著者
青柳 孝洋
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

現代アラブ世界の音文化、特にアラブ・ポップと称される大衆音楽が本研究の中心課題である。調査をする際、グローバル化、原理主義とも称されるイスラーム的な宗教復興運動、そしてインターネットや衛星放送をはじめとするメディアの発達を考慮した。20世紀末頃からのこれらの環境的な変化は、情報の伝達を容易にし、国境を越えた人や文化の交流を増大化させており、現在に至るまで、アラブ音文化の質的変化に大きく寄与している
著者
小澤 智生 西中川 駿
出版者
名古屋大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2000

縄文・弥生時代の考古学的遺跡から産するいわゆる古代豚とされる獣骨が,野生のニホンイノシシなのか家畜豚であるかを遺伝学的に特定するための基礎データを得るため,ユーラシア大陸及び東アジア・東南アジアの島嶼域に棲息するイノシシ属(Sus)の野生種及び家畜豚のミトコンドリアDNAシトクロームbの全塩基配列およびミトコンドリアDNAのD-loop領域の一部の配列決定を行い,野生イノシシおよび家畜豚の遺伝学的特性を明らかにした.これらの基礎研究をふまえ,考古学的遺跡産の試料として,縄文時代晩期の佐賀県菜畑遺跡産(4試料),弥生時代の大分県下郡遺跡産(3試料),愛知県朝日貝塚産(3試料)の典型的な古代豚とされる骨を選び抽出された古代DNAをPCRで増幅しミトコンドリアDNA調節遺伝子領域255塩基対の配列を決定し,アジア・日本のイノシシ及び豚の配列と比較を行った.その結果,10試料中の9試料の配列はニホンイノシシ集団に固有に認められる配列であり,残りの1試料の配列はニホンイノシシ集団と東南アジアの一部の豚に認められる配列であることを確認した.この事実は縄文時代晩期から弥生時代の日本の稲作文化において,大陸産の家畜豚が飼われていなかったことを示唆している.本研究では,さらに縄文時代の遺跡産試料,琉球列島の貝塚時代の試料についても,予察的ながら形態ならびに分子考古学的検討を行ったがすべてが野生イノシシであり家畜豚である事実は得られなかった.一方,遺跡出土骨の形態学的研究の基礎試料を得るため,日本各地のニホンイノシシ集団の頭骨の形態計測学的研究を行い,野生集団の形態学的特性を主として主因子分析の立場から明らかにした.次に,縄文・弥生遺跡出土ノイノシシならびに古代豚とされる頭蓋の比較形態学的計測を行い,現生ニホンイノシシのデータと比較した.その結果,遺跡出土の試料は,いずれもニホンイノシシの形態変異の範疇に入り,ニホンイノシシと区別する事が出来なかった.これらの一連の事実から,考古学者の一部が主張するいわゆる古代豚というものの存在は否定される結果となった.
著者
林 忠行
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

1)1977年に始まるチェコスロヴァキアでの人権運動、憲章77はそれ以降の信国における異論派の運動の中心となった。憲章77は、既存の政治体制に対し、他の政治的選択肢を提示するという意味での「政治活動」を避け、体制が承認した国際規範や宣言、言体的には世界人権宣言、ふたつの国際人権規約、ヘルシンキ宣言などを論拠に、それらの内容を国内で実施するよう求めた。この点に運動の最大の特色があった。2)当初、憲章77のヘルシンキ宣言とその後の全欧安全協力会議(CSCB)に対する期待は、必ずしも大きなものではなかった。しかし、その後、CSCEは憲章77の運動の基本的な支柱となる。CSCEは拘束力の弱いプロセスにすぎなかったが、憲章77の主張が西側諸国政府によってとりあげられることによって、国際的な場でその主張は政府の立場と対峙できた。また、その過程を通じて西側のNGOとの接触が深まった。こういった意味において、CSCEは憲章77の運動の「国際化」を可能にした。3)また、CSCEが人権だけでなく、平和や環境など広範な問題を扱っていたことから、その影響下で憲章77が「人権」をより広い文脈でとらえるようになった。少なくとも運動はCSCEとのかかわりの中で、全欧州的な視野を獲得したといってよいであろう。4)1989年の同国での政治変動において、憲章77が育てた人脈は大きな役割を果たし、また現在の政府にも多くの人材を送り込んだ。しかし、89年政変を単線的に憲章77の運動もしくはCSCEと結び次けることには慎重でなければならない。この政変は、国際的政治・経済環境の変容、国内体制の分裂と体制の自壊といった多様な結果生じたからである。とはいえ、政治変動初期において、「市民フォ-ラム」などが示した理念は多くの点で憲章77が積み上げてきた議論を引き継いでいる。少なくとも、理念的には、憲章77とCSCEは89年政変に深く結び付いている。
著者
山田 慎也
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

今年度は最終年度であり、現在までの調査の総括と補足調査を行った。まず、2005年9月に開催された日本宗教学会学術大会において、パネル「死者の祭祀と供養-集団性と個人性の葛藤と共存」のなかで「死者に対する慰撫と顕彰」というタイトルで発表した。当該科研費の研究成果をふまえ、岩手県中部においては当初、哀れむべき慰撫される死者たちが来世の幸福な姿として絵額にされたが、不幸な慰撫される存在の延長上にあった戦死者が、御真影等の肖像形式となり、顕彰として写真を使用するようになった。それ以降、不幸な死者だけでなく、天寿を全うした老人などの遺影も奉納されるようになり、死者が顕彰される存在として捉えられるようになったことを報告した。さらに今までの成果のうち、岩手県宮守村長泉寺の絵額・遺影調査の資料を整理し、「近代における遺影の成立と死者表象」という論考をまとめ、『国立歴史民俗博物館研究報告』132号に掲載された。ここでは絵額の成立と特徴を詳細に検討し、絵額が供養を目的としていること、夭折の死者や連続して死亡した使者など特に慰撫すべき存在であること、ある程度のパターンができていることなどが明らかになった。そうした絵額から遺影への変化は、戦死者において顕著であり、そこには顕彰のまなざしがあり、それ以降になると不幸な死者にも遺影を用いることがわかってきた。こうした遺影への変化は、表象のあり方が現世の記憶を基盤にしただけでなく、写真それ自体が死者そのものの表象として使われるようになり、人々の遺影への意味づけは多義的になっていた。こうして近代の国民国家形成の過程において、とくに戦死者の祭祀との関連から、死者の表象のあり方が大きく変わるとともに、死の意味づけを変えていったこと明らかになった。
著者
繆 いん 藤原 良叔
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

完全差集合族問題は、電波天文学での移動アンテナ間の間隔取り方問題の抽象化であり、1970年代中頃に提出された。レーダー配列問題は、移動アンテナ間の間隔取り方問題の高次元への拡張であり、飛行船の追跡管制技術などに応用される。本研究では、組合せデザイン理論により、完全差集合族及び関連するレーダー配列、均質一様差行列、単調有向デザインなどを数多く構成した。デジタル・コンテンツ著作権保護での不正ユーザ追跡方法についても新しい結果を得た。
著者
祖山 均 巨 陽
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本研究は,半導体にひずみを付与すると電気的特性が変化することを活用し,半導体の一種である亜酸化銅太陽電池を取り上げ,ひずみの付与による太陽エネルギを電気エネルギへ変換する変換効率を向上させて亜酸化銅太陽電池を高性能化することを目的とする。本年度は初年度の研究を発展させ、ひずみを活用した亜酸化銅太陽電池の高性能化を図った。1.光起電力効果におけるひずみの影響の定量的評価 銅板を高温酸化させて亜酸化銅を銅板上に生成させた試験片を作製し,それを片持ちはりとして荷重-変位を測定し,亜酸化銅の縦弾性係数を求めた。また酸化条件を変化させた亜酸化銅のひずみを,2次元検出器を有するX線回折装置を使用して2D法により,求めた縦弾性係数を用いて亜酸化銅の残留ひずみを評価した。その結果,酸化条件により残留ひずみが異なることを明らかにした。また亜酸化銅太陽電池に曲げ応力や垂直応力を与えることにより,光起電力が向上することを明らかにし,求めた縦弾性係数により,亜酸化銅に負荷した応力をひずみに換算して評価した。2.光起電力効果におけるひずみの影響の電気的特性の評価 銅板から生成した亜酸化銅太陽電池について太陽電池シミュレータにより光起電力を計測しながら,ひずみを付与して,ひずみにより光起電力が向上することを明らかにした。また亜酸化銅太陽電池にひずみを付与しながら亜酸化銅太陽電池の抵抗などを計測した結果,ひずみによる光起電力向上には,亜酸化銅太陽電池のショットキー障壁が変化している可能性を明らかにした。3.ひずみを活用した亜酸化銅太陽電池の高性能化 亜酸化銅を酸化する際の酸化時間や酸素分圧により光起電力が異なることを明らかにし,最適酸化条件を得た。また亜酸化銅太陽電池に曲げ応力を負荷するよりも垂直応力を負荷したほうが亜酸化銅太陽電池を高性能化できることを明らかにした。
著者
唐 健
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

水素はヘリウム以外に自然に存在する超流体の唯一の候補である。水素液体が超流動に相転移する温度は三重点より低いため、その相遷移の観測は非常に困難であり、水素超流動の実現はまだ成功していない。ヘリウムクラスターの赤外分光によってヘリウム超流動の研究と同じ手法で、気相の水素分子クラスターの赤外分光によって水素分子超流動を見出すことが期待される。本研究は従来の赤外ダイオードレーザー分光器を用いて一酸化二窒素(N_2O)と13個水素分子までのパラおよびオルト水素クラスターについて振動回転スペクトルの観測が成功した。パラ水素クラスター(para-H_2)_N-N_2Oの回転定数の解析結果では、水素分子数の増加で回転定数の大きさがN=13まで単調的に減少し続け、分子超流動が始まった形跡は認められなかった。観測されたN=15以上の(para-H_2)_N-N_2Oクラスターの振動回転スペクトルは突然不規則になり、分子超流動の始まりとも考えられる。より多くの水素分子クラスター種を研究するために、中赤外領域に広く発振できる連続波OPOレーザーを用い、超音速パルス分子線装置および非点収差多重反射セルと組み合せて、最初に変調型の赤外吸収分光器を製作した。2つの異なる周波数の変調を用い、吸収ありとなしの2つの信号の比によって、OPOレーザー出力の変動を抑えることができた。さらに、水素分子クラスターを検出できる感度を実現するために、最近活発に使われているキャビティリングダウン分光法装置を立ち上げた。この分光法の感度は光源の出力変動に依存しない特徴があり、OPOレーザー出力変動の問題を避ける最適切な方法だと考えられた。メタン分子の非常に弱い振動回転遷移を観測し、周波数を掃引しない場合は吸収係数が最小1×10^<-7>cm^<-1>まで検出できることがわかった。さらなる改良で感度を向上し、超音速分子線と組み合わせて水素分子クラスターのスペクトル観測への応用が期待される。
著者
狩野 方伸 少作 隆子 田端 俊英
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2001

マリファナの活性成分であるΔ9-テトラヒドロカンナビノールは、中枢神経系に広く分布するCB1カンナビノイド受容体を介して作用を発現する。CB1受容体に対する内因性のリガンド(内因性カンナビノイド、以下eCBと略す)の候補として、アナンダミドと2-アラキドノイルグリセロールがある。CB1は中枢ニューロンのシナプス前線維に局在し、その活性化によって伝達物質放出の減少が起こる。しかし、本研究開始時点で、eCBがどのような刺激によって生成され、どのような生理機能を果たすかという最も重要な点についてはほとんど明らかにされていなかった。本研究では、eCBのシナプス伝達における役割を主として電気生理学的手法を用いて調べ、以下の結果を得た。海馬神経細胞および小脳プルキンエ細胞において、シナプス後細胞の脱分極と細胞内Ca^<2+>濃度上昇によりeCBが放出され、逆行性に抑制性および興奮性シナプス終末のCB1受容体に作用して伝達物質放出の一過性減少がおこることを明らかにした。また、グループI代謝型グルタミン酸受容体や、M_1及びM_3ムスカリニックアセチルコリン受容体などのGq結合型受容体の活性化によってeCB放出が起こり、逆行性にCB1受容体に作用して伝達物質放出の一過性減少がおこることを発見した。さらに、海馬培養細胞において、単独ではeCB放出を起こさない程度の弱いM_1/M_3受容体の活性化と弱い脱分極を同時に与えると、eCBが効率よく産生された。これは、海馬神経細胞に存在するフォスフォリパーゼCβ1(PLCβ1)の酵素活性が、M_1/M_3受容体の活性化と細胞内Ca^<2+>の両方に依存することが原因である。したがって、PLCβ1はコリナージック入力(シナプス前活動)と細胞内Ca^<2+>濃度上昇(シナプス後神経活動)の同期性検出分子として機能することが明らかになった。
著者
西沢 義子 野戸 結花 北宮 千秋 會津 桂子
出版者
弘前大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011-04-28

GM サーベイメータアラーム音はブザー音よりも不安・緊張感は強くないものの、防護服を着用すると不安・緊張感が増強すること、防護服から受けるイメージは一般的な医療者の服装よりも否定的感情状態が高かった。また、GM サーベイメータアラーム音から受けるイメージには性差が認められ、放射性物質の付着が少ない音の場合は不安感が少ないものの、女性の不安感が強かった。今後は作業者の活動性や機能性等を考慮し、放射線防護服については色やデザイン、GMサーベイメータについては被験者に緊張や不安感を与えない音の改良が必要である。
著者
本村 健太
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

基礎的段階として、初年度・次年度にVJ表現やWebデザインの展開事例を実践研究として構成学的な観点から総括した。最終年度には、実践研究を継続するとともに、その源流を探る試みとして、バウハウスのルートヴィヒ・ヒルシュフェルト=マックによる「カラーライトプレイズ」を中心とする考察を行った。カラーライトプレイズは、ライトアートの美術史上のみならず、インタラクティブ映像メディア装置の源流として「カラーミュージック」の系譜のなかでも捉えられ、今日的な表現にまで至る、芸術と技術の融合による総合芸術的なあり方を確認することができ、初期バウハウスの「プロジェクト」が現在においても有効であることの例証となった。
著者
多田 昇弘
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

マウス精子を室温保存できれば、凍結保存に比べ、保存スペースが少なくて済み、液体窒素を補充する必要もなく、輸送も容易である。本研究では、マウス精子の室温保存技術を確立するために、トレハロース及び緑茶ポリフェノールを含む保存液を用いて真空乾燥させたマウス精子を室温保存し、復水後の受精率及び発生率を確認した。また、一部の保存精子ついて、1年以上の室温保存を行い、産仔の作出も試みた。その結果、トレハロースの室温保存における有効性が明らかになった。また、1年以上(446日)長期室温保存した精子を用いて顕微授精を行い、得られた受精卵の卵管移植により、正常な産仔の作出に成功した。
著者
松本 英樹 北井 隆平 成田 憲彦
出版者
福井大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

正常マウス(Jcl:ICR マウス、5 週齡、雄)に炭素線(135 MeV/u、25 keV/μm)を 0.01~2.0 Gy 全身照射し、小腸および精巣でのアポトーシス誘導について精査した。その結果、小腸および精巣共にそれぞれの幹細胞および前駆細胞が分布する部位に特異的にアポトーシスが誘導されていた。また 0.05 Gy 以下の照射においても、小腸では非照射の対照マウスと比較して有意にアポトーシスの誘導が検出され、アポトーシス細胞の出現頻度は線量依存的に増加した。さらに特異的にアポトーシスが誘導されていた細胞を免疫組織化学染色により解析した結果、小腸および精巣いずれにおいてもアポトーシスが誘導されていた細胞は幹細胞およびその前駆細胞であることが明らかとなった。以上の結果から、炭素線の低線量被ばくにより正常組織の組織幹細胞および生殖幹細胞に特異的にアポトーシスが誘導されることが明らかとなった。
著者
花井 一典 中澤 務
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

中世におけるギリシア哲学の複雑かつ微妙な受容過程を、多少なりとも明確な図式の中に描き出すことが、本研究の目的であった。この目的を達成するために、哲学史上の基本概念(「心」「理性」「本質」「意志」「認識」「言語」など)に焦点を当て、盛期スコラの哲学者達に至るまでの代表的な哲学者達に関して、その概念の理解と用法の変遷を洗い出し、どのような影響関係を持ちながら、問題の概念が受容されていったのかを調査し、このような基礎的研究をもとにして、中世スコラ哲学におけるヘレニズム・ヘブライズム統合の基本的な図式に関する総合的な見方を提示する試みを行った。この目的を実現するために、次のような基本的な作業を主に行った。(1)現有の『キリスト教著作家全集』、『アリストテレス全集』、『トマス・アクィナス全集』のテキストをCD-ROM版によって整理し、哲学上の基本概念に関して、その用法を網羅したインデックスを作成した。(2)以上の作業によって集められたデータをもとに、各分担者がそれぞれの専門分野から分析を行った。中澤はギリシャ研究の立場からアリストテレス的概念の中世における受容(ないし変容)形態を考察した。また、その後の中世独自の展開過程に関しては、花井が、詳細な調査・分析を試みた。本研究は、データベースを活用した、概念の歴史的な受容の姿を明確にする試みであり、研究も大部分は基礎的な調査に終始したが、より総合的な研究への足がかりとしての基盤作りは十分にできたのではないかと考えている。
著者
花井 一則 中澤 務
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

へブライズムによるギリシア哲学の受容・深化の様相を探り出す作業を通して西欧諸科学の母胎としてのスコラ学の成立過程を明らかにするという所期の目的を達成するために、平成9年度にはテキストデータベースの調査や最近の研究状況の調査などの基礎的研究を行ない、平成10年度にはこうした基礎的調査を整理し総合するとともに、具体的なテーマに即した個別的研究をおこなった。また、個別的研究を総合し、近世諸科学に対するスコラ学の概念的な影響に関して一定の見取り図を描き出す作業をおこなった。中澤はギリシア哲学研究の立場から、ギリシア哲学の基本概念がスコラ学の形成過程でどのような変容を受けたのかについて考察した。特に、ギリシア哲学における真理概念を、プラトンの『プロタゴラス』と『テアイテトス』を主なテキストとして分析する作業と、快楽概念をプラトンの『ピレボス』とアリストテレスを中心に分析する作業をおこなうとともに、スコラ学におけるこれらの概念の受容に関して、主要な哲学者のテキストの調査をおこなった。花井は、トマス・アクイナスにおける真理と善の概念を分析してその特徴を明らかにすると共に、その後世への影響について考察した。また、こうした研究成果をもとに、スコラ学の基礎的概念の独自性を総合的にまとめ、また、それが近代諸科学に与えた影響とその意義についてまとめた。その成果は、研究成果報告書に収録されている。
著者
樋田 大二郎 岩木 秀夫 耳塚 寛明 大多和 直樹 金子 真理子 堀 健志 岡部 悟志
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

実証研究の結果、日本の高校では確かにゆとりから学力回帰の流れが起きており、学力向上のためには、かつてのメリトクラシーとトラッキングの組み合わせによる構造に起因する動機付けでは無く、また内発的動機付けに期待する多様化の制度改革も一段落して、今日では学校生活の楽しさと個別的面倒見主義による動機付けが強調され、あるいはそれを支える新自由主義的競争原理の導入などが進行していた。しかし、そうした動向は主体性や創造性などの従来からの教育的価値を損なう危険を秘めていた。研究グループは、シンガポールとの国際比較研究から、代案として複線型教育体系もしくはその要素の一部を日本に導入することを検討した。
著者
鵜飼 重治 大貫 惣明 大塚 智史 皆藤 威二
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

9CrODSフェライト鋼は硬質相である残留フェライト相を含有する酸化物分散強化複合材料である。残留フェライト相の生成は酸化物粒子によるα/γ異相界面のピン止め作用に因ること、また残留フェライト相の硬質化は酸化物粒子の母相との整合性維持によるナノ粒子化に起因することを明らかにした。熱間圧延により焼戻しマルテンサイト相の一部をフェライト相に変態させることにより、高温強度と延性が著しく向上することを発見し、新たな先進ODS複合材料の製造プロセスを提示した。
著者
別所 俊一郎
出版者
一橋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

公的資金の限界費用(MCPF)とは,税収が1単位増加することによる経済的な実効費用の追加的な変化をさす.本研究では,「就業構造基本調査」の個票データを用いて世帯の賃金弾力性について実証分析を行い,日本のMCPFを推計した.労働供給の非補償弾力性は低い推定値(0.06~0.21)を得たが,代替効果と所得効果については,先行研究に比べても比較的大きな値となった.この数値をもとにMCPFの値の平均値として1.1程度の結果を得た.また,この結果を用いて最適な線形所得税を推計した.
著者
芦澤 潔人 難波 裕幸 井原 誠 奥村 寛 山下 俊一
出版者
(財)放射線影響研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

放射線誘発甲状腺がんについて、DNA修復機構の関連に注目して検討した。1.SNP解析1)P53遺伝子のArg/Argの発現が、放射線誘発の甲状腺がんにおいて有意に低下していた。2)ATM多型:ATMは、p53の構造や活性の重要な制御因子の一つである。(1)エクソン39,G5557A多型:(1)放射線誘発の小児甲状腺乳頭がんは、放射線誘発の成人甲状腺乳頭がんと比べ、Aアレルが優位に増加していた。(2)放射線誘発の成人甲状腺乳頭がんは、コントロールと比べて優位にAアレルが減少していた。(3)自然発症の成人甲状腺乳頭がんは、コントロールと比べて優位にAアレルが減少していた。(2)イントロン22多型:IVS22-77C/Tについて解析したがそれぞれのグループで優位な差はなかった。(3)イントロン48多型:IVS48+238C/Gについて解析したがそれぞれのグループで優位な差はなかった。3)MDM2多型:MDM2 SNP309T/Gを解析したが、特に関連なかった。4)XRCC1多型:XRCC1エクソン9Arg280His多型とXRCC1エクソン10Arg399Gln多型を検討したがそれぞれのグループで優位な差はなかった。5)XRCC3多型:XRCC3 Thr241Met多型:放射線誘発の小児甲状腺乳頭がんはコントロールと比べて優位にMetアレルが増加していた。6)MTF-1多型:検討中である。2.甲状腺癌細胞でのDNA-PK活性:ヒト甲状腺癌細胞でDNA-PK活性の差がみられた。DNA-PKcsのみがDNA-PK活性と正の相関を示した。甲状腺癌細胞の放射線感受性は細胞種で異なるが、DNA-PK活性を阻害するウオルトマニン処理を行うと生存率はほぼ同じなり、DNA-PK活性によって生存率が決定されると考えられる。
著者
平田 晶子
出版者
東京外国語大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究は、東北タイおよびラオス両国に居住するラオ族に歌い継がれてきた謡い手とラオ族の民族楽器である笙の伴奏から構成されるモーラム芸と呼ばれる地域芸能を対象とした芸能研究である。1.グローバル化に直面する東北タイおよびラオスにみるモーラム芸(ラオスではラム歌謡)と、その芸能実践者たちの越境横断的な移動現象を文化的、政治的、経済的、歴史的コンテクストから理解することを目的としている。2.2年間のフィールド・ワークで収集した民間治療儀礼、祖先供養儀礼、精霊供養祭の記録を文字化することに専念し、録画・録音した音声資料を利用して、宗教実践(仏教・アニミズム)の場で歌い継がれるラム歌謡から、多民族から成る調査村の宗教的世界観を民族誌として書き上げる。上記の目的と照合させ、以下の通り、平成24年度に実施した研究成果の3点を報告する。(1)ラオス人民民主共和国での長期調査(平成21年4月~平成23年3月)で収集したデータを用いて、平成24年度は国内の学会・研究会でこれまでの研究成果をまとめて発表し、投稿論文に仕上げ、日本タイ学会の学会誌に投稿した。成果物としての投稿論文は、「The Representation of Ethnicity as a Resource-An Understanding of Luk Thung Molam and Traditional Molam Music in Northeastern Thailand in a Globalization Epoch-」(2013年2月受理、4月下旬再提出後、委員会から受理済)で『年報タイ研究』第13号に掲載されることになっている。(2)映像、音声資料等を文字化する作業に徹し、芸能公演や宗教儀礼で用いられる歌のテキストをディクテーションし、不明な語彙の意味を確認した。(1年目と同様)(3)博士論文の構成を完成させて、執筆を進めた。
著者
前中 一介 高山 洋一郎 藤田 孝之
出版者
兵庫県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、本質的に高精度・高安定度を持つリングレーザジャイロ(RLG)をMEMS技術によって実現するための要素技術とそれらの融合技術を確立し、MEMS RLGの技術的基盤を構築した。まず、RLGで重要な光周回路についてはシリコン(110)面の異方性ウエットエッチングによって発現する垂直(111)壁面をミラーとして周回光路が実現できることを見いだし、この壁面の光学的特性をエッチング条件、アライメント条件等をパラメータとして調査し、これらに最適値が存在しかつ最適条件下ではRLGとして十分な質を持つミラー面となることを確認した。また、レンズ、プリズムなどのRLGで必要とされる透過光学素子を感光性樹脂を用いて実現し、集光特性、可干渉性など光学素子としての特性を明らかにした。また、この樹脂で可動構造体を形成し、レーザ媒体(レーザダイオード)のアライメント機構として用いることも示した。さらに、ミラー及び樹脂形成をバッチプロセスで一括構成するプロセスを確立し、MEMS RLGが大量生産・低価格化可能であることを明らかにしている。シリコンミラー面の反射率向上のための薄膜形成については、新たにシリコン上への金の直接めっき法を提案、その条件を確立し、従来必要であったそれぞれのミラー面に対する複数回の薄膜蒸着または特殊プラネタリの使用、および不要部分のエッチング工程を完全に排除することができた。これら、本MEMS RLGに関する研究で確立した数多くの基本技術は、ジャイロのみならず光関連MEMS一般に広く応用できる。今後、上記の成果に基づいて、複数の企業との協同で研究会を発足し、市場に投入しうるデバイス・システムの開発を行うことが予定されている。