著者
林 良雄 PILLAIYAR THANIGAIMALAI
出版者
東京薬科大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

受入研究室におけるこれまでの研究から、SARSシステインプロテアーゼを阻害できる新しい阻害機構として、親電子性アリールケトン構造が有効であることを確認し、P1部位側鎖部にピロリドン型環状構造を有するアミノ酸誘導体およびカルボキシル基部分にチアゾール-2-ケトンを有するトリペプチド型化合物(Cbz-Val-Leu-amino-3-oxo-3-(thiazol-2-yl)propyl)pyrrolidin-2-one)が比較的良好なウイルスプロテアーゼ阻害活性を有することが解っていた。実用的創薬化合物の創製に向た阻害活性向上のために、平成23年度はP4部位およびアリールケトン部位の構造活性相関を進め、親水性構造をP4位に有し、10nMレベルの強い阻害活性(Ki)を示すトリペプチド誘導体を見いだすに至った。本年度においてはこの研究を更に進め、P3部位を除去した「ジペプチド型ペプチドミメティクス」の創製に新たに挑戦した。即ち、P3位Val残基の除去した。その結果、最初は酵素阻害活性が大きく低下したが、種々の誘導体を合成し、構造活性相関を検討したところ、阻害活性が徐々に向上し、先ずは中程度であるが興味深い酵素阻害活性を示すジペプチド型化合物を得ることに成功した。そこで、この化合物のP3位にあるN-arylglycine構造に注目し、構造最適化を行なった結果、酵素阻害活性(Ki)値が6nMという強力な阻害活性を示すジペプチドミメティック化合物を得た。標的プロテアーゼとのコンンピューターを用いたドッキングスタディーから、この化合物のIndole環窒素原子が、プロテアーゼのGlu166残基と新たな水素結合を形成することが示唆された。この相互作用は、化合物がプロテアーゼを強力に認識する上で有効であったために、阻害活性が大きく向上したものと考えられる。
著者
西垣 正勝
出版者
静岡大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究では、WEBサービスを不正利用するマルウエア(悪意の自動プログラム)を排除するために、人間の最も高度な認知処理能力の一つである「ユーモアを解する能力」を利用した究極のチューリングテストを構築し、4コマ漫画CAPTCHAとして実装する。近未来の技術を持ってしてもユーモアを解するレベルの自動機械(マルウエア)を実装することは不可能に近いと推測されるため、4コマ漫画CAPTCHAの攻撃耐性は極度に高いと考えられる。また、漫画を読むことは人間にとって楽しい(エンターテイメント性を有している)ため、4コマ漫画CAPTCHAであれば、正規のユーザが利便性の低下を感じることなく、心地良く(楽しみながら)チューリングテストを受けることができる。
著者
二河 成男
出版者
放送大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

アズキゾウムシゲノムのボルバキアから水平転移したゲノム断片が360kbに及ぶこと、転移断片上の遺伝子は、読み枠が壊れ、転写産物もわずかであり、偽遺伝子化していることを示した。エンドウヒゲナガアブラムシでは、宿主昆虫の必須共生細菌ブフネラを保持する菌細胞で高い発現を示す遺伝子の中に、ボルバキアの近縁種から水平転移した遺伝子が存在することを示した。この転移遺伝子は、その由来とは異なる共生細菌の維持に関与している。
著者
福原 長寿 河野 芳海 渡部 綾 立元 雄治
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

CO2などのC1系小分子の高速で高効率な物質変換を目的に,水素によるメタン化反応のための構造体触媒反応システムを構築した。また,生成するCH4のドライ改質用構造体触媒システムや,CH4を分解してH2と炭素材を製造する構造体触媒システムを構築した。各反応用の構造体触媒は,Wash coat法やゾル-ゲル法と無電解めっきの組み合わせ法で調製したNi系触媒をベースとした。触媒活性と触媒寿命の観点から,各反応に対していずれの構造体触媒とも高い触媒機能性を発揮することがわかった。そして,構築した各触媒反応システムはC1系小分子を有用なエネルギー資源や炭素資源に高度に変換するシステムであることもわかった。
著者
神庭 重信 竹内 潤一 久保田 正春
出版者
山梨医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

躁うつ病は、一般住民の5〜15%が障害に罹患するといわれる高頻度な疾患である。また、働き盛りを襲う疾患であることから、本人や家族の苦悩は大きなものがある。死亡率が高く、ガン患者など身体疾患患者におけるうつ病の合併も多く、したがって、躁うつ病の原因解明と予防法の確立は急務であるといえる。本研究では躁うつ病の原因の解明をめざして、二つの研究目標を設定した。第一には躁うつ病の発生と強くかかわっていることが考えられる、視床下部機能の障害を明らかにすることである。また、躁鬱病の病態を明らかにするために、遺伝子組換え技術を用いてモデル動物を作成し、この検討を試みた。1)躁鬱病と関係すると考えられる視床下部-下垂体-副腎皮質系の中でも、視床下部のバソプレッシンの制御にかかわる、脳内サイトカインの影響に関して検討をおこない、報告し、また本報告書でまとめた。2)躁うつ病の病態と深くかかわっていると考えられる、視床下部-下垂体-副腎皮質系の異常に関する所見と、上記1の結果をまとめて報告した。3)ムスカリンM5受容体のアンチセンス核酸を投与した動物に関する検討結果を報告し(文献一覧9)、また、遺伝子組換え動物を用いた研究の問題点や、アンチセンス核酸による検討過程と、その問題点を報告し、まとめた。
著者
栗本 秀
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

末梢神経内へ運動神経細胞を移植し、神経再支配した骨格筋(MISM)を作成した。成体ラットの坐骨神経を切離し、胎児ラット脊髄神経細胞を、切断した末梢神経内に移植した。MISM の支配神経へ電極を留置し、体外より電気刺激を行い、坐骨神経切断ラットの歩容が改善することを確認した。今まで治療が困難であった広範な末梢神経損傷や中枢神経障害に対し、すでに実用化されている機能的電気刺激(FES)技術と組み合わせることで、全く新しい麻痺筋の機能再建を可能にする。中枢神経系に対する細胞移植と比べ不可逆な変性に陥るまでの治療可能期間が広く、少数の細胞で麻痺筋の機能回復を実現できるため、ES/iPS 細胞を用いた再生医療の臨床応用に近い技術開発であると考える。
著者
中野 隆 相沢 慎一 桃園 聡 平野 元久
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究では,べん毛モーターの構造について研究している協同研究者の一人(相沢)の協力により、彼が構造解析によって明らかにしたべん毛モーターの部品の構造を用い,具体的にべん毛モーターの実際の構造に近いモデルを作り上げ、流体古典的な潤滑理論の手法を用いてべん毛モータの軸受けが潤滑可能であるかを調べた.べん毛の運動を推進力に変換する機構を流体力学的に研究するべん毛のスケールを考えると通常の流体力学的計算のみでは不十分で分子の大きさの効果やブラウン運動の影響も考えた運動解析が必要である.今年度は流体力学的計算は研究分担者の二人が(中野,桃園)が担当し、まず古典的な数値解を得た.その結果古典的な理論からは潤滑が困難であるとい結果を得た.べん毛モータの場合にはマクロな系では問題にならなかった分子間力の効果も重要になるが、この効果はさらに潤滑状況を悪化させることもわかった.従ってなんらかの非古典的潤滑機構の存在が示唆された.このような潤滑機構として考察した機構には電荷の離散性の効果,拡散電気2重層の効果,超潤滑の効果などがある.来年度においてここに述べた効果の定量的評価をおこなう.またべん毛モーターの軸受け部分の摩擦に関する理論的な解析を目的としてべん毛モータの表面粗さを特徴づける量を由出するためウェーブレットを用いた.今年度はウェーブレットをべん毛の表面粗さ解析に用いるための数学的枠組みを構成した.流体古典的な潤滑理論の手法を用いてべん毛モータの軸受けが潤滑可能であるかを調べた去年の結果から、べん毛のスケールを考えると通常の流体力学的計算のみでは不十分で分子の大きさの効果やブラウン運動の影響も考えた運動解析が必要であることがわかったので,今年度は拡散電気二重層の効果を取り入れ、この効果によってどの程度の潤滑性能を達成することができるか似ついて研究分担者の二人が(中野,桃園)が担当し、まず古典的な数値解を得た.その結果拡散電気二重層によって分子間力を相殺するために十分な反発力を得ることができるという結果を得た.この他の非古典的潤滑機構の存在として考察した機構には電荷の離散性の効果がある.電荷の離散性の効果も定量的評価をおこなった.バクテリア内部で妥当と思われるイオン濃度において,この離散性の効果もまた、分子間力と拮抗する反発力を得ることができることが分かった.またべん毛モーターの軸受け部分の摩擦に関する理論的な解析を目的としてべん毛モータの表面粗さを特徴づける量を抽出するためウェーブレットを用いた昨年度構成したウェーブレットをべん毛の表面粗さ解析に用いるための数学的枠組みを用い分子の大きさと同じ程度の領域における粗さと形状の分離を試みた.
著者
木村 直弘
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

これまでの思想史的研究の成果をふまえ、Energetik的音楽理論が演奏実践へ及ぼした影響と当時の「線的志向」との相関関係にアプローチした。Energetikerの一人クルトの造語である「線的対位法」という術語は、最終的に、ロマン派的和声を克服するものとして「新音楽」あるいは「新即物主義」から重宝され、「線」という語は1920年代のスローガンにまでなったが、注意しなければならないのは、シェンカーら調性音楽に依拠したEnergetikerたちも、この「新即物主義者」の作曲家や演奏家たち同様「線への志向」=対位法的思考重視という結論に至ったことである。実はこうした対立関係は、調性音楽を擁護しシェンカーと逆にそれを否定したシェーンベルクの各々の『和声論』での論争にもみられるが、彼らは結局同根であった。それは、シェーンベルクに傾倒したグールドの演奏美学に、シェンカーの演奏技法論と通ずる点が多いことからもわかる。まさにシェーンベルクの12音技法の目的が結局調性音楽の完全否定ではなくその継承にあったのと同様に、グールドの演奏における対位法的志向は、ゲーテの有機体美学に根ざしたシェンカーに通底する、(シュナーベル経由の)非常に19世紀的な自律的音楽作品観へのオマージュになっている。同様に、「ロマン的解釈」の指揮者として語られることが多くシェンカーに熱心に師事していたフルトヴェングラーの演奏は生演奏で最大限の効果を発揮するので、演奏会を否定し録音した多数のテイクからの継ぎ接ぎをいとわなかったグールドのそれとは、まったく相容れないように思えるが、やはり楽曲の、「構造」に分析的に肉薄するという姿勢は通底しており、それは結局対位法的思考の重視へと必然的に帰結した。シェンカーやクルトの的音楽理論は戦後、音楽記号論へ大きな影響を及ぼしたが、音楽記号学者がグールドの演奏分析を好んで行うのも、実はここに一因があると言いうる。
著者
中尾 友香梨 日高 愛子 白石 良夫 大久保 順子 土屋 育子 沼尻 利通 亀井 森 三ツ松 誠 谷口 高志 田中 圭子 中尾 健一郎 村上 義明 二宮 愛理 脇山 真衣 河野 未弥 明石 麻里
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では、肥前小城藩の藩主家と藩校に伝わっていた蔵書群である小城鍋島文庫の典籍を調査し、具体例として当文庫所蔵の『十帖源氏』を輪読・翻字し、分析を加えた。主要なる成果物として、2017年5月に『小城鍋島文庫蔵書解題集(試行版)』を刊行し、また2018年3月に笠間書院より『佐賀大学附属図書館小城鍋島文庫蔵「十帖源氏」立圃自筆書入本 翻刻と解説』を出版した。
著者
土屋 隆裕
出版者
統計数理研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

率直には答えにくい内容を調査する間接質問法の一つであるItem Count法において、適切な推定値を得るため、Item Count法における回答特性である過少回答傾向の原因とその補正方法を研究した。Item Count法の従来の回答方法である「当てはまる項目の数」と同時に、「当てはまらない項目の数」も回答してもらう改良型の回答方法を採用することで、過少回答傾向は抑制されることが明らかとなった。
著者
中尾 充宏 田端 正久 今井 仁司 土屋 卓也 西田 孝明 陳 小君 大石 進一
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

研究期間中、各分担者とも、個別の問題によらない無限次元・有限次元の共通的精度保証付き数値計算およびその関連数値計算方式の開発に対して恒常的に取り組み、その改良・拡張と、新たな方式の検討を行った。また、実際の現象に即した問題に対する、数値的検証の実例も与えその有効性の実証に努めた。また、内外の研究集会に参加し、講演討論を行い、研究成果の発信を行うとともに活発な研究情報を交換し、新たな研究の進展を図った。主な研究実績は以下の通りである。1.共通的数値検証理論とその実装(1)任意領域における楕円型方程式、定常Navier-Stokes方程式の解に対する数値的検証のために、Poisson方程式、および2次元重調和方程式の有限要素解に対する構成的事前誤差評価について検討し、十分な実用性をもつ評価定数の算定を行った。(中尾、山本、田端、土屋)(2)非線形楕円型方程式のdouble-turning-pointの数値検証を定式化しその実例を与えた(皆本)(3)1階微分項を持つ2階楕円型方程式の数値検証の効率化について検討した(中尾、渡部)(4)線形化作用素の逆作用素ノルムを直接評価し、それを用いた無限次元Newton法にもとづく新しい検証方式の検討を行い、その適用による有効性を確認した。(中尾)(5)有限次元一次相補性問題の解の精度保証付き計算について検討しその方式を定式化した(陳)(6)連立一次方程式の解の高速精度保証について検討しその大幅な改良を得た(大石)(7)多培長演算ソフトウェアを実装し超高精度近似解の計算を可能とした(今井)(8)非線形振動問題に関する計算機援用可能な分岐理論を定式化しその応用例を与えた(川中子)2.個別問題の解に対する数値的検証方式とその適用(1)2次元熱対流問題の大域的分岐解の検証付き追跡および分岐点の存在検証を行い、さらに3次元問題に対してもその拡張を図った(西田、中尾、渡部)(2)線形化Navier-Stokes作用素の固有値問題であるKolmogorov固有値問題の精度保証付き数値計算によりトーラス上の流れの安定性を検証した(長藤)(3)水面波の数学モデルであるNekrasov積分方程式の精度保証付き数値計算を実現した(村重)
著者
下川 勇
出版者
福井工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究はイタリア・ルネサンス最後の建築家であるヴィンチェンツォ・スカモッツィ(1548-1616)の主著『普遍的建築のイデア』(1615)に収められている建築六原理の内容と相関を明らかにしている。
著者
笹月 健彦 松下 祥 菊池 郁夫 木村 彰方 榊 佳之
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1985

HLAと連鎖した免疫抑制遺伝子(Is遺伝子)の発現とその医学生物学的意義を明らかにするために、Is遺伝子により支配される免疫低応答性の細胞レベル,分子レベル,および遺伝子レベルでの解析を進め、以下のような成果をおさめた。まず溶連菌細胞壁抗原(SCW),あるいは日本住血吸虫抗原(Sj)に対する免疫応答機構の細胞レベルでの解析を行なった。T4ヘルパーT細胞と抗原提示細胞の間の相互作用はHLA-DRにより遺伝的に拘束されているのに対し、T8サプレッサーT細胞による免疫抑制現象は、抗DQ単クローン抗体により阻止された。これにより、HLA-DR分子が免疫応答遺伝子の遺伝子産物として機能しているのに対し、HLA-DQ分子は免疫抑制に重要な分子であり、Is遺伝子の直接の遺伝子産物であることが示唆された。さらにSCWに対する低応答ハプロタイプであるDw2と,Sjに対する低応答ハプロタイプであるDw12のDQw1β鎖のアミノ酸配列の異同を検討し、【β_1】ドメインの高司変領域の違いにより、免疫抑制遺伝子の機能的相違がもたらされていることを示した。また、HLAと連鎖したスギ花粉抗原特異的Is遺伝子が抗原特異的サプレッサーT細胞を介して、IgE免疫低応答性を支配し、スギ花粉症に対する低抗性をもたらしていることを明らかにした。また、らい腫型らしい(LL)の感受性を支配する遺伝子がHLAと連鎖していることを示し、さらに、LL型らい患者より、らい菌抗原特異的サプレッサーT細胞の存在を証明した。LL型らい患者のらい菌抗原に対する非応答性がサプレッサーT細胞によりもたらされていることが示唆された。このように、ヒトにおける外来抗原に対する免疫応答の遺伝子支配が詳細に解明され、抗原特異的免疫調節機構におけるHLA-クラス【II】分子の役割りが明らかにされた。これらの研究成果は原因不明の難治性疾患の病因解明に資するものであり、さらに疾患の予防および治療への道を拓くものと期待される。
著者
藤原 義博 宍戸 和成 井上 昌士
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

知的障害特別支援学校の授業において、やりとり機会と協同的学習機会を創造するのに、以下の設定の有効性が示唆された。即ち、人や物が行動の手がかりとして機能する文脈の設定、活動に共通する具体物や発信や応答を強化する手掛かり教材の活用、集団随伴性の強化を理解させるための個別的支援、教師の役割の子どもへの移行、複数の子どもが同時に参加可能な役割の設定、発信者と受信者双方の同時並行的な参加の設定、であった。
著者
湯沢 質幸
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

1 日本漢字音資料, 取り分け中近世漢字音資料として有用なものを追求すべく, 京都泉涌寺を初めとして東北大学, 京都大学, 国立国会図書館等を巡り, 漢字音文献の調査を行った.2 各調査箇所において, 本研究に寄与する文献のリストアップ及び一部収集をした. 泉涌寺では特に執筆から,宋音(資料)に係わる実際の読経音や経文に付された各種記号の指示内容についての貴重な情報を直接得ることができた.3 本研究開始以前に収集したものも含め, 資料の分析を日本漢字音史の展開を脳裏に置きながら進めた. それとともに, 分析結果のコンピュータ処理を図るため付属部品を購入し, 必要な情報の入力を行いつつ所期の目的に沿って従来の研究を踏まえながら中近世漢字音, そしてその一構成要素であるところの泉涌寺宋音について考察を試みた.4 考察の過程で, 中近世漢字音なかんずく泉涌寺宋音の特徴の把握や歴史的な位置づけをし, さらにそれを通じて中近世日本語の音韻状態を明らかにするためには, 上代以降の日本漢字音史の解明が必要であることが明白となった. そこで, 中近世漢字音・宋音の研究を旨としながらも, 上代中古の漢字音すなわち呉音漢音の研究も行った.5 上記4までの研究の結果, 当初の目的を達成することができた. その成果の一部は, 62年度中に発刊予定の筑波大学の紀要で発表する. なお, 現在, その他の成果の発表を行うべく準備を進めている.
著者
鶴木 隆
出版者
東京歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

下顎前突症において、軽度〜中等度の上顎後退を合併する患者の数は多い。手術には下顎枝矢状分割法による下顎後退術単独(one jaw surgery)、あるいはLe Fort I型骨切り術による上顎前方移動を併用する場合(two jaw surgery)とがある。その選択の要因には、歯・骨格の変異度、機能的問題、顔貌の美的評価、手術侵襲、術者/患者の選択などがあり、適切な判断が必要とされる。これらの要因を考慮して治療されたone jaw群とtwo jaw群の長期顎位安定性について比較を行った。one jaw群13例、two jaw群12例について、術前(T1)、術直後(T2)、術後1年(T3)、術後2年以上経過(T4)の各々の時期の側面頭部X線規格写真を分析した。(結果)術前形態では、two jaw群がone jaw群より形態変異が有意に大きかった。手術変化では、B点の後方移動量はone jaw群:8.67mm、two jaw群:6.19mm(上顎前方移動量はANSで1.73mm、合計7.92mm)であり、one jaw群で有意に大きかった。長期変化で後戻り率をみるとSNBではone jaw群:11.6%、two jaw群:4.1%(SNAでは9.1%)であった。有意差がみられたのは、各群間でone jaw群のB点とover jet、two jaw群でover jetであった。両群間ではB点、U1、L1であった。(考察)術前形態はtwo jaw群の方が変異が大であった。B点でみるとone jaw群は手術移動量が大きく、また後戻り量も大きかった。しかし上顎の手術移動量を合算するとone jaw群とtwo jaw群で後戻りに差異はないと思われた。
著者
高瀬 裕志
出版者
日本歯科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

放射線治療において、歯科金属補綴物が口腔内に装着されていると、補綴物と隣接する口腔粘膜の放射線吸収線量が増加するため、金属補綴物は放射線粘膜炎の増悪因子として重要である。今回の検討では、歯科金属補綴物の有無により口腔粘膜部の吸収線量がどの程度変化するか(後方散乱電子の影響)について基礎的な実験を行った。1.データ分析システムの構築歯科金属補綴物の組成データ、照射データ(照射野、線量など)、線量分布データ等を一括して管理し、テ-タ処理を行うためのシステムを構築した。2.実験用簡易固定具の作製CTならびに放射線治療装置(2.8MV LINAC)の両者において照射野の再現性が得られるようにするため、ウレタンとアクリル樹脂を用いて、ファントム固定用の簡易固定具を作製した。3.ファントム実験軟部組織等物質(Mix-DP)を用いて作製したファントム中に、金銀パラジウム、ニッケルクロム合金、アルミニウムをそれぞれ挿入し、金属の厚みと照射野を変化させて、放射線(2.8MV X線)を照射した。金属が存在しない場合の金属相当部の吸収線量は、同ファントムをCT撮影して治療計画装置(TOSPLAN)から求め、また、金属が存在する場合の金属後方部の吸収線量(照射側の対側)はフィルム法により測定した。結果と今後の展望金属後方部の吸収線量は、金属がなく軟部組織のみの場合と比べ著明に増加し(金パラで約1.4倍)、原子番号の高い金属ほど増加する傾向が示された。また、金属が厚くなると吸収線量は増加するが、一定値以上では大きく変化しないことが確かめられた。今後は、金属が存在する場合の吸収線量増加に対する軽減法について、さらに検討を加えたい。
著者
笠原 一人
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

今年度は、まず昨年度から行っている資料調査の一環として、「日本インターナショナル建築会」(以下、「建築会」とする)の「外国会員」の資料が残されたヨーロッパの資料館(ベルリンのAKADEMIE DERKUNST、ウィーンのOsterreichisches Museum fur angewandte Kunst、ロッテルダムのNetherlands Architectural Instituteなど)を訪問し、「建築会」から送られた「外国会員」への書簡などを確認した。その結果、「建築会」が外国会員を募集する際、東京で「建築会」主催の国際建築展を開催すること(実現せず)を目的として会員になるよう呼びかけていたことが明らかとなった。また、本野精吾が設計した旧鶴巻邸および旧大橋邸に残された、本野のデザインによる室内デザインや家具についての現物調査を行った。その結果、建築はモダニズムの方法を実現しているが、室内デザインや家具においては、ウィーン分離派やアールデコ、古典主義などの影響を受けた、装飾を伴ったやや古風な意匠が展開されていることを確認した。最後に2年間の本研究についてのまとめの考察を行った。戦前の関西のモダニズム建築の伝播には、建築運動団体が大きな役割を果たしたと言える。「建築会」は、ヨーロッパの建築運動との直接的な関わりを持ち、会員として高等教育機関の教員や官公庁に在籍する技師などが数多く在籍していたため、その影響は大きかった。また東京の「分離派」や「創宇社」、あるいは「デザム」を率いた西山卯三らの影響を受けて、京都に「白路社」や「鉄扉社」という無名の技術者による建築運動団体も存在した。こうした建築運動団体は、独自の雑誌や展覧会などのメディアを駆使した。それによって「建築会」は海外との直接的な関わりを可能にし、「建築会」の機関誌となっていた雑誌『デザイン』から「鉄扉社」が誕生するなど、複数の建築運動が関連することにもなった。関西の内外で複数の建築運動団体の活動が、互いに関連し合いながらモダニズム建築の伝播に貢献したことを確認できた。
著者
松島 俊也
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

鶏雛(ヒヨコ)を対象として実験心理学的に統制された行動実験を実施し、動物の採餌選択における文脈依存性に関して、以下の3点の知見を得た。1. ヒヨコはリスク感受性を示し、量のリスクを嫌う。2. 収益逓減の強さに応じて、餌パッチからの離脱を決定している。3. 競争採餌の条件は、異時点間選択における衝動性を亢進する。このように、ヒヨコは採餌状況の文脈に応じて採餌決定を適応的に変化させることが判明した。
著者
山本 博資 有本 卓
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

上記課題の研究により,下記の成果を得た。1.秘密情報が離散情報で,暗号の安全性レベルを盗聴者の秘密情報に対する条件付きエントロピーで評価する場合(a)通信路が離散的放送型通信路(Discrete Brroadcast Channel)の場合に対して、暗号文レート R,鍵レートRk、安全性レベルh,正規の受信者に対する歪許容値Dの達成可能領域(Achievable region)を確定した.(b)通信路がガウス性ワイヤータップ通信路(Wiretap Channel)の場合に対して、暗号文レート R,鍵レートRk、安全性レベルh,正規の受信者に対する歪許容値Dの達成可能領域(Achievable region)を確定した.2.秘密情報が連続値を取り,暗号の安全性レベルを盗聴者が達成できる歪の最小値で評価する場合(a)通信路が離散的放送型通信路(Discrete Brroadcast Channel)の場合に対して、暗号文レート R,鍵レートRk、安全性レベルhD^^〜,正規の受信者に対する歪許容値Dの達成可能領域(Achievable region)の内界(inner bound)を導出した.(b)通信路がガウス性ワイヤータップ通信路(Wiretap Channel)の場合に対して、暗号文レート R,鍵レートRk、安全性レベルD^^〜,正規の受信者に対する歪許容値Dの達成可能領域(Achievable region)の内界(inner bound)を導出した.3.秘密情報が離散情報で,暗号の安全性レベルを盗聴者が達成できる歪の最小値で評価する場合(a)通信路が無雑音通信路(Noiseless Channel)の場合に対して,暗号文レートR,鍵レートRk、安全性レベルD^^〜,正規の受信者に対する歪許容値Dの達成可能領域(Achievable region)の内界(inner bound)と外界(Outer bound)を導出した.