著者
鶴若 祐介
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

洞窟など地底湖に生息する生物のほとんどは、眼が退化している。しかしながら、それらの生物より遥かに長い時代を暗黒世界に生きる深海生物は、なぜ眼が退化していないのであろう?眼は機能しているのだろうか?その問いの答えが本研究結果から示された。深海魚ヤマトコブシカジカは、しっかりと眼で対象物を認識し、さらには色を学習し、暗闇でも識別できることが示唆された。また、眼を持たない原始的な生物である深海イソギンチャクは光を識別し、波長の変化を感知できることが分かった。
著者
小林 誠 最上 紀美子 岸 博子 佐藤 正史
出版者
山口大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

脳血管攣縮は、くも膜下出血後の重篤な合併症であり、その原因として、Rhoキナーゼによる血管平滑筋のCa2+非依存性の異常収縮が注目されている。従って、この血管の異常収縮を引き起こすメカニメムとその原因因子を解明する事によって、脳血管攣縮の根本的な予防法や治療法を開発することが、国民衛生上の緊急かつ最重要課題である。本研究では、脳血管において、Ca2+非依存性の異常収縮を制御する細胞内シグナル伝達メカニズムを明らかにし、そのシグナル経路を特異的に阻害する因子を同定する事を目的とする。初年度は、脳血管異常収縮の原因分手として細胞膜スフィンゴ脂質の代謝産物であるスフィンゴシルホスホリルコリン(SPC)を同定し、そのシグナル経路は、RhQキナーゼを介するものであるが、従来言われていたG蛋白質やPKCとは独立した新規のシグナル経路である事を見出した。本年度は、下記のような結果を得た。1)脳血管において、エイコサペンタエン酸(EPA)は、SPCによるCa2+非依存性収縮を著明に抑制したが、Ca2+依存性の正常収縮や細胞質Ca2+濃度レベルには全く影響しなかった。2)SPCは、Srcファミリーチロシンキナーゼを活性化させ、さらにRhoキナーゼを活性化させることによって、脳血管に異常収縮を引き起こしていた。3)SPCは、SrcファミリーチロシンキナーゼおよびRhoキナーゼを細胞質から細胞膜へ移動させた。4)EPAは、Srcファミリーチロシンキナーゼの細胞膜への移動を阻止した。これらの成果により、EPAは、Ca2+シグナル系および血管の正常なCa2+依存性収縮には影響を与える事無く、Srcファミリーチロシンキナーゼの機能を阻害する事によって、特異的に脳血管の異常収縮を阻害することがわかった。
著者
小林 誠 岸 博子 川道 穂津美 加治屋 勝子
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

血管病は合計すると我国死因の第二位であり、また、突然死の主要な原因となる難病である。申請者らは、血管病の主因となる血管異常収縮の原因分子としてスフィンゴシルホスホリルコリン(SPC)を発見した。本研究では、SPCによって引き起こされる血管の異常収縮に関わる新規の原因シグナル分子を同定し、その制御機構について明らかにすることを目的とした。その結果、以下の事を明らかにした。1.ヒト血管においては,SPCによる血管異常収縮は,コレステロール依存性であることが判明した。さらに,コレステロールが蓄積する膜ラフトが重要である事がわかった。この研究成果は,Circulation Research誌の編集者から,コレステロールと血管異常収縮の直接の関連性を初めて証明した報告として,Editorial Sectionで特別に紹介され,絶賛された。 2.膜ラフトに局在するFynチロシンキナーゼの重要性について検討した。スキンド血管にFynのリコンビナント蛋白(ワイルド・タイプ、ドミナント・アクティブ体,ドミナント・ネガティブ体)を導入する事により,Fynが,SPCによる血管異常収縮において重要な役割を果たしている事が分かった。3.従来のCa2+による収縮現象のみならず,Rhoキナーゼを介したCa2+によらない収縮現象をin vitro motility assay 系によって証明する事ができた。4.膜ラフトモデル膜として,ハイブリッドリポソームを作成することに成功した。これを応用して,SPC,EPAが,濃度依存性にラフトモデル膜に結合する事を明らかにした。5.ヒト血管から高純度のラフト分画を精製することに成功した。さらに機能的プロテオミクスによりヒト血管の膜ラフトに局在する新規蛋白を複数個同定した。6.以上の異常収縮のシグナル伝達経路を阻止できる新規の候補分子を複数個同定した。
著者
畑江 美佳 石濱 博之 ジェラード マーシェソ 長倉 若 ダルコーティボ ナンシー 溝口 愛 青山 祥子 段本 みのり
出版者
鳴門教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

平成32年度より開始される小学校外国語の教科化を想定し,「文字」に特化した小・中接続シラバスモデルを提案する研究を行った。平成26年度から,鳴門教育大学附属小学校の5・6年生で「大文字・小文字の認識」「アルファベットの音への気づき」「サイト・ワード・リーディング」の指導を行い,平成27年度も継続して行い,文字認知の検証をした。同時に,附属中学校の1年生の初期の授業にて,小学校での文字の学習との接続を意識したリーディングに重点を置いた多読授業を試行した。さらに,平成28年度は,附属小学校での試みを,公立の小学校で実践してもらい,附属小学校と共に,公立小学校での「文字」の扱いの有効性を測定した。
著者
棚橋 光彦 大田 親義 則元 京
出版者
岐阜大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1992

新しい木材の加工法として高圧水蒸気による木材の圧縮成形加工技術の発展に向けて,装置やプレス治具の開発および処理条件の検討を行った。この装置を用いることにより丸太から切削せずに直接角材に圧縮成形することを可能とした。特に軟化条件や変形を固定するための処理条件、減圧及び冷却条件などについて検討した。また処理条件を検討する際,高温高圧水蒸気下で木材を圧縮成形している時点での木材内部の温度及び応力の測定を経時的に行い、プレスによって木材中に発生した応力が水蒸気処理の過程で減少していく状況を追跡し、変形を完全に固定する条件を明らかにした。また種々の形状への圧縮成形加工についても検討し,断面が6角やロッグハウス用に組み合わせられるように凹凸のほぞ加工を施した形状への圧縮加工、立体トラス用の金属との接合部材用に1方向にのみ圧縮し、表面のみを圧密化した角材などの製作を試みた。さらに木材を種々の形状の治具でプレスすることによる木材表面の加飾性などについて検討し実用規模での応用の可能性について検討した。また木材に大変形を与えられる事を応用して、小径木や枝材などの未利用材を丸太のまま数本接着剤を用いて集成する事により大きな板材や大断面集成材の製造を試みた。樹皮を除いた場合はJIS規格を充分満たす接着強度が得られ、スギのような軟質材から硬質広葉樹のように表面硬度の硬い板材の製造が可能となった。しかし、小径木から樹皮を除去するのは手間がかかるため、樹皮付きのままで集成材に成形することを試みた。接着剤としては樹皮への浸透性の高いものが要求されるため、含浸用の接着剤を使用し、処理条件の検討を行った。樹皮付きでも集成材の製造が可能であり、おもしろい断面形状のものが得られたが、樹皮と木材との境界部分の強度が弱く、この点については今後接着剤の種類を変えて適正なものの選抜や、新しい接着剤の開発が必要である。また接着剤を使用しないで、圧縮変形を用いて物理的な接着剤による集成材の製造についても検討した。接着したい木材にドリルで孔をあけておき、細い角材を通して圧縮する事により、物理的に数本の太鼓挽きした小径木を一枚の板に成形した。これによって接着剤を使用しない簡単な集成材の製造が可能となった。このように圧縮成形技術によりこれまで利用法の無かったスギ間伐材を効率よく利用できる方法を開発でき、新しい木材工業が発展できるものと期待している。
著者
Neuman Florian
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

研究課題は 戦前日本の保守派と右翼の政治、国家、憲法、ユートピア思想(「国体観念」)である。2014年と2015年、革新右翼の代表者大川周明に関する資料を分析したあと、東京に事務局のあるOAGドイツ東洋文化研究協会のドイツ語雑誌『OAG Notizen』で二つの論文を発表した。2016年と2017年、東京帝国大学の国史学教授平泉澄について研究を行い、2017年3月、同雑誌で平泉に関する第一の論文を発表した。
著者
中西 功 服部 雅史 原田 秀喜 神戸 健太 圓岡 岳泰 金城 希望 泉 佑樹
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

動画像中に高速に切り替わる画像を挿入することで,知覚できない視覚刺激を作成し,それを提示した際の誘発脳波を被験者20名から集めた.脳波のα帯域のスペクトル変化を個人特徴として,ユークリッド距離により識別を試みた結果,識別率は60%程度という結果であった.また,人には知覚できない超音波(周波数20KHz以上の音)を用いて知覚できない聴覚刺激を作成し,それを10名の被験者に提示し,脳波を測定した.脳波スペクトルを対数変換したものを個人特徴とし,識別器にサポートベクターマシンを用いて識別性能を評価した結果,77%程の識別率が得られた.
著者
嘉名 光市 佐久間 康富 堀 裕典 堀口 朋亨
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

(1)回遊型社会実験データベース:海外8都市、国内4都市のインタビュー、現地調査を参考に回遊型社会実験データベースを構築し、社会実験は「交通」「空間」「イベント」に分けられることを明らかにした。また、全国の常設的オープンカフェ事業の展開の特徴、富山市グランドプラザの利用目的を明らかにした。(2)実証社会実験:都心エッジ型、既成市街地型の社会実験を実施し、橋上カフェ社会実験の評価と回遊行動に与える影響を明らかにした。
著者
水田 孝信
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

今年度の本研究の進展状況としてはまず、今まで行ってきた重イオンの加熱・加速メカニズムの理論をさらに洗練化し、このメカニズムが起きるための波動に課せられる必要条件を定量的に導き出した。この初期結果はAdvances in Space Researchに掲載予定であり、詳細な結果はPhysics of Plasmaに投稿準備中である。相対論的効果を入れて、議論することを始めた。これは、例えば、パルサー風中での粒子加速など、応用範囲が広い。相対論的粒子は、円偏波の電磁波と共鳴することができ、今まで議論してきた重イオンの加速と同じようなことが起こると予想される。初めから共鳴している相対論的粒子は、単独の電磁波と共鳴することにより、強く加速することが示されたが、初め、少しでも、共鳴からずれていると強い加速は起きないことが分かった。このため、非相対論の場合と同じように、二つの電磁波がある場合のみ、共鳴速度付近の速度をもつ粒子すべてが、加速することが可能になる。その加速効率を詳細に調べた結果、非相対論のときほど加速効率が良くないことが分かった。しかしながら、重イオンの場合と違い、特殊な状況設定を必要としないため、適応範囲は広いと考えられる。というのも、必要とされる電磁波に波長などの制限はなく、どのような電磁波でも円偏波であれば、二つ孤立的に存在すればこれは、起きるからである。この、結果は、2004年3月の天文学会で発表し、Physics of Plasmaに投稿準備中である。
著者
小野 永貴
出版者
日本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

教育センターのWebデータベース上で公開されている学習指導案を収集し、横断検索可能なプロトタイプシステムを開発した。そのために、都道府県教育センターの学習指導案公開状況を網羅的に調査したうえで、学習指導案の執筆法に関する図書や実際の学習指導案データのサンプルを分析し、初等中等教育の学習指導案に特化した検索化手法の検討を行った。その結果、「見出し語シソーラスによる同義語検索」「見出し出現位置範囲による重みづけ」「見出し項目名と項目値の近傍検索」の3つを有効な手法として提案した。
著者
飯島 憲章
出版者
広島大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

[目的]本研究では、マダイの鰓から構成的あるいは誘導的に合成・分泌される抗菌ペプチドを電荷・疎水性・分子量に基づく多次元クロマトと質量分析法を併用して網羅的に解析することを目的とした。[方法及び結果]未処理区及びLPS処理区(0.51mg LPS/100g魚体重)のマダイ未成魚(魚体重160g前後)よりそれぞれ鰓組織を採取し、液体窒素下で粉末状にした後、粗抽出液を調製した。次いで、Sep-PakC18カートリッジで脱塩した後、 SP-Sephadex C25により強酸性、弱塩基性、強塩基性の3分画を得た。この中で最も抗菌活性の高い強塩基性画分について、ゲル濾過HPLCにより分子量分画し、Fraction I〜IVを得た。そのうち、高い抗菌活性を示したFraction II、IIIついて2段階の逆相HPLCによりペプチド分画を行った。逆相HPLCの溶出画分から抗菌活性の高いピークを選択し、ESI-MSで分子量を推定した。なお、各精製段階における抗菌活性の測定には、B. sutilisを用いMBC(Mimimal Bactericidal Concentration)を求めた。ゲル濾過HPLC、逆相HPLCで得られた画分については、E. coliを用いたマイクロプレート法とB. sutilisを用いたコロニーカウント法を併用し、抗菌活性を測定した。未処理区及びLPS処理区の鰓粗抽出液から、SP-sephadex C-25、ゲル濾過HPLC、逆相HPLCにより抗菌ペプチドを精製した後、ESI-MSにより、平均分子量を解析した。その結果、未処理区のゲル濾過HPLC溶出画分Fraction. IIにおいて3種類(M. W.約3000〜7000)、またFraction.IIIに7種類の抗菌ベプチド(M. W.約1800〜4500)の存在を確認した。またLPS処理区のゲル濾過HPLC溶出画分Fraction.IIでは、未処理区で確認された抗菌ペプチドに加え、さらに2種類(M. W.約3000〜4000)が、またFraction.IIIからは5種類(M. W.約1800〜7000)の抗菌ペプチドの存在が確認された。これらは誘導型抗菌ペプチドである可能性が示唆される。現在、計14種類の抗菌ペプチドについてN末端配列を解析中である。
著者
有波 忠雄 石黒 浩毅
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

統合失調症の発症には多くの遺伝子が関与しており、それらの遺伝子を同定するのに有用なゲノムワイド関連解析を実施し、検出された関連遺伝子の中からとくに治療面において重要な遺伝子を同定することを目的として、ヒトの脳、遺伝子改変マウス、細胞実験、パスウエイ解析を行った。その結果、SMARCA2遺伝子が統合失調症に関与し、かつ、多くの遺伝子に影響を与え、統合失調症の発症に関わっていることが証明された。そのなかでもHOMER1遺伝子は部分的なSMARCA2遺伝子の発現低下でも選択的スプライシングが変化してグルタミン酸神経伝達体の機能不全に関わることが示され、SMARCA2遺伝子型が個別化医療に有用な情報であることが示唆された。
著者
松政 正俊
出版者
岩手医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1.3亜種を含むUca lactea complex,およびU.vocans complexを対象にして,日本の沖縄本島と西表島,タイ国のプケット島とラノン,オーストラリアのダーウィンにおける合計10の個体群について,雄の大型鋏脚の左右性と大型鋏脚が再生肢である割合,およびサイズ組成を調査した。左の鋏脚が大型である個体(左利き)の割合と再生肢を持つ個体の割合を種間,亜種間,同亜種個体群間(日本とタイ国の種類のみ),および同一の個体群の世代間(コホート解析により分離)で比較した。その結果,両種における利き腕の左右比の維持機構は同一のものとは考えにくく,左右比がほぼ1であるU.lactea complexでは頻度依存型の調節が重要であり,右利きの個体が90%以上と卓越するU.vocans complexでは利き腕の左右性は淘汰に中立であると推定された。2.大型鋏脚を使った雄の求愛行動や闘争に伴う血中乳酸値の変化を,沖縄本島のU.l.perplexaを対象にして野外で彼等の行動を制御した実験によって検討したところ,これらの社会行動が嫌気呼吸の産物である血中乳酸濃度を有意に増加させること,すなわち相当のエネルギーコストを要することを明らかにした。このことから,本亜種を含むU.lactea complexでは,大型鋏脚を使う求愛や闘争に関わる形質は選択圧を受けると推定された。3.沖縄本島のU.l.perplexaの闘争を,巣を保持している定住雄同士と,定住雄と放浪雄間のものに区別して観察・比較したところ,闘争様式と闘争時間に相違が認められた。このことより,雄の定住性は,雄間闘争の様式を変化させて雄間に働く競争の度合いに影響すると考えられた。上記のうち1は学会にて発表済み(投稿準備中),2は学術論文として公表済み,および3は現在論文投稿中である。
著者
杉山 陽子 飯田 宏樹 田辺 久美子
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

ヒト培養気道上皮細胞株において、タバコ煙抽出液(CSE)曝露後に気道炎症の初期段階として産生される気道粘液(MUC5AC)を測定した。GABAB受容体刺激薬であるバクロフェンを前処置または後処置したがMUC5ACの産生量に影響はなかった。GABAB受容体拮抗薬を同様に投与したが有意な変化はみられなかった。CSE暴露後の気道上皮細胞株において炎症収束因子(リゾルビン)の発現を経時的に測定したが有意な変化がみられず、測定方法や測定時間の設定に問題があった可能性がある。気道上皮細胞において喫煙で惹起される炎症の発生・収束にGABABの関与を証明することはできなかった。
著者
佐々木 和夫 木谷 晧
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

本研究では、パラジウム系触媒と水素、酸素を用いて、一段階で高純度の過酸化水素を得ることを目的として、気相及び液相の二種の反応系について検討し,以下に述べる成果を得た。1.水素、酸素同時通気法による過酸化水素の一段合成気相法では、シリカゲル上にパラジウムを担持した触媒を用いて、条件を種々変化させて詳細に検討した。しかし、生成する過酸化水素を触媒相から搬送させることが因難であり、気相法は不適であると結論した。従来知られている液相一段合成法では、過酸化水素の分解を防ぐために安定剤を添加する必要があり、高純度の溶液が得られなかった。本研究において、担体であるシリカゲルの表面をトリメチリシリル化して疎水性にすることにより、過酸化水素の生成速度及び溶液濃度が著しく増加し、高純度の過酸化水素水溶液が得られることを見い出した。しかし平衡濃度は製品として利用できるほど高くなく、濃縮工程が必要である。このため、本法を過酸化水素のin situ発生法として用い、生成する過酸化水素を有機基質と反応させて酸化生成物を得る方法について検討した。2.過酸化水素を利用する芳香族化合物の酸化反応ベンゼンを溶媒として、パラジウム触媒分散下で水素、酸素の混合気体を通気すると、選択的にフェノ-ルが得られることを見い出した。実験条件を詳細に検討してフェノ-ル生成の最適条件を決定すると共に、水酸化反応は触媒上で生成する過酸化水素を経由することを明らかにした。また、安息香酸やナフタレンのような固体の基質については、酢酸を溶媒に用いることにより、同様に水酸化反応を効率よく行えることを見い出した。更に気相反応によるベンゼン酸化についても検討した。パラジウム触媒ではフェノ-ルは殆ど生成しなかったが、銅を共担持させると著しく触媒活性が向上した。
著者
松永 慎史
出版者
藤田保健衛生大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

これまでの研究結果から, 炭酸リチウムはアルツハイマー型認知症の認知機能障害の進行を抑制する効果が示唆されている。2015年度に, 我々は既報のランダム化比較試験の系統的レビューとメタ解析を行い, 炭酸リチウムがアルツハイマー型認知症に対して認知機能障害の進行抑制効果を持つ可能性があることを報告した。これらの結果を踏まえ, 我々は日本人のアルツハイマー型認知症を対象とした, 炭酸リチウムの有効性, および安全性に関する二重盲検, プラセボ対照, ランダム化比較試験を開始した。現在, 本試験は症例登録中である。
著者
小林 快次
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

デイノケイルスの含気化は、生命史上最も巨大化した動物である竜脚類を超えるものであった.この含気化はデイノケイルスの祖先系の種に見られることから,初期の段階で確立しており,進化とともに含気化が進むことで巨大化を可能としたと考えられる.また,頭骨は,広いくちばし,深い下顎,長い吻部と言った特徴を持つ.これらは採餌と食べ物の細分化を可能とした構造を持っていた.さらに,体内の胃石は円磨度が高く,胃における物理的な消化活動の高さを持っていたと考えられる.脊椎の長い神経棘は,他の恐竜よりもかなり複雑な構造をしている.長い神経棘には複数の機能があり,必要に応じてその機能のウエイトを変えて進化したと考察した.
著者
高田 博行 阿部 美規
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

18世紀から19世紀後半に至るまでのドイツ語正書法の歴史を概観するなかで18世紀の二人の文法家、すなわちJ.Ch.ゴットシェート(1700-1766年)とJ.Ch.アーデルング(1732-1806年)の正書法原理を明らかにすることが本研究課題にとって最重要であることが判明した。ゴットシェートに関してはその著"Kern der deutschen Sprachkunst"(1773年)における正書法規則を調査した。ここで基準とされる「発音」とはあくまでも「宮廷人」が話す発音であり、また同じく基準とされる「慣習」は「最良の文筆家」の書法であった。唯一言語学的な基準は「語幹」主義、すなわち語幹を一定の書法で統一的に綴ることであった。この3つの原理が同時に働くケースにおいてどの原理を優先させるかについては、事例ごとのアドホクな決定に委ねるほかなかった。アーデルングの主要な文典からは、彼が上部ザクセンの上流階級の用いるドイツ語を模範とし、正書法の原理としてはこの模範における「発音」、「形態」(Abstammung)、そして「慣習」を、この順で重視していることが明らかとなった。コーパスに基づく調査の結果、いわゆる分離動詞の綴り方に関する彼の規範が、しばしば同時代の文筆家の実際の綴り方と一致しないことを確認したが、これは分離動詞の正書法に関しては、「発音」および「形態」がその他の場合ほど有効ではなく、「慣習」の影響を大きく被ることによると思われる。また、分離動詞の分かち書き・続け書きには分離動詞を構成する要素の元来の品詞が関与している可能性も指摘できる。
著者
森本 恵子 鷹股 亮 上山 敬司 木村 博子 吉田 謙一
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.マイルドな精神的ストレスであるケージ交換ストレス(CS)による血漿ノルエピネフリン(NE)増加反応は、雄ラットにのみ見られるという性差が存在し、これは昇圧反応の性差の原因と考えられる。このメカニズムとして、雄では一酸化窒素(NO)がNE増加を促進させることが示唆された。2.卵巣摘出ラットでもCSストレスによるNE増加反応が見られるが、エストロゲン補充により抑制される傾向があった。また、エストロゲン補充により安静時の血漿NO代謝産物(NOx)が増加する傾向があり、逆に、酸化ストレスマーカーである4-hydroxy-2-nonenalは低下した。3.エストロゲンの中枢神経系を介したストレス反応を緩和するメカニズムについて検討した。c-Fosタンパク質を神経細胞活性化の指標とし、各脳部位におけるCSストレスの影響とそれに対するエストロゲン補充の効果を免疫組織化学法を用いて測定した。その結果、CSストレスにより卵巣摘出ラットでは、外側中隔核、視床室傍核、弓状核、視床下部室傍核(PVN)、視床下部背内側核(DMD)、青斑核(LC)でc-Fos発現が有意に増加したが、正常雌では増加は見られなかった。しかし、卵巣摘出後にエストロゲン補充を行なうとPVN、DMD、LCではc-Fosの増加が抑制された。さらに、LCではストレスによるカテコラミン産生細胞の活性化が、エストロゲン補充により有意に抑制されることが判明した。同部位では、エストロゲン受容体αの存在が免疫染色で確認でき、エストロゲンの直接作用の可能性が示唆された。また、PVN小細胞領域では、エストロゲン補充はNO産生ニューロンのストレスによる活性化を促進することを見いだした。これはエストロゲンの抑制作用におけるNOを介したメカニズムを示唆している。以上の結果より、エストロゲンは末梢血管系においては酸化ストレス抑制作用によって、中枢神経系ではPVN、DMD及びLCの神経細胞に対する抑制作用によって、ストレス反応を緩和する可能性が示唆された。