著者
齋藤 健司
出版者
神戸大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

1 現行のフランスにおけるスポーツ基本法である1984年7月16日の法律について解説付きの逐条訳を行った論文を公表した。また,同論文の解説において1984年以降のスポーツ基本法の改正の歴史的な展開を次の通り示した。1985年1月3日の法律第85-10号による改正,1987年12月7日の法律第87-979号による改正,1992年7月13日の法律第92-652号による改正,1993年12月6日の法律第93-1282号による改正,1994年8月8日の法律第94-679号による改正,1995年1月21日の法律第95-73号による改正。2 フランススポーツ基本法のスポーツ法体系における位置について,論文「フランススポーツ法典の構成」の中で示し,スポーツ基本法が基礎となりフランスのスポーツ法体系および各種の関係する制度が発展していることを明らかにした。3 特にスポーツ保険法制度の指導的判例であり,スポーツ基本法のスポーツ保険理論の展開の前提となった1989年10月24日の破棄院判決を判例研究した。また,スポーツ基本法におけるスポーツ保険制度の歴史的な形成の過程を明らかにし,論文を公表した。4 特にスポーツ指導者資格制度に関する法の歴史的発展の過程を明らかにし,論文を公表した。5 スポーツ連盟の公役務および公権力の特権を行使することによる制裁に関わる指導的な判例研究を行い,論文を公表する。6 スポーツに関する特別な法律が誕生する1940年以前において,1907年から1920年に国会に提出された体育を義務化する法律案が存在し,これらが1940年のスポーツ組織に関する法律に与えた影響を検討し,論文を公表する。7 今後は,これまで行ってきた研究成果を踏まえて,フランスにおけるスポーツ基本法の成立と展開に関する歴史的な過程をまとめ,平成11年度以降に論文としてまとめる予定である。
著者
冨田 幸雄
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

水滴の大きさと落下高さを広範囲に変えて水面に衝突させ、その後の水面変形と空気泡の取り込みパターンを検討した。特に、「水琴窟」の音発生条件と密接に関わっているものの、これまで知見が少ない「気泡のイレギュラー取り込み」領域について詳細な実験を行った。その結果、次の事柄が明らかとなった:(1)イレギュラー領域には少なくとも3種類の空気泡形成のパターンがある。一つ目は収縮する変形水面に衛星滴が衝突して空気泡が分離する場合。二つ目は発達した水柱が沈降して水中に完全に沈み込む直前、水柱底部の空気層が閉鎖する際の不安定によって微細な気泡群が発生し、これらが合体してより大きな複数の空気泡になる場合。三つ目は最初の原因で発生した空気泡が水柱の中に取り込まれ、それが再び水中に戻る場合である。第三の原因で発生する空気泡は微弱な圧力変動にさらされるだけであるため強い音響は発生しない。これに対して最初の二つの原因で生じる空気泡は、その際の圧力変動(表面張力+水圧ヘッド)によって適度な振動を練り返して水中に過渡音響を放射する。(2)従来、安定的に音が発生しないとされてきた「イレギュラー領域」の中にも、衛星滴の衝突に起因して非常に再現性良く気泡音が発生する条件があることを明らかにした。これに対して第二の原因による空気泡の形成は極めてランダムであり、その結果発生する音域の範囲は広い。この第二の空気泡の生成機構については更に高い時間分解能による光学観察が必要であり、今後の課題となった。
著者
桑田 耕太郎 松嶋 登 石川 哲也 高田 昌樹 原 拓志 高尾 義明 松尾 隆 井上 福子 高橋 勅徳 西村 孝史 水越 康介 宮尾 学
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は、所与の科学技術を産業利用する既存のイノベーション研究ではなく、科学技術の変化や産業構造の変化を伴った根源的なイノベーションのプロセスを理解するための分析枠組みと理論を構築し、先端科学技術と産業の国際競争力の向上をダイナミックに結びつける理論と方法を確立することにある。ビッグサイエンスのリサーチサイトとして、理化学研究所の協力の下、大型放射光施設(SACLAやSPring-8)を取り上げる。本研究では、「科学は社会化され、社会は科学化される」という視角を採用し、世界最先端の大型放射光施設を生み出す産業の実践、その施設を利用する科学技術者の実践、その研究成果を利用する産業の実践のダイナミクスを研究し、科学・技術と産業社会の分業構造が根幹から再編成されるプロセスを分析する。研究3年目となった本年は、これまでの研究蓄積を踏まえつつ、大きく4つの論点についてそれぞれ研究を進めた。第一に、科学と産業の相互影響の歴史に取り組み、これまでに引き続き研究蓄積の整理分析を行うとともに、各分野でのヒアリング調査を中心として、放射光科学の歴史を確認した。第二に、ビッグサイエンスを支えるビジネス・エコシステムの社会的形成、および、第三にビッグサイエンスを媒介にした社会的実践の変化を捉えるため、大型放射光施設に関わる企業のイノベーションを確認した。さらに第4として、地球レベルでのイノベーション・システムの探求に取り組むべく、研究会や学会報告を行い、研究枠組みの精緻化を進めた。
著者
山田 智之
出版者
上越教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

1年目に予定していた職場体験やキャリア教育の教育課程上の位置づけや関連する取り組みに関する中学校の教員を対象とした調査については、北越地域、関東地域の26校の中学校の校長、副校長、教員等を対象に面接調査を行った。このうち、北越地域のデータの分析を行った結果については、多くの中学校が、仕事や職業、進路や将来を生徒が主体的に考えることを目的としており、ほとんどの学校が総合的な学習の時間を活用し,学習内容を系統的に構成していることが明らかとなった。この結果については、日本キャリア教育学会第39回研究大会(上越教育大学)において、「シンポジウム:上越市における5日間の中学校職場体験に関する研究」を企画し、教育現場における職場体験やキャリア教育の教育課程上の位置づけについて研究を深めた。また、1・2年目に予定していた、中学校時代の職場体験やキャリア教育が成人期の進路選択・職業生活やセルフマネジメント等に与えた影響に関する大学生や職業人を対象としたアンケート調査については、全国の大学生1000名、北越地域の職業人100名のデータを収集した。このうち北越地域の職業人データをもとに分析をすすめ、職場体験の体験日数(1~2日間, 3~4日間, 5日間以上)が長いほど職業選択や職業生活に影響を与えたと自認する傾向があることが確認された。また, 地元での生活や仕事への満足感が高いほど成人職業キャリア成熟にプラスの影響を与え, 理想の自分イメージにも影響を与えることが明らかになった。この結果については、上越教育大学研究紀要37巻に、調査協力者とともに共同執筆を行い「中学校における職場体験が職業選択や職業生活に与える影響-新潟県上越市における社会人への調査からー」として発表した。
著者
榎本 容子 石渡 利奈
出版者
東洋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、キャリアセンターにおける発達障害の学生の効果的な「キャリア意思決定を促す相談支援プロセス」を解明すること(目的1)、また、「支援者がそれらの知見を相談時に活用できるツール」を開発すること(目的2)を目的とする。平成29年度は、全国の大学のキャリアセンター及び、その学内連携部署である、学生相談室、保健センター(計1350箇所)を対象として、大学における発達障害やその疑いのある学生に対する就労支援・キャリア支援の実施状況の把握及び、個に応じた相談支援プロセスのあり方を検討するための質問紙調査を実施した。調査結果については現在分析中である。また、研究協力者の協力を得て、これまでに実施した大学へのヒアリング調査結果を踏まえつつ、相談支援に役立つ支援ツール案(支援者向けにQ&A形式にて情報提供する冊子)を作成した。以下にQの例を示す。〇来談時期が遅く、早期支援ができません。早期から支援するためにはどのようにしたらよいでしょうか?/〇自分の得意・不得意についての認識が不足しています。どのような支援が必要でしょうか?/〇面接試験で何度も不採用になってしまいます。どのような支援が必要でしょうか?/〇進路の選択肢として学生に障害者就労について情報提供したいのですが知識が不足しています。一般の就労とどう違うのでしょうか?/〇学生の支援に当たり、教員や学内の関係部署との連携をうまくすすめるポイントを教えてください。/〇学生の支援に当たり、学生に利用を紹介できたり、支援者が相談できたりする外部の専門機関があれば教えてください。
著者
宮本 昌子 仲本 なつ恵 安井 宏 寺田 容子 滝口 圭子 松為 信雄
出版者
目白大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

発達障害のある者の就労の困難さや離職率の高さなどの問題に注目し、彼らの就労に必要な学びを教育段階から少しずつ体系的に積み上げられる機会を提供するイベント体験型のキャリア教育プログラムを開発した。就労準備に必要な学習内容について調査した結果をプログラムに反映させ、小学生~高校生に実施した結果、コミュニケーションに関するスキルは向上するが、「自己理解(障害理解)」が向上しにくいことが明らかにされた。
著者
小川 真寛
出版者
京都大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2014-08-29

高齢者施設においてレクリエーションや体操といった様々な活動が提供されている。しかし、認知症高齢者のような自らの活動を選ぶことや、その意義について表現できない対象者にとって、それらの活動が効果的であるかどうかは検証するすべがない。そこで、本研究では本人にとって活動を行った際の効果に関して観察から評価する項目が何かを調べることを目的に実施した。熟練作業療法士へのインタビューや郵送調査から、活動への取り組み方、感情表出、言語表出、社会交流や活動を通して得られたものといった観察項目が得られた。これらの視点は認知症高齢者のように自分の意思の主張ができない対象者の活動の選択や効果検討に有用と考える。
著者
黒木 玄
出版者
東北大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

アフィン・リー環(捻れたアフィン・リー環を含む)の脇本表現を構成した.それを利用して,アフィン・リー環に関する一般化されたカッツ・カズダン予想を証明した.これは捻れのないアフィン・リー環のABC型の場合に対しては、別の方法によって,名古屋大の林氏などによって証明されていた結果の拡張になっている.一般化されたカッツ・カズダン予想とは,臨界レベルにおけるアフィン・リー環の「簡約された」ヴァーマ加群が定義されて、それはその最高ウェイトが一般の位置にあるとき既約になるという形に定式化される.(論文は現在準備中)
著者
黒木 玄
出版者
東北大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

本年度は共形場理論およびそれに関係した可積分系の以下の研究を行なった:・アフィン・リー環に付随するリーマン面と主束の組の族上の共形場理論(所謂ヴェス・ズミノ・ウィッテン模型)の座標不変な定式化を与えた.・ヴィラソロ代数に付随するリーマン面の族上の共形場理論(ベラヴィン・ポリヤコフ・ザモロドチコフの模型)の座標不変な定式化を与えた.臨界レベルのアフィン・リー環に付随する任意に固定されたリーマン面上の主束の族上の共形場理論の座標不変な定式化を与えた.・臨界レベルにおける共形場理論とリーマン面に関するラングランズ・プログラムの類似の関係を研究した.・ベラヴィン・ドリンフェルトの楕円古典r行列に付随する共形場理論の定式化を与えた.それは基礎体上非分裂な代数群に付随する共形場理論の興味深い例を与える.さらに,その場合における保型形式論におけるリフティングの理論の類似を研究した.
著者
柏原 正樹 西山 亨 行者 明彦 三輪 哲二 岡田 聡一 黒木 玄 寺田 至 小池 和彦 山田 裕史 谷崎 俊之 中島 俊樹 中屋敷 厚 織田 孝幸
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

この科研費による計画においては、リー群・量子群・へッケ環などの表現論を数理物理学・組合わせ論との関係から研究した。以下、各年次における活動を記す。初年度(1997)においては、特にRIMS project1997(等質空間上の解析とLie群の表現)とタイアップして計画を遂行した。このプロジェクト研究では、等質空間という幾何的観点にたった実Lie群の表現の研究に焦点をあてた。海外からのべ約40名の参加者があり国際的な共同研究・研究交流の場が提供できた。この成果は、Advanced Studies in Pure Mathematics,vol.26に発表された。1998年は、RIMS project 1998(表現論における組合わせ論的方法)とタイアップして計画を遂行した。このプロジェクト研究では、海外からのべ約25名の参加者があり、量子群・アフィンへッケ環の表現論と組合わせ論を中心にして計画を行った。1999年は、国際高等研究所と数理解析研究所において"Physical Combinatorics"の国際シンポジュウムを開催し、数理物理と関連して研究を行った。量子群の表現論、Kniznik-Zamolodhikov方程式とそのq-変形の解の性質や共形場理論の研究を推進した。その成果は、"Physical Combinatorics,Progress in Math,vol.191,Birkhauserに発表された。2000年度は、計画の最終年として"数理物理における表現論および代数解析的方法の応用"を中心とする研究成果の発表を目的として、"Mathphys-Odyssey 2001"という国際シンポジュウムを開催した。この会議録は、Birkhauser出版から出版される予定である。
著者
黒木 玄 長谷川 浩司 黒木 玄
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

黒木玄は,楕円曲線上の共形場理論と楕円函数係数の量子可積分系の研究を行なった.一つ目の仕事は,楕円古典γ行列が現われる楕円曲線上の捻れヴェス・ズミノ・ウィッテン(WZW)模型と楕円ゴーダン模型の代数幾何的構成である.ここで,楕円曲線上の捻れWZW模型とは,楕円曲線上のある種のリー環束から自然に構成される共形場理論のことである.その共形ブロックの満たす楕円函数版のクニツィニク・ザモロドチコフ(KZ)方程式の係数として,楕円古典γ行列が自然に現われる.楕円ゴーダン模型は,ハミルトニアンが楕円古典γ行列を用いて定義されるある種の量子可積分系のことである.臨界レベルの捻れWZW模型から楕円ゴーダン模型が導出される.これによって,楕円ゴーダン模型のハミルトニアンの母函数が,捻れWZW模型の方の菅原構成によって得られたエネルギー運動量テンソルに関するウォード恒等式から得られることがわかる.二つ目の仕事は,クニツィニク・ザモロドチコフ・ベルナール(KZB)方程式の解の積分表示式をアフィン・リー環の脇本表現を用いた構成である.KZB方程式は力学変数を含む古典γ作用素を用いて書き下される線形微分方程式系である.楕円曲線上のリー環束の変形も含めたWZW模型を適切に定式化すると,その共形ブロックの満たす方程式として,KZB方程式が現われる.そのことを利用すれば,脇本表現に付随したWZW模型の共形ブロックの積分表示式から,KZB方程式の解の積分表示式が得られる.
著者
宇澤 達 山田 裕二 青木 昇 藤井 昭雄 黒木 玄 長谷川 浩司
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究では、対称対についての研究を行った。対称対は、リー群および代数群の研究において基本的な対象である。群Gと位数2の自己同型σが対称対を与える。古典型単純リー群も、基礎体の標数が2ではないときには、一般線形群を元に、位数2の自己同型の不変元全体として定義される。したがって、標数が2ではないときには、単純リー群は有限個の例外を除いて、一般線形群の対称対として理解することができる。1)対称対の基礎理論。標数2の体の上でも、リーマン対称多様体に相当する理論が構成できることがわかった。佐武図式も定義される。標数2の体上では、位数2の自己同型の共役類の数が一般には増えることが知られている。その理由もルート系の言葉で理解することができることがわかった。2)整数環上のスキームとしての対称多様体の構成。整数環に1/2を付加した環の上での対称多様体のモデルの構成は比較的容易であるが、ここでは整数環上のスキームとしての構成ができることがわかった。3)対称多様体のコンパクト化の構成。対称多様体のコンパクト化のモデル(群Gが随伴型であるという仮定のもとに)整数環上のスキームとして構成できることがわかった。応用としては、標数2の体上では、5個の2次曲線と接する2次曲線の数が51と、標数が2ではないときの1/64となっていることの説明がある。4)ルスティックによって定義された指標層に対してラングランズ対応を定義することができることがわかった。群ではなく、より一般の対称対に対してもラングランズ対応を研究することは、ジャッケの相対跡公式ともあわせて大変興味がある問題である。5)対称対と整数論の関係。対称対に関連して、エプシュタインのゼータ関数が定義され、その特殊値についての結果が得られた。また、群と対極にある対称対に付随して、楕円曲線の族があらわれる。楕円曲線の族に関する結果も得られた。6)数理物理との関係。対称対としてあらわれるアフィンリー環についての知見が得られた。
著者
黒木 玄
出版者
東北大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

共形場理論と量子可積分系の表現論的研究を行なった。楕円曲線上の臨界レベルのヴェス・ズミノ・ウィッテン(WZW)模型のボゾン化を考えることによって、カロジェロ・ゴーダン模型と呼ばれる量子可積分系の代数的ベーテ仮設法によるベーテ・ベクターが構成できることを証明した。この文脈における代数的ベーテ仮設法は数論における代数体に関するラングランズ・プログラムのコンパクト・リーマン面に関する類似に関係している。我々は関連の仕事を楕円曲線の場合に行なった。興味深いことは不思議なことに脇本表現と呼ばれるアフィン・リー環のホゾン化を用いた共形場理論の伝統的な方法によって結果が証明されていることである。その後は以下のような立場で研究を行った。我々が臨界レベルのWZW模型という立場で扱った量子可積分系は楕円曲線上のヒッチン系と呼ばれる可積分系の量子化になっており、空間方向が離散的な1次元巡回格子であるような量子系のある種の極限に成っている。すなわち、我々が扱った量子可積分系はヒッチン系と格子模型の中間にあるとみなせる。そして、臨界レベルでないWZW模型におけるクニズィニク・ザモロドチコク(KZ)方程式は等モノドロミー保存変形を記述しているシュレージンガー系の量子化になっており、空間方向を1次元巡回格子に離散化した模型に関係したq-KZ方程式のある種の極限になっている。このことに気付けば現在研究されている様々な可積分系(古典、量子、離散)の統一理論が存在しそうなことがわかる。そのような視点はこれから重要になると思われる。
著者
黒木 玄 長谷川 浩司 菊地 哲也
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目標の一つはBerenstein-Kazhdanの幾何結晶含む離散古典系の量子化であった。その重要な例として梶原・野海・山田が構成したm×n行列全体の空間への2つのA型拡大アフィンWeyl群双有理作用がある。平成17年度までに黒木はm, nの片方が2でもう一方が奇数の場合の量子化を構成していた。黒木はその結果を平成18年度にm, nが互いに素な場合にA型アフィン量子群を用いて拡張した。これによって幾何結晶の重要な例の一つと量子群が関係付けられたことになる。しかし幾何結晶と柏原結晶のLanglands双対性の存在は謎のままであり、課題として残されたままになっている。さらにその研究の副産物として量子群とWeyl群の双有理作用の量子化の関係を明確にすることができた。量子群のChevalley生成元の複素べきの作用によって任意の一般Cartan行列(GCM)に付随するWeyl群双有理作用のq差分版量子化を構成することができる。Weyl群双有理作用はPainleve系の現代的解釈において基本的なので、これによってPainleve系と量子群が関係付けられたことになる。(この構成は本質的に後述する長谷川のq差分量子版のWeyl群双有理作用も含んでいる。)さらにそれに関連してALBL=LCLD型の関係式によって特徴付けられるL作用素の重要性も明らかになった。通常の量子群のL作用素はRLL=LLR型の関係式によって特徴付けられる(FRT構成)。しかしWeyl群双有理作用を持つような量子系のL作用素を扱うためにはより一般的なALBL=LCLD型の関係式が必要になる。ALBL=LCLD型の関係式を満たすL作用素から構成される互いに可換なHamilton作用素たちはWeyl群双有理作用で不変であると予想しているが、まだ証明は付けられていない。量子版のWeyl群双有理作用で不変な作用素の構成は残された基本的問題のひとつである。以上の結果は部分的に研究集会「数理物理における新たな構造と自然な構成の探求」(名古屋大学多元数理、2007年3月5-8日)で発表された。長谷川はGCMに付随するq差分量子版のWeyl群双有理作用の構成と量子Painleve VI系の構成の2つの結果を2007年のプレプリントで発表した。菊地は通常の微分版およびq差分版のPainleve VI系を無限化積分系(ソリトン系)の相似簡約によって構成することができることを示した。
著者
多田隈 建二郎
出版者
大阪大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

学術的な成果・意義として,これまでのロボットハンド機構では困難であった,様々な種類の対象物を容易に把持することが可能で,またその把持状態を維持するのにエネルギーが不要という点が挙げられる.従って,作業における使用エネルギーを抑えるという観点からも,社会貢献的意義も有する研究課題である.重要性として,社会貢献的には,工場内での搬送する製品の形状が変化しようと,グリッパ機構そのものの取り換えは不要であり,それに伴いライン自体を変更する必要が無いという点が挙げられる.学術分野においても,この内外連続式袋状構造体を,把持機構のみならず,移動体として拡張させ,外環境になじむ探査体として活用するなど,分野発展に寄与できる可能性を有するものである.
著者
福元 謙一 野際 公宏 鬼塚 貴志
出版者
福井大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では材料評価手法としてTEM内引張試験その場観察法により熱時効および照射により生じる組織要素の硬化因子パラメータの定量評価を行い、熱時効および損傷発達過程に伴う高温強度特性変化を予測評価した。Bcc金属の純Vおよび純Feでの研究結果から運動転位と空孔型欠陥集合体であるボイドの相互作用が直接観察され、材料因子による障害物強度について測定した。その結果、ボイドによる照射硬化は母材の剛性率などに依存せず、ボイド形状因子が硬化量に対して支配的であるであることが示された。上記手法を用いた信頼性の高い原子力構造材料寿命評価解析手法を確立した。
著者
池谷 裕二
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

もし今まで感知できなかった情報を、人工センサを通じて脳に直接送る方法が開発された時、被験体の脳はその情報を人工センサとともに、すみやかに同化し、活用することができるだろうか。本研究では、磁界の向きを感知し、脳へシグナルを送る「磁気知覚センサ」を開発した。この磁気知覚センサをラットの脳に刺激電極を介して接続することにより、ラットは一次視覚野に直接送られるシグナルを手掛かりとして空間記憶課題を解くことができることを示した。すなわち、補助センサを脳に装着することによって動物が生来感知できないものを新たに感知し、活用できるようになる可能性が示唆された。
著者
坂本 智弥
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

脱共役タンパク質(UCP-1)の活性化を介してエネルギーを消費する、褐色・褐色様脂肪細胞は、全身の糖脂質代謝制御に重要な役割を果たすことが近年明らかとなった。我々はこれらの細胞の発生・活性に伴うエネルギー代謝の促進を通じて、肥満・糖尿病の予防・改善を行うことができると考えた。本研究では、褐色・褐色様脂肪細胞の発生メカニズムや、それらの細胞の発生・活性化が肥満によってどのように変化するかを検討した。まず、動物個体レベルで褐色脂肪細胞の発生を観察できる実験系の確立を試みた。UCP1発現調節領域が活性化される、細胞でレポーター遺伝子(赤色蛍光タンパク質)が発現する遺伝子改変マウスを樹立し、蛍光タンパク質由来の蛍光強度の変化を通じて、動物個体レベルで非侵襲的・経時的にUCP1の転写活性を検出できる実験系を確立した。この遺伝子改変マウスを用いることで、薬剤・食品成分の褐色脂肪細胞誘導能を動物個体レベルで簡便に評価をできると考えられる。さらに、肥満により白色脂肪組織で炎症性サイトカインが増加することに着目し、培養細胞モデルや肥満・糖尿病モデルマウスを用いて、炎症性サイトカインと褐色・褐色様脂肪細胞の発生を検討した。その結果、肥満状態の脂肪組織に浸潤したマクロファージに由来する炎症性サイトカインが、脂肪細胞のextracellular signal-related kinas (ERK)活性化を介して、褐色・褐色様脂肪細胞の発生を抑制することを見出した。これは、肥満により、脂肪組織のエネルギー消費が低下し、肥満を助長する「悪循環」メカニズムの一旦を明らかとしたものだと考えられ、新たな薬剤・食品成分のターゲットと成り得る。
著者
宇城 輝人
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、「個人という生活形式」の集団的基盤としての「社会的所有」を、その起源から跡づけ、「賃労働社会」をどのように規定してきたか知識社会学的に検討した。そのさい以下の3点に焦点をおいた。(1)19世紀フランスにおける所有をめぐる議論を社会的所有の概念史として再構成すること。(2)プルードンの所有論の意義を考察し、個人主義、社会的所有、そして社会立法との関連性を分析すること。(3)「個人という生活形式」が社会的所有との連関で展開される歴史的諸相を分析すること。