著者
文野 峯子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.144, pp.15-25, 2010 (Released:2017-04-15)
参考文献数
43
被引用文献数
1

本稿では,教師自らが「あるべき姿」(横溝2009)に向けて変化し続けることを「教師の成長」と捉え,その実践に授業分析がどう貢献できるかを考察した。まず,日本語教室を対象とした授業分析の先行研究を概観した。次に,教師の成長には「自己主導性」(藤岡1998)が必要であり,自己主導性の獲得には教師自身が自分の授業を批判的に内省する授業分析が最適な方法であることを確認した。その上で,授業分析を教師の成長に役立てるために考慮すべき事柄を考えた。その結果,以下のような結論が導き出された。(1)システムや枠組みを利用することによって,より焦点化された体系的な観察が可能になる。(2)授業分析では,得られたデータを検討するプロセスが重要である。(3)データの検討過程では,さまざまな視点から解釈を試みる作業が有効である。(4)(3)の作業は,授業についてより深い理解をもたらすだけでなく,教師を思い込みから解放し,教師に自由と自信を与える可能性が高い。その結果,自己研修型の教師としての学びが期待できる。(5)授業分析や考察の作業は仲間との対話を通じて行うことでより効果的になる。
著者
渡邊 幾子 植田 和美
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成23年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.175, 2011 (Released:2011-08-30)

【目的】ういろうの歴史は古く鎌倉時代に中国から伝わったとされる。名古屋、山口、京都をはじめ全国各地でういろうは作られており、主原料やその配合割合により特性があると考えられる。徳島でも全国的な知名度は低いが小豆あん、米粉、砂糖を主原料とした阿波ういろう(以下、阿波)が寛政年間に作られ始め、現在も親しまれている。アンケート調査から、ういろうの有名な地域としてあげられた名古屋、山口の市販ういろう(以下、名古屋、山口)と阿波を比較検討し、その地域特性を明らかにすることを目的とした。【方法】2008年度にアンケート調査を実施し、その結果から名古屋と山口の各5種ずつを用いて、破断強度、水分含量、糖度、色彩を測定し、阿波10種と比較検討した。【結果】アンケート結果から、ういろうが有名と思う地域は名古屋が72.7%と最も高く、徳島24.2%、京都3.5%、山口2.5%と続いた。これはアンケート対象者が徳島県在住者であることが影響し、徳島が2位となったと考えられた。ういろうの品質表示から主原料は、阿波が米粉、名古屋は米粉と澱粉、山口は小麦粉、澱粉およびわらび粉を使用している傾向がみられた。これらの破断強度を測定した結果、破断応力では阿波が9.311×104N/m2と最もかたく、名古屋5.135×104N/m2と山口5.667×104N/m2は近似していた。水分含量では阿波が34.65%と最も少なく、名古屋44.34%、山口44.47%となった。いずれも阿波と名古屋、阿波と山口で有意に差(p<0.01)がみられた。この3地域の比較から、阿波は水分含量が少なく、かたいという特性がみられた。
著者
伊東 裕子 下田 満哉 筬島 豊
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.133-139, 1983-03-15 (Released:2010-01-20)
参考文献数
3
被引用文献数
1 1

コーヒー豆粉粉末の香気定量法として用いる内部標準を使ったヘッドスペースガス分析法において,粒度および焙煎度の影響を検討した。(1) コーヒー豆粉末ヘッドスペース中の香気成分量は粉末粒度に大きく影響され,中程度の粒径(20~28メッシュ)において最大となった。(2) 内部標準物質のピーク高は粒度が小さくなるに従い減少し,コ-ヒー豆粉末粒子表面積との間に高い相関(r=-0.974)が見られた。従って内部標準物質のピーク高を粒度分布に関して補正することが可能となった。(3) 焙煎が深くなるに従い,内部標準物質のピーク高は減少し, L値との間に高い相関(r=0.965)が認められた。そこで,焙煎度の異なる試料の比較において,一定のL値における内部標準物質ピーク高に換算する補正法を設定した。
著者
新城 明久
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.9, pp.614-622, 1979-09-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
21
被引用文献数
2 4

沖縄肉用ヤギへの日本ザーネン種の移入率,外部形質への自然および人為淘汰,集団間の遺伝的分化の程度などについてNEI and IMAIZUMI13)と NOZAWA9)の手法を用いて集団遺伝学的分析をおこなった.調査したヤギは約4ヵ月齢以上の雌雄合計1,459頭であった.調査は沖縄県下の9島の10集団について1975年6月から1976年8月までの間におこなった.その結果,沖縄肉用ヤギの外部形質に関する遺伝子頻度は,有色qi=.382,肉髯なしqw=.845,有角qp=.779であり,毛髯と副乳頭の出現割合はそれぞれ85.4,37.8%と推定された.存来種はすべて有色,有角,副乳頭を有し,肉髯を欠くと仮定し,島嶼別集団の肉用ヤギへの日本ザーネン種の移入率を推定すると伊平屋島は32%,与那国島は40%と低かったのに対し,座間味島は87%,粟国島は84%,宮古島は79%,沖縄島中南部は77%と高く,沖繩全体では平均67%となった.毛色,肉髯,角および副乳頭の4形質に淘汰が働いているか否かを分析すると,肉髯(w)と有角(p)の遺伝子に対してはある種の有利な淘汰がみられた.集団間の遺伝的分化の程度は3.95%で,人間集団よりはるかに高い値であった.集団内の遺伝子間に,また集団の遺伝子頻度間に相関関係がみられ,集団内および集団間における遺伝子間のランダム化はまだ完了していないことが認められた.
著者
冨山 道夫
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.358-363, 2018 (Released:2019-04-05)
参考文献数
24

これまでに報告の少ない急性上咽頭炎を合併したマイコプラズマ肺炎の1症例を経験した。症例は11歳女児。発熱,咽頭痛,頭痛を主訴に受診。内視鏡検査で咽頭扁桃に膿を認めた。白血球数5300/μL,CRP 2.34 mg/dL,A群溶連菌迅速診断陰性で,ウイルス感染として経過をみた。2日後乾性咳嗽が増悪し再診。胸部X線で雲状陰影を認め,咽頭よりマイコプラズマ迅速診断を施行したところ陽性。マイコプラズマ肺炎を疑い,clarithromycinを投与し治癒した。咽頭扁桃より肺炎マイコプラズマが分離され,ペア血清で抗体価の有意の上昇がみられマイコプラズマ感染症と診断した。マイコプラズマ肺炎の初期症状として急性上咽頭炎による頭痛を主訴とする場合があり注意を要する。
著者
喜多村 和之
出版者
日本教育行政学会
雑誌
日本教育行政学会年報 (ISSN:09198393)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.28-39, 2000-10-13 (Released:2018-01-09)

In October 1999, the Minister of Education proposed a drastic change of the legal status of all 99 national universities from the current "governmental institutional establishments" to a new "independent administrative legal person" (Dokuritsu gyosei houjin) status, in other words, "corporatization" according to the overall administrative reform plan of the central government structure. The Association of National Universities has principally opposed this plan. Although this change has been initiated by political forces intent on improving administrative efficiency and financial savings, the proposal that national universities should have more autonomous status independent of direct governmental control has been, however, historically repeated. This is the old and new problem that was proposed by faculty members at the Imperial University and by the mass media even in the Meiji era, just after the founding of the University in 1889. In the 1970s, the Central Council of Education (Chukyoshin) proposed the idea of the same autonomous legal corporatization. OECD Examiners, who reviewed Japanese educational policies in 1971, supported the idea and the Ad. Hoc. Commission for Educational Reform (Rinkyoshin) in 1980s also proposed the legal person status (Tokushu Houjinka). However, all these governmental plans have not been implemented due to strong opposition from national universities, while national universities have not always been successful each time in competing by proposing strong, alternative ideas based on consensus among academic circles. Although it is not yet certain what the result of this conflict between governmerit and universities may be, in June 2000 the Minister of Education decided to implement the shift and the Liberal Democratic Party also supported the idea. This old but new important question, "what kind of legal status and institutional form should there be" requires the answering of the most basic and fundamental question "What is the concept of the university in modern society, and what is the missions of the university?" Unfortunately it seems that both Japanese national universities and the Japanese government have not yet built a raison d'etre for the national universities that is understandable and accountable to the whole Japanese nation.
著者
山本 琢俟 河村 茂雄 上淵 寿
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.52-63, 2021-03-30 (Released:2021-05-01)
参考文献数
42
被引用文献数
7 6

本研究では,学級の社会的目標構造と子どもの自律的な向社会的行動や自律的ではない向社会的行動との関連について,小学生と中学生の学校段階差を検討した。なお,向社会的行動の対象をクラスメイトに限定し,検討を行った。多母集団同時分析の結果,小中学生共に,学級での思いやりや互恵性の強調された目標を認知することと,自律的な向社会的行動との関連が確認された。一方で,学級での規律や秩序の強調された目標を認知することは自律的ではない向社会的行動と関連していることが確認された。このことから,向社会的行動の生起には学級での思いやりを強調することと規律を強調することが共に有効であろうが,特に学級での思いやりを強調する指導によって子どもの自律的な向社会的行動を予測し得ることが示唆された。また,横断的検討ではあるものの,学級の向社会的目標構造と子どもの自律的な向社会的行動との関連に学校段階差が確認されたことから,学級での向社会的目標を強調する教師の指導が自律性支援としての性質を持つ可能性を指摘した。最後に,本研究の限界と今後の課題についてまとめた。
著者
中島 實 安間 哲文 石島 亨
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.97-101, 1949-03-15

緒言 1916年Smithが腦下垂體を摘出すると蛙の體色が白變することを發見し,Alten,Swingle等によつて腦下垂體に色素細胞を擴張させる物質即ちメラノフオーレンホルモン(以下MHと略す)の存在が確認された。1933年JoresはBi-rch-Hirschfeld光神計を用い,MH點眼後12〜15分で暗順應時間が著しく短縮され且疲勞が少く明瞭に見える樣になると報告し,その追試によりScardacioneは賛成し,Bugchkeは反對した。其後Joresは40回の點眼で34回の陽性成績を得て再び自説を強調している。尚彼が自説の裏付けに舉げている諸點は:1)夜間活動する動物例えば猫では腦下垂體アセトン乾燥末1mg中にMH3.0單位を含むのに,鶏では僅かに0.05,人間では0.2,モルモットでは0.8である。2)同じ動物でも明所よりも暗所に置いた方がMH含量が増加する,即ち家兎の血液1立中に含まれるMHの單位は明0.075,暗0.32,眼では明0.028,暗0,065,房水では明0,暗0.0013である。3)MH注射,浸漬等により蛙網膜色素の暗位移行を人爲的に起すことが出來る等である。 私共は昭和18年6月から19年末に亘り,夜間視力増強の試みとして,青山科學研究所伊藤正雄博士指導により作製されたMHを使用して次の樣な成績を得た。
著者
高木 駿
出版者
一橋大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2019-08-30

近代まで美の欠如と見なされてきた「醜」は、現代に入り美しくない芸術作品の登場とともに、作品を構成する一つの要素として積極的意義を担わされるようになった。現代美学は、醜に崇高さを惹起する効果があることを解明したが、これにより、すべての種類の醜さが明らかにされたわけでも、ましてや醜の体系的理解が得られたわけでもない。そこで、本研究は、「醜の美学」の体系化に向け、第一に、醜さを類型化し、第二に、別種の醜さの体系性を明らかにする。そのために、18世紀ドイツの哲学者I・カントの美学を用いる。というのも、カント美学では、不快の感情に基づいて、種々の醜さを分類し、それらの体系性を考察できるからである。
著者
中村 征樹
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.31-43, 2008-06-30 (Released:2021-08-01)
被引用文献数
2

Science Cafés are one of the most prominent activities among a wide variety of science communication initiatives in Japan. In the past few years, they have spread throughout the country widely, and gained exceptional public acknowledgement as such an enterprise. The characteristics of Japanese science cafés lie in the great diversity of styles and organizers. Such diversity may be a result of challenges to adapt the European origin science cafés to a Japanese culture. In this paper, the scope and challenge of Japanese science cafés are examined by comparison to their pioneers. Science Cafés were born in France and in the United Kingdom around 1997. Although their styles and aims are different among both, a high priority is placed on the discussion in common, and plural standpoints are strongly emphasized. Such an emphasis on "public dialogue" can find its roots in the global change of the relation between science and society. Science cafés do not only bring about a new "mode" to talk about science, but also they cultivate a new relationship between science and society. For the future of Japanese science cafés, such aspects of "public dialogue" are worth serious consideration.
著者
清水 一彦
出版者
日本教育行政学会
雑誌
日本教育行政学会年報 (ISSN:09198393)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.25-37, 1994-10-01 (Released:2018-01-09)
被引用文献数
1

This paper aims to clarify the present situation and problems of university reform and to predict the transfiguration of universities in Japan. The Standards for the Establishment of Universities in Japan was broadened and simplified in July 1991. At the same time, a system of self-monitoring and self-evaluation was introduced. In response to the revision, each university is currently carrying out its own curriculum improvement and preparation of a self-evaluation system. In this paper the author discusses the most characteristic aspects of this university reform. These are as follows: 1. Improvement of the content and methods of education 2. Flexibility of the credit system 3. Reorganization of colleges of general education 4. Introduction of self-monitoring and self-evaluation 5. Priority policy regarding graduate schools Considering the actual situations of these reforms in Japanese universities, the author points out the diversification of universities as a future direction and the essential need to change faculty recognition as well as to promote so-called FD (Faculty Development) activities in conducting university reform successfully.
著者
河田 祥吾 岡田 唯男 高橋 亮太 鵜飼 万実子
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.116-127, 2021-09-20 (Released:2021-09-22)
参考文献数
42
被引用文献数
2

メンタルヘルスをプライマリ・ケアへ統合することは,適切なケア,アウトカム改善,資源の適正利用などへ貢献し,世界的な潮流である.諸外国においては,プライマリ・ケアでのメンタルヘルス教育の開発がされてきたが,日本において家庭医への体系的な教育は十分でない.本稿では,家庭医養成で求められるメンタルヘルスのcompetencyを明らかとすることを目的にscoping reviewを行い,諸外国の教育カリキュラムなどをthematic analysisを用いて分析した.抽出されたcompetencyは,「プライマリ・ケアの一般的能力」「プライマリ・ケアにおけるメンタルヘルスの一般的能力」「プライマリ・ケアにおけるメンタルヘルスの特異的能力」に大別される包括的なものであった.本稿のデータを基に,日本の現状を踏まえたcompetency list作成やモデルカリキュラムの策定などが求められる.
著者
高橋 秀実
出版者
日本医科大学医学会
雑誌
Journal of Nippon Medical School (ISSN:13454676)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.410-414, 2002 (Released:2002-10-25)
参考文献数
19
被引用文献数
1
著者
金沢 純
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.344-353, 1988-12-15 (Released:2020-03-28)
被引用文献数
2

農薬の農耕地より水系への流出率はその溶解度と相関がある.水田,河川,湖沼水の農薬による汚染実態を紹介した.汚染は使用時期をピークとする一過性で通年にわたるものは少ない.農薬の魚介類に対する毒性を概説した.殺虫剤は一般に昆虫と閉じ節足動物である甲殻類に特に毒性が高く,海水生物の中に淡水生物に比べて農薬に感受性が高いものがある.わが国における農薬による水産被害を紹介し,その防止対策を述べた.農薬の魚介類に対する毒性評緬には試験生物の種類を増やす必要がある.