著者
小尾 孝夫 永田 拓治 岡田 和一郎 村井 恭子 佐川 英治 渡邉 将智 戸川 貴行 会田 大輔 岡部 毅史 齊藤 茂雄
出版者
大東文化大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

従来、魏晋南北朝の政治史は、多くの場合、正史の影響を強く受け、各王朝史の枠組みのなかで論じられてきた。本研究では、こうしたかつての枠組みではなく、より大きな歴史的な視野での東部ユーラシア史のなかでその政治史を論じ直すことを目指した。そうしたなかで、各時代において、戦争、移民、交易、文化交流などが各王朝の政治に与えた影響を具体的に検証するとともに、一見国内的な政治事件に見える事件の背後に王朝の枠を超えた多元的な世界の影響のあることを確認してきた。また、魏晋南北朝通史の新しい時期区分についても提案した。
著者
大平 明弘 海津 幸子 和田 孝一郎
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

網膜光障害の首座は視細胞と網膜色素上皮細胞に生じる。ラット、マウスを用いてフラボノールの一種である、クエルセチン (文献1) と栃の実の殻に存在するプロアンチシアニジン (文献3) とカルテオロール塩酸 (文献2)の網膜への影響を調べ、これらの物質が網膜の機能、形態を光障害から防御することを報告した。クエルセチンは光による視細胞のアポトーシスを抑制し、網膜の変性を防御した。光障害の指標として用いた8-hydroxy-2'-deoxyguanosine (8-OHdG), Heat shock protein (Hsp70) の発現は光で誘導され、クエルセチンの投与で抑制された。電気泳動移動度シフトアッセイの結果は、AP-1結合活性が露光により活性化され、c-Fosおよびc-Junの結合は結合活性を媒介したが、JunBの結合は媒介しなかったことを示した。 ケルセチンの腹腔内投与は網膜における光酸化損傷を減少させ、ラットにおける光誘発光受容体細胞変性に対する細胞保護を仲介する AP - 1結合部位でのc - Junおよびc - Fosタンパク質のヘテロ二量体組み合わせの抑制は、ケルセチン媒介細胞保護に非常に関与している。栗の実の殻からのポリフェノール化合物は網膜脂質の酸化を抑制した。 種子の殻からの高分子量のA型プロアントシアニジンは、酸化ストレスとアポトーシスのメカニズムを抑制することによって、ラットの網膜を光照射による損傷から保護した。カルテオロールは生理食塩水処置群と比較してチオレドキシン1とグルタチオンペルオキシダーゼ1のmRNAレベルを有意に上方制御した。カルテオロールは、BSO /グルタミン酸誘導細胞死を有意に抑制し、in vitroでカスパーゼ-3/7活性およびROS産生を減少させた。
著者
白戸 憲也
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

多くのエンベロープウイルスはエンドサイト―シス経由で細胞侵入する。ヒトコロナウイルス(HCoV)229EもエンドゾームのカテプシンLを利用すると考えられてきた。本研究では、我々はHCoV229Eの臨床分離株はATCC株のような細胞順化株とは異なり、エンドゾームのカテプシンLよりも細胞表面のTMPRSS2の利用を好む事を発見した。エンドゾームはTLR認識など、自然免疫応答の主要な場所であり、本来のHCoV229Eはおそらく細胞表面からの細胞侵入によってエンドソームを飛び越えるように進化したと考えられる。ATCC株におけるこれらの性質は、長い間の細胞継代によって失われたと考えられる。
著者
伊藤 秀三 金 文洪 呉 文儒 李 じゅん伯 方 益燐 高 有峰 盧 洪吉 孫 泰俊 松野 健 松岡 数充 東 幹夫 茅野 博 OH Moon-you LEE Joon-baek GO You-bong RHO Hon-kil SOHN Tac-jun KIM Moon-hong 李 〓佰 方 益燦 慮 洪吉
出版者
長崎大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

済州島と佐世保の潮位差変動調査から,夏季には潮位差変動が比較的少ないこと,夏季の方が冬季に比べて潮位差が大きくなっていることが判明した.海面下3mに抵抗板を持つ漂流葉書を九州西方域に流し,それが海上で回収された結果から,同海域の対馬暖流の流れが,夏季には20cm/s程度であることが示唆された.東シナ海を鉛直方向に密度一様とした簡単な数値モデルをによると,朝鮮海峡に向かう流れが,東シナ海の等深線の分布に深く関係していることが示唆された.済州島周辺の海洋観測の結果,冬季には黄海暖流が済州島西方から朝鮮半島沿岸に流入し,夏季には黄海低層冷水が朝鮮半島沿岸を南下してくる様相が明らかになった.済州島周辺で1991年から1992年にかけての橈脚類群集の季節変化を調査した結果,黒潮域にも生息する7種の外洋性種が主要構成要素であり,Paracalanus indicusが早春,初夏,初冬に,Calanus sinicus,Acartia steuteri,Corycaeus affinis,Oncaea pluniferaが冬季と夏季に,A.omoriiが秋季のみに最高出現頻度を示すことが判明した.対馬浅芽湾および朝鮮半島南部沿岸の表層堆積物中の渦鞭毛藻シスト群集を初めて観察するとともに,表層水温と種多様度に正の相関関係のあることを示した.済州島の東水岳旧火口のボーリングにより,鬼界カルデラ起源のアカホヤ火山灰が済州島にも降下したことが判明した.西帰浦西方の旧火口ボーリングにより約50000年前以降の連続した堆積物が採取された.約20000年前の堆積物からは淡水産渦鞭毛藻シストが発見された.男女海盆の堆積物の花粉分析から最終氷期最盛期頃の照葉樹林は南九州低地部に対応していたことが明らかになった.陸上高等植物では,照葉樹129種について対馬暖流域の日韓島嶼域における分布を明らかにした.このうち53種は日本のみに,4種だけが韓国側に,残りは日韓両方の島嶼に分布する.岩角地植物のうち,チョウセンヤマツツジは日韓両方の尾根上と河岸の岩角地に自然分布し,済州島ではチョウセンヤマツツジ-シマタニワタリ群集が新記載された.また日韓両地にはダンギク-イワヒバ群集の岩角地での発達を確認した.朝鮮半島南部,済州島,五島・福江島,対馬,隠岐,鹿児島地域で採取したアユの19酵素をデンプンゲル電気泳動法で分析した結果,多型的な12の遺伝子座のうちGpi-1では福江島産と他地域,Pgm-1では隠岐産と他地域に明らかな差があり,いずれも人口アユ種苗放流による創始者効果によると考えられた.朝鮮半島南部,長崎周辺,福江島,中通島,対馬で採取したタカハヤに含まれる8種の酵素について検討した結果,朝鮮半島南部の個体群が九州本土や島嶼の個体群と僅かな遺伝的距離でつながっていることから本種の種個体群としての統一性が示されたとともに,中通島や下対馬のような分断された個体群では強い遺伝的浮動によって特異な遺伝子構成が保持されていることが明らかになった.血漿と赤血球中のタンパク質の電気泳動法およびミトコンドリアDNAの制限酵素切断法によって対州馬と済州馬の系統関係を検討した結果,両者は極めて近縁であることが判明したとともに,それらの起源が蒙古の野生馬(Equus przewalskii)にあることが示唆された.朝鮮半島,済州島,対馬,壱岐,五島列島,九州で採取したショウリョウバッタ,ショウリョウバッタモドキ,オンブバッタの過剰染色体(B染色体)を調査した結果,いずれの地域の集団にも過剰染色体が検出された.さらにオンブバッタでは朝鮮半島と九州の集団に共通の染色体多型がみられた.以上の事実は地質時代には朝鮮半島と九州が陸続きであった事を裏付けている.朝鮮半島,中国,台湾,南西諸島,九州およびその島嶼域のショウジョウトンボの染色体型を検討した結果,2n♂=24(n=12)型と2n♂=25(n=13)型の南北方向の分布境界が奄美大島と屋久島の間にあり,東西方向の分布境界が対馬と朝鮮半島の間にあること,さらに2n♂=24(n=12)型が日本列島に固有の染色体型であることが明らかになった.
著者
平田 仁胤
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では、暗黙のうちに前提とされてきた「学習=個の作業」あるいは脳内にある表象を操作するといった図式を問い直し、学習のメカニズムに状況や他者が不可欠であることを指摘した状況的学習論を批判的に検討することによって、より具体的な学習論を提示することにある。これまで、ヴィゴツキー学派の1人であるユーリア・エンゲストロームの活動理論の検討、そして、それとウィトゲンシュタイン哲学との接続を試みてきた。その結果、異なる状況・文脈においても言語が通用するという原初的信頼の感覚に基づいて、新しい物語を紡ぎだすことで再組織化がなされること、教師の権力・権威概念がその過程において重要であることを明らかにした。平成30年度は、教師の権力・権威に基づく再組織化の過程について、ウィトゲンシュタイン哲学における世界像概念に依拠することによって、さらに精緻化することを試みた。英国ウィトゲンシュタイン学会では共同発表者の1人として”How to Alter Your Worldview: A Wittgensteinian Approach to Education”を発表し、また教育思想史学会のシンポジウム「教育学としてのウィトゲンシュタイン研究――現在の到達点と今後の展開――」では、報告者の1人として「どこからでもない眺め/どこにでもある風景――ウィトゲンシュタインと教育学についての覚書――」の報告を行った。これら2つの学会発表およびシンポジウム報告は現段階では論文化されていないものの、そこで得られた知見の一部を、坂越正樹監修、丸山恭司・山名淳編著『教育的関係の解釈学』(東信堂)の第12章「教育的関係の存立条件に対するルーマン・ウィトゲンシュタイン的アプローチ」として論文化した。
著者
塚原 隆裕 川口 靖夫 田邉 真明 高橋 通博 嶺岸 卓也 原 峻平 池上 明人 井上 俊
出版者
東京理科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

二方程式モデル(非等方性/等方性k-εモデル,k-ωモデル)およびレイノルズ応力方程式モデルをフレームワークとして,粘弾性流体の抵抗低減流れを再現し得る乱流モデルの構築を目的とした.直接数値解析および界面活性剤水溶液の実験も行い,そのデータベースを元にa-prioriテストを通じて,粘弾性寄与項やGiesekus構成方程式に現れる非線形項について新たなモデルを提案した.粘弾性流体における複雑流路(有限平板周りやバックステップ流路)の乱流を調査し,Kelvin-Helmholtz渦の抑制効果,剥離点距離の延長,および主流揺動を見出し,それらの解明と(乱流モデルによる)予測を行った.
著者
亀山 義郎 阿座上 孝 福井 義弘
出版者
名古屋大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1989

研究目的:マイクロ波の熱作用と放射線の電離作用のいずれも、胎児大脳が高い感受性を示すため、両者が複合して作用した場合、単独では障害効果が少ない条件でも、脳に非可逆的障害をもたらす可能性がある。本研究はこの点を検討するため、マウス胎児にマイクロ波、γ線のそれぞれ単独および併用照射を行い、大脳発達障害を検索した。研究方法と結果:妊娠13日のSlc:ICRマウスに2.45GHzのマイクロ波をON15秒、OFF15秒で反復照し、10分後から直腸温が42.5℃を越えないようにOFF時間を調整した。処理時間は15分と20分の2条件、マイクロ波の比吸収率は葉480mw/gあった。マイクロ波処理9時間後に胎児を採取して組織切片にし、大脳外套の細胞死の頻度を調べたところ、対照群の0.14%に対して、15分、20分処理によってそれぞれ1.6%、3.0%に増加していた。一部の母獣を出産させ、生後6週で観察した仔獣は、20分処理群の脳重が低値を示した。後頭部大脳皮質の組織切片から算出した神経組織切片た神経細胞の核の直径は、対照群に比較して有意に小さく、細胞密度は有意の高値を示した。Co-60δ線0.24Gyに被曝させ、その直後にマイクロ波15分処理を行った実験では、δ線単独被爆の9時間後の大脳外套の細胞死は8.5%であったのに対し、δ線とマイクロ波に複合被爆したものでは19.5%に上昇していた。この結果はδ線とマイクロ波の作用が相互的以上であることを示している。なお、生後6週の観察では、複合被曝群の大脳は小さく、組織学的に大脳皮質の菲薄法化、皮質構築加乱れを示す例がみられた。今後は、マイクロ波と放射線の被曝間隔を変えて、マウス胎児大脳への複合効果を検討する予定である。
著者
小池 進介
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

大学生259名を対象にした調査は218名(84.1%)について1年後調査を得て、現在2年後調査を実施中である。精神疾患に対するスティグマ軽減戦略を検証するRCT結果についてまとめ、国際誌に投稿した(現在査読中)。母子調査は、計画研究の橋本龍一郎分担研究者、岡本泰昌分担研究者に指導を受け、134名に対して実施した。解析結果より、Positiveな単語(例.親切だ)についての、3人称(母)視点の自己評価(例.お母さん(お父さん)はわたしのことを、親切だ、と思っている)と1人称視点の他者評価(例.(お子さんはどれに当てはまりますか)親切だ)との回答差が、メタ認知能力をもっとも適切に示しやすいことを明らかにした(H28.1.24成果報告会)。また、同様に聴取した東京ティーンコホート親子25ペアについても予備的に検討し、メタ認知能力が10歳児でより低いことを明らかにした。現在、この結果をまとめ英文誌に投稿する予定である。また、母子調査をもちいた精神疾患に対するスティグマの親子間比較および相関結果について、英文誌に投稿した(現在査読中)。さらに、母のスティグマが、上述のRCT介入結果に独立して影響を与えることを示し(成果報告会)、今後この結果をまとめ英文誌に投稿する。MRIを含めたバイオサンプル計測を80名に対して実施した。今後、解析を進める。そのほかのサンプルとして、英国1946年出生コホートデータを用いて、13歳および15歳時の自己制御能力が、15歳から63歳までの体重増加に影響することを明らかにした(Koike et al., Int J Obes (Lond) 2015)。また、精神疾患のスティグマに関連して、統合失調症の名称変更によってマスメディアの報道に違いが出たかを30年間にわたる新聞記事2200万件の解析を行った(Koike et al., Schizophr Bull in press, 日経プレスリリースほか)。
著者
北脇 義友
出版者
瀬戸内市立国府小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2015

岡山藩は備前地域と備中地域からなるが、現在までに備前地域では17世紀の墓が約400基、備中地域では約320基の儒教の墓を見付けることができた。備中地域の儒葬墓は、約8割方の地域の調査が終わった。これまでの調査から、藩主池田光政が進めた儒教政策によって武士や領民は儒教の墓を造った。さらに、備前国では、湊町の牛窓村・片上村にそれぞれ約20基のまとまった儒葬墓が見つかった。このことから、この二つの村では一時ではあるが、儒教が広がっていた。管見の知る限り領民の儒教としては最も古いと思われる。さらに備中地域でも、大庄屋一族が儒教の墓が造ったことがわかった。しかし、備前地域と備中地域の墓の形式は異なっている。会津藩では、儒葬の墓地として寛文4年(1664)に指定した大窪山で17世紀の儒葬墓26基を見付けた。そして、この墓地で最も古いのは1674年で藩主保科正之の死後造られ始めたことが分かった。水戸藩では、儒教の墓地として指定した酒門墓地と常盤墓地について調査した結果、17世紀の墓23基を採取した。この中で特徴的であったのは「香取氏幻心居士墓」(1684年死去)と戒名をもった墓の存在であった。これは仏教と妥協を図ったと考えられる。岡山藩と儒葬墓を比べると会津藩と水戸藩では少なく、岡山藩と比べて儒教の広がりは限定的であった。土佐藩では、家臣の儒葬墓が散在していることから、多くが未調査である。今回の調査では、岡山藩・会津藩・水戸藩と比べて古い時期から儒教の墓が造られている。儒者小倉三省の父(1654死去)の墓は棹石の下部に蓮華を刻み、ここでも仏教と妥協を図っている。さらに墓石の背後に長方形の石垣を積み、独特の墳をもっている。近世における儒教は17世紀後半に家臣を中心に広がっていった。そして、この事態の墓は、多様性をもっていることが分かった。
著者
GOTO Derek 齊藤 玉緒
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

細胞性粘菌と線虫を同一のシャーレ上で培養すると、粘菌は線虫を忌避させることを定量的に示した。このような忌避行動を起こさせる原因は細胞性粘菌の子実体の分泌する化学物質であることを同様の実験から導きだした。この混合物は抗線虫薬開発の有用資源となる。植物を生育させその根のから2mm離れた地点に、細胞性粘菌が放出する疎水性物質をろ紙に吸着させたものおき、直後にそれぞれの植物から10mm離れた地点に線虫を播種し、48時間後に植物の根の染色を行い感染数の比較を行った。その結果、細胞性粘菌抽出物が近くにあった植物ではなかった植物に比べ有意に線虫の感染が減少していた。
著者
平工 雄介
出版者
三重大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

大気中汚染物質の中でも、特に屋内の化学物質による健康障害は緊急に解決されるべき重要な問題である。新築住宅の室内では、建築材料や家具に使用される接着剤や塗装剤などからホルムアルデヒド、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの揮発性有機化合物(VOC)が空気中に放出される。ごれらの物質には少量でも長期にわたり連続的に曝露されるため、発がんなどの健康障害が懸念される。エチルベンゼンはラットで腎に、マウスで肺、肝臓に悪性腫瘍を形成するという報告がある。本研究ではVOC、特にエチルベンゼンによる遺伝子損傷機構をヒトがん関連遺伝子DNA断片を用いて解析した。我々はエチルベンゼンを太陽光に曝露した場合に過酸化水素および過酸化物が生成され、銅存在下で酸化的DNA損傷を起こすことを明らかにした(BBRC 2003)。さらに我々は代謝活性化されたエチルベンゼンによるDNA損傷について検討した。エチルベンゼンはラット肝ミクロソームによりベンゼン環の水酸化を受けてエチルハイドロキノンおよび4-エチルカテコールに代謝されることが判明した。これらの代謝物は銅存在下で酸化的DNA損傷を起こした。生体内還元物質NADHの添加により、4-エチルカテコールによる酸化的DNA損傷は劇的に増強した。酸化的DNA損傷にはこれらの代謝物の酸化還元サイクルに伴い生成されるCu(I)と過酸化水素が関与することが明らかになった(Chem.Biol.Interact.2004)。これらの結果から、VOCの代謝物や光生成物などによる遺伝子損傷が、突然変異を介した発がんおよび免疫細胞の直接的な傷害による免疫能低下をもたらし、両者の相互作用が室内汚染物質による健康障害に関与すると考えられる。また我々は種々の環境発がん因子により生成される活性種がDNA損傷をもたらすことを明らかにし、研究報告を多数行っている。
著者
宮本 陽一 前田 雅子 大滝 宏一 西岡 宣明
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

今年度は、個々に資料収集および先行研究において提唱されてきた分析について再検討した。さらに、その知見をもとに九州方言(長崎方言、熊本方言)を中心に、特に選択的接続詞が認可されるコンテクストを念頭に本課題の刺激文を作成し、実験プログラム(Ibex Farm)を完成させた。個々の研究成果については以下の通りである。宮本は、九州方言における短い答えのデータをもとに日本語の短い答えにおける名詞句内分配解釈の認可条件について検討した。共通語では区別が難しい代名詞の「の」と属格の「の」の分布を九州方言のデータから区別し、日本語の短い答えにおいてFocP SPECへの移動ならびにAn(2016, 2018)の提唱する拡張削除(Extended deletion)が関与していることを明らかにした。西岡は特に日本語の主語位置の量化詞と否定の作用域について熊本方言の「が・の」主語をもとに考察し、さらに英語との比較を通して、カートグラフィの理論構築を行った。前田は助詞の残る削除現象、イントネーションと量化詞の作用域の関係、疑問文断片等について長崎方言等のデータを踏まえつつ、分析を行った。大滝は実験で使用する熊本方言と長崎方言における量化表現について検討し、どのような刺激文を実験で使用すべきか検討した。また、刺激文を提示する際に使用するプログラム(Ibex Farm)について、刺激文ならびに画像刺激の提示方法について検討した。加えて、富山方言における実験の可能性についても検討した。
著者
村杉 恵子
出版者
南山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

幼児はどのように動詞と時制等の一致の表現を獲得するのか。ドイツ語、オランダ語、フランス語などを母語とする幼児が主節不定詞現象を示すことはよく知られている。本プロジェクトでは、縦断的研究とコーパス分析に基づき、日本語を獲得する幼児においても、2歳前に、主節不定詞現象に見られる時制・補文標識に関する特徴を欠いた段階が存在することを提案する。さらに本研究では、主節不定詞現象は言語を超えて共通するが、主節内の動詞の形態は、世界を三分化することを提案する。不定詞、語幹の裸動詞、そして、代理の活用形がデフォルトとしてつけられる場合の三種類の幼児の動詞が、大人の形態的特徴を反映してあれわれることを示す。
著者
堀江 翔
出版者
金沢大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

【研究目的】交代浴は,痔痛や浮腫の軽減,関節軟部組織の伸張性を高めるために臨床上用いられる.またNeurometer(東洋メディック)は,2000Hzと250Hz,5Hzの3種類の正弦波形の電気刺激を与え,認知可能な最小電流量である電流知覚閾値(以下CPT)を測定する末梢神経検査装置で,2000HzはAβ線維,250HzはAδ線維,5HzはC線維の評価が可能である.交代浴に関する末梢神経への影響に関する報告はないため,今回はNeurometerを用いて交代浴による各神経線維への影響を検討した.【研究方法】対象は健常女性12名12右手で年齢21.8±0.4歳であった.本研究は本大学倫理審査委員会の承認を得て,被験者に同意を得た上で実施した.交代浴の方法は40~42℃の温水と12~14℃の冷水を準備して,右手関節より遠位部を温水4分間,冷水1分間の温冷あるいは冷温の順の交代浴を各5セット行ない,その後に温冷温では温水4分間,冷温冷では冷水1分間実施した.CPT値の計測は交代浴直前と直後,交代浴30分後とした,Neurometerの電極は,右中指の遠位指節間関節に取り付け,測定は2000Hz,250Hz,5Hzの順で二重盲検法にて行った.交代浴直前と直後,直前と30分後のCPT値の比較は対応のあるt検定を,さらにボンフェローニの補正をおこない有意水準は5%とした.【研究成果】温冷温において2000Hz,5Hzの交代浴直後のCPT値は直前より有意に大きかった.冷温冷において2000Hzで直後と30分後は直前より有意に大きく,250Hzで直後は直前より有意に大きかった.両方法とも30分後の250Hz,5Hzは有意差がなく,交代浴のAδ,C線維への影響は持続しなかった.痛覚に寄与するAδ,C線維はともに交代浴直後のみのCPT値の上昇であった.つまり交代浴による痔痛軽減の持続的効果は,末梢神経への影響だけでなく,感覚受容器や発痛物質など他の要因の影響も示唆された.
著者
斎藤 清 森 努 岩味 健一郎
出版者
福島県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

神経線維腫症2型(NF2)は常染色体優性の遺伝性疾患で、神経系に多数の神経鞘腫や髄膜腫が発生するために長期予後も不良である。これまでの調査でも若年発症者では20年で約2/3が死亡しており、国内807名の臨床調査個人票解析で6割は経過が悪化していた。神経鞘腫と髄膜腫は代表的良性腫瘍であるにも関わらず、なぜNF2は予後不良なのか。TCGAデータベースを用いた解析では、核内レセプター、ミトコンドリアと酸化的リン酸化、翻訳制御など、機能予測からDNA修復に関わる癌抑制遺伝子の重要性が指摘されたが、NF2に伴う神経鞘腫と孤発例の神経鞘腫の比較では、遺伝子発現には有意な差はみられなかった。NF2に多発する髄膜腫については、再発例で高頻度にIGF2BP1遺伝子のメチル化が見られたことから、ヒト悪性髄膜腫由来のHKBMM細胞におけるIGF2BP1遺伝子の役割についてCRISPR-Cas9法を用いた遺伝子破壊による低下、PiggyBacトランスポゾン系にtetracycline依存的誘導エレメントを組み込んだ誘導性発現により解析した。IGF2BP1遺伝子破壊により発現が低下した細胞では強い接着を持つ形質が顕著に失われ、細胞の遊走性が増大した。HKBMM細胞はCadherin11(CDH11)を大量に発現し、IGF2BP1遺伝子破壊を行ったHKBMM細胞では細胞間でのCDH11の発現が低下していた。これらの結果より、IGF2BP1遺伝子がRNAのレベルで細胞接着を制御して、生体内での播種を抑制していることが示唆され、易再発性にはカドヘリン依存的な細胞接着を介したIGF2BP1のRNA安定化機構が関わる可能性が示唆された。引き続き、MTAを締結して入手した神経鞘腫細胞株SC4とHE1193と用いて、髄膜腫と同様の手法によりターゲット遺伝子発現を調整して神経鞘腫の分子機序解明を進める。
著者
前田 優香
出版者
国立研究開発法人国立がん研究センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

自身の免疫を賦活化させてがんを駆逐するがん免疫療法が第4のがん治療として認知され、幅広いがん種に対して治験や承認が進んでいる。よって、一部の患者における強い抗腫瘍免疫応答と共に生じる免疫関連副作用(Immune related adverse event: irAE)のコントロールは喫緊の課題である。これまで、irAEの発生機序やirAEをコントロールするために投与される免疫抑制剤(ステロイド)が抗腫瘍免疫応答に与える影響について詳細な検討はなされてこなかった。 本研究は、マウスモデルを用いてステロイドが免疫チェックポイント阻害剤により誘導された抗腫瘍免疫応答にどのような影響を与えるのかを明らかすることである。これまでに本研究代表者らは純系マウスモデルにおいて免疫療法後腫瘍拒絶をした個体にステロイドを投与すると腫瘍が増悪することを観察している。この結果からステロイドが賦活化された抗腫瘍免疫に対して何らかの影響を与えていることを示唆していた。これまでの研究実績において、ステロイドの投与量・投与時期を比較検討したところステロイドの容量依存的に腫瘍の増悪が見られること・投与時期が後期になれば抗腫瘍免疫への影響がないことを見出した。さらに、脂肪酸代謝経路を介してTCR親和性の低いがん抗原特異的CD8陽性T細胞のメモリー形成を抑制していること・細胞外フラックスアナライザーを用いた検討ではTCR親和性が低い場合にステロイド投与により酸素消費量が低下することを明らかにした。また、臨床検体において免疫チェックポイント 阻害剤投与後のステロイド投与時期やmutation burdenでの生存率の比較検討を行ったところマウスモデルで得られた結果と相関しているというデータを得たため論文投稿をおこなった。
著者
操 華子 村田 裕美 川上 和美
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は、感染予防実践者である看護職のコンピテンシーの実態を把握するための質問紙を開発し、作成した質問紙を用いて、日本と英語圏の感染予防実践者の看護職のコンピテンシーを把握すること、感染予防実践者である看護職のキャリアレベルごとに共通して求められるコンピテンシーを明らかにすることである。感染管理疫学専門家協会(APIC)から発表されたコンピテンシー・セルフアセスメント・ツールに回答してくれた67名の感染管理認定看護師のインタビューデータを各項目の回答理由毎に質的に分析した。その結果から、感染症プロセスの明確化、医療関連感染サーベイランスと疫学調査、感染性微生物の伝播予防・制御、マネージメントとコミュニケーション(リーダーシップ)、質・業務改善と患者安全、教育と研究、労働衛生の7つのカテゴリーを含む127項目からなる調査票を作成した。プレテストを実施し内容を精選し、基礎情報11項目を加えた138項目からなる感染予防実践者のコンピテンシーに関するオンライン調査を実施した。日本の感染予防実践者への調査協力は、日本感染管理ネットワーク(Infection Control Network in Japan)に依頼し、所属会員のメーリングリストから協力依頼を行った。また、日本看護協会の感染管理認定看護師ならびに感染症看護専門看護師の登録者のうち所属非表示者などを除外した2355名に協力依頼の葉書を送付した。5月17日現在で413名から回答を得た(回答率18%)。研究を除いた全カテゴリーで、感染予防実践者としての経験を積むことで各能力が向上していることが明らかになった。現在、APICの研究委員会の副委員長を通じて、感染予防実践をしている看護職への調査協力を依頼しており、協力への内諾は得ている。調査時期などの詳細をつめ、英語版の同じ調査票を用いてオンライン調査を実施する予定である
著者
岡田 英己子
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1990年代から「平塚らいてうは優生思想の持ち主」論が流布している。しかし、その説の典拠はあいまいで、史資料の誤った引用が目立つ。平塚はたしかに優生思想の持ち主であるが、断種法制定運動を率いたわけではな、いからだ。本研究では、いつ頃から、どのようにして、平塚が優生思想に親近感を持つのかの解明を、主目的とする。III部構成である。I部「平塚らいてうの優生思想形成過程-大澤謙二・永井潜の『反』フェミニズムとの対比を通して」では、日独の結婚制限・断種法情報比較から、若き平塚の優生思想形成過程を追う。平塚は日本女子大学校時代に東大医学部生理学教室初代教授の大澤謙二講義を聴く。大澤の後継者である永井も、同時期に大澤講義を通して結婚制限に研究関心を待つことが明らかにされる。II部「断糎法制定(国民優生法)に至る動き」では、永井に代表される東大医学部の一群が、ナチ断種法に傾倒していく経緯を年表で提示し、それが平塚のフェミニズムに依拠する優生思想とは異なることを示す。III部「戦後優生思想の読みかえと隠蔽・忘却」では、優生保護怯制定時の平塚(1949)と永井(1948/49)の原稿を比べ、永井は「反」フェミニズムの姿勢を貫き、かつ彼の優生学テキストは戦後も変化がない点を明らかにする。研究成果は三点である。1.1990年代に流布する「平塚は優生思想の持ち主」論を批判し、「母性主義フェミニズム」とは別の平塚フェミニズム論の新たな可能性を探った。2.東大教授永井が優生学研究と断種法制定運動に没頭する理由が明らかにされた。3.日独比較を機軸にする優生学の歴史研究方法論のモデル例が示された。
著者
井田 徹哉 和泉 充
出版者
広島商船高等専門学校
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

次世代の船舶推進用電動機/発電機に高温超電導バルク磁石を搭載してその性能を飛躍的に向上させるために必要な、バルク磁石へのパルス着磁技術の開発を行った。本研究課題ではバルク磁石の特性に合わせたパルス磁場を発生させることを目標として、30K以下までの温度制御が可能なパルス着磁装置、25kJ出力のパルス着磁電源と表面の磁束密度分布を1ms以内で続けて計測可能な磁場センサを開発し、パルス着磁実験を試みた。
著者
大原 達美 松村 一
出版者
東京医科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、医療機関における診療機能のBCP策定に当たり、リソース・ベース・プランニングを用いたBCP策定支援ツールをWEB上にて無償提供を行うことにより、BCP策定率50%を目指すものである。本ツールが提供するBCP策定支援レポートは、1.簡易版のBIA 2.BCP策定プラン(3様式の具体的改善プランと自己記入式BCP計画書)3.他医療機関との比較チャートの3部構成とした。作成段階で実施した医療機関幹部に対する評価結果は、1と3は特に判り易く役立つ資料との回答を受けた。400床未満の一般病床を有する病院を対象に、2013年12月にツールのWEB公開を行った結果、126施設が利用登録した。