織・小企業の形態であるため,どのようなコンテンツが受け入れられるのか,学術的な研究は数少ない。本研究では,職業およびビジネス形態の多様化により現れた動画配信者,そのなかでも代表的な「YouTube」に着目する。視聴者がどのようなコンテンツに反応するか,先行研究から抽出した仮説をもとにYouTubeの視聴データの収集および分析を通じて仮説の検証を試みた。
著者
やまだ ようこ
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.93-114, 2005 (Released:2020-07-05)

本研究では,イギリスの墓地で観察した墓碑銘の事例を基に,「家族ライフストーリーが語られる場所としての墓地」という新しい見方を提示する。第1 には,家族ライフストーリーが語られる「記憶の場所」としての墓地という観点から,死者が亡くなって100 年以上たつ古い墓碑を観察し,ハワーズ,ヨーク,オックスフォードの19世紀末の家族墓碑銘を分析した。第2 には,生者と死者のコミュニケーションが生々しく進行している「喪の場所」としての墓地という観点から,現代ヨークの市営共同墓地を観察し,特に親や子が死者に語りかける言語的・非言語的メッセージに注目して分析した。本研究の新しい視点は,従来のライフストーリー研究や生涯発達研究の視点とは異なり,「個人の人生」中心の視点から解き放ち,家族関係,世代間連関,生者と死者の関係などの関係性に焦点をあてて「家族ライフストーリー」を見ること,また人生や生の物語(ライフストーリー)を「死の物語」の側から見ることである。墓地の家族ライフストーリーには,少なくとも3 つの心理学的機能があると考えられた。1)個人の人生が逆方向に死を基点として「死」の側から凝縮して語られる,2)愛する親子という家族物語が繰り返し連鎖的に親近性のある世代によって語られる,3)生者から死者へ,そして過去世代から未来世代へ,世代や生死を超えた長い時間軸のコミュニケーションが行われる。
著者
川口 哲 堺 登志子 児玉 光顕 上山 博史 木内 淳子 吉川 清
出版者
THE JAPAN SOCIETY FOR CLINICAL ANESTHESIA
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.359-362, 1986-11-15 (Released:2008-12-11)
参考文献数
8

マイルズ手術後の膀胱内結石の50歳の患者に対してペルカミンS®による脊椎麻酔を施行しT6以下に十分な麻酔が得られたにもかかわらず priapism を呈した症例を経験した.患者の陰茎は, 脊椎麻酔の効果が薄れるにつれ改善傾向を示し麻酔施行後約2.5時間で元の状態に復帰した. 一週間後, 笑気-酸素-ケタミンによる全身麻酔に変更し手術を行ない得た. ケタミンは持続滴下を行ない1mg/kgの時点で手術操作を開始し, 総量2mg/kgを静注したが priapism の発生は認められなかった.
著者
遠藤 次郎 鈴木 琢也 中村 輝子
出版者
日本科学史学会
雑誌
科学史研究 (ISSN:21887535)
巻号頁・発行日
vol.41, no.223, pp.129-137, 2002 (Released:2021-08-13)

Sanki Tashiro and Dosan Manase are known for their role as founders of the Gosei-ha school in Japan. Observing that Japanese medicine had not been based on a clear theory, they introduced into Japan the satsusho benchi practiced in Chinese medicine during the Jin and Yuan dynasties. The basis of this system was to examine the patient's condition, then determine the treatment accordingly. Dosan Manase in particular employed the satsusho benchi, writing out a new prescription each time treatment was required, without reference to existing prescriptions. In this study, we carried out an investigation into the "Ishin shoden" edited by Dosan Manase, which reveals the process by which Dosan established the new satsusho benchi system of medicine within the framework of traditional Japanese medicine. In the early stages of the process, Dosan prepared prescriptions based on existing iou-tou prescriptions, modifying these by adding or removing medicines. Then, in the middle period, he prepared prescriptions based on toso-tou prescriptions, designed on the basis of the kun shin sa shi or Junchen Zuoshi theory, again modifying these by adding or removing medicines. In the final stage of the process, Dosan ceased this practice of adding or removing medicines from a basic prescription, adopting instead the satsusho benchi system of writing out a new prescription for every treatment. In addition, we consider the reasons why the satsusho benchi system was not employed by Dosan's successors, and discuss the effects of this.
著者
小田 隆史 池田 真幸 永田 俊光 木村 玲欧 永松 伸吾
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.199-213, 2023 (Released:2023-07-08)
参考文献数
34

2022年度から必履修化された高等学校「地理総合」の柱となる大項目「GIS」や「持続可能な地域づくり」での学習を通じて,学校教育における防災教育の充実が期待される一方,授業を担う教員の防災に関する知識や授業指導の力量不足が懸念されている.そこで,地理学と防災関連分野の研究者らが討議を重ね,学習指導要領の中で扱われている防災に関連する解説・内容を「知識」「技能」「思考力・判断力・表現力」別に分析し,近年頻発する洪水・土砂災害を事例としたウェブGISを活用した教員向けの防災教育の研修プログラムの開発を目指した.学習指導要領から防災に関わる内容や流れを整理した上で,教員自身が防災の専門的知見を理解し,授業づくりの前提となる力を多忙な教員が短時間で身に付けられる教員研修のためのプログラム案を作成した.具体的な評価の検討は今後の課題だが,試行は時間内に収まり,学習目標に沿った気づきや発言が得られた.
著者
坂口 奈央
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.105, pp.33-60, 2021-02-15 (Released:2022-03-10)
参考文献数
14

本稿では、三陸沿岸の漁業集落に生きる婦人会の女性たちが、能動的かつ活発な活動を続けるのはなぜか、ライフコース研究をもとに明らかにする。婦人会の女性たちには、共通点がある。それは、震災時の年齢が主に六〇歳代で、夫が遠洋漁船の乗組員や漁業関連の労働に従事し、不慮の事故で犠牲になった人が少なくないこと、生家や親戚が漁家、などである。そこで彼女たちが誕生した一九四〇年以降を出発点に彼女たちの人生についてみていくと、遠洋漁業が発展していく一九六五年以降に、結婚、出産、子育てなどの人生のタイミングと重なっていた。また彼女たちの人生、とりわけ就労に関し、夫の職業に規定されていた。例えば、夫が遠洋漁業に従事している場合、海難事故などのリスクに備え、妻は、収入が確実に得られる労働に従事していた。夫が養殖漁業や船主など自営型の漁業に従事しているケースでは、妻が漁獲物の取引に直接関与し、経済的才覚が鍛えられていく。夫がサラリーマンなどの場合でも、妻たちは専業主婦ではなく、積極的に労働に従事していた。さらに家庭内での彼女たちの役割をみると、夫の代わりに家族に関する重要な事柄の決断を担っていた。三陸沿岸の漁業集落の特徴を念頭に、主たる漁業形態という外部環境と彼女たちの日常は密接に連動し、生計維持のためには女性同士の共助が必要不可欠だった。こうした背景から、現在も婦人会活動が活発に行われていたのである。